異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、最近再びWoWS熱が再燃してきた天の声です。

青葉「この提督にだけは使われたくありません、青葉です。」

ヒデェなおい。

青葉「だってこの間古鷹(ティア5)で特攻してたじゃないですか。」
↑ティア6で実装中

・・・ティア5でティア7戦場飛ばされたとはいえ弁解の余地が無い。

※コアな話なのでスルーでいいです

さて、話す事がありません。

青葉「無いんですか!?」

うん。無い。かといって史実の話は作中触れてないのでNG。SN作戦?今度ね。

青葉「アッハイ。」

なので今回からは作中設定に関する放談や小ネタ設定なんかを公開して行こうかと思います。

その記念すべき(?)1回目は、艦娘建造の補足です。

青葉「え、前に説明しましたよね?」

うん、どちらかというと小ネタに近いかな。

以前解説した時に、「まず最初に艦娘の基本型艤装を作り、それを触媒として肉体を“召喚”する」という趣旨の説明をしていたと思います。

実は厳密に言うとこれは誤りです。

召喚とはあるものを呼び出すと言う意味で正しいように思われるかもしれませんが、証人を法廷に召喚する、という単語の用法に見られるように、存在するものを呼び出すと言う点で間違っています。

ではどうしているのか、これは降霊によって呼び出しています。

文字である程度察した方もいるかもしれませんが、すなわち艦に宿っていた魂、ここで言うのは艦そのものは勿論それに乗り込んでいた人々も含めた魂の複合体の事ですが、その複製を降霊儀式によって現世に顕現させた上に受肉を施したものが、即ち艦娘なのです。

青葉「漢娘ではないですよー、乗組員の人達皆男の人ですけど!」

ナイスフォロー。解体する際も艤装のみ解体し艦娘そのものが残るのにも理由がありまして、まず受肉している時点で魂は消滅しない上、艦娘には核とも呼べるものがあります。これは艦娘の心臓がそれに該当します。これが止まらない限り、艦娘は“艦娘”であり、純粋な“人間”とは呼べません。

しかし核があっても艤装が無くては無力なのは事実、その艤装にも核があり―――もっともこの艤装側の核が艦娘側の核のオリジナルな訳だが―――、これが同一の核同士で共鳴した時に限って初めて艤装は使用可能になります。但し例外が無い、とは断言しません。

青葉「一体どういう事なんですか・・・。」

どういう事なんでしょうね。

統括すると、「艦娘は有り体に言って召喚、厳密に言って降霊儀式によって、艦とそのクルーの魂の複合体が呼び出され、艤装の核を複製(コピー)して心臓とし受肉したもの。」となります。

その本質は人間に限りなく近いながら一方では限りなく遠いと言う、一つの肉体に対極の特質を持っています。

青葉「それが紀伊司令官が、艦娘の扱いは人道に則るべきと主張する根拠でもある訳ですね。」

正解だな。たとえどのような者でも人は人だ。「人は石垣、人は城」と言われるように人それぞれが非常に重要なのであり、また人心と言うものも非常に大切な訳だ。艦娘艦隊はそれそのものが砦であり兵士で、堅牢な城壁であり防衛兵器である、と形容出来る訳だ。

青葉「“人は石垣、人は城、人は堀、情けは味方、仇は敵なり。”武田信玄の名言ですね。」

そうだね、堀を幾重に巡らし鉄壁の石垣を築き強固な城塞を造り上げた所で、人を大事にし人の心を大事にしなければ大事を成す事は出来ない、という事だな。

さて、いよいよ物語は序盤の佳境へと突入していきます。御覧下さい。


第1部9章~熱狂的再征服(レコンキスタ)

劇が開演されてみると、SN作戦は、予想よりも早く進展していた。

 

AL方面では、ベーリング海方面と中部太平洋方面から敵を誘致する事に成功し、目下アリューシャン列島線を舞台に大立ち回りを演じている有様。

 

MI方面では南西と北西からの2方向から突入した部隊によって、11月13日にミッドウェー島が、AL方面に戦力が誘致されて手薄“だったにしても”異様な速さで落ちた。

 

南方海域では、一時危惧されたリンガ・パラオ艦隊のダレス海峡突破を、11月6日に無血で達成しその勢いでポートモレスビーを攻略、ソロモン列島線も敵の抵抗なく制圧、11月17日までの間に100余りの島々とニューギニア北岸・南東部を解放し、ポートモレスビーで孤立し虜囚同然に扱われていた人々を初めとし、豪州北端部も併せおよそ10万人の人々を救出した。

 

 

 

2052年11月15日(金)10時31分 中央棟1F・無線室

 

 

提督「・・・敵は出てこないのか。これだけ制圧されて。」

 

直人は無線室の壁にかけられた地図を見てそう呟いた。

 

大淀「些か奇妙ですらありますね。」

 

隣に立つ大淀も言った。

 

普通これだけの範囲を制圧されて抵抗もしないのは、少し考えれば奇妙なのだ。現状反撃も無く、AL方面以外では1発の砲弾も交わされてはいない。しかしどの部署も、予想外の勝利に沸き立っている。今この形だけを見れば、賀美二佐の言った発言も間違いではない様にも見え、一部にはその評価を見直す向きまで見え始めた。

 

提督「ポート・モレスビーはダレス海峡を挟み、豪州北部を望む要衝だ。ラバウルも豪州とニューギニアの連絡を確保/維持するには欠かせぬ拠点だし、ソロモン諸島は航空戦を優位に運ぶための根拠地として大いに利用できる筈。ミッドウェーやウェーク島だってそうだ、北太平洋での航空戦を有利に運ぶだけでなく、ハワイへと進撃する為の拠点としてこれ程好都合な基地は無い。」

 

海峡を望む基地という事は、ポート・モレスビーから敵が出撃すれば容易に海峡封鎖が可能であることを指し示す。しかもダレス海峡は水深が浅く幅も狭い為潜水艦の探知さえも容易である。即ちダレス海峡が無血で突破できるなど、ましてモレスビーを無血占領できるなど、本来であれば画餅で済まされるところだ。

 

大淀「そして、それほどの戦略的意義を持つ基地を無抵抗で明け渡す訳がない、という事ですね?」

 

提督「お? 分かって来たじゃないか。流石俺の副官だな。」

 

大淀「理詰めの大将の副官ですから。」

 

その理詰めの大将としては、この状況は芳しいものでは無い。

 

提督「さて・・・どうしたものか、これは・・・。」

 

姿を現さない敵部隊、大本営ではこれを半ば当然のものとして扱っていた。当然であろう。SN作戦立案者たる賀美茂徳は、自分達が大挙して行けば、敵は大慌てで逃げ惑うと考えていたからある。

 

提督「大本営や一部の提督共の中には、長駆してフィジー・サモアを攻略すべしとの声まである。あまり、いい傾向ではないな。」

 

大淀「そうですね、現状でも些か敵戦力の精査が不十分な様に思われます。」

 

 大淀の言う敵戦力の大小を精査する事は、戦略面で大なる意味を持つ。そこにどれだけの敵がいて、それを打ち破るのにどれだけの準備が必要か分かるからだ。物資や戦力の準備も戦略の一環である以上、そうした情報を集め、敵戦力を見極めるのも戦略の内である。

もっともその偵察任務を、本来であれば直人ら横鎮近衛艦隊が担う筈だったのだが・・・。

 

提督「これは・・・誘い込まれているな。」

 

大淀「えっ?」

 

提督「これは敵の罠だ。この地図自体が、敵の思惑の内なんだ。」

 

大淀は改めて地図を見返す。

 

 味方はいまガタルカナル・ツラギへ上陸している。一部の部隊は、ニューカレドニア方面警戒の為の哨戒基地として、ガタルカナル南東・ヒウ島付近へと向かっている。恐らくはヒウ島付近を拠点に動く事になるだろう。

北はアリューシャン、東はミッドウェー、南はガタルカナル、その戦域は広大だった。

 

大淀「・・・成程。」

 

大淀もこの時初めて、その危険性を悟った。

 

 

 

11月19日11時32分 軍令部第二部長執務室

 

 

大迫「兵士民間人併せて40万人の90日分の食糧。100種に上る食用植物の種子、大規模基地建設用機材6ヶ所分、飛行場設営隊8個、艦娘艦隊への30日分の補給及び補修用資材、並びに艦娘艦隊用基地資材4カ所分。及びこれを輸送する船舶。解放地の維持と兵士住民を養い、恒久的に“飢餓状態”から解放するには、最低これだけ必要である。なおこの数値は順次大きなものになるであろう?」

 

 これは前線指揮官の一人から、大迫一佐の元へと送られて来た上申書の内容である。解放地域の住人たちはまともな食糧にも事欠く有様であり、医療品や衣服なども枯渇していると言う有様であり、現地に不足しているだけならまだよいが、自軍にさえ足らない物資や食料、弾薬その他様々な物を要求してきたのである。

元々遠征軍の手持ち物資さえそれだけの人数分の需要を長期に渡って満たすような量の物資は無く、当面どうにかやっていけるであろう分の物しかなかった。当然のことながら、物資の応援要請が大本営、特に第二部宛に次々と送り付けられていたのである。

 しかもその作戦構想当初から、彼らは思い上がった事に「解放軍」を称していた。この事自体が、彼らを泥沼の補給線へと引きずり込む禍根を生んでいた。敵から土地を奪い返し、人々を解放するという事は、“今現在の解放地域の人々が置かれている状況から”も“解放”するという事を、図らずも意味したからである。

 

副官「40万人分の食糧と言えば、穀物だけで350万トンになります。自衛三軍の全食糧倉庫を空にしても、穀物は74万トンしかありません。」

 

 副官が大迫にそうは言ったものの、大迫一人にどうにか出来るような状況ではそもそもなかった。

それどころか民間の穀物貯蔵庫からもかき集めた所で、市民の生活を考えれば軍の穀物庫に加え官民も合わせて精々300万トン、無理をして漸くこれに50万トン増やせるかどうかという所が関の山であった。

 

大迫「分かっている。今回の補給計画は私が立てたんだ、こんな予定外の消費がどういう結果を齎すか、他の誰よりも私が知ってるよ。全く馬鹿げてる。」

 

 大迫は嘆息した。軍令部第二部は、補給や調達その他の後方業務が主体となっている部署である。その部長でもあり、後方主任参謀である彼の責任は重大だった。

 

大迫「こうなったら直接、総司令官永納海将にねじ込むしかあるまい。」

 

そう言って大迫は立ち上がり、足早に自身の執務室を出た。

 

 

~軍令部総長室~

 

大迫「閣下。我が軍は危機に直面しています。それも、重大な危機に。」

 

副官に発した言葉通り、大迫一佐は総司令官にねじ込む為に総長室に来ていた。

 

永納「各部隊からの上申書の事か? 些か過剰な気もするが、出さない訳には行かないのではないかね?」

 

大迫「軍倉庫にそれだけの物資はありません。生活必需品や医療品もです。」

 

 上申書には、そう言った生活必需品や医薬品、特にキニーネ(マラリアの特効薬)が切望されていた。特にポート・モレスビーに於いてはマラリアの感染者が一番多く、早急に対策が望まれる状態であった。

しかし国内に流通していた物資にした所で、民間でも海外から物が入ってこないが故に国内生産分で賄おうと自給率向上に努めていたものの、供給は軍に比重が置かれていた為、物資が足りていないのが現状だった。

余談だが、そう言った物不足から安定して生活する為に軍に入った者も多い訳だが、海外との貿易に日本国民が如何に依存して来たか、そのツケが、今になって回ってきた次第であった。

 

永納「政府に要求を出せばよかろう。」

 

大迫「そうすれば、多分送ってくるでしょう。最もそれが前線に届けばよいのですがね。」

 

鋭く永納総長を見据えて大迫一佐は言う。

 

永納「どう言う意味だ?」

 

大迫「敵の狙いが、我が軍に補給上の過大な負担を強いる事にあるという事です閣下。」

 

 これは太平洋戦争中でも問題にされた点であった。

ソロモン諸島はおろかマーシャル諸島にまで拠点を構えていた日本軍は、補給物資の輸送に過剰な労苦を強いられ、更に輸送船を輸送路上で次々と撃沈されている。

さらに戦争継続に必要な物資を南方資源地帯に頼っていた為、そのシナ海航路でも輸送船が沈められ、挙句本土を干乾しにされる有様であったことは、ある程度戦史を知る者には周知の事と思う。

補給もままならないという事ではねつけられたハワイや、同じ理由で何度か陸軍に拒絶されたミッドウェーの攻略作戦の経緯からして、陸軍が海上輸送能力の不足を理由に島嶼部に対する補給能力が低い事は自認する所であったらしい。が、フィジー・サモアには行くと言い出していた辺り、限界を見失ってしまった上層部の悲哀がそこには存在する。

 

賀美「つまり? 敵が我が軍の補給線を脅かさんと試みるであろう、それが、後方主任参謀の御意見なのですかな?」

 

 永納海将の隣に立っていた賀美作戦参謀が大仰にそう言う。この程度は補給関係者なら誰でも危惧する事で、実際チューク諸島方面に対する封止に回した艦娘/海自軍潜水艦部隊には既に多大な損害が出始めているのだ。

 

大迫「うむ。」

 

賀美「しかし、解放地域までの海域は我が軍の勢力下にあります。そう御心配には及ばないと思いますが。あぁ、護衛は勿論付けますがね。」

 

軽くあしらう様に賀美二佐は言う。彼には現実が、まるで見えていない様に、大迫には見受けられた。

 

大迫「・・・。」

 

護衛云々の前に撤退を指示すればどうだ、そう言いたかったが、それは彼の職権を逸脱している、言い出す事は出来なかった。

 

大迫「分かりました。この上申書は永納海将の許可済みという事にさせて頂きましょう。では。」

 

彼は永納海将が卓上に置いていた認可用の判を自ら押し、踵を返して勢いよく総長室のドアを潜り立ち去った。

 

大迫(氷空、駿佑、和征、無事に戻れよ。こんなふざけた戦いで死ぬな!)

 

大迫一佐は、そう思わずにいられなかった。

 

 

 

提督「大迫さんも今頃相当苦慮しているだろうな・・・。」

 

大迫一佐がねじ込んでいたころ、直人も遠く離れた親友をおもんばかっていた。この作戦が補給に多大な負担をかける事は彼にもよく承知されるところで、その分軍令部第二部

 

大淀「我が艦隊は、どうしますか?」

 

提督「・・・全艦隊臨戦態勢、沖合へ待機しいつでも出られるようにしておけ。」

 

直人は全艦隊に出動用意をさせる事を選択した。

 

大淀「分かりました。」

 

提督「急げよ、敵に策士がいれば、あまり時間は無いぞ。」

 

直人はいよいよ状況が最悪のものになりつつあることを実感していた。その声にも、気付かぬ内に緊迫感が籠っていた。そして彼は、敵に策士がいるという事も、何となしに看破していたのだ。

 

大淀「了解しました。」

 

大淀は執務室から退去する。

 

提督(このままでは―――まずい。)

 

直人はひたすら、危機感に苛まれ続けていた。

 

 

 

この頃前線部隊では、ようやく事態を把握し始めている頃であった。

 

前例のない大遠征作戦という事もあり、各部隊は熱狂的雰囲気を呈し、驚異的スピードで進軍を続けてきた。誰しもが気の昂りを感じていたのだ。その様な雰囲気の中懸念はいつしか消えていたかに思われた。

 

しかしその興奮状態から徐々に醒めてくると、特に指揮官達は誰しもこう思い始めていた。

 

 

『なぜ敵は出てこないのか』と――――――。

 

 

11月20日14時27分 ガタルカナル沖・ヘリ空母「ほうしょう」

 

 

北村「二佐、高雄艦隊の小澤海将補に映像通信を。」

 

オペレーター「あ、はい。」

 

北村海将補は、ニューブリテン島付近にいる、高雄艦隊司令官小澤海将補に通信を繋いだ。

 

北村「小澤くん。どうやら元気そうじゃな。」

 

小澤「おぉ、北村海将補ですか、如何しましたか?」

 

北村「なに、年寄りがお節介ながらも、一つ君に注意を呼びかけようと思ってな。こうして連絡している訳じゃよ。」

 

小澤「注意、ですか?」

 

少々訝しむ小澤海将補。

 

北村「儂の経験から察するに、これは敵の罠に現在進行形で嵌っていると見た方がいいかも知れん。」

 

小澤「敵の罠・・・? すると、敵は我々を飢えさせるつもりだと言われるのですか? 期を見て攻勢に出る、と?」

 

小澤海将補は、北村海将補の言わんとする所を全て察すると共に、現状の危険性を改めて認識させられた。彼とて、この状況に不信を抱いていたのであるが、それが漠然とし過ぎており、手をこまねいていた所だったのだ。

 

北村「そうじゃ、我が艦隊は既に撤退の準備を始めておる。」

 

小澤「一度も砲火を交えないまま撤退する訳ですか・・・しかし、それでは敵の反撃を誘致させる事に、なりはしませんか?」

 

これは真っ当な疑問だった。撤退した所へ攻勢をかけられると、撤退が敗走に、また潰走になる危険がある為である。

 

北村「反撃の準備はする、それが大前提じゃな。ともかく、飢えてからでは遅い。今だからこそ反撃は出来るが、飢えてからでは士気も低下し反撃はままなるまい。」

 

腹が減っては戦は出来ぬ、正に至言である。

 

小澤「・・・成程、では我々も撤退準備に入りますが、大本営にはどうしますか?」

 

北村「儂が上申する。貴官の他に美川一等海佐にも連絡はしておいたから、連絡を取り合うといい。」

 

小澤「分かりました、では。」

 

北村「うむ。健闘を祈る。」

 

小澤海将補は敬礼をし、通信を切った。

 

北村「さて、どうにかもってくれよ・・・。」

 

北村海将補は前線部隊指揮官で、最初に事の重大さに気付いた高級指揮官であった。

 

 

11月20日深夜から、輸送船28隻、伊集院久直一等海佐指揮下の護衛艦13隻からなる物資輸送船団が横浜・名古屋・大阪を相次いで出港した。積み荷は様々な物資や補給物資、基地建設用資材第1陣など、前線の艦娘達や将兵が切望している荷物を満載していた。

 

 

11月21日6時39分 中央棟2F・提督私室

 

 

提督「なに? 輸送船団が出港した?」

 

大淀「はい。」

 

大淀から受けた輸送船団出港の報は、彼に底知れない焦燥感を与えた。

 

提督「・・・すぐに艦隊を出撃させるぞ、俺も出る!」

 

大淀「ど、どうしてですか!?」

 

提督「このままでは輸送船団が全滅すると言っているんだ、護衛は付いていようが内地には前線を退いた旧式イージスの『こんごう』クラス位しかまともなのはおらん。そんなもので深海に対抗は出来ん。急いで救援するんだ、さもなくば間に合わなくなる!」

 

大淀「わ、わかりました!」

 

直人は輸送船団が深海棲艦に襲われる大きな可能性を危惧して、急ぎ出撃態勢に入ったのであった。事は急を要するものだった、しかし―――

 

 

 

当の船団護衛部隊は、余りに悠長に過ぎた。

 

 

 

11月21日7時21分 父島西方海上

 

 

伊集院「ふぁ~あ・・・。」

 

護衛部隊旗艦の艦橋で大あくびをこいているのが、護衛部隊指揮官伊集院久直一等海佐である。

 

副長「司令官、あくびなどしている場合ですか・・・。」

 

余りに緊張感に欠ける司令官にそう諫言する副長、有能。

 

伊集院「いいんだいいんだ、どうせここに敵は来れない。ここは我々の勢力圏内だぞ? それにしても護衛任務は、退屈だ・・・。」

 

副長「ですがこの船団は前線の兵士に必要な物資は勿論、解放地区の住人の食糧も運んでいるのですよ?」

 

伊集院「説教は嫌いだ副長。」

 

うんざりだと言わんばかりにそう言う伊集院一佐。

 

副長「は、出過ぎたことを申しました・・・。」

 

そう言って悔しいながらも引き下がる副長である。

 

 

 

CICオペレーター「司令官、敵襲です! 総数算定不能!!」

 

突如CICから敵襲の報が艦橋に入る。

 

伊集院「そんな訳がないだろう。寝言は寝て言え!」

 

CICオペレーター「し、しかしレーダーに敵影が・・・」

 

流石に困惑するオペレーター。

 

初風「“海軍は何をやってる訳!? 敵襲よ!準備しなさい!”」

 

横鎮から派遣された艦娘部隊に所属する初風も、敵襲を通報してきた。

 

伊集院「貴様まで何を言ってる、ここは前線ではないぞ? 差し出口を叩くな。」

 

しかしまだ信じようとしない伊集院、挙句差し出口とまで言う始末。しかし横鎮から派遣されていた艦娘護衛部隊を統率していた初風は食い下がった。

 

初風「“目を覚ましなさい、ここは前線よ! 周りを見渡してみなさい!”」

 

伊集院「なんだとっ・・・っっっ!!!」

 

初風に言われ逆上しつつも双眼鏡を覗いた彼は愕然とした。船団周囲を敵に取り囲まれている―――!

 

伊集院「そんな・・・たかが輸送部隊に・・・こんな数が・・・なぜ・・・!?」

 

信じられないと言った様子でそう言う。血の気が上りかけた彼にそれはバケツの水を被るよりも効いた。

 

「敵艦発砲! 直撃、来ます!!」

 

伊集院「なっ・・・応戦だ、全艦攻撃―――!!!」

 

直後、船団の全ての艦艇の周囲を埋め尽くすように、水柱が屹立した、その内の数十から数百が火柱であった・・・。

 

伊集院久直の旗艦「あたご」艦橋にも、2発の砲弾が飛び込んだ・・・。

 

 

 

この時直人ら横鎮近衛艦隊は艦隊を洋上待機させたこともあって、直人の準備が終わり次第直ちに出撃したが、当然間に合う筈も無かった。

 

船団は護衛1隻を除き全滅、伊集院提督以下幕僚も殆どが還らず、横鎮艦娘部隊も旗艦初風は生き残ったものの、その過半が還らなかった。

 

 

 

11月21日8時02分 モレスビー沖・大型ミサイル護衛艦すずや

 

 

門田「なに!? 輸送艦隊が襲われた!?」

 

その報がモレスビー沖の上海艦隊にもたらされたのは、午前8時02分のことである。

 

賀美「従って当分物資の補給は望めません。必要なものがあれば現地で調達して下さい。」

 

門田「現地調達だと!? 我々に略奪をしろというのか!!」

 

賀美「どう取るかはあなた方の自由です。私はただ総司令官の命令を、お伝えしているだけですので、では。」プツン

 

言う事だけ言って賀美作戦参謀は通信を切った。

 

門田「ぐ・・・!」

 

門田一等海佐は思わず目の前の机を目一杯思いきり殴りつけた―――――――。

 

 

 

11月21日10時37分 ガタルカナル沖・ヘリ空母ほうしょう

 

 

北村「私は総司令官閣下に面談を求めたのだ! 作戦参謀如きが、呼ばれもせんのにでしゃばるな!」

 

ほうしょうのCICで北村海将補の怒号が轟いた。

 

賀美「どんな理由で面談をお求めですか?」

 

北村「貴官に言う必要はない!」

 

賀美「ではお取次ぎできません、どんなに地位の高い方であれ規則は遵守して頂きます。」

 

北村「なに―――?」

 

規則を引き合いに出した賀美二佐に呆れ絶句する北村海将補。

 

賀美作戦参謀と舌戦を交える北村海将補は、前日小澤海将補に言った上申をする為、大本営に通信を送っていた。

 

北村「各艦隊司令官は撤退を望んでおる。その件に関して、永納大本営総長閣下のご了解を頂きたいのだ。」

 

賀美「石川少将はいざ知らず、勇猛を以って鳴る北村海将補までもが、一戦も交えず撤退を主張するとは意外ですな。小官ならば撤退などしません、敵を殲滅する好機をむざむざ見逃す事は、小官には出来ません!」

 

例のごとく賀美は自らに陶酔した様子で饒舌に語る。しかしその言い草に対して北村海将補は憤るどころか、至って静かにこう言った。

「―――そうか、では代わってやる。私は部下を纏めてリンガ泊地へ帰投する。貴官が代わりに前線に出てくるといい。」

 

「出来もしないことを仰らないで下さい。」

呆れたと言う様子で賀美二佐は涼しい顔で言う。

 

北村「不可能な事を言い立てるのは貴官の方だ。それも、安全な場所から動かずにだ!」

 

「小官を侮辱なさるのですか!」

怒りに満ちた声で賀美二佐は言うが、老練の名将は若輩者などよりも一枚も二枚も上手であった。

 

北村「貴官は、自己の才能を示すのに弁舌ではなく実績を持ってすべきだろう。他人に命令する事が自分に出来るかどうか、やってみたらどうだ!!」

 

賀美「ぬぐぅぅ・・・うううう・・・!!」

 

賀美作戦参謀は屈辱に唸ったが次第にそれが苦痛の唸りに変わっていった。

 

北村「ん?」

 

賀美「ううううううう・・・あぁっ・・・!!」ドタッ

 

北村「どうしたのだ!」

 

思わず北村は副官のほうを見るが、副官も訳が分からずと言う様子だった。

 

北村のテレビ電話映像の先では、キャリーベッドで賀美作戦参謀が拘束されて搬送されるところであった。

 

土方「提督、お見苦しい所をお目にかけました。」

 

北村「どうしたのです、彼は。」

 

訳が分からない北村海将補は尋ねた。

 

土方「軍医の話によりますと、解離性転換障害によって引き起こされる、神経性の盲目だそうです。」

 

北村「転換障害?」

 

聞きなれない単語に北村海将補は首を傾げた。

 

土方「えぇ、なんでも挫折感が異常な興奮を引き起こし、視神経が一時的に麻痺する、病気だそうです。15分もすればまた見える様になるそうですが、今後も発作を繰り返す可能性があるとのことですので、賀美作戦参謀は、精神病院へ送られる事になりそうです。」

 

北村「ありがたい物ですな。それにしても、病人を要職に付ける程、我が軍の人材も枯渇しているのですな・・・。」

 

土方「・・・。」

 

嘆息して、北村海将補はそれだけ言うのがやっとの有様であった。

 

これは紛れもない事実であった。有為の人材に事欠き、惰眠を貪ったツケが、今になって噴出していた。数少ない猛将や知将達が、辛うじて戦線を維持する事に腐心してきたのが今日の状況に繋がっていると思えば、それは皮肉と言えた。

 

北村「ところで、昨日具申した撤退の件は、どうなりましたかな?」

 

土方「暫くお待ちください。総司令官の裁可が必要です。」

 

少し目を逸らしがちになりながら、土方海将は言う。

 

北村「非礼を承知で申しあげるが、永納総長に直接お話させて頂けるよう、取り計らって頂けませんかな?」

 

北村海将補がそう言うと、土方海将は渋面を作って申し訳なさそうに言った。

 

土方「総長は、昼寝中です。」

 

北村「は―――?」

 

北村海将補は呆気にとられた。普通総司令官がこの大事に寝ているなどあり得ないのだ。そんなことは常識の筈であった。しかし―――

 

土方「永納総長は“昼寝中”です。敵襲以外は、起こすなと・・・。」

 

“敵襲以外は起こすな”、これは命令だった。土方も唖然としたもので、その命令が発せられた直後によもやこの様な事になるとは、土方自身予想もしなかったが――――。

 

北村「はぁ、昼寝―――分かりました。かくなる上は、前線指揮官としての責任を全うするまでです。総長のお目覚めの際は、『良い夢がご覧になれましたか』と北村が気にしていたと、お伝え願おう!」

 

呆れを通り越して怒りに変わった北村海将補がそう叩き付けた。

 

土方「北村海将補・・・。」

 

北村海将補は最早聞く耳持たずと言った様子で通信を叩き切った。土方は、無念そうに通信の切れた画面を見るしかなかった。

 

 

 

前線指揮官が撤退を望んだ理由は、やはり物資不足がその引き金を引いていた。流石に略奪を行う部隊は無かったものの、物資の窮乏は危急課題であった。そこへ来て、今度は輸送船団が全滅したという。最早、予断の許されない段階に来ていた。

 

物資が無ければ軍の物資を民間に供出するしかない。だがSN本隊には出撃したその時点でも、4週間分の物資しか元よりない。その補給が断たれた今となっては、動ける部隊で5日がやっとの有様、動けなければ3日弱しかもたない部隊もある。

 

兵達はようやく事態に気付いた。艦娘達も、どんなに無能な提督でさえも例外なく。しかしその時には、前線の者達は飢え始めていた。

 

艦娘達は全力で動く燃料に事欠き始め、弾薬はあっても動く燃料が無いと言う有様に陥りかけている。当面は随伴してきた給糧艦間宮で凌いではいたが、それにしては供給能力を上回り過ぎていた。

 

燃料不足は海軍や空軍も同じことだった。空軍はラバウルやモレスビーにあった空港跡を仮基地としたが、持参してきた燃料弾薬類が無くなり始め、行動に制約が生じて来ていた。

 

海軍でも給油艦の補給用燃料タンクに入っていた燃料がそろそろ払底する時期に来ており、給糧艦にしても補給用の食糧が底を突き始めていた。

 

最早一刻も選択の余地は無く、撤退意見が一致したが、上申した撤退意見具申の返答は、遂に無かったのである。そしてその上申が叶わなかった時、彼らが全員無事に、本国へ帰還出来るだけの資材は、既になかったのである・・・。

 

 

 

~???~

 

飛行場姫「ソロソロ、カ。」

 

ガタルカナルから深海へと逃れた飛行場姫は、時節の到来をいよいよ確信した。

 

飛行場姫「戦艦棲姫、南方棲姫、南方棲戦鬼、駆逐棲姫、デュアルクレイター133、カネテヨリノ計画ニ従イ、総力ヲ挙ゲテ敵ヲ撃滅セヨ! 一人モ生カシテ帰スナ!!」

 

4人「ハッ!!」

 

駆逐棲姫「はっ!」

 

 

 

時に西暦2052年11月23日、飛行場姫「ロフトン・ヘンダーソン」が指揮を執る深海棲艦の大艦隊は、補給線を断たれた日本国軍に対して、反撃を開始した。

 

 

 

11月22日午後4時24分 サイパン東南東沖

 

 

提督「敵はそろそろ攻勢に出るだろう、これに先立って我が艦隊は急遽出撃し、総力を挙げてこれを迎撃し可能な限り味方を救援する。全艦出撃!!」

 

全員「応っ!!」

 

この深海の命令に先立つこと15時間前、横鎮近衛艦隊は、留守居の艦を1隻も残す事無く総力出撃した。無論のこと普段留守居の鳳翔や望月も―――特に後者に至っては無理やり叩き起こされて―――出撃していた。当然ながら直人も自らの艤装に身を固めての出撃であった。

 

目的地は、ひとまず小澤海将補率いる高雄艦隊が前進基地を置いていると思われる、ニューブリテン島ラバウルであった。

 

いよいよ彼らの戦いが、始まろうとしている。

 

 

 

 

~次回予告~

 

 

遂に、深海棲艦の総反撃が始まった。

 

怒涛の猛攻に晒される日本軍、旧第1任務戦隊に属した者達の艦隊も例外ではない。

 

横鎮近衛はこれを看破し、総力を挙げて救援に赴くべくサイパン沖を発った。

 

味方が次々と撃破されていく中、直人は決死の覚悟を決めて、友軍救出を果たすべく包囲線解囲を試みるが―――!

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録 第1部10章、「ソロモン北方沖海戦」

 

艦娘達の歴史が、また1ページ・・・。




深海棲艦紹介


今回は南太平洋方面に配備されていた超兵器の解説を、少し早いですがしていきます。なぜか? そこまで描写できないので。



デュアルクレイター級超兵器級深海棲艦

HP:490(410) 火力:210(185) 対空:59(41) 装甲:193(171)
射程:長 速力:高速

装備:長砲身15インチ3連装砲 60cm噴進砲 88mm連装バルカン砲 20cm12連装噴進砲 艦戦橙 艦攻橙 艦爆橙

肩書は『超巨大双胴強襲揚陸艦』。
アメリカ軍の超兵器が元であり、強襲揚陸艦とは言うが35ノットの速力と戦艦並みの武装、小型艇及び艦上機運用能力を有し、噴式航空機を搭載しているタイプもある。
その肩書通り双胴船体であり、下部構造が他の超兵器と一線を画する浮力を生み出している。
史実に於いては、ミッドウェー海戦前に同島への増援輸送、その後ガタルカナル島奇襲に参加し単独にて2個海兵師団を輸送しツラギとガタルカナルを制圧している。
その後前線に魚雷艇部隊を運搬したもののそれが第3次ソロモン海戦の10日程前の事であり、第3次ソロモン海戦に於いてはガタルカナルへの増援物資を満載してツラギ沖に突入した所へ播磨が突如砲撃、56cm砲弾を甲板中央部に4ないし5発受けて大爆発を起こし、双胴船体が左右に割け、ソロモンの海に沈んでいった。
耐久と装甲はその構造上高いものの、火力は他の超兵器と比べればお世辞にも高いとは言えない。

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