とある深夜、一人の男が廃屋の階段を駆け上がる。事態はより深刻な状況を迎えていた。
「悪い降谷。奴らに俺が公安だとバレた。逃げ場はもう、あの世しかないようだ。じゃあな、ゼロ。」
男が必死に階段を駆け上がるも虚しく、一発の銃声が鳴り響く。男が屋上に到着した時、二人の男がそこにいる。一人は拳銃を片手に所持しており、もう一人は壁にもたれ掛かるようにして倒れていた。男の到着に気付いたと同時に拳銃を所持している男は口を開き、こう呟いた。
「裏切りには、制裁をもって答える。だったよな?」
そして、夜の道路を一台の車が走っている。
「バーボン?ちょっとバーボン?」
「え?」
「え?じゃないわよ。さっきの交差点右折しないと。」
「すみません。少し考え事をしていたもので。」
「あら、らしくないわね。じゃあさっきの話、聞いてなかったの?」
「聞いてましたよ。ソレが公になる前に探りを入れて、必要とあらば潰せばいいんですよね?」
「相手は大物。接近しにくいなら関係者に変装させてあげるけど?」
「いえ、ご心配なく。相手の懐に入るアテならありますから。」
怪しげな会話を他所に一台の車は夜の道を走り去って行く。翌日、とあるホールにてライブのリハーサルが行われると言う話を聞き四人の男女がホールを訪れていた。ちなみに、そのリハーサルの内容は、波土禄道と言うロックミュージシャンが新曲『アサカ』をライブでお披露目するためのリハーサルである。
「でもそのタイトルって変わってるんだよね?」
「変わってるとは?」
「アルファベット表記でネットに発表されたんだけど、アサカのカの字がKAじゃなくてCAでさぁ。」
「KAがCA?」
二人の男の脳裏にある文字が過った。
『ASAKA RUM』
そして、少年が血相を変えて聞いた。
「ねぇ何で!?何でKAがCAなの!?」
「さ、さぁ。」
「絶対何か理由があるはずだよ!!思い当たらない!?」
「そんなに知りたいなら本人に聞けば?今度ウチら、その波土禄道のライブの前日のリハーサルを見学に行くから連れてってあげるよ。」
「少しぐらいならお話できるかもね!」
「ホ、ホント!?」
「よろしければそのリハーサル私も見学してよろしいでしょうか?」
「え?昴さんも?」
「波土禄道の大ファンなので!」
「はい!喜んで!」
「ちなみに、ネットにそのタイトルが発表されたのはいつ頃ですか?」
「つい先週だけど。」
「五年ぶりの新曲だからネットのニュースの上位になってて。」
「となると、もうすでに!奴らの目にも、触れてるってワケか。」
ライブホールを訪れた四人だが、どうやらトラブルがあったらしくリハーサルの見学が出来なくなった。マネージャーの話によると、新曲の歌詞が完成していなく、ステージの上で誰もいない客席を眺めながら書くから二時間、一人にさせてくれと言うことらしい。四人と少し離れた場所で一人の女子高生がスマホを片手に誰かと連絡を取っている。
「そう言うことで正面からの潜入は少し厳しくなったかも。どうする?」
ホールの裏口にワンボックスカーが停まっており、男がそこにもたれ、タバコを吸いながら電話をしている。どうやらその男が女子高生の電話の相手のようだ。
「分かった。俺が行く。俺がそこに着くまでお前はそこで待機してろ。」
「了解。」
電話を切ると女子高生は四人の内の一人の少年をチラッと見る。そして、普通の少年とは少し違うことを何となく感じていた。程なくして電話の相手の男が警備員に扮して女子高生の元にやってくる。
「よぉ、交代だ。あとは俺がやる。」
「それはいいけど、あの眼鏡の少年見た感じ普通の少年と少し違うみたいだから気を付けた方がいいかも。」
男がその少年を見た瞬間、あることを思い出すと口笛を吹いて笑みを浮かべた。
「そうだな。確かにアイツはお前じゃ無理だ。俺に任せな。」
男が女子高生にそう告げると女子高生がその場を去っていく。すると、更に二人の男女がホールにやってくる。どうやらそのうちの一人の男が四人にホールに来ようと誘った男のようだ。そして、もう一人の女性。少年はその正体を察していた。
「やっぱりコイツ、ベルモット!!」
そして、もう一人女性の正体をベルモットを察した男がいた。
「この独特の感じはアイツか。下手に変装して近付いた所ですぐに見抜かれるのがオチだ。さて、お手並み拝見と行こうか。」
程なくして消防設備点検の係員がホールを点検しようとしていた時に事件は起きた。波土禄道がステージの天井から首を吊っていたのだった。
「チッ、事件か。巻き込まれたら面倒だ。しばらく俺は隠れて様子を見るとするか。」
男はそう言うとコソッと何か細工をして姿を消した。しばらくして事件が解決した。事件の真相は、波土禄道自身が首を吊り、それを見つけたマネージャーが殺人に偽装したというものだった。マネージャーは17年前、波土の子供をお腹に宿しており、生まれてくる子の為だとデビューした波土は連日の徹夜で作曲し続けていた。それをやめさせるべく駆け付けたマネージャーがスタジオの前で倒れお腹の子を流産させてしまい、この事は波土に秘密にしていた。その時生まれてくる子どもの為に作った曲がASACAであり、17年間歌詞が付けられずお蔵入りになっていた。その事情を知った彼は自分のせいで亡くなった子どもの為に歌詞を書き新曲として発表しようとしたが、どうしても書けずに『ゴメンな』というメッセージを残し死を選んだということだった。ちなみに、アサカのカがCAの理由は、妊娠のことを徹夜明けの『朝、カフェ』で聞いたから。アルファベットで書くならCafeのCAを取ってASACAと書くそうだ。
事件が解決し、とある男はあることを思い出していた。廃屋の屋上で二人の男がやり合っており、一人の男が拳銃を向け、もう一人は両手をあげている。
「さすがだなスコッチ。俺に投げ飛ばされるフリをして俺の拳銃を抜き取るとは。命乞いをするわけではないが、俺を撃つ前に話を聞いてみる気はないか?」
「け、拳銃はお前を撃つために抜いたんじゃない。こうするためだ!」
そう言うとスコッチという男は自分の胸元に銃口を当てた。
「無理だ。リボルバーのシリンダーをつかまれたら、人間の力でトリガーを引くのは不可能だよ。自殺は諦めろスコッチ。お前はここで死ぬべき男ではない。」
「何!?」
「俺はFBIから潜入している赤井秀一。お前と同じ奴らに噛み付こうとしている犬だ。さぁ、わかったら拳銃を離して俺の話を聞け。お前一人逃がすぐらい造作もないのだから。」
「あ、ああ。」
その時、誰かが階段を駆け上がる音が聞こえ、赤井とスコッチがそれに気付く。その一瞬を着いてスコッチは拳銃で自殺した。
「なるほど、拳銃を奪ったのはこれを壊すためだったのか。家族や仲間のデータが入っていたであろうこの携帯を。」
そして、屋上に一人の男が辿り着くと赤井はこう呟いた。
「裏切りには、制裁をもって答える。だったよな?」
事の全てが終わった頃、警備員に扮した男と、とある女性が話している。男はタバコを吸いながら静かに言った。
「まさかアンタに出くわすとはな。さすがに想定外だったぜ。もう俺の正体に気付いてんだろ?ベルモットさんよぉ。」
男にそう言われると女は静かに変装を解いた。
「さすがね。怪盗探偵山猫君。事件に関わるのを避けて姿を隠してたようだけどしっかり盗聴器で会話は聞いていたようね。」
女にそう言われると男も警備員の変装を解いた。
「何もかもお見通しってワケか。相変わらず食えない女だねぇ。」
「それはお互い様でしょ?それよりどう?シルバーブレッド君を生で見た感想は。」
「ああ。聞いていたよりも面白いガキでちょっと気に入ったぜ。」
「これからどうするつもり?」
「さぁな。言うだろ?山猫は人を殺さねぇってよ。でもどこかで会う機会があったら会ってやってもいいぜ。」
山猫はそう言うとベルモットの元を去っていった。