異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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気付いたら600ページ書いていた天の声です。
(エブリスタ時代のお話、1ページ1000文字なので概算60万文字になります)

青葉「最後には何ページになるのだろうと思いました。どうも、青葉です!」

イヤホントその懸念はある。アルペイベ編中途でこの様だから、これ完結時には数百万文字とか書くんじゃないかな。

青葉「真面目にあり得るんでやめて下さい。」

せやな、そもそもそこまでやる気が続くのでしょうかね。

青葉「それはあなた次第でしょうに。」

分かってます。着地点は既に見据えています。少しだけお話すると、その着地点に吹雪が密接に・・・というか吹雪のお話になります。

青葉「そうですねぇ。」(←一応知っている

まぁ着地点が見えている以上見切り発車でも着地したいですね。

青葉「頑張って下さいね。そう言えばなんで私は編成表に入ってないんです?」

青葉は司令部直属だから。

青葉「あ、納得しました。」

因みにKHYシリーズ第3弾を検討中です。近く登場するのでお楽しみに。

青葉「中々とんでもない代物ですよあれは。」

皐月「今回のはスケールが違うよね。」

青葉「あ、皐月さん。」

という事で今回はゲストとして、5日前に改二改装が実装された皐月をお呼びいたしました。

皐月「呼ばれてきたよ!」

まぁなんだ、まずは改二改装実装おめでとう。

皐月「ありがとう! これでもっと司令官と戦えるよ!」

おっそうだな。ただまぁ、作者の中の人の司令部ではまだ皐月のレベルが73とまだ足りてない様子だったな。(16/03/06時点)

皐月「そ、それはそれで頑張って欲しいかな・・・。」^^;

青葉「努力目標ですね。」

それもそうだろうな。さて今回は艦娘の謎について解明する回にします。題して、
『艦娘の砲弾や魚雷、艦載機について』です。
捻りなんてないよ。

青葉「無くていいです。」

辛辣ッ・・・まぁいい。(平静を取り戻す

艦娘の立ち絵と、実艦の写真を見比べれば分かる通り、艦娘達の兵装と実艦の兵装とではサイズに大きな違いがあります。この為この小説では立ち絵によって異なってくる火砲口径の統一を図る為(設定に於いて)、『12cm→12mm』と言う様にセンチをミリに置換して火砲その他の砲口径としています。これは以前お話した通りです。

付け加えるなら砲身長(一般的にはこちらを口径と呼ぶ)についてもセンチからミリへの置換を行っています。ですので絵師によって描画する大きさが異なっていても、作中では大きさは統一されています。

ここで次に進む為に少し知識勉強になりますが、砲弾自体の威力と言うものは、砲口径と砲弾そのものの長さ(大きさ)という二つの要素に依存します。(極論ですが)即ち12cm砲(4.7インチ・睦月型他主砲)と41cm砲(約16.2インチ・長門型主砲)で威力に差異が出るのは、砲弾の大きさが大きく違うからなのです。

例として、かの有名なアイオワ級戦艦の主砲、16インチ50口径砲Mk.7の榴弾は重量約862㎏なのに対し、睦月型までの駆逐艦級艦砲であった45口径3年式12cm砲の榴弾はたったの20.3㎏でしかありません。

青葉「何故榴弾の弾頭重量を比較しているかというと、この12cm砲の徹甲弾の重量がウィキに記載されて無かったと言うだけの事です。Mk.7の徹甲弾は1225㎏程度あります。」

皐月「こう比較してみると、戦艦の主砲に比べて如何に威力が無かったかが分かるね・・・ハハハ。」

まぁまぁ、戦艦は戦艦を討つ為の主砲だからしゃーなし。

ですがここからが本題です。仮に41cm砲を例にするとして、“ならば41mm口径になった41cm砲の差し引いた残りの威力は何処へ失せたか?”という事なのです。

分かりやすく陽炎型の50口径3年式12.7cm砲を例としましょう。これをミリ置換した場合の口径は12.7mm、つまりブローニングM2重機関銃と同口径になります。知らない方は米軍や陸自はじめ世界中で使ってるロングセラー機関銃という認識でいいです。

この機関銃の使用する12.7×99mmNATO弾の弾丸重量は、種類によって差異はありますが42~52g程度になります。23.5㎏の砲弾重量を持つ12.7cm砲弾とは比較の段でない事はお分かり頂けるでしょうか。

しかし、彼女ら艦娘の兵装は、本来通りの性能を持った砲弾を撃ち出します。これは一体どういう理屈なのか。

普通考えつきそうなのが、威力をそのままに小さくしたと言う方法です。質量保存の法則に反しているので本来はあり得ません。

ですが、世の中には仰天するような話もあったもので、妖精さんの超技術がここで活きてきます。つまり“空母が放つ矢”と同じ理屈です。

砲弾はミリ換算した小さなものを装填しておくのですが、それを発射した際、発射炎の様なものは出ますがその炎で実寸の砲弾に変化する、という寸法です。(適切な表現がいまいち思いつきませんが。)

艦載機にしたって、弓から放たれた矢が、ケースによって違いはあるようですが大抵炎と共に5機の艦載機へと変化する様に、です。

これは魚雷も同じことで、駆逐艦の魚雷は水中に入った直後に実寸大へと変化します。妖精さん最早何でもありです本当にありがとうございましたいい仕事です。

皐月「ホント、凄いよねぇ。」

因みに一つ補足を入れると、直人が艤装として運用している30cm速射砲は射程がすこぶる短い(山なりに撃って約9000m弱が関の山)です。これは霊力の介在しない兵装なので妖精さんが関われないせいです。

青葉「妖精さんがいないと30cm砲と同等の兵器にはなりませんしねぇ。」

そういうことだねぇ。

皐月「そう言えばあの銃って、司令官が設計したって聞いたんだけど。」

まぁそれは当の本人に聞く方が早いんじゃないかな?

皐月「そ、そうだったね・・・。」

そんじゃぁ久々に長々とお送りしましたが、本編へと移行したいと思います。

皐月「第2部4章、スタートだよ!」


第2部4章~制号作戦―中編―~

タカオとの激闘から二日、横鎮近衛艦隊は漸く基地に帰り着き、ヒュウガは造兵廠1番ドックでイ-401の整備に入り、それ以外は休息をとっていた。

 

タカオも2番ドックに入渠しメンテナンスに入っていた。

 

艦娘部隊も神通が入渠、その他の艦は折を見て順次入渠する形を取って休んでいた。

 

そして司令官兼勝利の切り札の直人はというと・・・

 

 

 

12月28日午前10時49分 提督私室

 

 

提督「ぐ~~・・・か~~・・・」

 

いびきかいて大爆睡中だった。

 

大淀「は、はははは・・・。」

 

執務を放り出された大淀もこればかりは苦笑するばかりであった。

 

因みに明石も寝てしまっているため工廠機能は現状局長が代行する形になっていた。

 

 

 

~入渠棟~

 

 

局長「ナゼ私ナンダ・・・。」

 

ワール「暇そうだからでしょう?」

 

局長「ムゥ・・・。」

 

全く否定出来ないモンタナは、ただただ唸るしかなかった。

 

 

 

皐月「よく寝てるねぇ、司令官・・・。」

 

と直人の私室に来るなり言うのは、司令部守備に当たった皐月である。

 

大淀「そうですね・・・流石に睡眠のお邪魔をする訳にもいかないのですけど・・・。」

 

実際出撃帰りで即ベッドに潜った為、寝坊と咎める事も出来ず、傍観している状態である。

 

皐月「激戦だったって聞いてるよ?」

 

大淀「最後は提督自ら単身で敵艦上で大立ち回りだったそうです・・・。」

 

皐月「そりゃぁ疲れるよねぇ・・・。」

 

大淀「いつも提督は無茶をなさいますから・・・。」

 

そこまで言ってから、大淀は疑問が一つ浮かんだ。

 

大淀「そう言えば、なぜ皐月さん、ここにいるんです?」

 

皐月「ん? あぁ、様子を見に来ただけさ。」

 

大淀「そ、そうですか・・・。」

 

事実そうだったのだから仕方ない。

 

 

 

そこは、海軍横須賀基地の一室―――。

 

紀伊「お前ら、いよいよ明後日だ、しっかり休んどけよ!」

 

氷空「あぁ、分かっているさ。」

 

泉沢「へいへい。」

 

浜河「承知しているよ、旗艦殿。」

 

紀伊「その呼び方やめろって・・・はぁ。」(諦観

 

浜河「フフフッ。紀伊君。」

 

紀伊「ん? どうした?」

 

浜河「あまり、背負い込み過ぎるなよ。僕達は第1任務戦隊の仲間なんだからね。」

 

紀伊「分かってる、と思う・・・。」

 

 

コンコン

 

 

紀伊「どうぞ。」

 

大迫「よぉ、邪魔するよ。紀伊、少し来てくれるか?」

 

紀伊「あぁ・・・わかった。お前らまた後でな。」

 

泉沢「おう!」

 

 

―――バタン

 

 

 

12月29日午前6時05分 提督私室

 

 

提督「―――っ。」

 

直人は結局昨日一日を寝過ごした。

 

提督「・・・夢、か。久しく見ない昔の夢だったな・・・。」ポリポリ

 

頭を掻きつつベッドから身を起こす直人。

 

提督「・・・えっと・・・今何時―――朝の6時、あぁ、昨日1日寝てたのか、あいつには悪い事したな・・・。」

 

参った参ったと言うような反応でひとりごちる直人であった。

 

提督「顔洗って、食堂行かなきゃだな・・・。」

 

 

 

午前6時10分 食堂棟1F・食堂

 

 

提督「鳳翔さんおはよう。相変わらず早いねっ―――!」ピクッ

 

直人が顔を引き攣らせる。当然だ、“タカオ”がいたのだから。

 

タカオ「あら、意外と早いのね。」

 

鳳翔「提督! おはようございます。お身体はもう大丈夫なのですか?」

 

提督「あ、あぁ、そっちについては問題ない、が・・・。」

 

直人はタカオを横目遣いに見つつ言葉に詰まる。

 

タカオ「・・・何よ? ここの食事なら昨日のお昼から既に食べてるわよ?」

 

提督「さ、さよか・・・。」

 

鳳翔さんのバイカル湖(※)より深い慈愛の心に心中深く嘆息しながら、直人は適当に空いている椅子に座るのだった。

 

※バイカル湖

ロシアにある湖、湖としては世界一水深が深いと言われる。

 

 

 

提督「~♪」モグモグ

 

この日はシンプルに、白飯に沢庵、味噌汁に焼き秋刀魚(ポン酢&大根おろし付き)、他に煮物なども付いていた。

 

皐月「美味しいねぇ、司令官。」

 

提督「全くさ、鳳翔さんを厨房担当にしてよかった。」

 

実のところ鳳翔の料理技術は並外れている。和洋中全てのジャンルの料理をそつなく作ってしまうのだ、それもそのどれに於いても一流と来ている辺りその辺はお艦のアビリティであった。

 

(艦娘小ネタ:ミッドウェー海戦の頃鳳翔には、鳳翔主計長曰く連合艦隊随一の超一流シェフが乗り組んでいたそうです。)

 

皐月「そう言えば司令官、一つ聞きたい事があるんだけどさ。」

 

提督「どうした? 答えられる事なら何でも聞いてくれていいぞ。」

 

皐月「司令官が使ってる30cm速射砲って、司令官が設計したって聞いたんだけどホント?」

 

これに関して直人は即答するのである。

 

提督「ホントだよ? 一から図面引いた。」

 

皐月「へぇ~、提督ってそう言うの凄いんだね!」

 

と皐月が褒めると直人は「そんな事はない」という風にこう言った。

 

提督「といってもねぇ、細かい所は明石に任せたんだ。基本設計は俺がしたけど、精密図面が作れる訳じゃないんだよね。俺って銃器を沢山扱うから整備大変なのよ。図面位引けないと壊しちゃうのよね、俺だけかも知れないけど。」

 

実際に1度壊した事もある為余計であった。その時はメーカーに送って修理してもらったのだが。

 

皐月「アハハハ・・・」^^;

 

ただ、整備を明石に丸投げしている皐月には耳の痛い話である。

 

提督「ま、銃器が多過ぎて艤装の整備投げちゃってるけどね・・・たまにやるけど。」

 

そこに皐月が口を挟む。

 

皐月「手伝う程度?」

 

提督「お互いさまって事で。」

 

皐月「そ、そうだね・・・。」

 

皐月も人の事を言える筋ではない。

 

金剛「おはようございマース!」

 

提督「おう金剛、おはよう。隣あいてるぞ~。」

 

皐月とは向かい合わせで座っている為である。

 

金剛「了解デース!」

 

 

 

この後何事も無く駄弁って食事終了した模様。

 

 

 

午前7時04分 提督執務室

 

 

提督「・・・。」カリカリ

 

大淀「・・・。」

 

金剛「多いデース・・・。」カリカリ

 

大淀「当たり前でしょう? 霧の艦艇の整備に莫大な資源を使い、尚且つ数日司令部を留守にしたんですから。」

 

提督「自分で自分の首を絞めるとは、このことか・・・。」

 

流石の量に早くも少しうんざりしだした頃・・・。

 

 

ガチャッ

 

 

明石「提督! ドロップ判定終わりました! 今再構築してます!」バッ

 

唐突に駆けこんで来たのは明石である。

 

提督(抜け出すチャンス、善は急げ!)「よし、すぐに行く。」バッ、ババッ

 

それに完全に対応して見せる直人、次の瞬間には山と積まれた書類の上を悠々飛び越えてダッシュで執務室を去ろうとする。

 

大淀「いやちょっ、提督―――ッ!!」(しまった捕まえ損ねた!!)

 

虚を突かれた大淀、襟首ひっつかんで無理矢理制止しようとするも右手は空を切り、為す術も無く棒立ちである。

 

金剛「ハ、ハハハハ・・・仕事嫌いも相変わらずなのデース・・・。」

 

苦笑する金剛と・・・

 

大淀「はぁ~~~・・・いい加減にして下さいよ・・・。」

 

大きくため息をつく大淀であった・・・。

 

 

 

午前7時12分 建造棟

 

 

提督「で、やって来たぞいっとな。」

 

見事抜けだす事に成功した直人は、建造棟にやってきていた。

 

明石「はい! こちらです!」

 

明石に手招きされ直人が建造棟に入る。

 

最上「明石さん、遅れましたぁ!」

 

そこへ少し息を乱してやって来たのは最上である。

 

提督「ん? 最上?」

 

明石「あぁ、私が呼んだんですよ。まぁ来れば分かります。」

 

提督「お・・・おう・・・?」

 

疑問符を浮かべて直人は明石に案内されて建造棟内を歩く。

 

「・・・まぁこうして会えたんだし、言いっこなしじゃん?」

 

「そうですけれど・・・。」

 

明石「お話中すみませんがね? 提督をお連れしましたので。」

 

「おぉっ!?」

 

連れて来られた場所には最上を除き6人の艦娘がいた。

 

提督「明石さんありがとう。私がここの艦隊の司令官だ。一人づつ自己紹介してくれるかな?」

 

磯波「あの・・・磯波と申します、よろしくお願いします。」

 

敷波「アタシの名は敷波、以後宜しく~。」

 

陸奥「長門型戦艦2番艦、陸奥よ。よろしくね。」

 

夕張「兵装実験軽巡、夕張です!」

 

鈴谷「鈴谷だよ。よろしくね!」

 

熊野「私が重巡、熊野ですわ。以後お見知りおきを。」

 

提督「む・・・うーん・・・。」

 

その面々を前に直人は再び資源の収支について計算しだすのである。

 

鈴谷「ん? どうしたの?」

 

提督「あ、いやなんでもない。6人とも、これから宜しく頼むよ。」

 

6人「はい!」

 

明石「じゃぁそういうことで、6人の司令部中の案内は最上、よろしくお願いしていいかしら?」

 

最上「あ、呼ばれたのってそう言う・・・。」

 

この新入り達の案内役である。そしてそれを理解したのと同じタイミングで鈴谷が最上の姿に気付いた。

 

鈴谷「おぉ! 最上じゃん!」

 

最上「やぁ鈴谷。また会えて嬉しいよ! 熊野も、ようこそ我が艦隊へ!」

 

熊野「お久しぶりですわ、最上。」

 

最上「本当に久しぶりだねぇ、熊野。あ、明石さん、私達はこれで。」

 

明石「はい! お願いしますね。」

 

最上「任せて下さい!」

 

そう言うと最上は6人の艦娘を率いて直人の御前を辞去するのだった。

 

提督「・・・。」

 

明石「・・・提督?」

 

明石が不思議がったのは、直人が余りにも『まずいなぁ・・・』という表情を浮かべていたからだった。

 

提督「あぁ・・・コストが・・・。」

 

と、直人は腕を組み、組んだ右手の人差し指で左手をトントンと叩きながら言った。

 

明石「あ・・・ア、アッハハハハハハ・・・。」

 

理由が分かった明石も苦笑するばかりであった。再び大型艦が増えたのだ、3隻も。しかも・・・

 

提督「ビッグセブンが一柱、戦艦陸奥と来たか・・・。」

 

陸奥が着任となっては、尚更であった。

 

ここで、作戦帰り故のアクシデントを一つ紹介しておこう。

 

ことの発端は陸奥たちの着任後すぐの事である。

 

 

 

提督「さて、戻るとするか、大淀が顔真っ赤にしてるだろうしn」

 

 

明石「提督! ちょっと来てください。」

 

焦りを見せる明石、只事でない雰囲気を直人も察した。

 

提督「どうした、なにかあったのか?」

 

明石「いえ、艤装の解体リストを見ていたんですが・・・」

 

そう言ってタッチパネルを差し出してくる。

 

提督「―――鈴谷と熊野の名前だと?」

 

思わず眉を顰める直人。

 

明石「・・・という事は提督ではないんですね。」

 

提督「当然だろう、艤装もない艦娘置いとく余裕はそんなにないぞ。ここの工廠機能は明石休んでる代わりに局長が持ってたんだったな?」

 

と言うと―――

 

明石「・・・察しは付きました、外しておきましょう。」

 

と明石が言った。

 

提督「頼んだ。」

 

鈴谷と熊野の艤装、あわや解体の危機を逃れる。

 

後日明石が局長に聞いたところ、「イヤー、イツモハ即解体ダッタカラナ、ツイ手癖デヤッテシマッタンダ。」とのことだったようで。

 

 

 

午前9時27分 造兵廠2番ドック

 

 

提督「・・・艦橋デケェ・・・。」

 

直人は仕事を5割方片付けた所で、休憩と称してタカオの入渠する2番ドックにいた。

 

明石「あ、提督、いたんですか?」

 

提督「あぁ、まぁな。」

 

明石「こうして人の身になってみると、改めて大きいですね。軍艦と言うものは。」

 

提督「本当にそうだな・・・。」

 

<特に艦橋ねww

 

<艦幅一杯に幅取ってますから・・・。

 

最後で滅茶苦茶である。

 

実際高雄型重巡の艦橋は、妙高型に範を取ったとは思えないスケールを持っている。

 

これは高雄型の高雄と愛宕に旗艦設備を持たせようとした為で、摩耶・鳥海では若干縮小されている。更に妙高と比較してかなり大きな艦橋である為、ともすればトップヘビーの恐れがあった。なので材質は7割以上軽合金製の薄い鋼板である、防御能力は・・・お察しください。

 

因みにこれは余談だが、こんごう型イージス護衛艦の写真が初めて公開された際、艦橋を見て海外の関係者はこれを「たかお型」と勘違いしたとのこと。(あたご型だったかもしれない、うろ覚えスマソ)

 

提督「・・・赤いなぁ。」

 

明石「―――ですね。」

 

船体の大部分が赤一色である。

 

タカオ「こんなところで何をしているのかしら?」

 

提督「いやいや、休憩がてら運動も兼ねて見学に来たのさ。だが女性のテリトリーに無断で踏み込むのは無粋と思って、ね?」

 

嘘のような本心って怖い。と、思うのは俺だけですか?(by作者)

 

因みに言っておくと3割嘘である。(でも7割ホントなのでホント。)

 

タカオ「なっ・・・ま、まぁいいわ、見学させてあげる。」

 

若干照れつつそう言うタカオ、それを聞いて上機嫌になるのは他ならぬ―――――

 

提督「許可降りましたぁ~、明石さん、タラップ宜しく~♪」^o^)ノ

 

明石「はいな!」

 

・・・他ならぬ直人である、満面の笑顔である、子供っぽさがまだちょっとは残っている・・・。

 

因みに女性のテリトリーと言ったのは実のところ半分正解である。実際船はクルーに例えさせると女性として捉えられる場合が多い。メンタルモデルが女性しかいないのもこれに由来する。

(もっともその場合女性の体内に入るも同然なのだが・・・細かい事は考えるまい。)

 

 

 

直人は艦橋の中や主砲塔などあちこちを見て回る。しかも時折タカオが指を鳴らせば死ぬようなところも平然と歩いていた。

 

タカオ「あ、あなた、私に撃たれるとか、そう言う事を思ったりしないの・・・?」

 

思わずタカオはそう問うた。

 

提督「武装、ロックされてるでしょうに。それに俺には自分の身を守れる力だってあるしね。」

 

タカオ「・・・あんなの聞いてないわよ・・・。」

 

先日の事を思い出すタカオ。

 

提督「敵に言う訳ないでしょ。むしろレーザー砲なんて撃てるとか、あの時ナガラ級に出会って無かったら寝耳に水だわ、聞いてないってなるよそりゃ。」

 

当然の返答である。

 

タカオ「それは、そうだけど・・・。」

 

提督「だけど、君達は面白い存在だ。」

 

タカオ「え・・・?」

 

その言葉にタカオは首を傾げた。

 

提督「君達はアドミラリティ・コードと言う“命令”によって行動している。しかしその発動者は今となっては分からず、その内容さえも、断片的なもののみであとは失われたまま。言わば、不完全な“絶対命令”によってその行動は束縛されている。」

 

タカオ「ッ―――! 401か・・・。」

 

彼は霧に関する色んな事をイオナ達から聞き出していた。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』の模範であろう。そしてそれはタカオ戦で活きた。

 

提督「そう、イオナたちから色々と聞かせてもらった。君達は力押ししか戦術を知らない、だから人類との最後の決戦で損害を出している。そうして、人類から“学ぶ”為にメンタルモデルを生み出した。」

 

タカオ「確かにそうだわ、でもそれがどうしたって言うの?」

 

たまりかねてタカオが言った。

 

提督「我々が保有する“軍事力”、艦娘とは異なるという事さ。」

 

これは直人が確信に至った事であった。

 

提督「そう、この霧の艦艇と艦娘達とでは本質が異なる。霧の艦艇には絶対的な命令があって、それが無くてはいけないものだと“妄執し盲信してしまっている”。それが、自分達の視界と可能性を狭めてしまっている。」

 

タカオ「盲信ですって!?」

 

タカオが目を剥いて叫んだ。

 

提督「一つ確認しておこう。お前達は兵器なんだな?」

 

タカオ「そ、そうよ。」

 

突然の切り返しに驚きつつも答えるタカオ。

 

提督「そうか、では兵器に命令は必要不可欠なのか?」

 

タカオ「当然よ。私達は兵器、与えられた命令の元に動く。」

 

提督「ならばその“命令”とやらは誰が出す?」

 

タカオ「それは、指揮すべき者の口から発せられるものよ。」

 

提督「ではその指揮すべき“資格”は誰が持つ?」

 

タカオ「そっ―――それは・・・。」

 

問題の核心を突く直人の一言に、タカオは言いよどんだ。

 

提督「本来兵器に対する『命令』と言うものは、艦艇で言えば艦長や提督が発するべきものの筈だ。霧のように、それを兵器が下すようであれば、それは最早兵器ではない。」

 

命令を発する兵器、極論してしまえば銃を持ったロボットが指揮する戦車部隊であろうか。しかしそのロボットは兵器たり得るのか? 作者の私見ではあるが、答えは否だと思う。それは最早叡智の結晶、人工の命と言っていいものだ。

 

提督「霧の艦隊は“兵器”が“兵器”に対して『命令』を下す軍事組織だ。提督もいなければ各艦に艦長がいる訳でもない、強いて言えばその艦長に当たるのがメンタルモデルなのだろうが、それでさえ艦を操作する為に“兵器”が自ら考え作り上げた外的デバイスだ。」

 

タカオ「・・・。」

 

タカオには二の句を告げられるだけの余地はなかった。

 

提督「それだけ、霧という存在は、俺達からは異質に見えるんだ。艦娘達は、命令などなくとも自分で考える。自分で行動する。自ら生活を営む。“人”と同じように。霧とはまた違った在り方だ。だがそんな在り方をする霧に、俺は興味がある。」

 

タカオ「他人からはそう視られようとも、霧はそうやってこれまでずっとやってきた!」

 

提督「そうだろうな。だから今更変えられるものでは無いし変えろとも言わん。それは俺の領分ではないし俺がすべきことじゃない。だが命令を下す主がいないからと言って、自ら命令を下すようになった兵器を、俺は兵器とは思わん。」

 

タカオ「・・・。」

 

意志を持つ兵器などあり得ない、あり得るのは『自らの意志で立ち上がる戦士達』だけである。直人の言わんとするところ、彼の持論はそれであり、彼にとっては、その戦士達こそが、『艦娘』であっただろう。

 

提督「それに、だ。」

 

饒舌に語り続けた直人が、一度言葉を切って続ける。

 

提督「お前の様な“美少女”が兵器であって堪るか。」

 

タカオ「な、なんなのよいきなりっ!?」

 

効果てきめん、一気に赤面するタカオ。

 

提督「フッ、その“反応”だよ。」

 

タカオ「え・・・?」

 

直人はタカオの反応を見て言う。

 

提督「お前達は艦の演算能力で生み出された偶像なのかもしれん。だがそうして、怒ったり悔しがったり、恥じらったりしているじゃないか。そんな兵器、何処にある? 自分で人格を形成したのだとしても。」

 

タカオ「・・・。」

 

提督「まぁ、これを機会にして一度自分の事を見つめ直す事だな。自分と、そして“自分達”のことを。」

 

直人はすれ違いざまに言いながらタカオの右肩をポンと叩き、去っていった。

 

タカオ「・・・私は・・・。」

 

「あ~・・・こんな話、しに来たんじゃないんだけどな・・・。」

 

直人のぼやきが聞こえる中タカオは呟く。

 

タカオ「私達は兵器・・・だったもの・・・?」

 

タカオは、自分が何なのかを、考えさせられる羽目に陥ったのであった・・・。

 

 

 

12月30日9時02分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「あっ・・・!」

 

唐突に何かに気付く直人。

 

大淀「どうされました・・・?」

 

金剛「oh?」

 

提督「新年に拝む神社がねぇ。」

 

二人「っ!?」ズドドドッ

 

唐突過ぎてずっこける二人。

 

大淀「き、急ですね・・・。」

 

金剛「もう大掃除の準備中ですヨ・・・?」

 

はい今日は航空部隊に哨戒押し付けて入渠する奴は入渠、手空きの艦娘が大掃除準備中。

 

提督「ふと思ってしまったんだから仕方ない。」

 

実際サイパン島で稼働中の施設と言えば司令部の他、局長が機能復旧させたサイパン飛行場管制施設、稼働中の設備に電力を供給する為のソーラー発電所と高性能蓄電器、あとは訓練場位なもの。

 

他は荒れ果てており、旧市街は瓦礫と廃墟の山、交通網は舗装の損傷と風化が著しくオフロードバイクやバギーなどでないと走行不可能である。

 

金剛「お得意のマジックを使えば・・・」

 

提督「一番楽だけど却下。」

 

大淀「え、なぜですか?」

 

提督「神社は文字の通り『神の社(やしろ)』だぞ? 維持運営しないといかんし何処から分祀するつもりだ?」

 

大淀「あー・・・成程そう言う事ですか。」

 

金剛「いやどういうコトデース?」

 

理解した大淀と呑み込めなかった金剛。

 

大淀「つまりです。神社と言うものは神聖不可侵、それを生半可なやり方で造営するのは神様に対して不敬ですし、何より維持運営にコストがかかる、それを運営するだけの資金も無い、という事ですよね?」

 

提督「パーフェクトだ大淀。分かってるじゃないか。」

 

大淀「これでも、面倒臭がりですが理詰めが得意で経営管理の得意な司令官の副官ですからね。」

 

提督「ア、アッハハハハハハ・・・」

 

苦笑を浮かべる直人であった。上司が問題でも有能な部下は育つ、という事であろうか。

 

金剛「成程・・・それもそうデース・・・。」

 

提督「だが正月休みだからなぁ今・・・。」

 

大淀「いっそ、神社に初詣に行っちゃいますか?」

 

提督「それも却下。」

 

次々と案を却下する直人。

 

大淀「なぜです?」

 

提督「財布。」

 

大淀「そ、それは浅慮でした・・・。」

 

提督「大体厚木から伊勢神宮まで遠い。」

 

大淀「えっ、浅草寺とか・・・。」

 

提督「燃えちゃってもうないよ。」

 

大淀「ええええっ!?」

 

金剛「本当ですか!?」

 

艦娘にも知らない事はあると見える。

 

提督「そう、日本と深海の開戦を告げる、第2次東京大空襲でね。」

 

大淀「東京が・・・!?」

 

大淀はそれを聞き、何かを思い出したようにはっとなっていた。

 

 

 

―――第2次東京大空襲。

それは2045年3月10日に起こった、深海棲艦マリアナ方面軍戦略爆撃軍団によって行われた、カタストロフィである。奇しくも、1度目と同じ3月10日である。

 総数不明(局長によると参加機数483機)の深海の超重爆B-29『スーパーベアフォートレス』が、10日23時41分に東京上空に侵入。第1次(と言っても戦時中の話だが)の時と同じように東京湾を超低空で飛来した為、自衛軍のレーダーは意を為さなかった。

結果全機が無傷で到達、深海棲艦の存在が認知され始め情報が不足する中での奇襲であった為対応も遅れ、関東平野一円に特別非常事態宣言と避難命令が出た時には、既に東京都心は完全に灰燼に帰していた。

 

 即ち、東京都庁・国会議事堂・東京駅・霞ヶ関官庁街・首都高速道路・環状線・首相官邸・東京株式市場などが最初の20分で低空からピンポイントで爆撃され、政治・経済・交通が麻痺、更にその直後防衛省が潰滅し、自衛軍への指示も途絶したことで対応の遅れと混乱に拍車がかかる。

そこから更に新宿・渋谷・世田谷と言った東京の主要部を初め東京の下町や23区も絨毯爆撃により潰滅、更にその攻撃の余波は関東平野の自衛軍関連施設やその周囲の区域に及ぶ。

 横須賀基地は基地司令であった土方海将補(当時)の判断で独自の対応を取った為に被害軽微であったが、厚木基地を初めとする空軍施設が真っ先に壊滅、続いて東京港に存在する港湾施設があらかた爆撃で大打撃を受けて麻痺。丁度この頃になって前述の宣言が出されるに及ぶと、自衛軍関東地方軍は殆ど麻痺状態であった。

陸上自衛軍の各駐屯地も周辺の市街地諸共絨毯爆撃により壊滅的打撃を受けた為に行動に移ることが出来ず、航空自衛軍はいの一番に基地を使用不能にされた為飛び上がれた機体は僅か。

残った海上自衛軍は横須賀基地の全空母を総動員して迎撃部隊を発進させるも、撃墜したのは爆撃後帰投中だった機体ばかりを20機撃墜(内不確実7)したに留まった。

百里基地から緊急出撃した僅かばかりの戦闘機隊が駆けつけるも、ミサイルを防御機銃で殆ど無力化されて撃墜機数は3機しかなく、逆に全機還ることは無かった。

 

 嵐が過ぎ去った後には、戦後復興で築き上げた無数のビル群も、盤石の経済基盤も、政治機構も、生活の場所や娯楽の場さえも全てが硝煙と爆炎と瓦礫の内に奪い去られていた。

全く以て東京大空襲を彷彿とさせる―――規模に至ってはその数倍規模に達する災禍が東京とその一円を襲ったのだ。

 死者の数は概算で49万7千人、都内だけで18万人にも達し、重軽傷者はこの約10倍、行方不明者は約72万5千人に達した。重軽傷者は200万を超えるとされ、被害総額は、算出不能――――。

むしろ人口過密地帯である東京でこれだけの被害で済んだのは、民間企業や各々の大型店舗、消防などが咄嗟の判断で多くの人命を救ったからである。

その上災害対策マニュアルをたたき台にした緊急措置により、多くの人命が廃墟から助け出され、第一次東京大空襲の様なレベルでは確実に救いぞこなったであろう多くの人命をも救い出したからである。

 

 

提督「それから日本の主要都市は立て続けに空襲されて壊滅、今じゃ首都機能は各地に分散して、政治関係の建物がある町は小首都として重点的に復興という形を取ってる。横浜・仙台・名古屋・札幌・福岡が政治の拠点、更に大阪と京都、奈良が経済の中心地になってる。」

 

大淀「そうだったんですね・・・。」

 

提督「補足しておくとその時天皇陛下は御無事だったよ。皇居には爆弾は殆ど落ちなかったんだ。」

 

金剛「なぜデース?」

 

提督「さぁな、そこまでは知れんよ。だが天皇陛下は住まいを変え二条城にお移りになった。日本国は形の上では東京が首都だが、首都機能を分散して、天皇陛下も遷都なされた東京は形だけになってしまった。」

 

大淀「では、東京は今・・・?」

 

提督「廃墟も同然、治安も最悪レベル、かつての煌びやかさなんて微塵も無い! バラックと廃墟に身を寄せる難民の吹き溜まりよ。惨めなものよな、これが十数年前まで平和な惰眠を貪った日本の今だ。」

 

大淀「・・・。」

 

大淀は言葉を失った。今の日本は、敗戦した時の日本と何一つ変わらないではないか、という思いがこみ上げてくる。

 

提督「だが、それをどうにかしてやる為に、今の俺達がいる。艦娘が生まれ、ひとつの運命の元に俺という人物がそれに関わる事になった。俺は、俺達は、明日の日本が平和であるように、平和を守る為に戦う為にここにいるのではないかと思う。」

 

これは彼の本意であり本心である。が、彼は戦う為にこの場にいる事も確かであった。

 

大淀「そうですね、提督の仰る通りです。」

 

金剛「でも、私達が生まれる前は深海には勝てなかったのデース?」

 

これは至極真っ当な質問だった。

 

提督「いや、何度か日本軍も勝ってるよ。沈めた数も100や200じゃないが、それに物量が勝ってしまったんだ。」

 

金剛「そう言う事デスカー。」

 

提督「だがまぁ、こんな下らん昔話をしてもしょうがない、まずは目の前の書類を片付けんと、明日の勝利もおぼつかん。」

 

大淀「そうですね!」

 

そう言いつつ直人は、“あれ? 何の話をしてたんだっけ。”と思ったのだったが。

 

提督「あ、そうだ。タカオの所に行かなきゃ。」

 

大淀「え、なぜです?」

 

提督「味方は、多い方がええじゃろ?」

 

大淀「っ・・・!!」

 

大淀は瞬時に直人の心意を悟ったのだった。

 

 

 

午前9時33分 造兵廠

 

 

明石「~♪」ガチャガチャッ

 

機械弄りの好きな明石さん、今日も機械の手入れです。

 

提督「明石さ~ん。」

 

明石「ん・・・あぁ、提督。どうしましたか?」

 

提督「タカオ見なかった?」

 

明石「いえ、見てません。船にはいなかったんですか?」

 

提督「いない様に見えたけど。」

 

実はタカオの近くにはいったものの、メンタルモデルの方は不在だったのだ。

 

ヒュウガ「タカオならその辺に散歩しに行くって言ってたわよ?」

 

ひょっこり現れるヒュウガ、だが的確な情報を提供してくれた。

 

提督「あ―――あぁ、ありがと。」

 

直人はそれを聞いて造兵廠を去った。

 

明石「・・・。」

 

ヒュウガ「・・・。」

 

その場に置き去りにされる二人。

 

ヒュウガ「昨日からやけにタカオに御執心ね~。」

 

明石「そ、そうですね、ハハハ・・・。」

 

苦笑する明石であった。

 

 

 

提督「散歩・・・散歩ねぇ。」

 

“散歩に行った”などと言われても、直人にはそのタカオが散歩に行く場所の当てがないのだった。

 

提督「・・・ん? 行く当てがない? それはタカオも同じの筈・・・。」

 

そこで直人はピンと来てしまった。

 

“てけとーにぶらつけば会えるのでは?”と。

 

提督(大淀は怒るだろうなぁ~。)

 

そんな事を気にしつつ考えを改める気はないのであった。

 

 

 

しばらく歩くもののまぁ誰にも会わない。(目につかないとも言う。)

 

提督「どこいったかねぇ・・・。」

 

そうして歩く内、無意識の内にか彼は艤装倉庫の裏に来ていた。

 

提督「ん・・・いた。」

 

停泊用ドックの南側岸壁に、タカオがいた。

 

タカオ「・・・。」

 

 

コツコツコツコツ・・・

 

 

タカオ「っ―――。」

 

提督「やぁタカオ。随分探したよ。」

 

気さくに話しかける直人。

 

タカオ「・・・私に何の用かしら?」

 

提督「話・・・と言うより、今日は頼みがあってきた。」

 

タカオ「へぇ・・・? なら手早くして、私も暇ではないの。」

 

提督「忙しくも無いんだろう?」

 

タカオ「・・・。」

 

『分かったから早くして』とタカオの目はそう語っていた。

 

提督「単刀直入に言おう。俺達と一緒に戦って欲しい。」

 

タカオ「それは出来ない相談ね。霧を相手に戦うことなんて、私には出来ない。」

 

提督「だがタカオだって、この世界にいつまでもいるつもりはないだろう?」

 

タカオ「・・・。」

 

タカオは自分の本心を見透かされるような思いだった。

 

提督「俺はこの世界に霧が現れたのには、何らかの作為的要素が働いていると見ている。」

 

タカオ「・・・どういう事かしら?」

 

その話を初めて聞くタカオは首を傾げる。

 

提督「これは推測でしかないが、今コンゴウ達が手を組んでいる勢力、深海棲艦は、各地で一進一退を続け消耗戦に喘いでいる。その戦力補充の為の繋ぎとして、深海に属する何者かが、霧の艦艇群を呼び出したとすれば?」

 

タカオ「つまり私達は、体の良い様に利用された・・・!?」

 

まぁ体の良い捨て駒である。

 

提督「俺としても、言い方は悪いが霧にいつまでもこの世界に居座られるのは、あまりいい心地はしない。」

 

ずけずけと本音を言う直人。

 

タカオ「それはっ・・・そうでしょうね・・・。」

 

否定出来ない事実にタカオは渋々肯定する。

 

提督「何よりこの世界のバランスを崩してしまっている、これは正さなければならないと思う。そしてその作為的要素を発生させた張本人が、霧をあてに出来ないとして送り返すという事になれば、君達も全員元の世界に帰れる筈だ。」

 

タカオ「・・・つまり利害は一致している、と言いたい訳ね?」

 

提督「ご明察。『霧に帰って貰いたい我々』と『帰る術が分からない霧の艦隊』、その双方の問題を解決出来る。」

 

つまりこの理論で行けば、霧が頼りにならぬと、深海側に分からせさえすればいい、つまりコンゴウを倒す必要性も必ずしもない、という事にもなろうか。但し分からせる為に一戦は避け得ぬであろうが。

 

提督「出来ればコンゴウも引き込みたい所だがな・・・。」

 

その呟きにタカオは即答する。

 

タカオ「その点は期待出来ないわね。コンゴウは堅物だから。」

 

提督「その点はまぁ期待出来ないだろうな。で、受けて貰えるだろうか?」

 

タカオ「・・・いいわ、受けてあげる。」

 

タカオは結局その申し出を受けた。

 

提督「ありがとう、助かる―――。」

 

タカオ「但し。」

 

提督「?」

 

言葉を遮られ直人は首を傾げた。

 

タカオ「あなたが私に座乗すること、それが条件よ。」

 

つまり戦う際にはタカオを直人の旗艦にせよ、という訳である。盟約者本人を人質とするのと同義の条件である。

 

提督(盟約するには、リスクが付き物って事か。)

 

肩を竦めかけるが、直人は即答した。

 

提督「それ位の事はお安い御用だ。喜んで乗らせてもらおう。」

 

笑顔まで浮かべてそう言う直人。

 

タカオ「・・・あなた、なにも心配してないのね・・・。」

 

 

提督「してないよ? むしろ艦上から指揮を執るってどんな感じなのかなって思ってたんだ。いい機会だしな。」

 

タカオ「・・・。」

 

ここまでずけずけと言われては二の句も無いタカオであった。

 

提督「じゃ、そう言う事で、よろしく。」

 

直人が右手を差し伸べる。

 

タカオ「・・・えぇ。」

 

タカオはその手をしかと握る。

 

こうして、重巡タカオと直人達との共闘が成立するのである。

 

しかし直人達はこの時、サイパンに向けて巨大な脅威が襲い掛かろうとしている事を知る由はない。そして、この戦いの顛末も・・・。

 

 

 

大淀「提督~~~~?」ゴゴゴゴ・・・

 

提督「・・・。」

 

大淀「一体どこをほっつき歩いてたんですかもう12時前ですよ昼食前ですよタカオさん探すのにそんなに時間かからないでしょう提督!?」

 

提督「それを探してたんだからしょうがないでしょ。」

 

紛れもない事実ではあるが・・・

 

大淀「言い訳しないで下さい提督! そもそも・・・」

 

 

クドクドクドクドクドクドクドクド・・・

 

 

 

~10分後(12時04分)~

 

 

クドクドクドクドクドクド・・・

 

 

提督(・・・長い・・・。)

 

金剛「・・・。」

 

金剛などは完全に血の気が引いているが直人は既に聞いていない。

 

大淀、ある意味一番怒らせちゃいけないタイプ。

 

提督「・・・」チラッ

 

腕時計にさり気なく視線を落とす。

 

提督「あっ、もう12時だメシメシ~。」ダッ

 

正座から一瞬でダッシュ態勢、もう一瞬で踏み込んだ。加速は、お察しください。

 

大淀「いやちょっ、まだ終わってな―――」

 

提督「あとそのお説教が、一番執務妨害だと思うぞ?」

 

出口で立ち止まってそんな事を言う直人。

 

大淀「はっ・・・。」

 

それを指摘されて赤面する大淀なのであった・・・。

 

なんだかんだ言って大淀も心配なのであり、直人もそれは分かっているのだが・・・。

 

 

 

12月31日。

 

 

内地では年の瀬である。大掃除をしたり年の瀬のバーゲンセールでごったがえしたり、色々と忙しい日である。

 

それに関しては艦娘艦隊の海外諸基地やサイパン基地も同様であった。

 

 

 

午前8時38分 サイパン島・射撃練習場

 

 

提督「・・・なぜこうなったし。」ポツーン

 

サイパン基地でも大掃除、なのだが・・・。

 

 

~提督執務室~

 

大淀「どうせ頼んでもやってくれませんしね・・・。」

 

金剛「ハハハ・・・。」

 

 

 

完全に蚊帳の外に置かれた形になったのだった。

 

提督「いいけどさ・・・やりたくはないし・・・。」

 

偶然にも相互の思考の一致を見たのであったが。

 

提督(年末に掃除をしたってびた一文稼げる訳でもない・・・大掃除に何の意味があるやら・・・。)

 

などと直人は考えつつHK416を構える。

 

 

ガシャガシャガシャガシャ・・・

 

 

提督「っ!」

 

 

ダダンダダダンダンダダンダダンダンダダダン・・・

 

 

いつぞに直人は川内に言われた。『銃は訓練あるのみだ』と。

 

その言葉を実践すべく直人はここに来ていた。

 

提督「・・・。」

 

 

カチャーン・・・

 

 

30発マガシン最後の薬莢が床に落ちた。

 

提督「やっぱりリコイルコントロールが甘いか・・・?」

 

標的に命中した弾丸は些か着弾点がばらけていた、誤差の範囲ではあったものの直人は納得には至らない。

 

元々が一介の学生であり、剣は達人でも銃の射撃には慣れていないのだ。

 

 

ギイイ・・・

 

 

提督「ん・・・?」

 

扉が軋む音がした時直人は『風で開いちゃったかな?』と思い扉の方を見ると・・・

 

望月「・・・司令官か~。」

 

望月だった。

 

提督「ハハーン、お前も追い出されたクチだな?」

 

望月「まぁね~。仕方なくうろうろしてたらここに来ちゃった。」

 

まぁ容易に想像はつくが、ここに来てしまったと言うのは偶然にしては出来過ぎてはいないだろうか。

 

望月「へぇ~、演習場のボロ倉庫と思ってたけど、こんなのだったとはねぇ・・・。」

 

確かに外見はボロい、バラックとそう大差ない見た目である。

 

それもその筈この屋内射撃練習場は、中の設備と銃を置くテーブルは兎も角として、あとは廃材利用で妖精さんに頼んで作らせたものなのだ。

 

それでも雨漏りや風雨を想定して作ってくれた妖精さんには脱帽させられるが。

 

提督「・・・そう言えば、望月の腕前に興味あるんだけど?」

 

興味本位で直人はそう言った。

 

望月「ん~? 私の実力に興味あるの? 司令官も物好きだねぇ~・・・。」

 

望月はそう言いながらも割と乗り気なご様子。

 

望月「分かったよ、付き合ってあげるよ司令官に。」

 

提督「そう来なくっちゃ。」

 

いい話相手をゲットした、と思ったのも束の間であった・・・。

 

 

 

望月「ん~・・・。」ガチャガチャッ

 

直人の銃を物色する望月。

 

望月「・・・お、いいねこれ。」

 

と言って手に取ったのはHK53-2 短機関銃である。

 

提督「え、それマズルジャンプ凄いけど大丈夫?」

 

直人でも制御がやっとでブレまでは修正できない代物である。

 

望月「まー見ててよ。」

 

提督「お、おう。」

 

望月はそう言うと位置に付き、グリップとマガシンを握って構える。

 

提督(・・・セミオート?)

 

HK53-2はフルオートとセミオートを切り替えられるが、その切替コックが、セミオートに設定されていた。因みにそのコックでセーフティーもかけられる。

 

望月「いつでもいいよ~。」

 

提督「・・・OK、いくぞ。」ポチィ

 

直人がターゲットの起動スイッチを押す。

 

 

ガシャガシャガシャガシャ・・・

 

 

望月「ん。」

 

 

タンタンタンタンタンタン・・・

 

 

1発づつ放たれる銃弾は、狙い違わず次々とターゲットの頭部に命中する。

 

提督「!?」

 

直人は驚きを隠すことが出来なかった。

 

提督(望月の狙い目は一切無駄が無い一撃一殺、それに反動を完全に近い形で受け止め、マズルジャンプも殆ど感じさせない・・・望月にこれ程の資質があったのか・・・!!)

 

直人は望月に、末恐ろしいものを感じ取っていた。

 

望月「・・・ふぅ。こんなもんかねぇ。」

 

気付けば望月が1マガシン撃ち切っていた。

 

提督「・・・望月、お前凄かったんだな。」

 

望月「あー、うん。私が本気出せばこんなもんかなぁ。」

 

睦月達睦月型の様子を見ていても、主砲の反動制御には苦慮している様子であった。それが望月には感じられない。これは即ち、照準を定めたまま延々と撃ち続けられる事を意味する。

 

望月の前の提督が、彼女を生かせなかったのは、望月にとっては悲哀であっただろう。

 

提督「いっつも寝てるだけだと思ってたけど・・・。」

 

実は訓練さえあまりやってない望月。引きずり出すのはある意味どんな敵と戦うより難しい課題である。

 

望月「才能はあるんだよね、でも活かしてくれる上司に恵まれなかった、それだけかなぁ。」

 

提督「自分で言うのか・・・まぁ、俺は出来るだけ、お前たち睦月型に前線に出て欲しくないと思ってるんだ。」

 

望月「へ、そうなの?」

 

望月にとっては初耳の話である。

 

提督「あぁ。だがお前になら、安心して司令部の護りを任せられるな。お前を妹に、また姉に持っただけで、睦月型の皆は幸せ者だろう。」

 

望月「・・・へへへ、まぁ、それ位なら・・・任されても、いいかな。」

 

提督「そっか・・・一見地味でも、皆が帰る場所を守る事は重要な任務だ。頼むぞ~?」

 

望月「うん、任せといて。」

 

提督「フフッ・・・あぁ。」

 

こうしてまたひとつ、結束の輪が広がったのだった。

 

一方その頃・・・

 

 

 

午前9時02分 食堂棟1F・食堂 厨房

 

 

鳳翔「ええと、あと仕込みは・・・」

 

満潮「佃煮の仕込み、もうすぐ終わります!」

 

間宮「内地からの食材、持って来ました!」

 

鳳翔「ではその調理台の上へ!」

 

間宮「はい!」

 

鳳翔(提督を追い出した判断、間違いだったかもしれませんね・・・。)

 

厨房は既にかなり大忙しと言う状況。

 

 

~艦娘寮・戦艦区画~

 

金剛「モップ掛けデース!」ドタドタドタ

 

比叡「大掃除も、気合! 入れて! 行きます!」ドタドタドタ

 

戦艦寮では金剛と比叡が廊下の掃除中。

 

陸奥「・・・あらあら、賑やかね。」

 

榛名「・・・ははは。」

 

それを傍観する二人。

 

榛名「各部屋のお掃除、やってしまいましょう。」

 

陸奥「そうね。」

 

 

~艦娘寮・巡洋艦区画~

 

 

ドタドタ・・・

 

 

長良「はぁ、はぁ、はぁ・・・」ゼェゼェ

 

寮2号棟、戦艦寮真下の巡洋艦区画では、長良が長大な廊下を雑巾掛けしようとしてダウン。

 

五十鈴「無茶だって言ったのに、言わんこっちゃない・・・。」

 

長良型次女五十鈴は手堅くモップ。

 

長良「だ、だって、いい運動になるかと・・・。」

 

根拠がそこだった。

 

高雄「妙高を厨房にやった関係で、少しきついですね・・・。」

 

愛宕「でも一年の締めくくりよ、頑張りましょう?」

 

五十鈴「勿論!」

 

 

 

由良「まぁ、私達は各部屋のお掃除ですけど。」

 

名取「は、ははははは・・・。」

 

まぁこの二人微妙に体力ないので致し方なし。(それでいいのか艦娘よ)

 

 

~艦娘寮・駆逐艦区画~

 

電「廊下を雑巾掛けなのです!」

 

艦娘寮3号棟は丸々駆逐艦区画になっている。(1号棟は空母と特務艦、4号棟は未使用)

 

その広い廊下の掃除に、蛮勇を以って電ちゃんが雑巾がけを試みんとしていた。

 

雷「隅々まで綺麗にしないとね!」

 

雷が随伴、心強い事この上ない。

 

電「なのでs――――」

 

だが・・・電が廊下に落ちていたモップに、躓いた――――――。

 

電「はわっ――――!?」

 

雷「えっ!?」

 

電が前のめりにバランスを崩す。その過程で、電の持っていた水が滴るほど濡れた雑巾が、前方に飛ぶ。

 

電「ふにゃああぁぁっ!?」ドシャァッ

 

電がこけると同時に雑巾が床に落ちそのまま滑っていく。その先に―――――

 

 

 

 

五月雨「~♪」

 

水入りバケツを持った五月雨がいた。

 

 

ベチャッ

 

 

五月雨「わっ!?」

 

五月雨がその雑巾をまともに踏み抜き、後ろ向きに体勢を崩す。

 

その際持っていたバケツは――――斜め前方にぶっ飛ばされていた。

 

そして運悪くその先には・・・

 

 

 

 

潮「・・・?」

 

U☆SHI☆O

 

 

バッシャーン

 

 

潮「うぶっ!?」ドサァッ

 

五月雨「きゃぁっ!」ドッタァン

 

唐突な事態に体勢を崩した潮がへたり込むのと、五月雨が尻餅をついたのはほぼ同時だった。

 

電「ううう・・・。」

 

五月雨「いたた・・・。」

 

潮「はっ・・・くしゅん!」

 

雷「あちゃー・・・。」(溜息

 

見事な大惨事である、雷も思わず顔を覆ったのであった。フルコンボである。

 

敷波「・・・何やってるのこの子達・・・。」

 

たまたま近くにいた敷波が思わず呟いた。

 

雷「揃いも揃ってドジだって事よね・・・。」

 

敷波「いや、これはむしろ奇跡か何かの類でしょ・・・。」

 

漣「濡れ透け潮っ○い、(゚∀゚)キタコレ!!」

 

やめい。

 

雷「言ってないで着替え取ってきてあげなさいよ・・・。」

 

漣「ハッ、そうだったそうだった~。」トテトテ

 

初春「何事じゃ、これは・・・。」

 

そこへやってくる初春と子日。

 

雷「どこから説明したものか・・・。」

 

子日「大変な事になってるね~・・・。」

 

余りの光景に子日の調子も空回り気味?

 

 

~艦娘寮・蒼龍の部屋~

 

蒼龍「~~♪」

 

蒼龍が窓拭き掃除中。

 

飛龍「もう、鼻歌はいいから早く済ませちゃおう?」

 

蒼龍「分かってるって~。」

 

飛龍が割とごちゃごちゃな蒼龍の部屋を整頓中。二人とも襷を締めてる状態。

 

飛龍「なんで整頓できないかなぁ・・・。」

 

蒼龍「アハハ・・・いまいち苦手で・・・。」

 

多聞「整理整頓はきちっと出来んといかんぞ?」

 

蒼龍「わ、分かってます・・・。」

 

すかさず御小言の飛んでくる蒼龍である。

 

 

 

千歳「私達は廊下掃除楽でいいよねぇ・・・。」

 

千代田「そうね、でも早く済ませないと。」

 

千歳「フフッ、まだやる事沢山あるものね、分かってるわ。」

 

廊下掃除はこの二人の仕事。ただ特務艦と空母の寮なので他の三棟に比べると建物が小さい模様。

 

他の御仁は部屋の整理である。

 

 

~訓練場・屋内射撃場~

 

提督「今頃大変だろうねー。」

 

望月「ねー。」

 

と、呑気に話をする、そのような喧騒とは無縁な位置にいる二人であった。

 

 

 

巻いて巻いて~♪

尺を巻いて~♪(おい)

 

 

 

2053年1月1日午前6時40分 司令部前ロータリー

 

 

提督「・・・。」

 

一同「・・・。」

 

日の出直前のこの時間、皇居遥拝の為全艦娘が司令部前ロータリーに整列していた。直人も普段着ている第2種軍服ではなく、黒の冬服、第1種軍服に身を固めている。

 

皇居遥拝―――帝国海軍では元旦の朝、乗員が一隻単位で総員整列して皇居の方角を向き、敬礼(お辞儀の方)をし、御真影(天皇陛下のお写真)を拝謁すると言う「遥拝(ようはい)式」と言う儀式をしていました。

 

艦娘艦隊では特にこの皇居遥拝をせよと言う規定はない。あったらあったでハト派に叩かれるし、無いからと言って特に必要も無いからだ。

 

ただ直人は、これをする旨全艦に布告を出していたのだった。

 

但し、直人が指示したのは日の出と同時に最敬礼をすると言うだけであった。

 

そして、厳粛な空気の中、朝日がその顔を覗かせた。

 

提督「総員、遥拝!」

 

直人の一声で、全員がその場で皇居を向き最敬礼をする。

 

提督「・・・直れっ!」

 

そう言うと同時朝礼台に乗っていた直人は振り返って艦娘達の方を向く。

 

一同「・・・。」

 

提督「横鎮近衛艦隊の艦娘諸君、新年明けましておめでとう。まずはこの年を全員揃って迎えられる事を、喜びたいと思う。今年一年、宜しくお願いしたい。」

 

一同「宜しくお願いします!」

 

提督「新年を迎えるに当たって、改めて訓示したい事がある。今年は昨年以上の激戦が予想される。多少無理をするだろうことも想像に難くない。だが、例え負け戦だろうが死ぬ事は許さん、必ず生きて帰れ。来年の年明けを、諸君と迎えられる事を楽しみにしている。以上だ。」

 

大淀「気を付けっ!」

 

 

ザッ

 

 

大淀「敬礼!」

 

 

ザザッ

 

 

直人も敬礼でこれに応えた。直人が手を下すと、艦娘達も敬礼を解いた。

 

提督「解散して宜しい。」

 

鈴谷「ふあぁ~・・・眠い・・・。」

 

熊野「寝不足ですの・・・?」

 

鈴谷「朝早かったからさ~。」

 

熊野「そうですわね。」

 

最上「でも遥拝式は大事じゃん、しょうがないよ。」

 

鈴谷「おー最上じゃん、おっはよ~!」

 

熊野「おはようございます。」

 

最上「うん、おはよう!」

 

 

 

提督「・・・ふぅ。」

 

大淀「中々様になっておいででしたよ、提督。」

 

朝礼台から降りた直人を大淀が出迎える。

 

提督「あまり堅い事は苦手なんだけどね。」

 

大淀「そうですね、お似合いではありませんね。」

 

そう返されて直人は苦笑しながら言う。

 

提督「ハハハ―――来年も・・・」

 

大淀「え・・・?」

 

提督「来年もこうして、誰一人欠ける事無く、迎えたいものだな・・・。」

 

大淀「・・・そうですね、頑張りましょう。」

 

提督「あぁ。」

 

直人は力強い声で大淀の言葉に応えたのであった―――。

 

 

 

正月三箇日も明けた1月4日午前9時、サイパン司令部に2隻の輸送船と1隻のタンカーが、横鎮防備艦隊と護衛艦「あさなぎ」「ゆうなぎ」の護衛の下に入港してきた。

 

この護衛艦2隻は、早くも悪名として知られるSN作戦を生き抜いた幸運の船である。

 

提督「遠路、ご苦労様です。」

 

船長「いえ、要望された品を運ぶのが仕事ですから。」

 

直人が輸送船の船長を会話を交わしていると、一人の人物が現れる。

 

「石川君、元気だったかね?」

 

第2種軍服に金モールと、胸章を複数身に着けた士官。

 

提督「ひ、土方海将!」

 

それはまごう事無き横鎮司令長官土方龍二であった。

 

土方「驚いたかね?」

 

提督「そ、それはもう驚きますよ。何故ここに?」

 

土方「あぁ、君にお年玉をと思ってな。急いだのだが色々あってな、年が明けてしまったよ。」

 

なんとなし事情を掴んだ直人。

 

提督「取り敢えず立ち話もなんですから、応接間の方に行きましょう。こちらへ。」

 

土方「そうだな。」

 

そう言われた土方海将は、直人の言葉に乗る事にしたのだった。

 

 

 

~艦娘寮1号棟・応接間~

 

横鎮近衛艦隊司令部で、応接間は艦娘寮1号棟の1階に設けてある。

 

元々1号棟1階が特務艦寮であり部屋数を必要としない事から、直人が大部屋を転用したのだ。

 

提督「取り敢えずは、新年明けましておめでとう御座います。」

 

椅子に腰かけた状態で直人が言う。

 

土方「おめでとう、紀伊君。それにしてもサイパンはいいな、年中常夏で。」

 

提督「はっ、おかげさまで皆、快適に暮らしています。で、先程の件なのですが・・・。」

 

土方「あぁ。お年玉と言うのはな、君に新しい艦娘用の装備を預けようと思ってな。」

 

提督「新たな装備、ですか?」

 

直人が疑問符を浮かべる。

 

土方「そうだ。出来れば実戦運用してデータをくれると助かる。」

 

提督「それは無論です。で、どの様な?」

 

土方「“試製晴嵐”。」

 

その装備名を聞いた途端直人の顔色が変わる。

 

提督「晴嵐、ですか!? あの水上攻撃機の!?」

 

土方「そうだ。去年終わりに開発に成功した新装備だ。」

 

水上攻撃機『晴嵐』、それは日本軍が特型潜水艦用に開発した大型水上機である。800㎏爆弾1発ないし91式航空魚雷1本を懸架可能、フロート切り離し機構などを始めとし速力増大策を盛り込んだ決戦兵器であった。

 

土方「これを1部隊、横鎮近衛艦隊に譲渡する。使ってくれるか?」

 

NOと言う筈のない直人。

 

提督「勿論です土方海将、喜んで使わせて頂きます!」

 

特に航空艤装はあまり保有量の無い事もあり、この申し出は願っても無い事だった。

 

土方「そうか、それはよかった。ここまで来た甲斐もあったと言うものだ。」

 

提督「遠路遥々お疲れ様です。ですがなぜ海将直々に?」

 

土方「あぁ、君に一つ朗報をと思ってな。」

 

提督「と、仰いますと?」

 

土方「君たち横鎮近衛のバックアップに、今大迫一佐が当たっているんだ。」

 

これは寝耳に水であった。

 

提督「大迫さんが!? 確か第23護衛隊の補給担当になったと・・・。」

 

土方「あれは欺瞞だよ、君達のバックアップを大っぴらに任命できる筈無かろう?」

 

提督「成程そう言う手品でしたか・・・いえ、これは確かに朗報です、これで多少は動きやすくなります。」

 

土方「そうか、それはよかった。あぁそうだ、本土の土産だ。」

 

そう言って直人に差し出されたのは―――。

 

提督「コーラシガレットですか、それも一箱とは―――いやはや、ありがたく頂きます!」

 

土方「ハッハッハッ、喜んで貰えてよかったよ。では、そろそろ行く事にしよう。」

 

提督「そうですか、分かりました。またいずれの機会にでも、紅茶を一杯御馳走しましょう。」

 

土方「あぁ、その機会を楽しみにしよう。それではな。」

 

土方はそう言って、サイパンを後にしたのであった。

 

 

 

だがしかしその僅かに2時間後、状況が急変した。

 

 

1月4日午前11時36分 サイパン東方沖57km付近

 

 

操縦員妖精「・・・。」

 

“それ”を発見したのは、昼間の哨戒飛行に出た97式艦攻の内の1機である。

 

偵察員妖精「今日も何もいないといいですね。」

 

操縦員妖精「そう願いたいものだな。」

 

この日のサイパン付近は雲量6~7とそれなりに雲があった。

 

通信員妖精「何もいやしませんよ、今日も平和ですって。」

 

操縦員妖精「・・・。」

 

通信員の気休めはスルーし、操縦員妖精は周辺警戒を行う。

 

すると、ふと奇妙な点が目についた。

 

操縦員妖精「ん・・・?」

 

操縦員が目を凝らしたのは機体左側直下の海面。そこになびく無数のウェーキを、彼は確かに見た。

 

操縦員妖精「通信士! 司令部に打電、『我、敵艦隊ヲ発見ス』とな!」

 

通信員妖精「え、は、はいっ!!」

 

事態の緊急性は明らかであった。

 

通信員が電信を始めた時、操縦員は更なる点に気付く。

 

操縦員妖精「電文に付け足せ、『敵艦隊ハ、霧ノ戦艦2・重巡1ヲ含ム』と―――。」

 

その艦隊は、紛れもなくコンゴウの派遣した横鎮近衛艦隊追討艦隊だった。

 

 

 

その通報が直人の知るところとなるまでには5分を要しなかった。直人は急遽蒼き鋼の二人を呼んで説明を仰ぐことにした。

 

 

~提督執務室~

 

提督「それで、この接近中の戦艦クラスは、一体何者なんだ?」

 

イオナ「こちら側で確認している大戦艦級は、コンゴウ、ハルナ、キリシマの3隻。2隻がこちらに向かっているという事はその内の2隻。そして、多分コンゴウじゃない。」

 

タカオ「そうね、コンゴウの腰は重いから、まずは部下をぶつけて様子を見ると思うわ。」

 

群像「・・・。」

 

提督「成程・・・では、こちらに向かっているのは、そのハルナ・キリシマの2隻ということでいいんだな?」

 

イオナ「断定は出来ない。」

 

イオナはそう言ったが、直人はそれに頷く。

 

提督「それで十分だ。それで、対抗策は何かないのか?」

 

この質問に千早群像が答える。

 

群像「大戦艦級2隻が相手となると、通常の戦闘状態では難しい。侵蝕弾頭は補給して貰ったおかげで相当数ある、それにより物量戦術を取る事も可能だ。」

 

提督「しかしそれでは痛み分けの可能性が高くなる。いっそ2隻とも沈める位の気概がいるだろう。」

 

タカオ「ええっ!?」

 

直人の言葉にその場にいた者は驚愕した。

 

提督「我が艦隊はその総力を以てこれと一戦交え、霧が元の世界に戻れるきっかけを作る。その為には、奴らに分からせる必要がある。『霧の艦隊では艦娘相手には役に立たぬ』とな。」

 

その言葉に群像が口を挟む。

 

群像「だが、簡単ではないぞ。」

 

提督「それが、策はあるんだな、これが。」ニヤリ

 

群像「!?」

 

不敵な笑みを浮かべて、自信満々に言い放った直人である。

 

戦術家紀伊直人。その手腕が活かされる時が遂に来たのだった。

 

そしてサイパン島への敵の来寇を予期した備えが、フルに生かされる時が来たのだ。制号作戦の第二幕、『サイパン沖海戦』の開演時間は間近に迫っていたのである。




艦娘ファイルNo.74

最上型航空巡洋艦 鈴谷改

装備1:22号対水上電探
装備2(6機):瑞雲(634空)
装備3:20.3cm(3号)連装砲
装備4:同上

観音崎沖の一戦の後着任した一団の筆頭格。
特異点を複数盛り込んだ既に一線級の装備を持った艦娘であり、本人も自信を滲ませている。果たして・・・?


艦娘ファイルNo.75

最上型重巡洋艦 熊野

装備1:15.5cm3連装砲
装備2:零式水上偵察機

特異点を一つ持つ最上型重巡4番艦。
大型艦が一挙に増加した原因の一人でもある為直人の頭を悩ませた。
実戦時には最上と共にその巡洋艦としては類稀な分間投射量で敵を圧する。


艦娘ファイルNo.76

特Ⅰ型(吹雪型)駆逐艦 磯波

装備1:12.7cm連装砲

特異点の無い普通の駆逐艦娘。
性格は司令部では大人しい部類だが、戦闘時の読みの深さは特筆すべきところ。


艦娘ファイルNo.77

特Ⅱ型(綾波型)駆逐艦 敷波

装備1:12.7cm連装砲

凡庸な駆逐艦、綾波の妹。
司令部では割と重要な常識人枠。
これと言って特筆すべき点も無い平凡なスペックではあるものの、駆逐艦不足のこの司令部では重要戦力である。


艦娘ファイルNo.78

夕張型軽巡洋艦 夕張改

装備1:14cm連装砲
装備2:12.7cm単装高角砲
装備3:25mm連装機銃
装備4:94式爆雷投射機

まさかのガン積み装備で来ちゃった兵装実験軽巡。
あろうことか最終時装備での見参である、対空マッシマシですねはい。
機械弄りが大好きで明石と仲がいい。その為造兵廠によくいるようだ。


艦娘ファイルNo.79

長門型戦艦 陸奥

装備1:41cm連装砲
装備2:14cm単装砲(砲郭)(火力+3 命中+1)
装備3:零式水上偵察機

14cm単装砲の戦艦用副砲版持参と言う特異点を持ったビッグセブンの一柱。砲郭とは15.2cm単装砲みたいなやつの事。
気前のいいお姉さんポジだが怒らすと怖いタイプ。
戦闘ともなれば持ち前の火力であらゆる障害を排除してくれる頼もしい戦友である。が、燃費がお察しであり度々直人の頭を悩ませることとなる。
(その割には仮借なく投入するのだが。)


ゲストシップ紹介

タカオ型重巡洋艦 タカオ

装備1:203mm連装荷電粒子砲
装備2:123mm連装アクティブターレット
装備3:対空レーザーターレット
装備EX1:超重力砲
装備EX2:ミサイルVLS

霧の艦隊東洋方面第1巡航艦隊所属。
原作では紀伊半島南方で、台風の目に陣取ってイオナを待ち受け、交戦に入ったものの、その時船底に霧の潜水艦イ501を貼り付かせていた為能動的に動くことが出来ず、超重力砲も群像の咄嗟の判断で回避され、更にカウンター超重砲でイ-501を撃破された事で勝敗を決せられた。結局撃沈はされなかったが・・・?
劇中では五島列島沖にいる所を転移現象に巻き込まれ、ハワイ沖にコンゴウ他と共に飛ばされてしまい、その状況変化に戸惑いを隠せなかった霧の斥候として日本近海へとやってきた。

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