異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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ドーモ、ドクシャ=サン、天ノ声デス。

青葉「乗りませんよ。あ、どーも恐縮です青葉です。」

つまんねぇ。

青葉「いやなんで私に振るんですか。」

いいじゃない別に。

青葉「いや、唐突過ぎますよ。」

はいはい。

ところで第1部6章冒頭で2か月かっ飛ばすと言ったな。





あれは嘘だ。

青葉「嘘だったんですね・・・。」

ホントは3か月かっ飛ばしていきますのでその辺ヨロシク。

あと前の章の小ネタ集は思いつき次第随時増やします。ま、期待せず待っててください。

青葉「で、今日は何か解説するんですか?」

正直現状で解説することが無い・・・。しょうがない、今回はアイテム屋に付いてだな。

青葉「おぉ。」

アイテム屋と呼べるものに、大本営に対する要請があります。造船ドックや入渠ドックの増設、資源の応援要請、まぁ色々ある訳です。

青葉「ふむふむ。」

なお主人公は大本営に対する要請はしません、横鎮本部に直接言う形を取っています。なのでこの要請は劇中ではほぼ行われないと思って頂いていいと思います。

青葉(解説する意味・・・)

無いとか言おうとするな。

青葉「さらっと心読まないで下さい!!」

フヒヒッ、サーセンwww

さぁ行きましょうか。どうぞ~。


第1部7章~第1次SN作戦~

2052年10月、秋も半ばに差し掛かったサイパン島だが、サイパン島は相変わらずあたたかかった。

 

そんなサイパン島へ、間も無く一通の寒風を含んだ電報が打たれる事になる。

 

 

 

10月12日午前11時51分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「ふぅ~、8月に比べると過ごしやすくはなったな。」

 

ペンを走らせながら直人はそう言う。

 

大淀「ですね、本土はすっかり秋なんでしょうねぇ。」

 

そして懐かしむような口調で言う大淀。

 

提督「そうだねぇ・・・久々に本土の土を踏みたいな。」

 

などと呟いてみる。

 

大淀「お気持ちは分かりますけれど、先ずは書類ですよ。」

 

提督「やれやれ、いつもより多めに書類なんぞ準備するんじゃないよ。超過勤務手当は出るのかい?」

 

嘆息しながらそう言う直人。

 

大淀「はぁ~・・・膝枕でもして差し上げましょうか?」

 

遠慮するだろうと思った大淀だったが、これは裏目に出た。

 

提督「お、いいね、それに決まり。」

 

大淀(しまっ―――!!)

 

時折やらかしてしまう大淀さんでした。

 

しかし、この時直人が放ったある一言が、後に思わぬ形で実現しようとは、この時誰も知る由は無い。

 

 

 

午後2時12分 司令部正面側岸壁

 

 

輸送船船長「いつもありがとうございます。」

 

提督「いえいえ、ここは重要な補給路ですから、横鎮分遣隊たる我々も、御協力させて頂きますとも。」

 

この日、サイパン島の岸壁には輸送船「第12川崎丸」、タンカー「第4初島丸」を中心とする、南西方面基地への補給船団が寄港していた。

 

サイパン島は本土からパラオ・タウイタウイを結ぶ航路上にある為、ここが寄港地になる事もしばしばあるのだ。

 

船員「燃料補給、終わりました!」

 

船長「分かった。では石川少将、我々はこれで。」

 

石川と言うのは、直人の偽名である。

 

提督「はい、航海の無事を祈ります。」

 

そう返すと、船長と船員たちはすぐに出港準備に取り掛かっていく。

 

大淀「命令とはいえ、補給物資の提供ですか・・・。」

 

提督「やはり帳簿は厳しいか?」

 

大淀「このペースだと、サイパンに物資の生産/供給プラントが必要になりますね。」

 

いつでも彼らを悩ますのが、カッツカツの物資、特に生活必需品だ。

 

食堂で使う食料は、実は本土からの補給物資でやりくりしている。資材から変換出来ればそれに越したことはないが出来ない為、本土からの輸送が必須となるのだ。

 

提督「おいおい、無茶言うな。プラント建設ってどれだけの金と手間と物資がいると。」

 

大淀「分かってはいますが、やはり欲しくはなります。艦娘の人数だって一人二人ではありませんし。」

 

提督「うーん・・・本土も物資窮乏真っただ中で、艦娘艦隊向けの物資が重視されているとはいえ、現状の分で手一杯だそうだ。」

 

※現状は77人分の1週間分ということで資源とその他物資が輸送されている。

 

大淀「1週間+1日分、ではないとかなり危ない状態です。」

 

提督「うーん・・・じゃぁ今度土方海将に打診しておくよ。」

 

大淀「お願いします。」

 

提督「ん。」

 

既にして運営面から苦しい横鎮近衛艦隊であった。

 

 

 

しかしその多忙な平穏は、終焉を迎える事となったのである。

 

第1次パラオ強襲戦である。

 

 

 

10月13日午前11時21分 中央棟1F・無線室

 

 

“こちら、パラオ基地付属第32護衛隊哨戒機、パラオに大挙襲来せると思われる敵艦隊見ゆ。位置、パラオ東方1900km地点、敵進路は西、西です!”

 

大淀「・・・そんな!」ダッ

 

それは、パラオ所属部隊からの緊急電であった。

 

 

 

午前11時23分 中央棟2F・執務室

 

 

提督「書類仕事面倒くせ-。」

 

直人のいつもの口癖である。

 

金剛「ハハハハ・・・頑張りマショウ?」

 

提督「はぁ~・・・そうだな。」

 

 

バタン!

 

 

提督「!」

 

金剛「oh!?」

 

勢いよく開け放たれたドア、現れたのは大淀だ。

 

大淀「提督! パラオ基地の哨戒機から緊急電です!」

 

提督「なにがあった!」

 

大淀「敵の大規模な艦隊が、パラオに向かうようです。」

 

提督「なんだと、TT第18船団はパラオにいるのか!?」

 

TT第18船団は、前日にサイパンを出立した輸送船団の事だ。TTは「東京・タウイタウイ」のそれぞれの頭文字である。

 

大淀「いえ、定時連絡でタウイタウイに向かったと連絡が。」

 

提督「そうか、それならいいが、それは置くとしても厄介な事になった。」

 

大淀「?」

 

金剛「どう言う事デース?」

 

直人は二人に、この事の重要性を説いた。

 

現在日本の艦娘艦隊が太平洋側に確保するラインは、かつて大日本帝国が策定した『絶対国防圏』に近しい範囲。大日本帝国はこれを死守しようとした訳だが、現状でも同じ状況になりつつある。という事だ。

 

知っての通り太平洋は世界一の広さを誇る広大な海洋だ。だがそれは同時に、陸上の様に防衛線を策定した所で、隙だらけである事も意味する。つまり敵の侵入を阻止する方法が無いのだ。

 

現在艦娘艦隊の補給路は、本土からサイパンを経由してパラオ、南西方面へ向かう外洋ルートと、本土から上海・高雄経由でリンガなどに向かうシナ海(内海)ルートの二つ。ただこれら二つともが、常に敵の襲撃に晒される可能性を秘めている。

 

ましてパラオが落とされると、サイパンから南への連絡が断たれ、内海コースが危機に直面する。フィリピンまで遮るものが無いのだ。

 

そこからは無限ループだ。分断された基地はさらに細かく、外堀から埋める様に分断され潰され、本土とサイパン以外はどの基地も残らない、つまり太平洋戦争末期の状態に、囲碁で言えば本土と言う『地』以外の石が全て死んでしまう事を意味する。無論サイパンという石も死んでしまう。

 

艦娘艦隊のやっている事は言わば、太平洋戦争末期からの逆襲劇に他ならない。それがとん挫すれば、人類は終焉を迎えるのだ。

 

断じて、避けなければならなかった。

 

大淀「・・・つまり、防衛戦略上パラオは重要、という事ですね?」

 

提督「“最重要”だ。よって我が艦隊はこれを救援し、敵勢力を可能なだけ掃討する。」

 

大淀「私達が出るのですか?」

 

提督「タウイタウイからでは間に合わん。情報伝達能力の時間的ラグによって出撃まで時間がかかるだろう。」

 

情報処理能力に於いて、一端の基地は貧弱の一語で、パラオは高雄基地の中継基地を用いて本土に情報を伝達する。サイパンの横鎮近衛艦隊の情報処理能力は近衛艦隊ならではという訳だ。

 

大淀「成程。では急がないといけませんね。」

 

提督「そうだ。全艦出撃準備、俺は後方部隊として出撃する。武装は最低限の物だけ携帯して行こう。飛龍に先制攻撃の指示を。」

 

大淀「了解しました。」

 

提督「あと俺の連山に偵察をさせよう。飛龍に言って長距離戦闘機も要請してくれ。」

 

大淀「はい、すぐに。」

 

提督「金剛。敵の予想来襲時刻は、どれくらいだと思う?」

 

直人の質問に、彼女はこう答える。

 

金剛「ウーン・・・敵の位置と発見時刻を考えると・・・夜襲無いし、早暁攻撃デスカ?」

 

提督「よく出来ました。大淀、敵編成について追加情報は?」

 

大淀「すぐ確認します。」

 

大淀は急ぎ執務室を後にする。

 

提督「金剛、全艦出撃態勢、金剛お前もだ!」

 

金剛「編成はどうしますカー?」

 

提督「今回は分散しない、一点集中で効率を重視する。編成は霧島辺りに任せるといい。」

 

金剛「了解ネー!」

 

金剛も執務室から去る。入れ違いに大淀が戻ってきた。

 

大淀「提督、追加情報によると、敵は空母級多数を伴っている様子です。パラオへの早暁空襲が予想されます。またパラオ基地司令は、当初規定通りの1100km・800km・600km・300kmの円弧状に防衛線を敷く構えのようです。」

 

提督「最も外周の1100km地点は夜間戦闘になるだろう。そこである程度食い止めれば、800km地点は早暁だ。だが敵の規模に対してパラオ艦隊は恐らく練度不足だろう。敵艦載機の航続距離も考えて600km地点までで食い止めなくてはならん。だが第1・第2ラインが早期突破されるとまずいな。」

 

読者諸氏には直人が最悪の想定をしている様に見えるだろうが、戦術とは常に最悪を想定するものなのだ。そしてその最悪を打ち破る為に打ち出すのが戦術なのだ。

 

提督「なんにせよ、出撃予定に変更はない。明石にも裏のドックに内火艇を回させろ。鋼材5000と防御用のM2重機関銃、俺の銃火器と予備弾薬も積むように。」

 

大淀「はい!」

 

直人の指示により、出撃準備が進む中、サイパン飛行場ではエンジン音が響き渡っていた。

 

 

 

午前11時39分 サイパン飛行場

 

 

飛龍「さて、今度は私達が先制攻撃をする番よ。陸攻隊と戦略爆撃隊の戦果に期待するわ。戦闘機隊も、しっかり護衛よろしくね!」

 

今回出撃する攻撃隊の陣容は次のようなものだった。

 

戦闘機隊 キ45改 2式複座戦闘機「屠龍」45機

     N1K4-Ja 艦上戦闘機 紫電三二型改 52機

     A6M7 艦上戦闘機 零戦63型 42機

爆撃機隊 キ91戦略爆撃機 24機

     A6M7 艦上戦闘機 零戦63型(50番爆弾装備) 32機

     D4Y3 艦上爆撃機 彗星三三型 35機

攻撃機隊 P1Y1 陸上爆撃機 銀河一一型 20機

     B6N2a 艦上攻撃機 天山12甲型 31機

     B6N2 艦上攻撃機 天山12型 44機

     B7A 艦上攻撃機 試製流星 3機

     G4M3 1式陸上攻撃機三四型 14機

偵察・誘導隊 G7N2 陸上攻撃機 連山改(笹辺機) 1機

       N1K2-Ja 局地戦闘機 紫電二一甲型 10機

 

総計:戦闘機149機 爆戦32機 爆撃機59機 攻撃機92機 偵察機1機

合計:333機

 

※N1K4-Ja 艦上戦闘機 紫電三二型改

架空機体、紫電改(紫電21型)の性能向上型である紫電31型のエンジンを換装した試製紫電32型を艦上戦闘機化したもの。

 

大戦末期の機体ばかりが出そろってるあたりツッコミどころ満載である。

 

まぁそれは置くとしても、戦爆連合333機の大編隊というのは中々壮観である。日本の名機となったかもしれない機体がずらりとその体を並べて飛ぶのだ、壮観と言わずして何と言うのか、最低でも私(天の声)は思う。

 

この攻撃隊はこの出撃が実戦初であった為、多少不安はあったが、先制された事による敵の焦燥を誘う思惑があった為、問題とされなかった向きがある。だが直人はむしろ心配はしていなかった。あの飛龍と多聞丸に鍛えられた航空隊なら大丈夫だろうと、全幅の信頼を置いたのだ。

 

飛龍(その期待に応える為にも、頼むわよ・・・。)

 

飛龍と地上員が見守る中、先発した偵察隊を追う様にして、零戦隊1番機が、ゆっくりと滑走して行くのである。

 

午前11時43分、攻撃隊離陸開始と相前後して、横鎮近衛艦隊主力も、出撃して行った。

 

期は、熟しつつあった・・・。

 

 

 

午後8時11分 パラオ基地総司令部

 

 

オペレーターA「第1防衛線、敵の残敵掃討により崩壊します!!」

 

オペレーターB「第2防衛線、突破されつつあります! 敵艦隊先頭とパラオとの距離も、700kmを割っています!!」

 

美川「極力食い止めろ! 第3防衛線戦闘態勢へ!」

 

彼の名は美川 郡次(みかわ ぐんじ)、階級は一等海佐、このパラオ基地の司令官職にある男だ。

 

年は40前、がっしりしているが何となく細い印象を受ける顔立ちと、大柄な体つきをしている。

 

なんとなく大きく見える目と少し鋭い眼光、あまり目立たない鼻が特徴である。

 

美川「防備艦隊出撃、南から迂回してクロスファイアを仕掛けろ!」

 

長門「承った。艦隊出撃する!」

 

パラオ防備艦隊旗艦長門は、オペレーションルームを去る。

 

 

 

その20分後に、パラオ防備艦隊も出撃して行った。

 

美川「まずい・・・まずいぞ・・・。」

 

状況は、直人が予期した通りの事態になりつつあった。そしてその頃横鎮近衛艦隊は・・・。

 

 

 

午後8時29分 パラオ基地東北東870km付近

 

 

ドドドドドドドドドドドド・・・

 

 

提督「間に合うかな・・・」

 

明石「急いではいますけど・・・」

 

直人は内火艇に銃火器とM2機関銃、それに巨大艤装紀伊の円盤艤装と51cm連装砲、30cm速射砲を携行して、20m三胴航洋内火艇でパラオ近海にいた。この早業は快速艦隊に牽引されて先行した為である。

 

川内「提督! 意見具申します!」

 

提督「許可する。」

 

川内「快速の軽巡洋艦と駆逐艦を分派して、敵本隊に奇襲攻撃を加えるべきかと思います。」

 

要するに夜間強襲である。

 

提督「成程、考えないでもなかった策だな、基地航空隊の空襲でもかなり戦果を挙げているようだし―――。」

 

 

 

午後6時20分 中央棟1F・無線室

 

 

“敵艦隊本隊に対し激烈なる攻撃を敢行し、その中枢並びに護衛の過半に絶大なる戦果を確認せるも、敵艦隊は進撃を続行中の模様なれば、これを艦隊により邀撃する必要有りと認む。我、菅野一番。”

 

大淀「・・・提督に転送しないと・・・。」

 

 

 

てなことがあったのだ。

 

提督「全く、デストロイヤー菅野がいるなんざ聞いてないっての。」

 

そんな事を思い出して言う直人である。

 

デストロイヤー菅野こと菅野 直(かんの なおし)は、日本海軍最後の精鋭部隊の一つ、第343海軍航空隊にも所属したエースパイロットの名である。

 

川内「で、どうするの?」

 

提督「うん、その線で行こう。第1水雷戦隊はお前が指揮しろ、特型を全員連れていくといい。第2水雷戦隊は神通に指揮させろ、白露型・初春型、島風を指揮下に入れる。」

 

川内「フフッ、了解!」

 

さぁー! 待ちに待った夜戦だぁーっ!!

 

提督「全く、元気な奴だ。」

 

明石「良かったんですか?」

 

提督「あぁ、いいんだ。」

 

 

直人は夜襲の決断を下し、1水戦川内以下、駆逐艦初雪・深雪・叢雲・綾波・漣・潮・響・雷・電の全10隻と、2水戦神通以下、駆逐艦白露・村雨・時雨・夕立・五月雨・初春・子日・若葉・島風の全10隻が分派された。

 

 

 

殺戮が・・・始まる・・・。

 

 

 

川内「突撃、我に続けぇ!!」

 

叢雲「さぁ、始めるわよ!」

 

初雪「うー・・・面倒臭い。」

 

叢雲「言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

綾波「綾波、参ります!!」

 

響「胸が高鳴るね。」

 

雷「私の手並み、司令官に見せてあげるんだから!」

 

潮「だ、大丈夫、かなぁ?」

 

電「頑張りましょう、なのです。」

 

潮「は、はい!」

 

 

 

神通「全艦単縦陣、訓練通り行きますよ!」

 

夕立「素敵なパーティーの始まりっぽい!!」

 

島風「私がいっちばん活躍するんだから!」

 

白露「負けないよ! 島風!」

 

島風「私だって負けないんだから!」

 

時雨「夜の戦いか、あの時を思い出すね。」

 

初春「不安かえ?」

 

時雨「まさか。」

 

五月雨「精一杯、頑張ります!」

 

若葉「そうだな、目にものを見せてやろう!」

 

 

士気は抜群、栄光ある大日本帝国水雷戦隊が、ここに復活したのである。

 

 

 

敵にとっての破局は、一瞬だった。

 

日本海軍の誇る姿なき長槍、酸素魚雷が、一瞬の内に敵艦隊に襲い掛かる。

 

特型10隻90射線、白露型5隻40射線、初春型3隻18射線、島風15射線、総計して162本の酸素魚雷は、砲戦距離の遥か外、距離1万8000から、狙いすましたように敵艦隊に突き刺さった。

 

 

ドドドドドドド・・・ン

 

 

連続する爆発音の残響は、突撃する2個水雷戦隊の耳にも入っていた。彼女らには命中する水柱すら見えていた。

 

既に、彼女らは自分達の間合いに敵を捉えていた。

 

川内「全艦突撃!!」

 

神通「前へ!」

 

白雪「全艦砲撃! てぇ!!」ドォォーーーン

 

綾波「砲撃開始!!」ドドォォーーーン

 

漣「メッタメタにしたるのね!」

 

潮「えーい!!」ドォォーーーン

 

夕立「夕立、突撃するっぽい!」ザバァッ

 

川内「援護するよ!」ザザッ

 

白露「夕立の道は私が切り拓く!」ドォンドォォーーーン

 

村雨「私達は負けない!」

 

時雨「もう、沈まない!」

 

五月雨「戦艦相手だって、負けません!!」

 

川内と夕立を先頭に、全艦が撃って撃って撃ちまくる。

 

昼の空襲で憔悴しきり、長距離雷撃で大混乱に陥った敵に、それは十分すぎる痛手を与えた。

 

夕立「っぽぉぉぉぉーーーい!!」ドグシャァッ

 

eliteリ級「ガッ・・・!!!」ザバァァァーーン

 

ムーンサルト踵落としで頭部に蹴りを叩き込む夕立、砲撃しろと。

 

Flagハ級「ギュアアアッ!」ザバアアアッ

 

夕立「っ!」バッ

 

気付くが少し遅かった、その時―――――

 

 

ドォンドォンドォン

 

 

Flagハ級「ギョワ・・・ア・・・」ダッパァァァーーーン

 

 

ザバァァーン

 

 

空中から人影が舞い降りる。

 

夕立「!」

 

川内「油断大敵、だよ。」

 

夕立「確かに、っぽい。」

 

その言葉を噛みしめる夕立である。

 

 

 

潮「当たって下さい!!」ダァァァーーーン

 

潮はいつの間にやら漣とはぐれて孤軍奮闘中である。

 

 

ズドオォォォーーーン

 

 

ロ級「ギュオオオッ・・・」

 

無印のロ級(深海棲駆逐艦)を仕留める潮。

 

潮「や、やった・・・!」

 

eliteイ級「ギュアアッ!!」ガバッ

 

潮「ハッ、こ、来ないでッ!!」ドォンドォン

 

背後から襲い掛かったeliteイ級に対し、潮は慌てて振り向き咄嗟に砲撃する。

 

 

ズガガァァァァーーーン

 

 

潮「へ?」

 

eliteイ級「ギャアアアッ・・・!!」

 

気付けばeliteイ級も撃沈していた。

 

漣「こいつぅ!」ダァァン

 

 

ル級「ガッ・・・!?」ザバアアアァァァン

 

 

ル級の顎下から頭部に砲撃を叩き込む漣。一撃で撃沈してしまった。

 

漣「あっ、潮ちゃん発見キタコレ!」

 

潮「漣ちゃん!」

 

漣「もう、あんまり離れちゃダメだよ?」

 

潮「はい、すみません。」

 

漣「謝るのは後! 次行くよ!」

 

潮「あ、はい!」

 

再び敵に突っかかっていく漣と潮、いいコンビである。

 

 

 

島風「おっおお~♪」

 

連装砲ちゃん「キュ~!」ドォンドドォォーーン

 

 

ズガァンズドォンドガァァァーーーン・・・

 

 

何やら余裕を見せつつ敵を蹴散らしていく島風(と、奮闘する連装砲ちゃん)。パペットの主砲も自在に操り的確に良いポイントを突き戦果を挙げていく。

 

若葉「なんだ・・・余裕なのか?」

 

子日「子日アタァァァーーーック!!」

 

 

ドグシャァァッ

 

 

eliteヘ級「グ・・・ァ・・・!?」

 

驚く若葉の隣で素手で敵を殴り飛ばす子日。

 

だから砲戦しろ(ry

 

 

 

叢雲「この叢雲様に触れようなんて・・・」ヒュッ

 

 

ズシャァァッ

 

 

Flagタ級「グゲゲッ・・・!!」

 

 

ザバァァァァン

 

 

叢雲「百年早いのよ。」

 

自慢の槍捌きで戦艦を一薙ぎにする叢雲。

 

深雪「深雪スペシャル、もってきやがれぇぇぇ!!」

 

 

バキグシャドガァッドォンドォンドォンドォン

 

 

Flagヲ級「・・・・・!!」

 

 

ドオオオォォォォォーーーーン

 

 

その背後で三連撃からの主砲四連射でフラヲをK.Oする深雪。

 

だからお前ら砲戦(ry

 

 

 

突入1時間、潮が引く様に横鎮近衛艦隊水雷戦隊は撤収した。

 

損傷は皆無に等しかった。敵艦隊は憔悴と混乱の只中にあっただけに、対応をするにも指示も伝わらず、伝わったところで後手後手に回ったのである。

 

川内「大勝利~♪」

 

神通「そうですね、ひとまず戻りましょう。」

 

川内「お~♪」

 

そう返す川内は、自分の制式服の上から、胸丈までしか無い袖無しチョッキを着ていた。その色は、透き通った夜空と同じ色をしていた。

 

白雪「それにしても、不思議な服ですね。川内さん。」

 

川内「ん? あぁ、これのことね。元は隠密行動時に姿を隠すための装備なんだ。」

 

暗殺用装備、とは川内は言わなかった。

 

艦娘艤装の少ないデータを元に開発された、霊力を使った試作型光学迷彩服である。

 

川内改2装備EX1、隠密戦闘用着の正体は、艤装として使用する事で機能する光学迷彩装備であった訳だ。

 

もっとも、直人と最初に戦った時には身に着けていなかったのだが・・・。

 

川内「ま、意外と役に立ってくれてるんだけどね。」

 

白雪「そうなんですね・・・。」

 

白雪はそれで納得した。確かに不思議に思うのも無理無き事であったのだが。悲しいかな白雪にはその言葉の裏にあるものは、読み取る事が出来なかった。

 

 

 

午後10時07分 パラオ島東北東870km

 

 

神通「提督、戻りました。」

 

提督「首尾はどうだ?」

 

神通「相当の戦果は上げました。敵はかなり疲弊と憔悴に苛まれているようです。」

 

提督「そうか。やはり敵は短期決戦を狙っていたか。では、攻撃機会は早暁攻撃のみだな。但し、その早暁にこちらも敵に空襲を加える。金剛、空母部隊に伝達、航空隊を対艦攻撃装備で、出撃準備だ。」

 

金剛「了解デース!」

 

直人は初めからこれを読んでいた。

 

根拠は、航空隊の攻撃終了時間である午後6時47分から、パラオ艦隊との交戦開始時間が、僅か50分しか開きが無かった事である。

 

午後8時半前で既にパラオ艦隊防御第2陣が突破されていたことを思い出してほしい。ただの力押しでたった20分や30分ではどう見積もっても第2陣まで破る事は到底不可能なのだ。数に頼んで押し切るにも1時間は要する。

 

11の司令部に約100万個程の艦隊が現在いるが、パラオにはその内の8万9千が在地し、第1陣はその内の2万個艦隊からなる。単純計算でも200万隻が防御陣を敷いているのである。たった数分でこれを突破するには、正確な数値こそ不明だが数百万の数を持つ膨大な敵艦隊でも無理である事は、これで分かったと思う。

 

進軍速度の速さは一昼夜での決着を敵が望んでいるという事と、出撃時点で彼は踏み、だからこそ先制して空襲させ、また水雷戦隊による急襲も重ねて敵兵力の漸減を計っていたのだ。そして今や敵は巧妙な戦術を以て防御陣を食い破りつつある訳である。

 

提督「敵は決着を急いでいる。我々に対応する余地を与えぬようにする為なのか、はたまた急進高飛車戦術か、それは分からない。が、我々が黙っている訳がない。索敵網に引っかかったのが、運の尽きだろうな。」

 

明石「提督、これからどうします?」

 

運転席に座る明石が問いを投げかける。この内火艇の運転手は、明石である。

 

提督「そうだな、取り敢えずはこの位置で待機だ。」

 

直人は膝の上に広げた地図を指さして言う。

 

金剛「前進デスネー?」

 

たまたま来ていて覗き込んでいた金剛が言う。

 

提督「そうだ、発艦時刻の午前4時30分に、敵を真南600kmに捉えておきたい。」

 

金剛「了解デース。艦隊前進デース!」

 

金剛は無線で指示を出す。

 

提督「てか何時からいたんだ。」

 

金剛「さっきデース。」

 

提督「用件は?」

 

金剛「眠たいのデース。どこかで寝させて下サーイ。」

 

提督「む・・・。」

 

そう言われると眠気がしないでもない直人だったが、艇後部の士官室は実は自身の火器の倉庫に使い、弾薬箱もそこにある。右舷に艤装、左舷に鋼材を積んでいて、空いてるのは船首側の兵員室(船倉)のみ。

 

明石「・・・じゃぁ私、船倉で寝ましょうか。」

 

提督「操縦は俺なのね、それは置くとしていいのかい?」

 

そこで明石が意外な一言を放った。

 

明石「あれ、気付きませんでした? 船倉、ちゃんとハンモック積んでありますよ?」

 

・・・え?

 

提督「それはよ言わんかい。」

 

明石「す、すみません。あと簡易のダブルベッドも常装してはいますけど。」

 

さらっと重要な事を言う明石だった。

 

提督「それってあれか、災害救助とか考慮したのか。」

 

明石「いや、まぁ何と言いますか、洋上での人命救助を。」

 

提督「艦娘も?」

 

明石「考慮してますが、修理装備はありませんね。」

 

提督「だろうね。」

 

まぁ要するに、洋上での災害を考慮してそう言った収容装備を一応付けた、という程度の物だった。

 

提督「じゃ、金剛と明石先に船倉行ってていいよ?」

 

明石「いいんですか?」

 

提督「いいのいいの、敵襲警戒は他の艦にさせておくから。」

 

金剛「それなら、お言葉に甘えマース。」

 

提督「うん。しっかり寝てらっさい。」

 

明石「はい、私もお言葉に甘えさせて頂きます。」

 

提督「ん。」

 

そうして二人は船倉に潜っていったのであった。

 

提督「艦隊前進! ポイントADに移動する!」

 

そして直人は明石に代わってハンドルを握り、前進を始めたのだった。

 

 

 

提督(あ、まだちょっと明石の温もり残ってるな。温かい。)

 

やっぱり直人だって男である。(今更)

 

 

 

一方パラオ艦隊は、練度は兎も角として他艦隊との連携を欠いたことで思わぬ大苦戦の中にあった。

 

先刻から攻勢の勢いが多少弱まってはいたが、第2陣の状況は惨憺たるものだった。

 

 

 

午後10時43分 パラオ基地総司令部CIC

 

 

オペレーターB「敵艦隊先頭、第3陣の射程圏内に入ります!」

 

美川「第3陣交戦を開始せよ!」

 

オペレーターC「パラオ防備艦隊、交戦に入ります!!」

 

長門「“司令部へ、これより突入する!”」

 

美川「よぉーし、頼むぞ!」

 

オペレーターA「パラオ第1738艦隊通信途絶!」

 

オペレーターD「第1陣潰走中、第2陣は崩壊しつつあります!」

 

美川「第1陣と第2陣を退却させろ!第4陣に臨戦態勢を下令、海軍部隊も戦闘態勢へ!」

 

オペレーターD「はっ!!」

 

美川(せめて・・・増援の一つでもあれば・・・。)

 

美川司令は、手元に置いてある通信端末に手をかけようとし、やめた。

 

美川(いかん、あの艦隊はあくまで極秘だ。それに最早間に合うまい。敵が速戦即決を計ったのは明らか、空襲でこちらを叩くつもりだ。ならもう・・・)

 

美川郡次は、ここが己の死に場所かと、覚悟を決めつつあった。

 

 

 

この頃直人はと言うと・・・

 

 

午後11時03分 パラオ東北東沖770km付近

 

 

ドドドドドドドドドド・・・

 

 

提督「うぅぅ・・・はっ! まだいかん、ブラックガムを・・・」パクッ

 

三胴内火艇を西南西に向けてぶっ飛ばしていた。

 

直人の方はかなり眠たかった様子。

 

 

 

午前4時25分 パラオ東北東沖670km

 

 

「司令・・・司令!」

 

提督「う、うぅ~ん・・・?」

 

誰かに肩を揺らされて直人は目を覚ました。

 

不知火「お疲れ・・・でしたか?」

 

起こしに来たのは不知火である。

 

提督「あぁ、不知火か。すまん、そのまま寝てしまったらしいな・・・。」

 

不知火「いえ・・・それより、間も無く航空隊の出撃時間です、全機待機中ですが。」

 

提督「・・・あぁ、もうこんな時間か。」

 

腕時計に目を通し、直人は指示を出した。

 

「よし、各空母の航空隊は時間通りの時刻に順次発艦するよう伝えてくれ。」

 

不知火「―――はっ。」

 

不知火は返答だけ返して踵を返し、後方へと去る。

 

提督「・・・事務的な事以外話さないよなぁ。」

 

と、頭を掻きながら言うのであった。

 

榛名「あの~・・・」

 

提督「ん?」

 

入れ違いに榛名が現れた。

 

提督「何かあったか?」

 

榛名「いえ、お姉さん見ませんでした?」

 

・・・あ、なるへそ。

 

提督「多分前の船倉で寝てる筈だけど。」

 

榛名「まぁ。すみません、御迷惑じゃなかったですか?」

 

提督「いやいや、空船倉だったからね。」

 

そう返すと榛名はこう言った。

 

榛名「そうでしたか。では、起こしに行ってきます。」

 

提督「俺も行こうか?」

 

榛名「いえいえ、提督はご自分のお仕事を。」

 

提督「そ、そうか。」

 

笑顔でそう言う榛名であった。

 

なんだか突っぱねられた気がしないでもない直人であった。

 

 

 

午前4時30分

 

 

パラオ艦隊は窮地を脱せずにいた。

 

崩壊した部隊は続々と撤収を完了していた。奇跡的に喪失艦は現状出ていなかったが損害が過大に過ぎ、再度の戦線投入が不可能なものが殆どであった。

 

まだ夜明けにもなっていないこの時分、横鎮近衛艦隊の空母部隊各艦は、航空隊を発進させていた。

 

提督「対潜警戒を厳にせよ。いつ敵が忍び寄ってきてもおかしくないぞ!」

 

夕立「どこからでも来るっぽい!」

 

提督「いや来ちゃダメだって。」

 

白雪「そうですね。来ないに越したことは無いですし。」

 

陽炎「そうね、爆雷攻撃って面倒なのよねぇ。」

 

というのは、夜間発進の際に点ける航空機発着灯を点灯させていたからだった。甲板全体を照らす為のものである為滅茶苦茶明るいのだ。潜水艦にとっては格好の餌食である。

 

提督「全機無事に戻ってくる保証もないが、戻ってくることを祈ろう。」

 

陽炎「えぇ、そうね・・・。」

 

間も無く白み始めるであろう暗い空に、1機また1機と、航空隊は飛び立つ。

 

全ては、崩壊を防ぐ為。それは、彼の私戦だった。

 

 

 

~パラオ基地司令部CIC~

 

オペレーターA「敵艦隊、第3ラインを突破、敵空母が発艦準備中の模様!!」

 

長門「“司令部へ! 損傷甚大に付き後退する!”」

 

美川「ばかな・・・早すぎる・・・!!」

 

オペレーターC「パラオとの距離、およそ595km、敵艦載機航続距離圏内です!!」

 

美川「ここまでか・・・!」

 

美川司令は諦めかけた、その時である。

 

オペレーターB「敵艦隊北方より、敵に向かう所属不明の飛行物体有り!」

 

美川「・・・なに!?」

 

美川司令は驚愕した。“来る筈が無いもの”が来たのか、と――――――

 

美川(まさか・・・そんな・・・!?)

 

 

 

赤松「よぉーし野郎ども! いくぞ!!」

 

午前5時47分、巡航速度ガン無視で最大速度でぶっ飛ばした攻撃隊は、水面上と敵直上から敵空母に猛然と襲い掛かった。

 

赤松「戦闘機隊も敵機が飛び立つ前に銃撃を加えてやれ!!」

 

戦闘機隊総指揮の赤松中尉も檄を飛ばす。

 

長門「空母艦載機だと!?」

 

翔鶴「一体、どこの所属機でしょうか・・・。」

 

パラオ防備艦隊側も驚愕に包まれた。旗艦長門と副艦翔鶴も、この事態は想定もしなかった。

 

長門「だが、あの航空隊はかなり高い練度のようだ。」

 

翔鶴「えぇ、素晴らしい編隊飛行です。あの練度は、パラオ艦隊のどこにも見られません。」

 

長門「後はあれに託し、我々は戻るとしよう。」

 

翔鶴「はい。」

 

そうして、パラオ防備艦隊も後退していたのである。

 

 

 

明石「来ました!『ト・ツ・レ(突撃陣形、作れ)』です!」

 

提督「よぉーし、頼むぞ!!」

 

そのパラオ防備艦隊が後退したタイミングで突撃陣形を組んでいた攻撃隊であった。

 

 

 

午前5時48分 パラオ東北東沖670km

 

 

明石「攻撃隊指揮官機より、ト連送!!」

 

提督「始まったか・・・。」

 

舟艇上より攻撃の成功と航空隊の無事を祈った直人。その日の航空攻撃は、彼の戦歴でも稀に見るものとなった。

 

 

 

午前6時00分 パラオ基地司令部CIC

 

 

オペレーターD「敵空母、次々と無力化されつつある模様!!」

 

オペレーターC「発進した敵機は僅かで、尽く撃墜されています!!」

 

美川「・・・凄いな・・・あれがフィリピンやグァムで暴れたと言う・・・。」

 

オペレーターA「所属確認完了、横鎮近衛第4艦隊空母部隊航空機隊です!」

 

美川「うむ。今の内に第3陣を下がらせろ、第4陣も撤収。このまま、彼が下がるとも思えん。」

 

オペレーターB「はっ!」

 

美川「横鎮近衛艦隊の推定位置は分かるか?」

 

オペレーターC「はっ・・・分かりました! パラオ東北東670km付近と推定されます。」

 

美川「函数暗号で電文を送れ。『パラオ基地麾下艦隊全撤収中、タイミングを計り適宜突入されたし。』以上!」

 

オペレーターE「承知しました。」

 

美川郡次は、近衛艦隊創設に携わり、フィリピン方面への出撃でも全面的にバックアップを行っている。オペレーターにも、函数暗号を打てる専属オペレーターがいる程で、全スタッフが近衛艦隊に何らかの形で絡んだ者達である。

 

美川(全く・・・誰も頼んでおらんのにな・・・。)

 

そう思いつつ、美川司令は直人らに感謝するのであった。

 

 

 

午前6時07分 パラオ東北東沖670km

 

 

提督「ふっ、まぁバレるよな。」

 

直人と美川司令は勿論面識があるので、通信が来ることも予期していた。

 

金剛「どうしますカー?」

 

提督「御厚意に甘えさせて頂こう。全艦所定通り行動せよ。空母部隊は収容地点へ移動、護衛を除くその他全艦は期を見計らって突入せよ!」

 

金剛「了解デース! ひとつ行って来るネー!」

 

提督「頼むよ。」

 

因みに陣容を話していなかったが、今回の出撃に際し、あえて投入しなかった艦は極僅かである。

 

 

 

午前6時10分 サイパン島・司令部

 

 

~司令部裏ドック~

 

鳳翔「提督・・・御無事で・・・。」

 

 

~望月の部屋~

 

望月「くー・・・すー・・・」

 

 

 

即ち、戦艦8隻・空母7隻・重巡10隻・軽巡11隻・駆逐艦32隻を投じて行っている一大殲滅戦なのだ。

 

敵に訪れるのは最早、終焉のカタストロフィだけであった。

 

 

 

午前6時47分 パラオ東方沖600km付近

 

 

ル級Flag「被害状況ヲマトメロ!」

 

タ級elite「空母ハ軒並ミ艦載機ヲ叩カレ、行動ハ不能ニ近イカト・・・。敵ノ夜襲デカナリノ艦ガ撃沈ナイシ損傷シテイマス。退却スルガヨロシイカト・・・。」

 

ル級Flag「エエイ・・・今一歩ノトコロデ仕損ジルトハナ・・・。」

 

拳を握りしめる副官格のル級Flag。額には皺を寄せている。

 

リ級改Flag「アイオワ様! 敵襲デス!!」

 

タ級elite「何ィ!?」

 

この空母機動部隊旗艦。タ級elite『アイオワ09』への進言は、しかし遅きに失していた。

 

 

 

金剛「これでフィニッシュデース! オールファイア!!」

 

 

ドオオオオォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

榛名「全砲門、撃ち方、始めっ!!」

 

伊勢「全主砲、一斉射!!」

 

山城「まだ、伊勢型に遅れは取りません!」

 

高雄「左砲戦、撃ち方始め!」

 

愛宕「主砲、うてーっ!」

 

摩耶「くたばりてぇ奴はどいつだ!!」

 

妙高「右砲戦、撃ち方始めて下さい!」

 

羽黒「主砲、撃ちます!!」

 

最上「撃てぇーっ!!」

 

球磨「球磨型の戦い、」

 

多摩「見せてやるにゃ!」

 

木曽「いくぜぇ!!」

 

長良「コンディション最高! いくよ!!」

 

五十鈴「OK!」

 

白雪「突入!」

 

叢雲「いっくわよー!」

 

綾波「続きます!」

 

漣「メッタメタにしたるのね!」

 

雷「いっくわよぉー!!」

 

初雪「面倒臭い・・・。」

 

特型「「「言ってる場合か!!」」」

 

島風「アハハハハッ!」

 

夕立「島風ちゃん! 早くしないと遅れるっぽい!」

 

島風「オゥッ! じゃぁいこっか! 島風!」

 

夕立「夕立!」

 

「「突撃しまーす(っぽい)!!」」

 

まぁ良くも悪くもこのメンツが揃ってしまったのでは様々な意味でどうしようもない。(主に止めようがないのと敵側視点の話)

 

 

 

ズドドドドドドドドドドド・・・

 

 

 

提督「おー、すげぇ。」

 

その様を後ろから督戦する直人。

 

明石「そうですね・・・。」

 

提督「・・・自分も突っ込みたいなんて考えるんじゃねぇぞ、明石には明石の役割がある。」

 

明石「ど、どうして分かったんです・・・?」

 

提督「わかるさ、じっとしてられんのは俺も同じだし。」

 

本心では陣頭で指揮をしたい直人である。

 

明石「じ、じゃぁ、なんで今回は・・・?」

 

提督「俺が動けるだけの資源がない。」

 

衝撃の事実、出撃出来ないのは気分だのなんだのではなく、もっとリアリティのある理由であった。

 

明石「あぁー・・・かつかつですもんね・・・。」

 

そのことも承知している明石であった。

 

名取「”司令官、大変ですっ!”」

 

そこへ慌てた様子で通信を送るのは、空母護衛隊旗艦の名取である。

 

提督「どうした?」

 

名取「水雷戦隊が4個、そちらに向かってます!」

 

提督「なんだと!?」

 

名取「すぐに救援に!」

 

提督「頼んだ、到着まで持ちこたえる!!」

 

そう言って直人は内火艇後部、士官室に潜り込む。

 

提督「これと、あとこれと・・・」

 

明石「弾薬箱搬出しますか?」

 

提督「頼む!」

 

明石「はい!」

 

明石に弾薬の搬出を任せ、直人は銃を選び取っていく。

 

提督「あとはDEで、これでよし。」

 

ホルスターに14インチバレルデザートイーグルを納め、直人は士官室を出る。

 

選び取ったのは5丁である。

 

提督「明石! 右舷側見張れ!!」ババッ

 

明石「は、はい!」

 

弾薬箱から必要なだけ弾を抜き取り、直人は左舷側に陣取って積んできた鋼材を台座代わりに積み上げる。

 

手にするは全長で人並みの長さを持つライフル。

 

提督「いっちょやるか。」

 

M200対物狙撃ライフル、紀伊カスタムである。

 

提督(距離2600、あ、完全に射程内だ。風左6、ここっ!)

 

 

ダアアァァァァァーーーーン

 

 

ハ級elite「ギュアアァァァァッ・・・!!!」

 

その一弾でハ級eliteが断末魔をあげ海中に没する。現役自衛官並みとは言えないものの、常人以上の狙撃能力を彼は持つ。

 

提督(まっすぐ突っ込んでくるなんざ、自殺行為だぜっ!)ガジャッコッ

 

 

ダアアァァァァァーーーーン

 

 

ヘ級「ガアアアッ・・・!?」

 

その一弾は旗艦と思われた敵軽巡の眉間を的確に捉えた。

 

しかし、敵の駆逐艦は整然と突撃してくる。

 

提督「・・・成程。いよいよ正規部隊のお出ましって訳かい。これからきつくなるな。」

 

これまでであればばらばらと攻撃してくるだけであった。その統率が行き届いているのを彼は見て取った。

 

 

ザバァァァーーーンザバァァァーーーン

 

 

提督「くそっ!」ジャキッ

 

接近を許した事に悪態を突きつつ、直人は別の武器を構える。

 

 

タタタァァンタタタァァンタタタァァァーーーン

 

 

3点バーストで敵を薙いでいく直人。手にしたのはHK416である。

 

イ級「ギュアアアッ!!」

 

ハ級「ギャオォォ!!」

 

ロ級elite「ガギャァァッ!!」

 

次々と敵駆逐艦を屠っていくが、一筋縄ではいかない。なぜなら通常弾だからだ。しかも敵の水雷戦隊は4個、まだ無傷のものが3つもあるのだ。

 

提督(右舷側まだ来るな、ってかこれじゃどうしようもねぇや。)

 

直人は早々にHK416を置き、2丁の銃を手に取った。

 

提督(さぁ、いくぜ!)ジャキッ

 

2丁1対の銃は局長のお手製である。

 

HK53-2、アサルトカービンである。

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダ・・・

 

 

提督「む、意外に跳ねるが何とか・・・ッ!」

 

その銃口の先では、対深海用銃弾が確実に敵の息の根を止めていく。

 

2丁の銃からそれぞれ毎秒11発で繰り出される弾幕の先では確実に2隻が沈んでいく。

 

提督「リロード・・・!」ガチャガチャガチャ・・・

 

40発の弾倉を3秒半で撃ち切り、大急ぎでリロードして行く直人、15秒ほどかかってリロードし終えると、彼我の距離は400mにまで縮まっていた。しかし敵影はあまり残っていない。

 

提督「これで終わりだ!!」

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダ・・・

 

 

NATO規格の5.56mm弾が、敵艦を薙ぎ払う。その先でなお健在な深海棲艦は最早いない。

 

提督「ヒュ~、強いねぇ局長謹製のアサルトカービンは。」

 

明石「右舷側、敵視認!!」

 

提督「あ、ちょい撃ち過ぎたかも・・・」

 

若干直人が焦り出したその時である。

 

 

ドゴオオォォォォーーーン

 

 

名取「第7水雷戦隊現着! いきますよ!」

 

睦月型.s「オー!!」

 

空母護衛任務に当たっていた名取率いる7水戦が、直人を守るべく戦線加入したことで、大勢は決しようとしていた。

 

名取「砲雷撃戦・・・大丈夫、訓練はしてるし・・・」

 

不安げな顔でそう言い聞かせる旗艦名取。その両脇は賑やかである。

 

睦月「睦月、砲雷撃戦始めるよ!」

 

如月「さあ! 行くわよ!」

 

皐月「やっちゃうよ!!」

 

菊月「行くぞ!」

 

長月「長月、突撃だ!」

 

三日月「睦月型の本領、今こそ!」

 

文月「いっくよぉー!」

 

提督(最後のでいまいち締まらない・・・^^;)

 

半ばずっこけながら直人は思った。文月は常に何処かしらほんわかしているきらいがある。それをこそ文月の良い所と呼ぶかは別だが。

 

提督「名取ィ!!」

 

名取「っ、はい!!」

 

 

名を呼んで振り向いた名取に向けて、直人は笑顔でガッツポーズを送る。「気合を入れて行け」と伝えたかったのだが。

 

名取「・・・!」コクリ

 

名取はそれを読み取って今一度表情を引き締めて頷くと、睦月型に負けじと突撃を開始した。

 

提督「・・・いい走りだ、不安は拭えた様だな。」

 

明石「提督、どうします?」

 

提督「そうだな、少々撃ち過ぎた様だ。少し下がろう。」

 

明石「はい!」

 

返事をして明石は操縦席に潜り込む。直人は取り出した武器を片付けに入る、その時である。

 

ハ級elite「グオオオオォォォォォッ!!」ザバアアァァッ

 

突如海中から飛びかかるハ級elite。

 

提督「くそっ、潜航していたか!!」

 

これが深海棲艦の厄介な所である、如何なるタイプでも潜航出来るのだ。

 

これは戦術的に活用すれば、どんな状況下でも奇襲が可能になる事を意味する。

 

だが直人は怯まない、むしろ持って来ていた5つ目の銃を咄嗟の動作で構える。

 

提督「30連射、持って行けええええええええ!!」

 

 

ババババババババババババババババババ・・・

 

 

ハ級elite「ギャオオオオオオッ!?」

 

猛烈なフルバーストを腹部に至近距離で受けたハ級eliteは、飛び出した勢いのまま左舷側から右舷側まで飛び、反対側の水面に没した。

 

提督「ふぅ、危ない危ない。」

 

安堵の息をつきながらそう呟く直人の手に握られていたのは、その気にさえなればバッグに入れて運べるような小ささの、黒いT字にも見えるサブマシンガンだった。

 

提督「UZIカスタム持っててよかった、デザートイーグルじゃチョイ厳しかったかもな・・・。」

 

UZIカスタム、主に銃身の30mm延長とサプレッサー装着のみと、簡素なカスタムを施したUZIである。元はイスラエル・IMI社が開発した、軽量コンパクトな傑作サブマシンガンだ。

 

明石「大丈夫ですか!?」

 

提督「どうにかな。」

 

明石「良かった・・・」

 

エンジンが動き始め、内火艇は舳先を北に向けて後退を始めた。

 

その頃の敵本隊の様子は・・・もはや書き起こすまでも無い惨状であることは想像に難くないであろう・・・。

 

 

 

まぁそれでは様子が分からないので簡単に記す位はしておこう。

 

敵本隊は横鎮近衛艦隊の襲撃時、パラオ艦隊全軍が退いたのを確認すると隊伍整頓と退却の準備をしていた。

 

統率もある程度は回復し、秩序も回復されつつあった。

 

しかし、そんな不完全状態の中に横鎮近衛の大艦隊が突如として強襲を仕掛けた。

 

統制を取り戻した一部の分艦隊は、本隊の指揮の元で二方向から攻勢を仕掛けるも、この頃既にイカれていたレベルの戦力を相手に少数の部隊では如何ともし難く、第2戦隊・1水戦と第3戦隊・2水戦の手厚い歓迎(迎撃)を受けて潰滅。

 

その後は各部隊が個別に抵抗を試みるも連携の取れていない状況では無力に等しく、敗走となる筈だった敵の退却は、潰走に成り果てたのである。

 

僅か50分の殲滅劇は、横鎮近衛艦隊にも多少の損害を生じたものの許容範囲の程度でしかなかった。

 

 

 

午前9時40分 横鎮近衛艦隊本隊

 

 

直人の内火艇はサイパンへと帰還の途にあったが、その船上では溶接の音が絶えない。

 

提督「はぁー、戦い終わった後が工作艦の戦いたけなわだってのは、ホントだな。」バチバチバチッ

 

明石「アハハハ・・・」

 

勿論修理をしているのは直人だ。持ってきた背部と腰部の艤装を装着している。

 

最上「ハハハ・・・面目ない・・・。」

 

提督「いやいや、頑張った証拠でしょ、はい終わりっと。一応サイパンまでは持つだろうから、本格修理は到着後だな。」

 

最上「ありがとう。」

 

提督「いいってことよ。次ー。」

 

潮「お、お願いします。」

 

提督「んじゃ、艤装の損傷個所見せて。」

 

潮「は、はい・・・。」

 

苦痛を伴うのかと不安がる様子の潮。

 

提督「・・・! ハハハ、大丈夫、別に痛くも辛くも無いよ、損傷個所の補修だけだし。何なら艤装外すかい?」

 

潮「いえ、大丈夫です!」

 

少しだけ、見栄を張る潮であった。そして後々始まってみて安心するのである。

 

提督「本来ならお前と二人でやる仕事だぞ明石よ。」

 

明石「ア、アハハハ・・・私なら鋼材も格納して運べるんですが・・・すみません。」

 

提督「いや、別に構いやしないさ。」

 

そういいつつ破損個所――――左脚部魚雷発射管――――の修理、というより修復に入った。

 

提督「発射管誘爆か?」

 

潮「敵の砲弾が直撃して、それで・・・」

 

提督「成程、ちょっと右足の発射管見せて。」

 

潮「あ、はい・・・。」

 

提督「ふぅっ・・・!」

 

直人は潮の右脚部魚雷発射管に手を当てると、大きく息を吐きつつそれに魔力を流し込む。

 

解析というのは魔術の基本的なものの一つで、魔力を流して全体的な構造を把握するものだ。

 

提督「・・・成程ね。ちょっと修復しますか。」

 

そう言って直人は工作機械を稼働させていく。この位の修理はお手の物である。

 

潮(あぁ、提督さん、嘘は付いてないんですね。)

 

そんな嘘は基本つかない筈だが。読心術も心得ている彼は心中でそう嘆息した。

 

 

 

一つ補足すると、あくまで工作艦であってドック艦ではないからそんなチートじみた修理工作能力は無い点には留意されたい。(チートとかそんなもん戦闘力だけでたくさんだ。)

 

 

 

午前11時20分 サイパン島造兵廠側ドック

 

 

直人は修理に時間を割いて帰着が遅れに遅れ、この時刻になってようやく帰着した。

 

大淀「お疲れ様でした、提督、明石さん。」

 

提督「おう、お出迎えありがとう。」

 

明石「まだまだ、体力有り余ってます!」

 

内火艇用のタラップを登りながら、出迎えに出ていた大淀に礼を言う。

 

大淀「損傷艦リストはどちらに?」

 

提督「ほれ。」

 

――――言われるまでも無い――――そう言いたげに直人は大淀にリストを渡す。

 

大淀「拝見します。」

 

 

・中破

叢雲 潮 妙高 羽黒

 

・小破

最上 榛名 霧島 摩耶 山城 伊勢 天龍 多摩 名取 如月 三日月

 

・軽損害

大型艦14隻・・・

小型艦16隻・・・

 

 

大淀「・・・意外と少ないですね・・・。」

 

提督「このうち小破と中破の艦には応急修理を施しておいてある。遅れたのはそれが理由だ。」

 

大淀「事情は分かりました。今日はお休みになられますか?」

 

提督「正直後方で督戦するのも暇な仕事だったのでな。ただ徹夜明けだしお言葉に甘えさせてもらうかな。だが、まずはメシだな。」

 

大淀「はい、わかりました。お伝えしておきますね。」

 

 

提督「ありがとう。武士は食わねど高楊枝と言うが、腹が減っては戦は出来ぬともいう。飯もそうだが艦娘への補給も入念にな。」

 

大淀「分かっております。」

 

補給は大切、何時如何なる時もである。

 

提督「宜しい。さて、一度執務室へ行くか。ある程度書類に目を通しておきたい。」

 

大淀「では参りましょうか。」

 

明石「お疲れ様です!」

 

提督「お疲れ様! ゆっくり休んでおけよ。」

 

明石「まだまだ、内火艇の整備が終わるまでは!」

 

明石は何気にいつも意気込みはいい。意気込みだけは。

 

提督「ハハハハ・・・無理は禁物だぞ。」

 

明石「分かってますって! では。」

 

提督「うむ。」

 

その言葉を皮切りに、直人は造兵廠を立ち去ったのであった。

 

 

 

10月14日11時51分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「・・・我がパラオ基地は、貴艦隊が近衛艦隊の遊撃部隊的性質を生かし、パラオに来寇せる敵大艦隊の尽くを壊滅せられたことに深く謝意を表すると共に、今後一層の奮闘を祈るものである。パラオ基地司令官 美川郡次 か。」

 

大淀「わざわざ函数暗号ですか・・・解読に骨を折りましたよ。」

 

今直人が読み上げたのはお分かりの通り、パラオ基地司令部からの感謝の電文である。

 

直人の帰投以前に送られてきたものを、つい先程解読し終えたと言うものであった。それだけ長文であったのだ。

 

提督「まぁ、返信は望んではいないだろう。此方の機密性にも関わるしな。」

 

大淀「・・・そうですね。」

 

提督「さて、そろそろ昼時だな、飯食って寝るとしよう。」

 

大淀「分かりました。お疲れ様です。」

 

提督「ありがとう。」

 

直人はそう言って、執務室を後にした。

 

近衛艦隊とは所謂遊兵であり遊撃隊である。一見無駄な様に見えてその役割は非常に重要なものである、故に専用の暗号や大掛かりな施設まで持つのだ。

 

直人の双肩には、それだけの期待がかけられており、現状それに応え得るだけの一定の成果を上げていたことは事実である。無論、この時世間にその活躍が知られることは無かったのだが。

 

 

 

10月17日10時13分 中央棟1F・エントランスホール

 

 

パラオ沖海戦から3日を経たこの日、直人はこの時、建造棟から執務室に戻ろうとしていた。

 

 

バタン

 

 

提督「ふぅ。開発も終わったし、また書類と格闘だな・・・」

 

一人そうぼやきながら階段へと足を進める直人。

 

 

ドタドタ・・・

 

 

青葉「さっさととんずらですよーっと!」

 

何かの写真を手に入れたと思しき青葉と・・・

 

曙「待ぁぁぁああぁぁてえええぇぇぇえぇぇえええぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!」

 

それを追いまわす曙。

 

提督(・・・ほう?)

 

それを内心ニヤリとして見かける直人である。

 

いやー、女って怖いね(棒)

 

大淀「提督!!」

 

入れ代わり立ち代わり忙しい事だ、と素で思う直人である。

 

提督「どうした?」

 

しかし直人は、大淀の声と表情が含む尋常ならざる雰囲気を感じ取った。

 

大淀「横須賀鎮守府より、大本営発の重要電文が転送されてきました。」

 

そう言う大淀の手には、1枚の紙があった。

 

提督「・・・読もう。」

 

大淀「どうぞ。」

 

大淀はその紙を渡す。それに書かれた内容は以下の通りだった。

 

 

 

『発:大本営

宛:パラオ基地司令官

  上海基地司令官

  高雄基地司令官

  リンガ泊地司令官

  横鎮長官

  呉鎮長官

  佐鎮長官

  舞鎮長官

  大湊警備府長官

本文

以上役職に就く各官は、大規模作戦の作戦会議の為、各自幕僚を伴って大本営に出頭する事。

なお今回の作戦は、「SN作戦」と呼称される。

この作戦に際し、作戦会議を開く為上記9基地の指揮官は、幕僚を伴い大本営に赴くこととする。

日時は・・・』

 

 

 

提督「こ・・・これは!!」

 

その電文は、彼の心中に寒風を吹かせるのに十分であった。

 

大淀「重ねて、横鎮司令部より、電文が。」

 

提督「・・・読んでくれ。」

 

内容が分かり切り過ぎていた為、彼は大淀に読ませる事にした。

 

大淀「・・・発:横須賀鎮守府 宛:横鎮近衛艦隊司令部 本文、先の召喚命令に伴い、横鎮近衛艦隊司令官は、横鎮司令部首席幕僚としてこれに随行/同席すること。なおこの際の肩書は、横鎮防備艦隊指揮官とする。」

 

提督「・・・私も会議に出るのか?」

 

大淀「どうやらそう言う事のようです。」

 

提督「防備艦隊指揮官か・・・面倒な事になったな。」

 

大淀「と、言いますと?」

 

直人のその言葉の心意が気になった大淀は聞いてみる。

 

提督「いや、単純に面倒なだけさ。」

 

大淀「そ、そうですか・・・。」ガックリ

 

そんな答えに肩を落とす大淀であった。怠惰な所は変わっていなかった。

 

提督「だがまぁ、出ない訳にも行かん。土方海将直々の指名だしな。」

 

その点にのみ行く理由を見出す直人であった。

 

 

 

10月16日10時17分 サイパン飛行場滑走路

 

 

この日直人は横鎮に出頭すべく滑走路にいた。

 

しかし、その滑走路に佇む機影と爆音は、サーブ340改のそれではなく、その音はかつて日本からは失われてしまったエンジン――――誉エンジン――――のものであった。

 

提督「まったく・・・、発進前の整備で異常発生ってどうなってる訳。」

 

局長「ハハハ・・・イヤァドウモ、航法装置ガ壊レタラシクテナ。」

 

提督「なにやってんだおい・・・。」

 

そう言う直人の眼前には、日の丸を戴く大型4発爆撃機が暖機運転をしていた。

 

連山改、笹辺大佐機である。

 

提督「これを使う羽目になるとはな・・・。」

 

因みに連山は乗員4名+銃手6人の10人で構成される。

 

空席は僅かに2つしかない為、直人ともう一人、ガードマンを連れていくことに。その艦娘こそ・・・

 

伊勢「今回も私かぁ・・・。」

 

伊勢である。

 

提督「まぁ、腕の立つ剣士だからな伊勢は。」

 

伊勢「褒めて貰えてるんだよね?」

 

提督「それ以外ないと思うけどね・・・。」

 

伊勢「それもそっか、あはは・・・。」

 

伊勢は日向と共に刀を常にその身に帯びている。伊勢自身も相当な力量を持った剣士である。

 

さて、同じ剣士としては天龍がいる。天龍はかつて直人に秒殺されたとはいえ、本来相当に腕の立つ剣士である。

 

ではこの二人をぶつけたらどうなるのか。実はそれをつい前日にやっていた。

 

 

 

10月15日11時59分 中央棟2F・空室(小会議室)

 

 

カァンカァンカァン・・・

 

 

伊勢「てやぁぁぁ!!」

 

天龍「おらあああああ!!」

 

 

カンカンカァンカァン・・・

 

 

提督「ヒュ~。ずっとあの調子で打ち合って息も乱さぬか。」

 

龍田「流石ねぇ~。」

 

日向「まぁ、常時帯刀しているのは伊達じゃないな。」

 

提督「伊達、ねぇ。俺が戦う理由も、伊達と酔狂によってでありたいものだが。」

 

この日直人は、ボディガードを決めるべく伊勢と天龍に試合をさせていた。木刀を打ち合い始めて既に30余分になるが、一向に決着がつく気配を見せず、今の状況に陥っている。完全な泥試合である。

 

ただ二人とも体力面では相当にタフな様で、まだ息が乱れている感じも無いのだ。

 

“完全な拮抗”と言っても良さそうな程のいい試合になっている。

 

提督「・・・。」

 

だがこの時点で既に、直人の心の内は決していた。

 

 

 

時計が12時を指す頃・・・

 

伊勢「やぁっ!!」

 

天龍「うらぁっ!!」

 

提督「そこまで!」

 

 

カァァァァァーーー・・・ン

 

 

二人が放った最後の一閃は、互いに交錯してぶつかり合い、残響音をまき散らして終わった。

 

伊勢「ふぅ・・・で、如何ですか? 提督。」

 

汗を拭きながら一息ついて問う伊勢。

 

天龍「当然俺に決まってるよな?」

 

結論を急ぐ天龍。しかし直人は落ち着いている。

 

提督「この勝負――――」

 

直人の口が、結果を述べる・・・

 

提督「勝敗の面に於いては両者共に甲乙が付け難いが、任務の性質を鑑みるに、伊勢にその適性があるものと認める。」

 

天龍「なにっ!?」

 

伊勢「え?」

 

両者共に信じられないと言った様子で声を上げる。

 

日向「まぁ、そうなるな。」

 

龍田「・・・あらぁ。」

 

天龍「どう言う事だ提督ゥ!!」

 

直人はその理由を説明し始めた。

 

 

 

先程の試合の際、伊勢と天龍はスタイルが違った。

 

天龍のそれは攻撃に特化されており、防御に関しては敵の攻撃を非危害範囲(相手から見て自身に被害を与えられない範囲)へといなして自身の攻撃により有利な位置へ移動する事で補っている。これは攻撃の回転率が上がるがその一方で攻撃一辺倒になりがちであり、守勢に回ると不利になりやすい。

 

対して伊勢のスタイルは堅実で、しっかりとした防御の後攻撃へと移る形を取っている。しかもそのスタイルは練熟したもので、敵の攻撃を受け止めた時にその力の方向を逸らして威力自体を弱める事で、防御から素早く攻撃に移れる様工夫が凝らされているなど、守りに滅法強いのだ。故に隙は少ない。

 

統括すれば天龍は攻めに傾倒し、伊勢は防御の比重が多少多い、という所か。

 

 

 

提督「つまり防衛任務に適しているのは伊勢という訳だ。」

 

天龍「でも攻撃は最大の防御というじゃねぇか。」

 

提督「それだけで護衛対象が守れたら、世の中もっと簡単だろう?」

 

天龍「・・・そうだな。」

 

苦い顔をして天龍が言う。

 

伊勢「ボディガードならば、対象を守り抜いてこそ作戦目的成功である。そういうことですね?」

 

提督「そう言う事だ。覚えておくんだぞ天龍、“攻撃は最大の防御”というのは、自身が能動的に動ける場合に限られているという事をな。」

 

天龍「・・・それもそうだな、いい勉強になった。いい試合だった伊勢、またいずれ再戦願うぜ。」

 

伊勢「いつでも、受けて立つわ。」

 

戦いの後の握手を交わす二人。そしてそれを見ながら「丸く収まってよかった」と心底思う直人であった。

 

 

 

~回想終わり~

 

 

その様な事があったもんだから、伊勢に託した重責は大きい。

 

万が一の場合、守るのは伊勢なのだから。

 

伊勢(ま、頑張るかな・・・。)

 

提督「よーし、そろそろ行きますか。」

 

伊勢「あ、うん。」

 

大淀「お気をつけて、提督。」

 

提督「あぁ、行って来る。」

 

その言葉を最後に、直人は大淀に背を向け、連山改に搭乗した。伊勢がそれに続く。

 

直人と伊勢を乗せた連山改は、4基の誉24-ル型エンジンを轟かせ、誘導路から滑走路へと前進していく。

 

なぜ今回あえて伊勢のみを、それも言わば用心棒として選抜したのかというと、司令部幕僚として会議に出席する身であるなら、自身の幕僚ともいうべき艦娘を率いる理由がないからである。

 

一度停止した後、ゆっくりと滑走に入った連山改は、1000m程滑走した後、ゆっくりとその機体を浮かべ、やがて針路を北へと向けて飛び去って行った。

 

後日直人が「私闘であり死闘」と語った空前の作戦、「第1次SN作戦」の劇場は、この一事を以てかくて開場したと言っても過言ではない。

 

それは、深海と人類/艦娘双方に、甚大な犠牲を強制する惨禍となる戦いの、まだ、ほんの序幕に過ぎないのである―――。


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