大会当日。受付に行くと予選の準備が行われた。
本選に出場するにはアルファベットの数だけあるブロックで勝ち進む必要があった。その後に決勝と進むらしい。
まぁとにかく勝ち進めばよいということだ。
「ねぇ龍燕お兄ちゃん」
「ん?どうしたんだ?」
「この大会、勝てるの?周りを見ても強そうなのが沢山いるよ」
周りを見れば熟練者と思われる人達。
「(そうだな。切り札はいくつか残さないとな)大丈夫だ。勝てる。『勝たないと帰れないんだ』と思いながら行けば勝てるさ」
まだ心配そうな顔を浮かべているアリシアの頭にぽんと手を置く。
「心配するな。俺は必ず勝つ。約束しよう。俺はアリシアを護り、お前の母上のところへ無事に届ける」
「ほんと?」
「ああ」
「わかった、信じる」
アリシアは笑顔で言った。
武己から暁を出して試合中アリシアの護衛に付かせた。
暁や煉を初めて見た時アリシアは凄く驚いていたが、すぐに打ち解け仲良くなった。
そして、予選が始まった。
予選の相手は大柄で筋肉質な大男が二人だった。龍燕は一人。席は空いているがいなかったため空席となっている。
「なんだぁ?予選はただの準備運動になっちまいそうだな」
「そのようだ。俺は後ろで見てよう」
「わかった」
大男と龍燕は距離をおいて向かいあった。
「悪いなぁ、相手が悪くて。おめぇは予選落ちのようだな」
大男は嘲笑い始めた。龍燕は無視して腕を組んだ。
(さて、どう戦うか)
龍燕は能力無しで戦おうと考えた。
「では、Dブロック予選第1試合。東方は新人拳闘士、一名。対する西方はベテラン拳闘士二名。始めて下さい」
審判をする男が言った。
「さて、痛くないように一撃で倒してやるからな」
笑みを浮かべた大男は龍燕に近づき拳を繰り出し、龍燕の顔面に当てるが微動だにしなかった
「ん?」
妙に感じた大男は拳を引いて驚愕した。龍燕は拳をまともに当たりながら平然と何もなかったかの様に腕を組んでいたからだ。
「何故何とも無いんだ?!くっ…」
大男は再び拳を放つ。しかし、龍燕は左手て軽く弾き、瞬時に相手の懐へ入り込み、空いた右手で大男の腹部に固打を入れた。
「ゴッ?グッ……」
大男の巨体が床から少し宙に浮き上がる。龍燕は引いていた右脚を左脚に揃える。
「『
龍燕の両掌が大男の腹部を捉えた。
「…
両掌を突き出し、同時に右足に力を加えながら一歩踏み出す。吹き飛ばされた大男はもう一人の仲間を巻き添えに壁を貫通して行った。
「……力を込めすぎたか」
審判は大男へ歩み寄って気絶している事を確認。
「しょ勝者、灼煉院龍燕選手」と叫び、予選突破は楽に終えた。
無事余裕に第一試合を勝利に終えた龍燕は借りた部屋へ戻った。部屋には食事の仕度が整っていた。
「わぁ豪華だね。……でも食べ切れるかな?」
大きなテーブルに乗る約十人前の料理にアリシアは驚いた。
「ん?少ない方だと思うが」
「…え?」
龍燕のさりげない言葉にアリシアは振り返った。十人前の料理は、龍燕にとっては少ない方だと考えているがアリシアから見れば驚きの他ない。
食事を始めて一時間。アリシアと暁はとっくに食事を終えていた。続いて龍燕も料理を食べ終えた、ように見えたが……。
「お代わりお願いします」
お代わりを頼み、空の皿と入れ代わって行く。
最終的に食べ終えたのは食べ始めて約二時間半後だった。食べた量にすれば約三十人前はいったかも知れない量だった。
「龍燕お兄ちゃん、いっぱい食べるんだね」
「ああ、今日は少し動いたからな」
龍燕は満足そうに言った。
「あ、そうだ」
龍燕はアリシアの隣に座った。
「アリシアにまだ言ってなかった事がある」
「え、なに?」
龍燕はやや真剣な顔で言う。
「アリシア、お前には妹がいる」
「いもう、と?」
アリシアは考え込む。
「ああ。アリシアが眠っている間にできた妹だ。名前はフェイトという」
「フェイトかぁ。私に妹が出来たんだ」
アリシアは疑う事もなく、喜び始めた。
「フェイトの動画を見るか?」
「あるの?」
アリシアは目をキラキラさせた。
「模擬戦中にいくつか録ったものだ。あとアリシア。フェイトの見た目は年上に見えるが実際は妹だから間違えないように」
「年上に見えるってどういう意味なの?」
アリシアは不思議そうに首を傾げながら龍燕に聞く。
「アリシアは少し長く眠ってたんだ。まぁ見ればわかる」
二人の前に空間モニターを展開させ、龍燕の前に小型のモニターを操作して映し始めた。
モニター画面に映る、龍燕と模擬戦するフェイトをジッと見つめるアリシア。
「……本当に、というより私に凄く似てる。それに強いね」
「ああ、アリシアにそっくりだ」
龍燕とアリシアはモニターに映る模擬戦を観戦した。
「なんだか、未来の自分を見てる感じで……不思議」
アリシアは『早く会ってお話ししたいなぁ』とワクワクとしながら呟いた。