異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうもこんにちわ、作者です。

青葉「青葉です!」

お分かりの方が大半かと思いますが、劇中でもようやっとアルペイベントが開幕してます。

青葉「資源が溶けますねぇ・・・。」

実は作者の中の人は大戦艦ハルナを入手するには至っていないのですが、劇中にはきちんと登場します。ご安心ください。(?)

青葉「図鑑に載らなかったからと好き放題やる気ですね・・・。」

勿論です、自分の身の丈盛り込めないとね、面白くないですから。

青葉「否定できない私がいた。」

フフーン。では今回は艦これにまつわる軍事放談です。

青葉「提督の軍事うんちくですが、お付き合いください。m(__)m」

やかましわい。

青葉「事実ですし?」

否定はしない。

青葉「じゃぁ何で反論したんですか。」(´・ω・`)

なんとなくだ。

青葉「やっぱりですか。」

今日のテーマは、度々艦娘達が口にする「第○艦隊・第○水雷戦隊(○水戦)」についてです。


帝国海軍では大艦巨砲主義が主流であったことが知られていますが、日露戦争以降の日本軍、ことに海軍の基本戦略は、本土近海に敵を引きずり出しての艦隊決戦にありました。所謂「艦隊決戦思想」と呼ばれるものの産物です。

これを唱えたのが東郷平八郎元帥閣下だった訳ですが、この通り元々海軍は外征に適した特性は持ち合わせていませんでした。つまるところ、南方資源地帯制圧は兎も角としても、真珠湾攻撃やウェーク・グァム攻略等の外征に関しては、最初(大正初期の仮想対米戦構想で)は考慮されていなかった、というのが実相のようです。

それを逸脱したばかりに惨状を呈したことは言うまでもありませんが、それは今は関係が無いので置いておきましょう。


さて、日本海軍では、近代海軍として編成された当時から2つの常設艦隊を設けていました。それが「第1艦隊」と「第2艦隊」です。

順に説明していきましょう。


第1艦隊は、戦艦を中心に主力艦を集中し、駆逐艦などの補助艦の新鋭艦を集めた艦隊で、専ら決戦艦隊であると位置付けられていました。その任務(艦隊決戦思想下)は、日本近海で敵艦隊と決戦を行うと言うものでした。

1903年の新編成時には、第1戦隊(旗艦三笠以下戦艦6隻及び通報艦宮古)、第3戦隊(防護巡洋艦4隻)と、第1から第3までの3つの駆逐隊、二つの水雷艇隊によって編成されていました。

日本海海戦は教科書にも載ってますし、東郷平八郎直卒のこの艦隊が日本海海戦の主役となったという事は、語るまでも無いでしょう。


第2艦隊は巡洋戦艦や巡洋艦を中心に編成され、第1艦隊の前を行く前線部隊という位置づけが為されました。艦隊決戦思想の下では、艦隊決戦前の夜間強襲が任務とされており、高速性が重視された編成でした。

1903年の新編成時には、第2戦隊(装甲巡洋艦6隻及び通報艦千早)、第4戦隊(防護巡洋艦4隻)と2つの駆逐隊、2つの水雷艇隊で編成されていました。

第2・第4戦隊の諸艦は当時最新鋭の巡洋艦であり、ウラジオストックに在泊するウラジオ巡洋艦戦隊のどの艦艇よりも優速でしかも数で勝りました。上村中将が苦心惨憺、非難轟々の中でそれを壊滅させたことは割と知られていません。残念です。


青葉「上村提督は、東郷元帥の陰で苦労した提督ですよね、第2艦隊による敵捜索が思うに任せず被害だけが増え、御実家に投石されたり罵詈雑言を書き立てた貼り紙を家に貼られたりと・・・。」

そうだね、だが提督の努力の甲斐あって、蔚山沖の勝利に繋がったんだ。そうすると人々は掌を返して絶賛するんだからね、世の中そんなもんさ。

さて、艦隊決戦思想の艦隊編成でWW1の戦時編制を迎えた日本海軍は、第1艦隊と第2艦隊の下に1個水雷戦隊を設けます。

第1水雷戦隊と第2水雷戦隊です。1水戦が第1艦隊、2水戦が第2艦隊の指揮下に編入されました。


第2水雷戦隊は、前線部隊(第2艦隊)に属して共に夜襲を行う事から、最新鋭の駆逐艦と、最精鋭の人員をかき集めた精鋭部隊で『華の2水戦』と呼ばれていました。

最初は旧式小型の3等駆逐艦しか間に合わなかったものの、新型の駆逐艦が整備されると、それ以降新型艦で編成される様になりました。

この精鋭がルンガ沖や坊の岬沖で戦ったのは比較的知られています。マリアナやレイテでも、第2艦隊に付き添って参加しています。


対して第1水雷戦隊は第1艦隊に帰属し、戦艦部隊を護衛する為の水雷戦隊として編成されていました。前線で戦う部隊ではなく、最終防衛線で主力を守ると言う性質上、2水戦に比して旧式であるか、所定性能に達しなかった型落ちの駆逐艦を主として構成されました。

要するに1水戦は寄せ集め部隊であり、麾下の駆逐艦同士の性能差が大きい時期もあった為艦隊運動には苦労したようです。


参考までに、太平洋戦争開戦時の編成では、1水戦が特Ⅲ型4隻と初春型6隻、白露型2隻に対し、2水戦は陽炎型10隻、朝潮型6隻と、かなり優遇されているのがこれで分かると思います。

しかしこの二つの常設水雷戦隊と比べ、特設部隊で世代が違うレベルで旧式な駆逐艦を使う3水戦以降の部隊から見れば、1水戦であっても随分と頼もしく見えた事でしょう。


青葉「睦月型や神風型なんかを投入するんですからねぇ・・・無茶が過ぎるってものですよ。」

思わんでもないが、全てロンドン軍縮が元凶だからいかんともし難い。

青葉「ですよねぇ・・・。」( ̄∇ ̄;)

その神風型が艦これで実装される風な予告が来た時はビビりましたよ。(by作者)

青葉「我が海軍もついにそこまで切羽詰まりましたか・・・。」

ほんとだよ。


さて、いよいよアルペジオとのコラボイベント部に突入する事になります。

キャラ崩壊とかあったりしちゃったらごめんなさいね。それでは、本編スタートして行きましょう!

青葉「本編スタート!」

おいお前それ俺の(ry


第2部2章~迷い人来たりて~

~前回までのあらすじ~

 

 実働開始に向けて資源備蓄の最終段階も大詰めになった12月の中旬ごろ、各司令部から届けられる転移現象の目撃情報。直人はそれらの報告情報を横鎮から取り寄せて独自に分析し、レポートを横鎮司令部へと提出した。

 しかしその空路サイパンへと戻る途上襲撃を受け、深海戦闘機と正体不明の巡洋艦による対空砲火によって、搭乗していた連山改は機体を損傷しつつも何とかサイパン飛行場へとたどり着く。

 提督たる直人はその巡洋艦の撃滅を目的として実働態勢突入を早め、襲撃の翌日、情報収集のため再びアンノウンの巡洋艦を捜索し、これと交戦するが正体は分からず、謎は深まるばかりであった。

 そこへ12月24日、「蒼き鋼」と名乗る部隊に属すると自称する潜水艦が、突如としてサイパン近海へと転移してきたのである。

 

 

 

提督「どう思う?」

 

大淀「現段階では、なんとも・・・。」

 

判断しかねる、という様子でそう言う大淀。

 

天龍「提督!」

 

その時天龍と龍田が、揃ってやってきた。

 

提督「おう天龍、司令部周辺の警備に当たって・・・いたのではないのか?」

 

直人は途中から困惑した声になった。

 

「離しなさいよ! イオナ姉様でもない人が私に触れるなんて100年早いのよ! というかここ何処よ!!」

 

オレンジのシャツに白衣という出で立ちの、メガネをかけた女を、力ずくで連行してきたからである。

 

天龍「うるせぇなぁ少し黙ってろ!」

 

龍田「まぁまぁ天龍ちゃん落ち着いて。」

 

天龍「お、おう?」

 

こういう事を言った時、龍田が何か言わんとする時だ、と天龍は知っていた。多少訝しみながらだったが、天龍は龍田の二の句を待った。

 

龍田「あなた、すこーし、静かにして貰えるかしらぁ?」ズゴゴゴ・・・

 

「ヒッ!?」ゾクッ

 

天龍「ッッッ!」ブルッ

 

提督「!?」ゾワワッ

 

その様子を見ていた2人と、連行されてきた女は戦慄と恐怖を禁じ得なかった。

 

口元は微笑を湛えていたが、その他はおおよそ温和な雰囲気とは無縁であった。

 

提督(龍田は怒らすとヤバイ、留意しよう・・・。)

 

余りに笑っていない上気迫と覇気に満ち溢れたオーラを放ちまくっていた龍田を見た直人は、改めて龍田を怒らせるまいと心中で誓ったのである。

 

提督「それで、その女どうした?」

 

天龍「あぁ、それがだな・・・」

 

 

~20分前・訓練場外周~

 

天龍「今日も平和そのものってか・・・沖の光を除いてだが。」

 

 

バキバキバキバキッドシャアァッ

 

 

天龍「な、なんだっ!?」

 

※訓練場の外周は森です。

 

「いててて~・・・」

 

 

ガサッ

 

 

天龍「そこにいるのは誰だ!」ジャキィン

 

「えっ!?」

 

・・・

 

・・

 

 

天龍「んでこの風体だから怪しいと思って、ここまで引っ張って来たんだ。」

 

提督「確かにね。」

 

「ちょ、私は何も怪しくなんて・・・無くはないのか・・・。」

 

反論しようとしてできなかった、というそぶりを見せる女に直人は首を傾げたが、彼はそれを今のところは歯牙にもかけなかった。

 

提督「ま、水先案内人の伊勢や扶桑達が戻ってくるまで、待とうか。」

 

「え、伊勢って・・・?」

 

提督「ん? 戦艦伊勢だが?」

 

「“大”戦艦ではなく?」

 

提督「・・・確かにデカい戦艦“だった”けどねあの船は。」

 

何を言っているんだこいつは、と言いたくなったのを堪えて切り返す直人である。

 

「・・・?」

 

そしてその反応に首を傾げる女。

 

提督「“蒼き鋼”、ねぇ・・・。」

 

「!?」バッ

 

天龍「大人しくしてろ!」

 

「ぐえぇ・・・。」

 

乱暴に静止される謎の女である。

 

 

 

午前5時03分、霧がようやく晴れ出した頃、司令部の埠頭正面に、件の潜水艦がその巨体を現した。

 

提督「・・・伊四〇〇型潜水艦―――5500トン級の次は潜水艦か・・・。」

 

大淀「ですね・・・。」

 

青葉「スクープです!」パシャパシャパシャッ

 

一同(平常運転で安心した・・・。)

 

「あの船は・・・!」

 

龍田「~♪」

 

「!!」ビクッ

 

最早龍田恐怖症に陥りそうな雰囲気さえあるようだ。

 

提督「龍田、やり過ぎるなよ。」

 

龍田「は~い。」

 

金剛「大きな潜水艦(サブマリン)デスネー・・・。」

 

提督「そうだねぇ。排水量何気に秋月型や夕張、天龍型より多いしな。」

 

天龍「お、俺達よりでかい(※)潜水艦だと!?」

 

※マメ知識:艦の大きさ

艦艇の大きさは寸法で見られがちですが、本来は基準排水量で見るのが正解。伊400型の基準排水量は水上での数値で3530トン、あらゆる日本駆逐艦はおろか一部軽巡よりもでかいのである。因みに天龍戦没は昭和17年12月18日の事なので、そんなトンデモの存在知らなくて当然である。

 

提督「他にも凄い点は沢山あるぞ?」

 

飛龍「そうなんですか?」

 

飛龍は純粋な興味で聞いてみた。(飛龍戦没は昭和17年6月6日、やはり知ってる訳がない。)

 

提督「あぁ。地球一周半できる航続距離(3万7500海里(6万9450km))、古鷹型に匹敵する燃料搭載量(1750トン。古鷹型は1850トン)、水上航行からの潜航性能、水中での操作性、3機もの大型水上攻撃機運用能力、更に潜水艦としては規格外の対空迎撃能力、日本潜水艦技術の一つの頂点と言っていい。」

 

飛龍「凄いですね、それは・・・。」

 

提督「あぁ、だが活躍は出来なかった。完成したのは昭和20年初め、活躍するには余りにも遅すぎた。苦し紛れにウルシー環礁を攻撃しようとしたが、直前に終戦になってしまった。」

 

伊400型は同型艦18隻が計画されたが、その後の方針変更で10隻に、5隻にと順次縮小され、就役したのは結局伊400・401・402の3隻に留まった。それらも具体的戦果を挙げる前に終戦を迎えている。

 

大淀「遅すぎた新兵器、その典型ですね。」

 

提督「そうだな。」

 

日本やドイツにはそのような兵器が沢山ある。この小説でもある程度は紹介するが、調べると案外面白いかも知れない。

 

日向「語らっているところ悪いが、もやい綱掛けるぞ。」

 

提督「あ、あぁ。任務ご苦労様。」

 

扶桑「いえ、この位お安い御用です。」

 

直人は戻って来た警戒部隊を軽く労うと、埠頭に向かって歩き出した。

 

 

 

数分を経ずして潜水艦からタラップが降ろされた。そのタラップを通じて、潜水艦の艦長、千早群像が埠頭に降り立とうとしている。

 

提督「御客人に、敬礼!」

 

 

ザッ

 

 

居合わせた一同が整列し、千早艦長に敬礼する。

 

群像「出迎えありがとう。私の名は既に、そちらの部下から伝わっているようだから、貴官の名前をお尋ねしたい。」

 

提督「大本営直属、横須賀鎮守府付属近衛第4艦隊司令長官、紀伊直人、階級は元帥だ。」

 

群像「横須賀に、鎮守府?」

 

提督「その反応を見るに、どうやらこことは別の世界から来られたようだ。」

 

群像「別の・・・? どういう事です?」

 

予想通りの反応に納得しつつ、直人は続けた。

 

提督「―――まぁひとまずそれは置きましょう。まずあなたに尋ねたい事がある。」

 

群像「なんでしょう?」

 

提督「あなた方・・・『蒼き鋼』と名乗ったそうですが、あなた方は、我々の敵か否か。」

 

これは先日、沖合で正体不明艦に攻撃を受けたことによる質問であった。その艦と艦形こそ違え、特徴が類似する事を、直人は一瞥して把握していた。

 

群像「・・・少なくとも現時点に於いては、あなた方の敵ではない。」

 

その答えに直人は満足した。

 

提督「―――そうですか。貴方とは良い協力関係を築けそうだ。」

 

群像「協力、ですか・・・?」

 

提督「会議室へご案内します。お互い聴きたい事は山積みでしょうし。」

 

群像「・・・確かに、そうですね。イオナ、ついてきてくれ。副長、艦を預ける。」

 

イオナ「了解。」

 

織部「承知しました。」

 

直人はこの時、一つ率直な疑問が生まれた。

 

提督「その子は?」

 

群像「ん? あぁ、伊401のメンタルモデルだ。」

 

提督「メンタルモデル・・・艦娘とはまた違うのか・・・。」

 

「艦長!」

 

その時天龍が拘束していた女が群像の名を呼んだ。

 

群像「ん・・・?」

 

「私です! ヒュウガです!」

 

日向「!?」

 

群像「硫黄島を空けている間にメンタルモデルを作っていたのか・・・で、なぜここに?」

 

提督「・・・その辺りも含めて総合的に状況整理をする必要がありそうだな・・・天龍、その女・・・ヒュウガ、といったな、彼女も会議室に通せ。」

 

天龍「いいのか・・・?」

 

提督「最悪俺が“責任”を持つ、いいから通してくれ。」ガチャッ

 

天龍「わ、分かった。」

 

刀の鍔に手を掛けてそう言った直人を見て、天龍は承諾した。

 

提督「電、客人達を会議室に、大淀はこちらで把握している現状を、資料にして持って来てくれ。多少雑でも構わんから急いでな。」

 

大淀「はい。」

 

電「分かったのです。こちらへどうぞ、なのです。」

 

群像「あ、あぁ。」

 

提督「―――。」

 

群像の背を見送りつつ、直人は質問の内容を幾つかにまとめ出すのであった。

 

大淀「提督。」

 

提督「ん?」

 

大淀「あの方達、信用してよろしいのでしょうか―――?」

 

提督「フッ―――、いつもの事さ、信用すれど信頼せず、ってね。」

 

大淀「・・・はい。」

 

大淀はその言葉を聞いて頷いた。

 

提督「自分達は我々の敵ではない、そう断じていたなら、会議室へなぞ通さんさ。そう言う奴ほど信用が置けない。だが千早艦長は現段階での状況を言い今後については言及しなかった。今後敵になる可能性もある、と分かっているなら取り敢えず今は信用していい。」

 

大淀「・・・もし敵になったら、どうなさいますか?」

 

提督「聞くまでも無かろう。そんな事より資料、準備したまえ。私も朝食を摂りたい。」

 

鳳翔「はい、出来てますよ。」

 

いきなり現れる鳳翔に驚く直人。

 

提督「な、なんでいるの!? さっきまでいなかった筈・・・」

 

鳳翔「朝食のご用意を、提督と必要だと思われる方々の分だけ、先にご用意しました。それでお呼びに参ったという訳です。」

 

よく見ると、鳳翔は白い前掛けをしたまま来ていた。

 

提督「全く・・・俺には過ぎた部下が多いな・・・。」

 

鳳翔「私だって、提督だからお仕えしてるんですよ?」

 

提督「少なくとも嫌々ここにいる奴はいないと思うけどね。とにかく、御厚意に甘える事にしよう。」

 

大淀「そうですね、フフフッ。」

 

・・・まだいたんかい。

 

提督「―――資料、飯食ってる間に準備しといてよ?」

 

大淀「分かってます。」^^

 

この副官殿もなんだかんだ言って、艦隊で右に出る者のいない事務処理能力の持ち主てある。

 

提督「フッ・・・まぁいい、取り敢えず腹が減った・・・あ、食堂棟2階の客人にも朝食を出してやってくれないか?」

 

鳳翔「あのお二方ですね、分かりました。」

 

きっちりすれ違っていたお艦、マジ有能。

 

 

 

午前5時53分 食堂棟2F・大会議室

 

 

食事や書類準備や何やかやで、それなりに時間をかけていた直人達だったが、漸く主要人員が会議室へと集まった。

 

集められたのは、蒼き鋼から千早群像とイオナ、それとヒュウガ、更に横鎮近衛艦隊の主要メンバーとして以下の面々が揃った。

 

横鎮近衛艦隊司令官 紀伊 直人元帥

艦隊総旗艦 金剛

総旗艦補佐 霧島

工廠長 明石

サイパン航空隊暫定指揮官 飛龍

サイパン基地防備指揮官兼副艦 大淀

母艦航空部隊統括 赤城

技術局局長 “局長”(モンタナ)

技術局医療課統括 雷

同生体管理課 如月

後方主任艦 白雪 (NEW!)

横鎮広報部所属 青葉

駆逐艦部隊より 初春

 

直人が面々の正面に立ち、会議が始まった。

 

提督「さて、資料も揃った事だし、貴重な時間だ、早速始めていこう。まずここまでのこちらで把握している経緯について軽く述べておこう。」

 

この辺りを要約しておくと、午前4時半頃、大淀が沖合から異常な光線量を確認、前後して直人が起床、同時に気付いた数人の艦娘達も一斉に起床し外へ飛び出した。光の状況から転移現象とみられ、その光球と同時に霧が発生、その発生した霧の内から出てきたのが、件の潜水艦、伊401、という訳だ。

 

提督「横鎮近衛の諸君は知っての通りだが、現状この手の転移現象は南西方面の諸海域で多数観測されている。そして、その内の一つであろうと推測される軽巡に、我々は攻撃された。特徴の類似から伊401と同種の艦艇であろうと思われる。」

 

群像「霧の艦艇・・・?」

 

提督「千早艦長、今度はそちらから、こちらに来た経緯をお聞かせ願いたいのですが。」

 

群像「あぁ、分かった。」

 

そう言うと群像は立ち上がり、ここに至る経緯を説明した。

 

群像「我々は、佐賀県にある宇宙センターからSSTOロケットを打ち上げるに付き、霧の艦艇から打ち上げまでそのロケットを防衛してもらいたい、との依頼に基づき、天草灘の西を航行していた。」

 

提督(佐賀に宇宙センターはない、やはり別世界の住人か。)

 

群像「そこで我々は突然、七色に光る光球に遭遇、躱す間も無くそこに突入してしまい、気が付いた時には、既にこのサイパン島の沖合にいた。」

 

提督「成程・・・とどのつまり転移現象によってこちらに引きずり込まれた、という所ですかね・・・。」

 

その言葉に群像が問いを飛ばす。

 

群像「待ってくれ、その転移現象というのは何なんだ?」

 

提督「転移現象というのは、超兵器機関が持つパワーを、フル出力発揮させた際に起こる現象です。具体的に言いますと、超兵器機関から発せられるエネルギーが、次元境界面を屈曲させ他の次元からこちらへ、あるいはその逆に至る道を開いてしまう現象です。」

 

群像「次元の境界を、歪ませる・・・?」

 

信じられないと言った様子で、群像は声を漏らした。無理からぬことだろう、本来ならばくだらない誇大妄想で片付けられるような言葉である。

 

提督「そうです。付け加えれば、その際時空間にも影響を及ぼす、とも言われてますので、恐らくそちらが先程までいた日付と、今現在の日付は違っているのではないですか?」

 

群像「そういえば・・・」

 

イオナ「ん? うん、確かにさっきまでの時刻と、今の時刻には、2年程の差が生じている。」

 

提督「うん、それが何よりの証明、となるのかは確かとは言い難いが、現段階で最も有力な証拠が時刻の差異だね。」

 

群像「・・・。」

 

提督「それに、君達が我々の組織と艦娘達を知らない様に、我々も君達の事は知らない。これも、ここが君達の元居た世界と違うという事の証拠になるのではないか?」

 

この言葉には群像も頷かざるを得なかった。この直人の言葉は正鵠を射ていたからでもあった。

 

直人は群像が艦娘達の事を、何か珍しいものを見るかのような眼で見ているのを目撃していたのだ。丁度伊401潜の到着が、哨戒班の交代出撃に被っていた事もあるが、何より案内人として付けた電を見る千早群像の視線で彼は気付いたのだ。

 

群像「では教えてくれ紀伊元帥、今この世界では、何が起きているんだ?」

 

提督「・・・遡ること12年程前、人類は、深海棲艦と呼ばれる敵対勢力によって海洋を封鎖され、物流と通信の両面から交信を断たれた。人類は現有戦力の総力を挙げてこれを迎え撃ったが、2割から3割の打撃しか与えられず、欧州連合艦隊は全滅した。2年前に、ここにいる彼女ら艦娘達の出現が確認され、発足から9か月弱になるが、我々艦娘艦隊が設立され、艦娘達の奮闘の甲斐あって、現在は旧帝国海軍の絶対国防圏に該当する海域を手中に収めるに至った。」

 

群像「深海棲艦・・・。」

 

提督「深海棲艦自体はぽっと出の生き物に過ぎない。問題はその正体が、船幽霊の怨念が人の形と、かつての武器をその身に備えて顕現している、という点だ。」

 

この情報は、局長によるものだ。

 

2か月ほど前、局長と直人が一杯やっていた時がある。その酒の席で、局長が教えてくれたのだ。

 

 

 

局長「我々深海棲艦ト言ウノハ、船ニ宿ッタ怨念ガ顕在シタモノニ過ギン。自分達ヲ海ノ底ヘト追イヤッタ、人間達ヘノ復讐ヲ果タスタメニナ。」

 

提督「・・・だが、それは違うんじゃないか? それなら陸地に対して徹底した攻撃を加える筈だ、地形が変わろうが何をしようがお構いなしに――――それこそ、人類が滅びるまでいくらでも。」

 

局長「アァ、深海ノ連中ハホカニ目的ガアッタラシイ。最モ、私ハ興味ガナカッタガ―――」

 

 

 

群像「そんな事が・・・」

 

提督「あると言う証拠は、今この場に一人いるぞ?」

 

局長「アァ、ソウダナ。」

 

群像「!?」ガタッ

 

それを聞いた群像が咄嗟に身構えた。イオナも気付かれ難かったが全身に力を入れているのが、少なくとも直人には見て取れた。慣れている艦娘達は飄々としたものだったが。

 

提督「身構えるな、彼女は協力者だ。」

 

群像「そ、そうか・・・。では、深海棲艦、というのは人類に敵対している、という認識でいいのか?」

 

提督「事実そうであり、それに対抗すべく我々艦娘艦隊がある。艦娘は出所こそ不明だが、深海棲艦に対抗しうる唯一の存在であり、在りし日の武器、艤装を携え戦う存在だ。」

 

イオナ「という事は、ここに来る前に触接して来た、あの女達が付けていたのは、やっぱり武器?」

 

提督「そうだ。そして、海の上を疾駆するのに欠かせないものだ。」

 

イオナ「どうやって稼働しているの?」

 

提督「ブラックボックスが多いから、なんとも言えんな。」

 

と適当にはぐらかす直人である。と言ってもブラックボックスの多さは否めない為誤った事実ではなかった。

 

提督「それよりも、君達の乗ってきたあの潜水艦、あれは一体なんなんだ? 私の知っている伊四〇〇型とは随分雰囲気が違うようだが。」

 

群像「あの潜水艦は普通の船ではない。我々の世界では“霧の艦艇”と呼ばれるものだ。」

 

イオナ「私は霧の潜水艦、イ-401のメンタルモデル。イオナと呼んでほしい。」

 

提督「霧の艦艇のメンタルモデル、か・・・メンタルモデルとはつまり、操縦者との意思疎通を図る為のデバイスと考えていいのか?」

 

イオナ「私達霧は本来、演算中枢(ユニオンコア)だけで艦の全制御を演算し、実行する様になっている。私はそれらの機能を、群像達に預けているだけ。私達メンタルモデルは、人類を学習し、次のステップへと至る為に生まれた手段に過ぎない。」

 

提督「成程ね・・・霧の“艦艇”と言ったな。他にもいるのか?」

 

ヒュウガ「私もメンタルモデルよ? 霧の大戦艦ヒュウガの。」

 

随分軽い口調で答えてくれるなぁ、と半ば本気で思いつつ直人は言葉を返した。

 

提督「そもそも君はなんでサイパンにいたんだ。」

 

ヒュウガ「私が聞きたいわよ。基地で作業してたらいきなり足元にぽっかり穴が開いて、落ちた先がこの島だもの。」

 

提督「あぁ、聞いた俺が悪かった、理由なんて分かる訳も無いな。」

 

群像「だが、いてくれて助かるよ。ヒュウガがいないとイオナも整備できないしな。」

 

話が脇道に大分逸れているのをここにいる誰しもが分かっていた。それを群像も分かっていて正しにかかった。

 

群像「霧の艦艇は地球の海面上昇によって、沿岸各国がその沿岸部の領域を失うのに前後して、突如出現し、海上封鎖と通信妨害によって大陸間の連絡を絶ち、今なお我々人類に敵対している勢力、“霧の艦隊”を構成する艦艇の事だ。」

 

提督「そう考えると、深海棲艦と似たり寄ったり、という訳か。」

 

群像「そうだ。その目的が不明である点も。」

 

提督「成程・・・。」

 

直人は腕を組んで少し考えた後こう言った。

 

提督「ではそのイオナも、本来は敵なのではないのか?」

 

これは事情を知らぬ者からすれば当然の反応であった。これについて群像はこう断言した。

 

群像「イオナは味方だ。でなければ、我々が共に行動出来ている道理が無い。」

 

イオナは群像達の世界で7年前に、横須賀沖に現れたのを日本が鹵獲、極秘裏に隔離と監視の元に置いていたのだが、ある時突如群像の元に馳せ参じ、彼のものとなったのである。

 

提督「・・・違いないな。恐らくは何らかの事情もある事だろう、この件はここまでにしよう。」

 

その事情を知らぬ以上深入りする訳にも行かず、話題を変えようと直人はしていた。

 

提督「その霧の艦艇、他にもこちら側へと来ているのか?」

 

群像「イオナ、どうだ・・・?」

 

イオナ「ん・・・コンゴウ、マヤ、タカオ、ハルナ、キリシマと、多数のナガラ型軽巡洋艦の存在は感じる。」

 

群像「霧の東洋方面第1巡航艦隊主力の過半か・・・。」

 

提督「・・・霧の艦艇について、分かっている事はあるのか?」

 

直人は思いついた質問を投げかけてみた。

 

群像「それは・・・霧の艦艇の性能、などについてか?」

 

提督「敵を知り、味方を知れば百戦危うからずと言う。教えては貰えないだろうか?」

 

少し考えて群像は言った。

 

群像「・・・分かった、情報は提供しよう。」

 

提督「感謝する。」

 

群像「霧の艦艇は、艦を制御する自律型コアとナノマテリアルという物質で構成されている。」

 

提督「ナノマテリアル・・・この世界では未だ発見されていない物質の一つだな。」

 

ついでに言うと、重力を掌るとされるグラビトン(重力子)も未発見である。

 

群像「霧の艦艇と言っても駆逐艦から空母、戦艦クラスをモチーフにした物まで様々だが、ことに巡洋艦以上の艦艇には『強制波動装甲』と言うものが全体に配置されている。」

 

提督「強制波動装甲・・・艦娘達の攻撃を完全に無力化したあれか。」

 

その言葉に群像が言葉を差し挟んだ。

 

群像「ちょっと待ってくれ。君達は霧の艦艇に遭遇したことがあるのか?」

 

提督「2度ほどある。1度は本土から空路戻る際の遭遇戦、2度目は威力偵察での砲撃戦だ。相手は、5500トン級を模したと思われる。」

 

その事を話している時、金剛は余程その時のショックが大きかったのか若干俯いていた。

 

群像「・・・その艦に、赤いラインのような模様は?」

 

提督「入っていた。」

 

群像「・・・霧の艦隊、東洋方面第1巡航艦隊に所属する軽巡洋艦だな。」

 

群像は納得したようにそう言った。

 

提督「あれが霧の船か・・・我々が遭遇したどんな敵よりも手強いと感じたよ。」

 

群像「そうだ。霧の艦艇は、人類の持つ艦艇の攻撃を全て無力化する術―――強制波動装甲の発するクラインフィールドというバリア―――を有している。」

 

提督「クラインフィールド・・・金剛の砲撃を止めたあのバリアか・・・。」

 

初春「その・・・くらいんふぃーるどとやらを破る術は、ないのかのう?」

 

初春の的確な問いに群像が答えた。

 

群像「クラインフィールドは、一定のダメージを蓄積させれば消失する。あのフィールドは受けた攻撃の力を、任意の方向へと逸らす効果を持っているが、受けた時に一定量の力を蓄積する特性がある。その力を放出しない限り、いずれは自壊する。」

 

提督「だが人類の兵器では、難しいと?」

 

群像「そう、人類の持つ兵器は炸薬を用いた実弾だ。表面で爆発してしまって貫通力が無いんだ。」

 逆に言えば、現代の戦闘艦を相手取るならそれで十分なのだ。高速で突入する為に特別貫通させる為の工夫が必要である訳でもないのだ。言い換えれば、ミサイルに徹甲弾はないのだ。

群像「しかし、霧が持つ兵器であれば別だ。」

 

提督「と、言うと?」

 

群像「霧の主兵装は荷電粒子砲と侵蝕魚雷の二つだ。更に大型艦は切り札として超重力砲を装備している。」

 

提督「どれもこれも今の文明水準を超えた兵器だな・・・。」

 

群像「特に、侵蝕魚雷と超重力砲は、クラインフィールドへの効果が高い。」

 

 真面目に説明するとキャラ崩壊起こしそうなので、ここの解説は私こと作者が代行させてもらう。

侵蝕魚雷(侵蝕弾頭とも言う)というのは、弾頭部にタナトニウムと呼ばれる未知の物質を用いる弾頭で、空中を飛翔する事も水中を駆け巡る事も出来る。このタナトニウムという物質は、常に自壊を続けており、物質からは重力子が放出されている。

この侵蝕魚雷が対象に着弾した際、『対象の構成因子を崩壊させる』ことによって原子、またはそれ以下の単位の粉塵に変えてしまう。爆発は起こるが粉塵爆発によるものである。

 一方の超重力砲は、重力レンズと呼ばれる機構を用い、重力子を収束して発射するエネルギー兵器である。莫大なエネルギーを伴って放たれるその威力は圧倒的であり、例え霧であろうとも壊滅的打撃を与えうる。

 侵蝕魚雷はクラインフィールドに命中すると、タナトニウムによる侵蝕を中和してしまうが、そのエネルギーの一部を溜め込む為、撃ち続ければいい。しかし侵蝕弾頭の数にも限りがある上、消耗戦になれば不利となる場合もある。だが超重力砲であれば、一撃でフィールドが溜め込める範疇を超えるエネルギーを叩き付け、エネルギーを飽和、崩壊させることが出来ると言った具合である。

群像が霧の兵器なら対抗出来るとしたのは、この性質が故である。

「成程、分かりやすい説明だ。」

 

「それならいいのだが・・・。」

要点を得ただろうかと不安そうに控えめな返事をするに直人が言葉を投げかける。

「我々は貴官らや霧の艦隊と称される者達が、どこへ行き、何をする為の存在なのかは分からない。

だが、本来我々は出会う事の無い筈の存在の筈だ。超兵器機関はその因果を歪め、こちら側の世界にその“現象”を析出させてしまう。

 それは確かに多くのものを齎すが、同時に多くの得難いものを失う事にも繋がってきた。そして今また、それが繰り返されようとしているし、事実彼らは我々に牙を剥いたと言える。」

 

「仰る通りだ。」

 

「―――これはあくまでも提案だが、貴官ら蒼き鋼と我ら横鎮近衛艦隊、共通の敵に対し、一時的にでも手を携え、共に戦う事は出来ないものだろうか?」

直人のその問いかけに対して群像は慎重に言葉を選んでからこう告げた。

「・・・目指すべきところが同じである限りは無論、そうする事は可能だと思う。俺達も、この世界に留まると言う訳には行かない。」

 

「では、交渉成立、と言った所か。」

直人の言葉に群像が一つ頷いた後、彼はこう口にした。

「だがそうすると、当面の問題は貴艦隊の武装なのではないか? 現状攻撃が通らないと思うが?」

 

「その点は考えないでもなかったが、どうしたものか・・・。」

そこへと口を挟むのはイオナである。

「紀伊直人、貴方の艦隊が装備している武装は、ナノマテリアルで構成されているのではないの?」

 

一同「・・・?」

イオナの一言に、その場が凍り付いた。その例外なども存在し得なかった。

提督「へ?」

 

群像「どう言う事だ、イオナ?」

 

イオナ「艦娘の一団が接触してきたあの時、その武装から微弱だけれどナノマテリアルの反応があった。多分、ナノマテリアルを含有した合金だと思う。」

 

ヒュウガ「へぇ・・・?」

 

提督「そうだった・・・のか・・・?」

 

結果的に言ってしまえば、初めて発覚した事実なだけに、直人も唖然となっていたのだった。

 

 

 

7時58分 第2資源倉庫

 

 

ガラガラガラ・・・と、資源倉庫の鉄扉が開かれる。

 

 

提督「ここが鋼材倉庫だ。」

 

直人達は鋼材を納めてある第2資源倉庫に来ていた。因みにこの時の資源倉庫は5つある。

 

ヒュウガ「へぇ、結構備蓄しているのね。」

 

大淀「現在の鋼材は9000トンきっかりあります。」

 

ヒュウガ「ふーん・・・確かに、ナノマテリアルの感じはするわね。取った形態が違うだけって所ね。」

 

提督「そうだったのか・・・。」

 

ヒュウガ「・・・まぁ、ナノマテリアルが発見されてない、という事なら止む無し、か。」

 

無理矢理納得させたヒュウガである。

 

ヒュウガ「ところでその刀からもナノマテリアルの感じがするんだけど。」

 

提督「え? これは深海棲艦の武装の残骸を浄化して――そう言う事か・・・。」

 

ヒュウガ「深海も同じような鋼材を使っているという事ね・・・。」

 

大淀「確かに、性質としては似ているのかもしれません。」

 

提督「ところで、艦娘達の砲弾にタナトニウム、だったか? それを使うと言っていたが、そもそもこの世界にはない、どうするつもりなのか聞かせて貰おうか?」

 

ここへと来る直前、ヒュウガは戦力強化案として、艦娘の使用する砲弾を侵蝕弾頭とする提案を出していた。しかし侵蝕弾頭の炸薬となるタナトニウム自体この世界には存在しないのだ。

 

ヒュウガ「練成するしかないでしょうねぇ。私達霧は、基本的に補給無しでは戦えない。でもタナトニウムは練成する手段がある。素材と方法については企業秘密だけどね♪」

 

提督「・・・まぁいいだろう。」

 

ヒュウガ「あらぁ? 信用してくれないのかしら?」

 

提督「信用するさ、妙な気さえ起こさなければ、な。」

 

妙に険悪な雰囲気になってきた。

 

ヒュウガ「妙な気を起こしたら?」

 

提督「・・・どうやら、霧とやらを相手取るに人間一人では力不足と言いたそうだな?」

 

ヒュウガ「そうねー、やるなら私じゃなくてイオナ姉様とになるだろうけど、貴方には勝てないわよ。」

 

提督「・・・舐められたものだな。天と地の狭間には、お前達の思いもよらない事があると言う事を、その身を以って知る事となろうさ。」ゴゴゴゴ

 

ヒュウガ「あのコンゴウが相手でも?」

 

提督「この世界に“金剛”は二人も必要ない。霧が敵対する以上、霧の勢力がこの世界から去るまで、俺は奴らを徹底的に追い詰めにかかるだろうよ。」

 

ヒュウガ「・・・。」

 

提督「・・・。」

 

霧の巡洋艦の攻撃を、軽々と防ぎ止めて見せた直人と、それを知らぬヒュウガ。視線がぶつかり合う。

 

ヒュウガ「・・・なら、やってみる事ね。貴方に興味が湧いちゃったわ。」

 

ヒュウガはそう言うと、直人はぶっきらぼうに言葉を返した。

 

提督「フッ―――そうかよ。」

 

 

 

午前12時17分 食堂棟1F・食堂

 

 

提督「うーん・・・」グリグリ

 

ざるそばを笊の上でこねくり回す直人。

 

※サイパンは常夏です

 

提督(霧の艦艇か、中々強敵だった。だがあれに改修を施した程度の艦娘で、果たして勝てるのか・・・?)

 

直人はそう考えずにはいられなかった。

 

鳳翔「提督、どうされましたか?」

 

提督「・・・え? あ、いや、なんでもない―――」

 

鳳翔「嘘おっしゃい、考え込んでいることくらい分かります。」

 

提督「っ・・・はぁ、やれやれお見通しか。」

 

流石だ、そう思う直人である。

 

提督「そりゃ、考えてしまうさ。霧の連中はかつての超兵器並みにヤバい相手のようだ。そうなると、艦娘たちで果たして対抗できるのか? 航空攻撃の効果は? 砲撃が本当に通用するようになるのか? 不安要素は山ほどある。」

 

鳳翔「提督・・・。」

 

そう、この戦いには、あまりにも不安要素が多い。

 

他にも敵がどう動くのか、受動的になるべきか能動的に動くべきか、蒼き鋼と名乗る彼らは信用出来るのか、裏切られた時の対策は?考える事は山積みである。

 

提督「そんな戦場に彼女を送り出すのは、果たして是とされることなのか・・・。」

 

「それは、後世の歴史家が考えることだ、提督。」

 

鳳翔「ふふっ、そうですね。」

 

直人にそう言ったのは、木曽だった。

 

提督「木曽・・・。」

 

木曽「提督は俺達を信じてくれればいい。そうすれば俺達はそれに応える。今までそうだった様に、胸張って号令すりゃいいのさ。」

 

天龍「そうそう、そんなくだらねぇことを考えてるなんざ、似合ってないぜ?」

 

提督「そうかい。」

 

木曽「そうさ、敵に勝つための改良ならいくらでも受ける。それで勝てるなら御の字なんだからな。」

 

提督「―――ふっ、そう言われてしまうと、こんなことを考えていた俺が馬鹿みたいだな。今まで出来ていた事を今更出来ない筈も無かろうにな・・・。」

 

木曽「そうとも、俺達に任せてくれ。任せっきりでなくともいい、時には助力を乞うだろう。それが、俺達の艦隊だろう?」

 

その一言に、彼は吹っ切れた。その言葉こそは、かつて直人が大淀に語った言葉であったからだ。それを思い出した時、直人の心から迷いは消えた。

 

提督「そう、だな・・・ありがとう、おかげで吹っ切れた。」

 

木曽「なに、俺は何もしてないさ。」

 

提督「・・・そうか。」

 

直人はそれだけ言うと、ざるそばをワサビたっぷりで食べだすのだった。

 

 

その日はクリスマスイブであったが、ささやかなパーティーくらいは催すつもりでいたものを、その日一日中、艦娘の対霧装備の開発/製造/装備までを突貫で行った為、まるっと潰れてしまった。と、彼は日記にそう記していたと言う。

 

 

12月25日午前7時28分、横鎮近衛艦隊の全艦と、蒼き鋼の代表者とが、ブリーフィングの為会議室に集った。

 

提督「まず最初に、我々横鎮近衛と、千早群像艦長の蒼き鋼が、共戦関係になったことを皆に伝えておく。今回からの一連の霧の艦隊に対する作戦行動については、主に伊号401潜を軸として行う。」

 

金剛「では、今回のワタシ達のミッションは陽動作戦、デスカー?」

 

提督「そうだ、目一杯暴れて貰いたい。但し主軸となるのは伊401、イオナであって、我々でない点は留意して欲しい。」

 

天龍「つーことはあれか? 俺たち19戦隊は留守番か?」

 

提督「あぁ、司令部防備の予備兵力として残留してもらう。航空部隊に関しても霧の艦艇への攻撃は禁止する。」

 

この一言に空母の艦娘達が騒然となる。

 

蒼龍「えぇっ!?」

 

加賀「理由を、聞かせて貰えるかしら?」

 

飛鷹「そうよ! そんな事を命ずれば航空隊の士気に関わるわ!」

 

イオナ「霧の艦艇に、通常の弾頭による航空攻撃は無効。紀伊直人は航空機に対霧装備を持たせなかったと記憶している。」

 

隼鷹「なっ・・・!」

 

イオナ「それに、霧の艦艇は対空用レーザーターレットを多数装備している艦もある、ナガラ級にも装備されている。だから航空攻撃では、相手の演算を上回らない限り、ダメージは望めない。」

 

提督「そういうことだ。幸いなことに―――他の艦隊にとっては不幸なことに、霧の艦隊と深海棲艦が一隊を組んで航行している姿も相当数目撃されている。空母部隊には周囲の深海棲艦を撃滅してもらう。だが霧の艦艇への攻撃は厳禁とする。これを周知徹底させよ。いいな?」

 

赤城「は、はい・・・。」

 

直人はそう言うが空母部隊は些か気乗りがしない様子だった。そこへ直人はこう付け加えた。

 

提督「なに、君達が行うのはいつも通りの戦闘だ。深海棲艦にだって大物はいる、違うか?」

 

加賀「!」

 

提督「これで納得してくれ。」

 

加賀「・・・えぇ、分かったわ。」

 

結局空母部隊はその言葉で納得せざるを得なかった。

 

提督「では状況を説明する。」

 

そう言うと直人が指示棒を伸ばし、背後の黒板に貼った地図を全員に見えるように立ち位置を変えた。

 

提督「横鎮司令部からの連絡によると、今日午前0時18分頃、マーカス島(東京都南鳥島のこと)東南東沖約200km付近に、所属不明の重巡洋艦1隻と軽巡クラスが4ないし5隻、それと深海4個水雷戦隊と輸送船級数隻を伴った艦隊が北西方向に航行しているのが発見された。これに際し、我が艦隊に対して要撃命令が山本総長の名で出た。」

 

大淀「従って我が艦隊は艦隊を編成して抜錨し、敵の予想進路上に布陣しこれを待ち構える、という算段です。」

 

提督「これに充てる艦隊だが、艦隊行動開始最初の作戦ということで、艦隊を新たに編成し直した上で出撃する。」

 

 

ザワザワッ・・・

 

 

提督「あぁ、合同行動訓練は往路でやってもらう、悠長にやっている時間はないからな。」

 

金剛「進軍速度が落ちてしまいマース。」

 

提督「構わない。我々は最大速力で昼夜兼行急進し、翌朝、大島と房総半島の中間地点に到達する敵を待ち伏せる予定だ。俺も内火艇で出動してカフェイン補給ドリンクを輸送する。徹夜になるぞ。」

 

金剛「そういうことなら了解デース。」

 

そういって金剛が言葉を閉ざすと、直人は作戦概要を説明し始めた。

 

それは大胆にして緻密なものだったのであるが、そのことは実地が証明してくれるであろうから今は割愛する。

 

提督「では編成を発表する。」

 

編成表は以下の通りである。

 

 

第1水上打撃群

旗艦:金剛

第3戦隊第1小隊(金剛/榛名)

第2航空戦隊(蒼龍/飛龍)

随伴:羽黒・摩耶・筑摩

第1水雷戦隊

川内

第6駆逐隊(響/雷/電)

第11駆逐隊(初雪/白雪/深雪)

第21駆逐隊(初春/子日/若葉)

 

第1艦隊

旗艦:扶桑

第2戦隊(扶桑/山城/伊勢/日向)

第4戦隊(高雄/愛宕)

第11戦隊(大井・木曽)

第3航空戦隊(千歳/千代田)

随伴:最上・加古

第2水雷戦隊

神通

第2駆逐隊(村雨/五月雨/夕立)

第8駆逐隊(朝潮/大潮/満潮)

第18駆逐隊(陽炎/不知火/黒潮)

 

第1航空艦隊

旗艦:赤城

第3戦隊第2小隊(比叡/霧島)

第12戦隊(五十鈴/由良)

第1航空戦隊(赤城/加賀)

第6航空戦隊(飛鷹/祥鳳)

随伴:妙高・多摩

第10戦隊

球磨

第7駆逐隊(漣/潮)

第27駆逐隊(白露/時雨)

綾波(19駆)・叢雲(12駆)

島風

 

サイパン島防備戦隊

旗艦:鳳翔

第18戦隊(天龍/龍田)

第50航空戦隊(鳳翔)

第7水雷戦隊

名取

第22駆逐隊(睦月/如月/皐月/文月)

第30駆逐隊(長月/菊月/三日月/望月)

 

 

直人はこれまで必要に応じて1隻単位で編成を組み替えていた方針を一転させ、戦隊別の固定編成を8割程度導入して、戦隊別に組み替える方針に転換したのである。

 

そして、これまで艦形を問わず全艦投入していたが、睦月型・天龍型を後方に下げた配置にしたのも大きな変更点である。

 

睦月「鳳翔さんとお留守番かぁー・・・。」

 

睦月は何やら嬉しい様な残念な様な感じで言う。

 

鳳翔「私が旗艦ですか・・・」

 

冗談ですよね? という目線が飛ぶが、今回直人はスルー。

 

島風「空母の護衛かぁ・・・」

 

提督「重要な任務だし、対潜装備や対空装備をきちんと積んでる船も多い訳じゃない、頼む。」

 

島風「・・・了解!」

 

島風は竣工時の武装に於いて、その対空火器の数は卓抜していた。秋月型とは程遠いものの、その弾幕は駆逐艦にしては破格である。この点を直人は買ったのだ。

 

扶桑「私が、主力艦隊の旗艦、ですか・・・?」

 

提督「不服かい?」

 

扶桑「いえ、そう言う訳では・・・ただ、驚いたもので・・・。」

 

提督「扶桑は金剛には及ばないもののかなりの経験を積んでいる。その判断力を、振るって欲しい。」

 

扶桑「・・・分かりました。この扶桑、自らの名に懸けて、任を全うします!」

 

金剛「なんで前線部隊が第1艦隊なんデスカ・・・。」

 

提督「第2艦隊編成は検討してみたが、艦艇数が足りない、割り当て上勘弁してくれ。」

 

金剛「リ、了解デース・・・。」

 

現状動かせる艦が68隻では致し方が無かったのだ。

 

提督「また便宜上編成に組んだ飛龍は留守番だ。まだ艤装が無いからな。」

 

飛龍「その分、留守はお任せください。」

 

提督「期待させてもらう。雪風は同様の理由だが編成は控えさせてもらった。今後折を見て編成するからそれまで待っていてくれ。」

 

雪風「はい! でも、何をしていればいいでしょう?」

 

提督「!」

 

陽炎「そうねぇ・・・大淀さんのお手伝いでいいんじゃない?」

 

大淀「あら・・・。」

 

しっかりした姉と生真面目な妹、いい姉妹だと心底思った直人と大淀だった。

 

陽炎「ね、司令官?」

 

提督「そうだねぇ・・・陽炎の言を是としよう。何なりと手伝ってやってくれ。」

 

雪風「はい! 頑張りますっ!」

 

提督「で、だ。」

 

直人が入口の一角に立つ明石に向き直る。

 

明石「?」

 

提督「準備は万全か?」

 

明石「はい、提督用の舟艇に、武器弾薬食料と、カフェインドリンク、バッチリです!」

 

提督「呼びつけた理由も分かるな?」

 

明石「私も行くんですね・・・。」

 

提督「そうだ。今回は短期決戦だ、鋼材は必要あるまいが・・・戦闘続行が困難になった時は、各員速やかに離脱すること、分かったな!」

 

一同「はい!」

 

群像「了解した。」

 

提督「うむ。では作戦名“制”を発動する。第1水上打撃群・第1艦隊・第1航空艦隊、出撃!」

 

今度は艦娘達から応答はなかった。代わって艦娘達が一斉に立ち、挙手の礼の為に踵を合わせる音が響いた。

 

提督「健闘を祈る。」

 

 

 

後に、3つの作戦を合して『制号作戦』と呼ばれる事となる対霧戦闘が始まった。開始時刻(艦隊出港時刻)は、西暦2052年12月25日午前9時03分であった。




ゲストシップ紹介


伊号第四〇〇型潜水艦 伊401―mist―

装備1:533mm(8門)魚雷発射管
装備2:侵蝕弾頭魚雷
装備EX1:超重力砲―ヒュウガMOD―
装備EX2:ミサイルVLS発射機構

霧の潜水艦伊400型の1隻。
原作に於いてある艦の命を受けて千早群像の元へと来た(その際日本側に秘密裏に鹵獲された)霧の潜水艦級。
以前沈めた霧の大戦艦ヒュウガ(当時東洋方面第2巡航艦隊旗艦)の残骸から剥ぎ取った超重力砲を装備しており、潜水艦としては規格外の戦力を持つ。
本来このタイプはVLSは装備しておらず、対空防御用レーザー機銃10門と各種魚雷を運用可能な魚雷発射管8門、近接防御用14cmアクティブターレット1門以外の装備はない為、大型なタイプの霧の艦艇と比べると見劣りしてしまう。が、諜報能力に優れている。しかし401は千早群像の指示で大幅に攻撃面の強化が行われ、ミサイルVLSや超重力砲の装備を行っている。
メンタルモデルも生成しており、他の霧の艦と異なり、自らの名の他に「イオナ」と名乗っている。
作中に於いてはアルペ世界線から転移現象によって、作中世界線のサイパン島のすぐ沖合に飛ばされ、相互利益の一致から群像を介して共闘の盟約を結ぶに至る。


千早群像

伊401――イオナ――の艦長であり、蒼き鋼のリーダー。
冷静沈着で瞬間的な思考に秀でる。
ことイオナの戦術面での行動を支えており、彼が司令塔たるが故に幾多の窮地を潜り抜けることが出来たとも言える。
一方で相手の策や思考を看破する能力も高く、一見して完璧に見えるが、火器管制担当の杏平によると弱点もあるようで・・・?
「今の世界を変える力が欲しい」という一念でイオナに乗り込んだ後、各方面を転戦する事になる。
作中ではイオナやクルー共々転移現象に巻き込まれ、蒼き鋼の代表者として横鎮近衛との交渉を受け持ち、共戦の盟約を交わした。

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