異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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やぁ皆、天の声だよ。

青葉「どうも皆さん恐縮です、青葉ですぅ!」

もう間もなく春イベ2017という時期ですが、皆さん備蓄状況はどうなっておりますでしょうか。今回のイベントも激戦が予想されます、気合いを入れてまいりましょう。

青葉「そう言うあなたはどうなんですか提督。」

そりゃぁ準備はかなり進んでおりますとも。無課金は無課金なりに頑張るもんですから。

青葉「ならまぁいいですけど・・・。」


今回はなぜ私が「暫時継ぎ足し」という回りくどいやり方で更新しているか、そこら辺の事情について。

この小説がエブリスタから大規模な移植で公開された事は既にご存知の事と思いますが、エブリスタはハーメルンと違いページ区切りです。なので一応システム面から見ても暫時更新というやり方でも通っていた訳です。

が、私の場合その方法をハーメルンで無理やりやっているが為に、実の所読者を増やしづらいという状態に陥ってしまっています。(中々な状況ですが)

ですが私が敢えてこの方法で更新をしているのはただただ、読んで下さる方を毎日退屈させないようにという、エブリスタ出身者流の気づかい(?)です。

もとい、長らくやってきたやり方を変えられない為です。同じやり方で何年も書いてるとどうしてもそのやり方に慣れてしまいおいそれとは変え難いという具合です。勿論読者の方々を毎日退屈させたくないというのも本当です。

因みにこの小説は台本形式で更新させて頂いておりますが、これは単に作者の記憶力の問題ですのでご理解下さい。後で見返した時に誰のセリフか分からなくなる可能性を回避する為と言えばお分かり頂けるでしょうか、伏線回収などの際支障をきたすようでは私が困ってしまうのです。


まぁこんな感じです。

青葉「・・・その気遣い、いります?」

いる、というか読者の事を想うこれも一つの形だと思ってます。媚びを売る訳ではないのだけれど、作者はまず読者に何を届けるのか、どうすれば退屈されないかを考えるものだと勝手に思ってるしな。

青葉「その割にプロットの構想力とか色々ないですよね?」

それは言わないで!!


そ、それでは始めさせて・・・頂く前に、前章でレオンハルト提督を御出演させて頂いたと言う事で、考案して頂いた蒼月 アイン(ハーメルン側:アイン・F・シュヴァルツェンベルク)さん、ありがとうございます。今後も何かと機会あらば出演すると思うので見守って頂けると嬉しいです。


では改めまして第2部最終章、スタートです。


第2部14章~西太平洋に日は昇りて~

2053年6月1日7時11分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

「zzz・・・」

この時、100名を超える部下と1隻の巡洋艦を預かるこの男、未だ夢の中である。

「提督~、起きて下さい。」

それを起こしに来たのは、鈴谷のメカニックも担当する明石である。

提督「んぅぅ~・・・ん・・・zzz・・・」

 

明石「起きて下さい提督、もう司令部に着いてますよ!」

 

提督「んんん・・・あと5分・・・。」

 

明石「何言っちゃってるんですか、今日の執務はどうするんですか!」

 

「―――あぁっ!!」ガバッ

紀伊 直人、ようやくの起床であった。

 

7時31分 中央棟2F・提督執務室

 

大淀「提督、お帰りなさいませ。」

 

提督「あぁ、ただいま。今回も中々きつかったよ。」

 

大淀「そうだったみたいですね、お疲れ様でした。あちらの提督は、どんな方でした?」

 

提督「俺の旧友だった。」

 

大淀「えぇっ!?」

まぁ当然の反応である。

 

提督「執務を始めよう、随分空けてしまったからな。」

 

大淀「あ、はい・・・。」

 

直人がすたすたと執務机に向かうと、大淀はその後に続いて執務机の隣の位置に就く。

 

金剛「おはようございマース!」

 

提督「おはよう金剛!」

 

朝からテンションの高い秘書艦である。

 

提督「って、今日は休みにしてあった筈だが。」

 

金剛「ナノデ、顔だけ見せに来ました!」

 

提督「律儀だねぇ~、いいけど。」

 

という訳でこの日の秘書艦は・・・

 

阿武隈「では、今日一日、務めさせて頂きます!」

 

阿武隈である。

 

提督「阿武隈、いつも以上に固いぞ~。」

 

阿武隈「秘書艦業務は初めてだから緊張してるの~!」アウアウ

 

うん、可愛い。

 

提督「書類作業できるんだよね?」

 

阿武隈「それは勿論!」

 

提督「結構、では始めよう。溜めすぎてエライ事になってるしな。」

 

阿武隈「はい!」

 何気に軽巡が秘書艦をするのは初めてであったりもする。因みにだが、秘書艦はその日の訓練を免除される。なんでって訓練も午前中だからである。

なので割と秘書艦業務に就きたい艦娘は多い・・・かと思いきや、書類業務が出来る人材がそう多くないのだ。その為、競合率はそう高くない。しかし今度は金剛がいる為に、まず志願しても入れては貰えないのである。

つまり金剛以外の艦娘が秘書艦をやるチャンスは、出撃直後その他しか残されていない、という訳である、中々凄いお話ですね。まぁそれはそれで金剛に対する信頼の証でもあったが。

 

 

この日の午後、ドロップ判定が行われた。

 

14時31分 建造棟・判定区画

 

実は建造棟は以前独立していた入渠棟を統合した為施設が大型化しているのだが、建造やドロップ判定に大してスペースを取らない為、かなり狭かったりする。

 

提督「・・・明石、この艤装は――――」

 

直人は判定で出来た艤装の一つを見る。

 

明石「そう、ですね・・・これは。」

 

提督「・・・長かったな、長々と寒い北方海域にいた甲斐があった。」

 

実は幌筵では平然としていたのだが、なんとその実とても寒がっていたのである。

 

提督「“飛龍”の戦列復帰だな、飛龍を呼んでくれ。」

 

明石「はい!」

 

明石はすぐに構内通信回線で管制塔を呼び出すのであった。

 

 

この他新たに着任した艦娘が2名。

 

弥生「初めまして、弥生、着任・・・。あ、気を使わないでくれていい、です・・・。」

 

伊58(ゴーヤ)「こんにちは! 伊五十八です。ゴーヤって呼んでもいいよ! よろしく!」

 

提督「はい、二人ともよろしく。まぁまずは司令部をぐるりと回って貰おうかな、案内役はもうじき来ると思うから。」

 

飛龍「提督!」

 

提督「おっ、来たな?」

 

管制塔から飛龍が駆けつけて来るまでの所要時間:6分弱

 

なんでこんなに早いかというと、この間の輸送船でやっと届いたある移動ツールのおかげだったりもする。

 

飛龍「セグウェイNeoいいですね提督、トンネルをあっという間に抜けちゃえます。」

 そう、セグウェイである。サイパンの飛行場へのトンネルが公道ではないという盲点を突いたのだ。この頃になるとセグウェイもモデルチェンジを重ねて性能と利便性、運用の簡便さ、コストなど、様々な面でグレードが上がっているのだ。

 

提督「土方さ―――土方海将に頼んでおいた甲斐があったな。」

 

飛龍(素が出ましたね?)( ̄∇ ̄;)

 

提督「兎に角飛龍、新人に司令部を案内してやってくれ。復帰するんだから改めて見回った方が良かろう。」

 

飛龍「はい! 航空母艦飛龍、戦列に復帰します!」

 

遂に復活成った二航戦ペア、友永隊を初めとした精強な艦載機部隊も前線に出る事が遂に叶うのだ、これが喜ばしくなくて何であろうか。直人も飛龍も、互いに内心その事を喜んでいたのである。

 

 

その後神通に明日からの訓練について話を通した後、ある艦娘に言われて大事な事に気が付くのである。

 

 

20時11分 食堂棟2F・個室スペース

 

長月「ところで、だ。」

 

提督「ん?」

 

長月「皐月が聞きたい事があるそうなんだ。」

 

提督「ん? 珍しいね。」

 

皐月「そうそう、下では飛龍さん復帰祝いと言ってどんちゃん騒ぎになってるけど――――」

 

そう、実は今一階の食堂はというと・・・

 

 

蒼龍「飛龍復帰ばんざーい!」

 

飛龍「蒼龍、あまり飲み過ぎは――――」

 

隼鷹「今日は祝いだぁ~ヒャッハァー!」

 

飛龍「・・・」( ̄∇ ̄;)

 

 

イムヤ「――――うわぁ・・・綺麗に酒宴に、想像はしてたけどね・・・。」

 

ゴーヤ「賑やかな方がいいでち!」

 

イムヤ「まぁ、そうだけどね・・・?」

 

 

睦月「―――私達は早めに寝るのね。」スタコラ

 

如月「そうね~。」サッサ

 

 

見事に大宴会になっていましたとさ、直人は皐月と長月に言われて静かに食事をしながら話の出来る2階の個室に上がって来たという訳だ。

 

で、皐月の聞きたい事というのが・・・

 

皐月「――――飛龍さんが戦列復帰したら、飛龍さんが出撃してる間のサイパン航空隊の指揮は誰が執るんだい?」

 

提督「・・・あっ。」

 

直人、全く気が付いていなかった。

 

長月「まさか何も考えてなかったのか?」

 

提督「うぅ・・・不覚にも。」

 

皐月「やれやれ・・・。」

 

肉体年齢的な意味では相当下である皐月に肩を竦められては、彼としても面目が全く立たないのであった。

 

提督「うーん、どうしよう。鳳翔さんは・・・ダメだな、忙し過ぎる。」

 

提督をしてさん付けをさせる鳳翔の貫禄である、それは兎も角としても、直人は極力過重労働をさせないようにしていた為、厨房の監督と訓練を既に掛け持ちしている鳳翔に、航空隊の指揮をさせるという訳にはいかなかったのだ。

 

長月「夕張ではダメなのか?」

 

提督「航空機運用実績がない。」

 

皐月「阿武隈さんは?」

 

提督「夕張もそうだが軽巡だからなぁ・・・。」

 

防備艦隊として居残る面々の中にはどうやら適任がいなさそう・・・と思い至った所へ、皐月が一つ名案を提示した。

 

皐月「うーん・・・あっ、柑橘類隊長は?」

 

長月「成程・・・!」

 

提督「・・・その発想は無かった。」

 

つまり、柑橘類大尉は基本的に、訓練の空中指導教官をしている訳だが、そんな事は他の鳳翔艦戦隊搭乗員でも務まるのだ。それぞれが海外に行けば教官クラスと謳われた海軍航空隊の練度をそのまま体現したような、精鋭部隊なのだから。

 

 

この後、柑橘類大尉を探し出した直人は提督権限で無理矢理航空隊の指揮を押し付けたのであった、中々えげつない事をする男である。但し直人に言わせれば――――

 

 

提督「今までただでさえのんびり旨い飯食ってきてんだからそろそろ働いとかんといかんだろう。」

 

柑橘類「いや、結構最初の頃とか迎撃戦――――」

 

提督「長期間前線で戦ってから出直せぃ。」

 

柑橘類「」( ˘•ω•˘ )

 

意訳:今まで鳳翔戦闘機隊長という立場に座って散々南国暮らし満喫したんだからそろそろ働け。

 

柑橘類「はぁ・・・了解した、地獄に墜ちろ提督。」

 

提督「フン、お前に言われんでも提督なんだから端から地獄行きじゃい。」

 

因みに迎撃戦で活躍したと言っても、サイパンに来てからは超兵器空母アルウスによる2回目のサイパン空爆の時だけである。遊んでいた、と言われても文句を挟める立場ではないのを直人は利用しちゃったのである、本当にえげつない。

 

 

6月3日、執務中の直人の下に明石がやってきてこう告げた。

 

9時13分 中央棟2F・提督執務室

 

明石「防酸対策案が纏まりました!」

 

これは明石に以前依頼していた件で、色々と裏で研究していたのである。

 

提督「ほほう? 概要は?」

 

明石「難しい事ではありません、全艦の艤装表面に隙間なくカーボンコーティングを施します。」

 

提督「カーボン? そんなもので希硫酸に匹敵する強酸を防げるのか?」

 この時代カーボンは珍しい素材ではない。軽量化が必要な場合などに軽くて丈夫でしかもコストが安いと来ているので、むしろ直人はそれで首を傾げたのである。

 

明石「炭素は希硫酸とは反応しません、実地でやってみないと分かりませんが、希硫酸の酷似した成分が含有される海水と言う事ですから、十分に無力化が可能です。熱濃硫酸である場合は腐食は防げませんし、剥がれない事が前提ですので、脚部艤装への被弾は避けなくてはなりません。」

 熱濃硫酸とは、濃硫酸を290度まで加熱したもので、酸化剤として用いられる事が多く、銀なども溶解させる程酸化力が高い。

が、海水温がそれほどの高温であるという報告がない(その場合そもそも海水の体裁を為さなくなる)為、そのリスクは考慮しなくてもよさそうである。

「しかし已むを得んだろうな、全艤装をまさか白金との複合構造に直ちにする訳には行くまい。」

 白金も硫酸とは反応しない。しかしコストが高く、単純に鋼材に混ぜる訳にもいかない上に、直人の言う方法を取るにも数が余りにも多過ぎたのである。

 

明石「鋼材からの置換で製造出来ない事もありませんが・・・。」

 

提督「そうだな・・・」(俺が作れる事は例によって黙っておこう。)

誰も知らない知られちゃいけない。

 

明石「それと足の防護については、一部の艤装はくるぶし程度までなら掩蔽出来ていますが、大半はひざ下までカバー出来ていません。

ソックスでは当然ながら不足する為、全面にカーボンコーティングを施し、その下に10mmのプラチナで被膜したVC鋼板を使用した鎧型の掩蔽材を製造します。」

 明石が挙げたVC鋼とは、戦艦三笠で使用されたKC鋼(クルップ鋼)を発展させた合金で、鉄に炭素・ニッケル・クロム等を添加した合金に浸炭処理を伴う焼入れをする事で表面のみを硬化させ、内側と外側の硬さに差を持たせる事により耐摩耗性と靭性(端的に言えば破壊耐性)を両立させた、戦艦用装甲板に使われる鋼鉄の一つである。

 KC鋼との差は、ニッケル・クロムと言った添加物の割合を増した事である。但し非常にコストがかさむ為代用可能な合金の開発が進んだ。

 

提督「・・・製造コストは?」

 

明石「駆逐艦用を例に取りますと、妖精達のチタンへの鋼材の置換分を含め、1隻当たり鋼材5000は必要かと。」

 この時期の横鎮近衛艦隊司令部にそんな量の鋼材は到底ない、全艦に措置するのは不可能である。

 

提督「VC鋼板の量産は可能なのか?」

 

明石「艦娘に使用される鋼材は基本的に元々の形態がNVNC鋼(VC鋼の焼入れと浸炭処理を両方省いたもの)に近いので、これに焼入れと浸炭処理を行えば。」

 

提督「短期にやれるのか?」

 これは先程も述べた通り、VC鋼は当時、非常に製造コストと時間がかかる事であまり好まれていなかった為の質問である。

 

明石「浸炭焼入れから焼き戻しまでを連続的に行う連続炉が造兵廠にあります。鈴谷にもそれを使ってVC鋼を供給し舷側装甲を形成していますから、いつでもやれます。」

 これは現代のファクトリーオートメーションの産物である。今の時代量産品の製造は大体機械的に自動化されているから、この程度の合金ならば量産は容易い。

 

提督「――――分かった、プラチナ調達は俺が責任を持つ、調達するから、それで頼む。」

 

明石「わ、分かりました・・・。」(ど、どういう・・・)

直人は明石の提案を承認すると共に、一つ意を決して行う事が出来たと思った。

 

 

13時43分 鋼材庫

 

コツッコツッコツッコツッ・・・

 

提督「――――。」

 

直人は鋼材倉庫にやってきた。

 

提督(現在の鋼材の在庫は約29000、全艦に施そうとすると駆逐艦向けでも5隻だけだ、となれば、その負担を軽減する以外に手段はない。)

 VC鋼板は前述の通り非常に高価で、その上プラチナ被膜と炭素メッキ処理と来ては、5000という鋼材消費も納得がいった。

 

提督(―――誰もいない、な?)

 

人払いの魔術をかけているとはいえ気になるようだ。

 

提督(――――我が剣(つるぎ)を生み出だしたる里よ、我が身を彼の地に帰らせたまえ。“果て無き白金宮(エターナル・プラチナム)”!)

 直人の周囲に魔力が渦巻き風が起きる、次の瞬間、直人がいた場所は薄暗い鋼材の山の中ではなく、プラチナの輝きをまばゆく放つ工房であった。

 

提督「・・・さて、白金のインゴット(延べ棒)を量産しときますか。」

 結界魔術『果て無き白金宮』は、外界との遮断・人払いの効果を外界に及ぼし、内側に直人が高度に錬金術を行使する為に必要な“工房”を構築する結界を生み出す魔術である。内部は直人が錬金を行うに当たり必要な多数の因子が充満しており、現実の世界では中々厄介な因子が無いという問題にぶち当たる事もない。

 本来であれば結界魔術は自己防御用途が一般だが、この果て無き白金宮はその中でも珍しいタイプと言えた。

 

十数分後、何食わぬ顔で鋼材庫から出てきた直人でありました。

 

 

15時22分 鋼材庫

 

明石「さて鋼材在庫を・・・おおおおおおっ!?」

 

やってきた明石は鋼材庫に大量のプラチナインゴットを発見するのであった、その総重量驚異の50トン以上に上っていたのであった―――。

 

明石「一体誰が、どうやって―――」

 

 

提督「“調達は俺が責任を持つ”―――」

 

 

明石「・・・まぁ、いいでしょう。」

 

明石は考えるのをやめ、造兵廠にプラチナと鋼材を運び始めるのであった。

 

 

一方で既存艦艇の戦力強化も同時に進んでおり、特にこの時期は躍進の時期でもあった。

 

6月5日10時37分 開発棟・艤装改造区画

 

開発棟はサイパン移転の際建造棟の裏に連絡用通路を介する形で移設され、更に入渠棟との統合による建造区画の縮小に伴って艤装改造設備が移転しているのだ。

 

提督「おぉ、来たか。」

 

大井改二「えぇ! ありがとうございます、提督。」

 

北上改二「うん、中々いい感じだよ~、ありがとね?」

 

五十鈴改二「これで、また一つ強くなれたわ! ありがとう!」

 

そう、遂に自前の改二改装が行われたのだ。先陣を切ったのがこの三人、先制雷撃で大戦果を挙げ続けた大井と北上は、魚雷を5連装酸素魚雷に換装し、驚異の片舷25門雷撃を実現した。

 

そして直人が訓練の際陰で力を入れさせていた五十鈴も、様々な海戦に参加した事により改二改装に必要なデータが揃ったのである。

 

大井「でもこの鎧のような新しいパーツは、まだ馴染まない感じがします。」

 

提督「まぁ、慣れてくれ、としか言えないかなぁそれは・・・。」

 

北上「そうだね~、敵棲地に突っ込むんだったら必要だしねぇ。」

 

五十鈴「え、どういう事?」

 

北上「その為の装備追加だって聞いたよ?」

 

一応北上も訓練教官であるからその話は聞いていたのだ。

 

五十鈴「そうなの? 提督。」

 

提督「そうだよ?」

 

五十鈴「そうだったの・・・まぁ確かに、脚部艤装溶かしちゃう訳にもいかないものね。」

 

提督「ついでにお前達が溶けて無くなってしまっても困るし、悲しい。」

 

五十鈴「フフッ、相変わらずなんだから。」

 

提督「そう言うお前は随分印象が変わったな? 艤装もそうだが身体的にも。」

 

大井・北上「―――――。」

 

そう、何処がとは言わないが、随分印象が変わった。どこがとは言わないが。(大事なry)

 

五十鈴「へぇ、あなたのような人でもそう言うのに興味があるのね、やっぱり男って事かしら?」

 

提督「一体どんな風に見られてんだか・・・まぁいいや。」

 

直人だって男なのである。

 

 

この他この時改装された艦は非常に多い。そのリストが以下の通り

 

比叡 無印⇒改 21号対空電探を追加

伊勢 無印⇒改 瑞雲(634空)を追加

日向 無印⇒改 瑞雲(634空)を追加

赤城 無印⇒改 二式艦偵を追加

加賀 無印⇒改 二式艦偵を追加 搭載機種を赤城と平均化

龍驤 無印⇒改 六二型爆戦を追加

隼鷹 無印⇒改 二式艦偵を追加

古鷹 無印⇒改 22号対水上電探を追加

高雄 無印⇒改 22号対水上電探を追加

愛宕 無印⇒改 22号対水上電探を追加

長良 無印⇒改 13号対空電探を追加

那珂 無印⇒改 22号対水上電探を追加

長月 無印⇒改 13号対空電探を追加

初雪 無印⇒改 13号対空電探を追加

深雪 無印⇒改 22号対水上電探を追加

綾波 無印⇒改 22号対水上電探を追加

潮 無印⇒改 13号対空電探を追加

暁 無印⇒改 22号対水上電探を追加

初春 無印⇒改 22号対水上電探を追加

子日 無印⇒改 22号対水上電探を追加

五月雨 無印⇒改 94式水中聴音機を追加

伊168 無印⇒改 

 

以上21隻が今回改になった艦娘である。この頃になると全体的に練度は向上傾向を示していた事が、これだけの改装を可能としたのである。但し相応に鋼材を消費したものの、それと同時に艦載機の段階調整や耐腐食防護部材の新調等を行っている為納得のいく消費であった。

 

が、その追加装備に難渋を示す艦娘もいるにはいた。

 

 

龍驤改「あんまりもっさいのは好きやないんやけどなぁ~・・・。」

 

提督「まぁまぁそう言わず、これも敵棲地突入の際には必要になるんだから。」

 

そう龍驤である。余りかさばるのは嫌のようだ。

 

龍驤「まぁキミが言うならええねんけど・・・もうちょっと何とかならんかったんか?」

 

提督「足を化学やけどとかから防ぐにはやっぱり全面防御するしか他に手もないしねぇ。それに装甲も兼ねてるし艦娘機関の出力にも多少調整は入れてあるから、今まで通り動けると思うけど。」

 

龍驤「そうやねんなぁ、今までとそんなに動き易さは変わってへんのや。まぁなんにせよ、受け取っとくわ、ありがとな!」

 

提督「良いって事よ。」

 

まぁ、いいコミュニケーションが取れている事は良い事であるが。

 

 

6月7日5時12分 サイパン飛行場管制塔

 

柑橘類「ヤロ~、とんでもねー仕事を押し付けやがって・・・」

 

と言いながらこの1週間近い間に妖精達から幕僚メンバーを選出し仕事にも慣れてきた柑橘類少佐。(着任と同時に昇進である。)

 

柑橘類「全く・・・ん?」

 

ふとレーダースクリーンを覗き込んだ柑橘類少佐、普段と少し違って見えた事に気付く。

 

柑橘類「―――これは、空襲警報発令、サイレン鳴らせ! スクランブル機緊急発進、俺も出るぞ!!」

 

そう言って柑橘類少佐は管制塔を飛び出した。出撃した時の代行管制官もいるので安心である。

 

 

パランパンパンパンパン・・・バラララララララララ・・・

 

 

エプロンや駐機場では次々と発動機を稼働させる整備員妖精達の姿があった。

 

管制塔直下の駐機場には、提督諸氏には余り見慣れないであろう戦闘機が1機駐機されていた。

 

柑橘類「全く、“一型丙”調達しろとは言ったけどよ、ホントにやってくれるとは、どこから手に入れやがった?」

 

そう言って柑橘類少佐が乗り込んだ機体は、このサイパン飛行場にもいる四式戦闘機『疾風』である。しかしその武装は20mmに留まらない強力なもの、30mm×2+20mm×2なのである。

 

『四式戦闘機一型丙 試作機』 それが、彼の基地航空隊に於ける機体の名であった。

 

試作機なだけあってその造りは仕上げまで非常に丁寧であり、稼働率はほぼ90%を保証されていると言って過言はない。

 

柑橘類「いくぞ、俺が陣頭指揮を執る、ついてこい!」

 

柑橘類少佐はスクランブル機を率いて真っ先に飛び立っていったのであった。

 

 

5時24分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「なんだなんだ何事だ!」

 

空襲警報のサイレンで叩き起こされた直人は慌てて執務室にやってきた。と言っても廊下の端と端なので余り足取りに急ぐ感じはないものの、内心は相当混乱していた。

 

大淀「あっ、提督!」

 

金剛「御入室ネー。」

 

提督「おうお前達、一体何事だ?」

 

大淀「敵の空襲です、規模は小さいですが、柑橘類少佐が自らスクランブル機と迎撃の紫電及び四式戦を率い出撃しました。」

 

提督「敵の機数は?」

 

大淀「管制レーダーにはおよそ80ほど映ったそうです。」

 

金剛「迎撃機は65機デス。」

 

提督「随分自信たっぷりらしいな、んで後詰めは?」

 

大淀「零戦六四型が36機です。」

 

提督「分かった、承認する。」

 

ワール「“こちら技術局!”」

 

インカムからワールウィンドが連絡を入れてきた。

 

提督「どうしたワール。」

 

ワール「“吹雪が出撃したわよ!?”」

 

提督「なんだと!?」

 

大淀・金剛「!!」

 

直人にとって完全な、寝耳に水の事態であった。当然直人は今来たばかりで対応策さえ協議していない。

 

提督「すぐに連れ戻させろ! 第六駆逐隊に緊急出動!!」

 

龍驤「“待ち! うちが今すぐ行けるで!”」

 

提督「なに!?」

 

インカムにはいってきた龍驤の声に直人は更に驚いた。

 

龍驤「“赤城の艤装借りるで!!”」

 

提督「こんな時に何を言っているんだ!?」

 

龍驤「“まぁ見とき!”」

 

そう言う龍驤の声は、インカム越しにも拘らず自信あり気なその様子に、直人も断を下す。

 

提督「・・・分かった、第六駆逐隊に続航させる、気を付けろよ!」

 

龍驤「“心配性やなぁ~、分かったで! 空母龍驤、出撃や!!”」

 

そう言って龍驤はインカムを切った。

 

提督「はぁ~・・・一体何が何やら・・・。」

 

寝起きでまだ頭はフル回転していない直人、困惑するのは当然だったのかもしれない。

 

ワール「“龍驤、普通に出撃して行ったわ。”」

 

提督「装備は?」

 

ワール「“恐らく赤城のものね。”」

 

提督「・・・そうか・・・。」

 

内心驚く直人だったがそれどころではない。

 

提督「大丈夫なのかこれ。」

 

金剛「ド、ドウデショウ・・・。」

 

提督「はぁ~・・・まぁしょうがない。十駆、十一駆、大至急艤装倉庫からの無許可持ち出し物確認!! 六駆は緊急出撃急げ!!」

 

暁「“了解!”」

 

白雪「“りょ、了解です!”」

 

夕雲「“了解!”」

 

一応だが、艤装倉庫から無断で艤装その他を持ち出す事は禁じられている。如何に緊急時であっても、提督のゴーサインが無くては出撃してはならないのだ。そして今回直人は艦隊を出動させ対空射撃をさせる気は無かった為、直人にとっては予想外の展開なのであった。

 

提督「―――何をぼさっとしている! 大淀は状況の精査! 金剛は吹雪と連絡を試みるんだ急げ!!」

 

金剛「は、はい!!」

 

大淀「了解しました!!」

 

言われて二人も執務室を飛び出す。

 

金剛(提督が声を荒げてまでああ言うのは珍しいデスネ・・・相当焦ってるネ。)

 

金剛には全てお見通しという訳である、いいコンビだね。

 

 

5時26分 司令部正面水域

 

吹雪(私が行かなきゃ、少しでも戦果を残さなきゃ、そうしないと、司令官のお役に立てない!!)

 

吹雪は一人、司令部正面水域を東へひた走っていた。

 

―――吹雪は、ただただ純粋に、“司令官の役に立ちたかった”、それだけなのだ。

 

しかし、その想いは、余りにも重く、強すぎた。この事が、後に重大な事態を招く。

 

 

ブオオオオオーーー・・・ン

 

 

吹雪「赤城さんの・・・艦載・・・機?」

 

吹雪を飛び越したのは、赤城所属の艦載機、3機の彗星一二型であった。

 

 

―――プオオオオオォォォォォォーーーーン

 

 

しかしその機体はその身を翻し、吹雪に対し攻撃機動を取る。

 

吹雪「!?」

 

 

ヒュルルルル・・・ズドオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

急降下して放たれた正確な一弾は、吹雪の至近に水柱を上げる。

 

吹雪「な、なんで・・・!」

 

その思念に突如として通信が割り込む。それは司令部でも限られた者しか知り得ない強制通信回線を使ったものだった。

 

龍驤「“それはキミが重大な『軍規違反』を犯しとるからや。”」

 

吹雪「その声・・・」

 

龍驤「“警告するで、直ちに引き返すんや。警告を無視するようやったら、ただではすまさへんで。”」

 

龍驤は張り詰めた緊張感を持たせた声で吹雪に言った。毅然とした、確かな口調である。

 

吹雪(そんな、折角出撃したのに―――でも、龍驤さんは本気だ・・・。)

 

吹雪の中で二つの事がひしめく。龍驤に従い引き返すか、なにがなんでも司令部東方海域に進出するかの二択を、吹雪は強いられたのである。

 

龍驤「“もっかい言うで、今すぐに、東進を諦め司令部に引き返せ。警告を無視すればその場で『撃沈』する。”」

 

吹雪「―――!!!」

 

撃沈する―――龍驤の言葉に嘘は一切ない。それどころか赤城以下の横鎮近衛艦隊空母艦爆隊は全て、龍驤艦爆隊によって訓練を受けている、言わば全員が急降下爆撃のスペシャリストなのだ。外す事は、あまりない。よしんば運よく避けられたとしても、龍驤は赤城の艤装を借り受けて、直ちに二の矢三の矢を放てるのだ。

 

更に言えば、彗星の爆装量が500㎏爆弾であるところを考えれば、高々駆逐艦程度、それも練度で主力に遠く及ばない吹雪を沈める事は簡易な事である。それこそ粉砕することだって可能なのだ。艤装による身体保護が負の霊力に対してのみ有効なのは、万が一規律を歪める事案が発生した際に、強制的に止める為でもあるのだ。

 

吹雪「・・・分かりました。」

 

吹雪は、諦めざるを得ない事を理解したのであった。

 

 

提督「そうか、引き返したか。」

 

龍驤「“うん、何とか間におうたね。”」

 

提督「あぁ、ご苦労様、下がってくれ。」

 

龍驤「“あいよ!”」

 

直人は龍驤からその報告を受け取った後思ったものである。

 

提督「あいつが他の奴の艤装使えるとは驚いたな・・・。」

 

直人は誰もいない執務室でひとり呟く。

 

白雪「“持ち出されたものが分かりました、吹雪の艤装一式だけです。”」

 

提督「ご苦労だった。」

 

白雪「“はい。”」

 吹雪が持ち出したものは最小限のものに留まっていた様だ。確かにあの短時間で緊急出撃をするのであれば逡巡する暇がないのは事実であったが。

 

提督「その程度の装備で、特型駆逐艦1隻が敵機に対しなにほどの事が出来るというのだ―――。」

 

直人はそう考えていた。

 

 

5時39分 サイパン東方海上

 

柑橘類「そろそろ敵機と会敵する筈だが・・・雲が厚くて見えんな。」

 

迎撃機の内訳は隊長機を含めた疾風35機、紫電改30機で編成されている。雲海の上を飛んでいるのだが、視界に敵機がいない。

 

サイパン飛行場管制

『“迎撃各機へ、レーダーの反応が重なった!!”』

 

柑橘類(上にはいない――――下か!)

 

柑橘類少佐は即座に見抜く。

 

柑橘類「敵機は雲海の下だ、一気に仕掛けるぞ!!」

 

僚機『“頭上敵機!!”』

 

柑橘類「何!? ブレイク!!」

 

柑橘類少佐の無線で一斉に編隊が散開する。直後射線を外した敵機が降り注いできた。幸い、撃墜された味方機は居ないようだった。

 

柑橘類「敵が航空機の姿を模している。性能が高い奴だ、気を付けろ!」

 

『“了解!!”』

 

柑橘類少佐が無線で注意を促す。敵の航空機は、航空機の姿を模したものとそうでないものがある。が、模していないものは色んなものをごた混ぜにしているからなのか、性能が余り宜しくない。

 

翻って以前襲来したB-17やB-24、そしてたった今奇襲を仕掛けた新型は元になった機体を模した姿をしている為、性能がハッキリしている、即ち高い性能が保証されたようなものなのだ。

 

柑橘類「―――“双胴の悪魔”か。いいだろう、返り討ちだ!!」

 

双胴の悪魔――――P-38は、世界を見渡しても最も有名な米・ロッキード社製双発戦闘機である。あの山本五十六連合艦隊司令長官が搭乗した一式陸攻を仕留めた機体として、その名は世界中でよく知られている。

 

“双胴の悪魔”というニックネームは、コックピットのある胴体を中央に、エンジンを積んだ胴体をその左右に挟み込み、主翼で連結するという独特な配置に因む。ダイブ制限速度も非常に高く、一撃離脱で日本航空部隊を大いに苦しめた傑作機であるが、機動性は芳しくないため、日本側では『ペロハチ』(P-38は格闘戦でペロッと落せる事から)などと呼ばれていた。

 

柑橘類「紫電改は爆撃機をやれ、疾風で敵戦闘機を蹴散らすぞ!!」

 

少佐は即座に断を下す。紫電改は対爆撃機専門、眼下の爆撃機を撃ち落とすにはうってつけだ。翻って四式戦闘機は対戦闘機戦闘を専門に作られた戦闘機であるから、十分理に適っている。

 

柑橘類「御巣鷹山へ、こちらテンペスト1、敵戦闘機約30と遭遇、戦闘に入る!!」

 

その報はすぐさま直人の下へと届けられた。

 

 

5時40分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「護衛戦闘機だと!? 馬鹿な!!」

 

それを聞いた直人は驚きを隠さなかった。

 

大淀「一体どうやって・・・。」

 

金剛「新型・・・でしょうカ・・・?」

 

提督「―――双発機か?」

 

直人の勘は漸く冴えてきた。

 

大淀「双発戦闘機でしたら、トラック諸島から直接飛んでくる事は可能ですが・・・。」

 

提督「今まで目撃例は無い、初見参と言う所だろう。」

 

B-29 スーパーフォートレスがいてP-38 ライトニングがいないというのは少しおかしな気もするが、実際問題として実機の形を取った航空機自体あまり例が無いのだ。

(因みに深海版B-29はスーパー“ベア”フォートレスと呼ばれているが、これは存在を確認した時の機体に、ノーズアートとして熊が描かれていた為、区別の為そう呼ばれている。)

 

提督「―――ヤツを信じよう。」

 

大淀「はい。」

 

直人は柑橘類少佐に全てを預けた。それだけの信頼関係が、相互にあった。そう言った事の出来る友を持てた事は、彼にとって幸福な事であったかもしれない。

 

 

程無く紫電改が高度4,500m付近で雲を突き抜け、敵編隊の上に出た。その機影は約50ほど、見慣れない双発機を模っていた。紫電隊の隊長妖精がシャッターを数枚切り、その後突撃を無線で指示した。

 

 

柑橘類少佐の着任以来彼が徹底させたのは、無線の活用である。

 

日本軍は無線機の開発で後れを取っていた。それでも海軍は零戦で戦闘機でも漸く取り付けたのだが、アメリカに比べれば稚拙に過ぎる代物で、搭乗員の大半は“性能を損なう”、“使えないポンコツ”と認識して、故障と称して無線を切ったり、挙句の果てには重量軽減の為に無線を降ろす機体もあったという。この傾向は終戦まで続く。

 

妖精達にもその傾向はやはりあった為、柑橘類少佐は無線機の更新と、その活用で深海機に対抗しようとしていた。

 

 

5時45分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「敵爆撃機も双発だって・・・?」

 

これについても報告は早かった、流石無線の力は偉大である。

 

大淀「爆撃機を迎撃すべく高度を下げた紫電改隊長機からの報告です、写真もあるとのことなので、戻り次第現像させます。」

 

提督「あぁ、頼む。しかし今回は異例尽くしだな、今まで中型爆撃機が来た事も、護衛が付いた事も無かったのに。」

 

大淀「性能テスト、と言う事でしょうか、これは。」

 

これに対し二人の反応はというと―――

 

金剛「テストベッターに選ばれた訳デスネ?」

 

提督「不本意極まるわ! しかし、事実だろう、仕方が無いが全力で阻止する他あるまい。」

 

大淀「そうですね―――対空陣地用意させますか?」

 

提督「そうだな、頼む。」

 

大淀「分かりました。」

 

大淀に防空戦闘指示を出させた直人は、一体何がどうなっているのか、そのからくりを考えてみるのであった。

 

 

―――結局、

 

敵機全てを食い止める事は叶わず、ほんの数機ではあったが上空への侵入を許した。

 

だが必死の対空射撃と防空気球(金属のワイヤーで係留された気球)による低空爆撃進路の設定阻害によって被害は軽微で済んだ。多少森は焼けたもののこの日は湿気も多く対応も早かった為すぐに消えた。

 

敵戦闘機は約50機の内43機までもが撃墜を報告された。その内柑橘類少佐は驚異の6機撃墜を報じるなど、各々に奮戦が目立った。後に照合すると戦闘機の喪失は最終的に27機であり、他に17機が損傷を負ったと言う記録が発見された。これについては単純に数と相性の差であった訳だが、それは置こう。

 

 

敵の空襲の意図は小規模に過ぎた為阻止された。しかし直人にとって問題は二つ残った。一つは双発機による空襲が可能となってしまったと言う事、もう一つは―――

 

 

6時58分 食堂棟2F・大会議室

 

豆知識だが、会議室区画への階段は外側にあって、食堂区画からは出入り出来ない様になっていたりする。

 

吹雪「・・・。」

 

提督「・・・。」(˘•ω•˘ )

 直人は敵を分析する為関係各所から主要人員を招集していたが、その中に無断で飛び出していった駆逐艦、吹雪が含まれていた。

 

金剛(相当険しい顔ネ・・・。)

 直人が険しい顔をするのも無理からぬことだった。

もう一つの問題、それは、“軍規を乱す者が出た”事であった。今まで散々資材庫荒らしをした赤城でさえより良い艦載機を求めての事だった(裏で自供した)し、しかもそれは不法侵入でどちらかと言えば刑法に属するものだから直人の管轄でない、この為特にこれと言って彼の手になる処罰は無かった。

 しかし、艤装無断持ち出しは艦娘艦隊基本法第5編『艦娘艦隊に於いて定める軍規』の第2章「軍規条項」の第1節「軍規概要」第3条に違反している。

この条文には「艤装を運用するにあたり、艦隊に属する艦娘は、如何なる事項事案に於いても、その対応を行うか否かを問わず、軍権者(艦娘に指令を出す司令部の責任者=提督を指す)の許諾無くして、艤装を格納箇所から搬出する事を禁ずる。」と書かれており、これによって艦娘は基本的に提督の許諾無くしては一切の艤装運用を禁止されるという訳である。

 

提督「一応聞いておく、吹雪。」

 

「はい・・・。」

普段の様子からは考えられない程落ち込む吹雪。

 

提督「なぜこんな事をした?」

 

「私は、ただ・・・」

吹雪は言い出しにくいのか、言葉をとぎってしまう。

「私はただ、司令官のお役に、立ちたかっただけです・・・。」

 

提督「それで無断で艤装を持ち出して出撃し、敵編隊の予想コースを遡って行こうとした訳か。」

 

吹雪「は、はい・・・。」

 

「―――はぁ・・・。」

直人は吹雪の言葉に二の句が浮かばなかった。自分の為と言われてしまった以上それは一種当たり前でもあった。

「お前の気持ちは分かる。分かるが何もお前が出ずとも、敵編隊は撃退できた。」

 

吹雪「・・・。」

 

険しい顔を崩さず直人は告げる。

「吹雪よ、お前は俺に許諾無く艤装を持ち出した、この責任は重いものだ。そして同時に監督責任のある俺の責任問題でもある。」

 

「ですが、今回の事態は最悪の場合、第5編2章1節第3条の2に定められた事態になっていたかもしれないんですよ?」

 流石真面目な吹雪はよく覚えている。一応艦娘艦隊基本法第5編は全員座学で習うのである。吹雪の言う第5編2章1節第3条の2は、第3条の例外を記したものだ。

その内容は「第3条の2 第3条に定める条項について、各艦娘が各々所属する司令部が潰滅的危機に見舞われると予測されたる場合、もしくは潰滅的危機にある場合、及び軍権者不在の際に敵の来寇ありし場合に於いては、軍権者の下にある艦娘は各々の判断に基づいて艤装の搬出並びに運用を認める。」と言うもの。

 掻い摘めば、『提督不在時及び司令部に壊滅的打撃が与えられると見做される(打撃を受けつつある)場合は艦娘が独断で艤装を運用しても良い』と言う事だ。

因みにだが、読者諸氏は横鎮近衛のサイパンへの展開直後に、超兵器級深海棲艦ストレインジデルタが3隻来襲した事を覚えているだろうか。

この際横鎮近衛艦隊は独断で出撃したが、これは第3条の2に当たる事案であった為お咎めなしとなっている。また柑橘類少佐の緊急出撃に関しては直人がこれを容認している為問題はない。

「もしこの空襲で敵の到達を阻止できなければ、司令部施設に多大な損害が発生した筈です。」

 

提督「だがそうはならなかった、違うか?」

 

吹雪「そ、それは―――」

 

提督「良いか吹雪、お前は如何なる理由があろうとも、やってはならない事をやってしまったんだ。」

 

「私はまだ提督のお役に立てていません!!」

吹雪が絞り出すようにして叫んだ。

「もし今回の事がやってはならない事だとしたら、私は司令官のお傍にいてはならないと言う事ですか?」

 

「それとこれとは話が違う!!」

今度は直人が叫ぶ番であった。

「吹雪、お前の気持ちに理解が無い訳ではない、出来る事なら俺だって吹雪には活躍を見せて貰いたい。だがそう簡単に片付く事じゃないんだ、戦争と言うものはな!」

 直人だって吹雪の顔は立ててやりたいのだ。しかし直人も以前語った様に、人の戦争と、艦の戦争は別物なのだ。そう容易くこの壁を超える事は出来ない。

 

提督「訓練未了のまま戦場に出したらお前が死ぬかもしれない、そう思ったから前回の出撃の時には残留させたんだ、お前は俺のその気持ちを分かってくれないのか?」

 

吹雪「―――それは・・・。」

 直人の気持ちも吹雪の気持ちも決して嘘ではない。しかしその想いがすれ違ってしまったからこそ、今回の出来事が起こったのだとすれば話は通る。

「提督、その辺に・・・」

見かねた金剛が割って入る。その顔を立てる形で、彼はこの話を終わらせる事にした。

「―――処罰を言い渡す。駆逐艦吹雪を禁錮15日に処す。執行猶予は6時間だ、言う事があれば回っておくんだな。」

 

吹雪「―――。」

 

一同「―――!!」

 

直人は断固たる態度で言い放つ、一同は驚きを隠さない。

 

大淀「提督、お待ちください!」

 

提督「例外などとは認めんぞ、これを例外と認めたら、同じ事が何度も起こってしまう。それだけはなんとしても避けねばならん。軍規は例外を認めないからこそ、強固足りうるのだからな。」

 

金剛「テイトク――――」

 

提督「分かってくれ、俺も本意ではない。だが俺が本意であるか否かは関係ない。」

 

吹雪「・・・分かりました。」

 

提督「こんな事が無ければ、お前も次の出撃メンバーに加えられたんだがな・・・。」

 

直人は呟く様に言った。

 

吹雪「司令官・・・。」

 

提督「大淀、後は頼む。」

 

大淀「―――畏まりました、提督。」

 

大淀は吹雪を連れて会議室を出て行った。

 

提督「・・・はぁ、なんでこうなるんだか。」

 

飛龍「お気持ち、お察しします。」

 

提督「ありがとう・・・切り替えて本題に入ろう、飛龍、資料は出揃っているのかい?」

 

飛龍「はい、ここに現像した写真が全て。」

 直人が主要メンバーを集めたのは他でもない、今回の空襲が異例尽くしだった為に、それを踏まえ今後に向けた判断をしようと言う目的であった。

出撃でない時は基地航空隊の指揮を執っている飛龍が、10枚以上の写真を差し出す。因みに飛龍が寝ている場合は柑橘類少佐に全権がある。

 

提督「ふむ・・・確かに双発機だ・・・。」

 

写真を順に見ながら直人は言った。

 

飛龍「照合した結果、戦闘機はP-38 ライトニング、爆撃機はB-26 マローダーと判明しています。」

 

提督「P-38ならタイプは最低でもF型だ、でなければ行って帰ってこれまいしな。マローダーは納得できるが。」

 P-38『ライトニング』は、アメリカ陸軍戦闘機では群を抜く長い航続力を誇るが、それでも1,000km往復し更に戦闘を行い離着陸を行うなら、少なくとも2,500kmを飛ぶ必要があるのだ。F型であれば3,100kmを飛ぶ事が出来る、不安は無いのは確かだった。

一方のB-26『マローダー』は、4,500kmもの航続距離を持っている為、こちらも楽々とサイパンに到達する事が出来る。

 

提督「しかしとうとう、ここも安全ではなくなったか。双発機の空襲を受けるとはね。」

 

飛龍「これまでは精々重爆が来ただけでした。しかし今後中爆(中型爆撃機)が来るとなると、空襲の頻度は増すかもしれません。」

 

提督「同意見だ。」

 

金剛「どうするネー?」

 

「ふぅむ・・・。」

直人は考え込んでしまった。トラック諸島は今や敵の棲地と化している。それも、グァムより遥かに大規模な一大棲地に。故に、生半可な手は通用しない。

 

明石「棲地に突入しますか?」

 

提督「まだそれ用の装備が充足されていない筈だが?」

 

明石「いえ、提督のご協力のおかげで、まもなく完了します。」

 

提督「・・・。」

 

初春「しかしじゃな、敵の棲地にわらわ達だけで乗り込むとは自殺行為に近いのじゃぞ?」

 

霧島「いえ、我が艦隊の練度ならやれると思います。」

 

金剛「それを過信するのは戴けないネー霧島。」

 

赤城「私達の航空隊があれば、敵棲地撃滅は容易く成し遂げられます!」

 

金剛「それこそ慢心デス、己の力量を信じ、敵の力量を軽んずるのは論外ネ!」

 

初春「わらわ達はまだ戦力が足りておらぬ、仕掛けるのであればその他戦力を糾合してからでも遅くは無かろう。」

 

提督「―――その他戦力?」

 

金剛「ン? どうしたんデース?」

 

直人が一つひらめく。

 

提督「基地航空隊だ!」

 

飛龍「―――!!」

 

初春「何―――?」

 

赤城「そうか―――!」

 

霧島「成程―――。」

 

金剛「―――。」

 

 そう、サイパン航空隊の中には、キ-91 戦略爆撃機や一式陸攻、銀河など、多数の長距離飛行可能な爆撃機が在機している。そのいずれもが、1,000km程度易々超える事が出来る。

 

問題なのは、それに随行出来る戦闘機が無い事であった。サイパン空の零戦は全て六四型であり、航続距離は2,100km強、これでラバウル―ガタルカナルに匹敵する距離を飛べというのだ、無理である。

 

金剛「護衛戦闘機は、どうするネー?」

 

提督「愚問だ、空母から飛ばせばよい。」

 

金剛「―――タイミングが重要デスネ。」

 

提督「そうだ、私の考えは、これ以上の脅威増大の前に、敵棲地を撃滅する事だ―――完全にな。」

 

一同「―――!!!」

 

直人の意思は、トラック棲地の撃滅である。それはかつてグァム棲地を攻撃せよと言われ激昂した事を、自ら執り行う事でもあった。それだけ重大な決断であり、その意思がはっきりと示されたのだ。

 

初春「・・・本気、なのじゃな?」

 

提督「当たり前だ、それにれっきとした名分も立つ。」

 

赤城「と、言いますと?」

 

提督「小澤海将補率いる高雄基地の部隊は、トラック島を奪回した場合速やかに同地へ展開する事になっているんだ。これは設置当時からの規定事項であるから動かし難いという訳だ。よって、我々がトラック棲地を撃滅すれば、戦局に大きな影響を与える事が可能になる訳だ。同時にこれは、内南洋の制海権維持がより楽になる事も示している。」

 

現在のところ、内南洋には敵の潜水艦部隊が僅かながら潜伏していると見られている。これは主要な前進基地足り得るトラック諸島が敵手にある為でもあり、元々防ぎ難い事も要因ではあったが、本来ならばサイパン島で担わなければならない事を見ても、敵潜の跳梁が今後無視出来なくなることは明白であった。

 

提督「我が艦隊は敵の脅威が増大するより先に、トラック棲地を撃破し、高雄基地の漸進を支え、我が基地への負担を軽減し、戦局を一歩でも前進させる為に打って出るのだ。その為にも我々が、その先陣を切るべきだと思う。」

 

金剛「・・・了解したネ、早速検討してみまショー。」

 

初春「金剛、おぬし・・・」

 

金剛「テイトクが決断したのなら、賭けてみるのが私達ネ。」

 

初春「―――そうじゃな。」

 

方針は決した、あとは策を練り、実行するのみ。紀伊直人が打った鬼の一手が、果たして吉と出るか凶と出るかは、ひとえに彼らの実行力に委ねられていると言っても過言ではないのだ。

 

 

その後、作戦立案に費やした時間は実に72時間以上に渡った。主となった論点は敵の陣容とそれに対する対応策であった。

 

敵艦隊の数は総勢で5000を超えると見積もられていた。しかし直人らの下にあったのは、SN作戦前に収集された古いものである為、直人はイムヤの長期に渡る偵察行動から推測し、大凡6000から8000と見積もっていた。

 

漸く、作戦案が纏まったのは、10日11時07分の事であった。

 

 

6月10日11時07分 食堂棟2F・大会議室

 

提督「やっと終わったな。早速実行に移す、早い方がいい。」

 

金剛「了解デース! 全艦隊に出撃準備を―――」

 

提督「待たんかい。」

 

金剛「Watt?」

 

金剛が思わず英語で訊き返した。

 

提督「時計を見よ、まだ昼前だ。下ではもう調理始まってるじゃろ、ダメです。」

 

金剛「オ、OKデース。私とした事が・・・」

 

提督「ハッハッハッハッハ! 誰でもある事さ、気にせんでよいよい。」

 

赤城「では私達はお先に・・・。」

 

提督「おう。」

そう言って二人を残しぞろぞろと出ていく艦娘達。

 

提督「―――金剛よ。」

 

金剛「ん?」

 

「―――勝てるかな。」

直人がそこで初めて不安そうな顔をして言った。

 

「・・・フフッ。」サッ

金剛が少し笑って、それから直人をそっと抱きしめる。

 

提督「ッ―――!」

 

金剛「大丈夫ネー、ワタシ達が付いてるから。ナオトはいつも通り、堂々と構えたら、それで十分ヨ。」

 

「金剛・・・。」

金剛の気持ちを、直人は理解する。

「・・・あぁ。お前に励まされたからには、勝つ事を目指そう。」

 

「それで十分ネ!」

 

「―――ありがとな。」

 

「ノープログレムデス。」

 金剛も金剛で、直人が不安を覚えているのは節々から汲み取っていたのである。故に直人を励まそうとしたのである。方法が思いつかなかっただけとはいえ、傍目で見ればどちらかと言うと慰めているようにしか見えなかったが。

金剛と直人は連れだって大会議室を後にしたのであった。その姿は如何にも仲良さげと言う感じもした。

 

昼食が大方終わったころ、直人は全艦隊に対して大会議室への招集をかけた。その時には直人も昼食を済ませ、重巡鈴谷ではいつでも出られるよう準備が進められていた。

 

 

13時27分 食堂棟2F・大会議室

 

提督「参集ご苦労、ブリーフィングを始める!」

 

摩耶「で、今回は何処へ行くんだ?」

 

提督「まぁそう焦るな。先日空襲があった事は皆も承知している通りだ。その発進基地は恐らくトラック棲地だと言う事も、敵の進路を逆に辿れば自ずと分かる事だ。これに依り、我がサイパン基地は、重大な危機に直面した。敵の恒常的な空襲と言う脅威だ。」

 

摩耶「そんなんでビクビクしてんのかよ。」

 

提督「お前は防空艦だからいいだろうが、そもそも対空射撃の為の専門的訓練もろくにやって無かろうが。出来ないのも事実であるが、膨大な敵機をそれで捌ける訳が無かろう。」

 そう、摩耶は防空巡洋艦だが専用の訓練は受けていない為に、有効な弾幕を張れるとは言えないのだ。

 

提督「司令部への恒常的爆撃は今後の活動にも悪影響を及ぼす。依って、我々はそれに先駆け、トラック棲地を撃滅する!」

 

木曽「ほう?」

 

摩耶「マジか―――」

 

深雪「いいねぇ。」

 

川内「へぇ~?」

 

足柄「良いわね~、いいわ!」

 

加古「相変わらず、やる事が派手だねぇ~。」

 

提督「静かに。」

 

直人が一声でざわつく艦娘達を鎮める。

 

提督「作戦案は既に決まっているし、今回も総力戦で行く。我々が連綿とした連携を発揮できれば、この戦いは十分勝てる。であるから、協力を惜しまないで貰いたい。尤もいつもの事ではあるが、死ぬような真似は絶対に赦さん、相互に支え合い、沈む様な事は絶対に避ける様に。特に今回は敵地のど真ん中に突っ込む訳だから、尚の事だ。」

 

大淀「今回の作戦には近日着任した艦娘の方には外れて貰いますが、飛龍さんには出撃指示が出ています。」

 

飛龍「早速復帰戦かぁ。うん、頑張ります!」

 

飛龍搭載機が前線に戻ってくる事は非常に大きい。その艦攻隊――――友永隊は、唯一無二の精鋭だからである。

 

提督「既に策は定まっている。我々はサイパン出航と同時に針路を137度に取り東進、チューク諸島北方のA点(※1)で針路を176度に転じ、トラック島の北北西100km弱のB点(※2)に到達、ここが艦隊の攻撃開始地点だ。総延長約1,000km、38時間半の予定だ。」

 

※1:北緯8度48分57秒・東経151度28分51秒

※2:北緯8度15分14秒・東経151度31分24秒

 

大淀「B点までに至る航路上で、3回の航空攻撃を実施します。そのうち2回を艦上機部隊で、1回を基地航空隊で実施します。第一波は基地航空隊により行い、攻撃当日早暁を期します。護衛機は一航艦から抽出し、他の母艦は第一次攻撃隊の準備を行います。」

 

蒼龍「その後は一航艦以外で第一次攻撃隊、一航艦で第二次攻撃隊を編成するって事ね、目標はどうするの?」

 

提督「良い質問だ。空母第一次攻撃隊は、敵地上施設を徹底的に叩く。新たに投入したゴーヤの航空偵察によって、敵施設の殆ど全てが春島および夏島にある事が確認出来ているから、二航戦及び六航戦には、全力でこれを叩いて貰う。これを以って敵に我が機動部隊の存在を認知させ、環礁内から叩き出す事が目的だ。」

 

大淀「そう言われてみますと、ゴーヤさんとイムヤさんの姿が見えませんね・・・てっきりいるものかと・・・。」

 

提督「残念、2日前に出撃させた。」( ̄ー ̄)ニヤリ

 

大淀「さ、流石お手回しがお早うございますね・・・。」

迅速果断なのは直人のいいところである。が、周りに伏せるのが悪い所である。

 

提督「母艦第二次攻撃隊は、環礁内から叩き出した敵艦隊に第一撃を加えることが目的だ。二度に渡る母艦搭載機の攻撃時は確実に強襲になる。相当の被害が予想されるが、覚悟の上で臨んでもらいたい。」

 

赤城「お任せ下さい、必ずや敵に傷を負わせて御覧に入れましょう。」

 

提督「うむ。更に航空攻撃の後、敵艦隊針路正面に事前展開した潜水艦により漸減攻撃を行い、敵の傷を広げる。立て続けざまに雷巡による遠距離雷撃を実行、敵が回避運動に入る所を見計らい、大和及び金剛を先頭に突撃を図る。」

 

大和「お任せ下さい、必ずや敵を仕留めて御覧に入れます。」

 

提督「気合入ってんのはいいが肩の力は抜いて行けよ?」

 

大和「はい。」

 

提督「敵艦隊を撃滅した後、我々はトラック環礁の北西側の各水道から侵入し、夏島及び春島に艦砲射撃を行う。恐らく敵の泊地姫級がどちらかにいる筈だから、それを叩く。」

 

ここで質問を投げかけた艦娘がいた。

 

陸奥「今回の敵に超兵器はいるの?」

 

それは陸奥で、しかも真っ当な問いでもあった。

 

提督「あぁ、いる。超兵器空母アルウスだ。」

 

陸奥「アルウス・・・あの超高速で知られた超兵器空母ね。」

 

アルウスの最大速力は60ノット、しかも並の戦艦を超える18インチ(45.7cm)砲を砲塔で備えるという文字通りの空母の化物、肩書は『超巨大高速空母』である。その名に恥じない相手だ。

 

提督「60ノットで突っ走る相手だ、生半可な針路予測は通用しないと思え。」

 

金剛「お任せデース!」

 

提督「そういや金剛は撃った事があるんだっけ。」

 

金剛「レイテの時デスネ。」

 

実はレイテ沖海戦に参戦した栗田艦隊、サマール沖海戦終盤にハルゼーの命で急遽南下したアルウスと砲撃戦を交え、その結果筑摩が沈没、鈴谷大破、大和中破など損害を出したが、この怪物を仕留めた実績があるのだ。

 

提督「よぉし、大和もそうだが、お前達、舞台は整えられるよう努める、しっかり暴れて来てくれ。」

 

第一艦隊・一水打群一同「「「はいっ!!」」」

 

提督「赤城、今回の戦い、お前達が如何に戦果を出せるかが鍵だ、艦載機隊並びに麾下艦艇の奮戦に期待する。」

 

一航艦一同「「「はいっ!!」」」

 

提督「よぉし! トラック島の陸上型に、大量の砲弾を降らせてやるぞ!!」

 

艦娘達「「「おおぉぉぉーーーっ!!」」」

 

提督「全艦出動準備、鈴谷への乗船を開始せよ! 行くぞォ――――!!」

 

 

こうして横鎮近衛艦隊は、出撃に向けた準備を加速させていく。彼らが向かう先には地獄が待っていた。しかし、それに立ち向かう他に、彼らが向かう道など端からない。通るべき必然に、彼らは今こそ挑む必要があったのである。

 

19時11分に、重巡鈴谷の出撃準備完了が直人に報告され、20時丁度に直人はサイパンを出港させると、予定通り針路を137度に取り、一路トラック島に向け14ノットで航行を開始した。20時05分には、大本営に宛てて無電で、作戦の発令を報告する電文が送付された。

 

曰く

『横鎮近衛艦隊は、昨今のサイパン島並びに、西太平洋における敵の通商破壊戦による被害状況に鑑み、敵の中部太平洋に於ける要衝、トラック棲地の攻略を決行せり―――』

 

上空に夜間にも拘らず柑橘類少佐が出させた零戦隊を従えた、横鎮近衛艦隊、堂々たる行進の始まりであった。

 

 

6月11日9時42分 テニアン東方沖

 

地図上(※Google Earth)に於いては若干斜め気味に下って行く為、現在位置の真東にはテニアン島がある。夜は既に明け、上空には零戦隊がまだいる。これは夜半から交代した第2部隊である。そろそろ第3部隊が現れる頃合いだ。

 

鈴谷後部電探室「“真東に正体不明の反応確認、高度1000、機数3!”」

 

提督「なに? 戦闘機隊は?」

 

明石「今向かいました。」

 

提督「そうか・・・我が方の機体ではないのかな、真東から戦闘機隊が来ることはないし。」

 

 

その答えは10分後に届いた。

 

明石「味方戦闘機隊より、『先程通報ありし機体を視認、深海棲艦の偵察機』です!」

 

副長「――――!?(なんだって!?)」

 

提督「落ち着け。敵味方識別を行え。」

 

その声はあくまでも落ち着き払っていた。

 

明石「提督何を―――」

 

提督「落ち着けと云うておろうが、視認にて敵味方識別を行え、早くするんだ。」

 

明石「は、はい!」

 

 

直人の指示は直ちに接触した零戦に送られた。少し間があって返答が帰ってきた。

 

 

明石「『先に報告せし偵察機は友軍、翼下に通信筒を所持す』です。」

 

提督「やはりな。」

 

直人は予想通りと言う様にそう言った。

 

副官「――――――?(いや、どういうことです?)」

 

提督「あぁ、テニアンにいる深海棲艦の偵察機や少数の艦上機は、翼のフチに黄色い敵味方識別帯を入れてあるから確認が楽なんだよ。同時に地上からの誤射を避ける為に、下面を白一色で塗装してある。」

 

明石「そうでした、では何なのでしょうか・・・。」

 

提督「今報告には通信筒を所持しているとあった、多分激励とかそんなんじゃないかね。」

 

 

暫くして、低空を飛行する深海棲艦機が3機、鈴谷からも見えた。

 

提督「―――2機は戦闘機だな。前上方に座位しているようだ。エスコートを忘れないのは重要だ。」

 

ウィングデッキから双眼鏡でそれを見た直人は、双眼鏡から目を離してから言った。

 

明石「て、提督、もし中身が文章でなく爆弾だったらどうするんです?」

 

提督「・・・その可能性はゼロではないな、念の為艦内に爆発物処理班を準備して置け、但し気取られるなよ。」

 

明石「はい。」

 

流石の直人もアホではない、アルティメイトストームは兎も角他の深海棲艦が事を起こす可能性はあるからだ。この辺りに注意出来る事もやはり重要なのだ。

 

 

テニアンから来た深海水偵は特徴的な形をしている。武装が無く代わりにフロートのような形の物をぶら下げているからである。どうやら単フロート型らしい、と言う事は分かっていた。

 

深海水偵は低空を低速で鈴谷に接近すると、鈴谷の構造物に接触しない範囲で出来るだけ低く飛んで、鈴谷船首楼に通信筒を見事に落下させると、反転して去って行った。妖精達が恐る恐るそれを回収していた。

 

 

~数分後~

 

副長「―――――、―――。(危険物はありませんでした、中にこれが。)」

 

提督「ありがとう、どれどれ・・・」

 

爆発物処理班を自ら率いた副長が1枚の通信文を渡してきた。通信筒とは、無線が使えない場合などに航空機やハトなどに持たせる装備品で、昔で言う矢文と用途は同じだ。今では陳腐化してしまったものの、使おうとして出来ない事はない。

 

提督「――――“貴官の無事帰還を祈る、戦うに当たり、多少の手加減を望む。―――アルティメイトストーム”」

 

明石「やはり、同胞を想う気持ちはあるのですね。」

 

提督「当たり前だ、同族を殺しに行くときにこう言う場でそれをおもんばからない奴がどこにいる。」

 

明石「まぁ―――そうですけど・・・。」

 

深海棲艦にも心があり、心があらばこそ、亡命などと言う様な、心が無ければ出来ない様な事が起こる訳で、こうした手紙を寄越す事も、深海棲艦が人に近い、心を持った生き物である事を証明していたとも言えた。ただ違うのは、彼らが、戦う事に特化している場合が多い事だけである。

 

 

事態が動いたのは、この日の午後であった。

 

6月11日16時12分 重巡鈴谷

 

左舷艦橋見張員

「敵潜望鏡! 左舷前方距離4500!!」

 

提督「何ッ!?」

 

この瞬間彼は、トラック棲地に対する奇襲が不可能になった事を悟った。

 

明石「ど、どうするんです!?」

 

副長「―――――(え、えっと・・・!)」

 

提督「二人して狼狽えるな、全速力で振り切る!」

 

副長「ッ、――!(は、はいっ!!)」

 

直人は全速力でコースを変えず突破する事にした。敵前では潜らざるを得ない潜水艦の最大の欠点は、潜航中の足の遅さであったからだ。

 

提督「針路そのまま最大戦速! 進撃の足を速めるぞ!」

 

最早直人にしてみれば、悠長に潜水艦のいる場所をゆっくり航行する事は出来なかったのである。追尾されても困るのである。

 

提督「灯火管制、一条の光も漏らすな! もうすぐ日が暮れる、光を放射していてはこちらの位置を明かしてしまう。」

 

明石「はい、“全艦灯火管制を為せ!!”」

 

実は小さな光でも意外と遠くまで届くもので、タバコの火でさえ数km先の潜水艦の潜望鏡からでも視認出来る。そしてその視認された方角に、何らかの船がいる訳で、それによって存在を察知された例も少なからずある。艦船における灯火管制とは、かくも重要なのである。

 

 

その後の17時37分、1時間足らずで敵潜を振り切った鈴谷は元の巡航に戻り、敵地に向け行進を続けた。しかし鈴谷のコースと座標は逐一報告されていた事もあり、トラック棲地が座して見ている筈はなかった。

 

 

17時41分 チューク諸島・夏島

 

夏島「サイパン艦隊メ、遂ニ来タカ!!」

 

アルウス「攻撃は明日だな、どうする?」

 

夏島「ソウダナ・・・ヨシ、夜間空襲ダ。中型爆撃機ニヨル反跳爆撃デ奴ラノ母艦ヲ攻撃スル。」

 

反跳爆撃、水面で爆弾を石切の様に跳ねさせ、敵の舷側部を狙う投弾法である。

 

夏島「夜間ナラバ、奴ラノ戦闘機ハ動ケナイ筈ダ。」

 

アルウス「しかし戦果に期待出来るか? 賭けに等しい攻撃だが・・・」

 

夏島「ヤルダケヤッテミナケレバ、言ウダケデハ何ニモナラナイ。」

 

アルウス「・・・そうだな、やれることはやろうか。」

 

 

20時18分 サイパンートラック航路上

 

 

ブロロロロロロロロロロ・・・

 

 

まさかの夜間でも飛んでいる戦闘機隊。

 

提督「・・・あれ、航法出来てるんだからびっくりだよな。」

 

明石「ですね・・・。」

 

柑橘類「“聞こえてるぞー。”」

 

上空にいるのは柑橘類少佐が率いる零戦隊である。流石に四式戦 疾風では長距離長時間の飛行はあまり向いていない為、零戦五二型甲に搭乗して馳せ参じた次第であった。

 

提督「言ってる暇あったら集中せい。」

 

柑橘類「“へーへー。”」

 

相変わらずのやり取りである。

 

提督「電探室、異常ないな?」

 

前部電探室「“洋上に反応なし。”」

 

後部電探室「“空中に不信機影ナシ!”」

 

提督「よし、ではそろそろ寝ようか・・・。」

 

直人がそう言って艦橋を離れようとした、正にその時であった。

 

後部電探室「“お待ち下さい――――!”」

 

提督「?」

 

後部電探室「“右前方接近しある機影あり、機数80以上!”」

 

提督「対空戦闘用意、総員配置につけ! 対空戦闘用意!」

 

柑橘類「“こちら直掩隊、向かう。”」

 

提督「よし、頼む!」

 

この日は見事なまでの晴れ空、月光も差し込んでいる、コンディションは最高だ。しかし波までもが凪いでいる。これは余り宜しいとは言いにくかった。

 

しかし迎撃にも攻撃にも最高のコンディションではあった。時折月光が反射して敵がいる事を示していた。

 

提督「しくじったら今後デコポンと呼んでやるから覚悟して置け!」

 

柑橘類「“夜間だぞ無茶言うな!!”」

 

明石「いや言ってる場合ですか!」

 

提督「それより防水隔壁全閉鎖、弾薬を揚弾しろ急ぐんだ!」

 

明石「は、はい!」

 

副長「“――――!(対空戦闘用意急げ!)”」

 

こんな夜襲でも妖精達はきびきびと行動する。ぞろぞろと現れて防水隔壁を閉鎖し、危険区域から艦娘を誘導し避難させる。高角砲弾や機銃弾を弾薬庫より取り出し、各砲座に分配する。敵機が来るまでの時間は、戦闘機隊がかき乱すとは言っても20分と無い、迅速な作業が必要な時である。

 

後部電探室「“敵編隊、低空より接近しつつあり!”」

 

提督「戦闘機隊! 機種特定できんか!」

 

柑橘類「“夜間飛行中に無茶言うなぁ!!”」

 

提督「言ってる暇あったらやるんだよあくしろよ。」(ニッコリ)

 

柑橘類「“あぁもう!!”」

 

やけっぱちになる柑橘類少佐である。

 

柑橘類「“んー・・・ん? そんなにでかい連中じゃねぇな、双発爆撃機・・・?”」

 

提督「へ・・・双発機? 低空侵入・・・。」

 

柑橘類「“こりゃぁ・・・こないだサイパンに来た連中も混じってるくせぇな。”」

 

提督「B-26もか・・・まさか・・・?」

 

柑橘類「“そのまさかだろうな。”」

 

直人と柑橘類少佐が同時に結論に至っていた。

 

提督「反跳爆撃だ、主砲右前方に指向!!」

 

明石「どうするんです!?」

 

提督「水柱で敵の進路を妨害するのさ。」

 

これは低空を進む敵雷撃機に対する防御法として編み出された方法で、正確には「中口径以上の砲を用い、その着弾時に起こる水柱で敵機を“撃墜”ないし針路を妨害する」対空防御である。

 

反跳爆撃はかなり低い高度で侵入しなければ爆弾が着発してしまう。故に雷撃機より少し高い程度の進入高度で近接してくる。こうなると水柱が進入してくる敵機に届くのだ。

 

提督「対空レーダー射撃用意! やれるな?」

 

後部電探室「“実戦では初めてですが、ベストを尽くします!”」

 

実は鈴谷の改良はずっと続いている、その一つが、レーダーと砲火器の連動機構だ。これによりレーダー統制射撃が可能となる。因みに鈴谷に関しては妖精さん達が発案・研究・開発している為、時間がかかっている労作である。

 

提督「よし、敵先頭集団に照準を追尾、後部主砲は待機。」

 

前檣楼見張り員

「味方戦闘機、突入しました、数機が撃墜されています!!」

 

提督「ほう、早いな。」

 

敵機の方角を見ると早くも数機の中型機が火を噴いて墜落して行く。

 

提督「いや相変わらず練度たけぇな? 流石鳳翔戦闘機隊か。」

 

この時の直掩機は鳳翔から12機、基地から選抜搭乗員から成る30機の合計42機で構成されている。数不足は否めないがこれ以上ないのは言うまでもない。横鎮近衛艦隊最強の戦闘機隊である事も。

 

明石「敵機が流石に多すぎます、一部がすり抜けます!」

 

提督「よし、対空戦闘、諸元最終調整、合図と共に撃て。明石、敵機との距離を報告!」

 

明石「現在彼我距離およそ17000、降下開始しました!」

 

提督「よし!」

 

主砲が接近してくる敵機に照準を付け旋回する。

 

明石「16000、敵機散開、左右に分かれます!」

 

提督「予想通りだ、針路一六八を取れ、後部主砲左舷90度旋回!」

 

副長「――――――、―――――!(針路一六八に変針、後部主砲左舷直角待機!)」

 

提督「さぁ・・・来い!」

 

緊張の分刻が刻まれる。こういう時こそ根競べである。焦って発砲を行えば、効率的な迎撃は困難となる。

 

明石「――――距離12000、敵機両サイドとも針路変えた、突入コース!」

 

提督「もう少し!」

 

明石「――――10500!」

 

提督「全主砲撃ち方始め!!」

 

副長「―――――!(うちーかたー始めぇッ!!)」

 

 

ズドドドドオオオオォォォォーーーーー・・・ン

 

 

貴重な砲弾ではあるが割り切った直人により、敵機突入針路上の水面に放たれる主砲弾。寸刻置いてそれなりの太さの水柱が屹立し、巻き込まれた敵機が墜落した。

 

提督「高角砲、ぼさっとするな撃て!!」

 

直人が即座に叱責しながら命じる。

 

それまで静かであった夜の海は、気付けば戦場だった。夜の闇に炸裂する高角砲弾、屹立する水柱、蛇行する航跡、闇を裂く曳光弾、乱舞する戦闘機、決死の突入を敢行する敵中爆、激しい応酬が両者の間で繰り広げられていた。

 

提督「取り舵60、急げ!!」

 

副長「―――――!!(取り舵60急げ!!)」

 

左舷側から突入してくる敵機に反応して直人が指示を出す。

 

明石「大丈夫なんですかこれェ!?」

 

提督「1発も喰ってないだろ安心しろ!!」

 

(精度が)圧倒的な防御砲火と直人必死の操舵術で、巧みに敵の突入コースを外させる直人。

 

前檣楼見張員

「“右舷正面敵機3機向かってくる!!”」

 

提督「チィッ、次から次へと! 面舵80度!!」

 

副長「―――――!(面舵一杯!!)」

 

懸命な操舵指示により、既に30機以上の攻撃を回避している鈴谷だったが、何度も運に助けられている事は事実。かなり危うい事は言うまでもない。

 

左舷見張員

「“187度、左舷前方から2機向かってくる!!”」

 

後檣楼見張員

「“95度方向から4機接近!”」

 

右舷見張員

「“359度から3機!!”」

 

前檣楼見張員

「“先程回避した3機、290度から接近!!”」

 

提督「囲まれた――――!?」

 

四方から迫る敵機、爆弾槽はその全てが開かれている。爆弾は1000ポンド3発(B-25J)ないし500ポンド4発(A-20G)、距離は既に、4000mを割っている。

 

提督「――――舵取り舵10、両舷一杯! 対空砲精密射撃、機銃撃ち方始め! 前方の敵機に艦首主砲射撃、後方の敵機に後部主砲斉射!!」

 

直人はこれらの指示を直接出した。

 

副長「―――!?(正気ですか!?)」

 

提督「当たり前だ、下手に舵を切れば敵に完全な両舷同時攻撃を許す。ならば直進して相対し、両舷からの攻撃リスクを半減する!」

 

明石「しかし艦首に直撃を食らったら!」

 

提督「分かっとるわい、その為の取り舵だろう。」

 

明石「――――!」

 

直人は針路指示の際「舵取り舵10」と指示している。これは角度ではなく、舵の角度を指示しているのだ。これにより艦は徐々に左にコースを取るようになる。ただその差は僅かである。

 

前檣楼見張員

「正面敵機撃墜1、投弾しました!!」

 

敵機が2機爆弾を投下し、離脱を始めていた。

 

後檣楼見張員

「後方の敵機、4機全機撃墜!!」

 

右舷見張員

「右舷敵機2機撃墜、投弾した!!」

 

左舷見張員

「左舷前方、2機投弾!!」

 

提督「今ッ! 取り舵一杯!!」

 

副長「――――!!(取り舵一杯!!)」

 

予め取り舵が効いている船体は、速やかに左方向に舳先を向けていく。

 

前檣楼見張員

「正面全弾回避!!」

 

右舷見張員

「右舷、直撃コース外れた!」

 

左舷見張員

「左舷方向2発来ます、残りは回避!!」

 

提督「何ッ――――!?」

 

敵弾が来るのは左舷方向、舵を切った方向である為艦首に直撃される可能性がある、最悪のパターンである。

 

明石「そんな――――」

 

副長「――――!!(“操舵何してる!!”)」

 

操舵室「“一杯ですっ!!”」

 

提督(神よ――――!!)

 

 

ザザァッ―――ズドオオォォォォーーー・・・ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左舷見張員

「“1発入水、1発早発、被弾、無し!!”」

 

提督「―――――!!」

 

明石「やったああああ!!」

 

副長「――――!(助かった!)」

 

それは正に、“奇跡”と呼ぶに相応しい偶然だった。広い海では、どうしても穏やかな海面は期待出来ないのが常で、反跳爆撃でも早発や手前で水没する可能性があった。その偶然を引き寄せたのは、運以外の何ものでもなかった筈である。

 

 

そしてそれを境に、敵の空襲はやんだ。その次に攻撃する筈の敵機は既に、柑橘類少佐の戦闘機隊によって殲滅されていたのだ。この様な事が可能だったのには一つ理由があり、直人が7000m以遠の対空射撃を禁じていた事が挙げられる。これ故に柑橘類隊は鈴谷を遠巻きに攻撃順を待つ敵機を片っ端から撃墜したのである。

 

 

提督「終わった、か・・・聴音室、海中状況知らせ!」

 

聴音員「“敵潜と思しき推進音複数、感1から3。”」

 

提督「恐らく戦況を見守る傍ら攻撃の機会を窺っているな、方位分かるか?」

 

聴音員「“少なくとも我々の本来のルートを妨げる位置取りではありません、周辺から急行して来たものかと。”」

 

その報告を受け直人は予定通りのルートに復した後、全速力でその場を離れる事を決し、戦闘配備を解いた。この時の彼らは爆雷を装備していない為、潜水艦の襲撃には無力であった。

 

柑橘類「“こっちは交代で戻るわ、もう弾もないし燃料もギリギリだからな。”」

 

提督「すまんな、手間かけた。」

 

柑橘類「“全くだ、とんだ無茶を押し付けやがっていっつもいっつも・・・。”」

 

提督「お前が言うな。」

 

柑橘類「“フン――――じゃぁな、次は帰りの便だな。”」

 

柑橘類少佐率いる零戦隊は、42機いた機数を5機減じ、37機となって帰路についた。夜空に消えた零戦隊と正反対に、重巡鈴谷は波を蹴立てて、敵地に向け驀進するのであった。

 

 

この時現れた敵機はA-20G型深海攻撃機43機と、B-25J型深海爆撃機31機の74機、内柑橘類隊の撃墜37、重巡鈴谷の撃墜19で、両者合わせ50機以上を撃墜したもののあの有様である。これは艦艇が空からの攻撃に弱い証左であり、直人の直感と閃きからなる巧みな操艦無くしては、鈴谷が無傷でいられなかった事は否めないのだった。

 

 

6月12日6時41分 チューク諸島――――

 

 

グオオオオオオオオオーーーーー・・・ン

 

 

ウゥ~~~~~~~~~・・・ッ

 

 

夏島「敵大型機ノ空襲ダト!? レーダーハ何ヲシテイタ!!」

 

アルウス「レーダーが使い物にならん、真っ白でな。」

 

夏島「ナッ・・・!?」

 

横鎮近衛艦隊の第一次攻撃隊は、キ-91・銀河・一式陸攻などの長距離爆撃機と、母艦を発った一航艦制空隊で構成される。既に空域は完全に制圧されていた、この時点で、彼らは先制されていたのだ。とうの昔に投弾針路に入った爆撃機の大群、今更高射砲を撃ち上げた所で遅きに失していた。

 

夏島「エエイ、トニカク撃テ!!」

 

しかしその時には既に、大量の爆弾が夏島と春島に向けて投下されていた――――――

 

 

先制第一撃は、彼らの奇襲により成功を収めた。

 

敵の飛行場は機能しなくなり、地上施設にも相当の被害が発生、第一撃で飛行場を叩き潰された事で敵の要撃は最後まで無かった。逆に各所に点在する飛行場に零戦隊が殺到、機銃掃射で地上撃破機が多数発生した。流れ弾で被弾した深海棲艦もいただけに、地上側も艦隊側も混乱に陥った。

 

トラック棲地攻略作戦の第一撃が、夜明けの奇襲として放たれたのである。

 

 

6時37分 A点南方50km

 

提督「よし、第一次攻撃は成功か。」

 

副官「――――!(“やりましたね!”)」

 

鈴谷では奇襲成功の報に沸いていた。

 

明石「第二撃を準備しますか?」

 

提督「そうだな、予定通り二航戦を中心に第二次攻撃隊を編成、間髪入れず敵の行動を封じ続けるんだ!」

 

飛龍「“了解!!”」

 

二航戦旗艦である飛龍が張り切って返事をする。

 

 

飛龍「さて、やりますか。」

 

多聞「そうだな、久々に暴れてやらんと。」

 

蒼龍「結局いるのね・・・。」

 

多聞「良かろう?」

 

蒼龍「まぁ、そうですね・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

久々に登場山口多聞中将、実戦にも久しい参戦であるが、果たして・・・?

 

因みに忘れてる人の為に解説しとくと、山口多聞中将は二航戦司令部ごと飛龍の5スロ目にいるのだ! 一度艤装がクラッシュしているが、新たに入手した艤装に元の艤装の残骸からデータをこしとってカスタムしたのである。結果改修の内容までは無理だったが、基本性能は完全なコピーに成功したのである。

 

多聞「ではそろそろ始めるとしよう。」

 

飛龍「了解♪ 攻撃隊、発艦!」

 

飛龍が弓に矢を番えて放つ。先陣を切ったのは岡嶋清熊海軍少佐が搭乗する、零戦三二型である。前後して蒼龍から藤田怡与蔵少佐の零戦二二型が発艦していた。なお以前述べたが弓式発艦は5機1セットである。

 

藤田と岡嶋、大戦後期の防空を担ったパイロットのコンビが、時空と所属を越え、飛龍の艤装破損による別離を越えて、漸く再び復活した訳である。

 

 

ブロロロロロ・・・

 

 

提督「ここは完全に敵の制海権/制空権のど真ん中だ。だからこそ、敵飛行場の長期制圧は不可欠だ。頼むぞ・・・。」

 

明石「針路はこのままですか?」

 

提督「あぁ。金剛、艦隊展開は出来てるな?」

 

金剛「“バッチリデース!”」

 

既に艦隊を展開した横鎮近衛艦隊、第一水上打撃群を先頭に、機動部隊と主力艦隊も準備を整え南下を続ける。トラック棲地の赤色海域半径は大凡50km、この広さ故においそれとは近づきがたいのだが、耐腐食処理済みの艤装を装備した艦娘達であるから問題はない。

 

提督「そいつは何よりだ、陣形を崩すなよ、今の内に艦隊運動の最終チェックも済ましておけ。」

 

金剛「“了解ネ!”」

 

 

その頃・・・

 

 

~サイパン島・横鎮近衛艦隊司令部~

 

司令部の食堂で、割と早起きした吹雪は朝食をとっていた。

 

禁錮処分とは言うが実際には『謹慎』処分と言う方が正しく、必要最低限の行動だけは許されていた。

 

吹雪「はぁ~・・・。」

 

睦月「どうしたの? 吹雪ちゃん」

 

吹雪「睦月ちゃん・・・。」

 

結構凹んでいる吹雪。

 

睦月「はっは~ん? 出撃に行けなくってその事で思い詰めてるのね?」

 

吹雪「そ、そんなこと・・・」

 

睦月「顔に出てるのね♪」

 

吹雪「・・・。」

 

図星な吹雪。

 

睦月「んー・・・確かに、悪い事をしちゃったのはいけない事なのね。でも吹雪ちゃん、きっと提督もあんまり怒って無いと思うのね。」

 

吹雪「でもあの言い方は・・・」

 

睦月「結構軍規には厳しい人だからね提督は・・・」

 

厳しい(資材庫荒らしは即、成☆敗)

 

吹雪「そうなんだ・・・。」

 

睦月「睦月も最初は結構怒られたのね、皆通る道だから元気出して?」

 

皆通る道(普通ならば口頭注意)

 

吹雪「うん・・・ありがとう睦月ちゃん。」

 

睦月「どうってことないにゃし!」エッヘン

 

久しく登場していなかった睦月ではあるが(クッソメタい)、無邪気でも悪い子ではない。そんなワンシーンであった。

 

 

提督「・・・金剛。」

 

金剛「“どうしたのデース?”」

 

提督「吹雪は・・・どうしてるかな。」

 

そう躊躇いがちに切り出す直人、その言いよどみ方で金剛も彼が何を考えてるか分かった。

 

金剛「“きっと提督の元気な帰還を待ってるネ、頑張りマショ!”」

 

そう言って彼を励ます金剛であった。

 

 

第二次攻撃隊は8時27分にトラック棲地上空に到達し攻撃を開始、この頃には深海側も態勢を整えてはじめており、空母級から戦闘機を飛ばし空中哨戒を実施する一方残った水上機を哨戒に飛び立たせる準備を進めている所であった。

 

第二次攻撃隊の目標は、制空隊が空中哨戒機及び迎撃機の排除、水平爆撃隊で飛行場の再爆撃及び水上機基地の破壊、そして急降下爆撃隊及び雷撃隊を以って敵艦隊に攻撃を仕掛ける事で、この第二次攻撃で機動部隊の存在を認知させ、敵艦隊を出撃させる事が目的であった。

 

提督「何度も言うが、今回敵泊地に接近する為には敵空軍戦力の封止が欠かせない、これは戦闘中にも言える事だ。だが、敵泊地を叩く前に、敵艦隊を残したのでは、我々は負けるしかない。故に今回は敵艦隊の攻撃に主眼を置く訳だ。」

 

明石「確かに、泊地駐在の艦隊ともなれば、規模は大きいですからね。」

 

直人が目論んだのは、『艦隊と泊地双方の撃滅』であった。二兎を追って返り討ちにされるリスクもあったが、故に彼は実行順を付けて順に叩くようにした。その最初が、敵艦隊の撃滅なのである。

 

提督「時間差でサイパンからも第二次攻撃隊が来る、どうやら柑橘類のヤローの独断らしいが、まぁ気が利いてると思って責は問うまい。」

 

 

8時11分 トラック棲地

 

アルウス「敵の艦載機か・・・。」

 

攻撃の少し前、レーダーで接近してくる第一艦隊及び一水打群を発った攻撃隊を捉えたアルウスは、敵の来る方角の差異からその事を悟った。

 

アルウス「規模もそれなりだ、有力な機動部隊が接近してきていると見ていい。」

 

夏島「待テ、ドウスルツモリダ。」

 

アルウス「戦術上、最も正しい判断さ。艦隊、出動する、稼働艦艇は用意出来次第泊地外に集結せよ。」

 

夏島「・・・。」

 

アルウスの判断は正しかった。トラック泊地は環礁内で艦載機の発着が出来ると言っても艦隊がひしめき合っている以上自由が利かない、空襲など受けようものなら艦艇は無力なのだ。

 

夏島「―――――アルウス!」

 

アルウス「・・・?」

 

夏島がアルウスを呼び止め、彼女に言った一言は、後に多くの深海棲艦を窮地から救うことになる。

 

 

ただまぁそのぅ・・・艦艇がそう容易く動ける筈もなく・・・

 

 

8時52分 重巡鈴谷

 

提督「――――在泊艦艇に甚大なる損害を与えたる模様、蒼龍艦攻隊は陸攻隊第二波と共同による水平爆撃により、敵地上施設及び水上機に相当の損害を与えたり、か。」

 

明石「やりましたね、成功ですよ!」

 

提督「――――我が方の被害、被撃墜71(うち制空隊22)、自爆32(うち制空隊10)、損傷多数。」

 

明石「・・・。」

 

やはりどうしても被害は多くなってしまうらしい。

 

提督「・・・トンボ釣り、用意しとけ。」

 

暁「“分かったわ。”」

 

提督「はぁ――――やれやれ、既にして激戦の予感。」 ┐(´д`)┌ヤレヤレ

 

明石「分かり切った事言わないで下さいな・・・」( ̄∇ ̄;)

 

提督「うん、そうだね~。」(・ω・)

 

こんな時でもいつも通りなのはまぁ流石である。そこへ多聞丸が直々に情報を伝えてきた。

 

多聞「“戦果観測機より受信『敵艦隊は空襲下を泊地外へ出港しつつあるものとみられる』だそうだ。”」

 

提督「よし、出て来たか。しかし空襲下に出港して来るとは、既に態勢を整えていたと言う事か、それとも・・・。」

 

明石「提督の目論みより少し早いですね。」

 

提督「少しどころなものか、ちょっとばかし予想の範疇から逸れている位だ、斜め上と言った方がいいか。」

 

多聞「“今回の敵はよく訓練されているようだ、気を抜くとやられかねんな。”」

 

提督「全くです、気を引き締めてかかりませんと。」

 

直人の考えでは、敵が泊地から出てくるのは空襲が終わってからだと想定していた。計算より多少早まった程度とはいえ、敵のその豪胆さに直人は舌を巻いていた。

 

提督「取り敢えず予定変更は無しだ、このままB点に向かう。」

 

明石「はい。」

 

副長「――――。(了解しました。)」

 

しかし直人のこの判断は、数時間後に彼を苦しめることになる誤判断であった。

 

提督「取り敢えず第三次攻撃隊準備。もうそろそろ第一次攻撃隊の制空隊も収容を終えるだろう。再出撃可能機をまとめ送り出す用意をしよう、発艦は10時ごろに。」

 

赤城「“分かりました。”」

 

明石「提督、なぜこんなに攻撃を反復するんですか?」

 

提督「それは勿論――――」

 

赤城「“敵の数が我が方を圧倒的に上回るからです、明石さん。”」

 

提督「人のセリフとらんでくれるか。」

 

赤城「“フフッ、差し出口でしたね、申し訳ありません。”」

 

提督「はぁ~・・・まぁそう言う事だ。」

 

敵の数が多い、と言っているが、艦娘の数が深海のそれを上回った事例などない。ではどういう意味かと言うと、人類側は艦娘と深海棲艦の実力差を、場合に依るが、駆逐艦などの小型艦クラスなら駆逐艦で10対1、中型艦なら6対1、大型艦であれば3対1と見積もっていた。

 

艦娘の力とはかくも強大である事は明らかだが、それは数の劣位を質で補った結果に過ぎない。そして“人間”と言う『器』に降りたが故の反応・対応速度の速さこそが、艦娘達の強さの秘訣なのだ。勿論人に比べ頑丈だし、人に扱えない多種多様な兵装を有しているが、それは所詮ハードウェアに過ぎないのだ。重要なのはソフトウェア、即ち動かす者の才覚である。

 

 

一方チューク諸島近傍の空襲が発生している海域の西側には、潜望鏡でその様子を探る2隻の潜水艦がいた。

 

ゴーヤ「す、すっごい・・・これが実戦でちか・・・。」

 

イムヤ「“えぇそうね、最も私もこう言う形で参加するのは初めてだけど。”」

 

横鎮近衛艦隊の第一潜水隊を構成するイムヤとゴーヤだ。第一潜水隊は直人の直属戦力の一つだ。普段は金剛の指示で訓練等に従事する傍らで、直人の指示を受けて前線へ出動、情報収集や時に通商破壊も行ってきた。

 

今回も直人の指示により先発し、チューク諸島周辺で監視任務に就く一方、大胆にも港外に出てきた敵艦に雷撃を決行、これまでに輸送船4隻撃沈、駆逐艦や軽巡など5隻撃沈を報じている。ただそれでは流石に弾薬に不安があった為、一旦鈴谷に合同し補給は受けていて、再び夜半に元位置に復帰したという訳だ。

 

因みに艦娘潜水艦の潜航は、自身の周囲に大気を包んだ泡を生み出してその中に入る事によって行う。排出された二酸化炭素はそのまま海水に溶けて消えるものの、余り長時間潜っていると空気球が小さくなり、しまいの果てには窒息するので注意が必要になる。

 

ただ水圧については受けた分と同じだけ内側から押し返す為問題ないらしい、便利だね、耳栓いらずだね。

(※水圧を押し返さなかった場合空気球内部の気圧が上昇し鼓膜がデンジャラスな為耳栓が必要になってしまうのである。)

 

ゴーヤ「イムヤは今までどんな事をしてたんでち?」

 

イムヤ「“んー、哨戒とか監視任務とかしかなかったわね、ゴーヤが来るまでは出撃も無かったくらい。だから輸送船は見かけたら沈めるチャンスがある位でね。”」

 

ゴーヤ「ふ~ん、じゃぁ初めての艦隊戦でち、頑張っていくでち!」

 

イムヤ「“えぇ、そうね!”」

 

後輩に負けていられないとイムヤのやる気が入った。(色んな意味でイムヤの後輩・・・おっと誰か来たようだ。)

 

第一潜水隊は、敵艦隊へ雷撃を行う為近接行動を開始したのであった。

 

 

~11時25分~

 

アルウス「よし、残存艦艇は全て揃ったな?」

 

横鎮近衛艦隊の三次に渡る攻撃により、当初9800隻に上ったトラック棲地艦隊は、6934隻にまでその数を減じていた。これらは全て航空攻撃の成果であり、一部は第一次攻撃隊の空襲の際、水平爆撃の余波や本来の狙いを外した流れ弾によって粉砕されたものまで含まれる。

 

更に大なり小なり損害を被ったものを含めると、満足に戦闘が出来る深海棲艦は4000隻強に過ぎず、小破や中破程度の艦艇を含めても、戦闘可能艦艇は5700隻程度であった。

 

アルウス「しかし、手酷くやられたものだ、相当な手練れだぞ、これは・・・くっ。」

 

ル級改Flag「大丈夫、ですか?」

 

アルウス「大丈夫だ“インディアナ”、問題ない。」

 

アルウスも急降下爆撃の一弾を受けていた、しかし戦闘に支障をきたす程ではない。後に考証で判明した事だが、この時アルウスに一弾を投じたのは、蒼龍艦爆隊長 江草隆繁大尉機であった。なお無事に生還している。

 

アルウス「好き放題やってくれたな、借りは返すぞ・・・。」

 

アルウスは、北方にいるであろう“敵”に復仇を誓った。

 

 

しかし、敵は空だけに留まらなかったのである。

 

 

ズドオォォォーーーンズドドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

アルウス「何事だ!!」

 

ル級改Flag「雷撃です! 敵潜です!」

 

アルウス「探せ!!」

 

ル級改Flag「ハッ!!」

 

しかしこの頃には雷撃を終えたイムヤとゴーヤは、既に深度100m付近まで潜航し離脱を図っている頃であった・・・。

 

 

この雷撃によって、イムヤは2隻撃沈、1隻損傷の戦果を挙げ、ゴーヤも初の実戦で1隻撃沈、2隻損傷の戦果を挙げた。これだけ命中率が高いのは、敵艦の数が兎に角多いからである。

 

 

12時38分 B点・重巡鈴谷

 

提督「B点到着、これより作戦行動を開始する。全艦隊所定の計画に基づき行動を開始せよ!」

 

各艦隊旗艦「「“了解!!”」」

 

直人が遂に、待ちに待った号令をかけた。敵艦隊の位置は既に割れている。この上は敵艦隊に攻勢をかけるのみである以上、彼の声にも迷いはない。

 

今回は敵棲地攻略と言う事で、艦隊の総力を投入しての攻勢である。故に“彼女”も前線にいた。

 

 

陸奥「こうして肩を並べるのも久しぶりね、“大和”。」

 

大和「えぇ、こうして戦いに出るのも、あの時以来だけれど・・・。」

 

戦艦大和、世界最大最強の戦艦である。今や艦娘となったとはいえ、その力はむしろ高まっている位である。

 

大和「でも流石に旗艦は任せて貰えなかったわね・・・」( ̄∇ ̄;)

 

陸奥「ふふっ、あなたでもそう言うところあるのね。」

 

伊勢(あの二人仲いいよねぇ。)ヒソヒソ

 

日向(連合艦隊直属部隊で同じ飯を食ってた間柄だからなぁ・・・。)ヒソヒソ

 

一応だが武蔵竣工までの間、大和に旗艦の座は明け渡したものの、大和と長門型2隻とで第一戦隊を編成していた時期があるのだ。第一戦隊は第一艦隊の指揮下にありながら、決戦を行う場合、その旗艦には連合艦隊司令部が座乗する事になっていた。

 

第一艦隊司令部は第二戦隊を直卒する事になっていたのだが、第一戦隊旗艦とは即ちそれが『連合艦隊旗艦』なのだ。なので連合艦隊旗艦が第一戦隊旗艦と別にある訳でも何でもないのだ。第一戦隊の旗艦が連合艦隊の旗艦であり、その座に就いた戦艦にとって何より誇りとするところなのだ。(例外もいるが)

 

 

提督「うむ、所定の展開行動だな。」

 

明石「しかし、兵力を分散して大丈夫なんですか?」

 

提督「大丈夫か、と言われると少々自信は無いが、あの時に比べ練度は大きく向上している、今なら安心して任せられると俺は信じているからな。」

 

今回の作戦は、まず一水打群が真正面から突撃、敵陣に小さな傷を作って急速離脱する。そしてその離脱を開始するタイミングで第一艦隊が一斉に砲門を開き、敵先陣に打撃を与えつつ離脱を援護する。この間に一航艦航空隊は敵左翼に攻撃を集中する。

 

そしてそのまま第一艦隊は付かず離れずの状態で砲撃を行い、注意を引き付けている間に一水打群が敵右翼集団に殺到し、側面から一挙に突き崩しにかかるという算段である。今回は最悪追い払うだけと言う事も考慮している為、この様な作戦になっている。

 

提督「必ずしも勝つ必要が無いのなら、こういう作戦でもある程度は自由が利くのさ。」

 

明石「難しいですね・・・。」

 

提督「その分やり甲斐はあるさ。」

 

そう、勝てなければ退くだけだし、敵が退けば戦術面で負けていようがいまいが相対的にそれは勝ちなのだ。今回は相対的な結果で戦術判断を下さねばならない難しい戦いでもある訳だ。

 

――――ただ彼が自ら述べたように、やり甲斐自体は大いにある作戦である事は間違いない。

 

 

12時46分、この時最初に状況が動く。

 

~重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋~

 

提督「いや~・・・静かな海だなぁ。」

 

と呑気に双眼鏡を覗く直人。

 

明石「いや・・・確かに。」

 

否定しない明石。

 

副長「――――。(余裕ですね提督。)」

 

と感心したように言う副長妖精。

 

提督「まぁね~、勝つ必要が無いなら気負わんでもいいし。」

 

副長「―――――。(負けない様にしませんとね。)」

 

提督「そう言う事~・・・ん?」

 

明石「どうしました?」

 

直人が空に目を向けた途端、彼は異変に気付いた。

 

提督「敵の哨戒機だ、大型飛行艇タイプ! 本艦左前方方向で旋回中、気付かれてる・・・。」

 

明石「えっ・・・。」

 

前檣楼見張員

「“ほ、本当です! 150度方向敵哨戒機!!”」

 

提督「俺の方が発見が早いとはどういう事だ!」

 

叱責されて当然である。

 

深海大型飛行艇は、海老反った駆逐イ級に翼が付いたようなフォルムと見た目と言えば御理解頂けるだろうか、まぁそんな感じである。カラーも上面:黒・下面:白である。

飛行艇らしい長距離飛行能力と頑丈さを兼ね備え、敵拠点周辺の哨戒飛行中の所をしばしば目撃されている。

 

と、端的に言えばその性能はアメリカ海軍の保有していたPBY-5 カタリナ飛行艇に近いとも言われている代物である、零戦の敵ではないが厄介極まっている。

 

提督「・・・水上戦闘機が欲しい。」

※最後方に位置する空母部隊の一航艦でさえ結構前に出ている為見つかったのは鈴谷だけ

 

明石「け、研究はさせます・・・。」(;´・ω・)

 

その後空母部隊に通報はしたものの対処は遅れ、暫くの間触接を受ける羽目になったのであった。

 

 

一方でアルウス率いる深海艦隊は、触接した深海大型飛行艇からの通報を受け取っていた。

 

アルウス「敵艦隊の母艦を発見したか。」

 

ル級改Flag「しかし艦娘は伴っていないようです。」

 

アルウス「まぁ待て、全速で南下中と言う事は、恐らく艦娘は既に発進した後だろう。このまま防御陣を張る。」

 

ル級改Flag「分かりました。」

 

アルウスは直人の手の内をある程度予測していた。その作戦の全貌を知り得なかったとしても、その事は重大である。

 

即ち――――彼は遂に、互角の敵とあいまみえる事になったのである。

 

 

~13時01分・第一水上打撃群~

 

陽炎「対水上電探感あり、距離4万!」

 

陽炎の22号電探に、遂に敵が捕捉された。

 

金剛「早いデスネ?」

 

榛名「こちらに向かって前進して来ていたのでしょうか。」

 

金剛「そうネー、そう考えるのが自然デショウ。」

 

霞「13号電探に感あり、敵艦隊より敵機が発艦中!」

 

それは紛れもなく敵発見の知らせであった、同時に敵艦隊から艦載機が発艦中だという。

 

多聞「ほう、どうやらこちらの存在を既に掴んでいるらしいな。」

 

飛龍「えぇっ! ど、どどどどうしよう!?」

 

多聞「落ち着かんか飛龍。」

 

蒼龍「戦闘機及び攻撃隊、出します!」

 

金剛「了解デース!」

 

飛龍「そ、そうね!」

 

二航戦が直ちに艦載機の発艦にかかった。その頭上を一航艦と第一艦隊の艦載機群が敵艦隊に向けて飛び去って行く。火蓋は既に切って落とされた、この上は戦うのみ――――

 

 

一方で直人もこの報告を逸早く受け取っていた。

 

提督「ほう、早かったな。奴さんから出向いてきてくれたなら楽でいい。」

 

言いながら戦況プロットに敵と味方の位置関係をアップロードして行く。こうすることで以後戦況推移に伴いプロットに逐一最新の状況がインプットされていくようになるのだ。これは霊力探知技術が生んだ産物であるらしく、各艦とデータリンクされた鈴谷のデータベースには逐一各艦娘の電探や霊力探知のデータがほぼノーラグで送られてくるのだという。(明石談)

 

提督「・・・これは――――」

 

明石「どうしました?」

 

提督「・・・しまった、空襲を開始した時点で全速南下すべきだった、敵が防御陣形を組んでお出迎えだ。」

 

明石「ま、不味くないですか?」

 

提督「まずいどころかヤバい。手順を変える、金剛!」

 

直人はすぐさま金剛を呼び出す。

 

金剛「“攻撃手順の変更デスネ? もう敵右翼方向に迂回してるネ。”」

 

提督「ぬあっ――――!?」

 

その言葉に思わず驚いて戦況プロットを見る直人。

 

提督「参ったな、相も変わらずお見通しか。」

 

金剛「“フフッ、当然デース。”」

 

既に金剛は一水打群を率い自陣左翼方向へ迂回を開始していた。迂回した先には敵右翼集団がいる。これだけの数となると、通常の海戦術は無意味だ。元より船同士の戦いでないのだから至極当然であるが――――。

 

横鎮近衛艦隊がそれまで縦一線に三個艦隊を展開していた所から展開を開始したのだから、敵にとってはどういう意図に基づくものかと言う点において重きを置くか否かを判断する必要を、直人と金剛はその行動によって迫っている訳だ。

 

提督「よし、金剛の行動を追認する、第一艦隊はそのまま押し出して行け、圧をかけて精々迷わせてやることだ。」

 

陸奥「“はぁい♪”」

 

提督「金剛、移動中も攻撃して行け、少しでも敵の数を削ぐんだ。」

 

金剛「“OKネー!”」

 

直人は必要各所に指示を出す。どうやら長い午後になりそうだと、彼は漠然とそう思っていた。

 

 

アルウス「どちらだ・・・どちらが先だ・・・」

 

一方で金剛の機動に当惑したアルウス。

 

直人の指示通り戦艦陸奥と大和を軸にした第一艦隊が中央方向に突出し、35,000mと言う遠距離から砲撃を加えて圧を掛けたからである。金剛も砲撃しつつ迂回中であり、状況としてどちらが先に突っ込んでくるのか、判別しづらい状態にあった。

 

アルウス(この陣形は側面からの攻撃に脆い、かといって右翼を固めるのは難しい・・・どうする・・・)

 

アルウスの思案のしどころであったが、些か遅きに失してしまった感は否めない。何故ならこの時即座に金剛ら一水打群に猛攻を仕掛けていれば、彼らの攻勢は練り直しを余儀なくされたからである。

 

深海側の防御陣は、前方に両翼を配し、中央は少し下がった所に位置するという陣形である。所謂鶴翼の陣形であるが、これは中央に殺到してきた敵を半包囲する事で優位に立つ事を狙った陣形だ。だが反面、側面攻撃には脆いと言わざるを得ず、アルウスは中央が突進してくるか、側面攻撃が先か、どちらかを判断しかねたのである。

 

 

提督(金剛らに食いつくなら本隊を突進、中央に仕掛けるか備えるなら思う壺だ。)

 

一方の直人は既に敵の全ての行動を予測し備えていた。彼にとってみれば、取り敢えずは状況の予測は終わっていた。

 

明石「上手くいってほしいですね・・・。」

 

提督「そうだな、大きな失敗が無ければ何とかなる筈だ、砲撃準備は?」

 

明石「出来ています。」

 

提督「よし、副長に預ける。敵の手ごわい超兵器もいる事だ、俺自ら出陣して行って挨拶がてら一弾見舞って来よう。」

 

明石「分かりました、行ってらっしゃい!」

 

副長「―――――!(一時、艦をお預かりします!)」

 

そう言って直人は颯爽と艦首部のカタパルトから巨大艤装を背負って射出、出撃して行ったのだった。

 

 

13時31分、状況が再び動く。

 

 

金剛「チャージ!!」

 

一水打群「「オオォォォーー!!」」

 

 

提督「撃て!!」

 

 

ズドドドドドドドオオオオォォォーーー・・・ン

 

 

直人の砲撃と金剛の突撃が同時に開始された。1分半後、遠距離から放たれた80cm及び120cm特殊砲弾が敵艦隊に降り注ぎ、いくつも火柱が上がった。それを受けた敵艦に堪える術がある訳ではない、即ちそれは爆散の火柱であった。

 

 

アルウス「なっ・・・!?」

 

アルウスはその様を見て思わず声を失った。明らかに大きさの違う水柱と、それより遥かに数の多い巨大な火柱を目の当たりにしたからだ。

 

アルウス「―――い、今の砲撃は、どこからだ!?」

 

ル級改Flag「正面です、4万5000から砲撃されました!」

 

アルウス「4万5000だと!!??」

 

ル級改Flag「あっ、敵が右翼方向から――――!!」

 

アルウス「クソッ―――!!」

 

 

提督「戦後世代相当の射撃管制から逃れるのは容易ではないぞよ? フフフ。」

 

大和「“驚きました、我々の砲撃とは命中率が違いますね・・・。”」

 

提督「じゃろ~? 性能的にアイオワ級を凌駕すると謳われた射撃指揮装置ぞ、レーダーと計算機のコンビネーションは最強だった。」

 

大和「“す、凄いですね・・・。”」

 

実際アイオワでもこのコンビを使っていた。巨大艤装『紀伊』も妖精さんの力を借りた各種条件計算と、レーダー連動の二つを組み合わせた射撃指揮装置を搭載しており、その性能はアイオワのそれを凌駕するとは、当時の喧伝文句であった。実際その通りだったが。

 

提督「第二射、撃て!」

 

直人が次なる射弾を敵に送りつける。強力かつ大重量の砲弾は、正確無比の命中率を叩き出す。

 

 

金剛「ファイア!!」

 

 

ズドドドドドドドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

一方の金剛率いる一水打群は、敵右翼集団の側面からその全火力を空海一体となって叩き込んでいた。

 

 

ドド・・・ン

 

 

金剛「oh・・・テイトクが出てきましたネ・・・?」

 

榛名「この砲撃音は・・・そうですね。」

 

金剛と榛名は響いてくる大きな砲撃音でその存在に気付く。その一方上空では各空母から飛び立った制空隊が必死で敵攻撃隊を阻止していた。そのおかげで艦隊への空襲はここまでゼロに抑えられている。

 

金剛「敵が狼狽している今が好機ネ! 突入!!」

 

金剛は一水打群に攻勢の強化を指示した。

 

 

提督「やるねぇ金剛。」

 

陸奥「“私達も負けてられないわね。”」

 

提督「それもそうだが、余り深入りするなよ。」

 

陸奥「“えぇ、鶴翼陣に正面から分け入ったら負けですもの。”」

 

提督「魚鱗陣敷いてないしな。」

 

敷いたところで陣が小さすぎて話にならないのだが・・・。

 

第一艦隊が陸奥の指示でワンライン前へと出ていく。それに追従する形で紀伊と鈴谷もあとを追う。両者共に進軍の足は緩め緩やかに接近している。その状況でどんどん敵本隊に対する圧迫を強めていく横鎮近衛艦隊だったが、この事が後に思わぬ窮地を呼び込むことになる。

 

 

14時47分、金剛隊が漸く敵右翼部隊を突破し、敵本隊へと肉薄した。その30分前の事である。

 

 

~14時14分~

 

提督「鈴谷へ、突撃態勢を取れ。」

 

明石「“了解!”」

 

直人が後方の鈴谷に前線参加を指示した。左翼の戦線が若干膠着の様相を見せていたからだ。

 

提督「敵の戦力はそれなりに削り取れている筈だが・・・。」

 

余りに敵の数が多過ぎてその実感が沸いてこない直人。

 

「大丈夫じゃ、わらわ達と―――皆と共にある限り、負けはせん。わらわ達がそうさせぬ。」

 

直人の傍らで初春が言う。陸奥が突撃しないからとわざわざ護衛の為に戦力を裂いてくれたのである。

 

提督「フッ、その言葉が頼もしいな。」

 

若葉「提督は安心して撃ってくれ、私達がいれば大丈夫だ。」

 

提督「あぁ、そうさせて貰う。」

 

直人は頼もしい小さな戦士達に素直に礼を述べるのであった。

 

 

一方でアルウスは・・・

 

 

アルウス「右翼部隊は突破を試みている敵部隊を一度通してやれ、その後半包囲する。」

 

アルウスは重要な決定を下したタイミングであった。本隊先鋒は既に直人や戦艦群の砲撃で壊滅していたが、まだ十分な戦力を残している。

 

ル級改Flag「大丈夫、でしょうか・・・」

 

アルウス「数の上ではこちらが優勢だ、例え麾下艦艇が複数隻で艦娘1隻分だと言ってもな。」

 

深海の指揮官達は自分達の戦力が単一では非常に劣悪である事を理解していた。故に集団戦法を多用し単独で行動させなかったのは、深海の戦術に於いて後々までの特徴となる。同時に要求されたのが、指揮官の指揮能力であった訳だが――――それについてはいずれ述べる事もあろう。

 

 

金剛「見えたネ、敵本隊!」

 

かくして金剛隊は14時47分、敵本隊への突撃を開始する。しかしこれは敵の罠であったのだ。

 

 

アルウス「今だ、包囲の輪を閉じる!」

 

ル級改Flag「はっ! 全艦、突入してきた敵本隊を包囲せよ!」

 

アルウス「あっさり引っかかったな、所詮上意下達の連中などこんなものだ。サイパン艦隊の主力がどんなものかと思えば、単純で助かった。」

 

そう、金剛らが本隊である事はトラック棲地にいた者には露見していた。アルウスは前線からの報告で、金剛と思しき艦娘が突撃して来た事を察知していたのである。故に彼女は、一水打群を罠に掛けたのである。

 

 

提督「――――いかん、金剛が罠に落ちた!」

 

一方の直人も敵の動きの変化で敵の策を洞察していた。突入してくる敵をわざと通し、本防御線と共に撃滅する戦術は昔からあるからである。しかし直人はこの時敢えてその事を金剛に言わなかったのである。

 

提督「陸奥、大和! 俺が金剛らを救援に行く、突入援護頼むぞ!」

 

陸奥「“了解、気をつけてね。”」

 

大和「“そんな、危険です! 提督自らそんな――――”」

 

知ってる者と知らない者では信頼感が違うのは当然である。この差もその一例と言えた。

 

提督「大和。」

 

大和「“は、はい?”」

 

提督「俺なら心配ない、なんせ、超兵器とサシで殴り合った事もある。」

 

大和「“えぇっ!?”」

 

それを聞いた大和は仰天した。

 

伊勢「“満身創痍で帰って来たけどね。”」

 

そして伊勢が通信に割り込んできた。

 

提督「こらっ、それは言わんお約束だろうに。」

 

日向「“まぁ、悪運が強いのもいい事だがな。”」

 

提督「褒めてんのかどうかはさておくとしてもだな・・・はぁ、まぁいいや。お前らちょっと行ってくる。」

 

伊勢「“止めても行っちゃうじゃない、思いっきり暴れてらっしゃいな。”」

 

日向「“まぁ、そうなるな。”」

 

陸奥「“急がないとね、金剛が待ってるわよ?”」

 

提督「おう、全くその通りだ。」

 

直人はその言葉を皮切りに、後に公試53.7艦娘ノットを記録したという快速にバーニアの加速を乗せ、今にも閉じられようとしている敵包囲陣に向かい真一文字に突進を開始した。

 

 

大和「――――こうなったら仕方ありませんね。全砲諸元伝達、撃ち方、始め!」

 

 

ズドドドドドドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

9門の46cm砲が遅延を噛ませつつも一斉に火を噴いた。

 

陸奥「全砲門開け! 突入を援護するわよ!」

 

第一艦隊「「了解!」」

 

陸奥の号令一下、第一艦隊の砲撃が包囲を閉じようと展開中の敵左翼部隊に集中する。

 

直人がその先端に向けて猛突進をかけた。

 

 

チ級Flag「急げ――――!」

 

敵の左翼先鋒各隊が相争う様にして包囲を閉じようとしている、その包囲の輪も、まもなく閉じられようとしていた。

 

アルウスもその麾下にあった深海棲艦も、作戦が型にはまったと安心していた、正にその時であった。

 

 

ドドドドド・・・ン

 

 

チ級Flag「―――――!?」

 

一際巨大な砲撃音、振り向いた先にチ級Flagは巨大な“何か”を見た。そこで意識が断ち切られる―――――

 

 

提督「ハイハイどいたどいたァ!!」

 

直人がその艤装から無数の砲撃音を連続して轟かせて突進する。瞬く間に、彼が進むべき道が切り拓かれていく。

 

直人は拓いたルートを迅速かつ最短で通り抜け、金剛との合流を果たすに至る。

 

 

金剛「テイトクゥ!?」

 

榛名「まぁ!」

 

提督「よう、災難だな。」

 

金剛「いやなんでわざわざ飛び込んで来るんデスカー!?」

 

金剛の反応はまぁさておくとしてそれに対する直人の返しはこうだった。

 

提督「いやなに、罠にかかってしまった不幸なお嫁さんを助け出しに来た王子様ってところじゃろうね?」

 

金剛「なっ!!??///」

 

摩耶「おいおい・・・。」(言われてみてぇなぁアタシもなぁ~・・・)

 

矢矧「はぁ~・・・。」

 

まぁ、色々台無し感は否めない。

 

提督「そう言う訳だ、策はある。」ガチャッ

 

そう言って直人は携行してきた火器を見せる。

 

金剛「・・・30cm速射砲・・・デスカ?」

 

提督「そう、砲身交換して持ってきた。」

 

直人が持ってきたのは30cm速射砲に、普段付けているロングバレルでは無くその3分の2の長さのミドルバレルを付けたものだ。それでも全長は2.48m程あるが。

 

提督「まぁ弾倉は持ってきてないがね、戦闘に使いはせん。」

 

金剛「oh・・・?」

 

羽黒「ど、どうするんですか?」

 

提督「フッ・・・目くらましさ。」

 

不敵に微笑み直人が言う。

 

霞「で、具体的にどうするつもりなのよ。」

 

提督「そう急かすなって、金剛、全員で煙幕の展張を、大きくな。」

 

金剛「オ、OKネ。」

 

提督「さて、いっちょ目くらまし、始めるか。」

 

そう言って直人は持ってきた30cm速射砲を構える。と言っても1門だけである。

 

直人が引き金を引き、ドンドンと太鼓を叩くような独特な音で砲弾が送り出される、その目標地点は、敵両翼の手前の水面である。

 

金剛(――――手前を狙っている・・・?)

 

金剛にはそれが何となくわかった。手品の種はすぐに分かった。

 

 

ボンボンボンボン・・・

 

 

砲弾が敵正面の水面上空で次々に炸裂、その直後炎と共に黒煙が立ち込めたのだ。

 

提督「よし、これで敵の視界は遮られる筈だ。」

 

金剛「煙幕弾、ですカ・・・。」

 

提督「それも曰く“特別配合”だそうだ、明石に無理言って調合して貰った。さぁさっさと直進で味方と合流するぞ。」

 

金剛「了解ネ!」

 

この煙幕弾は、言ってしまえばサーモバリック爆薬弾だ。それが爆発する際より濃くより長く滞留する黒煙を出すように調合したものがこの煙幕弾だとお考え頂きたい。

 

その場で広範囲に煙幕を張った金剛達の行動は本陣からは見えない。側面は直人がこれまた広範囲に渡り黒色煙幕弾で視界を遮った為時間が稼げるという算段である。加えて突破方向にまで煙幕弾を撃った為、無理矢理近接戦闘に持ち込む腹でさえあった。

 

金剛「全速突破ネ! ファイアー!」

 

摩耶「撃てっ!!」

 

羽黒「撃て~!!」

 

鈴谷「全力射撃、いっくよ~!」

 

矢矧「一気に押し込むわよ!!」

 

大井「ひとまとめに叩き付けるわ!!」

 

陽炎「突撃~ッ!!」

 

一水打群が直人の元来たルートで後退を開始する。既に包囲の網も元来たルートも閉じられてはいたが、直人の来援と、艦娘の独壇場と言えなくもない近接戦闘に持ち込んだ事もあり、突破はスムーズに進む。

 

提督「さて、この後どうするかな・・・。」

 

直人はその渦中にあって早くも次の手を考え始めていた。

 

 

アルウス「なに!? 包囲が突破されつつあるだと!?」

 

前線からの報告を受け取ったアルウスは驚きを隠せなかった。一水打群は精々20隻弱程度の小部隊である。膨大な差がある包囲部隊を突破する事は出来ない筈であった。

 

「“―――――!”」

 

アルウス「巨大な艤装・・・まさか、報告にあった――――」

 

戦艦紀伊だ――――アルウスはその結論に辿り着いた。

 

アルウス「迂闊に手を出すな! 一度通してやれ!」

 

ル級改Flag「あ、アルウス様?」

 

アルウス「奴等の巨大艤装は、我々超兵器級と互角の力を持つと言う、迂闊に手を出せば被害が増す一方だ。」

 

ル級改Flag「それは・・・そうですな・・・。」

 

アルウスの副官であるル級改Flag『インディアナ』が追従した。

 

直人が操る巨大艤装の件についてはとっくの昔に各所に報告書が送られていた。その一つにトラック棲地も含まれていただけの事である。

 

そしてこれを無理に阻止するのではなく、ルートを開けると言う選択肢も敵ながら中々の慧眼ぶりだ。並の指揮官なら包囲と言う形に拘って、無理やりにでも押し留めようとするものだが、それをしない事が凄いのだ、それだけ思考が柔軟なのである。

 

 

提督「道が開けた・・・? 罠か、或いは――――」

 

金剛「今ネ! 包囲の外へ全速力デース!!」

 

矢矧「了解! はあぁっ!!」ザシュゥッ

 

矢矧が敵の重巡クラスを一刀の下に斬り倒しながら金剛の指示に応ずる。

 

提督「そうだな、脱出が先決だ、殿は引き受ける!」

 

金剛「頼もしいデス、無理はノーなんだからネ?」

 

提督「承知している、さぁ行った行った!」

 

直人が急き立て、一水打群が開かれたルートを全速力で抜けていく。その最後尾に直人が付き、追撃を仕掛けようと試みる敵艦隊に痛打を浴びせつつ後退する。因みにこの時艦載機は使っていない。

 

提督「装填速度がどうしてもネックだな・・・繰り撃ちすればどうにかなるものの・・・。」

 

流石に80cmや100cmクラスになるとネックはそうした装填速度の遅さになってくる訳である。門数自体が多い事と威力も抜群なのでほぼ帳消しにはなる訳だが。

 

提督「・・・うーむ。」

 

そんな事を考える余裕がある程、彼の艤装はこの時点で十分過ぎるほど強いのであるが・・・。

 

 

かくして15時17分、一水打群は敵の包囲から脱した。それと前後する様に一航艦からの空襲部隊が空域に到着し、攻撃を開始した。

 

提督「ヒュ~ッ、タイミングばっちり。」

 

その偶然の一致に直人は驚いたものだ。

 

金剛「提督、助かったネ。」

 

提督「なんてことはないさ。それより、まだ戦いは終わってないぞ。」

 

金剛「そうデスネ、やりましょう!」

 

包囲から脱したと言っても戦いはまだまだこれからという様相であり、金剛達は直人の言を受けて、今一度気を引き締め直すのであった。

 

提督「“紀伊”航空隊、全機出撃!」

 

直人が脚部艤装に取り付けた航空装備から艦載機を発艦させていく。噴式景雲改を先頭とした大編隊が、敵艦隊へ猛爆を仕掛けるべく突入を開始する。総勢600機に及ぶ大編隊を放つ能力は戦艦と言うよりは、“動く航空要塞”と呼ぶ方が相応しいだろう。

 

しかしこの巨大艤装の肩書でさえ「超巨大機動要塞戦艦」なのだから世話が無くて大変宜しい。さらに120cmゲルリッヒ砲や80cm連装砲などを搭載しているのだから、強力無比もいい所である。

 

蒼龍「・・・やっぱりあれ、ずるい。」

 

突入の為分離されていた二航戦が金剛の元に戻って来るなり、蒼龍が直人に向かって放った一言である。因みに機数の事ではなく噴式機を指して言っている。

 

提督「ずるいと言われてもなぁ・・・いずれ何とかしてやれるかも知れんから辛抱せい。」

 

蒼龍「ほんとにー?」ジトーッ

 

提督「明石に聞けぃ。」

 

蒼龍「そ、そうだよね・・・。」

 

口約束をする事自体は回避するスタイル。

 

多聞「フッ、口は達者なようだな紀伊元帥。」

 

提督「いえいえ、提督程ではありませんよ。」

 

多聞「私こそ、これだけ往生際が悪いと言うのにまだまだだよ。」

 

提督「――――ま、いいでしょう。」

 

謙遜のし合いを最前線でやるこの余裕は何なのか。そしてそんな事を言っている間に、まるで片手間か何かの様に直人が突出してきた敵を一つ一つ丁寧に砲撃で叩いているのである。敵としてはたまったものではない。

 

 

~15時32分~

 

アルウス「――――我々をこけにしているつもりか・・・。」ワナワナ

 

アルウスが、敵が余りに手を出して来ず、さりとて味方が手をこまねいている事に怒りを募らせていた。まぁ敵前でドカッと座り込んでツンツンしているだけなのだからそう取られても可笑しくはない。

 

ル級改Flag「どうしましょう、このままでは埒があきません。」

 

アルウス「しかしあの巨大艤装から受けている被害が尋常ではない・・・。」

 

そう、紀伊航空隊の戦果はまたしても尋常ではなかったのだ。いくら損傷艦が混じっているとはいえ、一航艦攻撃隊と共同しての攻撃で275隻を撃沈、190隻を大破(一部一航艦との共同戦果)と言う戦果を叩き出したのだ。

 

基本的に紀伊航空隊はツーマンセルで、一部は一航艦所属機と組んで攻撃していたのだが、それにしても凄まじい戦果を挙げていると言うべきであろう。しかしこれでも敵の牙城のほんの一部を切り崩しただけに過ぎない。

 

が、直人が砲撃だけで700隻近く沈めていた為、合わせて900隻程を提督自身がほぼ独力で沈めている勘定になる。こうなってくると敵戦力の一割を超える数である。アルウスが言うのもこの損耗率で、たかが1隻に900隻が既に沈められているのだから積極策に二の足を踏むのは当然だった。

 

アルウス「・・・退くぞ。だがトラック棲地にではない。」

 

ル級改Flag「で、ではどこへ退却されるおつもりで?」

 

アルウス「――――ハワイだ。」

 

ル級改Flag「トラック棲地を、見捨てるおつもりですか!?」

 

アルウス「それが夏島からの命令なのだ。“形勢不利と見るならば陣を引き払え”とな。」

 

夏島に引き留められて告げられた一言とは、とどのつまり『戦力を過度に消耗するようであれば、いっそトラック棲地の事を省みるな』と言うものであった。

 

トラック棲地を管轄する泊地級深海棲艦である夏島は、自身の防衛如きが為に貴重な精鋭艦隊を消耗し尽くすのは愚策と考えていた、故に彼女はアルウスに、いざとなったら逃げる様にと告げたのだ。

 

勿論大規模棲地である以上トラック棲地陥落の影響は大きい。しかし、艦隊共々倒れるならば艦隊だけでも保全した方が、将来の反撃にも役立つ筈だと言う、高度な判断が働いていた。

 

アルウス「――――私が、殿を務める。付き合ってくれるか?」

 

ル級改Flag「・・・。」

 

アルウスの言葉にインディアナが瞑目し、そして答えた。

 

ル級改Flag「私までもアルウス様と殿を務めては、撤収する艦隊を指揮する者がおりません。しからば私は、麾下の艦隊を撤収する指揮を承りたく。」

 

アルウス「そうか・・・そうだな。では撤収の指揮は任せたぞ、インディアナ。」

 

ル級改Flag「はい!」

 

深海艦隊で言う『副官』とは、人類側のそれと違い『副司令官』と言う側面がある。インディアナはその職権に基づく進言をし、容れられたのだ。

 

アルウス(私も、良い副官を持ったものだ・・・。)

 

アルウスはインディアナの答えに満足した様子であった。

 

かくしてアルウスと直人の決戦の機運が、俄かに高まり始める・・・。

 

 

~15時47分~

 

提督「撃て!!」

 

 

ズドオオオオォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

120cm砲の右舷砲を射撃する直人、敵が多い為順次射撃である。なお左舷砲は装填中だ。

 

金剛「崩れないデスネー。」

 

提督「全くだ、指揮官はかなり優秀と見える。」

 

金剛「そうネ、いよいよ敵も本気と言う事デスネー。」

 

提督「我々も気を引き締めなくてはな。」

 

直人は敵陣の守りが余りに硬い事を見て舌を巻いていた。今までこんな事は経験がない。敵の突出行動も合理性を伴う様になり、敵前線部隊が有機的な連携を以って、一水打群を主力に立てた横鎮近衛艦隊の猛攻を食い止めていたのだ。

 

艦隊だけではなく航空攻撃も、その所期の成果を挙げられなくなっていた。それはアルウスが膨大な戦闘機を展開した為で、また対空砲火が能率的に射撃され始めた事も相まって、損害が増加する一方となっていた。こうした事は今まで無かった事だ。それだけに、一筋縄でいかない事を改めて肌で感じていた。

 

どんな事であれ、目で見て、肌で感じ、経験として蓄積しない限り、それは『実感』とはならない。実感無き知識はただの知識であり、なんの意味も持たないのだ。こうした点において、紀伊直人と言う男は苛烈な前線に於いて、苦境を常態的に“実感”しながら戦い続けた指揮官の一人であり、それは艦娘艦隊を指揮した者の中では極めて希少な存在であった。

 

提督「第一艦隊へ、前線へと前進して連続砲撃を行ってくれ。」

 

陸奥「“待ってました!”」

 

提督「金剛、二水戦を左翼方向へ突出、第八戦隊も付けてな。」

 

金剛「フフッ、以心伝心とはこの事ネー。」

 

提督「なんだ、同じ事を考えていたのか。」

 

金剛「オフコース!」

 

流石は艦隊設立以来の歴戦の指揮官金剛、他の艦娘との場数の差であろう。

 

提督「ならば話が早い、頼む!」

 

金剛「OK! 矢矧! 鈴谷!」

 

矢矧「了解!」

 

鈴谷「お任せあれ!」

 

矢矧が麾下の駆逐隊を、鈴谷が利根と筑摩を伴って戦列を離れ突進する。

 

提督「各艦隊損害報告!」

 

金剛「蒼龍が空襲で小破、大井・北上・摩耶が砲撃で小破、榛名中破/後送、五月雨と巻雲が大破デス。」

 

陸奥「“私他、大和・扶桑・高雄・那智・熊野・長良・五十鈴・舞風小破、扶桑中破、龍驤・雷・子日が大破ね。”」

 

赤城「“先程空襲により加賀・飛鷹・隼鷹中破、私他、祥鳳・比叡・加古・多摩・那珂・磯波が小破、大破艦はありません。”」

 

これを聞いた直人が一番最初に食いついたのは赤城の報告であった。

 

提督「一航艦の空母戦力が半壊だと!?」

 

赤城「“超兵器級からの空襲の様です、膨大な数の攻撃隊に襲われました・・・。”」

 

提督「アルウスか――――!」

 

直人は歯噛みをしつつも納得せざるを得なかった。そしてこの事は重大な意味を持つ。空母戦力の半減、即ち制空権の掌握が難しくなったからである。

 

いくら紀伊航空隊が存在し、残存空母も精鋭戦闘機隊を要していたとしても、既にそれらの消耗度合いは無視出来ない状態であり、これ以上の無理は航空隊を摩耗し切らせかねないと言う危機的状態にあって、この報告は凶報に近い。

 

提督(どうする――――!)

 

直人は遂に進退窮まった。このままでは航空攻撃によって、戦線が崩壊しかねない。更に航空優勢を辛うじてキープしていたと言う様なシビアな状態を遂に崩された以上、トラック棲地からの直接空襲も覚悟しなければならない状態と言う、絶体絶命の窮地に追い込まれていた。

 

金剛(まずい・・・!)

 

多聞(ここは素直に退く方が上策だが、どうする――――?)

 

直人は消去法で効果的な策を模索する。しかしどれも効果が見込めなさそうだと言う結論に至り、焦る。

 

 

―――――ォォォォォォォオオオオオオオ・・・

 

 

その時一水打群の“後方”から、ロケットの推進音が聞こえてくる。

 

提督「なんだ―――――っ!?」

 

直人は振り向き、そして驚いた。直人達のすぐ横を、ロケット弾が霞め去って行ったからだ。

 

 

ドオオオオォォォォォォーーーー・・・ン

 

 

直後敵の戦列に巨大な爆発が生じる、必殺の気化弾が猛烈な爆風と強烈な気圧変化を齎し、周囲の深海棲艦を一掃する。

 

提督「あれは、なんだ!?」

 

金剛「な、何がナンダカ・・・。」

 

艦娘一同直人共々唖然。

 

「“しっかりして下さい提督!”」

 

直後聞こえてきたのは、重巡鈴谷にいる明石の声だった。

 

提督「明石、今のは一体・・・?」

 

明石「“提督には内緒で、偽装煙突にセットした“秘密兵器”です!”」

 

提督「煙突の中に―――!?」

 

明石「“中身はサーモバリック爆薬弾です、12連装の噴進弾発射機(ロケットランチャー)を仕込んでおきました! 援護します、ここが踏ん張りどころです!!”」

 

そう言われ直人は再び直人が振り向いた。直人と金剛ら一水打群の背後には、いつの間にか敵に側面を向けていたようで、転舵し艦首を向けつつある鈴谷がいた。

 

提督「明石・・・お前と言う奴は・・・!」

 

明石「“お褒めの言葉は後で頂戴します、今は!”」

 

提督「――――あぁ、そうだな。今の一撃で光明は見えた、行くぞお前達、残存艦隊は最後の一弾まで戦え!!」

 

一同「「“おおっ!!”」」

 

横鎮近衛艦隊、低下した士気を持ち直す。思わぬ心強い新兵器の登場は、消極論を打ち消すのに十分すぎる威力を示し、一撃で1000隻弱を吹き飛ばして見せたのだ。これを見て直人は戦闘続行可能な残存艦艇に、徹底攻勢を下令した。それは壊滅の危険も伴うが、最大戦果を挙げ得る現状唯一の方策でもあった。

 

 

アルウス「退却進捗はどうだ?」

 

ル級改Flag「後は前線で交戦中の部隊ですが、被害が増大しつつあるので急いだほうが良いかと。」

 

アルウス「分かった。すまんが、あとは任されてくれるか?」

 

ル級改Flag「私とあなた様の仲で御座います、喜んでお引き受けしますとも。」

 

アルウス「そうか・・・ありがとう。」

 

ル級改Flag「お戻りをお待ちしております、御無理は慎んでください。」

 

アルウス「あぁ、分かっている。直属艦隊、続け!」

 

遂にアルウスが動き始めた、その先には、奮闘を続ける重巡鈴谷と、直人以下の横鎮近衛艦隊前衛部隊がいた。

 

 

~16時01分~

 

提督「鈴谷、飛び出しすぎだ、下がれ!」

 

鈴谷「“この位大丈夫だって!”」

 

苦境にあえぐ横鎮近衛艦隊、しかしどこかで見た展開である。

 

 

プツッ―――ザザアアアァァァァ・・・

 

 

提督「っ!」

 

鈴谷からの通信が途絶え、見ると火柱が1本吹き上がっていた。

 

利根「“鈴谷! どうしたのじゃ!?”」

 

提督「敵の次の砲撃は――――」

 

直人は光学測距デバイスを使って遠視をする。光学測距方式は遠望鏡を二基一組にして使うので、それを利用して双眼鏡代わりにする訳だ。

 

提督「―――――いかん!」ザザザッ

 

金剛「ファイアー!」

 

直人が全速力で鈴谷救援に向かう。その立てた音は金剛の砲撃音に隠され、金剛に悟られる事は無かった。悟られていたならば、止められて時間をロスした事は目に見えている、が、この場合はこれが鈴谷を助ける事に繋がった。

 

 

鈴谷「いたたた・・・。」

 

恐らく戦艦クラスの一撃をもろに食らい、立つ事もままならない鈴谷。

 

鈴谷「艤装も服もボロボロじゃん・・・情けないなぁ・・・。」

 

大破し航行不能となった鈴谷、しかしそれで攻撃が終わる程、現実は甘くない。

 

利根「鈴谷!」

 

筑摩「鈴谷さん、大丈夫ですか?!」

 

鈴谷「ハハハ・・・なんとか。」

 

救援に来た利根と筑摩、しかし次の瞬間鈴谷がまだ砲撃されている事に気付く。

 

利根「鈴谷、逃げるのじゃ!」

 

筑摩「早く!!」

 

鈴谷「待っ、動けな――――!」

 

漸く鈴谷も、自分が狙われている事に気付く。しかし肝心な脚部へのエネルギー伝達経路が破損、航行不能に陥っていた。

 

鈴谷(終わり? こんなところで――――?)

 

筑摩「鈴谷さん――――!」

 

利根「あれはっ――――!」

 

 

 

提督「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」コオオオオオッ

 

鈴谷「――――!」

 

直人が全速力を発揮し錬金した薙刀を手に鈴谷の前に立ち塞がる。そしてその薙刀で直撃コースの砲弾を縦に真っ二つにしてのけたのである。

 

真っ二つに断たれた砲弾は鈴谷の後ろ左右に水柱を上げた。が、薙刀も即製錬金の代物であった為、運動エネルギーを受け止めた反動で砕け散った。

 

提督「はぁ・・・はぁ・・・」

 

鈴谷「提・・・督・・・。」

 

提督「大丈夫か、鈴谷。」

 

鈴谷の方を振り向かずに聞く直人。

 

鈴谷「な、なんとか・・・。」

 

提督「そうか。無理をした理由はとやかく問うまい、急ぎ後送せねばな。」

 

鈴谷「そう、だね・・・もう、ボロボロだし・・・。」

 

提督(ボロボロ過ぎて目のやりどころに困るんだよ・・・。)ゴソゴソ

 

そう、鈴谷の服は右肩から左下向きにザックリと裂けており、地肌が露わになっていたのである。完全に傷だらけという有様であったが、何より上半身の前が裸同然という状態で振り向けないのである。

 

提督「筑摩、これを鈴谷に。」

 

筑摩「は、はい。」

 

そう言って筑摩に渡したのは、脚部艤装に何故か入れていた三種軍服の上着である。この三種軍服は南方戦線向けに作られたもので、どうやら二種で暑いと駄目なので替えとして持って来ていた様だ。結果的に使っていなかったが持ってきた事が幸いしていた。

 

提督「それを着て鈴谷に戻って、傷を診てもらえ。」

 

鈴谷「うん・・・ありがと。」

 

提督「礼はいいから行った行った、筑摩、利根、あと任せる。」

 

利根「うむ!」

 

筑摩「お気を付けて。」

 

直人はそうして八戦隊と別れた、その直後の事である。

 

 

 

 

ドォンドドオオオォォォォーーーーン

 

 

突如響き渡る爆発音、その方角を振り返る直人。

 

提督「なっ――――“鈴谷”が!!」

 

被弾し、黒煙を噴き上げる鈴谷が、そこにはあった。

 

金剛「明石、大丈夫デスカー!?」

 

16時10分、重巡鈴谷被弾。

 

明石「“か、艦橋は無事です!”」

 

提督「良かった・・・。」

 

 

 

明石「損害箇所チェック、報告及び修復急げ!」

 

副長「!(はいっ!)」

 

その数分後に集計された損害状況は次のようなものだった。

 

着弾したのは3発、そのうち1発が艦首甲板を貫通して爆発、損害軽微。

1発が右舷中央部喫水線上舷側に着弾、艦内工場の設備の一部が破損した。

もう1発は艦尾甲板を貫通して中甲板で爆発、居住区画で火災が発生していた。

 

 

明石「“戦闘行動に支障はありません、修復が完了次第戦闘を再開します。”」

 

提督「分かった、無理はするなよ!」

 

明石「“はい!”」

 

直人は思っていたより被害が少なかった事に安堵していた。が、ここで更に状況が急転する。16時20分、鈴谷被弾の10分後の事だ。

 

朝潮「正面の敵、転進、離脱します!!」

 

提督「なに・・・?」

 

直人はその報告に敵の意図を測りかねた、彼らにしてみれば、敵は明らかに優勢だった筈なのだ。

 

金剛「観測機から報告デス、周辺に他に敵艦隊ナシ!」

 

提督「―――まさか!」

 

金剛「逃げられたデス。」

 

直人は漸く、自分達の苦戦していた状況は、敵による局地優勢の確保であった事を悟ったのだ。

 

提督「くそっ・・・まぁいい、退いてくれるというなら『正面、新たな敵!!』ええい今度はなん・・・だ!?」

 

榛名の報告に目を剥いて正面を見た直人だったが、見た方向にはとんでもない相手がいた。

 

 

アルウス「ここまでだ、艦娘共。」

 

金剛「空母棲鬼!」ガチャッ

 

提督「待て―――!!」

 

金剛「!?」

 

直人が思わず艦娘達を制止した。

 

提督「―――成程な、我々が“アルウス級(クラス)”と呼んでいたのは、上の連中が“空母棲鬼”と呼んでいる奴だった、という訳か。」

 

驚くべき事に、というべきだろうが、作者も含め我々が良く知る『空母棲鬼/棲姫』とは、まごう事無き超兵器級深海棲艦、超巨大高速空母「アルウス」の事だったのである。アルウスは極初期からいる為、他の超兵器と違い鬼級や姫級と同列に見られていたのだ。

 

金剛「ウソ・・・あれが、超兵器級!?」

 

アルウス「ほう、博識な奴も人間にはいるのだな。」

 

提督「なに、辛うじて生きて戻った偵察機が、お前の写真を撮影してアルウス級だと報告していたものでな。」

 そう、以前アルウスによってサイパン島が空襲された際に、索敵機が写真偵察ミッションを成功させていたのだ。その時撮影されたアルウス級とされたものの特徴が空母棲鬼の特徴を持っていた事と、トラック島にアルウスクラスの深海棲艦がいる事は着任前から知っていた諜報結果で把握していた為、判断に困っていたのだ。

 しかし彼は遂に実物を見た。それは、以前航空撮影された様々な超兵器級深海棲艦の写真を、曙計画の時に回覧した際に見た『クラス不明(超兵器級と推定・仮称「空母棲鬼」)』と同じで、トラック棲地を九七式艦攻を使い最初に偵察した際や潜水艦偵察からも、アルウスと断定できる材料は多かったのだ。

 

アルウス「ふん、成程な。情報収集に余念は無かった訳か。」

 

提督「情報収集は近代戦の基本だ、情報無くして戦は出来ん。そうだろう?」

 

アルウス「しかしあれだけの精鋭艦隊を相手にあれだけの奮闘ぶり、流石はサイパン艦隊だな。」

 

提督「そちらこそ、訓練を重ねた突破戦術がてこでも通らぬとは、流石の采配だ。あの采配も貴官が?」

 

アルウス「あれは副官の采配だ、私が、その殿を自ら引き受けてやるだけの事。」

 

提督「成程? 簡単には通さぬという訳だな。」

 

アルウス「その通り、同胞が逃げるまでの間、時間を稼がせて貰おう。」

 

提督「トラックを捨てるのか?」

 

アルウス「それが夏島からの命令なのでな。」

 

提督「ほう、相分かった。ならば不束ながら、小官がお相手仕る。」

 

そう言って艤装に改めて霊力を行き渡らせる直人。

 

アルウス「一騎打ちか? 面白い。各艦下がっていろ。」

 

提督「各艦へ、手出し無用。但し経過は記録して構わん。」

 

金剛「提督・・・。」

 

陸奥「無理をしないで頂戴よ?」

 

物凄く心配されている様子の直人だったが、直人はこんな時でも気楽に振舞って見せた。

 

提督「安心しろお前達。何も死ぬまでやりあう事もあるまいて。」

 

ウィンクしながらそう言う直人。

 

金剛「いやどんな根拠デース?」

 

提督「ただの時間稼ぎなんだろう? なぁ?」

 

アルウス「―――!」

 

その言葉に当のアルウスも驚く。即ち彼は勝利か死かの果し合いではなく、勝利か敗北かの一騎打ちをあくまで望んだのである。

 

提督「ここはひとつ、騎士道に則った一騎打ちでやろうぞ。」

 

アルウス「―――良かろう、望む所!」

 

応じたアルウスの顔には、真剣な顔つきながらも何処か爽快感が滲み出ていた。

 

 

そして行われた戦いは、およそ“艦娘”のそれとはかけ離れた次元のものであった。

 

両者共に60ノット近い速力で走り回り、巨弾が互いの間を飛び交い、水柱の数知れず、何度ウェーキ(航跡)が交錯したかさえも、それを正確に数え得るものは居ない。アルウスに至っては被弾しているにも拘らず、それを窺わせる風もない。

 

両者の艦載機が、上空で相打つ死闘を繰り広げてもいる。それでさえもが、他の艦載機にとってみれば別次元の戦闘であった。景雲が舞い、震電が食らい付き、敵の猫型艦載機や青色戦闘機の大群と互角に渡り合う。

 

零戦では“介入する事さえ許されざる”空中戦が展開されていたのだ。

 

艦娘達に出来たのは、ただ見ている事だけ。たとえ彼に制止されていなかったとしても、余りにも次元の違う戦いに介入する余地などあろう筈はない。現にそのスピードは、艦娘となった彼女らには未体験のものだったという事実を、疑う余地は無いからである。

 

裂帛の気合いをぶつけ合い、砲撃を交える事30分、俄かに両者の動きが止まる。

 

 

提督「はぁ・・・はぁ・・・」

 

アルウス「・・・。」

 

両者共に息が上がっていた。しかしその砲は油断なく照準を付けている。

 

アルウス「やるな・・・ただの人間だと思ったが、そうではないようだ、中々のタフさだな。」

 

提督「人並み以上に、鍛えているからな・・・。」

 

アルウス「頃合いだ、退かせて貰おう。再戦を楽しみにしているぞ、“紀伊”よ。」

 

提督「――――そうだな・・・願わくば、次は平和的に話でもしたいものだが。」

 

アルウス「フン・・・ではな。」

 

“空母棲鬼”アルウスは、踵を返し、東に向け去って行く。

 

大和「提督、追わなくては――――」

 

提督「待て。」

 

大和「しかし!」

 

提督「お前も見ていただろう、一騎打ちは引き分けに終わった。互いに敬意を示し、引き下がる事が暗黙の了解だ。」

 

大和「・・・そうですね、“戦う相手には、常に敬意を以って接するべし。”提督はそう仰っていますね。」

 

提督「宜しい、そう言う事だ。」

 

大和は直人の日頃からの言葉を思い出し引き下がる。彼はことあるごとに『戦うに当たっては、相手への敬意を忘れぬ事』『退く事を恥と思う事なかれ』『生きる事を第一とし、戦う事を第一とするなかれ』と訓示している。彼は七生報国の言葉の意味をよく理解する指揮官である。

 

だが、直人の行為にもう一名納得がいかない者がいた。

 

霞「なんでよ!? 敵に情けをかけるつもり!?」

 

提督「情けを捨てて闇討ちするか? 騙し討ちの汚名を被って沈みたいなら勝手にするといい。」

 

事実、完璧であった筈の奇襲が、騙し討ちの汚名を被せられてしまったのが真珠湾攻撃であった。決して名誉な事ではない、それは屈辱的である事に違いはない。

「そ、それは・・・。」

しかし流石の物言いに霞もたじろいだ。そこへ追い打ちをかけるように彼も言う。

「いいか、俺達は敵艦隊を撃滅する為に出撃した訳ではない。分かるな? 霞。」

 

霞「―――そうね、そうだったわね。分かったわ。」

 そう、今回の目的はあくまでもトラック棲地―――チューク諸島の解放にあるのであって、敵艦隊と決戦を行う事ではない。決戦の機会など、今後打ち続く長い戦いの中でいくらでもあるならば、今性急に決戦をする事は無いのだ。

そもそも、それだけの態勢はまだ整えられていないのだ。

 

提督「全艦一度鈴谷に収容だ。俺も艦に戻る。各種チェックの後、戦闘可能艦は再出撃して対地砲撃に参加するんだ。」

 

金剛「了解デース、朝潮、戻りますヨ。」

 

朝潮「はい・・・。」

 

以前朝潮は敵を完全に撃滅する事を進言した事がある。その朝潮にとってみれば、直人がそう言う事は予想出来てはいたものの、今一つ煮え返らぬところがあった事は否定できない。

 

提督「疲れたー・・・。」

 

直人は既に力を抜いて、戦いの余韻を掃おうとしていたのだった。

 

 

直人の敵に対するこうした行為は、一部の艦娘からは支持や称賛を受けていた。彼の行いは騎士道に則った慈悲深く、堂々たるものであり、高潔な精神だとする意見がそれだ。しかしながら一部の艦娘からは快く思われていない事も事実であり、後にそれは、明確な形を持って噴出する事になる。

 

 

17時22分、横鎮近衛艦隊は艦隊状況の把握を完了し、艦隊決戦を切り抜けた艦娘達を再び展開した。

 

艦娘の損害状況であるが、ざっとこんな感じである。

 

大破:鈴谷・巻雲・五月雨(一水打群)

   龍驤・雷・子日(第一艦隊)

中破:榛名・陽炎

   扶桑・妙高・足柄

   加賀・飛鷹・隼鷹(一航艦)

小破:蒼龍・摩耶・北上・大井・夕雲

   大和・陸奥・高雄・那智・熊野・長良・五十鈴・舞風

   比叡・霧島・赤城・祥鳳・加古・多摩・那珂・磯波

 

(上から一水打群・第一艦隊・一航艦の順に表記)

 

直人が鈴谷のカバーに行った隙に、被害が増大していた形にこそなるが、幸いな事に鈴谷が轟沈しなかった事がせめてもの幸運であった。鈴谷の怪我も、艤装の身体保護が働いて何とか軽傷で済んでいた。が、艤装へのダメージが大きく、地上砲撃には参加できないとされた。

 

明石「流石に地上砲撃は指揮して下さい!」

 

提督「デスヨネー。」(´・ω・`)

 

出撃は止められてしまった。というのもアルウスとガチな殴り合いをした為燃料も弾薬も補充が利かなかったのである。(他艦娘への補充が優先された為)

 

提督「えーっと今装備してるのは?」

 

明石「今回は上段砲(3番/4番砲)に15.5cm3連装砲、甲板直置きの下段砲に20.3cm連装砲を装備させました。」

 

提督「混載だったか、良かろう。」

 

明石「はい、射撃管制も砲口径ごとに別個装備させておりますので御安心下さい。」

 

そう、口径が異なる砲の混載は、重量差もさることながら射撃管制も問題となる。しかしながら、15.5cmと20.3cmの射撃管制装置を別々に前檣楼に無理矢理装備、甲板に直接装備している20.3cm砲の方が重量も重い為、ウェイトの方もばっちりである。

 

提督「――――えぇ・・・。」

 

その詰め込み方に直人さえもがドン引きした。

 

明石「て、提督、引いてます?」

 

提督「い、いや、ソンナコトナイヨー。」

 

明石「じゃぁなんでカタコトなんですか。」

 

提督「ハハハ・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

もう完全にはぐらかしにかかる直人であった。

 

 

18時03分、横鎮近衛艦隊は遂に、トラック環礁内に突入を開始した。赤色海域における艤装の腐食については明石の処置が功を奏し、一切影響はない。空は棲地特有の厚い黒雲に遮られて空さえ見えない。

 

提督「で、船体にもその処置を施しちゃったと?」

 

明石「はい一応。」

 

提督「全くつくづく頭の切れる奴だよお前は。」

 

明石「お褒めに与り光栄です。」

 

そう言って明石は恭しく頭を下げて見せる。

 

提督「まぁ時折とんでもないものを持ってくる時もあるがね。」

 

明石「それどういう意味ですか提督。」

 

提督「さぁ? どういう意味でしょうね?」

 

明石「うぬ~~~・・・。」

 

良くも悪くも凄腕の造兵廠長、それが明石という艦娘であった。

 

提督「射程まであと何分だ?」

 

副官「――――。(25分程です。)」

 

提督「結構、左砲戦用意。目標、夏島。全艦通常弾及び三式弾交互に用意。」

 

副官「―――!(了解しました!)」

 

金剛「“了解デース!”」

 

今回砲撃に参加するのは、第一艦隊の残存艦艇に、金剛と第八戦隊、第十四戦隊と、一航艦所属の第六戦隊とを加えた部隊である。空母部隊は夜間空襲が出来るとは言え、その戦力が半減していては何ともならない為、今回は残置させた。また水雷戦隊に関しても、駆逐艦と軽巡だけを徒に増やした所で効果は薄い為、一水戦のみの参加としている。

 

北西側の水道から侵入した鈴谷と艦娘部隊は、そのまま殆どコースを変えず、夏島を左に見るコースで直進する。水上機による弾着観測の用意は既に整えられている。

 

提督「さてと、どうなるやら。」

 

金剛「“敵砲台発砲!!”」

 

提督「まだ3万5000以上距離がある、威嚇だ。」

 

金剛「“デスネー。”」

 

夏島方面に数条の発砲炎の光が煌いたのを彼も確認していた為左程の驚きはない。

 

提督「全艦惑わされるな、落ち着いて距離を縮めろ。」

 

直人はむやみに混乱する事を避けるべく尽力する。

 

そして18時30分―――――

 

 

提督「全艦射撃開始!!」

 

遂に鈴谷の合計12門の火砲が一斉に火を放つ。通常弾(榴弾)と三式弾を口径別にちぐはぐにするように射撃している為、効果は絶大だ。射撃管制についても口径別なので、同一口径で混合射撃する時と違い弾道の差もさほどではない。

 

そして敵の頭上は既に、吊光投弾によって昼と見紛わんばかりに照らし出されていた。

 

明石「敵の第一弾、来ます!!」

 

 

ドドドオオオォォォーーーー・・・ン

 

 

明石「初弾夾叉、回避運動を!」

 

副長「――――!(取り舵一杯!)」

 

提督「固定砲台だけに、やはり凄い精度だな。」

 

周囲海面に初弾から夾叉される重巡鈴谷、そして沿岸砲というものの精度に改めて舌を巻く直人である。

(射撃側から見て敵を前後に挟んで(または囲んで)弾着させた事を軍事用語で“夾叉(きょうさ)”と言い、射撃諸元が正しく、多少の諸元修正により命中を“期待出来る”と言う状態を指す。)

 

左舷見張員

「“敵泊地守備艦隊、出撃してきます、数は少数です!!”」

 

提督「大凡の数を報告しろ! “少数”では分からん!!」

 

左舷見張員

「“は、はい―――――およそ100前後、重巡級は認められません!”」

 

提督「成程、基地守備艦隊も可能なだけ逃がした訳か。水雷戦隊で対処せよ!」

 

川内「“了解! 夜戦だあああああ!!”」

 

提督「暴れてこい!」

 

川内「“うん!!”」

 

直人はこの事あるを見越して出撃させていた夜戦専門の“猟犬”を解き放った。川内に率いられた駆逐艦部隊は、正に鎖から解き放たれたが如き勢いで敵の小艦隊に向かい突進、殺到する。

 

提督「・・・餅は餅屋ってね。」

 

明石「そうですねぇ。」( ̄∇ ̄;)

 

 

ドドドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

提督「とととっ、そんな事言ってる場合じゃないな。怯むな! 撃ち返せ!!」

 

鈴谷と沿岸砲台との間で激しい砲撃の応酬が続く。そこへ艦娘艦隊が基地への攻撃を加え、また基地守備艦隊と夜戦を開始していた。

 

 

しかし、闇夜の襲撃者は、敵にもいたのである――――――

 

 

右舷見張員

「“右舷方向、不審な船影見ゆ!!”」

 

提督「右舷だと・・・?」

 

前檣楼見張員

「“先の右舷敵影発見、小型艇級です!!”」

 

提督「何ィ!?」

 

まとめて“深海小艦艇類”と総称される深海棲艦の中でも最も小型な部類、その種類は様々で、例えば哨戒艇だったり沿岸砲台だったり、はたまた強襲揚陸用舟艇だったりする。

 

しかしこの時襲って来たのは、最も恐るべきものだった。

 

右舷見張員

「“あ、あれは、“PT小鬼群”、高速魚雷艇集団です!!”」

 

そう、ブラウザ版艦これでも一時期提督達を震撼させた、PT小鬼群が鈴谷目掛けて襲い掛かって来たのである。

 

トラック泊地内には四季諸島と七曜諸島と日本統治時代に呼ばれていた11個の主要な島と、環礁を囲んでいたり主要な島々にくっついた小島が沢山ある。

 

当然ながら、そこから小型艇が出撃してくる可能性は大いにあるのである。

 

明石「一体どこから!?」

 

提督「その辺の島からに決まってるだろう! 右舷、“副砲”榴弾射撃用意!!」

 

副砲射撃指揮所

「“右舷、副砲榴弾射撃用意!”」

 

射撃指揮所から復唱の声が帰ってくる。しかし鈴谷は『重巡洋艦』である。一体副砲がどこにあると言うのであろうか。

 

 

夏島「スマンナ、魚雷艇達ヨ。私ノ不始末デ逃ガシ切レナカッタ・・・。」

 

夏島は基地守備艦隊退避に当たり、可能な限り小艦艇類の輸送による離脱も試みたのだが、良くて重巡しかいないそれらによる試みは中途半端に終わり、夏島はその事を悔いていた。基地に守備部隊無しとする訳にもいかない事も要因であったが、故に夏島は一つの無謀だが最善の策を編み出したのだ。

 

夏島(水雷戦隊で敵の水雷戦隊を引きずり出し、背後から魚雷艇による夜襲を行うと言う構図は図に当たった、何処までうまくいくことか・・・。)

 

そう、夏島決死の策によって、泊地砲撃自体が本来罠である筈だったのだ。しかし直人には、隠し玉があったのである。

 

 

鈴谷の表面上最も顕著な動きは右舷中央部舷側で起きた。中甲板付近に突如として開口部が現れたのである!

 

その数6カ所、そこから海面を窺うのは、口径12cmの単装砲である。

 

これら副砲群は中甲板(中央通路や食堂と同階層)の一番外側、言ってしまえばブリーフィングルームや艦内訓練区域、艦内工場の更に外側に砲郭(ケースメイト)式に収められているのだが、非使用時にはハッチとなっている舷側鋼板が閉じており、あたかも何もないように偽装しているのである。

 

提督「高角砲側の射撃準備も出来ているな?」

 

副砲射撃指揮所

「“高角砲も榴弾を装填済み、水平射撃、いつでも行けます!”」

 

提督「宜しい、指揮所の判断で射撃開始、1本たりとも投射させるな!」

 

副砲射撃指揮所

「“了解、初の実戦運用ですが、ご期待に応えます!”」

 

PT小鬼群との距離が8000まで縮まった所で右舷副砲と高角砲が立て続けざまに火を噴いた。右舷10門ある小口径砲が、その想定された用途である敵魚雷艇に対して、その猛威を振るったのだ。

 

更に12cm砲は平射砲と言っても砲弾重量が軽い事を生かした速射で発射間隔も非常に短い。これに右舷の探照灯も手伝って、敵魚雷艇周囲にはたちまち白夜の如き明るみの元に地獄絵図が描き出された。

 

たちまち直撃され撃沈される艇がある、至近弾で致命傷を負った艇もある、てんで見当違いの方向へ魚雷を放って逃げようとするものもある。それさえも数瞬経てば海底へ送還される末路を辿っていた。

 

 

右舷見張員

「“敵魚雷艇群遁走! 投射された魚雷も大分手前で海没しました!”」

 

提督「大変結構!」

 

終わってみれば、右舷副砲はそそくさと格納され、元の姿に戻っていた。そして鈴谷は完全に無傷。

 

 

夏島「ナッ・・・魚雷艇ガ・・・!?」

 

辛うじて逃げ延びた魚雷艇隊から報告を受けた夏島は、砲弾が降り注ぐ中で絶望感に囚われる他なかった。既に周囲は火の海と化し、棲地が形成されて以来の施設など跡形もない程に破壊し尽くされた。

 

守備艦隊も既に全滅し、砲台はその9割強が既に破壊の業火に飲み込まれ消滅した。今は夏島のみが、ただ唯一、近衛艦隊に対抗しうる最後の手段であった。

 

夏島「フッ・・・万策尽ク、カ・・・。」

 

直後、夏島に、金剛から放たれた46cm砲弾が降り注いだ――――。

 

夏島(終わり、か・・・だが、ただでは死なん。後を託すぞ、アルウス――――)

 

 

 

 

ズズズ・・・ン

 

 

最後に響き渡る巨大な爆発音、それが、トラック棲地の終焉であった。

 

 

 

 

アルウス「――――!」

 

その事を、アルウスはトラック諸島の東方海上で悟った。

 

ル級改Flag「アルウス様・・・?」

 

アルウス「・・・夏島が逝った。」

 

ル級改Flag「そ、それでは――――!」

 

アルウス「あぁ・・・我々の負けだ。」

 

アルウスは、自分達の負けを噛み締めていた――――だが彼女は聞かされていなかった。

 

――――夏島は事前にアルウスにも告げる事無く、最後の一手を用意し実行していたと言う事を・・・。

 

アルウス「――――これまで長く付き合ってきた、多少癖のある奴だったが・・・。」

 

ル級改Flag「・・・残念ですが、これが戦争です。これまでにも、我々は――――」

 

アルウス「分かっているインディアナ・・・仇は、必ず取るぞ。」

 

ル級改Flag「お供致します、アルウス様。」

 

アルウスは夜の洋上で、仇討ちを決意するのであった・・・。

 

 

6月12日20時20分 トラック棲地北西近海

 

明石「全艦収容、終わりました!」

 

提督「よし、第二戦速、当海域を離脱しよう。」

 

副長「―――、――――。(第二戦速、海域を離脱!)」

 

明石「天測班より報告、敵棲地は完全に消滅、黒雲は徐々に消えつつあるとのことです。」

 

提督「そうか・・・これで、サイパンに対する直接的な脅威は、去ったと言えるな。」

 

直人は漸く、一仕事終えたと言う実感を持っていた。

 

明石「西太平洋の通商航路保護も、やり易くなりますね。」

 

提督「いやー全くだ。これで潜水艦の跳梁も減るとありがたいんだが。」

 

明石「しかし、敵潜の阻止も難しいですからね。」

 

提督「今度それに関して意見書出してみようかなぁ・・・。」

 

潜水艦の偏在性については、以前説明した通りである。阻止する事も捕捉でさえもが、困難を極める事は言うまでもない。

 

提督「今回の件については追って報告だろうな・・・全く面倒な事だが。」

 

副長「―――――――――。(それは独走に対する自己責任ですから。)」

 

提督「分かってるよ、久々に本土に飛ばねば。」

 

明石「同時に休暇も取らせるんですか?」

 

提督「状況次第だな。取り敢えず大本営に打電、作戦成功とな。」

 

明石「分かりました、起案は私でいいですか?」

 

提督「あぁ、いいぞ。」

 

明石「分かりました!」

 

20時50分になって重巡鈴谷はトラック諸島近海を離脱、14ノットの速度で海域を後にする。彼らにとってのこの戦いは、終わりが近づいている―――――。

 

 

21時13分 横鎮本庁・司令長官室

 

サイパンから順次中継され横鎮に到着/解読した鈴谷からの函数暗号文を、土方海将は夜の司令長官室で読んだ。日本では丁度梅雨時と言う事で、少々ぐずついた天気である。

 

土方「そうか・・・紀伊君は、我々に課された壁の一つを、見事越えて見せてくれたか・・・。」

 

副官「では・・・。」

 

土方「そうだ、横鎮近衛艦隊は作戦を成功させたよ。」

 

受け取った通信文は要約すると次の如し

『横鎮近衛艦隊は20時50分、トラック棲地に対する所定の行動を完結、その中枢部の撃破に成功せり。』

 

土方(あの時、あれだけ反発していたのにな・・・そうか、紀伊君としても、ハードルの一つを越えた訳だな。)

 

直人は北マリアナ方面の解放作戦を幹部会に命じられた際に、面従腹背で承諾した背景がある。そうしてみると今回の攻撃は、それ自体が大きな決断であり、一つの挑戦でもあった訳だ。作戦結構前、金剛にだけ漏らした不安も、むべなるかな、である。

 

土方「翌朝一番で山本海幕長に回せ。」

 

副官「はい。」

 

 

一方の直人は・・・

 

~重巡鈴谷前檣楼・艦長室~

 

提督「本当に良かった・・・上手くいって。」

 

金剛「それもこれも、提督が堂々としてたからネ。」

 

金剛に心境を吐露していた。

 

金剛「指揮官が堂々としていなければ、その部下も動揺する、戦場とはそう言うものデス。」

 

金剛は何かを語る時には流暢である。語尾は健在だが。

 

提督「そうだな、俺としては言わずもがなの事だが、棲地攻撃と思うとな・・・。」

 

金剛「会議室ではあの様子デシタシ。」

 

提督「あ、アハハハハ・・・。」

 

苦笑するしかない直人である。

 

提督「でも、お前達も随分頑張ってくれたよ、少々無茶をした奴もいたけども。」

 

金剛「するべき事をしたまでデース! そ・れ・に、ナオトが助けに来てくれマシタ♪」

 

提督「おめーがよく考えず罠に嵌るからでしょうに。」

 

金剛「うぐっ、ソレハ・・・。」

 

痛い所を突かれる金剛であるが、直人も洞察していて敢えて罠に嵌る所を見ていたのだからなんともはやである。

 

提督「だがまぁ、失敗また是経験也だ、完璧過ぎると言うのも宜しくない。」

 

金剛「石田三成デスネー?」

 

提督「そーゆー事。」

 

石田三成は知っている人は知っている通り、財政のプロフェッショナルとして豊臣政権下で活躍した官僚系(文知派)の武将である。が、その仕事ぶりは完璧であり、その手際の良さは、主である豊臣秀吉が厚い信任を置くものでこそあったが、その当時のそれは余りにも完璧に過ぎ、失敗したと言う話がどこを洗っても出てこない。

 

秀吉は“それでは他の武将からどの様に見られるとも知れぬ”としてこれを是とせず、『誰でも一つはある失敗談を持たせる』と言う目論見で北条攻めの際、後北条氏が建てた関東七名城が一つ、忍城攻略の際に、成算の低い水攻めを行うよう裏で指示していたという説がある。結果三成は『戦下手』のレッテルを張られ、大きく評判を落とした。

 

余談だがその際増援に派遣された武将の中に、真田昌幸・信幸父子らが含まれていた。

 

提督「何よりまず、戦い終わった後、その結果を研究する事が大事だ。そうでなければただの結果と経験になってしまう。どうしてそのような結果になったのか、失敗してもどうすればよい結果になったのか、そうした事を研究しなければ、戦術と言うものは進化しない。特にお前達艦娘の様に、多数による戦闘を行う場合は陸戦戦術に準拠する事になる、これは必然だ。艦艇の様に、陣形を組んで並行し撃ち合うと言う芸当は本質として向いてないんだ。戦い方が違う以上、しっかり経験を積み、研究を重ねる事だ。」

 

金剛はここまで相槌を打ちながらメモを取って聞き入っていたのだが、そこで一つ疑問が生まれた。

 

金剛「でもそれだと、再現する相手がいないデース。」

 

提督「うん? それは――――うーん・・・。」

 

この切り返しに直人は思わず黙り込んでしまった。

 

金剛「深海棲艦はとにかく数が多いネ、それを演習で再現する事は難しいデス。」

 

提督「それについてはバルーンを使ったレプリカと言う手もあるが、一番現実的なのは兵棋演習かな・・・。」

 

金剛「テニアン島の深海棲艦に協力を仰ぐ事は出来ないデスカー?」

 

提督「それは・・・えぇ・・・?」

 

金剛の提案はそれとしては悪くは無いのだが、相手は仮にも虜囚の身である。そんな事をやってもいいのかと言う思いがあって答えを返しあぐねた。

 

金剛「あっ、ゴメンナサイ提督、ワタシったらつい・・・。」

 

提督「あ、いや、いいんだ・・・そうか、その手が無い事は無いのか・・・相手が相手だけども。」

 

金剛「テニアンの深海棲艦は捕虜でしたネ。」

 

提督「うん、だから難しい問題だこれは。しかも、言う程の数はいないじゃないのよさ。」

 

そう、テニアン捕虜収容所に深海棲艦が言う程の数いる訳ではない。500にも満たないのである。

 

金剛「忘れてたデース。」

 

提督「だよねー・・・。」

 

金剛「それはトモカク、無事に終わってよかったネー。ワタシも一時どうなるかと・・・。」

 

提督「ハハハ、お疲れ様。」

 

金剛「お互いにネー?」

 

提督「そうだな。」

 

直人と金剛は二人して無事の作戦終了に安堵するのであった。

 

 

 常々直人が死ぬなと公言している事からも分かる通り、彼は一人として、艦娘達を失いたくはないのだ。それはただのエゴではない、人道主義に基づく、彼の思い描いた理想であった。その根幹にあったのは、“気付けばそれは始まっていた”戦争によって荒廃した日本の姿と、生まれた頃の日本の姿との対比。

 

そして、他ならぬ彼にとっても、突然にして失う事が多かった彼にとっての大切なもの。

 

 

――――――縁戚、友達、隣人、想い出、夢――――――

 

 

【もう、何も失いたくない。】

それは、「提督」紀伊直人ではなく、『人間』紀伊直人が、自らも知らぬ所で抱き続けた想い。先の見通せない程に暗いこの時代を生きて、生きて行く内に、彼の心の深層――――無意識の中に刻み付けられ続けた、それは一種の執念であり、絶望でもあり、暗いイドの底に投げ捨て続けてきた、無力感でもあっただろう。

 

紀伊直人と言う人間でさえも、この10年以上続けられてきた深海との戦争で、様々なものを奪われ、失ってきた。しかしてそれでも、明るさを絶やさず前を向き、歩み続けてきた一人の男の、深く、人に理解されるには余りにも深く、意識の上で“人道主義のヴェール”に包み込まれた、それは願いであった。

 

・・・そしてその願いは、“今の所”、叶えられていた――――――。

 

 

6月14日10時11分 サイパン司令部中央棟2F・提督執務室

 

大淀「後2時間程で、提督がお戻りになられますね。」

 

提督不在時の代行役である大淀は、執務室で一人そう呟いた。

 

大淀(作戦も無事成功したと言う事でしたし、また提督のお元気な姿を・・・)

 

と何の気もなく思ったその時であった。

 

 

ズドオオォォォーーー・・・ン

 

 

大淀「えっ!? 一体何が―――――っ!」

 

大淀は咄嗟に窓から外を見た。司令部が攻撃されている――――

 

大淀「いけない、早く指揮をしなくては!」

 

大淀は慌てて執務室を出て、一階の無線室に転がり込むのであった。

 

 

~中央棟1F・無線室~

 

大淀「各監視塔へ、状況知らせ!」

 

ヘッドセットを身に付け開口一番に大淀は各監視塔に状況の説明を求めた。

 

「“分かりません、突然敵の砲撃が・・・”」

 

「“敵艦隊は我々の目の前に――――”」ザザアアアアアッ

 

「“こちらからは死角で、状況が把握できません!”」

 

「“敵は司令部南東側の崖の真下です、こちらの砲台は死角に付き撃てません!!”」

 

攻撃は熾烈を極める、司令部も含めサイパン島の施設には既に被害が出ている様子である。

 

大淀「なぜそこまで接近に気付かなかったのです!?」

 

突然の奇襲に大淀も慌てている。

 

「“そう言われましても、ここまで敵影なんて――――報告代わります!”」

 

突然応対していたある監視塔の通信手が別の妖精に代わる。

 

大淀「なんでしょうか?」

 

「“敵は潜航して接近したと考えられます、敵は出現地点にまだ留まっていますが、同じ地点に浮上したところを目撃しました!”」

 

大淀「敵の規模は分かりますか?」

 

「“小規模です、正規空母1、軽空母3、戦艦2、重巡7他少数の軽巡級と50前後の駆逐艦級がいます!”」

 

大淀「分かりました、Kg(カッグマン)・R(ラウラウ・ベイ)・Sv(サン・ヴィチェンテ)の各地区の砲台は、観測可能な砲兵観測所からの指示で弾着観測射撃を実施、Kf(キングフィッシャー)地区のキャピトル・ベイにある砲台は長距離砲撃を実施して下さい。」

 

大淀の指示が各所に伝達される。因みにこの地区分けはサイパンの防衛区域の名称である。この区分けについては章末に記載する。

 

大淀「続いて司令部防備艦隊は全力出撃をお願いします。」

 

鳳翔「“分かりました、出撃します。”」

 

既に鳳翔は準備を終えていたらしく、通信に出た。

 

大淀「お願いします、急いで下さい。」

 

鳳翔「“承知しました、出撃します!”」

 

流石鳳翔さん、実戦となると当然だが真剣である。

 

大淀「あ、そうでした・・・“非常事態に付き、駆逐艦吹雪も司令部防備艦隊と共に出撃して下さい。”」

 

と、大淀は全館放送で付け加えた。

 

 

~艦娘寮三号棟2F・吹雪の部屋~

 

吹雪「え・・・私、も・・・?」

 

吹雪は最初、その言葉を飲み込めなかった。しかし数瞬の後、吹雪は理解した。これは吹雪に対する、れっきとした出撃命令であると言う事にである。

 

吹雪「・・・行かなきゃ、司令官が帰って来られるように!」

 

吹雪は立ち上がり、寮を飛び出したのであった。

 

 

大淀(――――これで、いい筈です。提督も、お咎めにはならない筈ですから・・・。)

 

大淀の言っている事は正しい。これについては艦娘艦隊基本法の中で、艦娘に対する軍規違反の処罰に於いて、禁錮刑の例外として記載された条項だからだ。

 

だがこの事は、吹雪にとっては別な側面もあったし、直人にとってもそうでもある。そして大淀も、その事は承知していた・・・。

 

大淀「航空隊、全力出撃出来ますか?」

 

柑橘類「無理だな、余りに近すぎる上に急すぎる、鳳翔航空隊を出した方が早い位だ。出せるのは戦闘機くらいだぞ。」

 

大淀「では制空権掌握をお願いします。」

 

柑橘類「了解、緊急発進させる。」

 

そして柑橘類少佐のゴーサインで、常時待機中の緊急発進機が出撃する。

 

 

鳳翔「全機、発艦!」

 

天龍「行くぞ!!」

 

司令部防備艦隊久しぶりの実戦となったが、正直後手には回っていた。ここからどの様に次なる先手を打つか、それが鍵である。

 

大淀「“鳳翔さん――――――”」

 

そこへ入る大淀の通信、それを聞き鳳翔は

「―――――分かりました。」

と言う。

 

 

一方の直人はこの襲撃を早い段階で察知していた。この場に於ける“早い段階”とは襲撃『された事』を察知するまでのラグである。それは水平線に見えていたのだ。

 

~重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋~

 

提督「あれは、なんだ?!」

 

直人が指さした方向は艦首正面、水平線上に一条の黒煙が伸びていた。

 

明石「こんな時代に石炭船ではないでしょうし・・・まさか、あれは!」

 

そう、彼らが向かう先はサイパン島の艦隊司令部。つまり舳先のずっと先には、サイパン島があるのだ。

 

提督「明石、司令部に連絡を取れ、最大戦速! 総員第一級戦闘配備、昼寝してる奴は叩き起こせ! 飯の下ごしらえも後だ急げ!!」

 

明石「しかし提督、本艦の補給用弾薬残量の欠乏により、全艦は出せません!」

 

提督「構わん、鈴谷副砲の使用分を艦娘に回せ、背に腹は代えられん! それより司令部にコンタクトを取る方が先だ!」

 

明石「はい!」

 

仰天した直人であったがその対処は正確さを欠かなかった。それはこうした襲撃が既に慣れっこであったからであろう。

 

提督「妙だと思ったんだ、敵の港湾守備隊が少ないと思ったら、一部がこちらの基地の奇襲に回されていたとはな・・・。」

 

正確には撤収と要港防備、そして奇襲と三分割されていたのだが、それを知る由もない直人は戦力が二分されていたものと思ったのである。

 

 

一方で出撃した司令部防備艦隊は、ものの数分でたちまち戦闘に突入していた。

 

~10時31分・司令部正面水域~

 

夕張「普段訓練に使ってる海域が戦場になるなんて、分からないものねぇ。」

 

天龍「やるっきゃねぇだろ。」

 

もう実戦を数度経験し、慣れた風で言う二人の軽巡艦娘。

 

吹雪「こ、これが、実戦・・・。」

 

そして初めて実戦を目の当たりにし思わず息を飲む吹雪。

 

天龍「吹雪か、こないだは災難だったな。」

 

吹雪「それについてはもう大丈夫です、私が悪いのは分かってるので・・・。」

 

天龍「ん、そうか。それが分かったんならいい。ま、今回で結果を示して見せる事だな。」

 

吹雪「はいっ!」

 

吹雪は初の実戦で気合いが入っているようだ。空回りしない事を祈ろう。

 

 

柑橘類「そーらどいたどいたぁ!!」

 

柑橘類少佐は空母鳳翔より、零戦五二型甲を駆って出撃し、敵空母から出撃した艦載機に対応していた。

 

鳳翔航空隊は全機が発艦を終えており、更にサイパン飛行場からの迎撃機も逐次発進を始めていた。

 

 

阿武隈「砲撃開始!」

 

一方吹雪と同じく初実戦の阿武隈は、訓練通りに砲撃を開始した。

 

天龍「続くぞ、砲撃開始!!」

 

龍田「はぁい♪」

 

軽巡各艦がこれに続く。

 

名取「突入準備、吹雪さんも合図でお願いします。」

 

吹雪「はい!」

 

一方で名取は鳳翔から大淀の話を口伝てに聞いていて、事情を把握していた。

 

長月「ん? どうするんだ?」

 

名取「大淀さんの策らしい、と言う事しか分かりませんが、それに従おうと思います。」

 

長月「んん・・・?」

 

合点が行かず思わず眉間にしわを寄せる長月、その横で睦月が

「あ、成程。」

と声を上げた。

 

長月「どうした睦月。」

 

睦月「―――――。」ゴニョゴニョ

 

長月「・・・もしそうなら部下の私心じゃないか――――」

 

睦月「シーッ!」

 

長月「・・・上手く行かなかったらどうするんだ?」

 

睦月「砲台の援護もあるし、提督が全力で帰って来るから大丈夫にゃし。」

 

長月「前者は兎も角後者の根拠はあるのか?」

 

睦月「無いのね。」

 

長月「無いのか・・・。」

 

睦月の「根拠はない」発言で肩を落とす長月。

 

菊月「ま、賭けようじゃないか。」

 

如月「えぇ、そうね。」

 

三日月「それで全てが丸く収まるなら。」

 

ワール「なになに~? 揃って私の同族倒すご相談?」

 

如月「ちょっと違うわね~。」

 

現れたのは技術局の居候ワールウィンド、自身の武装を装備して御登場である。

 

名取「な、なんでしょうか?」

 

ワール「大淀に頼まれたのよ、ある程度進捗したら降伏勧告をしてほしいってね。」

 

天龍「おいおい、また面倒が増えるな・・・。」

 

夕張「と言う事は沈めず生け捕りって事?」

 

ワール「そうなるわね、大淀の指示でもあるけれど・・・頼めるわね?」

 

つまり伝令も兼ねてやってきた訳である、これでは逆らう訳にもいかず、各々それを飲んだのだった。但し不可避の撃沈の場合は咎めない事とする、とのことだった。

 

弥生「敵も・・・庇ったり、するもんね・・・。」

 

皐月「難しいねぇ・・・でも、やってみよっか。」

 

まぁ色んな意味で思う存分主砲射撃が出来るのが睦月型であったが。(そこ、火力低いとか言わない。)

 

吹雪(やっと活躍出来るんだ、頑張らないと・・・。)

 

吹雪はこの時汚名返上の機会と考えていたようで、自然と手に力が入っていた。

 

 

~10時39分 重巡鈴谷前檣楼~

 

提督「クソッ、連絡が通じんか・・・。」

 

一方で重巡鈴谷は司令部とのコンタクトに失敗していた。

 

明石「かなり強力な通信妨害です、偵察機からは艦隊同士の戦闘は始まっているようですが、どの様な情勢かはもっと近づかないと分からないとの事です。」

 

提督「うぬぅ・・・仕方ない、状況が分かるまで出撃指示のあった艦娘は待機、それ以外は艦内のダメコン要員として指示を仰ぐように。」

 

副長「!(はいっ!)」

 

明石「了解。」

 

直人は取り敢えず全艦待機を命じ、全速力で鈴谷をサイパンへと向かわせる。1時間せずに射程圏内には辿り着ける筈だと見ていた。

 

 

~11時22分~

 

阿武隈「敵陣形、崩れました!」

 

夕張「敵の半数近くが被弾、前衛の後ろに隠れた模様、今です!」

 

名取「吹雪さん!!」

 

吹雪「いきます!!」

 

なにぶん少数同士の戦いである為中々勝負が着かなかったものの、ようやく司令部防備艦隊が敵の一角を崩す。

 

鳳翔「航空隊、吹雪さんを援護!」

 

名取「三十駆、吹雪さんを援護して下さい!!」

 

睦月「了解にゃし! 行くのね!!」

 

如月「了解!」

 

弥生「りょ、了解!」

 

吹雪が敵の崩れた箇所に対し突撃を開始、鳳翔の艦載機部隊と睦月・如月・弥生の3隻が続く。

 

吹雪「いっけぇぇぇーー!!」

 

 

ドォンドォォォン

 

 

吹雪が主砲を連射し肉薄する。しかし敵を生け捕りにすると言う方針の為魚雷は撃たない。

 

睦月「睦月の駆逐隊も後れを取っちゃダメなのね! 撃てぇ!!」

 

睦月が負けじと撃ちまくる。

 

柑橘類「おーおー、やってるねぇ。」

 

それを戦闘機隊である柑橘類少佐が、敵機を排除しながら横目で見る。

 

制空権は既に艦娘側が掌握、それでも諦めようとしない敵艦載機は再三の突撃を試みている状況である。

 

 

11時36分、吹雪と第三十駆逐隊の突撃に怯んだ敵の一部が降伏、そこに追い打ちをかける様にワールウィンドからの降伏勧告を受け、戦闘は終結した。これにより、47隻の深海棲艦が新たに捕虜収容所の仲間入りをした。

 

直後、鈴谷がサイパン沖に到着する。

 

 

11時43分 サイパン司令部沖合30km

 

提督「ほうほう―――――」

 

直人は軽装で鈴谷から降り、鳳翔からの報告を受けていた。

 

提督「・・・成程、大淀の判断は是とすべきだな。」

 

鳳翔「はい。事実吹雪さんは、敵を降伏に至らしめるのに十分な活躍をしました。」

 

提督「ふむ、そうか・・・吹雪、ちょっと。」

 

吹雪「は、はい・・・。」

 

直人は鳳翔の言を聞き吹雪を呼んだ。

 

提督「吹雪。」

 

吹雪「は、はい・・・。」

 

吹雪は自分が何か不味い事をしただろうかと思い俯き加減で返事をした。

 

提督「吹雪の軍功を第一とする。よくやってくれた。」

 

吹雪「司令・・・官・・・。」

 

その言葉が、吹雪の心に響く。

 

提督「併せて今回の功績を鑑み、駆逐艦吹雪の禁錮を本時刻より免除する。ありがとうな、吹雪。」

 

吹雪「あ、ありがとうございます、司令官! 嬉しいです・・・!」

 

提督「いい経験になっただろう、次からは本番だ、頼むぞ。」

 

吹雪「はい! 駆逐艦吹雪、頑張ります!」

 

 

その後、司令部防備艦隊を伴って帰港した直人は大淀にその旨を告げると、大淀はこう言ったと言う。

 

「それは、良い事を為されましたね、提督。」と。

 

提督「・・・??」

 

直人はその言葉の意味を悟るのに少々の時間を要したと言われる。

 

 

結局、トラック棲地は陥落し、その切っ先返しとも取れる反撃も軽微な損害で防ぎ切った横鎮近衛艦隊は、何とか勝ち星を挙げる事が出来たと言える。

 

ただ、事前の大本営への通告の遅れと、艦隊戦におけるいくつかのミスが、その戦略的な勝利に影響を及ぼす事も考えられる一戦であっただけに、提督として指揮した身である直人としては、冷や汗ものだった事は確かだろう。

 

だが、トラック棲地陥落/チューク諸島解放は、深海棲艦による西太平洋に於ける通商破壊をより難しくさせた事は事実で、かつパラオ・サイパン・父島方面への敵の攻撃をも、困難にさせ、更にソロモン方面への橋頭保を得たと言う点で、戦略的意義は大きく、ここに高雄基地から移転した艦娘部隊の到着により、その戦略拠点化は完成されるに至る。

 

後にこのトラック棲地の消滅は、『戦局の転換点の一つ』として語られるようになるのだが、それはまだ、先の話である。

 

 

6月24日 ハワイ諸島オアフ島・パールハーバー(“真珠湾”)

 

真珠湾「デ? 貴様ハ夏島ノ命デ艦隊ヲ統率シ撤退シタト言ウ訳カ?」

 

アルウス「そうです。」

 

真珠湾に入港したトラック棲地在泊の中部太平洋艦隊主力の残存は、各々補給を始めていた。そんな中でアルウスは中枢棲姫「パールハーバー」から詰問を受けていた。なお口調から分かる通りクローンであり、オリジナルが別に存在する。

 

真珠湾「フン! 夏島ハ戦下手トイウ風聞ハ誠デアッタカ。」

 

アルウス「恐れながら、夏島の判断は、現在戦線の再構築を進めている我々の状況を鑑みれば妥当と言えます。今徒に消耗すれば――――」

 

真珠湾「イイ訳ヲ聞イテイル訳デハナイ、私ハ貴様ノ敵前逃亡ノ責任ヲ問ウテイルノダ。」

 

アルウス「敵前逃亡などとはとんでもない事です! 我々は困難な撤退戦を――――」

 

真珠湾「敵ニ背ヲ向ケタ事実ハ何モ変ワランデハナイカ!」

 

アルウス「パールハーバー様!」

 

「まぁまぁ、待ちなさい――――。」

 

フォード島にあるパールハーバーの中枢司令室、そのドームに、凛とした声が響く。

 

真珠湾「“リヴァイアサン”様・・・。」

 

中枢棲姫がその姿を見て恭しく礼をした。

 

リヴァ「事情はこちらでも把握しているわ、こちらとしてはアルウスの言う通り、彼女達の判断は正しいと判断しているわ。」

 

真珠湾「シ、シカシ、コノ者達ハトラック棲地ガ陥落シタノヲ見テオメオメト――――」

 

リヴァ「逃げ帰った、と言いたいのでしょうけど、状況として、ただ引き下がった訳ではない事は、ちゃんと辻褄を合わせれば分かる事だわ。それに、アルウスは深海の未来の為に、これまでよく尽くして来たわ。それに責を取らせるのでは、私達は余りに情けが無さ過ぎると思わない?」

 

真珠湾「デ、デスガ――――」

 

リヴァ「いいことパールハーバー。“結果”を全ての事象として捉えたのでは、大勢を見誤るわ。しっかりと“過程”も見据えてあげる事ね。」

 

真珠湾「ハ、肝ニ銘ジマス。」

 

ベーリング海棲地で深海の長を補佐する身であるリヴァイアサンは、後の世にも沈着冷静で状況分析に秀で、情のある為人だった事が知られている。その仲裁によって、アルウスは不当な咎を免れたことになる。

 

しかしこの事には、深海にも階級が存在する事をも内包している側面も存在する。深海に文明的な生活は無いという学者も存在するが、それが空虚であるとする証拠がいくらでも存在する中で、この事はその一つとも言えるだろう。

 

 

2053年6月中頃、日本本土は雨天が続く中での中部太平洋での決戦は、横鎮近衛艦隊の“辛勝”で、幕を下ろした。しかし、それまでに失われた戦力を復旧し、また勢力図を塗り替えるに至ったここまでの戦いは、戦略的にも意義あるものであった。

 

しかし、人類は未だに脅威を一つ除いただけであり、彼らの戦いはまだ序盤戦を終えたのみに過ぎないのであるが、一度沈んだ西太平洋の陽が、今再び昇った事にこそ、取り敢えずは意義を見出すべきでもあった。

 

 そして直人にとって、『本当の戦い』の始まりが、近づきつつある――――。

 それは現代の若者らしい、そうした身の上で提督なった者としての特性――――。

 “無知の報復”の時が、刻一刻と迫っている――――。

 

 

―――第二部 完―――




艦娘ファイルNo.100

睦月型駆逐艦 弥生

装備1:12cm単装砲(⇒12.7cm連装砲)
装備2:なし(⇒12.7cm連装砲)

特に特異点も無い睦月型の三番艦。
口数は少ないが実力はきちんとあり、第三十駆逐隊に所属して司令部防備を担っている。


艦娘ファイル.101

巡潜乙型改二 伊五十八

初期装備なし

弥生と共にドロップ判定により着任した潜水艦娘の二人目。ゴーヤと呼ばれている。
伊百六十八(イムヤ)と共に初期の第一潜水隊を編成しており、イムヤと共にトラック沖で艦隊戦の初陣を飾り、敵艦隊の判断を混乱させる結果を生む戦果を挙げた。


○サイパン島北部
・ウィングビーチ地区(W地区)
 ウィングビーチ―バードアイランドリーフのライン以北

・サン・ローク地区(Sr地区)
 パウ・パウビーチ・旧サン・ローク市街及びその東側一帯

・キングフィッシャー地区(Kf地区)
 キングフィッシャー・ゴルフ・リンクス―旧タナパグ市街のライン一帯
 (キャピトル・ヒル付近を含む)

○サイパン島中部
・プエルト・リコ地区(P地区)
 旧プエルト・リコ市街―マリーンビーチのライン周辺

・カッグマン地区(Kg地区)
 旧カッグマン/カッグマン-Ⅲ市街・マリーンビーチ及びラオラオ・ベイゴルフコース付近

・ラウラウ・ベイ地区(R地区)
 サイパン中央部ラウラウ・ベイ一帯

○サイパン島南部
・ガラパン地区(G地区)
 旧ガラパン市街及びその東側一帯

・チャラン・キヤ地区(C地区)
 旧チャラン・キヤ、ススペ、オリアイ市街一帯

・サン・ヴィチェンテ地区(Sv地区)
 旧サン・ヴィチェンテ市街一帯

・アフェトナ地区(A地区)
 旧アフェトナ・チャランカノア市街及びコーラルオーシャンポイントゴルフコース一帯

・I・ファダン地区(I地区)※司令部周辺防備地区
 I・ファダン(アスリート飛行場)・旧ダンダン市街及びオブヤン・ラッダービーチ一帯

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