異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、天の声です。

青葉「青葉です!」

艦これ冬イベント.17、オール甲で貫き通しました。

青葉「改めましてお疲れ様でした!」

ありがとう。最後資材がホントに不足してたけど、まぁ何とかなったよ。これも様々にツイッターで助言を下さったり、ニコ生でも応援して頂いたおかげで気力が持ち堪えたからだと思います。ホントにきつかった・・・。

青葉「人の力は偉大ですね。」

実感させられるイベントでした。自分の艦隊の欠点なんかも洗いざらい出て来たイベントでもありましたので、その隙間を埋められるようにして行きたいですな。


さて今回何解説しようか・・・。

青葉「考えてなかったんですか・・・。」

ない。

青葉「無いんですね・・・。」

んじゃ今日はこれやるかい?

青葉「何ですか何ですか?」

ジャンっ[深海棲艦の武装について]テレレレッテッテッテー♪

青葉「えっ・・・」^^;

と言う事でゲストお呼びしました、どうぞ。


ワール「横鎮近衛艦隊客員艦、ワールウィンドだ。」

青葉「―――」

そーゆー訳なんで、宜しく。

ワール「元々それで呼ばれたのだ、引き受けよう。」

青葉「根回し早すぎィ!?」

(以下ワールウィンドの解説タイム)


さて、深海棲艦の武装にはいくつか種類がある。

一つ目は『艤装型』
 これは艦娘の艤装の様に装備の可否が効き、固有の意思を持たないタイプだ。
深海棲戦艦ル級や泊地棲鬼、諸君らが『空母棲姫』や『駆逐水姫/古姫』と呼んでいる深海棲艦の武装が一番分かりやすいだろう。空母棲姫の艤装は意思を持って居る様にも見えるが、あれはただの展開/格納の可動部に過ぎない事を押さえて置いてもらいたい。
私もこれに分類されるのだろうな。

二つ目は『一体型』
 字義の通り武装が肉体と一体化しているタイプで、やはり自我は持たない。当然だな、自分自身が兵器と化しているのだ。言わば体の一器官の様なものだから、それはそれで不便はしていないらしい。
深海棲駆逐艦イ/ロ/ハ/ニ級や軽巡級深海棲艦、深海棲戦艦タ級や量産型超兵器級深海棲艦レ級も該当する。『駆逐棲姫』についてはこれに該当する。と言っても推進部だけで、手の兵装は着脱できるから、艤装タイプと一体型のハイブリッド、と言えない事はないかも知れん。

三つ目は『隷属型』
 意志は持つものの、所持者の完全な影響下に置いて使役されるタイプの艤装だ。
非使用時は自我を持つが、使用時は所持者の意識にシンクロする形で完全に所持者がコントロールする様になる。
『空母水姫』や『南方棲戦鬼』、『離島棲鬼』などがこれに該当する。
犬のような物を想像するだろうが、そんな生温い物ではない。使う為にはそれなりに訓練が必要な為、おいそれとは量産できないらしい。

四つ目が『独立型』
 固有の意思を持ち、所持者の命令によって動く所謂独立機動兵装ユニットの様なものだ。こちらの方が主従という関係には近い。
『戦艦棲姫』や『防空棲姫』と言った姫級や鬼級の中にはこのタイプが存在する。
諸君らには馴染みの深い『潜水棲姫』もこのタイプだ。どうやら交差雷撃による艦隊殲滅攻撃を得意とするらしい。

タイプとしてはこの四種に大別されるが、一部には例外や複合型なども存在する為、一概には言えん。最も量産に適しているのは一体型ではあるが、艤装型も捨てがたいな、この二つのタイプをよく見かけるのもそれが理由だろう。


ワール「こんな所でいいか?」

うん、ありがとう、わざわざスマンかったな。

ワール「なに、最近少し手持無沙汰なだけだ。」

そっか。

青葉「深海棲艦とひとくくりに言っても様々な訳ですね、興味深いです・・・」メモメモ

我々にも様々あるのと同じ様に、彼らにも特徴があると言う事さ。何も可笑しい事じゃぁない、むしろ自然な事だよ。

さて、そろそろ始めようか。ワールウィンド、タイトルコール宜しく。

ワール「あぁ。第2部12章『南海の血戦』、本編スタートだ。」


第2部12章~南海の血戦―緊迫の豪州戦線―~

4月15日12時31分 ウルシー環礁東方790km沖合/重巡鈴谷食堂

 

 

「―――んだとテメェ!!」

 

真昼の艦内に怒号が飛んだ。

 

「もう一回言ってやろうか、“主力のお守り役”は黙って後ろからついてくりゃぁ良いんだよ。」

 

作戦前になると緊張でカリカリするのは一種仕方ない事なのだが、こうなると少々不味いものがある。

 

 

バタッ――――

 

 

摩耶「アタシがそん位しか出来ねぇってのか!?」

 

木曽「実際やってねぇだろう。」

 

榛名「ふ、二人とも落ち着いて下さい・・・!」(焦

 

 

ツカツカツカ――‐―

 

 

摩耶「なら代わりにやってみるか!?」

 

木曽「性分じゃないね。」

 

摩耶「この野郎―――」

 

更に言い募ろうとした正にその瞬間であった。

 

 

ゴッチーン☆

 

 

摩耶「なにすん―――っ!!!」

 

木曽「誰だっ―――!?」

 

提督「喧嘩両成敗、だの。」ピクピク

 

こめかみのあたりを震わせながら言う直人。相当お怒りである。

 

提督「何があったのか、つべこべは聞くまい。だが主力たる第一水上打撃群の中核が、作戦前にそんな事では困る。戦艦のお守り? 結構ではないか、敵機に戦艦や空母がやられないようにする為には重要だ。木曽、お前にだって敵陣への切り込みという重大な任務があるではないか。それぞれがそれぞれに任務を与えられているのが“艦隊”だろう、その職権に踏み込み罵声を浴びせる権利は、誰にもない。いいな?」

 

木曽「・・・すまなかった。」

 

摩耶「アタシこそ悪かった―――ついカッとなっちまった・・・。」

 

二人がお互い謝り合うと直人は言った。

 

提督「分かれば宜しい、素直に謝れるのなら、お互い悪気は無かったと言う事だ。この件はこれまでとする。両者共に良いな?」

 

摩耶・木曽「「オウ。」」

 

提督「結構。さて飯だ飯~。」

 

騒ぎを収めると直人はさっさとカウンターに向かったのであった。

 

 

そもそもなぜこんなにピリピリしているのか、その事情は前日に入ってきた次のような電文に依る。

 

『敵の反攻部隊、大凡二個艦隊と推定されるが、ジャワ方面に順次展開中の模様。先の命令に先立ち、これを撃滅されたし。なお超兵器級が出動している可能性もある為、警戒を厳にされたし。』

 

 

これを受電したのは前日14日の9時21分の事、タウイタウイ泊地所属の、警戒任務に当たっていた艦娘艦隊偵察機がジャワ東部スラバヤに敵艦隊の所在を確認した事に依る。

 

一個艦隊はスラバヤに、もう一個は集結中と見られバリ島の東岸に所在が確認されていた。しかし急な事態の進展にタウイタウイ泊地では急遽艦隊に出動命令が下されたものの、どの艦隊も呼び戻しや再編で数日かかる見通しであり、仕方なく豪州戦線へ進出中の横鎮近衛艦隊に対し、それに先立っての迎撃が指示されたのである。

 

提督「緊急電とあっては受けぬ訳にもいくまい、了承した旨司令部経由で打電しよう。」

 

 と直人も決断し、その日の午後には取り敢えずの情報を精査し作戦会議を行ったのであった。

 しかし彼らがピリピリしていた理由は別にある。それは敵艦隊の中に未確認であるが、敵超兵器級がいるという情報があったのだ。

ただ戦うだけならいい、しかし事それが強大な敵手ともなれば話は別で、緊張や不安に苛まれる者だって少なかろう筈がない。この騒ぎもそれを端的に示したものだった。

 

 

提督「全く・・・困ったものだ。」

 

溜息を一つつきながら直人は一人言うのであった。

 

 

 

4月19日12時24分 マカッサル海峡南部

 

提督「皆も知っている通り、間もなく本艦は交戦状態に突入するだろう。そこで作戦を説明する。急造のものではあるがそこは承知の上聴いて貰いたい。」

 

重巡鈴谷ブリーフィングルームでは作戦会議が始まっていた。

 

提督「我々はまず、展開されているであろう敵哨戒線を突破、付近には警戒の為敵の艦隊が展開していると推測されるが、これらを撃滅する敵を餌にしておびき寄せて叩く。そして出来た布陣の穴を突き、一挙に敵の本陣へと突入し、スラバヤを再奪還しバリ島方面へと速に転進、敵第2陣の撃滅を行う。バリ島沖に到達する頃には夜になっているだろう。そこで奪還した後のスラバヤ沖で、タウイタウイから出航し追い抜いた高速輸送艦が、修理用の資材を補給する為に到着する手筈になっている。その会合を待ちながら損傷艦の修理を行い完了次第、一挙にバリ島沖に突入する。」

 

要約すればいつも通りの、艦娘流の電撃戦である。敵布陣の穴を突き、一挙に敵後方への浸透を図るものだが、少し違うのはその穴を自ら作り出す点だろう。

 

提督「何か質問は?」

 

初春「一つ説明に欠く点がある。」

 

提督「というと?」

 

初春「物資受け取りを行うまでの間、敵が手出しをしてこぬという保証はあるのかの?」

 

これに対し直人はただ一言

 

提督「ある訳なかろう。」

 

と言った。が続けて

 

提督「自分達の身は自分で守るものだ。それだけの自信が我々にはあるのではないかな? 何か違っているか?」

 

初春「・・・否じゃな、聞いたわらわが野暮であった。」

 

そう、あくまで自分達の身は自分で守ることが前提である。故に修理中ただ停泊している訳ではない、艦隊を周囲に展開しておく訳である。

 

提督「他に何かある者は?」

 

朝潮「一つ、宜しいでしょうか。」

 

提督「どうぞ?」

 

朝潮が起立して発言する。

 

朝潮「バリ島沖における戦況はどの様なものになるとお考えですか?」

 

提督「うん、これは推測だが、敵の警戒艦隊は第1陣と第2陣双方から出ていると見ていい。そして第1陣が潰滅しスラバヤに我々が取り付いたと言う事になれば、敵はスラバヤ方面にバリ島沿岸を移動しながら艦隊を一旦集結させ、集中攻撃を浴びせて来る筈だ。我々はその機先を制し、敵が分散している間にこれを撃砕する。」

 

朝潮「その際包囲戦になる事は予想の内にあるのでしょうか?」

 

提督「状況次第ではなるだろう。しかしまだプランなのであって実的なものではないから、ひとまず夜戦になると言う事だけ、覚えて置いて貰おう。」

 

朝潮「・・・分かりました。」

 

朝潮が聞きたいのはそう言う事ではなかったのだが、直人の言を聞いてその機会を失ってしまった。

 

提督「他には?」

 

夕立「一つあるっぽい!」

 

提督「ほう・・・聞こう。」

 

珍しい事に夕立が発言した。

 

夕立「敵が降伏してきたらどうするっぽい?」

 

朝潮「―――――!」

 

夕立の質問は朝潮の聞きたかった事そのものだった。

 

提督「その場合の発砲は禁ずる。後は、分かるな?」

 

夕立「―――分かったっぽい。」

 

夕立が頷くと不知火がすかさず口を挟んだ。

 

不知火「司令官、それでは敵が投降してきた場合は沈めてはならないと、そう仰る訳ですね?」

 

提督「そうだ、我々は仮に復讐者であったとしても、虐殺者ではないからな。」

 

不知火「なぜです? 後日に反逆の種を残すばかりではないですか。」

 

陽炎「ちょっと不知火―――」

 

提督「我々は先の戦いで捕らえた捕虜に対して、投稿者にはジュネーヴ条約に則って保護すると約したではないか。もしその言葉を別所で違えたとなれば、敵はそれをこそ叛乱を仕向ける材料に使う筈だ。もしそうでないとしても俺が敵の指揮官ならそうするだろう。恐らくその事は深海でも噂としては流れているであろうし、捕虜に対する敵の接触がないとは断言できん。」

 

不知火「―――――。」

 

即ち直人の言いたい事はこうだ。

「ジュネーヴ条約に則り一度でも捕虜を保護した以上、以後それを違えればそれこそ騒乱の種になる危険があるから、そのような信頼を損なうが如き所業をしてはならない。」

 

提督「―――いいな不知火、投降して来た者には寛大に遇してやるんだ。これは命令だ、逆らえば鼎の軽重を問われるものと覚悟せよ。」

 

不知火「・・・了解しました。」

 

不知火が着席する。

 

朝潮「――――。」

 

陽炎「すみません、妹が失礼な事を――――」

 

提督「いや、いい。確かに納得できる者と出来ない者がいる事は事実だ、ことこの問題に関してはな。」

 

不知火の発言が失礼に当たるのではないかと思った陽炎の謝罪を、彼はやんわりと制した。

 

 

霞(お人好しなんだから―――)

 

不知火(敵に情けをかけるなど、私達のすることではない―――)

 

雷(そうね、それが一番いい筈よね。)

 

朝潮(司令官は、後の事を本当にお考えなのでしょうか―――)

 

妙高(少しでも、戦わずに済むのなら、それが一番なのでしょうね・・・)

 

陸奥(らしいといえば、らしいわね―――)

 

金剛(それでこそ、デスネ。)

 

霧島(後の状況に不利な要件を持ち込んでいいのでしょうか―――)

 

加賀(甘いわね―――)

 

隼鷹(ま、いずれは深海の連中とも酒を飲んではみたいけどなぁ・・・)

 

 

とこのように思う事が十人十色な事案なだけに、直人は頭からそれを否定する真似はしなかった。雷に至っては電共々敵兵救助の前科だってある訳で、その事もあり賛成派であった。

 

提督(そう、我々はあくまでも、虐殺者なのではない。)

 

これは直人の信念なのであった。

 

 

その後作戦会議は紛糾する事なく幕を引き、順次艦隊が展開し始めた。

 

12時41分の事である―――

 

明石「電探感あり! 敵艦隊!!」

 

前檣見張り「“敵艦隊視認! 艦首右正面、距離約2万9000!! 我が艦隊を横切る形で通過しようとしています、まだ気づかれていません!!”」

 

電探と見張り員が同時に敵を確認した。こう言った事は帝国海軍でもしょっちゅう起こったらしい。見張り員が3万に近い距離の敵を視認出来るのは、それだけ高所から見下ろせるからである。(極端に目が良すぎるのは帝国海軍の特色なので言わないお約束。)

 

提督「展開中の偵察隊に、確認しているか照会せよ。」

 

明石「はい―――――那智2番機が触接しています!」

 

提督「宜しい、戦闘態勢、艦隊展開を急がせろ。最大戦速! 砲戦用意!!」

 

赤城「“上空待機中の攻撃隊、向かわせます。”」

 

提督「仕事と理解が早くて助かる、頼むぞ。」

 

赤城「“はい!!”」

 

少しして、上空で予め展開していた航空隊が敵艦隊攻撃と制空権掌握の為艦娘艦隊の進行方向へと飛び去って行った。

 

こうして、豪州戦の前哨戦となる『スラバヤ・バリ島沖空海戦』の火蓋が切って落とされた訳である。

 

 

2分も経てば全艦展開を終了(暁は例の如くこけた)して、直人から次の指示が飛んだ。因みに航空隊は間も無く攻撃を開始しようという所である。

 

提督「鈴谷より隊長機へ、攻撃完了までの所要時間を知らせ。」

 

村田機「“攻撃隊長機より鈴谷へ、攻撃完了までには35分を要す。”」

 

提督「ではその通りに離脱して貰いたい。一水打群へ。」

 

金剛「“ドウシマシター?”」

 

提督「敵艦隊向かって右側方24000mまで接近、攻撃隊離脱後90秒以内に先制雷撃を成功させろ。大井、北上、やれるな?」

 

北上「“お任せあれ~。”」

 

大井「“北上さんがやるならやります!”」

 

提督「うむ、ではすぐに取り掛かってくれ。第一艦隊は向かって左側方に座位してこれを援護、一航艦は鈴谷周辺にて航空隊を指揮せよ。」

 

赤城・扶桑「了解!」

 

直人が手元に空母部隊を残したのは、突入させるのが危険であることはもとより、一航艦の高速戦艦2隻を予備戦力として残しておく意味合いもあった。

 

しかし今回、全員打ち揃っての出撃という意味では久しい状況ではある。その点直人も考えずに済むのがありがたかった。

 

 

赤松「暇だぞ。」

 

加賀「今は我慢なさい?」

 

居残り組に入れられた松ちゃん、第二次攻撃隊の発艦に備え待機中である。(ポジションは甲板の縁。)

 

赤松「上空直掩に」

 

加賀「ダメよ。」

 

赤松「じゃぁチチもませろ」

 

加賀「ダメよ。」

 

赤松「ケチケチすんなよ~」

 

加賀「してないわ。」

 

赤城「・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

何だこの掛け合いは・・・と唖然とする赤城さんです。

 

隼鷹「賑やかだねぇ~、結構結構。」((´∀`))ケラケラ

 

祥鳳「そ、そうですね・・・。」(・∇・;)

 

飛鷹「いや、あれを賑やかって言うのかしら?」(。´・ω・)?

 

どちらかと言うと駄々こねてる子供と親の掛け合いである。

 

そう言う彼女らを他所に敵艦隊は空襲の為進撃の足が止まっていた。対空戦闘中でその場を行ったり来たり弧を描いたりしていたのである。

 

 

空気を引き裂き彗星や九九式艦爆が急降下する。

 

水面すれすれを九七式艦攻や天山が2機1チームで雷撃を敢行する。

 

上空では零戦が編隊を組んで整然と敵艦隊上空を制圧する。

 

敵艦隊が猛烈な対空砲火を撃ち上げる。

 

空には無数の黒煙が小さく浮いている。全て、対空砲弾の炸裂した跡だ。

 

そこここで煙を吐く機体がある。少し離れた位置にいる鈴谷からも、その有様はありありと見て取れた。

 

赤城、加賀、蒼龍から僅か90機、各艦各機種10機ずつの攻撃隊である。しかし敵艦隊誘致という目的を果たす為、精々派手に暴れ回ってやろうという気概に満ちた派手な攻撃である。

 

零戦までも30㎏爆弾を懸架しての出撃である。既に攻撃は終えていた為上空警戒をしていた訳だが。

 

 

提督「・・・村田少佐も派手にやるねぇ。なぁ明石。」

 

明石「そうですね、きっと敵も来ますよ。」

 

提督「まぁまずは、目の前の小敵を蹴散らしてからよ。」

 

明石「はい!」

 

赤城「“攻撃隊、離脱開始します。”」

 

提督「うん、あと5分だ、急いでくれ。」

 

赤城「“はい、焦らず急いで迅速に、それらしく離脱させましょう。”」

 

提督「全く理解が早くて助かる。対空警戒を魚雷着弾まで解かせるなよ。」

 

赤城「“はい。”」

 

何気にこれは難しい事ではある。しかし精鋭の荒鷲達はそれを、見事にやってのける。最後の1機が離脱したのは、着弾の15秒前であったのが、その証左であった。

 

水柱が、次々と屹立した――――

 

 

提督「・・・。」

 

その様子を双眼鏡で見ていたのだが、声に出さずカウントしていた彼は、その数が80射線にしては命中雷数が多い事に気付いた。同時に別な方角から雷撃が仕掛けられている事も洞察した。

 

提督「――――魚雷だけでケリが付くぞ、これ。」

 

明石「えっ!?」

 

提督「明らかに200本近い数、いやそれ以上かもしれん数が撃ち込まれている。成程、金剛が発展させおったか。」

 

つまり、61cm魚雷を装備する全ての艦が先制雷撃を行ったのである。これはセレベス海で金剛が取ったのと同じ手法である。

 

提督「金剛、金剛。」

 

金剛「“な、ナンデショウ?”」

 

提督「よくやった、突撃せよ。」

 

金剛「“アイアイサー!”」

 

咎められると思った金剛だったが、結果オーライという顛末であった為直人も咎めず突撃命令を出したのであった。

 

提督「全く、有能な指揮艦だな。」

 

明石「そ、そうですね・・・。」

 

この時直人は知らなかったが、千歳搭載の特殊潜航艇も雷撃を行っていたのであった。新しい兵器を早速戦術に取り入れる辺りは流石と言える。

 

しかし金剛が突撃して行く頃には既に敵は壊走状態であり、救援信号をまき散らし算を乱して逃げ出していた。

 

 

その後直人はすぐに突撃命令を追走命令に変更、適宜威嚇発砲をし、更に敵を騒がせた。その効果はすぐに表れた。利根1番機が敵艦を発見したからだ。

 

利根「“本艦1番機より受電じゃ、『我、戦闘機の追撃を受けつつあり。』”」

 

提督「と言うと27番の哨戒ラインだな。距離は? 座標ではなく、距離だぞ。」

 

利根「“大凡170kmという所かの。”」

 

哨戒機を出したのはマカッサル海峡出口付近、真南を軸線とした左右60度の範囲に水偵を飛ばしたのである。発進地点向かって右方向44度の方向に敵の水上部隊がいると言う事になる。

 

ただしこの時艦隊は50度程東に進路を変えていた為、鈴谷からは右舷正面方向に敵を見る形になる。見えはしないが。

 

提督「・・・加賀、どう思う。」

 

加賀「“そうね・・・ジャワ方面を含むこの辺り一帯の陸地にはもう深海側の航空基地はない筈よ。利根1番機を攻撃したのは敵艦上機の可能性が高いわね。”」

 

加賀の冷静な分析に直人は頷いた。

 

提督「うむ、俺も同意見だ。各空母部隊へ、適宜攻撃隊を編成して対処せよ。対処の意味は、分かるな?」

 

赤城「“承知しております。”」

 

提督「宜しい、航空隊の編成は赤城が指揮せよ、残りの者で対空警戒を厳とせよ。この晴れ空だ、敵機をカモメと見間違えたら笑い者だぞ!!」

 

一同『“了解!!”』

 

艦隊は一斉に第三警戒航行序列に従い輪形陣を形成する。ものの数分で形成は完了、その頃には攻撃隊が発艦していた。

 

利根「“1番機と交信が途絶えたぞ!”」

 

妙高「“只今当艦3番機が交代に向かっております、敵の位置情報はもう少しお待ち下さい。”」

 

利根機が4機しか飛ばしていないのに対し妙高機は3機とも飛ばしており、3番機は27番の隣、26番哨戒ラインを直進していたので、すぐに向かう事が出来る位置にいた。

 

提督「そうか、落とされたか・・・その旨了解した。触接を絶やすなよ!」

 

妙高「“はい!”」

 

これまで触接機が落とされなかった事の方が奇跡と言えるだけに直人に落胆はない、むしろ却って冷静になった位である。

 

提督(どうやら今度の敵は基本を弁えている、こいつは厄介だぞ・・・。)

 

直人は敵の推定座標を予測しながら、妙高3番機からの報告を待っていたのである。

 

利根(しまった、吾輩の2番機の事を言いぞこなってしまったぞ!!)

 

タイミングをモロに逃す利根姉さんでした。

 

 

『“妙高3番機より鈴谷へ、敵機動部隊捕捉。地点、南緯4度54分55秒、東経116度46分38秒、敵針路93度、敵空母級30を伴う! 我これより敵の追撃を振り切らんとす!!”』

 

提督「きたか!!」

 

妙高機が敵艦隊を発見したのは、13時17分の事だった。

 

赤城「攻撃隊を出しますか?」

 

提督「うん、一航艦の総力を挙げて空襲を加えよ。他の空母隊はスラバヤ方面に向けて進軍を続けよ。」

 

龍驤「“はいよっ!!”」

 

蒼龍「“了解です!”」

 

※まだ空母はこの2個航空戦隊で3隻しかいません

 

提督「千歳の空母への改装まだァ?」

 

明石「こ、航空運用のデータが少し足りな―――」

 

提督「あればいいんだな?」

 

明石「え、えぇ・・・。」

 

提督「そうかそうか~、そういう話ね。」

 

直人は何か、合点が行った様だ。

 

提督「千歳~、水偵降ろしてるが瑞雲は積んでるよな?」

 

千歳「“はい、今補用機3機がカタパルト上で待機中です。”」

 

これは偵察用と触接用である。

 

提督「OK、残ってる瑞雲に全機爆装させておいてくれ。」

 

千歳「“了解です。”」

 

明石(・・・あっ。)( ̄∇ ̄;)

 

航空機運用のデータ位、いくらでもくれてやろうという訳である。

 

提督「――――。」ニカッ

 

直人は明石にウィンクしながらはにかんでみせるのであった。

 

 

その後、航空隊が全て片付けてしまい敵機動部隊はあっけなく壊滅してしまった。この攻撃完了が14時24分のことであった。

 

 

提督「―――何たる練度か・・・。」

 

明石「暫く実戦からは離れてましたからね・・・。」

 

提督「そうね・・・。」

 

流石に驚きを隠せない直人ではあったが、鬱憤晴らしだったと考えると合点が行かない事も無いのであった。

 

提督「しかし下手をするとスラバヤの敵が逃げてしまいかねんな。」

 

明石「・・・それはそうですね。」

 

と言うのは、余りにも撃破が早過ぎて怯んだ敵が逃げかねないという話だ。尤も傲慢に近いが。

 

提督「よし、第二水雷戦隊へ、スラバヤ沖へ先行せよ。敵が逃げる前に一撃を加えるのだ。本隊もすぐに征く!」

 

矢矧「“了解!”」

 

矢矧が気負いを感じさせず言う。

 

矢矧はこれが初実戦でしかも第二水雷戦隊の旗艦と言う中核の一群を任されている。しかし矢矧はその手腕で的確な指揮を出していた。尤も、本格的な戦闘にはまだなっていないが、出撃前急ぎで一度やった戦闘指揮演習で矢矧はその優れた手腕を見せている。

 

提督(しかしこれは演習ではない、果たしてどうなるかな―――?)

 

明石「提督、昼食をお摂りになられては?」

 

提督「ん? あぁ・・・そうだな、朝食べたっきりだったな。艦娘達はレーション(携行食糧)があるが俺にはないからな。」

 

それもその筈、普通の提督なら基本的に後方にいる為、戦闘の際食事の心配をする必要自体が無いからである。故に提督へのレーションの割り当てなどない訳で。

 

提督「・・・そういえば、サイパンに来るとき赤城が持ち込もうとした食料品があったな。あれ食べとこ。」

 

明石「いつの間にそんなの積み込んだんですか・・・。」

 

提督「実は最初から積んである。」

 

明石「手際いいですねぇ・・・。」

 

提督「赤城に見られてて食糧庫の警備付ける羽目になったけど。」

 

明石「手間かかりすぎでしょそれ!?」

 

提督「うん、知ってる。」ニッコリ

 

なのでたまに警備をやっていた事もある。

 

提督「んじゃ一回この場は預けるぞ。」

 

明石「分かりました! ごゆるりと。」

 

提督「してる暇があったらいいんだけどねぇ~。」

 

明石「ハハハ・・・」

 

直人は歩き去りながらそう言うのであった。実際戦闘中なのだから止むを得ないだろう。

 

 

15時22分、第二水雷戦隊は艦娘由来のその快速性を生かし、早くもスラバヤ北方海域に到達しようとしていた。

 

矢矧「敵艦隊正面方向に捕捉! 距離およそ5万、数大凡2500!」

 

矢矧の電探は早くも敵を捉えた。

 

霞「相変わらず多いわね・・・。」

 

十八駆の霞が顔をしかめて言う。

 

陽炎「ま、いつもの事よ、今更驚かないわね。」

 

と、その第十八駆逐隊旗艦である陽炎は言う。

 

朝潮「何隻いようとも、捻じ伏せます。」

 

満潮「そうね。」

 

矢矧「心意気は買うけれど、あくまで敵を怒らせることが目的よ。それを忘れないで。」

 

と、意気込む二人に注意する矢矧。

 

朝潮「えぇ、そうですね。私達単体では勝てない。」

 

矢矧「そう言う事ね。それじゃ、作戦を説明するわね。」

 

そう言って説明を始める矢矧の策は中々大胆なものであったが、それは同時に、艦隊決戦時における常道でさえあった――――。

 

 

~数分後 鈴谷・羅針艦橋~

 

提督「交戦に入ったか。さて、戦力差をどうする気かな?」

 

赤城「“艦載機収容、間もなく完了します。”」

 

提督「よし、収容完了次第合流せよ。」

 

赤城「“了解。”」

 

丁度赤城ら空母部隊は艦載機収容作業真っただ中であった。

 

提督「第一水上打撃群は、可及的速やかに戦闘海面へ急行せよ、第一艦隊と第一航空艦隊は鈴谷に続け。」

 

金剛「“ラジャー!”」

 

扶桑「“了解!”」

 

赤城「“畏まりました。”」

 

直人は戦闘開始の方を聞き快速部隊を急行させると共に、自身も急進してこれと一戦交えんとしていた訳である。

 

提督「しかしどうやら逃げなかったらしいな。」

 

明石「そうですね。」

 

これはどちらかと言うと逃げなかったというのではなく、『逃げ切れる保証がなかった』為で、それなら算を乱して逃げ出すよりは、第二陣が態勢を整える時間を確保すべく、身を呈してでも一戦交えようとする敵の心意気でさえあった。

 

提督「まぁ、逃げるより戦った方が簡単だからな。勝つのは容易ではないとしても。」

 

明石「そう言うもんなんですか?」

 

提督「昔から“退却するのは侵攻するより何倍も難しい”とよく言われているのが一つその論理を裏打ちできるな。」

 

退却とは要するに逃げ出す事なのだが、その点“撤退”とは性質を異にする。

 

敵の前面から兵を退かせるという点は共通しているが、退却はした側が大抵は負けているものだ。一方で撤退と言う表現は、整然と陣を引き払った場合など、負ける前に敵に付け入る隙を与えず退いた様などを指す事が多い。

 

この様に退却と撤退では、同じ兵を退くという点に於いても、同じ負けである点についても意味が全くと言っていい程正反対なのである。要するに負け方の相違であり、鉾の収め所を弁える指揮官はそれを弁えているが故にこそ優秀なのだ。

 

 

その点戦う事を選んだ勇気は称賛されるべきものであったが、この場合彼らの相手は少々悪いと言わざるを得なかった。

 

敵第一陣は深海棲重巡リ級改Flagを旗艦とする高速水上打撃部隊と言うのが実態で、重巡が主力となっていた。この場合、大火力の戦艦を有していなかった事が禍根を残す。

 

 

14時37分 スラバヤ沖

 

リ級改Flag「来ルナラ来イ、返リ討チニシテクレルワ。」

 

士気も高い敵第一陣ではあったが、その悲劇はすぐそばまで迫っていた。

 

 

ズウウゥゥゥゥーーー・・・ン

 

 

リ級改Flag「何――――・・・」

 

 

ドオオオオオオオオォォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

次々と水柱が屹立する、その光景は正に敵警戒部隊が味わったそれに等しいか、上回る勢いで行われた。

 

 

矢矧「フフッ、成功ね。」

 

朝潮「“第八駆逐隊、間もなく離脱完了します。”」

 

村雨「“第二駆逐隊も間も無く合流するわ!”」

 

矢矧「了解、集結次第直ぐに合流して頂戴。」

 

朝潮・村雨「「“了解!!”」」

 

陽炎「“第十八駆逐隊集結完了、雪風と一緒に後退するわね。”」

 

矢矧「分かったわ、ご苦労様。」

 

矢矧のとった作戦は単純だ。中央に第十八駆逐隊と雪風、右翼に第八駆逐隊、左翼に第二駆逐隊を立て、更にこれを1隻ずつ個別で敵陣を半分包み込む形に布陣、魚雷を発射して後はスタコラサッサ、と言う次第。

 

しかしながら全艦が4連装発射管を装備している上、北から東西にかけて敵を押し包む形で魚雷を放っている為に、敵にとってみれば逃げ場がないのと同じ事であった。敵旗艦にも1本が直撃し、これを中破させる事に成功した。

 

矢矧(さて、何分持つかしらね・・・。)

 

敵の旗艦は健在、敵の出鼻を挫かせたとは言っても所詮その程度だ。反撃は迅速に行われると読んだ矢矧はすぐさま次の手を考えるのであった。

 

 

提督「へぇ・・・やるね。」

 

戦況チャートを眺めつつ直人は言った。

 

敵の布陣は楔形、正面方向から敵が来たなら側面迂回をしても配置次第で対処されてしまう。敵は少々足並みを乱したと言ってもそこまでであり、采配次第で大損害は免れ得ない。

 

明石「やりましたね提督!」

 

提督「アホ、まだ何にもやってないわ。むしろこっからだ。」

 

明石「あっ、そうですね・・・。」

 

提督「第一水上打撃群到着までの時間は?」

 

明石「かなり高速で南下していますし、1時間少々、でしょうか。」

 

提督「結構時間がかかるか。よし、第一艦隊に艦載機発進の指示を出そう。扶桑!」

 

扶桑「“はい!”」

 

提督「第一艦隊の空母艦載機を以って第二水雷戦隊を援護せよ。」

 

扶桑「“分かりました。”」

 

第二水雷戦隊がそう長く持たないのは自明の理であるならば、それを少しでも遅らせてやるのが直人の役割である。

 

 

ブオオオオオオオオ・・・ン

 

 

提督「早くね!?」

 

千代田「“こんな事もあろうかと、すぐ出せるようにしておきました!”」

 

提督「―――そうか、そいつは何よりだ。」

 

龍驤「“そらそうやろ、航空戦っちゅうもんは、一分一秒が大事やからな!”」

 

提督「そうだな、助かる。」

 

直人は素直に礼を言うのであった。機転が利く艦娘達に舌を巻いてもいたが。

 

 

その頃矢矧は30分に渡り敵の猛攻を食い止めていた。全ては直人を信頼しての決死の防戦であったが、物量差とそれを生かした敵の戦術に苦しめられていた。

 

矢矧「各隊状況知らせ!」

 

陽炎「“こちら十八駆―――旗艦、中破、後退許可を乞う―――!”」

 

不知火「“さらに霞小破、黒潮中破、損害甚大に付き、一時後退の許可を。”」

 

朝潮「“こちら八駆、満潮大破、後退許可を。”」

 

村雨「“第二駆逐隊より、夕立小破、五月雨中破!”」

 

矢矧「夕立が――――!?」

 

矢矧が驚いたのは、夕立は演習でも滅多に被弾する事は無く、被弾すればその頃には勝負がついていることが多いからだ。

 

雪風「“こちら雪風、健在!”」

 

その点雪風は流石の豪運ぶりだったが、雪風と言えどもかなりの窮地に立たされていることは変わりなく、それこそギリギリの勝負であった。

 

矢矧「よし・・・全艦一旦後退! 後退しつつU字型に陣を張って!」

 

矢矧が次なる指示を出したのは、15時12分の事である。

 

矢矧(敵が乗ってくればよし、乗ってこなくても後退させられる、兎に角時間を稼がないと・・・。)

 

しかし敵は矢矧の策には乗らずさりとて後退するでもなく、適宜距離を置いて左右両翼の先端を攻撃し始めた。

 

矢矧の読み違いである。

 

矢矧(くっ、やるわね・・・)

 

「“よーう嬢ちゃん達、苦戦してるみてぇじゃねぇか。”」

 

矢矧「―――!?」

 

 

ブオオオオオオオオオオオオ・・・ン

 

 

気付けば味方の大編隊が1機の零戦に先導されて上空を敵艦隊へと向かっていく。

 

その先導機が―――[AⅡ-101号機]、横鎮近衛加賀戦闘機隊隊長機である。

 

つまり・・・

 

矢矧「あなた、確か加賀の―――」

 

赤松「“そう、赤松だ。”」

 

飛び出してきた模様。

 

 

加賀「はぁ~・・・あの子は・・・」

 

フリーダムすぎるのが玉に瑕だが腕は確かなので何とも言えない辺りが彼の凄さである。

 

赤城「まぁまぁ、あの人らしいと言えば、らしいですし。」

 

加賀「そうだけど・・・風紀が・・・」

 

赤城「そ、そうね・・・。」

 

戦間期には余りの風紀の乱れに悩まされた加賀が言うだけに重みが違った。どうやら松ちゃんは余りに飛びた過ぎて無理を押して飛んできた御様子である。

 

 

赤松「“ま、俺達に任せて一旦下がんな。体勢を立て直すにも時間要るだろう? ガハハハハ!”」

 

豪快に笑って飛び去って行く松ちゃんである。

 

矢矧「そ、そうね・・・全艦集結!!」

 

矢矧は各艦に発光信号「集マレ、集マレ」も送り、迅速な集結を行おうとし、その試みは成功した。こうして隊伍を整頓した二水戦ではあったが、継続的な戦闘はほぼ不可能であった。

 

 

提督「うん、矢矧の判断を是とする、混乱に乗じて後退せよ。後は主力が引き受ける。」

 

矢矧「“了解!”」

 

直人が矢矧の撤収申告を受け承認したのは15時21分の事である。直人は矢矧に事の次第を聴取した訳だが、その状況は思ったより悪化していた。

 

まず十六駆の雪風だが艤装の損傷こそ無いが、至近弾の破片を受けて左腕を負傷し後退

十八駆では更に不知火が中破し、霞も再び被弾して中破

二駆では五月雨が大破、夕立中破、村雨中破になるに及び戦闘力を喪失

八駆も朝潮が小破、大潮中破と損害度合いが更に悪化、

旗艦の矢矧でさえも敵の砲撃を受けて艤装の一部を損傷、右肩を切っていた。

 

ここまで来ると最早戦闘力は無いに等しいものがある。特に雷撃を受けて速力が低下、程度こそ軽いとはいえ足を負傷していた夕立と、敵の砲撃をモロに受けて辛うじて立っている状況の黒潮と満潮は一刻も早く後方に送らねばならない状況だった。

 

提督「しかし敵もかなり強力な部隊だったようだ、俺の判断が間違っていた訳か。」

 

龍驤「“キミィ、そんな事言っても始まらへんで?”」

 

提督「・・・分かっているさ、航空攻撃の状況は?」

 

龍驤「“型通りの奇襲や、えらい混乱しとるみたいで、相当な戦果上がっとるで!”」

 

航空部隊は和田鉄二郎の龍驤艦爆隊と、千歳発進の瑞雲隊を先頭に一斉に攻撃を開始、雷爆同時攻撃の手本とも言える奮戦を示す。対する敵艦隊は旗艦が後方に下がっていた為に有効な指揮が中々出来なかった上、不意に甲高い音がしたというような状況だっただけに混乱状態にあった。

 

提督「そいつは結構。だが、“勝って兜の緒を締めよ”とも言う。」

 

直人が度々言うこの言葉の意味は最早言うまでもないだろう。

 

龍驤「“せやな、驕りや慢心は絶対にええことにならん。”」

 

赤城が言ったのでは余り説得力を持たないが、龍驤が言う辺りのそれは凄いものがある。

 

提督「そうだな・・・もう少し敵情はしっかり調べるべきだった。」

 

龍驤「“それだけじゃ練度は測れんやろ。”」

 

提督「御尤もで御座い。」

 

肩を竦めていう直人であった。実際そこが指揮官の一番難しい所である訳で。

 

龍驤「“それよりさっさと追い付かんとあかへんで。”」

 

提督「あのな、艦娘ノットに合わせて最大戦速なんだよこっちは。」

 

急ぐ分には急いでいるのだがなにぶんあっちの方が早いので、艦娘側が合わせている始末では返す言葉はそれしかなかった。

 

 

その15分後、鈴谷は発揮可能の全速で後退してきた二水戦と合同した。

 

提督「報告通りと言うか、酷い有様よな。」

 

明石「そうですね・・・。」

 

提督「よし、一旦収容しよう。明石、修理を頼む。」

 

明石「はい、お任せ下さい!」

 

そう言うと明石は急いで艦橋を後にする。

 

提督「よぉし! 二水戦を収容する、第一艦隊は援護せよ!」

 

扶桑「“了解!”」

 

川内「“誘導するね!”」

 

提督「頼んだ川内! それと雷をこっちに寄越してくれ!」

 

川内「“はいよっ!”」

 

雷「“少しばかり指示が遅いんじゃない? もう向かってるわよ、司令官♪”」

 

提督「えっ・・・」

 

雷の行動の早さに思わず言葉を詰まらせる直人。

 

川内「“い、いつの間に・・・。”」

 

提督「全く、どうして御理解勢が多いかな全く。ハッチ開放!! 局長にハッチ強度は減速させるに耐え得るとは聞いてある!」

 

つまり直人は鈴谷の機関出力を落とし込んだ上で、更に収容時にはハッチの前縁が着水する事を利用して急ブレーキをかけるつもりなのだ。水に対する抵抗を増やしてやれば自然とスピードは落ちる訳だ。

 

 

ザザザアアアアアアァァァ・・・

 

 

提督「おっと・・・」フラッ

 

急減速の勢いで前に投げ出されかける直人。が、機関逆進をかけるよりも手っ取り早く速力は落ちたのでそれで済んだだけ結果オーライである。

 

提督「医務室! 受け入れ用意を済ませて置け!」

 

実は鈴谷にも医務室はしっかり存在する。と言うのは、艦中央部左舷のブリーフィングルームの艦首側、ダミーの煙突の真下にあるのだ。因みに病室はスペースが無い為艦首部中甲板左舷側にある。少し病室から離れているがやむを得ない措置であろう。

 

揺れる艦内で命じる直人には冷静さがあった。それは戦場に於いて指揮官に求められる素質の一つでもある訳だが、それはまたいずれ機会があれば話をしよう。

 

提督「しっかしあれだな・・・俺が持ち場を離れられん・・・。」

 

直人としては出迎えに出てやりたいのが本音であった。しかしそうすると艦を操艦できる者がいない。鈴谷や金剛は今最前線にいて硝煙に身を包んでいる。明石は艤装修理の為に降りて行った。局長が大淀も操艦出来る様にしているのだが、彼女は遥か後方だ。

 

提督「・・・クソッ。」ギリッ

 

直人は思わず歯ぎしりして悪態をついた。幸いそれを聞いている者はだれ一人いなかったが・・・直人としては、明石が一刻も早く戻って来てくれる事を祈るしかなかった。

 

 

二水戦の損害状況を改めて総ざらいすると以下のようになる

 

大破:満潮(重傷)・五月雨(軽傷)

中破:黒潮(重傷)・陽炎(中度負傷)・不知火・霞・大潮・夕立(軽傷)・村雨

小破:朝潮・矢矧(軽傷)

その他:雪風(微損害・軽傷)

 

以上の通りだが、これを見る限り最早戦闘力を残しているのは3隻のみであると言っていい。今回身体への傷を負った者も多いが、それは敵が的確にこちらを沈めに来ている証左と言っていい。艤装への被弾など回避タイミングのミスが原因なのだから尚更である。

 

 

雷「兎に角満潮と黒潮の治療を優先! 軽傷者には止血措置を含む応急手当を、陽炎は私が受け持つわ! 始めて!」

 

雷が妙に慣れた指示ぶりを見せる。軍医妖精とその助手達が急いで指示通りに動く。

 

雷「取り敢えず止血ね、陽炎、何処か痛い所は?」

 

陽炎「傷以外、特には・・・。」

 

雷「じゃぁひとまず破片を取り出して止血しないと―――」

 

 

明石「うひゃー・・・手酷くやられましたねぇこれは・・・。」

 

艦内工場で明石が五月雨の艤装を見て言った。

 

五月雨はカードグラだと背部艤装が無いがその実夕立のものによく似た艤装を装備している。が、それは最早原型を留めているとは言えず、殆どスクラップ同然と言う様な有様であった。辛うじて構造材の幾許かと、コアを厳重に守る防御構造が残っているだけである。そのおかげでどうにか背部艤装を落っことす事はなかったようだ。

 

明石「最早新造に近いですねこれは・・・。」

 

嘆息しながら言う明石であったが、引き受けてしまった以上並行的にやるしかない。幸い五月雨以外の艤装の損傷度合いは妖精達でどうにかなる範囲だ。

 

明石「それじゃぁ他の艤装の修理は皆でお願い、私がこれをやるわ!」

 

妖精達が持ち場について作業を始めるのにそう時間は必要としなかった。

 

この鈴谷艦内工場は中甲板右舷側のデッドスペースを埋める形で新設されたもので、妖精さんでどうにかなる軽い損傷ならば最大10隻分まで並行して修復できる。精密修理は明石自らが行う為1隻集中で同時進行は不可能だ。

 

実は前回の出撃までは機材の製造が間に合っておらず、従って搭載もされていなかったのであるが、今回の出撃前に何とか間に合わせた、と言う次第である。たったこれだけの機材の為に中々工数が多いではないか、とは直人の言である。

 

 

一方で前線では、金剛の一水打群が敵を強烈に押し返していた。

 

金剛「進撃速度を一度緩めないとデスネ・・・。」

 

少々追い過ぎているきらいがないではなかったが、それ故に敵は既に崩壊していた。

 

筑摩「速度を落として下さい、二人とも。」

 

旗艦からの指示を伝達する筑摩。

 

利根「何故じゃ? ここで更に追い立てれば敵も退散するのではないか?」

 

鈴谷「ん、そうだね。少し追い過ぎてるかもね。」

 

利根「むっ・・・。」

 

賛否別れた上に正論を鈴谷が言った(意図してはいなかったが)ので利根が言葉の勢いを失ってしまった。

 

筑摩「そう言う事です、利根姉さん?」

 

利根「・・・仕方ないのう。」

 

利根も納得して引き下がった。

 

因みに彼女ら第八戦隊の旗艦は、実は筑摩である事はお分かり頂けたと思う。利根では状況判断を誤りかねず、鈴谷は気質があっていないという判断で金剛が任命したものである。因みにこの戦隊編成を指示したのは例外的に直人である。

 

 

金剛「・・・戦闘終了、デスネ。」

 

榛名「いいのですか? まだ続いてますけど――――」

 

確かにまだ撃って来る敵艦はいるがしかし――――――

 

金剛「あれはただの時間稼ぎデス、適当にあしらって戻りマショー。」

 

と、至極冷静に言い放つ金剛であった。実際この判断は結果として正しかったのだが、同時に“遅くもあった”。

 

 

赤松「暇~・・・」

 

と機上の赤松が言う。今回出て来た戦闘機は第一艦隊の全力と加賀隊から赤松小隊4機(2機1個分隊×2)だが、これらは艦隊戦が始まってもその場に残って上空を警戒していた。

 

 

――――キラリ

 

 

赤松「んっ!?」

 

松ちゃんが何かがきらめくのを見た。方角は――――東。

 

赤松「各艦隊に通報、敵機来襲!!」

 

 

摩耶「ふぅ~・・・終わりか――――」

 

摩耶は追撃の足を緩めろと聞きそうつぶやいた。

 

摩耶「――――!!」バッ

 

摩耶の第六感が何かを捉えた。向いた方角は、東。

 

摩耶(敵機――――!!)

 

対空電探が東を向いた瞬間敵編隊を捉えた。それを悟った時摩耶は躊躇わず撃っていた。

 

 

提督「敵機捕捉、真東から少し南側だな。」

 

赤松「“各艦隊に通報、敵機来襲!!”」

 

同時刻鈴谷の対空電探もこれを捉えた。既に収容を終え合流しようと急いでいた所である。これらが15時35分の事であった。

 

明石「提督、修理はひとまず終わりました。応急的ですが全て使えます。五月雨さんの艤装が半壊状態だったので、そっちの方は小破程度までは何とか。」

 

明石が戻ってきて開口一番そう言った。

 

提督「流石だ、ありがとな。」

 

明石「お安い御用です。それより敵機と聞こえましたが。」

 

提督「うん、対空電探が捕捉した、距離は少し離れているが、一水打群にはすぐ到達するだろう。」

 

明石「救援に向かいますか?」

 

と明石が訊くと

 

提督「こういう時に逡巡すべきではない、一航艦戦闘機隊を急いで応援させよう、その上で我々も急ぐ事にしようか。」

 

明石「はい!」

 

直人の断の早さは流石と言えた。この時既に一水打群の上空直掩機は既に空戦体制に移っていたが、これに加えて一航戦の戦闘機隊が続々と発艦を開始するのであった。

 

 

金剛(輪形陣の構築は間に合わない―――――)

 

金剛は輪形陣に陣形を組み替えながら思った。敵編隊が意外と近くまで迫っていた為もあるのだが、一番は追撃中で陣形が乱れている為だった。

 

金剛「各戦隊へ、戦隊ごとに各個迎撃せよ!!」

 

この判断は一応正しい判断であった。空襲の真っただ中に無理に輪形陣を組もうとすれば、敵弾回避と陣形構成の混乱が生じ、被害をより深刻なものにしかねないからである。

 

しかし防空を一人担当する摩耶にとっては守る範囲が広いと言う事になり――――

 

摩耶「無茶言うな!!」

 

と怒鳴り返す羽目になったのであった。

 

 

15時43分、戦闘機隊との空戦が開始され、そこから5分と経たずに敵の攻撃隊が突入を開始した。その頃には鈴谷からもどうにか敵機と思しきものが見える距離まで来ていた。

 

提督「ええい遅いな・・・。」

 

明石「言わないでください・・・。」

 

水平線に敵機が見えていると言う事はまだ3万メートル以上距離が離れている。つまりどうあがいても主砲による対空射撃は不可能である。

 

提督「―――金剛に期待するしかない、か・・・。」

 

しかし直人は金剛の指揮ぶりをチャートを介して見るに当たり、これまで金剛が行ってきた最大効率の戦闘を、期待出来そうもない事は承知していた。直人が期待したのはその範疇に於ける“善処”であった。

 

 

金剛「全艦、徐々に集結して下サーイ!」

 

水上艦隊にとって割と最悪の状況で敵機の来襲を迎えた第一水上打撃群は、麾下戦力の長期的集結を図る以外に術が無かった。その上で各個に対空防御をするのだが、しかしこれだけで容易でない事は想像に難くないだろう。

 

 

蒼龍「そうはいったって――――!!」バシュッ

 

一方で空襲の渦中にいた蒼龍は敵弾回避の合間を縫って艦載機の発艦を行っていた。当然戦闘機である。蒼龍としてはなんとしてでも頭上を守りたいと言う一心であった。

 

対空機銃は既に全力射撃をしているし、敵弾回避もこなしている。本来この上で戦闘機を発艦させると言うのは最早母艦と艦載機双方の全行動にアクロバティック的技量が要求されるのだが、艦娘となった空母、風上に進まずとも良いという、空母としての行動の原則から乖離したればこそ叶う芸当であった。

 

蒼龍(もう、あの日の轍は踏まない。あの日の私とは違うんだ―――!!)

 

蒼龍の必死の防戦が続く――――。

 

 

提督「あれは――――蒼龍か!?」

 

直人がその蒼龍の元へとたどり着くにはなお30分を要したものの、16時09分には蒼龍を襲っている敵編隊に照準が合わせられた。

 

明石「諸元照準共によし、行けます!」

 

提督「よし、撃てぇ!!」

 

 

ズドドドドドドドドォォォ・・・ン

 

 

鈴谷の前部主砲3基9門が火を噴いた。今回鈴谷が搭載した主砲は15.5cm3連装砲5基15門、用兵側からの評判も非常に良かったという圧倒的投射量を誇る武装だ。

 

装填されたのは当然の事ながら三式弾である。意外に思われるかもしれないが、小口径砲用に作られた三式弾も存在しているのである。

 

 

パパパパッ・・・

 

 

敵編隊の後続に次々と鈴谷の放った三式弾が炸裂し、焼夷弾子をまき散らす。絡め取られた敵機が一塊に落ちる様にも見えて痛快ではあったが、それを口に出すだけの余裕はない。

 

提督「今の蒼龍には護衛の駆逐艦がいない、急いで救出しないと。」

 

そう、一番肝心なのはその点なのだ。

 

 

蒼龍「一体どこから・・・あれは―――――鈴谷!?」

 

とまぁこんな有様なのだからそれもお分かり頂けるだろうか。

 

 

提督「逐次連射しろ、これ以上蒼龍に負担をかけさせるな!!」

 

直人が檄を飛ばす。鈴谷の上空には東へと延びる低雲が垂れこめていた。

 

提督「――――雨でもないのに嫌な雲だな。」

 

明石「そう、ですね・・・。」

 

不安を覚えながらも、直人は取り敢えず目の前の状況に集中する事にした。

 

提督「杞憂で済めばよし、済まずともどうにかなる!」

 

達観してしまってる辺りはどうなのかと言う話だが。

 

 

金剛「“鈴谷が来た”!? ホントデスカー!?」

 

榛名「はい、蒼龍さんからです。現在私達の北方で対空戦闘中とのこと!」

 

この報はすぐに蒼龍から金剛に届いたが――――

 

金剛「残念デスガ、迎えには行けそうにないデース・・・。」

 

空を睨みながら歯噛みしてそう言う金剛であった。実際彼女達も自分達の身を守るので精一杯であったのは事実である。それほどまでに敵機の数が多かったと言う事実も存在する。

 

 

しかしその時既に一つの出来事が、鈴谷に起きようとしていたのである――――――

 

 

「“敵機、直上!!”」

 

低雲を突き抜けて鈴谷の真上から敵の艦爆が金切り声を上げて舞い降りてきたのは15時54分の事である。

 

提督「しまった――――!!!」

 

直人は自らの失策に気付いた。日本軍の対空レーダーは“指向方向しか探知できない”と言う事を、完全に失念していたのである。

 

 日本のレーダーは対水上・対空の何れかを問わず、Aスコープと呼ばれる表示法を使っていた。これは今でいうオシロスコープと同じ表示法で、左端が照射元として左から右に行くにつれ距離が表示され、相手の反応はグラフの様な波形で表示される。

つまり画面の右側に波形表示が寄れば寄るほど、自艦と相手の距離が遠い事が分かる訳だが、艦娘艤装化して遥かにマシになったと言えど感度が悪いのが、日本軍のレーダーの欠点である。

 

更にこのスコープは、三次元的な情報を得る事が出来ず、また全周囲を同時走査する事が出来ない。現代で主に用いられているPPIスコープとは全くお話にならないのである。即ち日本軍の電探は、相手の方に向ける事でしか探知出来ない訳で、今回その死角を突かれてしまった事になる。

 

提督「対空射撃! 取り舵一杯!!」

 

明石「ダメです、間に合いません!!」

 

高角砲や機銃の俯仰を取るにも、舵を切るにも、それはあまりに遅かった。その雲は2000m付近まで垂れこめていた。即ち今既に敵機の高度は1000mを割っている。

 

操舵室「“取り舵15度!!”」

 

提督「舵そのまま!! 対空砲まだか!!」

 

焦る直人、余りにも舵の効きが遅く感じられたのも無理はない。

 

 

ガチン――――

 

 

敵機から爆弾が放たれた――――それとほぼ前後して高角砲の第一射と機銃が浴びせられる。

 

 

ヒュウウウウウ――――――ッ

 

 

提督「ッ―――――!!!」

 

直人は爆弾が空を切る音が、まっすぐ自分に向かってきている事を、彼はその音で悟った―――――

 

 

ズッドゴオオオォォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

提督「うああっ!!」

 

明石「きゃぁっ!?」

 

 

蒼龍「提督!?」

 

 

金剛「あの爆発は!?」

 

榛名「えっ!?」

 

金剛、目敏すぎ問題(一応水平線からは完全露出だったのだが。)

 

 

伊勢「大丈夫ですか提督!!」

 

鈴谷への二度目の被弾をむざむざ許したとはいっても艦娘達に罪は無かった。ただただ、運が味方しなかっただけである。そしてその被弾箇所は――――前檣楼天蓋であった。

 

霧島「提督、提督!!」

 

 

「“はーいはい、聞こえてるよ五月蠅いなぁ。”」

 

直人を呼び続けていた艦娘達のインカムに直人の声が流れたのはそのすぐ後であった。

 

提督「全く、そう俺が簡単にくたばるかよっと。」

 

伊勢「“よ、よかった・・・。”」

 

直人は、羅針艦橋に“無傷で”立っていた。無論彼は何もしていないどころか被弾の衝撃でよろけていた程だ。が、羅針盤につかまり何とか立っていられたのだ。なお明石は尻餅をついた。

 

明石「いたたた・・・。」

 

提督「立てるか?」

 

明石「こ、腰が抜けました・・・。」

 

明石は暫く立てそうにない様だった。

 

提督「・・・しかしよく死ななかったな俺。」

 

と後から気付く。前檣楼天蓋とは即ち直人と明石のいる羅針艦橋の天井板だからである。本来の設計ではろくな装甲はおろか構成していたのは薄い構造用鋼板である。何が言いたいか、つまるところ本来は小銃弾さえも貫通する位にはペラッペラなのである。

 

明石「そりゃぁもう、航空攻撃でここを貫通する事はほぼ不可能ですよ。」

 

提督「・・・はい?」

 

今何と言った? 薄い構造用鋼が何でそんなに固いの?(By作者)

 

明石「この羅針艦橋の天井は厚い装甲で出来ているんです。」

 

提督「――――ようやったなおい!?」

 

明石「艦橋自体が軽くなったからこそなんですが、艦全体に渡って浮力に対する重量が軽くなりすぎちゃいましてですね・・・。」

 

提督「んで装甲板なんて取り付けちゃったと。」

 

明石「局長がノリノリで。」

 

提督「またあの人か!!!」

 

思わず突っ込んだ直人であった。

 

 

聞く所によるとこの直人のいる羅針艦橋の天井を構成する部材は、

・90mmのチタニウム合金装甲板を天板の代わりに設置、

・その外側に爆発反応装甲を装着、

・内側は厚さ700mmの4種積層の強化繊維プラスチックを剥離防御用に装着してある。

と、言う事であるらしい。

 

爆弾が直撃した際、実は爆発音が重なっていたのだが、これは爆発反応装甲が起爆していたからである。

 

 

提督「・・・急降下爆撃じゃ貫通どころか掠り傷が精一杯じゃねぇか。」

 

明石「流石にやりすぎではないでしょうか・・・。」

 

てかそんな大事な事をなぜもっと早く言わない! と素で思った直人だった。

 

 

その後、突如現れた鈴谷と言う増援を前に攻撃目標を絞れなくなった敵攻撃隊は混乱に陥り、そのおかげもあって難無く敵編隊は逃げ去っていった。そうして横鎮近衛艦隊がスラバヤ沖で再集結を果たしたのが、16時47分の事であった。

 

 

17時41分、タウイタウイ泊地からの補給船団とスラバヤ沖で会合し、船団が離脱した頃には状況が変化しつつあった。この補給船団は艦娘用の鋼材を輸送してきた船団である。

 

 

~鈴谷艦首中甲板・病室区画にて~

 

提督「そうか、満潮と黒潮は絶対安静か。」

 

雷「間違っても戦闘に投入する事は認められないわね。」

 

提督「で、すぐに復帰出来るのは艤装を損傷しただけの艦娘だけ、と言う事でいいんだな?」

 

雷「それは勿論。幸い腱や神経を切ったりした子はいないわ。」

 

いた所でそれさえも治癒してしまう辺りが艦娘の凄さだが。本当に“千切れなければ”いいのだから――――だからと言って乱暴に扱っていい訳ではない。

 

提督「――――すまなかったな、二人とも、無理をさせてしまった。」

 

満潮「ふ、フン――――私も、まだまだだわ、バカ司令官に心配されるなんて・・・。」

 

“クズ”と言われない辺りはちょっと位評価と信頼をされているらしい。

 

黒潮「なんや言うても、ウチらはそれが仕事やしなぁ――――でも、次から見極めはきちんとせぇへんとあかんで?」

 

提督「そうだな――――心しておこう。」

 

直人は今回の敗因を、事前の航空攻撃を行わなかった事に起因していると判断していた。実際航空攻撃を行ったのは、突入から大分後であった事も確かであった。しかし我々はここで、敵が余りに手練れていた事を、忘れてはならないだろう。その傍証が、間もなく示される。

 

矢矧「提督。」

 

そこへとやってきた二水戦旗艦矢矧。

 

提督「矢矧か――――無理をさせたな。」

 

矢矧「いえ、私もあの状況で、ベストを尽くす事が出来たと信じています。」

 

提督「――――判断の至らなさで随分と負担をかけさせてしまった、おかげで二人がこの有様だ。俺もまだまだだな。」

 

矢矧「提督は何も、私達だけで事足りるとはお考えではなかったんでしょう?」

 

直人はこの質問に答える。

 

提督「それは勿論だ。どちらかと言えば敵を引き留めて置きたいと考えただけではあったしな。誰も自分達が優勢な戦いまで放り出して逃げる様な真似はすまいと思ったからだ。結果として君達を囮に使ってしまった事については謝罪せねばならない。」

 

矢矧「それには及ばないわ、私には全て、分かっていたから。」

 

提督「―――――!!」

 

直人は矢矧の潔さと行動力に驚きを隠せなかった。てっきり面従腹背で行ったものとばかり思っていた直人であるから余計であろう。

 

矢矧「――――ぷっ、どうしたの、ハトが三式弾食らったみたいな顔してるわよ?」

 

提督「そりゃどんな顔なんだい。」

 

思わず聞き返す直人である。

 

矢矧「ふふっ、提督なら、もう少しどっしり構えてなさいな。詫びっぱなしじゃ務まらないわよ?」

 

そう声をかけて矢矧はその場を後にするのであった。

 

 

ところ変わって鈴谷の羅針艦橋では、ようやく顔を揃える事の出来た高級幹部達から直人が報告を聞いていた。

 

金剛「敵艦隊は逃げたみたいだケド、旗艦は取り逃した様デース。」

 

提督「矢矧が確認しているのか?」

 

金剛「YES。」

 

提督「ふむ・・・赤城、夜間航空攻撃の準備は?」

 

赤城「万事いつでも。しかし攻撃を全力反復するのは3度が限界です。」

 

提督「心得ておこう。扶桑、各艦へ補給は必要そうか?」

 

扶桑「駆逐艦の子達は、ちょっと心配です。」

 

提督「予備の燃料を少し補給しておこうか・・・。」

 

直人が状況に対する処置を命じながら、ある事を考えていた。それは、現在の彼らと、敵との実力差についてである。

 

金剛「ここから、どうするデース?」

 

提督「そうだな・・・あ、対潜哨戒は出してあるな?」

 

扶桑「はい、今一水戦の皆さんが――――。」

 

提督「うん、それなら結構・・・。」

 

直人が微妙に言いにくそうにしているのは、二水戦が使えない事と、もう一つ別の理由があった。

 

金剛「――――テイトク?」

 

提督「何かな金剛、私の顔に何か付いてるかい?」

 

金剛「何か言いにくい事がありマスネ?」

 

提督「ん? いや、別にそんな事はない、少し考え事を――――」

 

金剛「顔に出てるネー。」ジトー

 

提督「・・・。」

 

金剛「図星ネ?」

 

提督「仰る通りで。」

 

あっさり認めた。

 

提督「全くお前を相手に隠し事は出来んな。」

 

金剛「無謀なトライというモノネー。」

 

提督「違いなかろう。」

 

扶桑「―――――提督、お話、頂けますか?」

 

扶桑がそう言うと

 

提督「分かった、実直に言う。」

 

と答えた。

 

提督「まず一つは連絡事項だ。金剛は知っているが二水戦はこれ以降戦闘は無理だ。」

 

赤城「損害が、それほど酷いのですか?」

 

提督「艤装は大したことはないが、身体への影響が著しい。雷からもドクターストップだ、よって出せん。」

 

扶桑「そうですか・・・。」

 

川内「それじゃ突入は出来ないか、第一水上打撃群は・・・。」

 

金剛「無念デース。」

 

提督「そうなるな、金剛には悪いが、夜戦では陽動戦力になって貰う事になるかな。」

 

金剛「―――――引き受けるしかない、ネ・・・。」

 

提督「それと一つ、これは俺の予測になるが――――」

 

直人はそこで言葉を区切ってから言った。

 

提督「恐らく、今回の敵は我々より強力だ。それはこれまで遭遇してきた敵の、水際立った行動が証明している。」

 

金剛「・・・。」

 

提督「敵はこれまでの敵と比較し、戦術の常道を弁えた相手だ。つまり力押しに頼る相手ではない、これは厄介だぞ。」

 

赤城「ですが、提督なら、何とかして下さる。そうですよね?」

 

提督「必ず勝てる、と言う確証はない。だがこの様な状況に陥らせたのは全て、俺の責任だ。である以上は、俺がなんとかする。それが、俺に出来る責任の取り方だと思う。」

 

その言葉を聞いた金剛は素直にこう言った。

 

金剛「テイトクらしいネ。」

 

提督「恐縮です。」

 

直人はまだ、余裕を残していた。それは敵の規模の推察と大凡の練度が浮き彫りになっていたからだ。

 

提督「取り敢えず、敵発見の報があるまでは全艦思い思いに休んでくれ。但し対潜哨戒を怠らない様に、今しがた帰途に就いている補給船団が潜水艦に襲われたと言う報告も届いている。被害は幸いなかったようだが、だからと言って次誰が、いつ狙われるとも知れん。本艦が現在停泊中と言う事もある、用心せよ。」

 

4人「「了解!!」」

 

直人の分析は大凡正鵠を射ていた事は、この後の夜戦で奇しくも証明される事になる。この戦いは未だに終わりが見えていない、その様相は激化の一途を辿っていた。

 

 

提督「金剛、ちょっと待て。」

 

金剛「Watt?」

 

羅針艦橋を立ち去る4人を見送っていた直人がふと金剛を呼び止める。

 

提督「――――。」チョイチョイ

 

直人は右の人差し指で「こっちにこい」と合図を送る。

 

金剛「どうしましター?」

 

提督「うん、陽動と言うからには探知能力を上げて置こうと思ってな。お前にだけ、特別だ。」

 

金剛「ンー・・・?」

 

首を傾げる金剛だったが、その後の言葉を聞いた彼女は納得して艦橋を去っていったのだった。

 

 

提督「・・・明石、聞いていたな。」

 

金剛が艦橋を去ってから直人は何処へとも無しに言い放つ。

 

 

・・・。

 

 

明石「アハハハ――――バレてますよね・・・。」

 

提督「当然だ、俺を誰だと思ってる。」

 

明石は今の今まで前檣楼天蓋の被弾痕をチェックしていたのだ。が、金剛と直人の会話は壁の陰で聞いていたのだ、要領のいい事である。(呆れ)

 

明石「天蓋に異常はありません、掠り傷でした。ERA(爆発反応装甲の略称)の取り換えはしておきましたのでご心配には及びません。」

 

提督「結構、これで安心して戦える。」

 

明石「“先ほど言っていた件”も私がご用意しておきます。勝ちましょう、提督。」

 

提督「ありがとう。」

 

直人は明石の言に感謝の意を示し、夕日が沈み闇に沈み行く海を眺めていた。

 

 

錨を下ろし、スラバヤ沖に仮停泊する鈴谷では戦闘糧食の分配等が行われていたがそろそろ終わりかけていたと言う頃合い・・・

 

~17時53分~

 

筑摩「3番機より“テ連送”(敵発見)!!」

 

榛名「・・・来ましたか。」

 

 

提督「・・・近いな、こちらを急襲するつもりか。」

 

通報座標はヌサトゥンガラバラットの北西岸、それも西に向け急進していた。距離は既に500kmを切っている。

 

金剛「“どうするネー!?”」

 

提督「探す手間が省けたと言う事にしておこう、おかげで楽が出来た。」

 

金剛「“こんな時まで変わらないネー・・・。”」( ̄∇ ̄;)

 

金剛が苦笑する。

 

提督「良かろう、ここで迎え撃つ。全艦直ちに出動! バリ島周辺海域で敵を迎え撃つぞ!!」

 

扶桑「“布陣は、如何しますか?”」

 

提督「良い質問だ。」ニヤリ

 

直人が不敵な笑みを浮かべて扶桑の言を受け止めた。

 

提督「中央は第一艦隊が担当せよ、今回は扶桑が主役だ。左翼は第一水上打撃群が担当し、北方から敵に揺さぶりをかけろ。相応の損害も受けるだろうが心してかかれ。」

 

金剛「“イエッサー!”」

 

扶桑「“分かりました。”」

 

提督「一航艦はバリ島とジャワ島の合間からバリ島の南へ抜け、そこから航空支援だ。念の為東方海面の索敵を行う事。なお今回の吊光投弾(偵察機用照明弾)の受け持ちは第一水上打撃群が受け持つ事とする。」

 

赤城「“承りました。”」

 

各艦隊への指示が終わった所で金剛が言ってきた。

 

金剛「“忙しいデスネー。”」

 

提督「百戦錬磨の名将が何を言う。」フッ・・・

 

金剛「“ま、大役デース、頑張るヨー!”」

 

提督「頑張り過ぎて怪我すんなよ。」

 

金剛「“ヴッ、こ、心するデース。”」

 

前科持ちの金剛、言い訳できず。

 

金剛「“ソウデス、鈴谷はどうするネー?”」

 

提督「陽動の効果は、少しでも高い方が良かろう?」

 

金剛「“それじゃ、まさか!?”」

 

提督「ザッツラ~イト、俺も混ぜて貰うぞ。」

 

金剛「“リ、了解ネ・・・。”」

 

いきなりプレッシャーが倍になった気がする金剛さんでありました。

 

提督「ハッハッハッハッハ!! まぁ奴さんでも金剛達とこの鈴谷は主力の来援と見ているに違いないんだ。ならば、その効果を最大限に発揮しようじゃぁないか。」

 

金剛「そ、それはそうデース・・・。」

 

提督「まぁ陰に控えてるから文句を言わんでくれぃ。あれだ、第三次ソロモン海戦のワシントンのポジ。」

 

分かりにくい例えを有難う御座います()

※第三次ソロモン海戦の第二夜戦に於いて、戦艦霧島は米戦艦ワシントンを火災により大破に追い込むが、その後方にレーダーを装備した戦艦ワシントンが闇に紛れ潜んでいた。この時水上レーダーを持たない霧島はこの存在に気付かぬまま滅多打ちにされた。

 

金剛「“それはちょっと例えが悪いネー。”」

 

提督「おっとそうだ、すまん。」

 

金剛「“フフッ、それじゃ、行きマスヨー!”」

 

提督「応! 全艦出撃!!」

 

第一水上打撃群は鈴谷と共にいの一番に動き出す。(当然鈴谷は置いて行かれた。)

 

 

この時慌てていた艦娘が一人いる。

 

暁「ふぉっほまっへよ、まははへおはっへはい!!(ちょっと待ってよ、まだ食べ終わってない!!)」

 

響「ちょっと遅いんじゃないかい?」

 

雷「飲み込んでから喋りなさい?」

 

ダブルツッコミを食らう暁。

 

暁「んっ・・・」ゴクン

 

漸く食事を胃袋に叩き込んだようだ。

 

川内「いけるー?」

 

旗艦の川内が声をかける、律儀に待ってくれたらしい。

 

暁「も、勿論!」

 

川内「うん、じゃぁいこっか! 夜戦は皆でやらないと!!」キラキラ

 

いつにも増して張り切っている川内。

 

<夜戦だああぁぁぁぁーーー!!

 

暁「夜になると性格変わってない?」

 

響「ただの夜戦クラスタだよ、気にしないでおこう。」

 

暁「・・・?」

 

暁がきょとんとした顔になるがそれを見た響は―――

 

響「・・・クスッ。」

 

笑った。

 

暁「なんで笑うのよー!」

 

響「それより早く行こう。置いて行かれかねないからね。」

 

言うなり響がさっさと先頭を切って既に進発し始めている第一艦隊の元へ行く。雷と電が続いた。雷はウェストポーチに応急手当て用の装備も持っている、所謂“メディック”衛生兵の役回りである。

 

暁「なんなのよーっ!!」プンスコ

 

暁がその後ろを慌てて追いかけて行った。

 

 

提督「――――はぁ、あんな事をしている内は大丈夫だな。」

 

直人もこれには溜息をついて呆れながら言ったものである。勿論直人がいるのは羅針艦橋だったが。

 

明石「20ノットです。」

 

提督「それにしても波が穏やかで良かった。いい揺れ具合じゃないか。」

 

明石「そ、そうですね。」

 

唐突にそんな事を言うので明石が驚いていると直人はこう続けた。

 

提督「いずれのんびり船旅の出来る時代が、またやって来るのかね。」

 

このご時世、クルーザーなんて出ちゃいないのである。そんな事をすればたちまち潜水艦に見つかってしまうからだ。

 

明石「――――その日の為にも頑張りましょう、提督!」

 

提督「そのとおりだ、さしずめ目の前の敵を完全覆滅したい所だがそれは望めんだろうな。6割勝って満足としよう。」

 

明石「はいっ!」

 

直人は今回、高望みしない事を決めたのであった。

 

 

―――――18時37分

 

金剛「前方、敵水雷戦隊!!」

 

提督「“何ッ!? 応戦だ、素早く突破せよ!!”」

 

金剛「了解デース! 全艦急速前進、雷跡に注意ネ!!」

 

一同「了解!!」

 

最初に発見されたのは第一水上打撃群であった。陽動としては好都合だし、進撃速度としても妥当ではあったが、よりによってか、と言う思いが直人の心中に去来していた。

 

 

―――――18時39分

 

提督「今度は第一艦隊もか・・・!」

 

立て続けざまに第一艦隊も急速前進して来ていた深海棲戦艦を軸とする高速打撃群と正面からぶつかった。

 

扶桑「“突破します!”」

 

提督「頼むぞ、成否はお前達にかかっている!!」

 

扶桑「“お任せ下さい!”」

 

扶桑は一方的に通信を切って突撃を開始する。

 

提督「敵も中々どうして打つ手が早い!」

 

明石「本艦はどうしますか?」

 

提督「予定に変更はない、このまま突撃する!」

 

明石「はい!」

 

直人は既に覚悟を決めていた、この上は貫徹するのみであった。

 

 

―――――更に18時42分

 

提督「“テ連送”だと!?」

 

赤城「“提督、東方海上に出した索敵機から敵艦隊発見の報告あり、機動部隊です!!”」

 

提督「針路は!」

 

赤城「“真っ直ぐこちらに来ます。”」

 

それを聞かされた直人は歯噛みをして悔しがった。

 

提督「くそっ、先手を取られている・・・!」

 

赤城「“攻撃許可を!”」

 

提督「現場指揮官の裁量に任す、急げ!!」

 

赤城「“はいっ!!”」

 

一航艦までもが間を置かず発見された、これでは頭を押さえられたのと大して変わり映えがしないと言う状況であった。

 

提督「成程、速戦即決か。しかし考える事は同じらしいな。と言う事は第一艦隊と第一水上打撃群の戦線の隙間を縫って、もう1部隊進撃してくるかな?」

 

明石「と、言う事は?」

 

提督「そいつらの狙いは俺だな。」

 

明石「良かったですね付いて行って・・・。」

 

と明石が安堵すると直人は頭を振った。

 

提督「まだだ、灯火管制を徹底させろ。タバコの火一つ漏らすな、全艦舷窓を閉めさせろ、艦内も夜間照明に!」

 

明石「はい!」

 

明石が艦内制御を掌握している為直人は明石に指示を出した。一方直人の予測は正確で、敵高速打撃部隊(重巡基幹)が戦線の合間を彼らの後方へ抜けた。敵はどうやら鈴谷がスラバヤに留まっていると思い込んだようで、その錯誤が直人の身を援けた。

 

提督「全速力でこの危険海域を抜けて敵主力第二陣の北方へ出るぞ。一水打群には悪いが盾になって貰おう。金剛もそれは承知の筈だ。」

 

明石「分かりました。」

 

明石も漸く腹を括ったようだ。

 

 

金剛(敵主力との交戦では、私達は提督の盾代わりネ。)

 

全く以心伝心とは怖いものである。

 

榛名「雷跡右10度、雷数5!」

 

金剛「回避!!」

 

急速に間合いを詰めた金剛は、レーダーと持ち前の技術を使い敵を打ちのめしていった。他の僚艦もこれに続く。惜しむらくは駆逐艦がいない事だったが、重巡や軽巡の魚雷でカバーは効くのだ。だが何より・・・

 

金剛「ファイアー!!」

 

摩耶「撃てぇッ!!」

 

 

ドオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

元来の火力と練度が違い過ぎた。

 

神通「敵陣中央に綻びが!」

 

金剛「一気に押し通るヨー!!」

 

鈴谷「それ後から来る提督が危なくない!?」

 

全く御尤も。但しそれは“普通の部隊”が気にする事である。

 

金剛「ノープログレムデース。大井、北上!」

 

大井「両舷雷撃、2艦ですれ違いざまにね?」

 

金剛「流石ネ。」

 

北上「演習で死ぬほどやったからね~。」

 

やっぱり練度が桁違いである。第一、重雷装巡洋艦を2隻も擁する部隊が普通な訳はないのだ。

 

神通「では先鋒は私が。」

 

金剛「OK、行きますヨー!」

 

金剛は訓練通りの突撃陣形を組んで突入する。

 

鈴谷「大丈夫なのかなぁ・・・」

 

金剛「提督にも、残しておかないとデース。」

 

ごねるのを知っているからである。この後突破までで要した時間はトータルで僅か50分と言う破格の短さであった。

(突破時刻:19時27分)

 

 

一方の第一艦隊、交戦開始から30分が経過した後でも全く敵の勢いが衰える様子はない。

 

扶桑「巧妙ですね・・・。」

 

扶桑は敵の巧妙な布陣に舌を巻いていた。敵の戦艦部隊は中央と左右両翼に分かれて布陣しており三方から第一艦隊に向け射撃を行っていた。これに対し扶桑と山城が左翼、伊勢日向が右翼、陸奥が中央に陣取って踏ん張っていたが、如何せん一人が受け持つ敵戦艦の数が多く苦戦していた。

 

扶桑「こうなれば、雷撃しかないわねぇ。」

 

と扶桑が言った。

 

山城「不本意ですが、仕方ありませんね。」

 

戦艦同士の殴り合いで勝てないのだから仕方が無かろうが・・・。

 

 

ドドドド・・・

 

 

扶桑「えっ?」

 

山城「あれはっ――――!!」

 

こちらから向かって左翼方向の敵陣に上がる複数の水柱、魚雷命中のそれである。

 

川内「“ご要望通りに致しましたよ? あとは存分にどうぞ。”」

 

と川内が丁重に言った。

 

扶桑「えぇ、ありがとうございます。」

 

山城「良い連携です、これなら!」

 

扶桑「そうね、撃てっ!」

 

 

ズドオオオォォォォォォォーーー・・・ン

 

 

41cm砲10門が次々に火を噴いた。欠陥だらけの扶桑型、しかし火力は本物である。だがそこから敵艦隊を敗走に至らしめるまでに、尚30分と少し要したのであった。

(突破時刻:19時42分)

 

 

提督「撃て!」

 

 

ズドドドドドドドドオォォォ・・・ン

 

 

一方の直人は金剛が置いていった“おこぼれ”を頂戴している所であった、呑気なもんである。

 

明石「命中!」

 

しかも当ておった、流石である。

 

提督「まだまだ、次行くぞ~。」

 

まるで射的でもするかのようなノリである。

 

 

~バリ島北西海面・敵第二陣主力艦隊~

 

若干時系列で遡るが鈴谷が悠々と砲撃を行っている頃――――

 

ル級改Flag「ナニ!? 敵ノ巡洋艦ガ北ニイル!?」

 

一方で鈴谷がスラバヤにいないと知った敵旗艦は焦った。逆に突進してきたと言うのだから尚更だろう。

 

ル級改Flag「スグニ第26任務部隊ヲ呼ビ戻セ!!」

 

旗艦はスラバヤへ向かわせた艦隊を呼び戻そうとしたが、既に半ば遅かったと言える。何故ならその時第26任務部隊は遥かスラバヤ方面奥深くへと入り込んでしまっていたからだ。

 

ル級改Flag「防御陣ヲ一部修正、北側ノ防衛ヲ強化スル!!」

 

この敵旗艦の判断が、結果として一水打群の囮としての役割を補強する効果を生み出すことになる――――。

 

 

19時43分・敵主力北方海面

 

第一艦隊が敵前衛を突破した僅か1分後と言う事もあり、

 

金剛「――――!」

 

金剛が、何かを掴んだ。

 

榛名「お姉さん、どうしたんですか?」

 

金剛「・・・発見されたヨ。」

 

榛名「―――!?」

 

金剛「“逆探”に反応、敵のレーダー波ネ!」

 

摩耶「逆探だぁ!?」

 

利根「いつの間に・・・。」

 

金剛「――――」ムフー

 

 

金剛「ンー・・・?」

 

あの時首を傾げていた金剛に、直人はこう言っていた。

 

提督「試作型の逆探をお前に預ける、役立ててくれ。」

 

金剛「逆探デスカー!?」

 

逆探とは先程やっていたように、敵のレーダー波を探知して、敵のいる方位を測距する為のものだ。レーダー波には指向性がある為、この電波逆探知機に引っかかると、照射艦は相手側から見た自身のいる方向を察知されてしまう訳だ。残念ながら距離までは分からないのだが。

 

但し逆探は探知のみの電探と言える代物の為、自分から探知を行う事は出来ない受動的なシステムでもあるが、日本軍でも作れる位低電力で簡易な機構である為日本軍も一部艦艇が使用していたと言われる。

 

 

金剛「敵を釣り出すネー! 前進!!」

 

筑摩「はい!」

 

羽黒「い、行きます!」

 

木曽「出番か、行くぜ!」

 

蒼龍「それじゃ一回下がってましょうか。」

 

金剛「航空支援、宜しくネー!」

 

神通「護衛はお任せを。」

 

摩耶「んー、よし、今回は譲った!」

 

夜だから防空能力より対艦戦闘能力である。

 

こうして第一水上打撃群の内、空母と水雷戦隊を欠いた9隻が敵陣への突進を開始した。当然の事ながら、司令部の最大戦力の核である以上精強であるのは言うまでもないだろう。

 

 

19時48分 重巡鈴谷

 

一方で一水打群を猛追する重巡鈴谷のブリッジでは、直人が戦況を眺めて手を考えていた。但し自分ならどうするか、というモノだ。

 

提督「・・・成程、囮に徹するか。」

 

直人は金剛達の動きを見て意図を理解した。実際的の一部が北に移動し始めている。

 

明石「一航艦から、航空攻撃は無理そうだと言ってきました。」

 

提督「承知した旨伝達せよ。」

 

明石「はい!」

 

明石にそう命じつつ直人は一人言う。

 

提督「しかし、敵も俺と考えた事は同じか、南からこちらに空襲を仕掛けるつもりだったのだ。最も、双方がぶつかりこちらが先制したおかげで避けられはしたが、こちらも束縛された。一航艦からの航空支援はあてにしないでおこう。」

 

この局面が空母が使えないとしても大して困る話ではない。だが戦術展開を封じられた直人は、相手の手を読みにかかっていた。同時に代わって打ちうる手をも、だ。

 

提督「・・・きついな。」

 

明石「えっ?」

 

提督「なんでもない。」

 

直人の苦慮は続く・・・。

 

 

19時58分 敵艦隊西方/正面海域

 

陸奥「敵艦隊、射程に捕捉!」

 

最も長い射程を持つ長門型戦艦、陸奥が、敵艦隊を最大射程に捉えた。この時敵右翼部隊が一水打群によって釣り出されていたことで、若干ながら手薄になっていた。

 

扶桑「撃ち方始め!!」

 

陸奥「テーッ!!」

 

 

ドドドドドドドドォォォォーーーー・・・ン

 

 

受難と不運の戦艦陸奥の主砲が、夜のバリ島沖に敵本隊を目掛けて咆哮する。その一撃は、40kmほど離れた一水打群から視認されるほどの巨大な発砲炎となった。

 

 

19時59分

 

金剛「着弾、今! 行動変更、全艦突入デース!!」

 

蒼龍「全機突入!!」

 

蒼龍の合図と共に、九九式艦爆の一部が250㎏爆弾と共に両翼に懸架していた吊光投弾が、迂闊にも釣り出された敵艦隊右翼部隊を真昼の様に照らし出した。既に急降下爆撃隊は翼を翻している。

 

摩耶「タイミング、完璧だな。」

 

司令部最古参の大型空母、流石の練度である。

 

榛名「撃てぇッ!!」

 

羽黒「突入します!!」

 

羽黒が思い切りよく突入する。

 

大井「北上さん!」

 

北上「続くよ!」

 

木曽「応!!」

 

第十一戦隊がこれに続く。

 

金剛「総旗艦の力、見るがいいネー! ファイアー!!!」

 

その艤装はまさかまさか、大和の主砲に合わせられたという(明石談)、金剛の46cm三連装主砲が響き渡る。

 

そして一方で第一艦隊では、川内の一水戦が動く。

 

 

川内「突入ッ!!」

 

川内が下したくて仕方のなかった号令が響き渡る。そしてそれを合図に駆逐艦娘達が猟犬の如く勢いで飛び出していく。数多の訓練による洗練された動きである。

 

響「いやぁ、役に立ったねぇあの訓練。」(`・ ・´)

 

雷「今言う事!?」

 

ではない、多分。

 

暁「良いから突撃よ、行くわ!!」

 

 

パッ―――

 

 

暁の号令と共に、一条の光が暁から放たれ、敵旗艦を照射する事に成功した。

 

雷「―――――!」

 

響「相変わらず姉さんは何も考えてないね。」

 

電「危なくない、ですか?」

 

暁「だ、大丈夫よ! お姉ちゃんに任せて置きなさい!」

 

3人(何だろう、異常な程の説得力があるから怖い――――)

 

全くである。

 

川内「ヒュ~♪ んじゃ、照射任せるよ暁!」

 

暁「了解!」

 

川内も暁の度胸を買って全てを委ねた。この頃既に、暁に対する信頼は確かにあったといえる。

 

扶桑「暁さん? 無理はしないでくださいね?」

 

暁「“勿論!”」

 

元気のいい事である。

 

山城「どうやら照射中の敵艦は旗艦のようです。」

 

扶桑「みたいね、庇う様に敵が飛び出して来たわ。」

 

扶桑も鋭く照らし出された敵艦が旗艦である事を、敵の行動から洞察する。

 

 

提督「あれは・・・照射艦は、暁かぁ・・・。」

 

その光芒は直人の元にも届いたが、チャートで暁だと知るとなまじ止めにくくなってしまったのであった。

 

明石「どうかしたんですか?」

 

提督「いやー・・・照射止めにくいなぁ、と。」

 

ただそんな事を言っている間にも・・・

 

 

20時02分

 

暁(敵弾―――――)

 

鋭くそれを察知した暁、どうやら鳥目でもないらしい。

 

響「来るよ姉さん。」

 

暁「分かってるわよ!」(あの夜を思い出すわね・・・。)ザザザザァッ

 

暁は急速な機動で敵弾の着弾地点から離れる。この艦艇には不可能な鋭敏な機動力も艦娘の取り柄であろう。

 

雷「よく撃ってくるわね・・・!」

 

響「どっかの姉さんが探照灯付けてるからね、それで手を振って歓迎だったらいいんだけど。」

 

電「言ってる場合じゃないと思うのですっ!!」

 

 

ガキイイイィィィィィーーーーー・・・ン

 

 

響「!?」

 

雷「うん!?」

 

電が・・・砲弾をアンカーで打ち返した・・・

 

電「――――。」ニコッ

 

二人とも驚いて言葉も出ない。いい笑顔である、ナイススイング。

 

 

そのおよそ20分後の20時21分、敵右翼部隊を突破した金剛率いる一水打群が、蒼龍航空隊の援護を得て本隊目掛けて突撃を開始、この強襲により敵の指令系統に混乱が生じる。そして・・・

 

提督「や、やっと追い付いた・・・。」

 

鈴谷が、追い付いた。が、何にもいない。

 

提督「そりゃ突撃してってるから誰もいないだろうけどもやな。」

 

明石「右前方敵艦隊!!」

 

明石の声を聞いて直人が戦況チャートを見た。

 

提督「ふむ、チャートからして金剛が突破していった敵右翼部隊だな。連続射撃で制圧しよう。金剛が挟撃を受けぬようにな。」

 

直人は主砲を、右舷に向ける。

 

提督「吊光投弾で派手に照らしてるおかげで、照明弾射撃必要ないなこれ。」

 

明石「あそこだけ昼間みたいですね・・・。」

 

提督「全くだ。」

 

直人が明石の言に同意したと同時に、砲弾が装填し終わる。

 

提督「もう少しだ、もう少し寄せて・・・よぉし撃てぇ!!」

 

直人が間合いを測り戦端を開く。

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドォォォーーー・・・ン

 

 

15門の主砲が一斉に火を噴くさまは中々壮観でもある。しかしその弾幕は圧倒的な制圧能力をこの艦に持たせているのである。

 

提督「・・・4隻纏めて深海に強制送還か。こりゃ8インチ砲に換装が決まった時反対意見出たのも納得だな。」

 

普通に考えて、同じ中口径主砲であり、連射速度も早く、砲門数でも5門勝っている15.5cm砲と、1発の威力だけが売りの20.3cm砲では用兵側と求めているものが違うのである。投射量に於いて、圧倒的なアドバンテージが15.5cm砲にはあったのである。

 

しかし統帥部は敵重巡と真っ向から殴り合える巡洋艦を求めていた。この事がひいては強硬に8インチ砲への転換を推し進めた理由であろう。尤もそれが建艦計画当初からの予定ではあったのだったが・・・。

 

明石「中々恐ろしい火力してますね・・・。」

 

提督「6.1インチ砲舐めたら死ぬよマジで。」

 

次々と連射を指示しながら直人が何という事も無いという風に言う。

 

実際火災だけで沈んだ軍艦も結構多いのだ。一番新しい例ではフォークランド紛争の際、不発ミサイル1発で火災が発生した挙句、防火処理がされていなかった為有毒ガス

の発生で消火できず沈んだイギリス駆逐艦もある程だ。

 

例え一撃で劣ろうとも、立て続けざまに火災を発生させてやれば戦闘能力を喪失する事は間違いない。上部構造物にダメージを与える事は大して難しい事ではない事を、第三次ソロモン海戦に於いて、霧島が三式弾のみでアメリカ新鋭戦艦を炎上・大破させた事が、十分物語っている。

 

提督「例え火災しか相手にダメージを与えられずとも、その火災が弾薬庫を爆発させられれば、戦艦と言えどタダではすまん。奴らが深海棲艦になった事の悲哀は正しくここにある。」

 

明石「と、言いますと?」

 

提督「生身の身体は良く燃えるだろう?」

 

明石「あっ・・・。」

 

弾薬庫どころか生殺しであった。実際使っているのは徹甲榴弾であったが、八つ裂きかさも無きゃ焼け死ぬかの二択しかそもそも残されていないのだ。戦艦級でも艤装に当たれば弾けるが、生身ではそうもいかないと、こういう寸法である。きちんとした服を着ているだけ艦娘の方が“まだマシ”だ。

 

提督「でも敵の戦艦級って仕込み鎧と言うか、そう言ったものを一般的な服の代わりにしてっからな、火災には弱いけど、徹甲弾には強かったりするから難しいんだな。」

 

これは局長自信が身に纏っていたから知っている事だ。因みに今は普通の服で鎧の方はしまってあるそうだ。

 

明石「鎧位ならぶち抜けるんじゃ――――」

 

提督「深海鋼の硬さ舐めたらいかんぞ、軽いし見た目は普通の金属なのにチタンより硬いものもあるからな。」

 

明石「そう言えばそんな話もありましたね・・・。」

 

深海の技術力の一端と言うか、冶金技術についてはどうやら人間の先を行くらしい、と言う話はこの頃には既によく言われている事のようである。これは何の事もない様に見えて実は重要で、火砲の砲身一つとってもより長い物が作れちゃうのだ。それに砲弾についても様々な工夫が可能になる。独逸が第二次大戦で、航空機関砲用に作り上げた薄殻榴弾もそうした工夫の一つだ。

 

提督「人類の冶金技術も大したもんだがね、その更に上を行く相手だと、厄介なもんさ。」

 

明石「私達ももっと進歩していかないといけませんね。」

 

と言いながらその相手を次々に薙ぎ倒していく直人でありました。ある意味こうした余裕を持った奴が一番怖いのである。

 

 

暁「撃て、撃てぇ!!」

 

響「Ураа!!(ウラー!!)」

 

第六駆逐隊を先頭に突入する第一水雷戦隊は、既に敵陣にかなり深く食らい付いていた。

 

一水打群突入によって生じた敵の混乱は、戦闘の一元的な指揮を困難極まりないものにした。それはつまり、小部隊単位での防戦を余儀なくされた事を意味するものであり、水際立った防御は不可能になった事をも同時に意味していた。まして、態勢を立て直すより先に混乱が生じた事を考えれば、敵から見れば余りに不利であった。

 

 

「“第二波攻撃隊突入!”」

 

赤城「順調ね。」

 

一方でバリ島南方では、赤城ら一航艦が困難極まる航空戦を戦っていた。空母としては当然の悩みでこそあるが、夜間で方位測定が難しい上索敵も困難、おまけに敵襲察知も難しく魚雷回避も難渋すると来ては尚更である。

 

加賀「これで決着がつくでしょう。」

 

赤城「そう信じたいわね。」

 

しかし精強なる荒鷲達はその困難な任務をこなし、第一次第一波攻撃隊は敵空母の戦闘力を喪失させて帰ってきたのである。これを指揮したのは村田重治の赤城艦攻隊だった。そしてトドメの一撃を加えようという所であった。

 

赤城「慢心はダメ、最後まで気を引き締めていきましょう。」

 

加賀「そうね。」

 

赤松「俺が行けばすぐに終わるのによー・・・。」

 

再び留守番の松ちゃん。しかし夜では動き様もなく面従腹背で待機中。

 

加賀「あなたが出て行ってもする事はないわよ?」

 

赤松「うっ・・・。」

 

零戦の爆装量なんてたかが知れているから当然である。

 

 

そのすぐ後、20時31分に、直人に宛てて赤城から通信があった。

 

提督「そうか、航空戦は完封勝ちか。」

 

赤城「“はい、次の御指示を。”」

 

だから、無線封止徹底しろと。(戦場なので余り意味がない)

 

提督「航空隊を収容して一応艦艇攻撃用装備で待機、以上だ。」

 

赤城「“分かりました。”」

 

赤城からの通信が切れると直人はチャートを見た。

 

提督「成程、空母だけに狙いを絞った訳か。戦術的には正しい判断だ。」

 

基幹となる空母を失った敵機動部隊は南へと逃げ去ったという。機動部隊は空母あってこそ、敵の行動は妥当であった。

 

提督「・・・しかしこれ、霧島は面白くないだろうな。」

 

明石「え、なぜです?」

 

提督「他のがドンパチやってるのに蚊帳の外。」

 

明石「あっ・・・。」

 

大体察した明石さんであった。

 

 

ル級改Flag「・・・止ムヲ得ン、一旦退クゾ!」

 

機動部隊潰滅の報と同時に、敵旗艦であるル級改Flagは撤退を決断した。最早時局の収集は自分達が引き下がるしか解決しようがない事を知っていたからこそであろう。

 

が、その動きは筒抜けであった。上空には未だに偵察機が留まっていたのだ。

 

 

20時40分

 

提督「・・・動きが変わったな、後ろにいる部隊が反転している様にも見える。」

 

明石「もしかして・・・。」

 

提督「普通に考えれば撤退の動きだな、深追いさせてはならんか。全艦、適宜タイミングを計って後退しろ。」

 

直人は相手が退くと言うなら無理に戦果を拡大する必要はないと踏んで指示を出す。今回は殲滅ではなく撃退が目的だからだ。

 

金剛「“了解デース!”」

 

扶桑「“敵が撤収する、と言う事でしょうか?”」

 

提督「そう言う事だ。随分一水戦も食らい付いていった様だが、ここいらで潮時だ、後退させてくれ。」

 

扶桑「“分かりました。”」

 

二人の現場指揮官も納得した。

 

提督「ひとまず終わり、かな。」

 

明石「もう少しかかるでしょうけどね。」

 

提督「ぐぅ正論。」

 

ぐぅの音しか出なかった。

 

 

20時56分、戦闘は終結した。それまでの間に抵抗してきた敵に対する反撃で敵主力が瓦解し、その事が横鎮近衛艦隊の後退を楽にした。殲滅する事は無駄であるとしながら結局敵が瓦解するまで戦わされる羽目になった事は失笑すべき結果と言えた。

 

この時点で既に直人は集結命令を全艦に発していた、帰る気満々である。

 

 

21時20分 バリ島北方160km付近海上

 

赤城「一航艦全艦、帰投を完了しました。」

 

提督「ご苦労様、ゆっくり休んでくれ。」

 

赤城「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 

食欲があり過ぎる事を除けば至って真面目な赤城である。

 

左舷側発着口で赤城を出迎えた直人はその報告を聞くと、身を翻して艦長室にさっさと戻っていった。相当疲れていたものらしい。

 

提督(とにかく寝たい・・・ここまで戦闘の連続だったから疲れた・・・。)

 

碌に休んでないと緊張が途切れたらこうなる。仕方ない事だが一応提督業もブラックではないので休ませてあげよう・・・。

(と言うかこれだけ自由に動き回れるのだからブラックも何もないもんだ。)

 

 

が、23時17分、安眠を貪っていた直人はいきなりその安寧を破られる羽目になる。余談だがこの事を割と根に持ったと言われるが、そんな事は問題ではなかった。

 

 

ブーッ!ブーッ!ブーッ!・・・

 

 

提督「ん・・・んー? 何だこの夜中に・・・」ガチャリ「もしもしこちら艦長室――――」

 

明石「提督、司令部から緊急電です、至急お越しください!」

 

提督「えー、明日じゃダメかい・・・?」

 

明石「滅茶苦茶眠そうですね・・・では私がそちらに出向きますので待っていてください。」

 

言うなり明石は電話を切った。

 

提督「―――――なんなのさ・・・。」

 

 

~羅針艦橋~

 

鈴谷「こっちはバッチシ任せといて~、急いで“あの事”伝えないとね。」

 

明石「そうです、それじゃ、お願いします!」

 

鈴谷「はいはい、もうついでに休んどく?」

 

明石「んー、それもそうですね、それじゃ、当直お願いします!」

 

鈴谷「鈴谷にお任せ~♪」

 

夜更かし決定の鈴谷だがノリノリである。

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「はいどうぞ―――――ふあぁあ~・・・」

 

明石「大きなあくびですね・・・。」

 

それはそれはもう大あくびをして眠そうな直人がいた。

 

提督「そうだよ人が折角いい心地で寝ていたのに。」

 

明石「す、すみません、ですが緊急事態なんです。」

 

提督「――――とりあえず聞こう。」ゴゴゴゴ・・・

 

不機嫌そうに言う直人、その言葉の裏には「しょーもない事だったら恨むぞ」と言う本音が隠れているような気がした明石であった。

 

明石「司令部が今日の正午ごろ、空襲されたそうです!」

 

提督「誤報じゃなくて?」

 

明石「本当ですっ、こちらが転電されてきた文章の写しになります。」ピラッ

 

明石が差し出された紙に直人は目を通す。

 

『発:御巣鷹山

 宛:スメラギ ※重巡鈴谷

本文

本日1342時、御巣鷹山空襲さる。基地航空隊並びに鳳翔航空隊の奮戦により被害は最小限度に留まれり。更に基地航空部隊は敵艦隊を捜索するも、敵超兵器空母を認め、攻撃を行うも損害に比して敵への被害は軽微に付き、再攻撃を中止せり。

造兵廠及び燃料タンク、資材倉庫付近に着弾あり、燃料タンクに被害なし、他2カ所については被害発生す。

艦隊に置かれては防衛に万全を期す為安心せられたし。』

 

提督「・・・何と言う事だ、超兵器が出てきたのか。」

 

明石「はい、報告書に添付されていた写真がこれです。」

 

明石から差し出された写真は、敵超兵器級深海棲艦を克明に写していた。

 

提督「・・・あまり見慣れないタイプだが名前は知っている、アルウス級の深海棲艦だ。」

 

アルウス級深海棲空母、それは、元アメリカ海軍超巨大高速空母「アルウス」の成れの果て―――と言うには多少語弊があるが―――である。

 

膨大な艦載機に加え、60ノットと言う快速と戦艦に匹敵する武装を持っている為、沈めるのは容易ではない。史実でも航空攻撃を幾度となく掻い潜り続けたものの、あるきっかけから呆気ない最期を遂げているのだが、それはこの超兵器を紹介する時に述べよう。

 

提督「――――厄介だぞ、こいつは。」

 

明石「そうですね・・・。」

 

直人はその脅威性を認識する。

 

提督「問題は何処へ消えたか、だ。」

 

明石「トラック棲地から、だとすれば、イムヤさんがいますね。」

 

提督「そうだな、明日の朝になったらすぐに打電しよう。」

 

実は今回の出撃も潜水艦は同行していない、ではどこにいるかと言えば、監視任務を帯びてトラック諸島沖にイムヤが単独で張り込んでいるのだ。因みに攻撃は許可していない。

 

提督「もっと潜水艦がいれば・・・。」

 

明石「そ、そうですね・・・。」

 

潜水艦の少なさは必然的に運用を難しくさせていたのである。なまじ潜水艦というモノが特殊であるだけに、単独で扱うとしたらその用途はかなり狭まってしまうという側面も存在したのである。

 

 

同じ頃、司令部無線室では転電した無電がやっと届いた事を知り集まっていた面々がほっと胸を撫で下ろしていた。

 

大淀「何とか届きましたか・・・。」

 

飛龍「よかった・・・ふあぁ~・・・。」

 

眠いのは直人だけではなかった。

 

柑橘類「zzz・・・」

 

柑橘類隊長など無線機の上で爆睡する有様である。

 

 

13時52分 サイパン島上空

 

柑橘類「多すぎだろこれェ!?」

 

零戦二二型を駆る柑橘類大尉は、中隊を率いて上空に上がってみた時、実直にその感想を述べた。それもその筈、一波当たり約200機、数百機からなる戦爆連合がアルウスから飛び立っていたのである。その航空戦力はたった1隻で小国3つ分の空軍戦力に匹敵するとまで言われた化物である。

 

柑橘類「弾薬が何発あっても足りんぞ・・・」ニヤリ

 

妙な汗をかきながら余裕の笑みを見せる大尉。この男、格闘戦では並ぶ者が無いのだ。

 

 

それから奮闘すること実に8時間に及び、夜間と言う条件下を突いて押し寄せてきた敵機をも完璧に防ぎ止めて見せたのである。出撃回数は実にこの日だけで20を下らない過酷な状況であった。(妖精だからできる荒業であって普通してはいけない過剰労働である)

 

これがどれ程厳しい状況であるかは、日本海軍のパイロットたちが、基本的に一日の出撃を一人1回に限っていたという事からも十分窺えるだろう。

 

飛龍(休ませてあげましょうか・・・。)

 

多聞(そうだな。)

 

流石にそう言う事にもなる訳である。

 

大淀「とりあえず今日はもう休みましょう、明日また空襲が無いとは限りません。」

 

飛龍「それ言っちゃうと深夜の方が可能性高いんじゃ・・・。」

 

これは御尤も。深夜と言うのは最も敵の抵抗力が弱まる時間帯の一つであるからして、敵からすればもっとも襲い掛かりやすいタイミングではある。

 

大淀「既に疲労は限界に近い状況です。大尉さんもこんな所で伸びていますし。」

 

寝ているのを伸びていると表現しやがりましたこの大淀さん()

 

飛龍「・・・それもそうね~。」

 

納得しちゃった飛龍だった。

 

今回の空襲で弾薬及び鋼材に多少の損失があり、造兵廠のすぐそばに爆弾が落下、また造兵廠2番乾ドック内に爆弾が着弾し被害が出ていた。むしろ必死の抵抗もあり被害がこれだけに留まったのは不幸中の幸いで、敵が超兵器級深海棲艦だった事も鑑みると、基地航空隊の他は鳳翔だけの状態でこれは相当な事である。

 

だが鳳翔を飛び立った柑橘類中隊は奮戦の後総スコア確実190・不確実211、隊長個人スコア確実94・不確実49と言う大戦果を挙げて、防空戦闘を少なからず我が方優位に立たしめるのに貢献したのである。

 

その代わりに疲労の極みにあった訳であるが・・・。

 

 

4月20日11時33分 タウイタウイ泊地外縁・重巡鈴谷

 

提督「接舷完了、半減上陸許可するよ~ん。」

 

クソ軽いノリで言う直人。一応先の命令の際、任務終了後はタウイタウイにて待機を命ぜられていた為仕方なく戻ってきたのである。

 

明石「漸くゆっくり休めますかね・・・。」

 

提督「あぁ、そうだな。」

 

司令部からその後の報告はまだなかったが、取り敢えず一つ、戦闘が終わった事に安心していた。無論すぐにまた別の戦場に赴く事になるのは承知の上だ。

 

※因みに現時点では時差は考慮しないことにします。(By作者)

 

因みに半減上陸と言っても休みの無い連中は少なからずいる。その一人が・・・

 

 

雷「ふぅ・・・ようやく落ち着いて治療に専念できるわね・・・。」

 

技術局生体管理課統括の雷である。あれからずっと満潮と黒潮の治療に当たっていたのである。

 

電「お疲れ様なのです。」

 

雷「あら、電じゃない。どうしたの?」

 

医務室の雷を訪ねてきた電が用件を切り出す。

 

電「半減上陸の許可が下りましたけど、雷お姉ちゃんはどうするのです?」

 

雷「ダメね、患者の治療につきっきりになっちゃうし・・・。」

 

電「そうですよね・・・では、お姉ちゃん達と三人で行ってくるのです。」

 

雷「うん、ゆっくり羽を伸ばしてらっしゃい。」

 

電「はい!」

 

雷の言葉に送られて、電が医務室を後にする。

 

雷「・・・流石に少し休もうかしら。」

 

寝食の暇さえ惜しんで治療を続けてきただけに雷も相当疲労が溜まっているのであった・・・。

 

 

その後更にまるっと一日タウイタウイで待機した横鎮近衛艦隊は、その間に疲労を全快し、軽傷者はどうやら実戦に耐えうるところまで回復してきたと判断された。

 

そんなところへ大本営から次なる命令文が入ってきたのは、22日の18時27分の事であった。

 

 

~鈴谷・羅針艦橋~

 

提督「命令文は至って簡潔、出港時の命令文を実行に移せと言う事らしい。」

 

金剛「豪州攻撃デスネ?」

 

提督「そうだ、今回は空母部隊が要だ。そして我々にとっても久しぶりの棲地攻撃と言う事にもなる。」

 

棲地攻略どころか攻撃任務さえもがグァム以来である為一同に緊張が走る。更に言うとグァム棲地潰滅は結果的な部分が大きかったが、それ故にどのようにすれば攻略出来るのかについてのデータはあった。しかし今回の目的は攻略ではない点に留意すれば無理を押してやる必要性は皆無であった。

 

赤城「艦載機の補充は完了しています、万事、お任せを。」

 

提督「ありがとう、その言葉が頼もしい。」

 

直人は謝意を述べてから続けた。

 

提督「事前の研究の通り、同地には敵の超兵器が在泊している可能性が高い。それも複数だ。故に気を抜く事なく、徹底した索敵を行う。」

 

直人の方針では、この索敵網の中に敵が飛び出てくればこれを叩き、超兵器との海戦では自らが出陣することになっていた。

 

提督「だが一つだけ留意して欲しい事がある。一水打群はまだ戦力が完全には回復していない。その証拠に、黒潮と満潮はまだ安静にする事が求められているし、夕立は足の負傷から今回大事を取って出撃しない。それに先の夜戦で北上が今治療中だ。つまり雷撃能力も激減していると言えるだろう。」

 

第十一戦隊は、兵力僅かな一水打群の先頭に立っただけに損害が大きく、木曽も出撃できず、大井だけ艤装の修理が主戦場に間に合うかどうか、と言う状態になっていた。

金剛もどうにか無事ではあったが、榛名が小破、羽黒中破の損害を被っていた。摩耶と神通が健在なのは不幸中の幸いであったが、二水戦旗艦矢矧は、右肩に包帯を巻いている状態での出動である。

 

提督「榛名の艤装の修理も間に合うかどうか分からない、下手をすれば半端な状況で挑む事も考えられる。一水打群にも出撃はして貰う、だが可能な限り完全な勝ちを収め得る様に図って欲しい。無論その為には手段を惜しんではならんぞ。」

 

金剛「了解デース。」

 

提督「うん。扶桑、赤城、二人して金剛をバックアップしてやってくれ。ここでこれ以上被害を、増やす訳にはいかんからな。まして犠牲など出させん、いいな!」

 

扶桑・赤城「了解!」

 

二人の威勢のいい返事が返ってきた。

 

提督「よし、各自解散、出港準備が整い次第出航する。上陸中の艦娘は全員直ちに呼び戻せ。」

 

直人はその言葉で簡単な会議を終えた。

 

 

18時42分――――――

 

提督「出港準備! 揚錨分隊は作業にかかれ!」

 

直人が出港準備を下令する。錨の操作を担当するのは第一主砲分隊の兵員妖精達である。この為揚錨分隊の別名を持っている。

既に艦娘機関は始動されており、今や遅しと出港を待ち望んでいた。揚錨機がガラガラとやかましい音を立てて錨鎖(びょうさ)を巻き上げていく。

 

提督「もやい解け!!」

 

その合図と共に揚錨分隊の二人がブイに飛び乗って、岸壁とをつないである鉄鎖を解く。

 

「“立ち錨!!”」

 

この掛け声がしたと言う事は、海底に着底している錨が立ち上がった事を意味する。これを教えるのは艦首両舷に突き出した錨見台に立つ二人の揚錨分隊員である。

 

各所で一斉に係留索が解かれていく、揚錨機のモーターが唸りを上げて錨を巻き上げていく。巻き上げられた錨鎖は、甲板を傷つけないように敷かれた錨鎖導板の上を引かれていき、一番砲塔前にある錨鎖管を通して艦内にある錨鎖室に送られるのである。

 

「“起き錨!!”」

 

そうこうしている間に錨が海面に上がってくる。この合図と同時に、ブイで作業をしていた揚錨員がロープを伝って甲板へ上がってくる。

 

提督「機関運転開始!」

 

明石「機関運転始めます!」

 

たった4基で16万1500馬力を叩き出す艦娘機関が動き始める。揚錨分隊が撤収を終え、機関回転が十分に上がれば、いよいよ出航である。

 

明石「提督、タウイタウイ司令部より発光信号!」

 

提督「読んでくれ。」

 

明石が右手一面に見える島の方に視線を向ける。

 

明石「―――――“貴艦の健闘と航海の無事を祈る。タウイタウイ基地司令 高鷲 与志朗” 以上です。」

 

高鷲与志朗一等海佐も直人の知人であり、今回の作戦協力やこれまでの助力はそのつてあってのものである。

 

提督「司令部に返信、“ささやかなれど見送りに感謝す、我これより死線を潜りて悪鬼にまみえんとす。”」

 

明石「はい!」

 

この返信も発光信号にて送られたが、その奥には、直人の決意の程が伺い知れるだろう。

 

提督「両舷前進微速!」

 

返信を送り終えると鈴谷は直ちに岸壁を離れた。19時12分、鈴谷はやってきたばかりの夜の闇に姿を消した――――。

 

 

一方で、深海側では早くも鈴谷の動向を把握していた。タウイタウイには現在でも敵の潜水艦が監視任務に来ている事は確認されていて、発見次第沈めているのだが、それでも先手を打たれてしまうケースが少なくなかった。

 

そして鈴谷の出航を静観していない者が一人いた。

 

 

22日夜半 豪州北部・タウンスビル

 

駆逐棲姫「何? サイパンから来た巡洋艦がタウイタウイを発った?」

 

セーラム「はい。」

 

鈴谷出航の第一報を最初に知らされたのは、南太平洋部隊の指揮下でタウンスビルに陣取り、豪州北部・珊瑚海・南部ニューギニア方面の艦隊を包括指揮する駆逐棲姫である。

 

駆逐棲姫「おかしい・・・奴らは、ポートダーウィンからの艦隊を迎撃する為に来た訳ではないの?」

 

セーラム「潜水艦からの報告では、敵は東に向かい消息を絶ったそうです。」

 

ネ級Flag「セーラム」からの報告を受けていた駆逐棲姫。

 

駆逐棲姫「東――――それじゃ、まさかっ!!」

 

セーラム「どうしました?」

 

駆逐棲姫「巡洋艦――――サイパン艦隊の狙いは、ポートダーウィン!?」

 

駆逐棲姫のこの判断の理由は、タウイタウイから正攻法でポートダーウィンに向かうなら、東に進んでセレベス島の東を南下した方が距離的にも近いからである。

 

セーラム「ポートダーウィンは防備も大したものではありませんが、インド洋方面に向かう超兵器級が!」

 

駆逐棲姫「奴らは超兵器をこれまで幾度となく沈めている。このままではむざむざこちらの戦力を消耗しかねないわ。」

 

セーラム「急ぎタウンスビルまで戻させましょう――――!」

 

 

4月24日早暁、鈴谷は駆逐棲姫の予想通りの進路を通り、ティモール島北方560kmの海上にいた。

 

タウイタウイからの出撃であるから早いものである。しかしそこは既に味方の援護が遠く及ばない位置である事を承知しておかなくてはならなかった。そして、彼自身とんでもない偶然的な罠に落ちようとしているとは思いもよらない。

 

明石「ほぼ予定通りの位置ですね・・・。」

 

羅針艦橋では明石が一人で艦の操艦を行っていた。(一体いつ寝ているんだ。)

 

午前5時29分、直人が艦橋に姿を現した。

 

提督「おはよう明石、早いな。」

 

明石「真夜中は流石に寝てましたけどね。」

 

提督「嘘つけぇィ。俺が寝た後すぐに寝に行ったろ。エレベーター音が筒抜けだかんな。」

 

流石は直人、お見通しであった。

 

明石「こ、航海長さんにお任せしましたし・・・。」

 

ちゃんとこの船の妖精達にも砲術長や航海長と言った本来の指揮系統は存在しているのだ。ただ砲術系に関しては直人が自身で火器管制をする為普段砲術長に出番は無かったりも。

 

提督「・・・まぁこの船の航海長妖精やたら優秀だけどな。スゲェ正確に予定ポイントやね今回も。」

 

天性の才、という奴が妖精達にもあるらしい。

 

提督「よし、いつも通り6時に総員起こしをかけようか。速力35、これよりティモールの東側の水域を突っ切ってポートダーウィンに向かう。全艦戦闘配備。」

 

明石「はい、速力35、総員戦闘配備!!」

 

鈴谷に乗り込む妖精達がにわかに慌ただしく動く。主砲に仰角が掛けられ、対空砲座が空を睨む。

 

提督「ま、何とかなるだろう・・・。」

 

少なくとも直人は、総員起こしをかけるまで敵に遭遇する事は無いと判断していた。無論潜水艦の触接を受けてしまった事は承知しているのだが、今の敵戦力で数日前の第二次スラバヤ沖海戦の様な、艦隊展開中に敵と遭遇したような早期発見をするだけの余力があるとは思われなかった事が一つ理由として挙げられた。

 

 

6時42分 ディリ北東540km海面

 

ティモール島の都市ディリは、東ティモールの首都である。現在住民はブルネイ及びスマトラ方面に避難している為廃墟になっているのだが、それをいいことに深海棲艦が派遣部隊の停泊地として利用しているようだった。

 

その時鈴谷は総員起こし後一通り食事なども終えた頃であった。ここまで来ると見つからない訳もなく・・・

 

提督「敵艦隊電探にて捕捉、距離およそ2万7000から3万3000! 艦隊出撃!」

 

金剛「“了解デース!”」

 

明石「水偵出します!」

 

提督「頼んだ!」

 

敵艦隊を捕捉した鈴谷は同時に捕捉されていた。両者の距離がみるみる縮まっていく。鈴谷の水偵は敵が水雷戦隊であることを確認した。

 

提督「ディリから出動している敵の警戒線だな、捉まったか。」

 

明石「仕掛けますか?」

 

提督「うん。金剛、高速艦艇を指揮して30分で突破してほしい、出来るか?」

 

金剛「“愚問ネ。”」

 

提督「宜しい、やってくれ。」

 

金剛「“イエスサー!”」

 

金剛が威勢よく鈴谷前方に飛び出していく。その後ろに各艦隊の速力30ノット超の艦娘が続く。

 

 

その後金剛は直人の要望通り30分でこの水雷戦隊を崩壊させて戻ってきた。直人が鈴谷を駆って砲撃戦に参戦した事もあって簡単なものではあった。

 

 

7時13分

 

提督「よし、艦隊はそのまま急進してヤムデナ島方面へと急行せよ。同島付近に艦隊が潜んでいる可能性がある。」

 

金剛「“了解デース!”」

 

直人は艦隊にそのまま追撃命令を下令し、更に空母部隊も全艦南進させた。

 

提督「今回はスピード勝負で行く、敵の対応速度よりも早く行動するのだ。」

 

明石「では最大戦速で一気に行きましょうか。」

 

提督「そうだな、最悪戦闘に参加できなくても已むを得まい。」

 

直人は常に、可能な限り迅速な用兵を心掛けている。これは敵の抵抗を行う体制が確立されるより先に敵を撃滅するという、速戦即決の考え方に合致したものである。その為出来るだけの行動隠匿策を取るようにはしていた。

 

 

が、時を経ずして進撃の足は再び鈍ることになる。

 

ヤムデナ島北西方向の海面で、敵の水上打撃群にぶち当たってしまったのである。

 

 

7時22分

 

金剛「ファイアー!!」

 

 

ドドオオオオォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

霧島「ダメですね、今回はかなり有力な艦隊のようです、ヤムデナ島から増援も来ています。」

 

金剛「情報にあった艦隊デスネ。念の為航空支援を要請シマショー。蒼龍サン!」

 

蒼龍「了解! 航空隊発艦始め!」

 

金剛はこの時点で艦隊が所在するという情報があると思っていた。

 

 

提督「航空支援か、それならもう一航艦が艦載機を出していると思うが。」

 

金剛「“ホントデスカー!?”」

 

金剛が断を下した以前に、一航艦からは敵発見との報告の時点で、攻撃隊発艦を報告して来ていたのだ。

 

提督「ホントも何も赤城が言ってるし間違い無かろうね。そんなに多いのか?」

 

金剛「“後詰めが島から来るネー。”」

 

提督「と言う事は推測は正しかった訳だな。」

 

金剛「“情報デハ無かったのデスネ・・・”」( ̄∇ ̄;)

 

提督「そうだよ、すぐ行くから待っとれ。」

 

あくまでも推測は推測なのであって確定情報ではないということ、口振りがそれっぽいと言っても思い込みは禁物である。

 

提督「勘違いされてたかぁ・・・。」

 

明石「次からは気を付けないといけませんね。」

 

提督「いやぁ全くだ。」

 

 

8時20分 ティモール東北東480km付近海域

 

提督「対空電探、何にも映らないな。」

 

明石「ですね。」

 

因みに明石が21号電探、直人が13号電探を操作している。13号電探は後檣のマストにある一方、21号電探は前檣楼のマスト頂部付近にある。

 

提督「ん~・・・」

 

明石「・・・提督、左舷方向に反応があります。」

 

提督「マジかっ!?」

 

直ぐに直人が13号電探をその方向を向けると、2方向に反応があった。

 

提督「・・・これ片方、左舷正面の反応はこっちに来るな、反応が強まってる。左舷前方のもう一方は反応が弱まりながら・・・これは、受信範囲内を右に少し横切っているのか、金剛の方に行ってるな。」

 

なんとこの男、オシロスコープでは一方向しか探知出来ない事を利用して探知角を固定し、反応が消えたら追いかけるという方法で向かっている方向をザックリとだが特定しちゃったのである。逆に固定して反応が強まるようなら向かってきているのだ。

 

明石「・・・普通そんな手法誰が思いつくんですか。」

 

提督「誰でも思いつきそうでその実割と気付きにくい奴だよねこれww」

 

思わず草が生えた。

 

提督「よし、赤城!」

 

直人が一航艦の赤城を呼び出した。

 

赤城「“はい!”」

 

提督「直掩機こっちに寄越してくれないか、敵機のようだ。」

 

赤城「“分かりました。しかしなぜ敵機だと?”」

 

怪訝そうな赤城に直人が言ってやった。

 

提督「対空電探に映ったのだ。金剛の方にも向かっているようだがそちらに来る可能性もある、厳重に注意せよ。」

 

赤城「“分かりました、ありがとうございます。”」

 

提督「いいのさ、そんなこと。」

 

直人がそこで通信を切った。

 

提督「さてと・・・全艦対空戦闘配置!」

 

明石「全艦対空戦闘配置に付けェ!!」

 

直人は万全の態勢で、敵編隊を迎え撃つ事に成功したのである。レーダー様様である。

 

 

この後直人は金剛隊にも同じ警戒連絡を送って敵編隊を迎えた。この時には既に一航艦は全戦闘機を展開しており、その一部である51機が鈴谷に充てられていた。この鈴谷への充当が多い理由は、金剛隊が空母を伴っている事もあり、ある程度戦闘機を展開する事が可能であった為である。

 

提督「お客さん、ご案内。っとね。」

 

案内なんてしてないだろうがあんたは! と突っ込む所だが実は電波をバンバンに出して敵編隊を誘き出していたのである。

 

赤松「“よっしゃ、行ってくるわ。”」

 

そして上空を守っていたのは赤松大尉機に指揮された零戦隊であった。ここぞという所で結構いる松ちゃんである。

 

提督「頼んだぞ松ちゃん。しかし電波に反応したと言う事は奴さんの艦載機は機上用対水上電探を積んでいるらしいな、羨ましい限りだ。」

 

赤松「“全くそうだなぁ、俺らにも貰えねぇかね?”」

 

提督「帰ったら明石に相談しとくよ。」

 

赤松「“あいよ、いくかね。”」

 

やっと松ちゃんが動いた。東の方角には既に敵機が見えていて、空戦は始まっていたのだが、突破してきた敵機に対する邀撃が赤松本隊の役割なのだ。この様に敵機に対する迎撃は二段構えにて行われるのが第二次大戦での一般的な形だ。

 

提督「よぉし! 程無く敵が来るぞ、左舷銃座、構えろ!!」

 

既に機銃管制装置は各機銃群ごとに照準を付け旋回させているし、高射装置は高角砲に射撃諸元を伝達している。

 

明石「敵編隊先頭、高度6500、速度370km、距離2万。」

 

提督「そろそろ松ちゃんが仕掛けるかな。」

 

その言葉を裏付ける様に零戦隊が突入していく。

 

提督「対空砲まだ撃つなよ、15000になったら射撃開始だぞ。」

 

明石「それは大丈夫だと思いますけど・・・」( ̄∇ ̄;)

 

分かっちゃいるけども念押しする直人である。

 

明石「ん・・・やはりと言いますか、絶対数が多すぎますね、突破されてます。」

 

提督「ザックリ100はいるのかな。今までのに比べりゃ少ないけどね。」

 

むしろ今回の一戦は常識的と言える水準ではある。これまでは平然と500を優に超えるような攻撃機が飛んできていたのだ。

 

明石「あの物量にはホントに勝てませんからね・・・。」

 

提督「の割に平気な顔して撃退しまくった奴らがいるらしいがね。」

 

明石「そ、そうですね・・・。」

 

二人して苦笑しながら言いあったものである。そうしている間にたちまち10機が第一撃で撃墜され、水柱を上げた。

 

提督「松ちゃん! 対空砲の射撃圏に入って来るなよ~。」

 

と注意しておかないと入って来る無謀な輩がいる為わざわざ伝える直人である、気配り大事。

 

 

その後赤松隊が更に何機かを撃墜し、十数機が爆弾や魚雷を投棄する中で防空圏内に敵編隊が入った。

 

提督「撃て!!」

 

 

ズドォンズドォンズドォンズドォンズドォン・・・

 

 

見事に均一な間隔で高角砲が順次射撃を始める。

 

明石「主砲射撃準備よし!」

 

提督「主砲、斉射!」

 

 

ズドドドドオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

更に鈴谷の主砲が三式弾を立て続けざまに放つ。少し間を置いて空に大輪の花が咲いた。

 

提督「ま、相手の機数が少ない分落ちにくいわな。」

 

見張り妖精「“敵機降下開始!”」

 

提督「機銃射撃開始!」

 

ここまでで60機近くまで数を減らしているにも拘らず、敵攻撃隊が果敢に突撃を開始した。それに応じる形で鈴谷の機銃群がこれを迎え撃つ。たちまち無数の曳光弾が空中を迸る。

 

そしてその中にあって鈴谷はまだ、進撃の足を緩めなかった。

 

 

一方で鈴谷から90km程東へ向かった所にいる金剛隊も空襲に晒されつつの砲撃戦を展開していた。こちらには100機を超す直掩戦闘機がいた為何とか余裕で防御する事が出来ていたが、それでも一部には突破されていた。

 

金剛「今回も厳しいデスネー。」

 

霧島「なんの、これからです。」

 

金剛「そうね。」

 

 

摩耶「どっからでも、かかってきやがれってんだああああ!!」ズドドドドドドド・・・

 

摩耶が必死の対空戦闘を継続して展開し、敵機を一歩も近づけぬ間に、空母艦載機が敵への攻撃を行う。

 

同じ場所で両軍の空母艦載機が空襲を行うというのも珍しい光景である。

 

矢矧「敵機の数が多いわね・・・。」

 

雪風「もっと多かった時よりは少ないです!」

 

無邪気に言い放つ雪風である。

 

矢矧「嘘でしょ・・・?」

 

雪風「ホントですっ!」

 

矢矧「うぬぬ・・・。」

 

矢矧はこの深海棲艦との戦いがかなり厳しいものである事を、改めて肌で感じ取ったのであった。

 

陽炎「ま、何とかなるでしょ。まぁこんな状況は初めてだけど・・・。」

 

もう慣れっこの歴戦の雄陽炎。しかし両軍が相乱れて空襲を行うという絵面は初めてで困惑中。

 

矢矧「信じて突っ込むしかないわね、突入!」

 

二水戦(三名欠)「「了解!!」」

 

意を決した矢矧の号令で二水戦が先陣を切る。

 

川内「一水戦突入、私に続けぇ!!」

 

一水戦「「おうっ!!」」

 

一水戦がこれに続いて突入した。上空では敵味方の航空機が乱舞している状況、同士討ちの危険がないではなかったが、であるからと言って逡巡する艦娘は、大日本帝国海軍に籍を置いた者の中にはいない。勇猛果敢なる水雷戦隊の烈士達は、リスクを恐れず突撃を敢行したのであった。

 

 

赤城「・・・こちらには、来ませんでしたね。」

 

加賀「まぁ、別角度からの目算では、仕方ないわね。」

 

一方で敵が来なかった赤城らは若干拍子抜けしながら言っていた。無論偶然である事は承知していた。

 

 

飛鷹「私達にも対空電探があったら・・・。」

 

阿賀野「あの~・・・。」

 

飛鷹「え?」

 

阿賀野「私、あります。対空電探。」

 

流石阿賀野型だった。

 

赤城「そ、そうだったんですね・・・。」

 

阿賀野「えぇ、言い忘れてましたけど・・・すみません。」

 

加賀「そう言う大事な事は・・・まぁ、いいわ。次からお願いするわね。」

 

阿賀野「はい!」

 

なんだかんだで、やっと頼られた阿賀野であった。

 

 

この空襲は40分で終わり、損害は適切な処置の甲斐あって無かった。艦娘には。

 

 

提督「ま、完全回避は無理か。」

 

主として雷撃機の処理に重点を置いた為またしても艦爆の脅威に晒されたのであった。

 

明石「被弾箇所は3カ所ですね。消費弾薬数は高角砲弾260発、機銃弾1万500発です。」

 

提督「すぐに修復しよう、何処だい?」

 

明石「4番主砲塔と左舷カタパルト付近ですね。」

 

提督「大変な所を直撃されたもんだな、修復できるって素晴らしい。」

 

実際打撃力の五分の一を喪失する大打撃だが、自己修復能力がこれを修繕してくれることは何よりありがたい事であった。

 

明石「お役に立てて何よりです。」

 

提督「いや正に感謝だね。」

 

明石の陰の頑張りが実を結んでいる瞬間である。

 

提督「しかし艤装化しても弾薬消費量は相変わらずなのな。」

 

第二次大戦期の艦隊防空は、多数の対空火器を並べて弾幕をひたすら張り続けるというやり方をしていた。これは威圧効果は物凄いものがあるのだが、弾薬の無駄が多いという欠点を抱えている。故に戦後になって開発されたのが「CIWS」と呼ばれる近接対空防御システムなのだ。

 

明石「命中精度は数段上がってはいるんですが、今度は襲ってくる敵機の数が多くなりましたので・・・。」

 

提督「成程? では少ないなら少ないだけ弾薬消費はかつてのそれより減っている訳だな?」

 

明石「それは勿論です、太鼓判を押してもいいですよ?」

 

提督「いや、結構。その言葉が何よりの証拠であろうな。」

 

そう、明石は普段そう滅多に太鼓判など押す事は無いのである。それを押したというのであれば、間違いはないのだ。

 

 

8時51分、金剛からようやく直人の待っていた通信が入った。

 

金剛「“HEYテイトクー! 敵艦隊撃破デース!”」

 

提督「お、やっとか、お疲れ様。隊伍整頓をして待っていてくれ。」

 

金剛「“了解ネー!”」

 

敵水上打撃部隊敗走の知らせである。この時直人は既に空母部隊とも合流し、金剛隊のすぐ北側の海域にあってまもなく射程かという所だったのだ。

 

提督「まぁ、間に合わんわな。」

 

明石「仕方ないですね・・・。」

 

提督「こちらも合流して隊伍を整頓だ、もう少しだけ最大戦速だな。」

 

明石「はい!」

 

直人は低速で置いていかれた艦娘達や空母部隊と共に東進し、金剛隊との合流を急ぐのであった。

 

 

その後ヤムデナ島沖で合同し、南下しつつ隊伍を整えた彼らは、9時02分に戦列を整えてポートダーウィンに向け一気に南に下っていく。35ノットで急前進していく彼らの目の前には既に、豪州大陸の陸地の姿が、既に見え始めていた。

 

 

15時30分、バサースト島西端沖20km付近まで進んだ鈴谷と横鎮近衛艦隊は、しかし何事も無く来ていた。ポートダーウィンまで、あと140kmと少しの距離である。

 

提督「・・・そろそろ、敵が来るな。」

 

明石「対水上電探に反応有り!」

 

直人の予想通り敵がやってきた。

 

明石「敵艦隊は我が方の正面から右翼にかけ展開、大型な反応を含む!」

 

提督「それはまさかッ!!」

 

青葉「“超兵器と聞いて。”」

 

だからお前は何処にいたんだアオバワレェ!!

 

提督「お、おう。確かに超兵器だな?」

 

青葉「“では隠密行動が可能な取材班の出番でしょう!”」

 

提督「いやまぁそうなんだけどもね。」

 

実は今回ようやく青葉は出撃に同行出来たのである。取材班として。

 

明石「右舷水上機用カタパルト、作動しています!!」

 

提督「ちょっ、青葉待てェ!!」

 

青葉「“青葉、行っきまぁぁーーっす!!”」

 

その瞬間ズドンという音と共に右舷の火薬式カタパルトが青葉を射出した。一般的に呉式と言われる日本の水上機用カタパルトは火薬が動力なのである。

 

提督「あいつも無茶をする・・・。」

 

青葉「“聞こえてますよー。”」

 

提督「ならなぜやったし。」

 

青葉「“私にかかればこんなもんです。”」

 

提督「そーだった。」

 

青葉、地味に化物レベルの力を持っている事を直人は失念していたのであった。戦闘には微妙に役に立たないのであるが・・・。

 

明石「しかし超兵器級・・・大丈夫でしょうか・・・。」

 

提督「何度か戦った経験もある、何とかなるだろう。」

 

これは楽観視して言ったのではない。

 

提督「一応俺の艤装も用意しておくか。」

 

と続いた事からそれはお分かり頂けるだろう。

 

明石「信じましょう、まずは。」

 

提督「あぁ。」

 

直人は展開しつつある艦娘達を見ていった。

 

 

敵艦隊との距離は約4万、直人は速力を緩めて一度戦場を遠巻きにする事にしていた。金剛はその意図を汲んで指示を待たず全艦隊に展開指示を出していた。

 

金剛「第1艦隊は正面に布陣して持久、一水打群は右翼側面に迂回攻撃、一航艦は航空支援、いつもの形で行くヨー!」

 

扶桑「了解!」

 

赤城「畏まりました。」

 

金剛が定石通りの指示を出していく。

 

朝潮「敵の中にひときわ大きな反応があります!!」

 

金剛「エッ!?」

 

朝潮が鈴谷に少し遅れて敵中にある巨大反応を捉えた。因みにこの反応の大きさは波形に出るので分かりやすいのである。超兵器級の武装はどれも普通のそれより大きいのだ。

 

提督「“金剛、敵の中に超兵器がいる!”」

 

金剛「ホントですカー!?」

 

提督「“あぁ、反応の大きさからして間違いない。気を付けろ!!”」

 

金剛「了解ネ!」

 

直人からの伝達を聞いて、金剛は気を引き締める。敵超兵器とやり合うのはかなり久しい事であった。

 

金剛「全艦へ、敵超兵器を発見したデス、突っ込み過ぎはNGデース!」

 

金剛は更に全艦に対しこの事を伝達、注意を呼び掛けたのであった。

 

 

タイラント38「ココマデ来タカ・・・イイダロウ、相手ヲシテヤル。」

 

金剛「あれはインテゲルタイラント! ここにもいたのデスカ・・・。」

 

ポートダーウィン港にいた超兵器とは、インテゲルタイラントの事だったようだ。しかし複数の報告もあったが果たして・・・?

 

提督「インテゲルタイラントか、各艦、正確な砲撃に注意しろ。必ず1回につき2段以上の回避運動をするんだ。」

 

全員「“了解!!”」

 

一段回避で躱せない事は、北マリアナ戦の際最初に戦った時榛名が回避に失敗した事がいい例となっている。

 

提督「しかしこちらも撃たれんとは限らないからな。」

 

明石「そうですね・・・ジャマーでも作っておくんでした。」

 

提督「やめとけ、その調子でいくと艦内が電子装置だらけになる。」

 

明石「で、ですね。」

 

ジャマーとはとどのつまり、電波妨害装置のことである。インテゲルタイラントの様な超兵器が誘導砲弾を使用する場合、当時は衛星なんてものがない為当然ながらGPSが使えない。なので砲弾を電波誘導するという荒業を使っていたのだ。

 

こういう電子兵器は積み始めるとキリがないので直人はあまり好んでいない。最低限レーダーと逆探があればいいくらいの認識である。(でも巨大艤装紀伊にジャマーは付いている)

 

提督「さて、撃たれないように祈る。」

 

明石「敵艦ミサイル発射!」

 

提督「なんですとおおお!?」

 

そう、実はインテゲルタイラント、ミサイル搭載である。

 

明石「弾数1、目標―――――本艦です!!」

 

提督「んなもん喰らってられるか対空防御だ弾幕張れええええ!!」

 

戦艦なら兎も角、巡洋艦でミサイルを受けきるのは不可能である。例え耐えても大損害+大浸水のコンボが待っている。

 

明石「距離2万切りました!!」

 

提督「やっぱはえぇ!?」

 

 

ズドダダダダダダダダダダダダ・・・

 

 

一斉に機銃群が火を噴いた。高角砲は信管調定が到底追いついておらず射撃していない、流石に時限信管でミサイルの速度に追い付けは無理である。

 

明石「距離1万5000!!」

 

 

ドゴオオオォォーーー・・・ン

 

 

提督「よ、良かった・・・。」

 

※まぐれである

 

明石「・・・ジャマー付けます?」

 

提督「慣性で詰むよそれだけだと。」

 

明石「んー・・・CIWSとか・・・」

 

提督「いやいや・・・^^;」

 

一応CIWSというモノは単体で動くものではあるが調達コストは元より、それそのものが精密機器の塊である為維持面で負担がかかってしまうのだ。

 

明石「そうですか・・・ちょっと、考えておきますね。」

 

提督「そうしといて貰えると助かるよ。」

 

提督は対ミサイル対策を明石に依頼したのであった。

 

提督「さて、どうなりますやら――――」

 

直人は眼前で艦載機を展開しながら突入する艦娘達を眺めていた。勿論すぐに支援に移れる間合いは取ったが。

 

 

結 果

 

 

ドオオオオオォォォォーーーーン

 

 

金剛「くっ!!」ザザァッ

 

誘導砲弾を回避する金剛、だが周囲の艦娘はあまり動ける者が残っていない。

 

動体視力に秀でる者達は軒並み残った、それ以外は軒並み倒れた。能力の差が完全に出た結果になってしまったのである。

 

榛名「まずいですね、姉さん。」

 

金剛「全くデス。」

 

朝潮「どうするんですか、このままでは全滅です!!」

 

雪風「まずいです! 敵艦が突入してきます!」

 

端的に言えば窮地である。開戦40分弱、既に戦力は半減していた。

 

 

暁「どーしろっていうのよぉぉ!?」

 

流石のレディも取り乱した。

 

熊野「ふふっ、レディはこう言う時でも落ち着いているものですわよ?」

 

そう言いながら軽々とインテゲルタイラントの砲撃を回避する熊野。

 

響「姉さん、ミサイルだよ!!」

 

暁「はっ、それなら暁に、任せなさいッ!!」

 

 

ドオォォーーン

 

 

ズドオオオオオオォォォォォォーーーー・・・ン

 

 

電「流石――――なのです。」

 

雷「よくやるわ・・・。」

 

まさかのミサイルを1発で落としちゃった暁、これも凄まじい動体視力の為せる業である。

 

雷「扶桑さん、終わったわ。」

 

扶桑「ありがとうございます。」

 

一方で応急処置中の雷、扶桑の怪我の具合を見ていたのである。

 

第一艦隊の内、小部隊単位でろくに動けるのは第六駆逐隊を残して他に無かった。五月雨や扶桑などは真っ先に脱落してしまったのである。

 

那智「球磨、多摩、いけるか!?」

 

球磨「愚問クマ。」

 

多摩「にゃ!」

 

あ、そうだ第十三戦隊もいるわ。(コラコラ)

 

妙高「くああああっ!!」

 

妙高被弾、被害は拡大の一途を辿っていた。

 

 

16時04分、男が、動いた――――

 

提督「仕方ない、明石、この場は任せた。」

 

明石「いや提督どこに行くんですかってもういないし・・・。」

 

~1分後~

 

明石「まぁ任された以上やりますけど、砲術長、お願いしますね。」

 

砲撃の指揮を砲術長にぶん投げる明石、そこへ――――

 

「“ブリッジ! 3番ハッチが開いてますッ!!”」

 

1番砲から報告がかっとんできた。

 

明石「なんですって!?」

 

 

ゴンゴンゴンゴンゴン・・・

 

 

艦首の1番砲正面に配されたハッチが開き、リフトが上がってくる。そこに乗せられていたのは・・・

 

提督「全く、余計な事を。」

 

艤装を身に着けた直人であった、腕組みで仁王立ちしながら速報されたのに対して舌打ちしている。

 

明石「“提督、正気ですか!?”」

 

提督「ちょいと失礼極まるんじゃないかな。状況は10分もすれば最悪の結果に終わる。なら今出ずしていつ出るんだ。」

 

ツッコミを入れてから正確な状況分析を披露する直人。

 

明石「・・・敵超兵器、方位178度方向、金剛さん達に向かってます。カタパルト出しました、健闘を。」

 

提督「明石・・・分かった。」

 

そう力強く答えた直人の眼前、錨鎖甲板の中心線上に、潜水艦用のそれを模した形状のカタパルトが甲板上に上昇してくる。一応潜水艦用カタパルトも火薬式だが今目の前で展開中の物は電磁式にアレンジされている。

 

提督「超巨大機動要塞戦艦“紀伊”、出撃!」キィィィィ・・・

 

スラスターの出力を上げ、カタパルトが彼を前面へと押し出す。

 

提督「飛んでショートカットよー。」ゴオオオオ・・・

 

直人は円盤部後部についているスラスターを後ろ向きにした上で円盤を少し上に向け、空気抵抗をなるべく少なくするような姿勢で洋上を滑空した。

 

明石「飛んだぁ!?」

 

これには明石でさえも唖然としたほどである。因みに確かに普通に航進するより早かった。

 

 

バシャアアァァァーーン

 

 

提督「さぁて、急ぎますかね。」

 

着水した直人は金剛の下へと急ぐのであった。右翼部隊が潰滅すれば最早攻撃どころではない訳である。

 

 

 

ズドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

金剛「うっ!?」

 

一方の金剛は激化の一途を辿る敵艦の攻撃を前に一歩も引かず防戦を続けていたが、こと攻撃が集中し始めるに及び押し込まれつつあった。

 

榛名「大丈夫ですか!?」

 

金剛「平気デース!」(まずいネ、このままだと・・・)

 

戦線を維持できない、その位の事は金剛にも理解できた。しかし挽回策は残されていなかった。もとよりそれを実行するだけの戦力が既に無いのだ。

 

 

ドドドドドド・・・

 

 

遠来の様に爆発音が金剛の耳に届く。

 

金剛「エッ!?」

 

榛名「敵艦、次々に爆発!!」

 

金剛「これは――――」

 

 

ヒュゴオオォォ・・・

 

 

金剛「―――――!!」

 

正面に気を取られ上への警戒がおろそかになっていた。しかも降って来たのは、誘導砲弾であった。

 

榛名「姉さん!!」

 

「二度はさせるかああ―――――っ!!!!」

 

 

ゴシャァッ―――――ドドォォ・・・ン

 

 

金剛「!?」

 

榛名「提督!」

 

提督「間に合ったか。」

 

紀伊直人、済んでの所で只今参上。

 

金剛「砲弾を蹴り飛ばすって・・・よくやるネー。」

 

提督「流石に艤装を外して飛ぶしかなかったが。」スタスタ

 

金剛「その艤装はどうしたネー?」

 

提督「一応フロートは付いてるから普通に浮いてるよっと。」ガチャン

 

全く便利な艤装である。これも呉で施された艤装喪失を防ぐ為の工夫で、背部艤装と円盤部に内蔵フロートが仕込んであるのだ。

 

金剛「便利デスネー・・・。」

 

提督「全くだな。」

 

タイラント38「貴様ハ――――ソウカ、貴様ガ私ノ同位体ヲ倒シタトイウ人間カ。」

 

提督「ま、噂にゃなるわなぁ、あんな倒し方したら。」

 

と頭を掻いて言う直人。

 

タイラント38「私ノ同位体ノ仇、覚悟!!」

 

提督「対話に応じたならば、倒さずに済んだのだけどなぁアレも。」

 

タイラント38「問答無用!」

 

提督「やれやれ――――」

 

その闘争心に呆れ返る奴、いやお前が人の事言えるのか。

 

金剛「イヤイヤ、噂になるような倒し方ってドンナ倒し方デスカー?」

 

提督「内緒デッス!」

 

金剛「想像つくネー。」

 

提督「さいでっか。」

 

北マリアナ戦時、直人が負の霊力を使った事は金剛にはバレちゃってるのである。

 

提督「まぁ状況次第で使いかねんが。」

 

金剛「無理はNGヨー?」

 

提督「そうなるな、では始めようか!」

 

金剛「全艦総攻撃デース!!」

 

その時直人の事前偵察機が情報を発する。

 

「“各艦へ、敵残存は少数、陣形は鋒矢陣!”」

 

提督「こけおどしか!!」

 

金剛「Shit! 私とした事が迂闊だったデース!」

 

因みに鋒矢陣は以前呉鎮近衛との演習の際直人も使っているが、あれは矢印型鋒矢陣である。本来はドイツで言うパンツァーカイルのような楔形をしている。因みに外線だけで中はスカスカである。

 

36分に及ぶ戦闘の中で、ポートダーウィンの守備艦隊はかなり撃ち減らされていたのである。正にインテゲルタイラント38がいなければ既に崩壊していた状況だ。

 

提督「よし、金剛、雑魚は任せる!」

 

金剛「承るネー!」

 

提督「行くぞインテゲルタイラント、誘導砲弾はまだ余ってるよな?」

 

タイラント38「小賢シイ!!」

 

インテゲルタイラントがAGSを斉射する。

 

提督「フン、GPSに頼らない誘導砲弾など俺には――――」ザザザッ

 

 

ドドドドドドドドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

提督「掠りもせんよ。」

 

タイラント38「!!!」

 

直人はバーニアと元々の素早さを合わせ、紙一重で次々と回避する。

 

提督「お返しの100cm砲弾だ、120cm砲、発射!!」

 

 

ドドオオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

タイラント38「―――――!!!」

 

 

ドドオオオオオォォォォォォーーーー・・・ン

 

 

直人が放った120cmゲルリッヒ砲弾2発は、見事全弾命中をマークする。1発が背部の武装に、もう1発が右腕の武装を撃ち抜いた。これはインテゲルタイラント級の超兵器級の全戦闘能力を奪った事を意味した――――。

 

提督「無力化、完了。」

 

金剛「は、早すぎるネ・・・。」

 

榛名「流石、ですね・・・。」

 

提督「一斉射で終わってよかったー!」

 

最後の一言で台無しにして行くスタイル、どうやらまぐれだったらしい。

 

タイラント38「クッ・・・化物メ――――!!」

 

提督「うちの艦娘達にもよく言われるよ。さて、降伏するか逃げ出すか、どちらか選ぶといい、逃げるなら追わんし来るならそれで構わん。」

 

タイラント38「フン、生キ恥ヲ晒スクライナラ、イッソコノ場デ!」

 

提督「そんな後味悪い事を俺がさせると思うなよ?」ガチャリ

 

直人が鋭い剣幕で80cm砲を向けて言う。

 

タイラント38「フッ、オ前ガ死出ノ旅路ニ旅立タセルトイウノカ、ソレモイイダロウ。」

 

提督「結構、では精々楽に死なせてやる。」

 

 

16時11分、インテゲルタイラント38は、直人の介錯で海に没した。その後8分を経て、残存の掃討が完了し、生き残りは何処ともなく去った。

 

提督「全艦収容だ、収容完了次第ポートダーウィン港へ鈴谷で接近し砲撃を行う。」

 

金剛「了解ネ。」

 

明石「“分かりました。”」

 

直人は指示を出し、自らも鈴谷に戻っていった。

 

因みに、先程の紀伊発進シーンを見ると想像がつくかもしれないが、巨大艤装の格納庫は艦首部中甲板中央部にある。通路は主砲のバーベットと食堂を迂回して艦首部中甲板左右の病室の廊下を兼ねている。その1番主砲バーベットの正面に、2枚の隔壁を隔てて設けられているのが巨大艤装の格納庫、という訳だ。

 

以上蛇足説明でした。

 

 

18時07分になって、鈴谷はポートダーウィン沖に到着した。

 

提督「ここは赤色海域の縁に当たる地点だ、さっさと引き上げたいがそうもいくまいな。」

 

明石「大丈夫です、先程から腐食部については片っ端から修復中です!」

 

提督「――――そうか。」

 

川内から受けた赤色海域のポートダーウィン棲地における半径は14kmと聞いていたのだが、もたもたしている内に20km以上にまで拡大していたらしく砲撃地点が赤く染まっていた。

 

赤色海域の正体は深海による海域浸食がその原因であったが、その際赤くなった海域には希硫酸に似た性質の成分が含まれる事が発覚している。この為赤色海域内は艦艇で長時間航行する事が出来ないのだ。艦娘とてそれは同じ事だった。

 

提督「しかし砲撃に艦娘は使えんか、効果が薄くなるが已むを得まい。」

 

明石「ですね。」

 

提督「右舷砲戦用意! 目標:ポート・ダーウィン棲地中心部! 撃てぇッ!!」

 

事前に狙いを付けていた鈴谷の主砲が一斉に火を噴いた。徹甲弾を使用するが、三斉射に1回三式弾を混ぜるという対地砲撃のポピュラーな形を守り通した型通りのものである。

 

最上「凄いね~、あの頃を思い出すよ。」

 

鈴谷「ねー♪」

 

提督「いい気なもんだぜ全く・・・明石、修復間に合ってるかー?」

 

明石「スクリューシャフトの辺りが少し怪しいです!」

 

一番ヤバい部位である。

 

 

ドオオオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

轟音と共に鈴谷の至近に水柱が上がる。

 

提督「――――反撃か。鈴谷~?」

 

鈴谷「承り~♪」バッ

 

鈴谷がサークルデバイスを展開する。

 

最上「へぇ、鈴谷も操縦出来るんだね。」

 

提督「そうよ~、一応この船も“鈴谷”だしね。」

 

鈴谷「そーゆーコト。」

 

提督「んでやること分かってるんだよね?」

 

と確認までに聞くと鈴谷は「修復の手伝いでしょ~?」と答えた。

 

提督「宜しい、では砲撃に集中しましょうかね、使う弾間違えたら大変だ。」

 

と言いながら10秒に1回のペースで砲撃する直人。

 

鈴谷「頑張ってね~、こっちも始めますかぁ。」

 

明石「鈴谷さんは前半分をお願いします!」

 

鈴谷「ほーい!」

 

こうして三人がかりの艦砲射撃が始まったのであった。

 

 

艦砲射撃と言っても一点に留まっていては沿岸砲の餌食になる。第一、陸上砲の方が当てやすいのだから当然であるが、その為対地砲撃中でも航行を続ける必要がある。故に、砲撃地点に全火力を集中出来る様に往復コースを設定し、直線運動を続ける事が要求されるのだ。

 

しかしダーウィンの入り江は入り口から艦砲射撃を行うには中々難しい地形をしている為、弾着観測機を飛ばして射撃を行っていた。

 

提督「よし、この辺りがX点(反転地点)だ。砲撃停止、針路反転180度!」

 

操舵室「“針路反転ヨーソロー!”」

 

提督「左舷砲戦用意!」

 

30分弱の砲撃の後直人は針路を反転させ、来た道を戻って更に敵棲地に砲弾を送り込む。

 

 

ドドドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

港湾棲姫「クウウウッ!!」

 

中心部にいる港湾棲姫の周囲は既に火の海と化し、尚流れ弾が落下していた。深海棲艦の整備や補給を行う設備が次々とスクラップに変わっていく。補給用物資が三式弾によって焼き払われ、弾薬が次々誘爆を起こす。炎上する燃料が訪れたばかりの夜空を赤々と焦がす。

 

ポートダーウィン棲地中心部は既に廃墟に変わっていたのである。

 

 

明石「これ以上修復は無理です、鋼材が尽きます!!」

 

提督「よし、砲撃終了、撤収するぞ。」

 

17時丁度、重巡鈴谷は砲撃を終了、勝利の凱歌を上げながら夜の帳へ姿を消した。

 

港湾棲姫「・・・助カッタ――――ノカ?」

 

港湾棲姫「ポートダーウィン」は、手傷こそ負ったが生き残っていた。しかし直人は目的を達した。その目的とは、敵棲地の基地機能を削ぐ事だったからである。

 

提督「正直港湾棲姫を仕留められたのかは分からんが、まぁ駄目だったのだろう、敵棲地は消失していない。」

 

明石「ですが目的は達しましたね。」

 

提督「あぁ、口惜しいがここまでだ。しかし、耐酸防護措置をして置かんと不味いかもしれんな。これは鈴谷に限らず全艦娘にも言える事だ。中には敵棲地突入に向かない者もいるからな。」

 

明石「では前向きに検討しますね。」

 

これは当たり前の措置である。特に金剛型などはヒールの靴を履いているだけ、そんな状態で酸性の海に突っ込めという方が無理である。一発で化学やけどコースである。

 

鈴谷「と言う事は私達も脚部艤装改修かなぁ・・・?」

 

提督「まぁそうなる。その辺は明石が何とかしてくれるだろ。堅実なものを頼むぞ。」

 

明石「わ、分かりました。」

 

最上「まぁ、必要になるかもしれないからね・・・。」

 

直人の言う“堅実なもの”というのは、「局長に介入させるな」という意味である。

 

鈴谷(―――――ナルホド。)( ̄∇ ̄;) (⇐散々重巡鈴谷をいじくり回された人)

 

意味を察した鈴谷であった。

 

 

21時32分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「疲れた~・・・。」

 

金剛「お疲れ様ネ。」

 

激戦を潜り抜けた(と言ってもあんまり活躍してない)直人は、艦長室で金剛と二人で並んで座り、軽く飲んでいた。

 

提督「あんまし何もしなかったけどね。」

 

金剛「1斉射で超兵器無力化したヒトが言うセリフではないデスネ。」

 

提督「まぐれだってヴァ。」

 

実際直感的な照準だった直人からすればそれは誇るべきものでは無かったかも知れなかった。

 

金剛「デモ実際早かったデース。」

 

提督「俺もびっくりしたがね、結果オーライって奴だな。」

 

金剛「デスネ、私も見習いたいデース。」

 

提督「ハッハッハ。まぁ精進し給え。」

 

直人がブランデーを飲みながら言う。

 

提督「まぁ、何時も頑張ってくれてるけど、あまり無理は、しないで欲しいかな・・・。」

 

直人はこの日の金剛の采配を思い出してそう言った。

 

金剛「フフッ、テイトクも相変わらず心配性デスネー。アナタを置いて逝くのは心配ネ。ウェディングリングを貰うまではヴァルハラに行けませんカラ――――。」

 

提督「・・・心配性はお互い様だな、金剛?」

 

金剛「えぇ・・・。」

 

金剛がゆっくりと頷いて肯定する。

 

提督「ウェディングリング、か・・・ってその前にエンゲージメントリング(婚約指輪)じゃないのか?」

 

金剛「ウグッ・・・。」

 

若干揚げ足を取られる金剛。

 

提督「ハハッ――――ま、結婚指輪を渡せる日が来るように、俺も戦い、生き抜かないとな。何より、お前の為だ、金剛。」

 

金剛「テイトク・・・。」

 

どちらからともなく、金剛と直人は唇を重ねる。近頃忙しかった二人にとって、それは久しぶりの、熱く濃厚なキスであった。

 

提督「――――金剛。」

 

金剛「えぇ――――キて。」

 

 

・・・・・・・・・

 

 

翌☆朝(見せられる訳ねぇダルルォン!? 俺の首が飛ぶ!(By作者))

 

提督「――――んー・・・」

 

金剛「――――ウウ・・・ン」

 

6時前、窓からの朝の光で同時に目が覚めた二人。

 

提督「朝、か・・・。」

 

金剛「デスネ――――。」

 

お互い着衣の無い状態で寝ぼけている辺り何があったかはお察し頂こう。

 

金剛「・・・いつの間に寝ていたんデショウ。」

 

提督「その辺はっきりと覚えてないな、俺も。」

 

金剛「でも熱い夜だったのは覚えてるデース♡」

 

提督「そ、そうだな・・・。」

 

昨晩の事を思い出して再び劣情が込み上げてきてしまう直人である。

 

金剛「――――フフッ、第二ラウンドデース!」

 

提督「ぅえっ!? ちょっとタンm――――」

 

 

ああぁぁぁぁぁ――――ッ!?

 

 

朝から嬉しい災難な直人であった。

 

 

青葉「よぉし今度こそ――――」

 

一方青葉は6時過ぎに起床したが金剛が部屋にいない事に感づき、中甲板の縦通通路(食堂に突き当たったりブリーフィングルームに行ったりする廊下ね)を艦橋に走っていた。

 

比叡「どうしましたか?」ニコリ

 

霧島「朝早く艦橋に行かれるんですね?」ニコニコ

 

一方こちらは昨晩から既に感づいていた為臨戦態勢で食堂前に。

 

青葉「あ、いえ食堂に・・・。」

 

比叡「そうでしたか、では一緒に行きましょう!」

 

霧島「えぇ、ぜひ。」

 

青葉「あ―――――はい。」ガックリ

 

肩を落として青葉は3人で食堂へと向かったのであった。今回も大敗北の青葉さんでありましたとさ。

 

因みに、食堂に直人と金剛が顔を出したのは午前7時を回っていたという―――――

 

 

時を遡り24日の真夜中―――――

 

~タウンスビル棲地~

 

駆逐棲姫「そうか・・・残りは脱出できたのか。」

 

港湾棲姫「ハイ――――ナントカ。」

 

駆逐棲姫「ここで超兵器級6隻を纏めて失うのは痛い、しかし貴官の指揮下にある1隻で済んだ。その点あなたも役立ってくれたわ、ありがとう。」

 

そう―――――

 

ポートダーウィン棲地にいた超兵器は、1隻ではなく“6隻”だったのである。駆逐棲姫はこれを逃がすべく、ポートダーウィンの港湾棲姫が手持ち戦力として持っていたインテゲルタイラント38を盾にして、残りを東に退却させたのである。

 

 

26日の早朝、タウイタウイに姿を現した鈴谷は、足早に補給を済ませると、針路を東に取り抜錨した。

 

その後鈴谷に驚愕すべき情報が飛び込んできたのは28日の正午前であった。

 

4月28日11時42分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

提督「敵が再びスラバヤに来ただと!?」

 

それはタウイタウイ基地からの入電で、パラオを経由してパラオ沖にいた鈴谷に届けられた。

 

明石「なんですって!?」

 

鈴谷「うそぉ!?」

 

金剛「ホントデスカ!?」

 

その場にいた艦娘3人が驚いて声を上げる。

 

提督「金剛、敵勢力は完全に覆滅されていなかったと言う事か!?」

 

金剛「――――確かに、敵は勝敗の決した時点で退却したネ。」

 

鈴谷「そう言えばポートダーウィンの守備艦隊も、思ってたより少なかったよね。」

 

提督「・・・そうか、謀られた――――!!」

 

はっとしたように直人が言う。

 

明石「て、提督?」

 

提督「奴らは最初から、ポートダーウィンで俺達をまともに相手する気はなかったのか!!」

 

金剛「戦力の温存、デスネ・・・。」

 

提督「俺とした事が、なぜ退避した敵を捜索しなかったんだ・・・。」

 

直人が口惜しげにそう言った。

 

鈴谷「――――きっと、無理だったと思うよ?」

 

提督「・・・そうだな。計画的なものであるなら、とっくに索敵圏外に逃れていたと見て間違いないだろうな・・・。」

 

鈴谷の言に、彼は頷かざるを得なかった。

 

明石「しかし・・・どこで気づかれたんでしょう?」

 

提督「――――出港した時、と見るのが自然だ。或いは作戦開始地点に到達するルート上で感づかれたのかもしれんが・・・。」

 

直人の推測は的を射ていた。が、気付くのが些か遅すぎたのである。

 

提督「全戦力を覆滅するには奇襲に依る他は無かったのだが・・・気付かれていたのであれば、あの手薄さは理解出来る。結果がこの状況か――――引き返しても遅かろうな。」

 

金剛「提督・・・。」

 

提督「・・・帰ろう、俺達の出る幕は、もうないんだ――――。」

 

明石「・・・はい。」

 

直人は最早打つ手なしと諦め、サイパン島へと帰還したのであった。

 

 

4月31日22時13分 サイパン島司令部ドック

 

提督「はぁ~・・・やっと戻ってこれた。」

 

大淀「お帰りなさい、提督。」

 

提督「ただいま大淀――――ふああぁぁぁ~・・・。」

 

時間が時間だけに眠い直人でありましたとさ。


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