異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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やぁ皆、最近アズレンをやり込み始めた天の声だよ。

青葉「どうも恐縮です、青葉です! と言うか別ゲーじゃないですか。」

まぁねー、青葉は向こうでもブン屋だった。

青葉「そ、そうですか。」

今回から激動編と題した第3章本編始まります。

青葉「何が始まるんです?」

お楽しみです。

青葉「アッハイ。」

第3部3章に於いて、遂に初の戦没艦が出ました。正直、作者である私もやりたくはありませんでした。

「ならばやるなよ」と言う声もあるかもしれませんが、それは違います。戦争が、人の生き死にと無関係では無いものである以上、描写しなければ、それは戦争ではありません。ですが、吹雪の戦没は無意味なものではありません。いつか再び姿を現す時まで、ご声援を賜りたく存じます。

青葉「どうか宜しくお願いします!」

では今回はこの世界におけるエネルギー兵器について。


端的に言って、通常の艦娘機関による身体防護は無効化されると言う禁断の一撃です。

防御手段は対エネルギー攻撃防御障壁のみで、艦娘機関による発動も可能ですが、専用の改修が必須となり、長期の戦線離脱を余儀なくされます。と言っても艦娘達の長期離脱は数週間程度のものですが、戦局を考えれば十分致命的です。

つまり前章終了時点で、エネルギー兵器を防げるのは巨大艤装紀伊だけです。それもFデバイスと言う代償の多い兵装を使う事が前提に来るので、元から防ぐ事は出来ません。と言っても明石に対抗策の開発指示を出したので状況は改善すると思われる。

エネルギー兵器は第二次大戦当時超兵器の一部だけが運用していた兵器で、主にドイツの超兵器が使用していました。現在では現存しない為に、当時に比して技術水準は低いと言う状態ですが、単純な光線兵器から、光子を炸薬に用いた榴弾砲、弾道が変化する特殊なレーザー兵器や膨大なエネルギーを収束投射する波動砲と言った兵器まで開発されていました。


以上です。

青葉「今回簡潔にまとめましたねぇ。」

まぁね、そんだけ前回が長かったって事やね。

では行きましょう、激動編、スタートです!


第3部4章~去りし日乗り越え至りし日~

2053年10月、悲劇を乗り越えた横鎮近衛艦隊は、中旬に差し掛かる直前、新たな仲間を迎えた。

 

 

10月11日8時29分 建造棟1F・判定区画

 

提督「・・・。」zzz

 

うたた寝をする直人。昨夜は遅くまで書類の決裁だったので寝不足なのだ。

 

明石「提督、終わりま・・・したけど起きて下さい?」

 

提督「―――あ、明石、すまんすまん。」

 

明石「お疲れですか?」

 

提督「あぁ・・・まぁな。」

 

明石「御無理はなさらないで下さいね?」

 

提督「そうだね、気を付けるよ。んじゃ、自己紹介をどうぞ。」

 

と言う訳で。

 

鬼怒「きたきたぁ! 鬼怒、いよいよ到着しましたよ!」

 

提督(おーおー、のっけから元気。嫌いじゃないよ~こう言うの。)

 

長波「夕雲型駆逐艦、長波様だよ~。」

 

提督(お、夕雲型。)

 

衣笠「はーいっ! 衣笠さんの登場よ! 青葉ともども、よろしくね!」

 

提督(お、青葉の妹か。そう考えると悪い事をしたかも・・・。)

 

と言う訳でこの3人が新着である。

 

提督「3人とも宜しく、歓迎するよ。」

 

長波「宜しく! 期待させて貰うぜ?」

 

提督「期待に応えられるかはさて置くとして、出来るだけ努力は惜しまないと言っておこうか。」

 

長波「おー、低く出たねぇ。こいつぁアタリかな?」

 

鬼怒「アタリって?」

 

長波「期待出来るって事さ。」

 

鬼怒「成程。」

 

衣笠「確かに。」

 

提督「さて案内を誰に―――」

 

青葉「呼ばれて飛び出ました。」シュタッ

 

提督「どこに居たんだオメェは!?」

 

青葉「ここの天井の梁です。」

 

提督「えぇ・・・。」

 

居るとは聞いていなかった直人、困惑。

 

衣笠「青葉じゃない!」

 

青葉「久しぶりですねぇ! と言う事で、私がやると言う事で?」

 

提督「あぁ、任せる―――余計な事は喋るなよ?」

 

青葉「口は堅いつもりですから、御心配には及びません!」

 

提督「ホントかよ・・・。」

 

青葉「信用されてませんねぇ・・・いいですけど♪」

 

提督「なんで嬉しそうなんだよ。」

 

青葉「別に、なんでもないです。それでは早速。」

 

提督「行ってらっしゃ~い。」

 

直人は建造棟から青葉達を送り出す。そのあと明石とやり取りがあった。

 

提督「―――ふぅ。」

 

明石「なんだかんだ良いコンビですね、青葉さんと。」

 

提督「冗談。スクープ撮られそうになったことが何度あるか。なんでか全て阻止出来てるけど。」

 

明石「そうなんですか?」

 

提督「まぁね。それじゃ、戻るかね。」

 

明石「はい、頑張って下さいね?」

 

提督「お前もな。」

 

明石「はい!」

 

青葉と直人もそうだが、この二人も中々いいコンビである。何より信頼感が見ていて良く分かる二人である。

 

 

で、その日の事である。

 

 

11時37分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「終わったー。」

 

金剛「お疲れ様デース♪」

 

提督「あぁ、ありがと。さて午後は何をしようかな・・・。」

 

金剛「そうデスネー・・・。」

 

提督「んー・・・そうだ、近接戦闘訓練、やろう。」(第三回)

 

金剛「了解デース! 午後の予定作り直しマース。」

 

提督「お? 今日は随分さっぱりした反応だね?」

 

金剛「もう慣れたネー。そ・れ・に、リベンジの機会を狙ってたのデース!」

 

提督「お、ノリがいいね今回。んじゃ早速その様に取り計らってくれぃ。」

 

金剛「了解デース!」

 

と言う訳で、100隻規模になった艦隊の近接戦闘訓練第3回が決定したのである。それは久しぶりに気まぐれスキルの発動でもあった。

 

 

その後、思いの外早く集まった為、当初13時半開始を13時にまで切り上げる事になったのであった。金剛の運営能力の一端であろうか。

 

 

13時01分 サイパン島訓練場

 

提督「よし、集まったようだな。」

 

金剛「OKデース、点呼もばっちり!」

 

提督「うん、では第3回近接戦闘演習を始めるとしようか。」

 

何気に53年4月以来である。この間、本当に様々な事が起き、様々な結果を生んだ。そして、沢山の事を経験した。仲間も増えたし―――減りもした。しかしこうして立てる事を嬉しく思った、それは事実だ。

 

青葉「今回最初はどうされます?」

 

と言うのは例の特別試合である。

 

提督「いや、どうって言われましても。」

 

「成程、あらゆる任務に耐える為のカリキュラムの一つ、ですか。」

 

提督「――――!」

 

この訓練を疑問に思う者、納得出来る者、既に参加した経験のある者も含めた人垣をかき分け、現れたのは――――

 

「いいでしょう、そのお相手、私が承ります。」

 

提督「雲龍、か。」

 

その名を、彼は噛み締める様に言う。

 

雲龍「ご不満ですか?」

 

提督「・・・いや、不満はない。意外だっただけだよ。」

 

雲龍「そうですか。でしたら、そのお考えは間違えておられる事が、すぐお分かりになるでしょう。」

 

提督「結構、では始めようか。」

 

雲龍「はい、宜しくお願いします。」

 

 

青葉「さぁ始まりました! 第三回近接戦闘演習エキシビションマッチ! 提督VS雲龍の一戦となりました!」

 

局長「今回ハ空母トノ対戦ダ、先ガ読メンナ。」

 

ワール「そもそも、空母でどこまでやれるのか、と言う所ね。」

 

青葉「雲龍さん、相当凄みのある啖呵を切って望む一戦、果たしてどこまで粘るでしょうか!」

 

 

雲龍は、槍を持ち低く構える。対する直人も、極光・希光を携えて、極光の鞘に手をかけて立つ。

 

雲龍「抜かない、のですね。」

 

提督「そうだな。」

 

雲龍「では、こちらから。」

 

提督「――――。」

 

その瞬間、その場は確かに静かになった。

 

雲龍「――――ッ!」ダッ

 

次の瞬間、雲龍は直人との5mの距離を、ほんの一瞬で、一息で詰めたのである。

 

提督「ほう。」

 

彼はそれに感嘆の息を漏らしたに過ぎない。

 

提督(光路・一閃―――!!)

 

彼は白く輝く希光を鞘から一気に抜き放つ。それは光の道を描く、希光の持つ抜刀術である、霊力をその正体とする光の斬撃である。

 

雲龍「なっ―――!?」

 

雲龍は着地した所で左に飛んで躱し、辛うじてこれを逃れた。紫に光る黒い刀身を持つ極光と希光だけが使う事が出来る、斬撃を飛ばす能力は健在である。

 

提督(斬技・卯月―――!)

 

更に彼は追撃を放つ。縦軸の「一の太刀」、一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である「二の太刀」、左右への離脱を阻む払い「三の太刀」を連続で飛ばす技だ。この時、重ねた軌跡が三角の辺の様に重なっている事から「卯月」である。

 

雲龍(―――成程、見くびりましたね。)

 

 

ヒュババァッ

 

 

提督「何ッ!?」ザッ

 

思わず後ずさった直人。

 

雲龍「フゥー・・・ッ。」

 

提督「今のは―――!」

 

 

キィィィ・・・ン

 

 

雲龍「どうしました? 集中出来ておられないようですが?」

 

提督「そんな事は、無いっ!」

 

 

青葉「おぉぉぉっ! 序盤から激しい打ち合いです!」

 

局長「マサカ雲龍モ斬撃ヲ飛バセルトハナ・・・。」

 

ワール「何かしたの?」

 

局長「マサカ。」

 

青葉「思わぬ雲龍さんの能力登場で、先がより分からなくなりました!」

 

 

提督「我流、燕返し―――!」

 

雲龍「ッ!?」

 

直人が助走抜きで彼の奥義とも呼べる技を出す。こうした芸当も、日々の修練あればこそである。

 

 

ズガァッ

 

 

雲龍「くぅっ!?」

 

まともに防いだ雲龍を一太刀で態勢を崩し―――

 

 

ヒュバァッ

 

 

返す刀で仕留める。しかしその二太刀目が空を切った。雲龍が槍を支えにして弾かれた勢いで飛び退ったのである。

 

提督「成程、出来るな。」

 

雲龍「なんの、まだまだ―――!」

 

 

カァンキンキンカァンカァン・・・

 

 

かなりのハイスピードで互いに打ち合う二人。直人も懐に潜り込む隙を見出そうとするも、雲龍の素早い槍捌きを前にそれは困難を極めていた。

 

提督「四突!」

 

サイコロの四の目に極光で突きを連続で放つ。この際片方の側を先に打って回避した相手にもう片側を突き込むのがミソである。

 

雲龍「はぁっ!」

 

 

キキィィン

 

 

しかし雲龍は回避した後の2度の突きを払いのけ、更に追撃を入れる余裕を見せる。

 

提督「なんつー手練れかただ、これは―――。」

 

雲龍「お気に、召しましたでしょうか?」

 

恐らくはこれもまた、特異点なのだろう。雲龍も矢矧などと同じく武術型の特異点を持つと言う事であろうか。

 

提督「あぁ、大した腕だよ、矢矧や龍田あたりといい勝負も出来る位だ。だが――――」ダッ

 

直人が希光で斬撃を飛ばしながら突進する。

 

雲龍「はっ!」

 

雲龍も斬撃を飛ばしてこれを相殺するが――――

 

提督「フッ――――」

 

雲龍「ッ!!」

 

斬撃を飛ばすと言う事は、槍を一度振り抜くと言う事であり、斬撃と共に突入していた直人は、そのがら空きになった懐に極光を構え飛び込んで来る形になったのである。縮地の技法は、雲龍に対応する余裕を与えはしなかった。

 

 

ズバァァッ

 

 

雲龍「――――くっ。」ズシャァッ

 

最期は直人が右にすり抜けながら雲龍の腰を左から斜め上に胴を斬る、雲龍もその一撃を受けては流石に崩れ落ちた。

 

提督「雲龍に足りないのは、経験だよ。」

 

雲龍「そう、ですね・・・精進します。」

 

提督「ならば結構。」

 

 

青葉「決まったァ!! 今回もエキシビションマッチは提督の勝利です!」

 

局長「唯一コノ演習デ直人ガ本気ヲ出スンダカラナ、当然ダガ。」

 

ワール「どちらかと言えば普通に相手にする分には全力じゃないわね。」

 

局長「マァ、ソウデナイト話ニモナランカラナ。」

 

ワール「間違いないわね。」

 

青葉「エキシビジョンマッチはなぜか毎回新人さんが参加していますが、今後リベンジを申し出る艦娘はいるのでしょうか、今後にも注目したい所です! 以上、解説の局長とワールウィンドさんと共にお送り致しました、実況の青葉でした!」

 

 

提督「あーあ、いつも通り好き勝手言ってくれちゃってまぁ。―――間違いじゃないのが何とも。つかレーキかけなきゃ!」

 

そう、斬撃飛ばしまくったせいでその跡が刻まれちゃったのである。

 

提督「ウォームアップしたい奴はレーキかけやっててね~。順番に一名ずつ、今回も相手してあげよう。」

 

と、体よく艦娘達を使う直人なのであった。

 

 

カァンカァンカカカァンカァンカァン・・・

 

 

金剛「そこネー!」

 

提督「なんのォ!」

 

 

カァンカァンカカァンカァンカァン・・・

 

 

20人程度(川内・龍田含む)を相手した後で金剛との番になったが、思いの外激しい打ち合いが続いていた。

 

金剛は以前と同じ薙刀を使用していた。直人は十文字槍と言う、前回の対戦と同じ対決だ。

 

提督「どうやら、しっかり稽古してたみたいだな。」

 

金剛「言ったデショー? リベンジの機会を窺ってたッテ。」

 

提督「そうだな、そうでなくてはな。」

 

金剛「さぁ、次はどうするネー!?」

 

提督「どうも何も――――」

 

 

ビュン―――ズドォッ

 

 

金剛「ゴホォッ!?」

 

提督「こうするのさ。」

 

投げた。思いっきり投げた。

 

一同「――――!?」

 

一同も呆然とする奇手である。尤も、投槍も立派な戦法なのだが。

 

金剛「き、聞いてない、デース。」ガクッ

 

提督「戦いとは、柔軟性を要求されるものだ。」キリッ

 

一同(嘘でしょう・・・!?)

 

ドン引きである、当たり前である。ますます激しさを加える事は疑いようもない状況である。

 

 

暁(大丈夫、いつも通りにやれば―――!)

 

と自身を鼓舞して臨む暁。

 

 

カァンカァンカァンカァン・・・

 

 

提督「フッフッフッ・・・!」

 

完全に持久戦になりリズミカルに呼吸とフットワークを整えて打ち続ける直人。何故かと言うと、全て受けるか躱されているのだ。

 

以前、暁が砲弾を目視で回避している事は既に述べた。それは暁の卓抜した動体視力の成せる業であり、そしてつまりそれは、他方面に応用が利く事も意味している。

 

提督「どうした! 防ぐだけでは何も変わらんぞ!」

 

暁(む、無理でしょこれ~!?)

 

防ぎ続ける暁の方が疲れて来ていた。暁は持久戦で直人がバテるのを持っていたのだが、本末転倒もいい所であった。

 

暁「っ、やぁっ!」

 

 

カアァン

 

 

提督「ぬっ!?」

 

暁「そこっ!」

 

下から斜めに払いを受け、振り抜こうとしていた木刀を弾かれて態勢を崩す直人。そこへ暁が振りかぶって追撃に入ろうとする。

 

提督「まだ、だっ!」

 

直人が弾き飛ばされた勢いを使って身をよじる。

 

暁「えっ!」

 

木刀が空を切り、暁が思わず面食らう。

 

提督「せいっ!」

 

 

ヒュッ

 

 

気付けば、暁の首筋に木刀が突き付けられていた。

 

提督「勝負あり、だな。全く、防御に関しては大した腕だよ。」

 

暁「つ、疲れたわ・・・。」

 

息を切らして言う暁であった。

 

 

鳳翔「はぁっ!」

 

 

ドシャァッ

 

 

提督「くあっ―――!?」

 

そして相変わらず鳳翔さんには体術で勝てず、一本背負いをまともに受けるのであった。鳳翔さんについては護身術と言う点でトップレベルの技量を持っているから止むを得ず、無形を旨とする直人も護身術は余り心得ていないので、勝てる道理が見当たらないのである。

 

提督「ゲホッ、ゴホッ・・・」

 

鳳翔「大丈夫、ですか?」

 

提督「あ、あぁ、大丈夫だよ―――相変わらず敵わないや。」

 

鳳翔「いえ、提督も少しずつですが、上達してらっしゃいますよ。」

 

提督「だったらいいんだけどね・・・。」

 

微苦笑して言う直人であった。

 

鳳翔「今度は何か武器をお使いになられますか?」

 

提督「いえ、大丈夫です、なんだか申し訳ないので。」

 

鳳翔「まぁ、ご遠慮なさらなくても宜しいですのに。」

 

提督「いや、私が他の子達にシバかれる。」

 

鳳翔「あぁ・・・それもそうですね。」

 

鳳翔も自分を慕ってくれる艦娘達がいる事は良く分かっているので、直人の言には納得したのであった。

 

時雨「――――。」

 

おや? 時雨の様子が・・・

 

 

その後は目立った事も無く、16時22分に演習は終了した。当然くったくたになった直人は、自室に戻った後数時間ずっと寝たのだった。が、体よく彼の鍛錬の相手にしていると言う事もあり、こうした演習も彼の技量維持に一役買っている事は確かだった。

 

 

23時17分 中央棟2F・提督私室

 

提督「練成、開始(クラフト、オン)―――。」

 

その夜も、彼はいつも通り、魔術の修練に努めていた。彼は魔術使いであって魔術師ではないし、魔術師の家系に生まれ育った訳でもないから、魔術刻印(家に代々伝わる魔術研究の成果を刻んだ体紋)は持っていないし、編み上げてもいない。

 

ただそれでも、自らの身を処す手段の一つとしての魔術であったから、修練は欠かしていないのだ。そして見つからぬよう、それは夜に行っていた。故に彼が魔術使いである事はほんの一握りの者しか知らないのである。そのほんの一握りと言うのが時雨である。

 

提督「・・・ふぅ。」

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「ん・・・? 誰だこんな時間に・・・。入れ!」

 

 

ガチャッ

 

 

時雨「失礼するよ。」

 

提督「―――時雨か。どうしたこんな時間に。」

 

時雨「魔力の気配を感じてね。」

 

提督「成程な・・・で、何か用か。俺はさっさと寝たいんだが―――」

 

時雨「僕と、もう一度―――対決してくれないかい?」

 

提督「・・・。」

 

時雨の申し出は、彼としては吝かではなかった。しかし・・・

 

提督「今日はよしてくれ。近接戦闘演習の後だ、俺も疲れたしな。」

 

時雨「・・・分かった、じゃぁ明日の夜11時、演習場でどうかな。」

 

提督「良かろう、では明日な。」

 

時雨「うん―――。」

 

時雨はそれで納得し去って行った。

 

提督「・・・寝よ。」ガバッ

 

そして本当に疲れている直人はさっさと寝たのであった。

 

 

10月12日22時59分 サイパン島演習場

 

提督「――――。」

 

一人、演習場の片隅で佇む直人。果たして時雨は時間通りにやってくる。

 

時雨「やぁ、おまたせ。」

 

提督「全く、お前からあんな事を言い出すとは少し驚いたよ。」

 

時雨「まぁね、以前負けたのが結構引っ掛かってたんだ。」

 

提督「―――それにしても随分上天気だ、星も良く見える。」

 

時雨「そして人気のない場所だ。ここならお互い、思う存分やれる。そうだよね?」

 

提督「全くだ、この場所を指定したお前は正解だよ。だが―――」

 

時雨「・・・?」

 

提督「―――同時に間違いでもある。それを示そうじゃないか。」

 

時雨「・・・受けて立つよ。」

 

この場に於いては、互いに挑戦者同士、なればこそ、お互い気迫が漲る。いずれから仕掛けるか、何秒か時が流れた――――。

 

 

提督「―――呼集。」

 

時雨「―――投射三連!」

 

時雨は魚雷型ロケットを4発ずつ16発投射、これに対し直人は白金剣を5本呼び出しそれを纏めて射貫いてみせる。既にこの時点で、参式以外の結界制御術式は解除されており、『白金千剣の重複発動』と『白金剣の遠隔操作』は可能になっている。つまり最初から全力に近い。

 

時雨「なら、これで!」

 

更に時雨が魚雷型ロケット7発を投影、それを7方向から突入させる。

 

提督「その程度!」

 

更に直人も7本の白金剣を呼び出し、これを相殺する。互いに投射型の魔術である為拮抗した状態であるのは仕方のない所であったが、当然ながらまだ小手調べであり動く気はないのだ。

 

時雨「やっぱり埒が明かないね。なら!」

 

時雨が指抜きグローブに魔力を通し、ルーンを発動させて突入する。

 

提督「―――ほう、正面から来るか。」

 

直人が地面に手を突く。

 

提督「白金千剣―――“千剣ヶ原”!」

 

時雨「なっ―――!?」

 

次の瞬間、突進してくる時雨の針路上の地面から、白金剣が突如大量に噴き出すようにして投射される。かつて資材倉庫に侵入した赤城にも使った技である。時雨は面食らって回避出来なかった。

 

時雨「くっ・・・突進は、警戒されてたんだね・・・。」

 

提督「当然。以前の手合わせで指抜きグローブに硬化のルーンを刻んでおいて格闘戦に持ってくるのは知ってるからな。」

 

時雨「確かに、この手は前に使ったね。なら―――!」

 

時雨が上空に魔術陣を展開、そして―――

「“ハーゲル”!」

そこから氷の楔を立て続けざまに投射した。“ハーゲル(Hagel)”とは「雹」を意味するドイツ語だが、そんなちゃちなものでは決してない。

「“メイルシュトローム”!」

更に時雨が水魔術の大技であるメイルシュトロームを放つ。波濤の渦が、無数の氷の楔と同時に直人に襲い掛かる。

 

「同時―――!」

直人は逡巡した。彼が使えるまともに戦闘に使える魔術と言えば、白金千剣と強化位で、これではこの圧倒的な火力を防げない。しかしここで彼は一つの思考に至る。

(―――武器だ。)

 

(とった!)

時雨はここで勝利を確信した。しかし彼は諦めていない。

(この壁を突き破る武器がいる―――!)

彼は思考を巡らせる。

(難しい筈はない、能力付与(エンチャント)は想像力だ。ならば―――あの波濤を超えられる力を考え、付加する事だって!)

魔力が、直人の意に沿い収束し始める。

(イメージしろ・・・あの水壁を、突破する武器を!!)

直人の手に、1本の剣が形成されていく。

(普段やっている事をやるだけだ、普段やっている鍛錬だと思い込め!)

完成された入れ物に、彼が力と中身を入れ込む。

 

提督(全行程―――完了!)

 

 

ズドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

時雨「なっ―――!?」

 

提督「――――。」

 

振り抜かれた右手に握られていたのは一本の白金の剣。しかしそこから放たれたのは、光の束。さながら天に至る階の如く、それは、氷と水の巨壁を貫き通したのである。

 

提督「さぁ―――どうするね?」

 

時雨が持つ最大の一撃を凌いで見せた直人。不敵な笑みを見せて時雨に問いかける。

 

時雨「・・・ダメだね、僕じゃやっぱり、提督には敵わないや。」

 

提督「―――そうか。」

 

時雨「僕の負けだ。流石だね。」

 

提督「素直に受け取って置くよ。さて、戻ろうか。」

 

時雨「うん、そうだね。」

 

時雨は提督と共に、司令部の自身の寮に戻っていく。時雨は、まだまだ実力不足である事を痛感したのであった・・・。

 

 

その翌日から何日かの間、艦娘達の一部の間で、演習場の方から妙な光が空に向かって伸びるのを見たと言う噂がまことしやかに囁かれたと言う。あれだけ暴れればその一端を見られたとしても不思議ではない話ではあったが。因みに当事者2名はバレない様にすっとぼけていた模様。

 

 

10月13日22時37分 司令部正面水域

 

この日は夜戦演習で、新入の長波も参加していた。

 

 

ドォンドォン・・・

 

 

カードは一水戦対二水戦と言う、水雷戦隊同士の夜戦を想定したものである。ただ、一水戦側に第五戦隊が加わる為、純粋にそうとも言い切れなかったが。なお状況は反航戦である。

 

足柄「今よ、突撃ィ!」

 

足柄の合図と共に一水戦の面々が砲撃を交え突入を開始する。足柄が今日の一水戦側指揮官である。余り普段実戦で目立つ事のない五戦隊だが、特に足柄の指揮には定評があり、攻める所を徹底的に突き、引き所を弁えるその手際の良さは流石の一語に尽きる。

 

今回足柄が狙ったのは、二水戦の単縦陣の中央部にいる第十駆逐隊である。比較的加入して日が浅く、練度が低い上、そこには新入艦である長波がいた。

 

 

長波「・・・。」

 

その様子を夜目を利かせて観察している長波。

 

巻雲「長波、どうしたの?」

 

と巻雲が聞くと、夕雲は隊内無線で矢矧に意見具申をする。

 

長波「矢矧さん、あたしに策がある。全艦あたしの指示通りに動いて欲しいんだ。」

 

矢矧「“なんですって?”」

 

驚いて聞き返す矢矧に夕雲はこう言った。

 

長波「相手の方が戦力で優勢だ、練度もある。それに急がないと手遅れになっちまう。」

 

そう言われて矢矧は

 

矢矧「“・・・分かったわ、やってみて頂戴。”」

 

と返事をした。演習ならではと言ったところではあった。

 

長波「よっしゃ、いっちょ始めますか!」

 

巻雲「でも、どうするの?」

 

長波「あたしが丁度単縦陣の真ん中だ、私を基準に航行方向そのままで“くの字”に展開してくれ。」

 

「「“了解。”」」

 

長波(この位の動きなら、夜間だと見えづらい、距離はおよそ1万5000―――)

 

長波が一水戦との距離を測る。急速に詰まるその距離が1万3000になった所で展開が終わる、砲撃も正確になって来たが、それは長波の周囲に落ち始めていた。

 

長波(よし、予想通り狙いはあたし達だ。いける!)

 

長波が確信した次の瞬間。

 

長波「矢矧さん! 敵先頭艦に探照灯照射5秒!」

 

矢矧「“了解!”」

 

長波「他艦は照射目標に魚雷を全射線投射!」

 

二水戦駆逐艦娘全員

「「“了解!!”」」

 

 

足柄「探照灯! うっ、まぶしいっ!」

 

妙高「敵の先頭艦、探照灯を照射!」

 

足柄「くっ、不味いわね―――」

 

妙高「消灯しました!」

 

足柄「!?」

 

短時間の探照灯照射、その意図を測りかねる足柄。後続する艦娘達も、その照射時間が短く、照準を修正し切れていない状態だった。

 

足柄「―――まぁいいわ、このまま突入続行!」

 

 

ドオオォォォォーーー・・・ン

 

 

~23時47分~

 

巻雲「凄すぎですよ長波~!」ピョンピョン

 

長波「いやぁ、直感で突撃一本だって思ってね、それでやってみたんだけど、上手く行って良かったぜ。」

 

矢矧「本当に見事ね、感心したわ。」

 

長波「おうさ、夜戦なら、あたいに任せな!」

 

 

足柄「改めて酸素魚雷の威力、思い知らされちゃったわね・・・。」

 

那智「まぁ、そんな事もある。気にするな、足柄。」

 

足柄「そうね・・・。」

 

妙高「しかし、策を編んだ長波さんも、凄いですね。」

 

那智「そうだな、まだ艦隊に加わって日も浅いのに、洞察力に優れている。あれをもう少し、見習いたいものだ。」

 

足柄「うぬぬ・・・。」

 

悔しそうに唸る足柄であった。

 

 

翌朝一番の足柄と矢矧の報告で、直人もその事を知った。彼は長波の夜戦における優れた戦闘指揮能力を率直に受け止め、それを何かに生かす事が出来ないかを考え始めるのであった。

 

 

10月16日10時22分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「今日は書類が少なくて助かったぜ、なぁ金剛?」

 

金剛「デスネー。今日の午後、久しぶりにティータイムと洒落込みマスカー?」

 

提督「おー、いいねぇそいつぁ。では御馳走になろうかな。」

 

金剛「オフコースネー!」

 

と仲良く会話している時だった。

 

 

ガチャッ―――

 

 

大淀「提督、おられますか!」

 

慌てた様子で大淀が無線室から戻って来た。

 

提督「やぁ大淀、仕事はついさっき終わっちまったよ。書類頼むわ。」

 

金剛「宜しくネー!」

 

大淀「それどころではありません! 緊急事態です!!」

 

提督「緊急事態?」

 

金剛「デスカー?」

 

二人して互いの顔を見合わせ首を傾げている。

 

大淀「お二人とも平和ボケが早すぎますって・・・。」ハァ~

 

そして呆れ果てる大淀である。

 

提督「冗談だ、最前線で油断もしておれまい? 話を聞こう。」

 

金剛「冗談だったんデスカー。」(;´・ω・)

 

大淀「そう言う金剛さんは気が緩み過ぎです。」

 

金剛「そ、そんなコトは――――」

 

提督「はいそこまで、緊急事態ではないのか?」

 

大淀「あっ―――そうでした、申し訳ありません。」

 

提督「詫びは後、報告しろ。」

 

直人が急かすと大淀が事態を説明する。

 

大淀「サイパン島の北東方向、距離420kmに、サイパン島へ向かう深海棲艦の大艦隊が確認されました。報告によれば、先日訪れた北方棲姫の姿も確認されたとの事です!」

 

提督「420kmと言えば至近距離じゃないか! なぜそこまで誰も気づかなかったのだ!」

 

大淀「それが、偵察機からの情報では、水面に突如として現れたとの事で・・・。」

 

提督「なん・・・だと・・・?」

 

金剛「まさか・・・。」

 

サイパン島の危機か―――そう考えかけたその時、執務室に白雪が飛び込んできた。

 

白雪「大淀さん、触接機から追加電です!」

 

提督「どうした!」

 

白雪「深海棲艦隊より『我に交戦の意思無し』との発光信号です!」

 

それに首を傾げたのは直人であった。

 

提督「―――読めんな、どう言う事だ?」

 

金剛「大淀サン、敵の規模は?」

 

大淀「およそ20万隻ほど、深海棲戦艦や深海棲空母と言った主力艦艇の姿も多数含まれています。」

 

提督「20万だと!?」

 

金剛「その辺の棲地よりも多いデスヨー!?」

 

提督「棲地のお引越しとでも言うつもりかよ・・・。」

 

大淀「となるとここを占拠すると!?」

 

提督「だが交戦の意思はないと言う。北方棲姫もいると言う事になると・・・。」

 

何かがあった、直人はそんな予感があった。

 

提督「金剛、艦隊の修理状況は?」

 

金剛「前回、霧に紛れての戦闘だったから、大した損害も無く現在全艦出撃可能です。」

 

珍しく流暢になった金剛。

 

提督「では仮に全艦出撃させるとする。勝てるか?」

 

金剛「無理デスネー。砲台と基地航空隊を合わせても、余りにも多すぎマース。それに、やるならとっくに触接機も落されてるデショウし、攻撃隊の接近を確認出来てる筈ネー。」

 

提督「確かにその通りだ。どう思う大淀。」

 

大淀「・・・兎に角今は、情報が不足しています。北方棲姫さんが相手ですから、話は分かると思いたいです。」

 

提督「―――つまり和戦両面で準備しろ、と言う事だな。」

 

大淀「はい。」

 

大淀の言葉から、彼はその真意を悟る。

 

提督「宜しい、その方向で行こう。航空隊は攻撃隊を編成、地上運転のまま待機しろ。インターセプターも全部駐機場から出して滑走路上で待機、敵襲があれば直ちに迎撃に出ろ。艦隊は全艦出撃して司令部正面で臨戦態勢のまま別命あるまで待機、鈴谷も戦闘準備を整えて置け。」

 

大淀「はいっ!」

 

金剛「了解デース!」

 

提督「全島に第二種臨戦態勢、万が一に備え戦闘準備だ! 但し、これらの準備を悟られるなよ。」

 

金剛「OK。」

 

大淀「難しい注文ですね・・・分かりました、やってみます。」

 

直人の指示が下された。この指示が、後の時代の流れを大きく変える命令となって発せられた。

 

 

16時37分 サイパン島北東近海

 

提督「・・・多いな。」

 

直人は軽装で司令部を出港、天龍と龍田を従えてサイパン島北西の近海に位置し、やって来るであろう深海棲艦隊を待ち構えていた。

 

装備しているのはストライダーフレームの脚部艤装と背部艤装、それに艤装に仕込んだライフルと極光・希光がある程度である。

 

天龍「戦えって言われりゃやるが・・・正直、勘弁願いたい数だな、ありゃぁ。」

 

龍田「本当に、やっちゃダメなのね?」

 

提督「あぁ、少なくとも俺がよしと言うまではダメだ。尤も、戦わない事を祈りたいがね。」

 

天龍「同感だな。」

 

龍田「えぇ・・・。」

 

流石の龍田も、水平線上に見える圧倒的な数の深海棲艦を前にして、直人が戦意を持っていないと来ては戦うつもりも起きなかったようだ。

 

一方の深海棲艦隊も、堂々たる足並みでサイパンに向かっていた。こちら側からも、直人と二人の艦娘の存在は水平線上に目視していた。

 

 

~17時27分~

 

北方棲姫「・・・しばらく、だね。ナオト。」

 

提督「あ、あぁ。しばらくぶりだけど・・・これはどういう事なんだい?」

 

深海棲艦隊は、直人との距離を10kmに保って停止していた。直人が島から10km離れているから、サイパンからは20km、砲撃戦では目と鼻の先の距離なのである。直人としてはこの規模の敵を前にすると気が気ではない。

 

北方棲姫「ほっぽ・・・逃げてきた。皆も、そう。」

 

提督「逃げてきた・・・?」

 

「そうだ、私達は、貴艦隊に対し亡命を求めます。」

 

北方棲姫の背後に控えていた深海棲艦が言った。

 

提督「失礼だが、貴艦は?」

 

「申し遅れました。北方棲姫様の副官をしております、アイダホと申します、提督。」

 

戦艦ル級改Flagship「アイダホ」。わざわざド辺境に改Flagという大物がいた理由は、直人達が電撃的に攻撃して行ったからに他ならなかった。AL方面への作戦の後、深海棲艦隊はダッチハーバーの防備兵力増大を図り、その一環として、空母や戦艦部隊と言った大兵力を増派したのである。

 

提督「―――ではアイダホに幾つか質問しよう。今、確かに亡命すると言ったな。」

 

アイダホ「その通りだ。」

 

提督「亡命するのはいい。だが何を求めるのか。それを聞かねば始まらない。」

 

アイダホ「可能ならば、交渉と共存を。そうでない時は――――」

 

提督「そうでない時は?」

 

アイダホ「そうでないものを、少なくとも、無条件降伏の為に、二十数万の艦隊を以ってここに参上した訳ではありません。もしお聞き届け頂けるのであれば、この戦争を、より早く終わらせる方法を御教授して差し上げます。虚心に御聞き下さい。そうすれば、貴方様であれば―――紀伊元帥閣下なら、分かって頂ける筈です。我々深海棲艦が今、どの様な状態にあるのかが。」

 

提督「――――。」

 

彼は腕を組み、直立不動の姿勢で、アイダホの言葉を、その心中で良く反芻して考えていた。

 

天龍(随分エラそうだな、深海棲艦の癖に。)

 

提督「―――成程? 大きく出たものだ、“私に教授する”とは。」

 

アイダホ(不味かったか・・・?)

 

提督「良かろう、その大言に免じ、テニアン沖に艦隊を停泊させる事を許可する。但し、事の次第が判明するまで―――或いはより長くなるやもしれんが、それまでは監視を付けさせて貰う事になる。異存はないか?」

 

アイダホ「元より承知していた事です、私達に、異存はありません。」

 

提督「結構。では早速その様に取り計らうといい、落ち着いたら代表団を編成し、司令部に来てもらいたい。私達は、君達をひとまず客人として迎えよう。」

 

アイダホ「―――元帥閣下のご厚情に感謝致します。」

 

提督「礼はいい、それより早く行くといい。長旅だったろう、燃料に不安があるのではないか?」

 

アイダホ「お気遣い痛み入ります。では早速失礼させて頂きます。」

 

提督「うん。」

 

アイダホがその場を去ると、北方棲姫が口を開いた。

 

北方棲姫「ナオト、ありがとう。その――――」

 

提督「心配しなくていい。まだ何があったか聞いた訳じゃないが、今はまだ、俺達は友達だ。」ニッ

 

北方棲姫「うん! トモダチ!」ニコッ

 

お互いに笑みを交わす。直人はこれからが難儀だと本気で思い始めていた。それは文字通りの、大事件だったからである。事情如何によっては、4度目のサイパン近海の戦いになる。故に、彼も慎重な姿勢で臨むつもりだった。

 

提督(・・・あ~あ、こりゃまた、厄介事を引き受けちまったなァ―――どうも俺の所には次から次に騒ぎが起こるもんらしい。)

 

心底彼はそう思ったものである。

 

 

天龍「・・・なぁ、提督。」

 

提督「うん? なんだ?」

 

北方棲姫と別れた後、戻る途中で天龍が質問した事がある。

 

天龍「良かったのか? そんな二つ返事の様に受け入れたりして。」

 

提督「阿呆、よく考えても見ろ。これだけの大事だ、うちだけで処理出来ると思うか?」

 

天龍「・・・まさか、初めから―――」

 

提督「その“まさか”だよ、天龍。」

 

天龍「フッ、そうだな。考えてみりゃ、考えるまでもねぇ事だったぜ。」

 

提督「そうさ。さぁて、全艦隊に臨戦態勢解除、警戒態勢に格下げを命じなくては。」

 

天龍「だな・・・。」

 

直人は天龍と龍田を伴い、サイパン島司令部に戻っていった。

 

 

那智「警戒態勢・・・だと!?」

 

提督「そうだ、これは命令だぞ。」

 

那智「―――命令とあらば了承するが、納得がいかん!」

 

提督「繰り返すようだがこれは命令だ、君が納得するかどうかと言う問題ではないのだぞ。」

 

那智「・・・くっ。」

 

提督「今回の件は我々だけで処理できる案件ではない。相手側の言い分を聞き、それを中央に報告し指示を仰がねばならん。言って置くが、既にこの件は私が預かっている。迂闊な事をすれば誰であれただでは置かんからそのつもりでいろ。」

 

那智「・・・了解した。」

 

今度ばかりは、那智の方が分が悪かった。拳を握り締め、那智は引き下がった。

 

金剛「確かに、今回は私達の仕事ではないデスネー。提督にお任せしマース。」

 

提督「ありがとう金剛。事が片付くまでは、2個戦隊3個駆逐隊を充当して、交代制の警備を付けておいてくれ。深海棲艦の一団は、テニアン沖に停泊の予定だ。」

 

金剛「了解デース。」

 

朝潮「いいのですか? 敵をその様な近場に居させて―――」

 

提督「少なくとも今は、敵じゃない。それは忘れるなよ? 彼らは、我々に亡命を求めてここに来たんだ、砲撃は俺が良しと言うまでは禁止だ、いいな?」

 

朝潮「ハッ!」

 

霞「亡命・・・亡命ねぇ。」

 

と霞が嘲る様に言ったのを彼は聞き逃さない。

 

提督「何も今に始まった事じゃないぞ。アルティも亡命者だ、それを考えてやる事だ。」

 

霞「それは、まぁ・・・。」

 

提督「それに、亡命と言う事は余程の理由がなければ不可能だ。それを汲んでやれ、彼らがどの様な気持ちで、深海を出て来たのか。」

 

霞「・・・そうね。」

 

霞もそれ以上は言わなかった。局長と接した事が無い訳ではないし、それを通じて、深海棲艦にも心ある者がいる事を知っていたからである。

 

那智(提督は何を考えている・・・?)

 

しかし、腑に落ちない者がいた事も確かだった。

 

 

深海棲艦の大艦隊が亡命してきた―――横鎮近衛艦隊が齎したこの報告は、艦娘艦隊の中央に於いても驚きを以って迎えられた。

 

 

日本時間19時27分 横鎮本庁・司令長官室

 

土方「二十数万の深海棲艦が亡命とは・・・。」

 

大迫「およそ、これまでにない規模です。」

 

土方「亡命してきた者達は、交渉の席を持ちたいとも言う。何を求めての事なのか、ことと次第によっては、サイパン島が危機に瀕するやもしれん――――。」

 

大迫「紀伊元帥も、お人好しが過ぎるとまでいうのは酷ですが、少々厄介事を持ち込み過ぎるきらいはありますから。」

 

土方「紀伊君の事だ、何も無策ではあるまい。」

 

 

19時37分 横浜大本営の一室

 

嶋田「サイパンに亡命深海棲艦の大艦隊とは、とんだものが来たもんだ。」

 

来栖「精々交渉とやらが決裂する事を祈るとしよう、それで紀伊直人が消えるならばこちらとしても本懐を遂げられたも同然。」

 

牟田口「だが奴は、深海棲艦について一定の理解がある男だ、そう上手くいくかね?」

 

来栖「所詮は深海棲艦など野蛮人に過ぎません、何も憂慮する事もありますまい。」

 

牟田口「果たして、そうかな・・・?」

 

来栖「――――?」

 

 

19時38分 横浜大本営・総長室

 

山本「深海棲艦の亡命事件は、今更目新しいものでもない。しかし今回はとびきりだな、宇島君。」

 

宇島「はい――――サイパンに、なんと訓令しましょうか。」

 

山本「特に必要はないだろう。紀伊君なら、やるべき事は弁えているだろうからね。」

 

宇島「分かりました。」

 

尾野山「報道規制については如何しますか?」

 

山本「―――過剰な反応をされる事は避けるとしよう。」

 

尾野山「では、その方向で。」

 

山本「うむ。しかし、今回の件ひょっとすると、何かあるかも知れんね。」

 

宇島「何か・・・ですか。」

 

山本「あぁ。」

 

 

こうして、様々な思惑の入り乱れた一晩が明け、翌17日10時18分、横鎮近衛艦隊司令部食堂棟2階にある大会議室が片付けられ、亡命深海棲艦隊代表団と、横鎮近衛艦隊首脳陣との間の会見場が開設された。

 

横鎮近衛艦隊側からは、提督の紀伊直人ほか、

 

艦隊総旗艦兼一水打群旗艦 金剛

副官兼第十戦隊旗艦 大淀

二航戦旗艦兼サイパン航空隊司令 飛龍

二水戦司令 山口多聞 少将

サイパン航空隊副司令 柑橘類少佐

第一艦隊旗艦 大和

一航艦旗艦 赤城

造兵廠統括 明石

技術局局長 “局長”モンタナ

オブザーバー ワールウィンド

 

以上10名が出席した。

 

一方で亡命深海棲艦の代表団は、北方棲姫の副官であるアイダホをリーダーに、

 

艦隊総督 ネヴァダ(ル級改Flag)

戦艦部隊司令官 アラバマ(ル級改Flag)

空母部隊司令官 アンティータム(ヲ級改Flag)

高速打撃群指揮官 オレゴン・シティ(リ級改Flag)

快速機動群指揮官 スプリングフィールド(ト級Flag)

高速水雷戦隊指揮官 ファーゴ(ト級Flag)

対潜掃海部隊指揮官 ナッソー(ヌ級改Flag)

 

以上7人が臨席した。

 

 

会見は10時20分に始められた――――

 

 

提督「本官は今日、この場にあなた方を迎えられた事を誇りに思う。私はあなた方の誠実さと、差し迫っているのであろう願いに対し、対話を以って臨む事が出来る事を、また嬉しく思うものである。私自身、この日が歴史的な一日である事を確信し、我々が望む平和への糸口となる事を、切に願うものである。」

 

アイダホ「我々は今日、誠に不本意な立場に置かれつつあり、為に我々は自己の生命の補償を求めて、あなた方に対し亡命を希望するに至った次第です。あなた方が平和を希望する様に、我々もこの戦争について懐疑的な立場にあり、双方相争うことなく、共に理想に向けてのあらゆる努力を惜しまぬ事を理解し合う事が出来れば、少なくとも私達とあなた方との間に、戦火を交える事は無いものと信じます。」

 

その後、互いの幕僚を紹介して行き、それが終わると、直人が早速本題を切り出した。

 

提督「―――では早速本題に移りたい。昨日、貴艦隊―――二十五万の大艦隊が、突如として我々に対して亡命を申し入れた。我々としても突然の事であり、我々としては、何が起きているのか、そしてその上で我々に対して何を求めるのか。順序としては、それをまず御話頂くのが適切だと考えるが、如何だろうか?」

 

アイダホ「その通りです。確かに、いきなり押し掛けたと言う事ではそちらとしてもご迷惑でしょう―――全て、お話します。」

 

提督「拝聴いたします。」

 

そう言い置くと、アイダホが話し始める。

 

アイダホ「―――私達深海棲艦に、“心”が存在する事は、種々の事情を以ってご存知の事かと思います。私達は誕生の当初こそ、その存在を関知しない、文字通りのキラーマシンに過ぎませんでした。しかし、その深海棲艦の中に、人間と交流を行う者が出始めるに至り、深海棲艦達は徐々に、自身の心の存在を認知し始めました。ですがそれは、戦争を主導する一派にとって甚だ都合の悪い影響を齎しました。」

 

提督「戦争を―――主導する一派?」

 

アイダホ「そうです。我々は元々、一つの目的に沿う様に行動してきました。それが―――」

 

ワールウィンド「―――“地上への生存権獲得”、ね。」

 

アイダホ「・・・そうです、ワールウィンド様。我々は最初、その事だけを念頭に置き、あらゆる選択肢を行使してきました。その中で、人間との戦争が避けられないと知った者達は、心の存在を認知しつつも、なお戦争の継続を決定しているのです。無論、自らの意思と心によってです。」

 

提督「―――つまり今回の亡命の一件は、戦争を強硬に呼びかけるその一派と、無関係では無い。と言う事か?」

 

アイダホ「慧眼恐れ入ります。我々は余りに長く戦い過ぎました。故に深海には今、厭戦気運がくすぶり始めています。確かにこれまで我々は、日の光の下で暮らすべく、あなた方との戦争を遂行し、数々の戦場を渡り歩いています。ですが、深海棲艦隊内の考え方は、必ずしも一致した見解ではありません。」

 

アイダホはそう断言してのける。直人もそれに驚きの表情は見せなかった。北方棲姫を始め、そう言った深海棲艦達を幾人も知っているからである。

 

それを知ってか知らずか、アイダホは言葉を続ける。

 

アイダホ「即ち、戦争を主導する強硬派と、和平を望み、またそこまで踏み込んだ考えを持たないものの、戦いを望まざる講和派ないし穏健派。そして、考え方に依らずそのどちらにも付かず、ただ淡々と命令を遂行し続けているだけといった風の中道派無いし、中立派と呼ばれる者達とに、大別出来るでしょう。」

 

提督「成程・・・今まで一枚岩だと思っていたが、北方棲姫だけが例外ではなかったのだな。」

 

アイダホ「はい。亡命を御決意され、我々を糾合して亡命の途に上られた北方棲姫様のお覚悟と実行力は、流石と言わざるを得ません。」

 

提督「ほう、亡命を決意したのは北方棲姫だったのか。しかしあの小さな子がそれを決断するのだ、余程の事があったのではないか?」

 

アイダホ「ある日、怯えた様子の北方棲姫様をお見かけしたので、何事かと思い御聞きした所、『極北棲姫様に脅された』と言うのです。恐らく、北方棲姫様が一切の派兵をしない事を見て取ったのでしょう、出兵するよう脅しをかけたと見て間違いありません。そこで私が、亡命をお勧めさせて頂き、北方棲姫様はご決断為されたのです。」

 

提督「何たる惨い事をする・・・。いくら棲姫級だからと言って、あの子の心は、幼子と変わらぬと言うのにな。」

 

アイダホ「その通りです。ですが、我々だけ亡命するのでは、自分と同じ目に遭っている沢山の者達が可哀そうだと、北方棲姫様は申されました。2か月前の戦闘を、覚えておいででしょうか?」

 

提督「ミッドウェー争奪戦だな。私は尖兵として出撃した、よく覚えているとも。」

 

アイダホ「あの敗北の後、強硬派に属する者達は、自分達に靡かない者達に思想統制を強化し、一挙に締め付けをきつくしています。北方棲姫様に対する仕打ちもその一環でしょうし、他にも同じ様な目に遭っている者達は大勢います。故に、私が主導して、手近に参集する事の出来る深海棲艦隊、特にその心当たりに声をかけ、二十五万にのぼる大艦隊を揃え、今日参上した次第です。」

 

提督「―――成程、要約すれば、深海棲艦隊に強硬派、穏健派、講和派、中立派の四つがあり、この内の強硬派がその他三派に対する思想統制を強化、それに耐えかねた諸君らは、密かに手近な同志を参集し亡命する事にした、と言う事だな?」

 

アイダホ「それに相違ありません。事実、見せしめとして処刑された者もあります。これを見た三派の者達は、表立って不満を口にする事も出来ず、密かに不満を募らせている状態にあります。そして強硬派の取っているこれらの態度を見れば、強硬派が勝利するその日まで、彼らに戦争を止める気がないのはお判りでしょう。」

 

提督「――――そうだな。」

 

アイダホ「このままでは、今後何十年にも渡って戦争が続き、どちらかが滅ぶか、あるいは自滅するまで、無用の流血を続ける事になります―――強硬派にしてみれば、人類を最後の一人まで殺し尽くすまで、やめる気はないでしょう。彼らは今や、この星の新たな支配者となる事を夢想してさえいるのです。その様な傲慢を望まぬ者がいるにも拘らず。」

 

提督「それは余りにも大きな傲慢だ。であるからこそ、我々としても止めねばならない。それが我々の闘う理由の一つでもある。」

 

アイダホ「―――私達が提示する要求事項をお話します。私達は、前提として人類との戦争を望まない事を、最初にお約束します。その上で御聞き下さい。」

 

提督「了承した。」

 

アイダホ「私達が望むものは、地上における生存権です。強硬派の者達はそれには大陸でないとならないと考えるようですが、私達としては、現在太平洋上にある、戦渦に巻き込まれ、汚染され無人化した島々でも十分構いません。それらに住まわせて頂けるとしたら、これ以上の事はありません。」

 

アイダホらが提示する要求、それは、現在のテニアン・グァムの様な島々に、自分達が生活出来るようにして欲しいと言うものだった。

 

提督「―――随分と大きく出たものだが、国家間の領有権の事もある。我々の司令部の一存で決定出来る事じゃぁない。だが、限定的にならば融通が利くかもしれん、無論期限はあるかも知れないが、それにしては、何の対価も無しにそれだけの要求をするのは、些か虫が良すぎやしないだろうか?」

 

彼は驚かず、アイダホを見据え反論した。しかしその次の言葉にこそ、彼は驚かされることになる。

 

アイダホ「仰る通りです。ですから我々は対価を用意する事にしました。即ち、この要求を行うに当たり、我々一同は、人類に対する単独講和と、深海棲艦隊強硬派に対する、私達と人類とによる共同戦線の樹立を求めます。」

 

提督「―――!?」

 

淡々とアイダホが告げたそれは、“人類と深海棲艦の同盟”を発議するものであった。

 

金剛「共同―――」

 

飛龍「戦線・・・。」

 

多聞「ほう・・・。」

 

提督「すると―――君らは我々に対して、無人島の領有を認めさせる代わりに、同族を討つということか―――!?」

 

アイダホ「人類の歴史を顧みたならば、それは珍しい事ではないでしょう?」

 

提督「―――。」

 

そう言われ、彼は腕を組んで考え込んでしまった。

 

大淀「で、ですが、強硬派が主流と言う事は、兵力は参集したあなた方よりも多い筈、それに於いて勝とうと言うならば、有能な指揮官がいなければならない筈です。当てはあるのですか?」

 

アイダホ「差し当たって、そちらの捕虜収容所にいる深海棲艦を我々の指揮下に入れたいと考えている。そちらにはアルティ様がおられる、きっとお力を貸して頂けるだろう。」

 

柑橘類「―――他に当てはあるのか?」

 

アイダホ「何人か、目星はつけています。時期さえ来れば何とかなるでしょう。」

 

明石「ですが、基地はどうするのですか? 行動基盤がなければ、あなた方も動けない筈です。」

 

アイダホ「その為にも、無人島に居留する許可はぜひとも欲しいのです。」

 

明石「ま、まさかその為に―――。」

 

アイダホ「そうです。」

 

局長「―――モシ“負ケタ”時ハドウスル気ダ?」

 

アイダホ「その時はその時でしょう、モンタナ。行動を起こすのに、後の事を考えはするまい。」

 

局長「―――。」

 

ワール「・・・で? 貴方はどうする気なの? 紀伊提督?」

 

提督「・・・。」

 

彼は少し瞑目し、言った。

 

提督「―――少なくともこの一件、我々の一存で決めかねる所が多過ぎる。差し当たっては今の条項を大本営に伝え、その上でこちらでも折衝してみよう。無論貴官らにも大本営からの交渉の打診があるかもしれん。何事も、準備が欠かせんからな。」ニヤリ

 

アイダホ「では、私達の提案を、支持して下さるのですか?」

 

提督「無論だ、幸いこのマリアナ諸島は防衛上我々の管轄下にある。万が一の場合は、グァムとテニアンをそちらに貸与する事も視野に入れさせて貰う。我々は、貴官らを数年来の友人同様に扱うと約束しよう。無論、我が艦隊の者達にはよく申し伝えるから、安心して貰いたい。」

 

アイダホ「―――やはり、あなたの元に来た事は、私達にとって幸運でした、紀伊提督。」

 

提督「私も、貴官らと共に手を携え、戦いに臨む事が出来るよう、最善を尽くす。宜しくお願いする。」

 

アイダホ「勿体ないお言葉です。こちらこそ、宜しくお願い致します。」

 

こうして、昨日の敵は今日の友として、仇敵同士の友好の握手が交わされるに至った。彼らは共に共通の敵を持ち、その利害関係の一致を以って、和平への糸口を探ろうとしていた。会見は、成功裏に終了したと言っていい。

 

 

11時49分 食堂棟2F廊下

 

提督「今回の会見の内容を、至急文章に起草し大本営に転電してくれ。大至急だ、すまんが頼むぞ。」

 

大淀「いえ、提督のご指示とあれば、食事を遅らせる事くらい!」

 

提督「そうか・・・。」

 

大淀「では、早速失礼します。」

 

提督「うむ、ご苦労様。」

 

大淀が立ち去った後、彼は一足先に大食堂に足を運んだのであった。

 

 

転電された内容は、大本営に再び驚きを齎すのに充分であった。それ程までに、この事は重要だったのだ。

 

 

軍令部第一部

 

「今まで散々我々に対して戦いを挑んで置きながら、今度は我々と手を組むだと!?」

「おまけに拠点にする為の島をくれだと? 余りにも虫が良すぎるではないか!」

「深海棲艦の分際でいい気になりおって!」

「だが、もしここで彼らを味方に引き込めれば、今後の展望も明るくなるな。」

「貴様、奴らの為に一体どれだけの命が失われたと思っている!」

「そうだ、断固討つべし! 奴らの加勢など必要ではない!」

「否、味方になると言うんだ、引き込めれば、我々の負担も減らせる!」

「そうだ、我々の居住に耐えない島の一つや二つ、くれてやればよかろう。」

 

作戦その他を担当する第一部では、若手将校を中心に、和平不要論を沸騰させていたが、一部将校にはそれを否定し、作戦上の有効性を見出した者も少なくなかった。

 

軍令部第二部

 

「これで作戦上の担当官区が縮まれば、かなり融通が利くようになるかもしれん。」

「そうだな、現状物資はただでさえ欠乏しがちだからな・・・。」

「ここはひとつ、亡命艦隊を味方として迎え入れて貰わなければ。」

「しかし、裏切られた時にはどうすれば・・・。」

「その時はその時だ、それまでに体制を整えればいい。」

「そう・・・だな。」

 

補給など後方体制を担当する第二部では容認派や肯定派が大勢を占めていた。

 

この他の部内では大凡肯定と否定が相争うと言った様相で、結論がおいそれと出る様子はなかった。

 

 

一方で大本営の首脳部はと言えば・・・(幹部会はお察しである)

 

~総長室~

 

山本「ふむ・・・。」

 

宇島「驚きましたな、かなり大胆な提案です。」

 

山本「良いのではないかな、早速政府にこの話を持ち掛けよう。」

 

宇島「閣下・・・?」

 

山本「この様な戦争、さっさと止めてしまった方がよい。しかしそれを向こうが望まぬと言うのなら、せめて、終わらせる努力をすべきだ。そうではないか?」

 

宇島「・・・分かりました。早速政府の方にも掛け合いましょう。部内での研究も進めさせます。」

 

山本「そうしてくれ。大本営は、深海との和平の線で統一したい。」

 

宇島「承知しました、部内の統一に全力を挙げます。では。」

 

山本「うむ。」

 

海自軍海上幕僚長を兼務する山本義隆軍令部総長は、深海棲艦との戦争には反対の立場にあるが、何分無効から言かけて来ただけに、その反対の動きは、戦争の早期終結に向けられていた。しかし、それまではその糸口さえなかったものが、漸く見つかったのである。

 

これに飛びつかない山本ではなかった。僅かな可能性にも、賭けてみる価値があると考えた山本の行動が、その後の動きを左右したと言える。海自軍内でも無二の人望と実績を持つ山本の発言力と実行力は、他に並ぶ者がいないのだから・・・。

 

 

一方で、土方海将も同様の反応を示していた。

 

~横鎮本庁・司令長官室~

 

土方「成程、人類との単独講和と共同戦線か。大胆だが、有効でもある。早速これを実施に移すよう、我々も手を打とう。今紀伊君の管轄下にあるグァムとテニアンを、彼らに与えようではないか。あそこはアメリカがマリアナ諸島全域も含め領有を放棄してしまった場所だ、何ら不都合はあるまい。」

 

副官「しかし、中央の裁可が必要です、閣下。」

 

土方「分かっているとも、それも含めて手を打つのだ。急げ! 相手方の気が変わる前にだ!」

 

副官「ハッ! 直ちに!」

 

土方「―――全く。“本官はこの提案を全面的に支持するものである”、か。彼らしい一文だ。」

 

土方の言った一文は、実際には起草した大淀が、彼の言を汲んで添えただけのものであったが、彼の思いを全くこの一文で全て描写した大淀の文才こそ、褒められていい。

 

 

一方で、横鎮近衛艦隊司令部では、代表団が帰った後ひと悶着あった。これは当然の帰結であったが、艦娘が深海棲艦を討つ為の存在と信じる者達にとっては、到底許しがたい事であったのは間違いない。

 

17時26分 中央棟2F・提督執務室

 

その時彼は、艦娘達が陳情願を出して来ていた為提督執務室にいた。だがその陳情書の署名が那智だった事で彼にはその内容が分かっていた為、さして言われた事に驚かなかった。

 

那智「一体どういうつもりだ提督! 深海棲艦などと手を組んでなんになる!!」

 

提督「―――!」

 

彼が驚いたのは、これまでになく強圧だった事である。

 

那智「話は始終聞かせて貰った。わざわざ深海棲艦を招き入れて何事かと思えば、奴らと慣れ合う事が目的だったとは、今回ばかりは失望したぞ!」

 

霞「そうよ! 私達は、あいつらと仲良くなる為にここに居るんじゃないわ、心得違いをしないで欲しいわね!」

 

大井「何故深海棲艦と肩を並べないといけないのかしら? そんな事になったら、そいつらが撃つより早く私が沈めてあげるわ。」

 

木曽「同意見だな。俺達は端から、あいつらの加勢なんざ望んじゃいないんだからよ。」

 

朝潮「私は、司令官の命令ならば、それを全うする所存ではありますが、こればかりは見過ごせません。司令官は間違っておられます! 我々は、深海棲艦を討つ事こそ本懐の筈、それを司令官は踏みにじるおつもりですか!?」

 

霧島「私も、これまで司令官のお言葉には自分なりに納得してきたつもりです。しかし今回は理解に苦しみます。どうか、納得のいく説明をお願いします。」

 

提督「――――。」

 

彼はその野次を黙って聞いていた。

 

那智「そうだ、説明願おう!」

 

木曽「そうだ!」

 

朝潮「司令官!」

 

提督「―――フッ。」

 

帰ってきた回答は言葉ではなく、零れ出た笑い声だった。しかもそれは、どこか冷笑する様な響きさえ伴っている様に、その場にいた面々には感じ取る事が出来た。

 

那智「ッ! 何がおかしい!」

 

提督「いや何、とんだお笑い草だと思ってね。俺は笑いを堪えたつもりが、つい漏れてしまった。」

 

那智「なっ―――!」

 

木曽「・・・どういう意味だ。」

 

提督「お前達一つ聞こうか。お前達は命を賭してでも、深海棲艦を討つと言うのか? 生き残る為に退くのではなく、その上でもか?」

 

その問いに、一同は首を縦に振る。

 

提督「例え―――吹雪の様になってもか?」

 

那智「当然だろう、それが私達の務めだ。私達はただ只管、滅私奉公あるのみ。」

 

提督「成程、至極日本人的な発想だ、真っすぐ過ぎて感激する位な。ならば答えてやろう。俺に言わせればな―――そんなもんクソ食らえだ。」

 

朝潮「―――ッ!!」

 

自らの命を犠牲にする事を厭わない艦娘達に対して叩きつけるに、その言葉は余りに過激であり、且つ直人の持ち合わせている合理的思考を前面に押し立てたものだった。

 

提督「言って置こう。俺はお前達に、“必死の覚悟”など求めてはいない。俺が求めるのは、“七生報国の精神”だけだ。」

 

那智「その考えが甘いと、なぜ分からん! 我々は死を恐れてなどいない、私達はもとより、戦う為の道具に過ぎん。たとえどれだけ消尽し尽くそうとも戦うのが、貴様の役目ではないのか!?」

 

提督「その考えこそ改めるべきだな、那智。」

 

那智「何・・・?」

 

提督「お前達は確かに兵器としての側面はある。だが一方で、お前達は俺と同じ人だ。人と兵器が融合した存在であればこそ、兵器としての側面もさることながら“人としての側面”が意味を持つ事がなぜ分からん?」

 

大井「そんなものいくらでも調達すればいいわ。私達艦娘は、建造によって手早く作り出せる存在なのだから。」

 

提督「その考えが甘いと言っている。」

 

大井「なんですって!?」

 

提督「いいか? 確かに兵器はコストさえ払えば調達出来るだろう。だがそれは、人の手が無ければ動かせまい。そして兵器を扱うには、その兵器を熟知し、理解し尽くし、経験を積んだ者ほど相応しい。その経験を積んだ者を呆気なく死なせたのが二度に渡る世界大戦だ。人命など紙切れのように軽いもんだ。だからこそ大事にするべきものだ。何度も経験を積み、より強くなり、その力で以って仕える事こそ、お前達が取るべき最善の道だと思うがね。」

 

那智「貴様が言っているのはただの理想だ。理想は理想に過ぎん、それが分からないのか?」

 

提督「ならば人類と深海の和平こそ、実現しつつある理想だと思うが?」

 

木曽「そんなもんおとぎ話だ。俺達とあいつらが、分かり合える筈がない。」

 

提督「言い切れるのか?」

 

木曽「勿論。」

 

提督「ワールウィンドや局長がいるのにか?」

 

木曽「フン、捕虜をこき使っているだけだろう。」

 

提督「成程? 木曽は随分と長く俺の麾下にいるが、あの二人をそう見ていたのか。言っとくが俺は局長には何も言ってないぞ? あれは自分の意思で進んで明石に協力してくれているだけだ。それに、明石とよくやってくれているようだし、俺も局長とは親しい仲だ。お互いに腹の内を語り合った事もある、十分分かり合えているとも。」

 

木曽「――――。」

 

提督「俺に言わせりゃぁな、こんな戦争さっさと終わらせちまった方がいい。お互い、余りに長く戦い過ぎたんだ。もう10年以上もこんな事を続けている。とんだ茶番劇(バーレスク)だ、馬鹿馬鹿しくて笑いが止まらんね。」

 

霞「馬鹿馬鹿しいって何よ! 私達の戦いは、この地上で助けを求める人たちを救い出す、“聖戦”なのよ!?」

 

提督「聖戦とは、誰が言ったんだ?」

 

霞「ッ、それは・・・。」

 

提督「薄っぺらいな、聖戦だなんだと言えば片付くと思ったら大間違いだ、戦争に正義も悪もあるものか。戦争ってのは正義を決めるのではない、生き残りを賭けるものだ。ならば自分達が生き残る為の手を尽くすのが当然だし、命を粗末にするなんざ以ての外だ。もちっとまともな論理を持って出直すんだな。」

 

那智「―――貴様もいつか、後悔する日が来る。よく考えるんだな。」

 

提督「おうとも。もとよりこの身は後悔まみれの人生さ。今更後悔の一つ二つ増えた所でどうってことはない。貴様らこそ頭を冷やせ、何なら独房がいいか?」

 

那智「・・・失礼する。行くぞ。」

 

木曽「あ、あぁ。」

 

那智が連れ立った一同を引き連れ執務室を出た。

 

大淀「―――口を挟むなと言われていましたから黙っていましたが、本来ならば文句をつけたくなるところですよ。」

 

提督「そう言うな―――聞いていたな? 川内。」

 

直人がそう言うと、天井の一角にある穴の蓋をどけ、川内が飛び降りてきた。

 

川内「一部始終バッチリ。」

 

提督「大変結構。ボイスレコーダーもばっちしだ。」

 

川内「で? あの子達を見張るのね?」

 

提督「あぁ、人数が多くて大変だろうが、頼む。今この時期に、ああいう武断派に動かれては厄介だからな。」

 

川内「問題発生を未然に防ぐって訳だね。」

 

提督「そうだ、頼むぜ?」

 

川内「任せて♪」

 

そう言うと川内も執務室を立ち去って行った。

 

提督「―――さて、そろそろ夕飯の時間か、行こうか大淀。」

 

大淀「ご相伴させて頂いても宜しいのですか?」

 

提督「おうさ、今日はそう言う気分だ。」

 

大淀「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 

こうして、武断派艦娘の押し問答を躱した直人は、のんびり夕食と洒落込む事にしたのであった。

 

 

が、ひと悶着はこれで終わってはいなかった。

 

18時47分 テニアン南西沖

 

ハチ「ふぅ・・・やっと帰りつきましたね・・・。」

 

イムヤ「“そうねー、帰ったら長期休暇申請を出してあげるわよ。”」

 

ゴーヤ「“全くでち!”」プンスコ

 

まるゆ「“ま、まぁまぁみなさん・・・”」^^;

 

そう、遣独部隊がこのタイミングで帰って来たのである! かなりの大荷物を持っているので戦闘なんて到底無理、これが戦闘なら窮地である。

 

イムヤ「“ん・・・? 待って?”」

 

まるゆ「“どうかしましたか?”」

 

イムヤ「“ちょっと潜望鏡上げるわ。”」

 

ハチ「何かあったの―――これって!」

 

捉えたのはテニアンの西に在泊する亡命深海棲艦隊25万。当然通報した訳だが―――。

 

 

18時50分 中央棟1F・無線室

 

提督「面倒臭い事をしてくれるなあいつらはあああ!!」

 

ハチが送って来たのは、「テニアン西に大多数の深海棲艦見ゆ、指示を乞う。」と言う短い電文。しかしこれを平文で送ったはっちゃんは迂闊だったと言える。

 

大淀「併せてアイダホから、事の照会を求める電文が!」

 

提督「ええい、遣独潜水艦部隊が戻って来ただけだから、直下航行を許可されたしと伝えろ、あとハチ達にはその旨手を出さずその真下を通って戻って来いと伝えるんだ!」

 

大淀「ハッ!」

 

提督「どうしてこうなるんだ・・・内憂を抱えた状態で更にこれかい・・・。」

 

変な所でツキの無い直人である。

 

 

で、仰天するのは当然潜水艦隊である。

 

18時52分 テニアン南西沖

 

ハチ「亡命!? あの数が!?」

 

イムヤ「“しかもその真下を通れですって!?”」

 

まるゆ「“だ、大丈夫でしょうか・・・。”」

 

ゴーヤ「“・・・提督が言うなら大丈夫でち。”」

 

ハチ「ゴーヤ・・・?」

 

ゴーヤ「“ここは突っ切るでち! もう燃料なんてないでちからね!”」

 

イムヤ「“そ、それもそうね・・・。”」

 

ゴーヤ「“ゴーヤ、行くでち!”」

 

ハチ「“そうね、行きましょう!”」

 

ゴーヤの一言で全員意を決して、深海棲艦隊の真下を通る事にしたのであった。同じ頃アイダホにも先の電文が伝わっており、騒ぎは沈静化、爆雷の雨が降ってくる事は無かった。

 

 

19時05分 司令部前埠頭

 

ハチ「遣独潜水艦隊、全艦無事帰投致しました!」

 

提督「ご苦労様、スエズとイタリア経由でのドイツ行き、大変だったろう。」

 

そう、ハチ・ゴーヤ・イムヤ・まるゆの4人は、国連軍の尽力で辛うじて維持されているスエズを経由して、イタリア南部の軍港、シラクーザを経由して、地中海から太平洋へ抜けて、ドイツ・ヴィルヘルムスハーフェン軍港へ滑り込むようにして入港したのである。そこで様々な物資交換を行って、同じルートを戻って来たと言う訳であった。

 

提督「・・・で、まるゆよ。その後ろの“ソレ”は一体なんだ?」

 

まるゆ「あ、これですか?」

 

直人がそう言うのは、まるゆの後ろには、37人のまるゆの“様なモノ”がいたからである。

 

まるゆ「これは、私の分身さんです。」

 

提督「なん―――だとっ・・・!?」

 

ハチ「なんでも、海水に霊力を流し込んで器を作って生み出すんだそうです。ただ、操り人形みたいなものだそうなんですけど。」

 

提督「そ、そうなのか。」

 

まるゆ「でも御心配には及びません! 輸送力は38人力です!」

 

提督「マジデ!?」

 

ゆ1001の実力刮目して見よ! である。その名を持ったのは伊達ではないのだ。

 

イムヤ「そうなのよ~、おかげでドイツの人達が用意してくれた物資を大方持ってこれてね。」

 

提督「そうか・・・そうだったんだな。頑張ったな、まるゆ。」

 

まるゆ「はい! ゆ1001、精一杯頑張りました!」

 

胸を張って言うまるゆ。

 

提督「よし、まるゆに殊勲章を授与する!」

 

まるゆ「えっ! 本当に、頂いてもいいのですか!?」

 

提督「勿論だとも、他の面々も同様だ、長期休暇のおまけつきだぞ! ゆっくり休んでくれたまえ。」

 

まるゆ「あ―――ありがとうございます!」

 

3人「やったぁ!」

 

感極まって言うまるゆと、長期休暇を喜ぶ3人が対照的だったのを、彼はよく覚えていたと言われる。そして、この成功の意義は、後に非常に重要な意味合いを持つようになる。即ち―――ドイツとの連絡成功と言う偉業を成し遂げたのであるから・・・。

 

そしてようやく、長い一日が、終わりを告げた。

 

 

翌日、直人は運ばれてきた品物のリストを大淀に作らせ、同時に造兵廠で組み立てを行わせていた。

 

10月17日7時25分 造兵廠

 

提督「んーと? 今回運んで来たのは・・・」

 

MG34:100丁/弾薬40,000発(※陸戦隊用)

MG151/20 20mm航空機関砲:800丁/弾薬40万発(航空機用)

MG131 13mm航空機関銃:1200丁/弾薬120万発(航空機用)

ダイムラー・ベンツ DB605ディーゼルエンジン:1基(小型艇用)

エリコンFF 20mm連装機銃:1基(艦載用)

電波探知機「メトックス」:1基

他にレーダー1組、爆撃照準器1基他、"2cm Flakvierling38"20mm4連装対空機銃を伊8が装備、総計59品目

 

提督「・・・えっ、機銃多くない?」

 

大淀「これも、まるゆさんの尽力のおかげですね。」

 

提督「それよりこれだけの物資を用意出来た、ドイツの艦娘技術の進歩具合に驚きだよ。装備に関しては問題ないと見える。」

 

大淀「た、確かに・・・。」

 

柑橘類「お、目ぼしい品があるかと思えばマウザー砲じゃねぇか!」

 

提督「お前も見に来てたんかい!」

 

柑橘類「そりゃぁそうだろう、ドイツと言えば機関砲の技術もピカ一だ。」

 

提督「まぁな。」

 

舶来品の山の中から現れたのは柑橘類少佐、因みにマウザー砲とはMG151が独・マウザー社で開発された事に由来する一部界隈でのあだ名で正式なものではない。

 

柑橘類「で、これどうするんだ!?」

 

提督「一部を大本営に送り、残りはうちで使えると思うが―――」

 

柑橘類「・・・。」

 

柑橘類 が 物欲しそうな目でこちらを見ている! ▽

 

提督「・・・善処する。」

 

柑橘類「よっしゃ! 頼むぜ!」

 

提督「おう。」

 

実は、日本陸軍が使用し、柑橘類少佐の使用している四式戦闘機疾風丙型にも搭載されているホ-5は、大元のモデルであるM2ブローニング重機関銃よりも小型軽量な20mm機関砲であると言う代償に、元になったホ-103 12.7mm航空機関銃の特徴の一つである軽量断を使用した事が祟って、弾道特性の悪化や威力の低下を招いている為、相対的に見てそれ程性能がいいとは言い難い。

 

だがそれをMG151/20に換装するなら話は違ってくる。30mm機関砲に加えマウザー機関砲の火力を組み合わせた高火力を発揮できる訳である。

 

柑橘類「楽しみだなァ~。」ウキウキ

 

柄にもなくウキウキしている柑橘類少佐なのであった。

 

提督(空飛ぶ前に浮いてやがるなこいつは。)

 

直人をしてこの言われ様である。

 

 

同じ頃・・・

 

那智「―――司令があのザマな以上、我々でやる他ない、そちらも同志を集めてくれ。」

 

霞「そうね、分かったわ。」

 

那智「ではな。」

 

霞「えぇ・・・。」

 

寮の陰で密談をする二人。

 

川内「―――。」

 

それを遠巻きに盗み聞きをしていた川内である。尾行を付けるように命じた直人の命に沿い、特にマークした二人を尾行していたのだ。

 

 

8時17分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「―――武断派が動きを見せたか。今動かれては厄介だ、直ちに拘束しよう。」

 

川内「手厳しいねぇ。」

 

提督「当たり前だ。今ここで会戦になったらどうなるか、それがあいつらには見えていない。少し頭を冷やして貰おう。大淀。」

 

大淀「直ちに。」

 

川内「それに、折角出来た友好の芽、だもんね。」

 

提督「そうだ。川内、直ちに那智を拘束しろ。霞はそうだな、大淀、頼めるか。」

 

大淀「お任せ下さい。」

 

川内「了解。」

 

金剛「でもいいんデスカー? 艦娘達の中に敵を作る事に―――」

 

提督「構うものか。こう言う時だからこそ、心を鬼にもせねばなるまい。拘束した二人は地下の営倉送りだ、分かるな?」

 

大淀「承知しております。それでは急ぎましょう。」

 

川内「そうだね。」

 

大淀は川内と連れ立って執務室を後にする。

 

提督「―――この戦いを終わらせる為だ、鬼にもなるさ。」

 

金剛「そう・・・デスネ・・・。」

 

武断派の者達には、確かに、直人の言動は馬鹿馬鹿しく聞こえるに違いない。しかし彼は本気で、しかも艦娘達と違い、彼は政治的な事にも関与出来る位置にだっている。だからこそ、彼はあえてこの処罰に踏み切った経緯もある。

 

 

8時24分 艦娘寮一号棟西側渡り廊下

 

艦娘寮は北から見ると横長の長方形で、それが2×2で建設されている。その北から見て手前中央棟側にある一号棟から三号棟に行く渡り廊下で、那智が確保された。

 

那智「放せ! 私が何をしたと言うのだ!」

 

腕を後ろに回された状態で確保されてしまい、那智も逃げるに逃げられない。川内の握力は意外なほど強く、那智も振りほどく事が出来なかった。

 

川内「提督の命令であなたを張ってたのよ、霞との密談、しっかり聞かせて貰ったわ!」

 

那智「何―――!?」

 

川内の一言に那智は観念した。

 

 

8時26分 食堂棟前

 

大淀「8時26分、貴方を命令違反未遂の容疑で拘束します、霞さん。」

 

霞「命令違反ですって!? 私がそんな事をする筈が!」

 

ジタバタもがこうとする霞だったが、そもそも駆逐艦娘と軽巡洋艦娘では力に差があり過ぎた。

 

大淀「亡命艦隊への攻撃を画策している事は調査済みです。」

 

霞「なっ―――!?」

 

大淀「これは提督の御命令ですので。」

 

霞「司令官が、そんな―――!」

 

大淀「では参りましょう。」

 

霞「待って、何処へ―――」

 

大淀「提督はあなた方二人に“頭を冷やして貰う”と仰せになられています。」

 

霞「―――くっ!」

 

あのクズが―――霞は心の中で、その時思い付く最大限の呪詛を、直人に投げつけていた。

 

 

提督「―――期間は3週間です。御足労と思いますが、またお願いします、鳳翔さん。」

 

一方で直人は鳳翔を呼び出し何やら頼み事をしていた。

 

鳳翔「分かりました、提督の思し召しとあらば、喜んで務めさせて頂きます。」

 

提督「ありがとうございます―――。」

 

鳳翔「・・・そんなに申し訳無さそうにしないで下さい。私は、提督のお考えがもっともである事をよく存じておりますから。あの子達が何か悪い事をしたにせよ、せめて食だけは、良い物であって欲しいですからね。」

 

提督「そうですね、そのお言葉で、気持ちがすっきりしました。」

 

鳳翔に頼んだのはお分かりの通り、営倉への配膳である。川内の時はいざ知らず、今回は彼に何か危害が及ぶ恐れがあった訳ではなかった上での処罰によるものだったせいか、何かそれを頼む事に対する気まずさがあったようだ。

 

鳳翔「では、失礼しますね。」

 

提督「あぁ。」

 

鳳翔が執務室を去ると、直人は書類の処理に戻った。金剛はこの時席を外していた。

 

 

3日後―――

 

 

10月20日10時10分 サイパン飛行場

 

 

キィィィィィィィ―――ン

 

 

提督「かような場所に御足労頂きまして、ありがとうございます。ここの責任者をしております、石川と申します。」

 

山本「堅苦しい挨拶は止そう。それより、亡命深海棲艦隊の代表団は?」

 

提督「既に司令部に設けました会見場の方に。」

 

山本「分かった、案内してくれ。」

 

提督「こちらです。」

 

この日、サイパン飛行場に着陸した小型ジェットから降り立ったのは、軍令部総長 山本義隆を代表とする、軍令部主幸の全権使節団である。直人が山本に対し他人行儀を取ったのは、曙計画が極秘事項となっていた事からで、敢えて他人のフリをしたのだ。

 

その面々には土方海将や大迫一佐と言った、横鎮からの面々も顔を見せていた。

 

 

17時27分 中央棟2F・貴賓室

 

提督「いやぁ、御列席の面々が概ね好印象で、安心しました。」

 

土方「いや全くその通りだ、この分だと上手く行くかもしれん。大方の条件に付いて、双方の間に合意が纏まったよ。ただ―――」

 

提督「・・・ただ?」

 

土方「一つ、合意を先送りにした事項がある。」

 

大迫「―――彼らが拠点とする島嶼の範囲だ。」

 

提督「成程・・・ミクロネシアやポリネシアの諸国家の亡命政府と話を付けねばいけませんからね。」

 

土方「一部については政府が解散してしまったものもあるから、それについての折り合いは国連に戦後掛け合う事になるが、要求してきた島々は一部が他国の領有地に抵触している。ここの折り合いをつけねばならん。」

 

提督「果たして、何処まで乗ってきますか・・・。」

 

土方「乗って貰わねばならん。その為にも、ここは我々としても毅然とした態度を示さねばな。」

 

提督「―――まぁ私としては、事を荒立てない様にとだけ、お願いさせて頂きますよ、土方海将。」

 

土方「確かに。我々も穏便に片づけたいものだ。それでは、そろそろ失礼するか。」

 

提督「では、お見送りに行かせて頂きます、何分暇なものでして。」

 

大迫「ほーう? 仕事の早さは相変わらずらしいな。」

 

提督「えぇ、まぁ。」

 

周囲にも認められている彼の事務処理能力の高さである。

 

 

コンコン―――

 

 

提督「どうぞ。」

 

直人がそう言うと、入って来たのはなんと―――

 

山本「いいかね。」

 

提督「―――閣下!」

 

山本「ハッハッハ、そう硬くなるな、突然だからそうなるだろうがね。」

 

提督「そ、そうでした。」

 

土方「総長閣下、そろそろお時間では・・・。」

 

山本「いやね、一度彼の所に顔を見せて置こうと思ったのだ。」

 

提督「恐縮です。」

 

山本「吹雪の件については、お悔やみ申し上げる。だが私としては、これまで同様の活躍を期待したいが・・・。」

 

それを聞いて直人は首肯して見せ、こう言った。

 

提督「大丈夫です、吹雪はどこかで生きています。吹雪の艤装は今、建造時肉体を構築する力を持ちません。」

 

山本「―――恐らくは敵に捕らわれているやもしれん、その時はどうする?」

 

提督「取り戻すまでです。」

 

山本「それを聞いて安心したよ。では土方君、行こうか。」

 

土方「ハッ。」

 

山本海幕長は、土方海将・大迫一佐を連れて貴賓室を出た。

 

提督「まさか来るとは思わなかったな・・・。」

 

大淀「・・・私は、山本閣下と言う方を存じ上げないのですが、どの様な方なのですか?」

 

大淀は、よく知る土方海将を従えている様子の山本海幕長を見て不思議に思ったようだ。

 

提督「現在の海上自衛軍海上幕僚長、土方海将の護衛艦隊司令長官職が昔のGF長官だとしたら、山本海幕長は軍令部総長に相当する、海自軍のトップだ。」

 

大淀「それ程の方が、今の軍令部総長なのですか!?」

 

提督「そうだな、今は兼務と言う形になる。即ち海自軍と艦娘艦隊双方のトップ、と言う訳だ。昔は第一護衛隊群司令や横須賀基地司令などもやってて、土方海将の昇進にも深く関わっている人でもある。」

 

大淀「山本閣下が、土方海将を?」

 

提督「そう、当時麾下に居た士官の一人だった土方海将の才を見出し、護衛隊司令に抜擢したのが最初で、その後も何かと土方海将に目をかけてきた人でもある。」

 

大淀「凄い方なんですね・・・。」

 

提督「あぁ、山本海幕長無くして、土方護衛艦隊長官はなかったとも言われている位だからな。昔から人を見る目は確かだったらしい。故にあの人の元には、多くの有為の人材が集まっている。」

 

大淀「派閥、ですか。」

 

提督「まぁそんなところだろうな。」

 

永納海将と山本海幕長がそれぞれ派閥を持っている事は、内外に言わずと知れた事で、人事面で勢力を競い合っていた事も事実である。しかしどうも山本閥が不利な場合が多く、山本閥はこれまで左程勢力を浸透させていたとは言い難かった。それは、永納派の将官が軍の中枢の大半を占めていたからに他ならない。

 

提督「さて、今日はお歴々を見送って仕事は終わりかな。」

 

大淀「はい、お疲れ様でした。」

 

提督「うん、大淀も、お疲れ様。」

 

直人はそう言って自身も貴賓室を出て、先に出た3人を追う様に飛行場へと向かったのであった。

 

 

10月21日14時23分 サイパン南岸沖合

 

 

ドッドッドッドッ・・・

 

 

提督「久々に乗るなぁコレ。」

 

20m三胴内火艇を操縦しテニアンに向かう直人。万が一にと言う事で、艇首方向には75mm砲が隠蔽式で据えられていた。

 

彼がテニアンに向かっていたのには勿論理由があった。それは、捕虜収容所を管理しているアルティメイトストームに聞きたい事があったからである。

 

 

14時39分 テニアン捕虜収容所埠頭

 

テニアンの捕虜収容所は、かつてテニアン島の戦いで米軍が崩した断崖に埠頭を作って荷役が出来る様になっている。直人はいつもここに乗り付けるのである。

 

提督「出迎えご苦労様。」

 

アラスカ「お越しになると伺っていたので。どうぞ、アルティ様がお待ちです。」

 

提督「あぁ。」

 

直人は出迎えに出てきたアルティの副官である、タ級Flagship『アラスカ』に案内され、島内の捕虜収容所へと向かった。

 

 

14時49分 捕虜収容所管理棟1F・来賓室

 

 

ガチャッ・・・

 

 

アルティ「遅くなってすまないな、少し別件を処理していた。」

 

提督「いや、構わない、突然押しかけてすまんな。」

 

アルティ「何、貴官ならばいつでも歓迎しよう。」

 

提督「そうか。で、早速一つ伺いたい事がある―――」

 

と言いかけるとアルティが言葉を遮った。

 

アルティ「いや、貴官の聞きたい事は分かっている。分かっているつもりだ―――我々の去就について、聞きに来たのだろう?」

 

提督「―――。」

 

直人は自分の聞きたい事を先に言われて肩を竦めた。

 

アルティ「やれやれ、この時期ここに来るとしたら、聞く事はそれだけだろうと思ったよ。分かり易いが、どうして中々、憎めんな、貴官は。」

 

提督「・・・で、これからどうするつもりだ。俺としては、アルティの意見を尊重するつもりだ。率直な腹の内を、お聞かせ願いたい。」

 

アルティ「ふむ、そうだな・・・。」

 

アルティはしばし瞑目し、腕を組み考えを巡らせる。

 

アラスカ(アルティ様は今、何をお考えになっているのだろうか・・・。)

 

アラスカと直人の注目の中、アルティが言葉を発する。

 

アルティ「私は―――」

 

提督「―――。」

 

アルティ「―――私は、北方棲姫様の所に行こうと思う。」

 

提督「―――そうか・・・そうじゃないかと思っていた。」

 

合点がいった、と言う風に直人は言った。

 

アルティ「気に食わないか?」

 

提督「いや、むしろ安心した。貴官は俺に最初に会った時、アラスカにこう言っていたな。―――『ここが、我が一派の寄る辺となるやもしれぬ』と。」

 

アルティ「―――成程、あの一言を零れ聞き、そして記憶していたと言う訳か。」

 

提督「その通りさ。ここに来たのも、もしかしたらそうじゃないかと思って来たのだ。貴官は何をすればいいのかと俺に問うた時、“同族同士で殺し合えと言うのではないだろうな?”と聞いていたのも覚えている。だからどうするのか、聞きに来たのだ。」

 

アルティ「そうだな―――もし私が貴官の意で、強硬派を討てと言ったならば私はノーと言っただろう。だが、こうして穏健派や講和派の同志が起った。ならば私は、その理想を共通する者達に力を貸す責任がある。彼らの同志としてな。」

 

アラスカ「アルティ様・・・。」

 

提督「お考えはよく分かった。手勢として、収容所の者達を伴うといい。」

 

その言葉に、アルティは少し驚いたようだった。

 

アルティ「―――いいのか? 彼らは元々貴官らが捕らえて来た者達で、元々それを預かっていただけに過ぎなかったのだが・・・。」

 

提督「だからこそ、引き連れて貰いたい。彼らを仮にも統率した身だ。それに、今更貴官以外に従属するのも納得せぬだろうし、何より我々の手に余る。」

 

アルティ「・・・分かった、そう言う事ならば引き受けよう。世話になった。」

 

提督「あぁ、こちらこそ、短い間だったが、よくやってくれた。だがこれからも我々は盟友同士だ、共に仲良くやっていきたいものだな。」

 

アルティ「その件は知っている。貴官らも含めた、艦娘艦隊との同盟の件は聞き及んでいる。こちらこそ、宜しくお願いする。」

 

提督「あぁ、共に理想の実現を目指し闘おう。」

 

アルティ「うむ。」

 

直人とアルティメイトストームは、しかと握手を交わす。この数日後、アルティメイトストームは虜囚となっていた深海棲艦、288隻を引き連れて、和平派の同志たちの元へと合流したのであった。

 

 

15時37分 サイパン島技術局

 

直人はテニアン島から取って返し、今度は技術局にいる局長とワールウィンドを訪ねた。

 

ワール「・・・で、何の用よ。」

 

ちょっと虫の居所が悪い様だ。

 

局長「マァマァ。今ココニ来ルトイウ事ハ、ツマリソウイウ事ダロウ?」

 

提督「・・・まぁ、そんなところだな。率直な所を、聞かせて欲しい。」

 

局長「“講和派”ナァ・・・ワタシハ興味ナイナ。ソモソモソンナ争イ自体ニ興味ガ無イ。ユックリトココデコウシテイラレレバワタシハ文句無シダカラナ。」

 

ワール「そうかしら、私はむしろ講和派に協力してあげたい気持ちはあるけど。」

 

局長「ホウ?」

 

提督「意外だな。」

 

如月「そうねぇ。」

 

荒潮「ねー。」

 

ワール「・・・どういう意味よ。」

 

提督「いつからいたんだお前達は。」

 

如月「お気になさらず~。」

 

荒潮「そうそう。」

 

提督「あ、そう・・・。」

 

自由奔放過ぎて頭を抱える直人である。今更だが。

 

ワール「はぁ、まぁいいわ。私は頼まれれば行ってあげるつもりでいるわ。別にいいわよね?」

 

局長「ワタシハソレデ構ワナイガ・・・。」

 

提督「俺もそれについては構わない、君の身の処し方に口を挟む気はないよ。」

 

ワール「あら、意外ね。私の事を手元に置いておきたいかと思ったけど。」

 

提督「仮にそうだとして、俺と戦ってくれるのかい?」

 

ワール「無いわね、私にだってプライドはあるもの。」

 

提督「そうだろう? だから俺は、戦ってくれる選択肢を選ぶ、それだけさ。」

 

ワール「成程ね・・・最初からそうだと分かったから、何も言ってこなかったのね。」

 

提督「ご明察だね。艦娘と深海棲艦の連合艦隊も面白いけど。」

 

ワール「それはそうだけど、私は御免被るわ。」

 

提督「了解した。まぁ用事はそれだけさ、それではね。」

 

局長「ナンダ、ユックリシテイカナイノカ。」

 

提督「俺はもう休みたいのさ、じゃぁの。」

 

局長「ソウカ。」

 

直人は本心から休憩したかったので、さっさと技術局を後にしたのであった。

 

 

ワールウィンドとアルティメイトストームの戦列参加、この報を聞けば、アイダホらは喜ぶに違いないと思った。しかし、彼は敢えて、この事を伝えなかった。伝えずとも、と思ったのは言うまでもない。

 

ワールウィンドが技術局を去ったのは、講和派深海棲艦の決起後の事であった。

 

 

それから数日が経った。その間大本営と日本政府は、関連する各政府との間に交渉の席を持ち、軍民双方からの交渉を行っていた。一方で講和派深海棲艦は、アメリカとの合意を受けたテニアン・グァムへの基地建設を開始しており、横鎮近衛艦隊は周辺海域を哨戒し、怪しい動きをするものがないか警備していた。

 

と言うのも、10月23日付で、深海棲艦の大規模亡命があった事は報道され、それとの同盟の件が進んでいる事が報じられていたからである。当然内外からの反発こそあったが、利を解き続ける事によって民衆からの声は沈静化して行った。しかし領土問題については一部で紛糾していた事は確かである。

 

ただ、艦娘艦隊では反発の声が根強く、マリアナ方面へ兵を進める艦隊が続発し、これを横鎮近衛艦隊が鎮圧に当たっていたのである。これには第一護衛隊群の護衛艦が加わって効を奏していた。しかし、そう言った過激思想の極右派提督に率いられた艦娘艦隊の出撃は相次いでおり、これに直人も手を焼いていた。

 

 

10月26日13時27分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「ええいまたか! 今日既に14回目だぞ!」

思わず席を立った直人に追い打ちをかける言葉が発せられる。

大淀「既に迎撃中とのことです。」

 

提督「しかも戦闘中・・・。」

 さしもの直人もその言葉を聞いてフラフラと今立ち上がった椅子にへたり込んだ。

最初は日に3回だったのが、徐々に回数が増え、いまやこの有様である。艦隊は既に戦時体制同然の多忙さで、これら極右艦娘艦隊の迎撃に当たっていたのだが、とても海自軍の支援なしには迎撃が追い付かない状態で、やむを得ず戦艦1隻を軸に11隻1個梯団の小集団に艦隊を再編して、12個の任務部隊を3交代でローテーションしている状態だった。

 

余談だが、その内1個は一航戦の空母3隻が主軸を担っている。

 

提督「全く、艦娘同士の交戦だから死人が出ないとは言っても、撃ち合いの連続とはな・・・。」

 

大淀「そうですね・・・。」

 

そう、それらの艦隊は演習弾など装填しておらず、対深海棲艦用の実弾を装填している。それも完全装備だから、流血を避ける事は難しいのだが、死人が出ない事だけが、彼にとっては幸いだった。

 

提督「まぁ、彼女達に罪はない。あるとしたらそれは、それを率いる者の資質の問題だ。」

 

大淀「今回の件について、大本営はどの様に対処するのですか?」

 

提督「それについては今日発表がある筈だ。1任務部隊あたり1日3ソーティ(=任務)は確定でこなさねばならないと言うのでは、この先手が足りなくなる。」

 

大淀「成程・・・。」

 

提督「うちでも今なら護衛艦経由でラジオが受信できるだろう。会見は14時からだから、後で聴く事にしよう。」

 

大淀「分かりました。」

 

提督「しっかし・・・人によって、考える事が違うと言うのは、本当だな・・・。」

 

大淀「―――はい。」

 

彼は改めてその事を痛感させられた。事実この瞬間にも、警備艦隊の艦娘も、極右艦娘艦隊も、双方が傷ついているのだから。

 

提督(艦娘達には、本当に辛い事だろうが・・・。)

 

 

遡ること4日前・・・

 

 

10月22日6時57分 食堂棟2F・大会議室

 

霧島「艦娘の造反行動阻止、ですか。」

 

提督「そうだ、目下テニアン・グァムに向けて、大本営の指示に違反して艦隊を出した司令部の部隊が確認されている、これらと深海棲艦との交戦を阻止する。第一護衛隊群の到着は明日になるから、それまでは我々のみで食い止める必要がある。そこで任務部隊を編成し、近海警備を実施する事とする。」

 

榛名「提督、宜しいでしょうか・・・。」

 

提督「うん、どうした?」

 

榛名「その・・・実弾を、使用するのでしょうか?」

 

それは、その場の全員が聞きたい事であろう質問だった。

 

提督「―――言いにくい事だが、恐らくそれら艦娘の受けている指示は、“テニアンの深海棲艦撃滅”だろう、つまり彼らも実弾だ。それに演習弾またはそれに代え得る鎮圧用砲弾では、こちらが撃ち負ける事も考えうる。仕方のない事だが、今回は最悪の場合、実弾で当たって貰いたい。」

 

妙高「つまり、極力鎮圧用の砲弾で対応する、と言う事で宜しいですか?」

 

提督「そうだ。但し、艦隊に危険が及ぶと言う事であれば、実弾の行使を躊躇わないで貰いたい。現場指揮は任務部隊旗艦に一任する。」

 

暁「司令官。」

 

提督「どうした暁。」

 

暁「最初から撃ち合いをする、ってことじゃ、無いわよね?」

 

提督「当然だ、こちらとしても事を荒立てる事は得策じゃないからな、最初は警告のみだ。しかし応じないなら話は別だ、ここだけは履き違えないでくれ。」

 

電「艦娘同士で、戦うのですね・・・。」

 

一同「「・・・。」」

 

思いもよらない事態。直人でさえも、その重い事実には黙り込まざるを得なかった。

 

赤城「―――やりましょう。」

 

重い空気の中声を上げたのは、赤城であった。

 

加賀「赤城さん・・・?」

 

赤城「今ここで、私達がやらなかったら、この海域全体の戦になります。そうなっては、私達の明日は、恐らくないでしょう。今ここで、戦火を起こしてはなりません!」

 

金剛「そ、そうデース、ワタシ達が、今こそやらないと!」

 

提督「そうだな・・・お前達には本当に辛い事だと思う。だが今だからこそ、出動して貰いたい。この事について、皆の理解を求めようと思う。」

 

摩耶「―――あたし達は提督の一の子分だ、そうじゃないのか?」

 

提督「あ、あぁ・・・。」

 

唐突にそう言われ思わずそう答えた直人。

 

摩耶「だったらくよくよ考えず、胸張ってビシッと指揮してくれ! あたし達には、それが必要なんだからよ。」

 

そう言って摩耶は微笑んだ。

 

提督「・・・分かった。そう言う事ならば。」

 

彼は姿勢を正し、艦娘達に向かい毅然と言い放った。

 

提督「―――我が艦隊は大本営からの指令に従い、造反者共の艦隊の海域進入を阻止する! 全艦、出動準備せよ!」

 

一同「「了解!!」」

 

全員が一様に椅子を蹴って立ち上がり、指示に従う。今日、内憂外患の感ある横鎮近衛艦隊も、いざと言う時の団結力は比類なきものがあったのだ。

 

 

~現在~

 

提督(―――全く、味方同士での撃ち合いとはな。しかもそれが、深海棲艦を守る為、と来た。とんだ皮肉だぜこりゃ。)

 

大淀「どうかされましたか?」

 

提督「・・・いや、大丈夫だ。」

 

大淀「随分、お考えに耽っておられる様子でしたが・・・。」

 

提督「―――俺にも、そう言う時はある。」

 

大淀「・・・。」

 

 

14時04分―――

 

山本「“―――艦娘艦隊提督たる諸氏の、熱狂的救国の情熱には深い敬意を表する。しかしながら、今回のサイパン・テニアン方面に対する、艦娘艦隊の独断派遣は、大本営からの指示に対する、重大な造反行動と見做される。よってこれらの行動を指示した提督を解任し、艦隊を解散処分とする。追ってこれら行動をとった艦隊に対しても同様の措置をとるものとする。”」

 

提督「当然だな。それだけの事をしてしまったのさ。」

 

大淀「今後この行動に出た者も対象にすると言う事ですから、やはり、件数も減るでしょう。」

 

提督「こちらとしても幾分楽になるから、何よりだな。」

 

大淀「はい、ですがなお数日は続くでしょう。」

 

提督「その通りだな、その間気が気ではない。金剛には大変だが、今暫くは耐えて貰う他ないな。」

 

大淀「はい・・・。」

 

今回の一件に関して、金剛は陣頭指揮を執って対応に当たっていた。金剛もこの事が重要な任務と分かっていたと言う以上に、彼女自身融和派の一人だった事もあり、積極的に協力を申し出ての事であった。

 

提督「本当に収まればいいがね。」

 

大淀「そうなる事を、祈る他ないと思います。」

 

 

その後、二人の願いも空しく、自由裁量権の大きな艦娘艦隊と言う枠組みを利用した、極右艦娘艦隊の出撃は、散発的ながらも続いたのであったが、それでもピークは過ぎ去っていた。

 

そして、来るべき時が来た。

 

 

2053年10月29日午前10時―――全世界へ向け、亡命深海棲艦隊による声明が発表されたのである。

 

 

「―――全世界の人類諸氏、艦娘諸君、並びに、各地に散らばる我が同胞に告ぐ。」

 

「北方棲姫様は、今の深海の在り方に絶望され、我ら同胞と共に亡命を行われた。」

 

「我々講和派深海棲艦隊は、我々の目的に対する手段としてはもはや不要とも言える、戦争と言う強硬手段を継続せんとする今の深海の方針を、これ以上是認する事は出来ない。」

 

「日本国政府とその軍首脳陣は、北方棲姫様を首班とする我々講和派と同盟を結び、強硬派の一党を断罪する為の協定を結び、人類との間に、我々が基地とし、永住の地となる島々を提供するとの協約を結ぶに至った。」

 

「我々深海の同胞が、これまで不当なまでの長きに渡った戦乱を引き起こし、また継続している事について、私達は詫びなければならない。」

 

「だが人類と我々深海の者達が、全面的な和解の日を見るには、余りにもこの世界の戦乱は大きくなり過ぎた。」

 

「よって我々は、我々なりの正義で以って、深海のやり方を正し、人類との共存の道を選ぶ事を望む。」

 

「そしてその為にこそ、我々は決起し、昨日までの敵と手を携えて、共に未来を得る為にあらゆる手段を行使せねばならない。」

 

「我々がこれまで人類に課して来た、余りにも大きな犠牲と損失に対し、我々は深く陳謝(ちんしゃ)する必要がある。我々はあらゆる手段を以ってこれを謝し、かつ人類との和解の道を選び、正しい世界の発展の在り方を実践する必要に迫られている。」

 

「全世界の我が同胞達よ。我が声、我が意思が届いたならば集え。我らの行く末は、誰かの意思ではなく、自分の意思で決めるべきものである。」

 

「我らの抑圧されし同志達よ集え、深海の未来を救わんと志す者達は、我々と共に深海の変革の為、我が艦隊に参加せよ。」

 

「これは、我々の未来を救う為の、我ら深海の自由意思が決起する“革命”である。」

 

「罪深き強硬派の虐殺者達に、真の正義の在り方を、今一度諭す為に。」

 

「全てはこの星の、輝かしい未来を救済せんが為に!」

 

 

~横鎮近衛艦隊司令部~

 

 

パチパチパチパチ・・・

 

 

提督「全く、アイダホは大した演説家だよ。」パチパチパチ

 

大淀「そうですね・・・。」

 

提督「アイダホは、自分達の意思表明と目的の明示、強硬派に対する宣戦布告を同時に行った。今日と言う日は、歴史にその名が残る一日になる。」

 

大淀「・・・。」

 

提督「―――“革命”か。果たしてその旗の下に、どれだけ集まるものやら。」

 

 

~ベーリング海棲地中心部~

 

ヴォルケン「―――ふざけおって・・・!」

 

リヴァ「ヴォルケン・・・。」

 

ヴォルケン「“革命”だと? 笑わせるな! 人類との共存など我々は望んでなどいない! 野蛮人共を滅ぼし、我々の理想郷を作る事こそ、我らに下された原初の使命に違いないのだ!」

 

リヴァ「・・・。」

 

ヴォルケン「裏切り者共には、いずれ正義の鉄槌を下してくれる、奴らに存在する価値などない! 奴らに正義など無かった事を知らしめてやる!」

 

 

~北極棲地中枢部~

 

フィンブル「生温い・・・人間との共存など。この星に我ら以外の生命など必要ない。心など持ったのが、端から間違いだったな。」

 

 

~ドイツ政府~

 

大統領「深海との同盟とは、中々思い切った手に出たな、ヤーパンは。」

 

首相「はい、しかしこれで、太平洋戦線も少しは持ち直すものかと。」

 

大統領「―――我々は既に、劣勢に立たされている。希望を、あの島国に託そう。」

 

首相「はい・・・。」

 

 

~アメリカ政府~

 

大統領「深海と同盟だと!? 何を考えているのだ日本は!」

 

首席補佐官「恐らく、戦力の不足を、目的を同じくする深海棲艦の一党との同盟により補おうと言うのではないかと思われます。」

 

大統領「成程、リスキーだが大胆な手でもあるな。」

 

首席補佐官「日本は我々に対したのと同じように、オセアニアの国々と交渉し、彼らに一部の島々に対して永住権を与えたようです。」

 

大統領「彼らの欲した利権とも合致する、と言う訳だな。」

 

首席補佐官「左様です、大統領閣下。」

 

大統領「しかし・・・成程、面白くなりそうじゃないかね、君。」

 

首席補佐官「と、言われますと?」

 

大統領「西太平洋の様相だよ。事と次第によっては、ハワイを奪還出来るかも知れんぞ。」

 

首席補佐官「今後も見守っていく、と言う事で宜しいでしょうか?」

 

大統領「それしかあるまい。我々には海軍力が不足しているからな。東西両岸の守りを固めるしか他に策がない。」

 

 

10月30日、早くも講和派の一党に続々と深海棲艦が集結し始めていた。

 

それも徒党を率いてのものが多く、その隻数も100~200から、時には千隻以上に上るものもあったが、それ程大物が現れた事はまだない。

 

これについて直人は、多少の驚きこそ示したが、比較的冷静な評を下したと言う。

 

 

 一方で世界各国のマスメディアはこの衝撃的ニュースを取り上げ、巷では賛否両論相乱れる状況となっていた。

専門家達も大に声を上げ、日夜議論が続けられた。それが、建設的なものであったかそうでなかったかを問わずではあるが、熱っぽく語られた事は、良くも悪くもプラスであった。

 日本でも新聞各紙やテレビ各局がこの大ニュースを取り上げており、戦争終結への糸口となるとの期待を報じていた。ここでも有識者がコメンテーターとして意見を出したり、時には討論番組までもが特別に組まれたりした事から、今回の声明に対する衝撃が大きかった事が伺えよう。

 

 2053年―――それはこの戦争の一大転機となる年となった。深海棲艦による亡命と、亡命深海棲艦の独立勢力成立は、後世の歴史家をしてこの一文がそれを証明する程、衝撃的な出来事であった。

 

『この出来事は、地球の歴史上稀に見る珍事でありながら、それが巧みに組み合わさり、戦争を勝利に導いた、例えるならマヨネーズの様な同盟である。』

 

この事からこの同盟は後世に於いて、「マヨネーズ同盟」と呼ばれる事もある。

 

2053年10月は、こうして、終わっていった。それは、衝撃と激動の状況変化が齎した、混沌とした先の見えない月末であった。しかし、その先に希望が確かに存在した事は事実である。




艦娘ファイルNo.115

長良型軽巡洋艦 鬼怒

装備:14cm単装砲

特異点はない、マジパナイ。(←言いたいだけ)
まぁ元気な軽巡洋艦娘である。


艦娘ファイルNo.116

青葉型軽巡洋艦 衣笠

装備1:20.3cm連装砲
装備2:7.7mm機銃

こちらも特異点は特に無い、姉の青葉に比べるとちょっと特徴に欠ける重巡艦娘。
まぁ、元気なのはいい取り柄ではあるが、はてさて。


艦娘ファイル.117

夕雲型駆逐艦 長波

装備1:12.7cm連装砲D型
装備2:25mm連装機銃
EXアビリティ:名将の采配

3隻目の夕雲型として着任した特異点持ちの駆逐艦娘。
主砲として史実に於いて搭載していたD型砲塔を装備しており、陽炎型などと比べ対空戦闘能力が向上している。
劇中でもその能力を垣間見せたEXアビリティ「名将の采配」は、夜戦時に於いてその効果を発揮するもので、麾下の艦艇を指揮統率する能力が向上するパッシブタイプ。なので総じて夜戦向きの駆逐艦と言える。

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