異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、ナレーター兼解説者の天の声です。

青葉「青葉です!」

9月15日になり、今夏の激闘が早くも懐かしく感ぜられる時期になりました。

5航戦改2情報も公布され、取り敢えず肩を撫で降ろしておるところであります。

青葉「そうですねぇ、あの戦いが終わって早1ヵ月ですし。」

正式な終了と言う意味ではそう経っちゃいないが。

青葉「それ言いますか敢えて。」

提督「言うべきなんじゃないかな。」

青葉「提督!?」

おっと、紀伊提督に於かせられましてはご機嫌麗しう。

提督「面倒な言い回しは結構だ、俺にそんな態度を取られる資格などないのは、卿が一番よく分かっている筈だが。」

・・・そうだったな。

青葉「それで、なんで提督がここに?」

提督「いやいや、偶然見かけたんでな、通りすがりの人さ。ではな。」

青葉「あっ、はい・・・。」

・・・なんだったんですかねぇほんと。

青葉「さぁ・・・。」

まぁ、今日の解説に行きましょう。

青葉「今日はどうしますか?」

うん、実装にはあまりに早いが、この作品ではすでに巨大艤装紀伊の第4飛行隊所属景雲がやってしまったので、機種転換についての解説で行こうと思う。

青葉「なるほど。」

まず機種転換任務に付いておさらいしておこう。

機種転換は、特定の艦に特定のネームド艦載機を搭載した上で旗艦にし、更に特定の艦載機(ノーマルの天山や烈風など)を廃棄する事で達成される。

これに対し、中の人の見解による仕組みはこうなります。

例えば赤城の村田隊が使う機種を、九七式艦攻を上位機種である天山とする場合、村田隊の機材をすり替え、すり替えた九七式艦攻を廃棄し、天山にカスタマイズを施す事によってこれに代える。これが通常の方法。

加賀の赤松隊零戦21型をどんどん進めていくととある局地戦闘機に行きつくのだが、陸上機である為一旦その局戦を開発した上で通常の場合の様に零戦を破棄し、その上で局戦に艦上運用能力を付加する事によって、これに代える。

また機体そのものを変える必要がない場合は、元の機体に改良を施して使う、これが景雲改から景雲改2になった時の手品である。

このようにして機体を変える事により戦力アップを図る、本来の機種転換の形に立ち返ったとも言える仕組みになっております。

青葉「水上機の機種転換も来るといいですよね。」

あればあったに越したことはないが、大して武勲もないし難しい所だな。

現状ストーリー本筋の更新に忙殺された結果、その時登場した超兵器の紹介などが疎かになっている場合がありますが、それらは気付き次第順次更新されておりますので、読み直してみると色々と追加されているかもしれませんね。

青葉「確かにそうですね。色々と手が加えられていない事も無いですね。」

お、おう? えらく控えめだがまぁいい、取り敢えず、次の章に行きましょうか。

青葉「そうですね、いきましょうか。」

ではどうぞ。


第1部3章~平和たる騒乱~

2052年6月2日午後9時12分、直人は浴場におけるひと時の安息が崩壊する音を聞きながら、一人の艦娘と、互いに裸一貫で対峙していた。

 

金剛「ワタシが一緒じゃ、嫌デスカー?」

 

提督「え、ええええぇぇ・・・っと・・・だな・・・。」

 

その相手は言うまでも無く、横鎮近衛艦隊司令官である直人の秘書艦であり、艦隊首席幕僚、艦隊総旗艦たる大戦艦金剛である。

 

提督「いいとか、いやとかじゃなく、だな・・・その、物事には、手順と言うものが・・・」

 

金剛「固いこと気にしてちゃノーデース、提督。」

 

頑として互いに譲らぬが、一つ異なったのは、理性の正常さの有無である。

 

提督「いや固い固くないとかじゃないだろう流石に・・・」

 

それは直人が正常な理性を保ち続けた、正確には崩れ去る砂の山を堅守していたのに対し、

 

金剛「じゃぁ、ダメなんですカー?」

 

提督「そんな事は誰も言ってないけども・・・!!」

 

金剛のそれは理性で以ってそれを成すというものであった、すなわち正気なのである。正常であろう筈はない。

 

提督「とっ、とにかくアカンでしょ!? 後でバレたらお互いに怒られるよ!? 大淀さんに!」

 

金剛「その時はその時デース。」

 

だめだこいつううううううぅぅぅぅ~~~~!?

 

崩壊しつつある理性を再構築―――――最もペースの追い付いていないそれを―――――しつつ、いきり立つ劣情を抑え込もうとする直人。

 

常人であれば既に陥落している所を踏みとどまる、それは勇猛であり無謀な試みであった。

 

そして、その様は既に大淀に知れていた。

 

 

 

午後9時19分 中央棟1F・無線室

 

 

大淀「へぇ? 金剛さんは後でお説教、ですね。」

 

大淀はスクリーンの一つから流れてくる音声を聞いてそう言う。

 

大淀「それにしても、男浴場のカメラが真っ白だから音声入れてみたら、金剛さんが乱入してるんですからねぇ。イケナイ艦娘は叱っておいた方が提督の身の為ですしね。」

 

はい、一部始終は全て大淀の掌中に収まっていました。

 

 

 

提督(まずいな・・・実力行使も辞さぬか。ならば・・・)

 

金剛(こうなれば実力を以て成就させるしか・・・!!)

 

互いに形こそ違えど同じ結論に至る。もっとも金剛の目的が「既成事実作り」である点は疑いようがなく、その点直人は全力を挙げて防衛しなければならなかった。

 

提督(生憎と、霊力回路を魔術回路代わりに出来るんだよね。)コオオッ

 

直人がその方法で立ち込める湯気を急速冷却して氷の粒に変えようとした、その時であった。

 

金剛「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」バッ

 

提督「なにぃっ!?」

 

突如雄たけびと同時に金剛の右腕が湯気の向こうから、直人に向かって飛び出してきた。

 

提督「くぅっ!」ザバッ

 

直人は咄嗟に右に躱す。

 

金剛「うわっぷ!?」ザバァァァァーーーン

 

提督「おいおい。」

 

直人が油断した、一瞬の隙が生まれる。

 

金剛「ハッ!!」ゲシッ

 

金剛が思い切り直人の足を払う。

 

提督「ぬあっ!?」ザッバアアァァァァァーーーン

 

払われた方は先に金剛が上げた水しぶきと波紋と湯気の3つが重なり合ってこれを察知できず、そこが浴槽の中であったこともあって足を滑らせ、湯の中に倒れ込む形でこけた上に盛大な水飛沫が上がった。

 

それが見事に視界を遮り結果として金剛の次の挙動に気付く事が出来なかった。

 

金剛「チェックメイトデース!!」ザバアアアッ

 

金剛が覆い被さる様に飛びかかったのである。

 

提督「うぐっ!!」

 

直人は必死に後ろに飛ぼうとしたが、それはかえって体制を崩したばかりか、浴槽の一面を背にした為自ら逃げ道を塞ぐことになった。

 

提督「しまっ!?」ドン

 

案の定背中を打つ直人。

 

金剛「捕まえたデース!」バシャアアァァァァーーーン

 

提督「くっ!」

 

金剛の腰が直人の太腿に座った為動けなくなる直人、ことこの場合に関して言えば、直人の一方的な負けであった。

 

提督「ぬ、う・・・動けん。」

 

金剛「逃がさないデース。」

 

提督「はぁ・・・で? 何が望みだ?」

 

即座に切り替えていくスタンスの直人。

 

金剛「提督と二人でオフロに入る以外何がありマスカ? 未来の旦那様♪」

 

提督「おまっ・・・!!///」

 

ドストレート過ぎて照れると同時に困惑する直人である。

 

提督「こっ恥ずかしい台詞平然と言うな、第一気が早すぎるだろうが・・・。」^^;

 

金剛「でもお互い退役した後どうするんデース?」

 

提督「今から退役後考えるのっ!?」ガビーン

 

金剛「テイトクは年金出るだろうからいいかもしれませんケド、私行く当てもないデース。」

 

提督「んなっ・・・!!///」

 

金剛「最悪身売りして・・・」

 

提督「だぁぁぁぁぁーーーーーもう!! 要するに『そう言う事』だろう!?」

 

金剛「イエス!『そう言う事』デス!」フンスッ

 

鼻息荒いなおい。

 

提督「はぁ~、ここまで最良で図々しい嫁さん貰うとはなぁ・・・。」

 

呆れつつも言う直人。

 

金剛「図々しいとはどういう意味デスカッ!」

 

提督「お前なぁ! 人の想いに付け込んでああいう事言うとか図々しい以外に何がある!?」

 

金剛「想いに付け込んでるつもりは・・・え?///」ハッ

 

ようやく気付いたらしい。

 

金剛「もしかして、あの時の言葉、本気ダッタ・・・?///」(焦

 

月夜の廊下での一件の事である。

 

提督「当たり前だ、あんなセリフそう簡単に言えるか。」

 

金剛「あ、あうう・・・///」

 

完全に赤面してしまう金剛。可愛い。

 

提督「勿論今でも好きだ、金剛。この想いは変わらんよ、ずっとな。」ギュッ

 

金剛「・・・ッ!」

 

金剛を抱き寄せる直人、微妙にヤケクソになっている。

 

金剛「・・・私も、大好きデース・・・!」

 

二人の唇は、自然と引き寄せられ、重ねられる。

 

周囲を白いヴェールに包まれ、何者も目にすることが出来ない瞬間であった。

 

そしてその流れに流されるまま、二人はどんどん大胆に、そしてその状況を把握したものが唯一いたとすれば、それはただ一人である。

 

 

 

午後9時37分 中央棟1F・無線室

 

 

大淀「痴話喧嘩の次はこれですか・・・忙しい人達ですねぇ・・・」ワナワナ

 

男湯の監視カメラのスピーカーから、思いっきり嬌声が流れてきた事で怒りを燃やす大淀。

 

大淀「いい度胸だゴラァ・・・」ゴゴゴゴ・・・

 

指を鳴らしながらそう言う豹変してしまった大淀さん。

 

金剛死亡フラグ成立。

 

 

 

午後12時21分 入渠棟・男湯

 

 

提督「疲れた・・・」チャプッ

 

金剛「フフーフ。」キラキラ

 

行為を終えた二人は体を洗って再び湯に浸かっていた、この時になると流石に湯気も薄れて来ていたが・・・

 

提督「はぁ~・・・ん、んんん?」

 

金剛「ン? どうしたんデース?」

 

提督「金剛、あれ・・・」

 

直人が天井の一角を指を差す。

 

金剛「ん?」

 

指差した方向には、スピーカー付きの監視カメラ。

 

提督「・・・///」(照

 

金剛「・・・///」(焦

 

後先考えないとは正にこの事である。

 

提督「やばい!!」

 

金剛「淀サンにバレてマース!!」

 

大淀「もう遅いんじゃゴルァァァァァァァァァ!!」ドガアアアアアアァァァァァァーーーーン

 

突如蹴破られる浴場の扉、その音が浴場一杯に反響する。

 

提督「お、大淀、サン?」

 

金剛「もしかして・・・全部・・・」

 

大淀「えぇ、しっかり録音テープも。」

 

提督「んなぁぁぁっ!?」

 

金剛「こうなったラ・・・。」

 

提督「そうだな。」

 

金剛・提督「「大淀を排除するまで(デース)!!」」ババッ

 

直人と金剛は一斉に突進、白金千剣で4本の剣を取り出し金剛に2本渡し、突撃を敢行する。

 

大淀「フッ、勝てると?」スッ

 

一瞬で背後を取る大淀。

 

提督「なにっ!?」

 

金剛「速過ぎる・・・!」

 

大淀「はっ、そりゃああぁぁぁっ!!」ドドガアァァァァッ

 

 

 

提督「ぐ・・・あ・・・」

 

金剛「ソン・・・ナ・・・」ガクッ

 

まとめてワンパンダウンされる始末であった。

 

大淀「さ、もう遅いですから、早く寝て下さいよ?」

 

などと言い残しつつ立ち去る大淀である。

 

提督「・・・大淀さん、強すぎやしませんかね?」

 

金剛「・・・。」

 

余りの強さに不意打ちを喰らった直人、次はないぞと心に決めるのであった。

 

提督「ちょ・・・金剛気絶してますやん。」

 

その実力に慄然としながら。

 

提督「ったく・・・うぐっ、いててて・・・。」

 

大淀の全力のヒールキックを受けた背中が痛む直人、しばらく立てそうにはなかった。その場に座るのが精一杯であった。

 

提督「金剛ー、大丈夫かー?」

 

金剛「ウ・・・ウーン・・・テ、テイトクゥ・・・?」

 

提督「だから言わんこっちゃない・・・イテテテ・・・」

 

金剛「酷い目にあったデース・・・。」

 

提督「そうだな・・・立てそうか?」

 

金剛「ダメデスネー。目の前がクラクラするデース。」

 

どうやら軽くめまいでも起こしているらしい。

 

提督「だよなぁー・・・俺も立ち上がれそうにないわ。」

 

金剛「あぁ~・・・少し良くなってキマシタ。」

 

提督「そりゃよかった、治ったら俺の部屋まで運んでってくれない?背中痛くて動けん・・・。」

 

金剛「リョ、リョウカイデース。」

 

ともかくしばらくこのままであることは間違いなかった。

 

 

 

大淀「眼鏡が曇ってしまいましたね。」フキフキ

 

などと言って立ち去っていく大淀、強すぎる。

 

 

 

6月3日午前8時 提督私室

 

 

チュンチュン・・・

 

 

提督「・・・う、うぅ~ん・・・。」

 

え、えぇ~っと・・・俺の部屋・・・か・・・。

 

提督「―――背中に、湿布?」

 

な、何が起きた・・・確か金剛に部屋に運ばれる途中で、寝ちゃったんだっけ・・・。

 

直人が覚えているのは、“お姫様抱っこで”金剛に抱きかかえられている所まで。

 

ではざっと振り返ってみる事にしよう。

 

午後12時33分、随分と早く復活した――――もっともこれは艦娘の本領であったが――――金剛が、直人と自分の身体を拭い、服を着て着せ、入渠棟を後にする。

 

午後12時40分、直人をお姫様抱っこで抱え上げた金剛が提督私室に到着、相前後して雷が救急箱を持って現れる。

 

 

 

金剛「はぁ~、いつの間にかスリーピングナウなんですからネー・・・。」

 

直人をベッドに降ろしながら言う。仰向けではなく横向きに。彼の背中を気遣っての事だった。

 

 

ガチャッ

 

 

雷「まったく、我らが総旗艦様は、男湯に忍び入る痴女でした、なんてシャレになってないわよ?」

 

不意にドアを開けて現れたのは、技術局生体保全課と医療課を統括する雷だった。その左手には大きな救急箱を携えていた。

 

金剛「・・・ドウイウイミデース?」ゴゴゴゴ・・・

 

 

額に青筋が浮かぶ金剛、しかも顔が笑っているが目は据わっている。怖い。

 

雷「あなたもしかして、誰にも見られてないと?私の目が誤魔化せると思った訳?あの暗闇でも資源庫の辺りから見えてたわよ、月も出てたしはっきりとね。」

 

金剛「・・・全然気づかなかったのデース。」

 

雷「目がいいのよ私。」

 

何も特異点が装備だけとは限らない、という好例であろう。

 

暗闇で月明かりだけを使って数百m先の人影を誰と特定するには、少なくとも3.0の視力が必要になるだろう、それに類稀なレベルの記憶力でその人影を記憶しない限り不可能な芸当である。

 

尋常ではない身体面の能力、分かりやすい例を上げれば就役した傍から槍や剣の達人であった龍田や天龍、並外れた能力を持った夕立当たりであろうか。

 

ただ夕立はその運動神経もさることながら、独創性とそれを実践する実行力に秀でるタイプで、決して常識の範疇を超えたものではないのだ。無論それを最初から備えている事は特異点であるに違いない。

 

金剛「・・・マァイイデース。それで、どうしたんデース? 救急箱なんて持って。」

 

雷「司令官の背中、治療がいると思ってね。」

 

金剛「・・・ご推察の通りデース。」

 

雷「だと思った。大淀さん乗り込んでいったのも見たもの。それじゃ少し失礼しますか。」

 

 

 

と言う経緯で雷が湿布を貼って行っていた。

 

その後金剛も部屋に戻り、直人はぐっすり眠っていた。一晩中湿布が貼られているのに気づくことなく。

 

提督「金剛じゃこんな上手い貼り方出来そうにはないなぁ。」

 

かなり失礼なようだが実は半ば以上当たっている。

 

金剛は事務はそつなく、と言うか普通にこなすが、普段やらないこと、例えば医務とか清掃に関しては、出来ても手つきがおぼつかない。という事を差している。

 

何も金剛が不器用とは言っていない。なぜなら金剛の書く字は、端正で美しい字だからだ。

 

提督「では他に手馴れていそうなのは・・・成程雷か。白雪は真面目だから普通の時間に寝ているしね。」

 

裏返すとおませちゃんな艦娘は無自覚に不真面目だから困る、という事になろうか。(やめとけ)

 

提督「だが何で気づいたのか・・・あぁ、風呂入った時間がまだ午後9時だったもんなぁ。」

 

起きていても不自然はない時間ではある。

 

提督「・・・まぁいい、これ以上詮索するのは止すとしよう、飯食って仕事だな。」

 

その前に着替えだ。と付け足しながら直人は今日も一日動き出すのであった。

 

 

 

その後執務に入った直人だったが、1航戦が再び不穏な気配を漂わせた為執務室の窓からロータリーにいた赤城にダイビングヒールシュートを、加賀に流星落とし(イナイレ乙・ちなみにボールは即製錬金+着発爆裂の仕掛け付き)を、それぞれ頭部にクリティカルヒットさせて鎮定した以外は特に変わり映えもなかった。

 

そう、“その時までは”。

 

 

 

6月3日午後2時42分 中央棟2F・執務室

 

 

提督「よし、今日は終了だな。」トントン

 

大淀「お預かりします。」

 

提督「ありがとう。」

 

直人はその時、ちょうど仕事を終えたタイミングであった。

 

 

コンコン

 

 

提督「どうぞー。」

 

那智「失礼するぞ。提督、そろそろ仕事終わりじゃないか?」

 

提督「あぁ、そうだが。」

 

大淀「ではお先に失礼しますね。」

 

提督「お、おぅ・・・お疲れさま。」

 

大淀「お疲れ様です、御健闘を。」

 

ん? それってどういう・・・

 

那智「昼間からで悪いが、一杯やらんか? 加賀も呼んでいる。」

 

提督「・・・マジですか。因みに他に誰か?」

 

那智「千歳と伊勢、朝潮と如月だな。」

 

提督「後ろ二人はともかく・・・。」

 

直人はがっくりと膝をついた。

 

提督(終わった・・・これ潰しにかかる奴だ。)

 

明石「ちょーっとまったぁーー!!」

 

そこに最悪の形で現れるのが明石であった。

 

提督(予感はしたが一番来てほしくなかった・・・。)

 

悪い予感ばかり当たるなと念じるほど当たるものである。

 

いい予感がそうあってくれと念じるほどそうならないのも然りであろう。

 

そして、ちょっと待ったコールという事は、何の話か分かっている証左。つまり・・・

 

明石「その酒宴、私も混ぜて頂きましょう。私は提督と飲む約束もありますし!」

 

那智「いいだろう、飲み相手は多い方がいい!」

 

提督「・・・終わった。」ボソッ

 

落胆しきった声で呟く直人であった、これは潰される事を覚悟するしかない、と言うか7割そう言う未来であろう。

 

那智「ん? どうかしたか?」

 

提督「いえ、何でもないです、付き合いましょう。」

 

明石「あ、それはそうと、ご注文の品出来ましたのでその御報告に上がったんです。」

 

ご注文の品とは勿論内火艇の事である。

 

提督「おう、ありがとね。じゃぁいこうか。」

 

溜息交じりにそう言う直人。

 

那智・明石「おう!」

 

そしてウキウキの二人であった。

 

その二人の後に続いて歩きだす直人、この先に待つ出来事を憂慮しつつ、潰れない方策を考え始めていた。彼自身下戸ではないが酒豪でも無い為、出来るだけ飲まないようにする方策はないものかと考え始めていたのだった。

 

 

 

まぁ、当然ながら小一時間で終わる筈も無く。

 

初めはたわいもない話が、自然と特定の方向に向かっていく。

 

始まりの発端は加賀だった。

 

加賀「そう言えば提督、かつての戦争の知識に詳しいと仰ってましたよね。」

 

提督「ん? うん。」

 

因みに殆ど全員がウィスキーな中、直人だけビールである。

 

これも潰されないようにする策であった。

 

加賀「どれ程のものか、太平洋戦争の主だった戦いを挙げてみて下さいよ。年代別に。」

 

提督「ほう? よかろう。」

 

 ここで直人はただ単に列挙しただけで味気ないと思うので、代わって私(天の声)が概要を説明しよう。

但しこれはあくまで作品世界のものではなく史実に於けるものなので、誤解無きようお願いしたい。

 

 1941年12月8日、日本軍はコタバルへ侵攻、その数時間後に真珠湾奇襲が発生、太平洋戦争は二つの戦域で前後して火蓋が切られた。

マレー攻略の日本陸軍は僅か3か月でマレー半島全域を制圧、そこかしこに英豪軍、更にマレー軍の屍をも晒し、シンガポール要塞も降伏した。南部仏印サイゴンを中心地とした海軍航空隊は英海軍新鋭戦艦P・O・ウェールズを撃沈、真珠湾での大戦果と併せて、航空機中心時代の端緒を開く。

 南洋諸島各地に展開する海軍も陸軍と共同してグァムとウェーク島を占領、そこから足掛け5か月で東はマーシャル諸島、西はビルマ(現在のミャンマー)東部、南はラバウル周辺海域まで進撃し、1942年5月時点でも、広大な地域を占領するに至った。

 珊瑚海海戦では有史史上最初の空母決戦が展開され、祥鳳沈没、5航戦が大小損害を負い、ポートモレスビーの攻略に失敗、引き換えとしてはささやかなもので、空母レキシントン撃沈、ヨークタウン中破と言う戦果を挙げた。戦術的には引き分けであったと言える。

 しかしその直後帝都空襲が行われる。ドーリットル中佐指揮のB-25爆撃機16機が空母ホーネットより飛び立って東京を初爆撃を行った。

それをミッドウェー島からの空襲と早合点した軍上層部は、以前からGF(連合艦隊)長官山本五十六大将の提唱していたミッドウェー島攻略を実行に移し、本土にいた艦艇の全艦艇を投入して、北に陽動を行うと同時にミッドウェーに主力艦隊を振り向けた。

柱島、呉、トラックの各泊地から艦隊が出動、質量、兵の練度も充実した、当時の世界最強艦隊であった。

 しかしミッドウェー海戦は度重なる不幸の連続と、米軍側に情報が漏れていたことと、日本側の作戦指導のずさんさが祟って大敗北を喫し、南雲機動部隊潰滅と言う最悪の結果に終わってしまう。(アメリカ側に曰く、『この戦いでも我々は負ける筈だった』という。)

 そこから日本は敗北への道を転がり始める。42年8月、米軍は対日反攻作戦「ウォッチタワー作戦」を発動し、ガタルカナル島とその対岸にあるツラギ島を急襲してその飛行場を制圧した。

日本軍はラバウルの第8艦隊が急行し、これを迎撃する形で米夜戦部隊が出動、第1次ソロモン海戦が生起した。

日本軍は大戦果を挙げ緒戦の勝利を飾るが、目的の輸送船を目前にして引き返した。司令官三川軍一に曰く、「敵機の襲来を恐れたからだ」とのことだが、この時点では種々の事情から、日本艦隊への空襲は不可能であったと言われる。

 

 そしてこの後足掛け半年に渡ってガタルカナル島を巡る死闘が繰り広げられ、撤退後もソロモン諸島防衛の為の戦いが続き、終結したのは1944年になってからである。

この頃には既にトラック島は無力化、マーシャルも陥落し、ラバウルも敵中に孤立、この年の6月にはマリアナ沖海戦が勃発し空母3隻を喪失するなど、徐々に海軍はその抵抗力を喪失して行った。

 各地の島で玉砕の悲劇が立て続けに起こり、サイパン守備隊を指揮した南雲忠一も自決、さらに山本暗殺事件(海軍甲事件と言う)の後後任となった古賀峰一大将がフィリピン上空で行方不明となる事件(こちらは海軍乙事件と呼ばれる)まで生起。

不運にも防水カバンに収められた作戦指令書を敵に奪われ複写され、原文をGF司令部の福留参謀長の元に戻すと言う謀略によって、マリアナ以後の作戦指導全てがアメリカ側に知れてしまったのである。

 即ちレイテ侵攻に呼応して行われた捷1号作戦も、参加戦力、その指揮官の名前さえも知れていた。レイテ沖海戦はあと一歩と言う所まで迫ったが、栗田艦隊の謎の撤退によって失敗、本来アメリカが負ける筈だった戦いは、再びアメリカの勝利に終わった。

 

ここから続く悲劇は、読者諸氏もご存知の事であると信じ省略させて頂く。

 

硫黄島、沖縄、広島と長崎、そして対ソ戦と本土空襲である。

 

直人がすらすらと時系列順に作戦名を列挙して行ったのを聞いていた加賀は感心していた。これは那智や千歳も同様だった。

 

千歳「すごいわねぇ・・・。」

 

加賀「ここまで整然と並べられるとかえって感心しますね。」

 

提督「俺の知識を得る上でのモットーは浅く広くなもんでね。」

 

加賀「成程。では一つお聞きしましょうか。」

 

提督「なにかな?」クビッ

 

直人は盃をあおりながら言う。

 

加賀「この戦争は防ぎ得たと、お思いですか?」

 

提督「ない。それは無い。」

 

加賀「根拠は如何様に?」

 

どうやら加賀は酒が入ると積極的な答弁が出来るらしい。

 

その加賀の積極さに応えるべく、直人の舌がフル回転を始める。

 

提督「まず大前提に来るのが、戦争と言うのは一種の経済活動だという事。損をするのに戦争なんておっぱじめないし、両国の利害が一致しないという事になると、それは戦争になっても致し方ないと思う。そこへ更にどうしようもなくなってくるのが、アメリカと日本の進みたい方向だ。」

 

朝潮「進みたい方向、ですか?」

 

そこに意外にも朝潮が質問を挟んできた。見ると顔が既に結構赤いが表情はケロッとしている。駆逐艦でも隠れ酒豪であろう、如月は既に寝ている。

 

提督「そう。アメリカはアジアの経済市場を欲していた。それは戦争前に日本や旧ソ連、イギリス・オランダ・ドイツと言った国々が分かち合って利益を得ていたものだ。しかし日中戦争でそれを日本が全部奪っていった。正確には日本以外の国の中国における権益を台無しにした。」

 

加賀「つまり、アメリカは日本による権益独占の破壊を試みようとした訳ですか?」

 

提督「その意味ではそれは正しい。だがわざわざ握った領土を日本が手放す筈は無い。中国に侵攻するなんてナンセンスだし、それをすれば日本本土や満州から日本軍が増援されてしまう。ましてや、経済市場獲得を目的とするアメリカが中国国民に恨みを買う事になってまずい。一方日本は無資源国の悲しさ故に、南方の資源を欲していた。石油禁輸という経済制裁を受けてからは、それがより顕著になった。」

 

千歳「ふむふむ。」

 

提督「つまり日本は南に、アメリカは西に行きたがっていた。そしてその進路はミッドウェー・グァム・フィリピンを繋ぐ横線と、日本本土から父島、サイパン、ボルネオに至る縦の進軍ルートで交差していた。つまり構造上満州問題や日中戦争が無かったとしても、いずれアメリカが戦争を仕掛けた可能性は大いにある。」

 

那智「つまり私達は、いずれにしても戦わざるを得なかったわけだな。」

 

提督「そう言う事になる。つまりアメリカはいずれにしても戦争をしたがっていた。目的は自分の国にいる資本家達を満足させる為。そして太平洋戦争とその後進出した中国市場は、資本家達に莫大な富をもたらした。アメリカの戦争は、当時アジア最大の独立国であり世界有数の軍事力と経済力を誇った日本の無力化と、中国市場席巻と言う二重の意味で成功したと言える。今じゃアメリカ企業は終戦直後程の勢いはないけどね。」

 

2050年当時の中国市場は、日本中国韓国の資本が中心になっている。アメリカはどうしてもこの3か国の後手に回っている感が否めず、一部米資本は撤退している程であった。

 

加賀「では日本にとっては損しかないのでは?」

 

提督「損と分かっててもしなければならなかった。『自分達の国』を護る為、そうせざるを得なかった。大博打だった。勝てばこの上ない儲けだった。南方資源地帯を掌握しアメリカを傀儡に出来た。日本に勝てる国は無かっただろうけど、そんな夢を見るのに日本は弱すぎ、アメリカは強すぎた。正直なところ海軍戦力の逐次投入と分散配置、これはまずかった。」

 

那智「軍事学の基本と言う点からか。」

 

提督「そういうことだ。『戦力の集中運用』、少し意味は違うが投入できる最大戦力を投じて戦わなければならないのは軍事学の基本だ。出し惜しみは良くないし、二兎を追う者は一兎をも得ずという諺を無視した作戦指導も多々あった。緒戦は成功しただろうが、それは海陸それぞれが別でやったからだ。南方作戦で海軍は協力しただけだからね。だがそうして可能だった二面作戦を海軍だけでやったのはまずかったし、情報管理不徹底では勝てる戦も勝てないのは、ミッドウェーを見れば分かる。ガタルカナルの時、陸兵5万とトラック島のGF主力を全て投じた反撃をやってれば、ガタルカナル方面の情勢はかなり好転した筈だったのに。この場合はトラックの燃料枯渇を恐れたが為に躊躇ってたんだけどね。」

 

那智「だがもしそこで駆逐艦や巡洋艦、ソロモン方面に投入した全戦力を結集していれば良かった、という事か?」

 

提督「あれは逐次投入の典型だ。一時の戦力は大したことはなかった。アメリカが総反撃したら壊滅する程度の戦力でしかない。戦艦はトラック島とガタルカナルを往復する形で来てた訳だし。」

 

那智「つまり結局のところは、出し渋った軍部の責任だという訳だな。」

 

提督「そう言う事でもあるし、ガタルカナルへの攻撃を予見できた者が居なかったのも大きかった。そこまで注目されてた島じゃないんだ。ツラギ島の対岸にある島に飛行場を築けば有力な基地になる、その対岸にあったのがガタルカナル島だった。その再三の要請に応えた形だった訳だ。だが軍部はミッドウェーの敗北後、艦隊の再建にのみ追われ、この島の必要性に目を向けるチャンスを逃してしまった。決定的敗因の一つだろうね。」

 

付け加えるならば、ガタルカナル島は陸軍に何の申し開きもなく海軍が勝手に占領した島であった。故に陸軍の参謀たちは『ガタルカナル』という地名さえも、知らなかったのである。挙句米海兵隊の上陸とうち続く敗戦に陸軍に頭を下げる羽目に陥ったばかりか、それだけの努力と犠牲を払った末に奪われたのであるから、何をかいわんやである。

 

朝潮「その結果が、私を含んで敵も味方も数多の屍を海に沈めた、アイアンボトムサウンドと呼ばれる事になるほどの場所が生まれた原因の一つ、という事ですね。」

 

提督「へぇ~、朝潮は飲み込みが速いね、凄い事だ。」

 

朝潮「お褒め頂きありがとうございます。」

 

提督「日本は十分に勝てたんだ。超兵器の元祖だったんだからね。」

 

朝潮「そうですね、私達もその事を誇りに思っています。」

 

提督「俺だって誇りに思う。大戦艦播磨の写真は数多残っているし、その雄姿に魅せられないものは日本男子には居なかった事だろう。実際第3次ソロモン海戦の勝敗は播磨の鉄槌が下したと言ってもいいだろう。」

 

この世界での第3次ソロモン海戦に比叡と霧島は参加してはいないし、夕立に至っては沈没は辛うじて免れている。綾波は沈んでしまったものの、それはアメリカ側超兵器によるものであった。

 

超巨大双胴揚陸戦艦『デュアルクレイター』と呼ばれたそれから発進した魚雷艇の餌食になってしまったのだ。その仇を打ったのが、サンベルナルディノからの退却戦の折に直人が沈めた播磨だったのである。

 

その22インチ砲の巨弾は、デュアルクレイターの船体中央に命中5発を数え、耐えかねた船体は半分に割れて沈んでいったと言う。因みに夕立が沈むことになるのは、それから数か月後のコロンバンガラ島沖夜戦での事であった。

 

余談であるが、吉川艦長はその後大波艦長として赴任するが、セント・ジョージ岬沖での夜戦で乗艦ごと爆散し、艦は爆沈、生存者ゼロという悲劇の被害者となってしまった。

 

話を戻し、超兵器はどの国家においても燃料が不要であると言うただ一点に於いて、7つの海を駆けずり回って奮闘していたのである。

 

ミッドウェーの際に同島に接近し、近づく敵を片っ端から海の底に引きずり込みつつミッドウェー島の地上施設を木っ端微塵にして一矢報い、ソロモン海戦では飛行場砲撃に活躍、一度ならずヘンダーソン基地を壊滅させ味方の窮地をも救い、トラック島空襲の際も空襲によるダメージをゼロに抑え、味方を救い出して後損害を恐れて後退したと言っても、艦砲射撃でトラック島無力化を一時中断せざるを得ない程に痛めつけた。

 

ブルネイから出撃したレイテ沖では見事マッカーサーを葬り去り、ハルゼーの首にあと一歩と言う所で米究極超兵器の前に力尽きるまで戦った勇猛なる日本の守護神。その手に握りつぶされた艦艇40は下らず、台湾沖航空戦の時撃墜した敵機の数を抜いてもその撃墜数はも100や200ではないと公式記録は告げる。

 

超兵器の中でも無類の働きぶりを見せたのが、IJN播磨であった。

その雄姿その戦歴、エピソードに事欠かないその伝説は、今の世にも語り継がれる日本の栄光であったもの、そのものであった。

 

これらを列挙して見せて、最後に直人はこう締めくくった。

 

提督「正直、そんな武勲誉れ高き播磨を一度沈めたのさ、気は進まなかったけどね。超兵器を相手に手加減なんて出来ないけど、出来れば戦う事を好まない性格でいて欲しいね、播磨のオリジナルは。」

 

那智「・・・成程な、それには賛成だ。」

 

千歳「私もぉ~!」フラッ

 

加賀「私も賛成ね。」

 

朝潮「・・・どういうことです?」

 

おう千歳フラフラやないけ。

 

そして朝潮が合点言ってなかったみたいなので説明してやる直人である。

 

提督「つまり、播磨の武勲を直接聞けるって事さ。」

 

朝潮「ではこちらに引き込むという事ですか?」

 

提督「飛びこんでくれば手っ取り早く、何より楽でいいんだけどね。」

 

朝潮「そううまく運ぶことでしょうか・・・?」

 

提督「まぁ、これは俺自身の希望に過ぎないんだけどね。」

 

那智「そうだな、そう簡単な事ではない。」

 

語るに易し、とはこのことである。

 

しかし、この言動が思わぬ結果になるとは、この時誰も予期し得ない事であったが、それはまだまだ先の話・・・。

 

 

 

そんなこんなで午後10時頃まで延々酒宴をやった結果、まぁ、お察しである。

 

提督「zzz・・・」

 

那智「うぅぅ・・・っ、・・・うぅぅぅ・・・」コックリコックリ

 

如月「え、えへへへへ・・・」zzz・・・

 

千歳「あぁ~千代田、らめぇぇ~~・・・」(寝言

 

朝潮「・・・。はぁ~・・・。」(諦観

 

加賀「くー・・・すー・・・」zzz・・・

 

約1名除き大惨事です。案の定やっちまいました。なお明石はちょっと飲んだ後抜けた模様、酒量弁えるのは大事。なお直人の策はあっけなく崩れた模様、無念。

 

むしろこの場合は朝潮が起きている方が不思議ではある。テーブルの上には空になったつまみの皿が積まれ、酒瓶がごろごろと。

 

朝潮「・・・誰か、手空きの人を呼んで来ましょうか・・・。私一人じゃ運べませんよねこれ・・・。」

 

顔は赤くなってはいたが、実際のところ赤くなってからが強い朝潮である。なので思考は辛うじて正常を保っていた。

 

その朝潮は食堂棟2Fに幾つかある食堂の個室の内、直人達がいる部屋を出て、下に降りていった。

 

 

 

午前10時21分 食堂棟1F・食堂

 

 

鳳翔「~♪」(軍艦マーチ)

 

鳳翔さんはその時、食堂のテーブルを一つ一つ順に拭いていた。

 

 

コン、コン、コン・・・

 

 

鳳翔「?」

 

食堂には厨房の上を通る会議室行きの階段と、食堂スペースの壁に設置された個室行き階段の二つがある。

 

その個室行きの二階側から誰かが下りてくる、と言うより朝潮である。

 

朝潮「あ、鳳翔さん。」

 

鳳翔「あら、朝潮さんでしたか。皆さんは?」

 

朝潮「それが・・・?」

 

大淀「鳳翔さん!」バタバタ

 

言葉を切ったのは入り口から慌てた様子で大淀が来るのが見えたからだった。

 

鳳翔「はい、なんでしょう?」

 

大淀「あの、提督知りませんか?」

 

鳳翔「提督なら皆さんと二階だと思いますけれど・・・」

 

朝潮「それが、皆さん寝てしまって・・・。」

 

鳳翔「まぁ・・・。」

 

大淀「手遅れでしたか・・・。」

 

朝潮「司令官はそこまで飲んではおられなかったんですが、話す事が無くなった途端にお酒が回られたようでして。あとは全員酔い潰れてしまいました。」

 

大淀「そこまで飲まれる方ではないのですね・・・。」

 

鳳翔「皆さん何やら賑やかに論議を交わしておいででした。」

 

大淀「そうでしたか。で、どのような?」

 

まぁ、色々であるが。

 

朝潮「特に私達の戦った戦争の事について、様々な討論をしていました。」

 

まぁまず酒の口に出す話ではない。

 

大淀「で、終わると潮が引くように次々と寝てしまったと。」

 

朝潮「はい、それで何とか起きていられたもので、誰かいないかと思いまして。」

 

大淀「運ばないといけませんか、手空きの人を集めて来ましょうか。」

 

鳳翔「提督は私がお運びしておきますね。」

 

大淀「お願いします。」

 

朝潮「では如月は私が。」

 

大淀「分かりました。」

 

朝潮「後は加賀さんと千歳さん、那智さんですが・・・」

 

大淀「最低でも3人ないし4人ですか・・・。」

 

 

この後どうにか手空きの艦娘かき集めて運び出したそうです。

 

 

~で、翌日~

 

 

提督「頭いてー・・・。」

 

大淀「お酒あまり強くないのですか?」

 

提督「そうでもないが強過ぎるほどでもないのよ。」

 

大淀「それはまた微妙な・・・」^^;

 

案の定二日酔いかましました本当にありがとうございました。

 

 

 

6月4日午後1時20分 造兵廠第2船渠

 

 

明石に呼び出された直人、注文の品の仕上がりを見に来てほしいと言われたのである。

 

明石「こちらです。」

 

提督「ふむ・・・ん?」

 

直人はすぐに異変に気付く。

 

提督「中央長くね?」

 

頼んだときは確かに17mで統一していたのが、中央の船体だけやたら大きいのだ。

 

明石「それがですね、図面を引いたら少し無理が出ると分かりまして。それで20m内火艇に置き換えて、あと色々弄っちゃいました。」

 

提督「はい!?」

 

なんとびっくり魔改造、まさかこの人がやるとは思わなかった。

 

明石「エンジンを全部420馬力相当の艦娘機関に換装、エンジンや燃料タンクを撤去して空いた重量の一部を装甲に振り分け、速力29ノットを実現。本来は34ノットだったんですが船体が軽すぎて波で跳ねちゃうので船底にウェイト追加したり・・・」

 

(補足:420馬力エンジン3基搭載して合計1260馬力発揮可能。)

 

提督「なんかとんでもない物になってない!?」

 

明石「そうですか?ありていに言って高速掃海艇じゃないですか?」

 

提督「いやいやいや、そんな掃海艇あってたまるか。と言うか艦娘機関って艤装にしか組めない筈じゃぁ?」

 

明石「そこは妖精さんにお願いして普通のエンジンと同じように使えるようにして頂きました。」

 

うっそだろおまえ。

 

提督「そ、それは凄い・・・それで、装甲板は如何程?」

 

明石「中央船体は甲板装甲8mm、舷側装甲最大12mm、ヴァイタルパートたる機関部と操舵室は舷側装甲のすぐ内側に10mm傾斜装甲を追加、操舵系統の防御には炭素カーボン製の3重構造パイプでガードしてあります。」

 

うっそだろおまえ。(ていくつー

 

明石「左右の大発は甲板(底板)装甲4mm、舷側装甲は洋上での銃撃戦を想定して一律18mmにしておきました。ヴァイタルパートと操舵系統の防御は中央船体と同様に備え付けました。」

 

うっそだろおまえ。(ていくすりー

 

提督「そ、それは頼もしいな。装甲の素材は何を?」

 

明石「はい、最新式の軽量特殊合金を使用しました。装甲最大厚部分であれば20mm機関砲のどんな弾丸でも(理論上)ほぼ完全に防御可能です。ちょっとへこむ位です。」

 

うっそだろおまえ。(ていくふぉー

 

提督「・・・ところで、鋼材どれくらい使った?」

 

明石「確か・・・9500ほどですね。」

 

うっそだろおまえ。(ていくふぁいぶ

 

高々こんな小舟に1万近くだと? 中々やなおい。

 

提督「け、結構使ったな。」

 

明石「基準排水量119トン、コルト・ブローニングM2重機関銃も懸架可能な高速掃海艇です。」

 

うっそだろおまえ。(ていくしっくす

 

提督「それどこに積む気ですかあなた。」

 

明石「操縦室の天板が両開きのハッチになってまして、そこから身を乗り出して頂ければ航空機用旋回銃架が据えてあります。」

 

ほんとだ機銃旋回用の円形レールがあるぞオイ。対空射撃も出来るとか怖い。

 

提督「・・・ところで基準てことは最大は?」

 

明石「満載排水量190トン、積載可能量70トンです。」

 

うっそだろおまえ。(ていくせぶん

 

まぁあの巨大艤装自体質量でいくと30トンちょいあるけども。

 

提督「・・・ちょっと待て、差し引き11トンどこに行った。」

 

明石「気づきましたか。実は船倉に改造した船首の兵員室に前方固定砲架を設置してありまして、57mm砲ないし75mm砲1門を搭載出来ます。」

 

うっそだろおまえ。(ていくえいと

 

提督「は!? いるかそれ!?」

 

明石「心外ですね、自衛用の火砲は必要じゃないですかね?」

 

提督「むっ・・・まぁそれもそうか。で、どうやって撃つのさ。」

 

明石「兵員室の天板の8割が積載用ハッチになっており、船首側の壁が砲身を突き出すための切り欠きを塞ぐハッチになってます。射撃時はこの切り欠きのハッチを開けて仰角を取る感じですかね。」

 

提督「無茶苦茶だな・・・。というかこんな小型艇に75mmなんて積んで大丈夫なのか?」

 

明石「バルジ追加をご要望になったのは提督だった筈ですが? 浮力増大用バルジを船体の間と大発の外側の4か所に設置してあるので大丈夫です。」

 

提督「・・・砲の名前は?」

 

明石「試製機動五十七粍砲と五式七糎半戦車砲Ⅱ型改です。」

 

注:粍=ミリ 糎=センチ

 

うっそだろおまえぇ!?(ていくないん

 

提督「それ射程大丈夫か?」

 

前者(57mm砲):9000m 後者(75mm砲):9000m(推測)

 

明石「どっちにせよそう変わらないでしょう?」

 

提督「お前な、まともに撃てると?」

 

明石「幅が広いので左右の動揺角はかなり抑えられてます。精度はある程度何とかなります。」

 

提督「砲自体の精度はいかんともし難いんだが。」

 

明石「現代規格でしっかり作ってあるので精度も砲弾もバッチリです!」

 

提督「非の打ち所がないわもう!」

 

うっそだろおまえ・・・(祝(?)・ていくてん

 

明石「最高の出来栄えです。」エッヘン

 

胸を張って見せる明石さん、非の打ちようがない見事なものを作ってくれました。

 

明石<ただ75mm積む時船尾にカウンターウェイト入れないとだめです。

 

提督<やっぱりそうかぁぁぁぁぁぁ!

 

小型ボートに大砲積むと、反動が大変です。

 

 

 

提督「で、弾薬庫はどうするん?」

 

明石「実は兵員室のすぐ後ろに。」

 

提督「防御は?」

 

明石「抜かりなく。」

 

提督「航行テストと射撃試験だやるぞもうやってやる!!」(ヤケクソ

 

明石「いっちゃいましょう!」

 

そんな訳でヤケを起こした直人、明石を連れて早速テスト航海に出港した模様です。

 

 

 

午後2時23分 司令部沖合10km付近

 

 

提督「で・・・」

 

兵員室にいる二人、その目の前には砲座に鎮座まします75mm砲

 

提督「勢いでこれ積んだけど撃てるのほんとに。」

 

明石「テストしてみないと・・・」

 

提督「そこは試験してから積むかどうか決めてよ。」

 

明石「エヘヘヘ・・・すみません・・・。」

 

ぶっつけ本番でした。

 

提督「仕方ない。やるか。」

 

直人は決断する。

 

提督「明石、仰角15!」

 

明石「イエッサー!」

 

言うと同時に直人は重量約6kgの徹甲弾を砲の薬室の中に勢い良く押し込む。

 

そして砲栓を閉じ、引き金に手をかける。

 

昔の火砲なのに撃発スイッチが引き金なのは、明石が改修を施して電気着火式にした為である。

 

明石「仰角良し!」

 

提督「ってぇぇぇーーー!!」

 

 

ズドオォォォォォーーーーー・・・ン

 

 

提督「・・・お?」

 

意外な位揺れない。精々艇の位置が後退した位であろうか。

 

明石「いけますね、これなら。」

 

提督「だね。」

 

 

ドォォ・・・ン

 

 

提督「しかも日本の火砲にしては意外なほどまっすぐ飛ぶ件。」

 

戦時中の実物を撃とうとすると、真っ直ぐ飛ばねぇわ当たっても徹甲弾の癖に貫通力弱いと言う欠点だらけのものばかりだったらしい。これは当時の工業と冶金(※)の技術が未成熟だったこともあるが、希少金属が不足していたことも一つの理由である。

 

要するに不良品ばかりであったことになる。

 

※冶金(やきん):大雑把に言うと金属を使える状態にする為の技術で、専門の学問(冶金学)まである。この技術の発達は金属の質や製造可能な合金の種類などにも関わる。

 

明石「日本の大砲は性能は良かったんです。それでも精密に作れなかったのがダメだったと言う所ですね。」

 

提督「哀しいかな工業技術の差が兵器全体の性能を落としていたという。でも、今は違うぞ。」

 

明石「はい!」

 

世界水準の日本の工業力、正直誇っていい。

 

提督「ところで、これ何に使う訳?」

 

核心を突く直人。答えはこうだった。

 

明石「対艦砲撃と対地砲撃です。」

 

提督「・・・。」

 

あのですね・・・

 

提督「砲身旋回できないのにどうやるのそれ。」

 

明石「艇そのものを旋回させるしかないですね。」

 

提督「・・・機銃射撃の時は?」

 

明石「別の人に操縦をして貰うしかないですね。」

 

提督「そうですよねやっぱり。」

 

明石(・・・やな予感。)

 

提督「明石。」キリッ

 

凛とした口調で明石の名を呼ぶ直人。

 

明石「は、はい。」

 

提督「責任持って操縦してくれよ?」^^

 

まぁ、こうなる。

 

明石「あ、あの・・・えと・・・。はい。」

 

勝手に突っ走った報いです、自業自得である。

 

提督「それに工作艦って戦闘出来ませんよね?」

 

明石「は、はい。と言うかなんで工作艦だと?」

 

提督「逆に聞こう、俺が知らないと?」

 

明石「御見それ致しました。」

 

提督「うん。だから艦隊随伴工作艦にもなれるでしょこれなら。」

 

つまり前線まで鋼材運んでいって応急修理が出来るという訳だが。

 

明石「そこまでお考えでしたか、でしたら異存はありません!」

 

明石の立場はかくて陶冶されるのであった。

 

 

 

直人がこうした磐石な備えを怠らなかった事には、彼自身何か、今この現状では計り知る事の出来ない『何か』への悪寒を感じていたからだった。と後に語ったと言う。

 

彼自身でさえその理由はこの時分からなかったが、その悪寒は、後にその理由と原因ときっかけをも全て伴って発露する事になった。

 

後に全艦隊にとって一つの悲劇、そして直人達にとっての『私闘であり死闘』と呼ばれたそれは、そう遠くない未来に控えていたのである。たとえ、それが今日明日、来週と言う単位でないとはいえ、そう遠くはない。

 

そしてその時、それらの備えは完全な利点として縦横に活用される事になる。


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