異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どーも、WoWSで大奮闘中の天の声です。

青葉「どもー恐縮です、青葉です!」

ほんと楽しいですワールドオブウォーシップス。やろうと悩んでる方、取り敢えず触ってみるのもありだと思います。因みに私は日本艦ツリーを全艦種ティア5まで進めた上でティア6空母龍驤開発まで終わってます。(15年9月1日時点)

青葉「購入はしないんですか?」

先立つものが足りんとです。

青葉「アッハイ。」

今回は序盤で少しだけ、ワードのみ出て来た『ある計画』について少しだけ解説します。全貌はいずれという事で。

青葉「ちょっと気になりますね・・・。」

深海棲艦が出現した当初、国連の主導権を握っていたアメリカとロシアは、それぞれがそれぞれの手段を使い、深海棲艦とのコンタクトを試みようとしており、それが国連全体の意志でした。

しかしその試みは深海棲艦による攻撃で実行前に頓挫し、アメリカとロシアはこれに対する報復攻撃を実行に移すとともに、深海棲艦の研究を開始する事を決定。

結果報復攻撃は失敗に終わったのは御存じの通りだと思いますが、結果両国は幾らかの深海棲艦のサンプルを、生死別なく獲得する事に成功。

その生態までは明らかにならずとも、それが生物でありコミュニケーション能力を有する知的生命体である事、そしてそれらが容易ならざる強大な力を有することを突き止めたことで、ある意味この攻撃は成功だったとも言える。

これを受けて国連は、国連はロシアと日本がそれぞれに提唱した計画を裁可し、その内の日本側の計画が、劇中などで言われる“とある計画”です。

青葉「提唱者は嶋田繁太郎海将でしたよね?」

うむ。おっと今回はこの辺にしておきましょう。

青葉(チッ・・・)

ようやくほのぼの系(?)日常パート突入です、延々やってるといつまでモチベ持つか分かりませんが。

青葉「いやそこは頑張って下さいよ・・・」

分かってます。ではどうぞ。


第1部2章~サイパン司令部の日常~

2052年6月1日(木)午後1時半 食堂

 

 

 

ズズズズ・・・

 

 

提督「ふぃ~、何時飲んでもおいしいです。」

 

鳳翔「ふぅ、ふふふっ、ありがとうございます。」

 

食堂の片隅に、一段高く据えられている畳間がある。

 

直人は鳳翔さんに緑茶を振舞って貰い一緒に飲んでいた。

 

提督「何と言うか、やっぱ畳って落ち着く。」

 

鳳翔「ですね・・・。」

 

なんだかんだやっぱり日本人である。

 

鳳翔「それでは、そろそろ厨房の方に戻りますね。」

 

提督「うん、頑張って。無理はしないようにね。」

 

鳳翔「フフッ、心得ております。」

 

直人の気遣いを受けて、いつもの笑顔で鳳翔は厨房の方へと戻っていく。

 

提督「しっかしなんだ・・・うちもちったぁ賑やかになったもんだ。」

 

しみじみとそう呟く直人。

 

僅か2か月で、艦隊の陣容は一挙に充実し、これだけで大機動部隊が組めるまでに至った。しかし、やはりこの時点でも数は不足だと、直人は見ていた。

 

サンベルナルディノから既に1ヵ月が経とうと言う今日、サイパンに装い新たに陣を敷いた横鎮近衛艦隊は、ひと時の平和を謳歌していた。

 

時折敵斥候艦隊や偵察機は来襲するが、それがこの島が最前線であることを指し示していた。

 

夕立「提督さん、どうかしたっぽい?」

 

そんな事を思っていると、直人の所に夕立がやってきた。

 

提督「あぁ、夕立か。いや、ふと想う事があってな・・・。」

 

夕立「ふーん・・・。よかったら、聞かせて欲しいっぽい。」

 

どういう風の吹き回しか興味を示した夕立に直人は言う。

 

提督「いやまぁ・・・平和だなぁー、このひと時がいつまで続くんだろう・・・とね。」

 

夕立「戦いなんて無い方がいいけど・・・攻めてくるんだから、仕方ないっぽい。」

 

提督「それでも今は、此処に腰を落ち着けて、ゆっくり南国暮らしよなぁ。」

 

南国と聞いて夕立の髪がぴょこっと跳ねる・・・髪?

 

夕立「南の島と言えば、やっぱりビーチっぽい!」

 

まぁ、こうなる。

 

提督「測量はしてるけど暫く待ってくれ・・・。」(焦

 

夕立「あちゃー・・・そうだったっぽい。」

 

とにかく今は測量をしなければならない為、艦隊には遊泳禁止令を発布していた。

 

提督「あとまだ夏じゃないし・・・」

 

夕立「6月は夏っぽい!」

 

確かに真夏でないにせよ夏である、ことサイパンでは常夏なので、1年中泳ぎ暮らす事も出来なくはない。

 

提督「そう焦るな、8月まで待てば何とかなるかも知れんから・・・。」

 

苦々しくそう言う直人である、泳ぎたいのは彼も同じだった。

 

夕立「むぅー・・・仕方ないっぽい。」

 

測量を行う理由は、実の所深海棲艦の攻撃痕が至る所にある為に海底地形が変貌しており、場所によっては遊泳出来ない場所がある可能性がある為である。因みに担当は明石とその手下(?)の妖精さんである。

 

提督「と言うか、司令部正面使えば・・・と思ったが、停泊用ドックも船舶規格だったな。ふーむ・・・」

 

夕立「測量待ちっぽいね・・・。」

 

因みに停泊用ドックには、クルーザーや大型漁船はおろか、海自のイージス護衛艦や海保の大型巡視船でさえ余裕で囲い込む大きさがある。

 

護衛艦と言えば先日いずも級護衛艦2番艦「かが」が進水したそうですが(いつの話だ)、いずも級は停泊用ドックには入れないものの、1万t級大型輸送船が横付けできる岸壁が追加で作られている為、停泊できなくはない。修理の際は造兵廠側の大型ドックへどうぞ。

 

提督「取り敢えず今は無理だな、何があるか分からんし。何よりここ俺ら以外誰もいないんだよな。」

 

実際サイパン島は、棲地化した際に島民が例外なく避難した為、

 

夕立「仕方ないっぽい。その分私達がいるから大丈夫っぽい!」

 

提督「あはは・・・そうだな。」

 

逞しいな、そう思った直人なのでした。

 

 

赤城(・・・)ニヤリ

 

時を同じくして、赤城が再び、悪巧み。

 

加賀「・・・やりましょうか、赤城さん。」

 

加賀が何と、共犯者。

 

赤城「えぇ、普段お腹いっぱいに食べさせて頂ける鳳翔さんには悪いですが・・・。」

 

もう、おわかりだろうか。

 

 

 

6月1日午後1時59分 食堂前

 

 

キイイイイイッ(押し戸の軋む音)

 

 

提督「御馳走さんでしt」

 

 

ドガアアアァァァァァァァァーーーーーー・・・ン

 

 

提督「何事!?」

 

雷「な、なんなの!?」バッ

 

電「資材庫の方なのです!」ババッ

 

 

 

赤城「フフフッ、上出来ですね。」

 

加賀「早く、誰かが来る前に。」

 

赤城「そうでした。」

 

1航戦、資材庫破り開始。

 

 

 

提督「いかん、あの資材庫はボーキサイトのだ!」

 

雷「それって今日陸上基地用航空機作るって言ってたじゃない! まずいわ・・・。」

 

電「成程、この“匂い”・・・1航戦のお二人ナノデス。」タン

 

提督・雷「!!」

 

電が急加速で資材庫に突入する。

 

提督「・・・そういやなんで電ちゃんあんな強いの?」

 

雷「グァムの時もそうだったけど、それが分かれば苦労は無いわね。」

 

提督「お、おう。」

 

 

 

電「ソコデナニヲシテイルノデス?」ゴゴゴゴ・・・

 

赤城「誰っ・・・!!!」ゾクッ

 

加賀「くっ・・・!!?」ゾワッ

 

アンカーの代わりに鉄パイプを構える電の目に、光は無かった。

 

そしてその威圧感は赤城と加賀の中で恐怖と悪寒に変換された。

 

電「サァ、ソノボーキサイトヲ置イテ表ヘ出ルノデス。」

 

問答無用でない所が電の優しさの唯一の発露であったと言っていいだろうか、或いは単に慈悲をかけただけか。

 

赤城「あ・・・あわわ・・・」

 

加賀「動け・・・ないっ・・・」

 

竦み上がって動けない二人。

 

慢心は、してはいけない。絶対に。

 

提督「その辺にしておけ電ちゃん。縮み上がってるぞー。」

 

雷「何その威圧感・・・背中越しでも怖くて寒気がするわ・・・。」

 

電「あ、本当ですね。」←戻った

 

提督・電(戻るの早っ!?)

 

揃って一言一句違うことなく同じことを思って驚く二人である。

 

赤城「くっ・・・提督・・・。」

 

何度かのされている赤城はたじろぐ。

 

加賀「なんの、提督と言えど、押し通るまで!」キリリ・・・

 

加賀が弓を番える。

 

赤城「ダメ、加賀さん!!」

 

咄嗟に止める赤城だったが、数瞬遅かった。

 

加賀「!?」

 

ダァンダァンダァァァァーン

 

雷・電「!」

 

加賀「っっ!!」フラッ

 

赤城「!?」

 

提督「・・・フン。」

 

スイッチが入ると容赦のない直人、その右手には14インチバレルデザートイーグルが、銃口から煙を一筋上げていた。

 

撃った3発は胸元を狙った1発が幸運にも弓の弦を切り、両肩に1発づつクリティカルヒット。演習弾ではなくガチもんの実弾である。

 

雷「・・・容赦ない・・・。」

 

電「なのです・・・。」

 

その様子に流石に二人も戦慄した。

 

提督「諦めるんだな1航戦。翔鶴や瑞鶴が来た時にゃ旧1航戦と呼ばれるかもしれんな?」(嘲笑

 

これはプライド高い1航戦にとっては痛烈な皮肉であった。

 

赤城「・・・行きましょう、加賀さん。」

 

加賀「・・・えぇ。」

 

悔しさを押し殺し出口へと向かう1航戦、直人とすれ違う。

 

提督「そうだ・・・足元には気を付けるんだな。」

 

赤城「・・・?」

 

同時に直人は雷と電に言う。

 

提督(雷、電、4歩前に出な。)

 

雷(・・・えぇ。)

 

電(何なのです・・・?)

 

赤城が出口に差し掛かる。その瞬間、二人の足元が光り始める。

 

赤城「っ! まさか!」

 

提督(白金千剣、千剣ヶ原。)パチン

 

赤城「しまっ!!」

 

加賀「な、何がっ!!」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドド・・・!!

 

 

 敵にも味方にも容赦はしない直人、その彼がほぼ無傷で見逃す筈は無かった。赤城と加賀に襲い掛かったのは、地面に設置するタイプのトラップであるが、白金千剣を用いた遠隔式のものである。

直人が振り返った時には、それをまともに受けた赤城と加賀はとっくに崩れ落ちていた。

 

電「まぁ・・・そうなりますよね・・・なのです。」

 

雷「自業自得ね。」

 

提督「そんな訳で曳航よろしくw」

 

そう言ってさっさと去って置く直人。

 

雷「そ・・・そこはっ、丸投げなのね・・・。」

 

電「はぁ・・・仕方ないのです、妖精さん呼んで来ましょう。雷姉さん、お願いしていいですか?」

 

雷「・・・成程ね、分かったわ。ここは任せるわね。」

 

赤城・加賀(逃げられない・・・もう動けないけど。)

 

割と抜け目は無い雷電ペアでした。

 

 

 

午後2時20分 提督私室

 

 

提督「いやー、いい仕事した。」コキコキ

 

首を鳴らしながら自画自賛するスタイル。というか、あれをいい仕事言うな、えげつない。

 

提督「・・・することねぇな・・・。」

 

いざ自室に戻るとやる事が無かった。

 

その時、釣り竿のカバンが目に留まった。

 

提督「釣りか・・・いいんだけどな・・・。」

 

直人は考える。

 

やることない→釣りか・・・→気分じゃない→何しよう?→そういや全員非番だ→話し相手が欲しい→誰の所行こう(今ここ)

 

ここまで約7分。

 

提督「うぅーん・・・そうだ!」スクッ

 

“金剛の部屋行ってみよう!”

 

という事で、直人の足は自然と歩き出していた。

 

提督(そういやアポなしだな・・・)

 

てな事を思いながら。

 

 

 

その頃大淀は、一人無線室で入電する情報をさばいていた。

 

大淀「これは艦隊動向、これは基地間の通信・・・ん? これは・・・」

 

その時大淀のヘッドフォンに飛び込んできた一つの情報は、後に始まる死闘の、ほんの序幕の、開かぬ幕でしかなかったのであった。

 

その内容は、『今夏発動予定の作戦は、“諸事情によって”秋に延期する。』と言うものであった。

 

 

 

午後2時27分 艦娘寮大型艦寮2階廊下

 

 

ガチャッ

 

 

霧島「では私はこれで失礼しますね、お姉様。紅茶、御馳走様でした。」

 

金剛の部屋から出てきた霧島は、金剛からの返事を聞いた後ドアを閉める。

 

霧島「さて、自分の部屋に戻りましょうか・・・。」

 

そう呟き歩き出す霧島は、その視線の向こうから何者かが歩いて来るのを見つけた。

 

提督「さて・・・いるかな。」

 

まぁ今回の場合大抵この男である。

 

霧島「こんにちは、司令。」

 

提督「ちわっす、どうした今日は?」

 

それを聞くと霧島は答えた。

 

霧島「いえ、金剛お姉様に紅茶を御馳走して頂いてまして。提督こそ、この様な場所に何用ですか?」

 

逆に反問されてしまったのだった。

 

提督「あぁ、金剛と、たまには他愛のない話でもしようと思ってな。」

 

霧島「話、ですか?」

 

その答えに訝しむ霧島。

 

提督「あぁ。着任して此の方、まともに喋った事って殆ど無かったし、仮にも平和な今だからこそ、と思ってな。」

 

この言葉に嘘は無かった。

 

霧島「・・・成程、ではこれ以上は何も言わないでおきましょう。お姉様はご自分の部屋に居られます、ごゆるりと。」

 

提督「ありがとう。」

 

霧島もそれを察してか、もはや何も言うまいと言う態度で、直人とすれ違って去っていった。

 

提督「・・・。まぁいいか。」

 

何か含むところは感じたが気に留めない事にした直人である。

 

 

 

霧島(・・・お姉様を不幸にしたら、許しませんよ。司令。)

 

 

 

提督「・・・。」

 

 

コンコン

 

 

金剛「ドウゾー!」

 

提督「おっす!」

 

金剛「Oh!?」

 

突然の訪問に驚く金剛、無理はないだろうアポ無しだ。

 

提督「来ちゃった♪」ニヤリ

 

さらっと既にドアの内側でドアも閉めてる直人。

 

金剛「イヤイヤイヤ!?『来ちゃった♪』ジャナクテデスネ・・・/// ど、どうしたんデスカ?」

 

提督「用があって来た訳ではない!」ババン

 

はっきり言ってしまえば直人は嘘は言っていない、『込み入った用事』など欠片もない。

 

金剛「ジャァ何で来たんですカー!?」

 

まぁ当然の返し。

 

提督「まぁ、強いて言うなら、金剛とどーでもいいようなこと喋りに来た。」

 

金剛「つまり話相手が欲しいだけですカー・・・。」

 

流石に金剛も若干呆れた様子で言う。

 

提督「まぁそうなる。と言うか、今までまともに話とかしたことあったかい?」

 

そう直人が言うと、金剛の顔色も明るくなった。

 

金剛「・・・そう言う事ならいつでもウェルカムデース!」^^

 

提督「ふぅ、そりゃよかった。では失礼して。」

 

金剛「しれっとレディーの部屋に入っといて失礼してないと今まで思っていたとは心外デスネー。」

 

提督「おっそうだな。」

 

さらりと言う直人。

 

金剛「自覚ありデスカー・・・まぁいいデス。」

 

いいんかい。と心の中でツッコミを入れながら、いつの間にか増えてた白の丸いテーブルの椅子に腰かける直人、左隣が金剛である。

 

金剛「あ、紅茶飲みますカー? さっき霧島と飲んだ残りデスケド。」

 

提督「ふむ・・・じゃぁ、頂こうかな。」

 

金剛「OK!」

 

そう言って金剛は新しいティーカップを持ってくる。

 

提督「そう言えば金剛ってよく紅茶飲むよね。姉妹皆そうなの?」

 

金剛「ウーン、そうでもないですネー。」

 

紅茶をティーカップに注ぎながら言う金剛。

 

提督「ふむ、具体的には?」

 

金剛「比叡はほうじ茶、榛名は烏龍茶、霧島は確か・・・センチャ(煎茶)、でしたっけ?あれが好きだと言ってマシタ。」

 

提督「何だろう、納得出来た。」

 

納得してしまった、という方が正しかろう。

 

金剛「でも、3人とも私の紅茶も飲んでくれマス。ハイ提督。」

 

金剛が淹れた紅茶が直人の前に置かれる。

 

提督「お、香りからするにピーチティーか。」

 

香りで多少は判別できる直人だった。

 

金剛「提督も紅茶には詳しいんデスカー?」

 

提督「どっちかと言うと、好みの紅茶を模索中って所かな。」

 

金剛「ナルホド。」

 

提督「今のところはレモンティーかな。」

 

某メーカーの、とは言わない直人である。

 

金剛「私はダージリンティー推しデース。」

 

提督「成程、流石英国生まれだ。」

 

金剛「英国生まれの傑作戦艦、それが私デース。」

 

提督「そして日本初の超弩級戦艦で、太平洋戦争最高艦齢の艦でありながら各地を転戦した歴戦艦。」

 

確かに金剛の来歴はその言葉通りである。

 

1914年に就役した金剛は、同型艦3隻と共に第1戦隊を編成、当時世界中の海軍関係者から「世界最強の戦艦戦隊」と称され、日英同盟下の英国から、第1戦隊の大西洋戦線参戦の要請まであったとされる。

 

第2次大戦期の日本では第1次大戦期の旧式戦艦も貴重として各地を転戦し武勲を挙げた。

 

金剛「オバサン呼ばわりはヒドイデース。」ブー

 

ただそれは本人からすればオバサン呼ばわりに聞こえる様だった。

 

提督「割と褒めてるんだけどなぁ、あのレイテ沖でさえ大破したけど切り抜けてるし。」

 

金剛「潜水艦は、トラウマじゃないですケド少し苦手デス。」

 

提督「戦艦である以上避け得ぬ宿命だな。」

 

金剛「デース。」

 

潜水艦が戦艦の天敵、という図式は今日の軍事学では常識である。

 

提督「だが戦艦は良い。その火力で右に並ぶ者はおらんからな。」

 

金剛「半自動装填だったせいで装填速度が遅かった上本当は斉射出来ないんデスケドネ・・・。」

 

※昔の金剛や扶桑と言った世代の戦艦は、斉射時の砲弾の散布界(撃った時弾が散らばる範囲)が広がってしまう事と、装填速度の遅さをカバーするという二つの利点から、各連装砲を片方づつ斉射する「交互射撃」と言う射撃法を使っていた。

 

提督「仰角水平にしないと装填できないから仕方ない。」

 

昔はなんでも不便だったんです。戦艦アイオワの主砲は殆ど機械式装填であり、装填速度は戦艦用の大口径主砲としては非常に速い。が、それも太平洋戦争直前の米国の技術あってこそである。

 

金剛「でももうそんな不便さともおさらば出来たのデース。」

 

提督「そう言えば金剛の今装備してる主砲って・・・」

 

金剛「96式41cm3連装砲デース!」

 

提督「金剛の艤装の主砲、そう言えば3連装だったな。妖精さん達もいい仕事をする。」

 

※96式41cm砲

日本軍が採用した戦艦用主砲。

大和型が搭載していた主砲で口径46cm。

大和を発表した際、他国に対策されぬよう採用名を誤魔化している。

当時の海軍部内でもこの名称で通っている。

 

金剛「生まれ持ったこの主砲で、今度こそ最後まで戦い抜きマース!」

 

提督「そりゃ頼もしいが、無茶はするなよ?」

 

以前油断して突出した前科があるだけに、この心配は金剛も心得ている事だった。

 

金剛「勿論デース。そう言えば今度の作戦、ソロモン方面らしいデスネ?」

 

提督「伊勢から聞いたのか。」

 

金剛「えぇ。兵站はどうするんデショウ? トラック島もまだ敵から解放してないのに。」

 

現状トラック島は敵の棲地となっていたが、今回のSN作戦の作戦範囲に中部太平洋、とりわけ棲地となっているトラックを含んだチューク諸島は入っていない。

 

提督「どうやらトラックは素通りする気満々らしい。あれが深海棲艦の手中にある意味が分かってないみたいだな。」

 

金剛「それじゃぁ死にに行けと言っているようなものデース!!」

 

トラック島は、日本本土とラバウルの間にある補給の要衝でもある。これ抜きに南方戦線の補給を語るのはナンセンスと言えるだろう。ここが敵手に委ねられた場合、ラバウルに基地を設けたとしてもその補給路の途中に敵の泊地がある訳で、これを妨害しないと言う手は、実際ないのだ。

 

提督「そうだな。だから我が艦隊は先遣強行偵察にも、作戦そのものにも参加しない。精々出来るのは退却支援だろうな。」

 

金剛「ウーン・・・。」

 

深刻な表情になった金剛。

 

提督「今はこの話はよそう。」

 

金剛「え、エェ・・・。」

 

そんな暗い話をしに来た訳では無い直人は話題を変える。

 

提督「そういや、建造どうしようか。」

 

金剛「資源貯める為にやらないと言ってませんでしたカー?」

 

提督「まぁそうなんだよね、装備開発だけはしておきたいけど、主に要塞化の為に。」

 

金剛「デスネー。」

 

この点二人の意見は一致している。

 

提督「そういや陸上機開発大淀に任せてあったんだっけ。」

 

金剛「そうなんですか?」

 

思わず流暢になる金剛。

 

提督「飛龍にちょっとしたプレゼントをとね。」

 

金剛「ホウホウ。」

 

提督「流石に足が短めの艦上機ではきついと思ったので。」

 

金剛「そう言えばトラック諸島もやっとの思いで偵察してたんですよネ?」

 

これは北マリアナ沖海空戦の直後に敵の所在を探るため放った偵察の事だ。

 

提督「まぁそうだね。戦闘機の質はともかくインターセプター(迎撃機/要撃機)が不足してるし、滞空時間も少ない、反跳爆撃出来る機体も、シャトルアタックが出来るだけの数も無いからね。」

 

金剛「それを開発して基地に置くわけデスネー?」

 

提督「そんなとこかな。」

 

※反跳爆撃

爆弾を石切りのように水面で跳ねさせ、敵艦の舷側を狙う爆撃法。

普通の爆撃よりも命中率は飛躍的に高く、標的の大きさも選ばないが、

静かな水面でないと出来ない。

 

※シャトルアタック

要は飛行場を有するという地の利を生かし短時間反復攻撃を重ねる戦術の事。

 

提督「修理は何とか終わったからあとはその辺の戦力強化かなぁ、この間の様な事態は避けたい。」

 

金剛「ボロボロにされましたもんネー。」

 

提督「他人事みたいに言うなし。」

 

金剛「だって他人事デス。」

 

軽いコントである。

 

提督「頭痛いんだぞ-修理するだけで。全力出撃されちゃったから資源も食ったし。」

 

金剛「そう言えば川内サンはどうしたんデスカー?」

 

提督「あぁ、提督暗殺未遂で地下牢です。」

 

金剛「ファッ!?」

 

何も聞かされていない金剛は驚く。

 

提督「一応軍機、誰にも言っちゃダメよ。」

 

金剛「オ、OK。」

 

箝口令にも怠りは無い。

 

提督「金剛達が出かけてるタイミングだったからね。知らないのも無理はない。が、ちらほら噂にはなってるみたいね。言いふらしたらダメよ、川内の為にも。」

 

言いふらしたが最後、川内の名誉などへも無くなる。

 

金剛「で、でもなんで提督を?」

 

提督「どうやら幹部会の回し者だったらしい。疑似洗脳掛けられてたので川内への報復代わりに如月の疑似洗脳解除装置の実験台に供しました。」

 

金剛「いつもながらやる事えげつないデース。」

 

提督「実験は成功したそうです。」

 

金剛「良かったデース。」

 

ホッとしたのはそれを聞かされた時の直人も同様である。

 

提督「近く出向いてやらんといかんが。」

 

金剛「そりゃそうデス。冷たい地下牢デスカラ。」

 

提督「管理は大淀さんです。」

 

金剛「oh・・・。」

 

提督「更に地下牢への階段は金庫式の分厚い扉で閉じられ、3重に厳重なロックがかけられているし、開閉も機械式だ。相手からすれば艤装も無い状態で金庫の中に閉じ込められたも同意だ。」

 

金剛「深海棲艦ならともかく、無理デスネー。」

 

提督「ぶっちゃけると直接開けるのは大淀でも10分以上かかるらしい。俺はまず無理だね。電子ロックに30ケタのパスワード、壁に取り付けて電気回路で施錠する難解に組んだ金庫式の鍵。フリーパスで通れるのは登録した霊力波形を持った人間だけらしい。」

 

金剛「流石厳重デスネー。」

 

提督「つまり大淀と俺、あと僅かな真に忠節ある艦娘達の霊力を認証せねば開く事はない。残念だがお前の霊力波形も、認証は出来ん。」

 

金剛「それはまぁ・・・何も言われてませんカラ、分かってマシタ。」

 

提督「こんな形で言うとはなぁ、こんな暗い話をしに来た覚えはないんだが。」

 

頭を掻いてそう言う直人であった。

 

金剛「そうデスネ、やめにしまショー。」

 

提督「そうだな。」

 

金剛「紅茶、冷めますヨー?」

 

提督「そ、そうだった・・・。」

 

直人は、丁度いい温度になった紅茶を一口、香りを楽しんだ後口に含む。

 

提督「ふむ・・・フフフ。何時飲んでも、これに勝る一杯はないな。」

 

金剛「褒めても何も出ませんヨー?」^^;

 

提督「いやいや、謙遜はしなくていいと思うぞ。どんな日本茶よりも、どんな美酒より、この紅茶は旨い。」

 

金剛「アハハハ・・・なんだか照れくさいデース。」

 

提督「こういう紅茶を毎日飲めるってのは、何かと幸福かもしれんな。」

 

金剛「かも、じゃないデショー?」ニコッ

 

提督「っ・・・ハハハハハハッ、これは一本取られたな。『とても幸せな事』の間違いだった。」

 

金剛「デショー?」

 

提督「あぁ・・・ふふっ、ハハハハハハハハ・・・!」

 

金剛「ハハハハハハハハハ・・・!」

 

 

 

午後2時51分

 

 

榛名「姉さんは、今いるのかしら・・・?」

 

廊下を歩いている榛名、金剛の部屋に近づくと、何かに気付いた。

 

榛名「姉さんの部屋から、笑い声・・・? 姉さんと―――提督?」

 

榛名が聞いたのは、二人が談笑する声であった。ダダ漏れではないにせよ、断片的には聞こえてきていた。

 

試しに榛名は金剛の部屋のドアに耳をそばだててみた。

 

提督「全く赤城と加賀にも困ったもんだよ。資材庫破りとはねぇ。」

 

金剛「まぁ分からなくはないデース。改装空母のお二人の腹減りのスピードは、島風でも勝てませんカラネー。」

 

提督「違いない、ハハハハッ!」

 

 

 

榛名「・・・これは・・・お邪魔をしては、悪いですね。」

 

榛名はそう結論付け、金剛の部屋の前を、後にした。

 

 

 

40分の後、直人は金剛の部屋を後にした。

 

 

その頃大淀は、その直人を探して走り回っていた。

 

大淀「こんな時にどこにいるんですかあの人は・・・!!」ドタドタ

 

明石「ん? 大淀さん、こんなところなんかにどうしたんです?そんなに慌てて?」

 

只今造兵廠。

 

大淀「ゼェ、ゼェ、あ、明石さん。提督、知りません?」

 

明石「提督・・・ですか? いえ、見てません。」

 

大淀「ありがとうございます。ああんもう!!」ダッ

 

明石「あぁっ・・・うーん、どうしたんでしょう?」

 

その慌てっぷりに、首を傾げるしかない明石さんでした。

 

 

 

6月1日午後3時46分 司令部前ロータリー

 

 

提督「さてなーにすっかなぁ~・・・」

 

雷「あ、司令官!」

 

提督「ん? 雷か、どうしたの?」

 

雷「うん、局長が技術局に来て欲しいって。」

 

提督「・・・なんか作りよったな? 分かった、すぐ行こう。」

 

直人は言われた通り技術局へと向かった。

 

 

 

午後3時49分 司令部前ロータリー

 

 

大淀「て、提督・・・どこに・・・?」

 

息絶え絶えの大淀、しかし、入れ違いである。

 

 

 

同刻 技術局

 

 

提督「局長ー、来たよ。」

 

局長「オウ。スマンナ呼ビ立テテ。」

 

入って正面で局長が立って待っていた。

 

提督「いいさ。そんで? 今日は何の用事かな?」

 

局長「アァ。ヒトツオ前用ノ武器ヲ作ッタ。納メテモラエナイカト思ッテナ。」

 

提督「ほほう。で? その武器と言うのは?」

 

局長が立つ位置のすぐ右横のテーブルに、2挺の短いライフルが置かれていた。

 

局長「H&K HK53-2、HK53ヲベーストシテ、2.0倍光学スコープトピカティニーレールヲ標準装備サセタ改造モデルダ。」

 

提督「・・・ストックは?」

 

局長「ナイ。イヤ、元モデルニハアッタガ、サブマシンガントシテ運用出来ル様ニ撤廃シタ。ダカラ2挺アル。」

 

提督「という事は全長590mmか。」

 

局長「ソウダナ。極力機構モ軽量合金ニ置キ換エテ重量ヲ削ッテオイタ。2㎏半ナラ片手デ使エルダロウ?」

 

提督「・・・化物扱いされてるらしいな。」

 

局長「艦娘ヤ深海棲艦ニ勝テル人間ガ何ヲイウ。」

 

十分化物である。

 

提督「まぁいい。受け取ろう。」

 

局長「アァ、銃弾ハ対深海仕様ダ。」

 

直人の言わんとすることを局長も察していたのだ。

 

提督「それはありがたい。通常弾は?」

 

局長「ストック含メテチャントアル。」

 

提督「良かった。あぁあと、発注いいか?」

 

局長「ドウゾ。」

 

提督「紀伊に俺が持ってるワンオフガンを仕込めるようにしておいて欲しいんだ。ハンドガンはホルスター脱着で済ますとして、その他のライフル系だな。」

 

局長「承ッタ。」

 

提督「あと、霊力刀の脇差を1本頼みたい。」

 

脇差と言うのは、よく時代劇で侍が刀の他にもう1本腰に差している短い刀の事で、日本での二刀流は長い刀2本ではなく普通は刀と脇差のセットで扱う剣術を指す。

 

局長「・・・ナルホド、極光デ近接戦闘ハ無茶ダカラナ。分カッタ。打ッテオイテヤロウ。」

 

提督「ありがと。正直あの艤装無駄多いんだよな。」

 

局長「アレヲ通常動力デ動カシタンダ、無理モナイダロウ。」

 

巨大艤装『紀伊』の元の動力は、核融合炉である。それこそ最終手段として核融合弾として肉弾突撃することまで考慮されていた代物というだけに、そのトンデモなさが伺えよう。

 

提督「通常時は格納してる艤装はあってもそれは腰部円盤状艤装に格納してあるし、普段付けてるブロウラーフレームレッグ、かさばる割に中が中空なのよ。」

 

これは元々入っていた推進スラスターの容積が、艦娘艤装化に伴い取り出された為にそのまま余った形になる。

 

局長「デハソコニHK53-2入レルカ?」

 

提督「お、いいね! じゃぁあとは―――」

 

局長「フムフム・・・」

 

 

 

雷「・・・凄い話込んでるわね。」(汗

 

如月「まぁ、仕込み武器がカッコいいのは認めるけどねぇ。」

 

荒潮「そうねぇー。」

 

ワール「私の兵装にも仕込み武装はあるけどね。」

 

しれっと凄い事を言う。

 

雷「・・・それホント?」

 

ワール「えぇ。ミサイルVLSも立派な仕込み武器よ?」

 

荒潮「なるほどねぇ~。」

 

雷「あー・・・ああいうのね。」

 

如月「垂直発射機構も悪くないわねぇ。」

 

雷「いずれ私達の艤装もワンオフに出来るかしら?」

 

ワール「マイナーチェンジなら改2ね。夕立がいい例みたい。それ以外だと改2以上のデータ蓄積がいるって話よ。」

 

如月「何で知ってるのよ・・・。」

 

ワール「いや、局長が将来的にそう言うのやりたいみたい。」

 

雷「ほんとに!?」

 

いきなり噛み付いてくる雷に少し焦るワールウィンド。

 

ワール「え・・・えぇ、目をキラッキラさせて語ってたわ・・・。」

 

雷「頑張らなきゃ!」

 

荒潮「頑張ってねぇ~。」

 

何故か燃えている雷であった。

 

如月「正気の沙汰じゃないわね・・・戦力は大幅アップだけど、出来るのかしら?」

 

やる気を何故か見せてしまう雷であった。

 

 

 

10分間話込んだ後、直人は技術局を後にしようとしたのだが・・・

 

大淀「や、やっと見つけた・・・!!」

 

その入り口に、大淀が現れた。

 

 

 

午後4時1分 技術局

 

 

提督「お、大淀・・・さん? どうしたの慌てて。」

 

大淀「どうしたじゃありません、どこにいたんですか! 2時間以上探し回ったんですよ!?」

 

提督「用件を話したまえ、大淀くん。」

 

毅然と、厳しい口調で述べる直人。緊急であると察すればこそである。

 

大淀「は、はい。開発棟ですが、開発結果にイレギュラーが出ました、すぐに来て下さい。」

 

提督「分かった。すぐに行こう。局長、ではまた。」

 

局長「アァ。早メニ仕上ゲヨウ。」

 

提督「急いでも仕方あるまい。ゆっくりと丁寧に、より良いものを頼む。」

 

局長「フフッ、ソウ言ッテクレルオカゲデ、私モ気兼ネナク仕事ガデキルトイウモノダ。」

 

提督「フッ。行こうか大淀。」

 

大淀「はい、提督。」

 

 直人は大淀を引き連れ、開発棟に向かった。

彼が艦娘達が余り図に乗り過ぎない程度に手綱を締めているのは、これまでを見れば既にお分かり頂けるであろう。本来艦娘達は提督と呼ばれる者達の部下であり、提督は艦娘達が尊敬ないし敬愛すべき存在である。だが、直人の見識は少々異なる。

 それは、提督は艦娘達の友として心の支柱となる存在であり、また部下として、最も艦娘達に甘えなくてはならない存在である、と言う考えであり、また彼女らを、単なる道具や手駒としての部下として扱うのではなく、友人、知人、親友として、極端に言えば家族や愛人の様に接し、彼女らと深い絆を持つべきとする人間である。

 

 この際なので、この頃の日本における人々の艦娘に対する考え方について語っておこう。

艦娘達が現れ既に2年以上になる。彼女らは人と同じ体を持ちながら、人以上に有力である。人は常として、自分達より有力な存在を恐れがちになる。このことによって、人々の感情は次の3つに大分され、それ以外は少数派となる。

 一つは、艦娘の存在は兎も角として、それを利用すること自体に反対する勢力。これは俗に「反艦娘派」と呼ばれる。

これは割に根拠のある話で、艦娘は兵器と生物その両面の特質を併せ持つ存在であるが故に、その全体の意志が、『深海棲艦の打倒』から『人間の放逐』に傾いた場合を危惧している勢力が反艦娘派である。

 最も軍上層部がが如何に腐敗しようともあり得ぬ話ではあるが、そうした人々は提督に登用されていない、拒まれたケースが殆どである。

 今一つは、艦娘に枷をはめ、生物ではなく兵器としての面を重視し、戦争兵器として扱う勢力、これは巷に様々な呼び名があるが、一概にいえば「艦娘弾圧派」と呼ばれる。此方は提督に登用された者も多く、どちらかと言うと職業軍人に近い気質を持った人間が多い。

艦娘の自由意志を封滅し、完全な兵器と見做し酷使する提督がいる事もまた事実であり、それの大半は艦娘弾圧派の提督である。当然艦娘との摩擦や軋轢は計り知れない。

無論大本営並びに各基地司令部からは、それを禁ずる厳重指示と艦娘艦隊規則の条文が発行され、破れば厳罰以上の刑法ないし処断が下されるとなっている。

 実例として、佐世保鎮守府のある艦隊が違反行為を働いたことが発覚し、一月程度で解隊されたばかりか提督が刑務所に収監される事案もある。

果てには艦娘に提督が殺害され、その配下の艦娘達の大半は廃人化していたが為に、艦隊は司令部に吸収され解体、残った僅かな艦娘も他艦隊に回され今に至ると言う様な悲惨なケースが既に存在する。それも、1件ではない。

 最期の一つは、艦娘に対してそもそも関わりを持たぬと言う、いわば「艦娘拒絶派」と呼ばれる勢力。

こちらも提督になっている人間も多いが無愛想な場合が多く、こちらも艦娘との軋轢が酷い。結果として艦隊と提督の団結は、ないに等しい。

 

これらは、人の恐怖が転化したものである点で共通点を持つ。

 

恐怖による「拒絶」(艦娘拒絶派)

恐怖による「ヒステリー」(艦娘弾圧派)

恐怖から来る「日和見主義」(反艦娘派)

 

 提督の大半は、こう言った特に才覚を持たず逆に、『艦娘』からの保身の為、上記の様に様々なやり口を持つ者が大半である。

ただこれはあくまで男性に限った話、女性に関しては大半がこれを友人をして認める向きが強い。女性提督もそれ故少ない訳ではない。

 そして、そうして減算して行った数少ない人々の派閥の一つが、「艦娘融和派」と呼ばれる人々である。

『元帥』紀伊直人や水戸嶋氷空といった、近衛艦隊4人の提督はこの派閥に属し、この派閥に属する者は、片っ端から登用されている。女性提督が少なからずいるのもその所以である。

艦娘達は自らの家族同然とするが臣下とも扱う直人を初め、親愛なる部下とする者が多く、弾圧なども一切なく、治安も良好な司令部が、そう言った提督達の艦隊であり、摩擦や軋轢も少なく、団結も強固な場合が殆どである。

その内の一つの事例が、近く語られるかもしれない事を、此処に明記する。

 

そしてその艦娘融和派の一つの事例が直人や水戸嶋の艦隊である。

 

 

6月1日午後4時8分 開発棟

 

提督「で、イレギュラー、と言うのは?」

 

大淀「二つほど。一つは試作さえされていない兵器が顕現されました。」

 

直人は流石にこれに驚いた。

 

提督「っ・・・ふむ? どのような?」

 

取り繕って聞いてみる直人であったが―――

 

大淀「キ-91、試作戦略爆撃機です。」

 

提督「ブッ!?」

 

モノがモノであった。

 

最大爆装量8トン、航続距離は爆弾4トン装備で9000km、無しで1万kmを超えるとされる、陸軍で計画中の試作戦略爆撃機であった。基礎研究自体は1943年から始まっていたと言うが、設計仕様書だけで、図面を引いている途中であったと言う。

 

その他の性能は、計画では高度1万mで速度580km以上、全長33.35m、全幅48m、高さ10m、全備重量58トンと言う巨人機で、人員輸送も出来ると言うものであった。

 

提督「こいつは驚いた・・・ここからソロモン諸島やオーストラリアまで爆撃出来る、戦闘機援護は無理だがな。」

 

大淀「そうですね。」

 

提督「何機あるのかな?」

 

大淀「36機です。」

 

それを聞いて直人は思った。

 

提督「トラック環礁を焦土化するには十分過ぎるな。」

 

大淀「焦土化、ですか?」

 

さらりと怖いことを言ってのける直人。

 

提督「航続力は爆装4㎏で9000km、この内1000kmを予備に割き8000km、航続距離は1回分の燃料でどれだけ飛べるかだから、往復分を考えて飛べるのは4000km。どうだい? 本土がすっぽりと範囲に収まる。」

 

大淀「最大爆装で50番爆弾(500㎏)を8発積み、絨毯爆撃をする訳ですね?」

 

提督「うん。島の塊だ、それで十分すぎる。都市爆撃ならどんと爆撃機がいるがね。」

 

連合軍がドイツ都市部に行った1000機爆撃行がその顕著な例だろう。

 

大淀「ですね。」

 

提督「それで、他のイレギュラーは?」

 

大淀「実は、この航空機なんです。」

 

そう言って大淀が手の平に乗せているのは、ミニチュアのような小さな飛行機であった。

 

提督「これは・・・確かに、開発棟であれば艤装として作れるが、陸軍機―――ではないな。」

 

明石「海軍機、18試陸攻。」

 

居合わせた明石の言葉に直人はさらに驚く。

 

提督「連山じゃないか!? 塗装は明灰白色、試製連山か・・・?」

 

明石「いえ、どうやらその改修型のようです。」

 

提督「言うなれば連山改か・・・。」

 

G8N1、18試陸上攻撃機『連山』、海軍が開発していた4発陸攻で、試作3機と未完の1機が出来た所で生産が途絶、終戦となっている機体である。性能は爆装最大4トン、航続距離は3730km~7470kmに達する。機体の防御性能はともかく、その防御機銃は20mm銃6挺、13mm銃4挺と強力であった。

 

生産機体の内、3機は空襲で破壊、1機が損傷状態で終戦後鹵獲されたが、エンジンが無くスクラップになった。目の前にあるそれはその連山の改修型だと言う。車輪が後の時代の旅客機の様な前輪式であったことが外見上の特徴である。

 

大淀「これなのですが、普通は常時、格納状態と展開状態を自由に切り替えられるはずのところ、誰も展開出来ないのです。」

 

イレギュラー、と言うのは実はこの点であった。

 

提督「つまり? 俺にやってみてくれ、と?」

 

大淀「はい。」

 

提督「・・・成程、分かった。では外に出よう。」

 

大淀「えぇ。」

 

明石「あの・・・頑張って下さい?」

 

なんと言っていいか分からず疑問形になる明石。答えはこうだった。

 

提督「霊力の問題な以上、頑張ってどうにかなるかどうか・・・。」

 

正直なところ直人もここまで聞けばイレギュラーの意味は分かっていたが、解決できるかは別問題と結論付けていた。

 

 

 

大淀「では、お願いします。」

 

提督「あぁ。」

 

直人は大淀から格納状態の小さな連山改を受け取り、左の手の甲に乗せ、腕をまっすぐ伸ばす。

 

提督「―――。」

 

直人は細く長く、息を吸い、吐く。

 

提督「―――ッ。」

 

直人を中心に、風が渦を巻く。

 

(―――――大いなる先人の戦人よ、我が声に応え、顕現せよ―――――)

 

直人の左手の甲から、光が迸る。居合わせた者は視覚を潰される。

 

一人直人を除いて―――――――

 

 

 

気付くと直人は、白一色の空間に浮いていた。

 

提督「これは・・・」

 

その感覚は、実に身に覚えのあるものであった。

 

“待っていた、紀伊直人元帥閣下。”

 

突然何者かが心の中に直接語り掛けてきた。

 

提督「・・・失礼だが、貴官は?」

 

“私は海軍大佐、笹辺 栄吉(ささべ えいきち)。連山改爆撃部隊、第七七三航空隊の指揮官だった者、君とは別の世界の人間の、言わば幽霊と言う所か。”

 

提督「笹辺栄吉・・・いい名だ。」

 

笹辺栄吉と名のったその声はこう言った。

 

“私はかねてから元帥の力に興味があった、その結果は、私の想像以上だったよ。”

 

提督「お褒めに預かり、光栄の至りですな。」

 

“君を見込んで、私の連山改を、私と共に貴殿に預けよう。我が命運は最後まで、貴殿と共にある。”

 

提督「・・・ありがとう、感謝に堪えない。」

 

直人が礼を述べた所で、意識が再び薄れゆく。

 

 

 

気付けば、元の開発棟の前に立っていた。

 

大淀「あれが、連山改、なのですね。」

 

提督「っ―――!」

 

直人は空を見上げる。

 

紅蓮の夕日を全身に浴び、4基の「誉」24型エンジンを唸らせ飛翔する連山改の大きな姿が、そこにはあった。

 

日本機らしく洗練されたその機体は夕日を受けて紅く煌き、得も知れぬ美しさを持っていた。十分以上に絵になる光景であった。

 

明石「凄い・・・。」

 

大淀「綺麗、ですね・・・。」

 

提督「・・・あぁ・・・。」

 

3人は、暫しそれに見とれていたのであった。

 

 

 

提督「・・・大淀。」

 

大淀「あっ、は、はい、なんでしょう?」

 

提督「あの連山改、俺の預かりという事で。」

 

大淀「でもあれは・・・」

 

提督「俺以外の指図は、受けたくないそうだ。」

 

大淀「・・・?」

 

“笹辺隊へ、帰投せよ。”

 

“承知した。”

 

直人は念話で指示を送る。この時期既に、妖精達への指示方法は心得ていたようである。

 

それまで飛び回っていた連山改も、主の元へと戻ってきた。

 

大淀「つ、突っ込んできますよ!?」

 

提督「格納形態へ。」

 

そう言った次の瞬間、連山改の姿が光に包まれ、元の格納形態、より少し大きめの姿でこちらに向かってきた。

 

大淀「サイズ差が凄いですね、また。」

 

提督「おおよそ100分の1スケールと言ったところか。立派にフルメタルなんだから困る。どこにおいたものか。」

 

大淀「滑走距離は短くていいかもしれませんけどねぇ。」

 

と言ってる間に司令部敷地のアスファルト上に着陸した連山改が滑走してきた。

 

提督「うん。ま、妖精さんが一人、俺の部屋に常駐という訳だ。」

 

連山改を掌に載せる直人。

 

大淀「ですね。」

 

手のひらサイズでは到底ない大きさである。横幅が100分の1でも30cm定規より長いのだからバランスを保たせるのが大変であった。

 

提督「本当に、大きな主翼だ。」

 

大淀「そうですね。」

 

明石「調べたい・・・。」ウズウズ

 

提督「却下だ。」

 

明石「なんでですかー!」

 

提督「機長妖精に怒られても責任は取らんぞ?」

 

いつの間にやら直人の肩に乗っていた妖精が思いっきり明石を睨みつけていたのであった。

 

格好は普通に海軍の飛行服一式に、白ではなく赤いマフラーをたなびかせていた。しかも青いオーラを纏っている。キリッとした眼に黒髪のサイドテールという組み合わせだった。

 

“変な事をすれば爆弾と機銃座で薙ぎ払ってやる。”

 

提督「・・・だ、そうだ。」

 

明石「あっ・・・はい。」

 

明石もようやく諦めが付いたようである。

 

提督「さて、明石さん、出来上がった航空機は飛行場に回しといてね。」

 

明石「了解です!」

 

大淀「私も上がって宜しいですか?」

 

提督「分かった。明石さんもこれ終わったら上がっていいぞ。」

 

明石「分かりました!」

 

提督「おつかれさーん!」

 

二人「お疲れ様でした!」

 

直人は連山改と妖精を引き連れて、その日は部屋に戻って寝たようです。

 

連山改の飛行に関して、一部で騒ぎになった以外はどうという事も無かったようです。

 

彼ら横鎮近衛艦隊が精強を誇った所以は、ひとえに単純な力で勝っただけではなく、艦隊そのものの増強をしない時でも、こう言った自身や基地の戦力強化を怠る事が無かった事に由来すると、青葉に対し提督自らが評価している。

 

 

 

2052年6月2日午前10時 提督執務室

 

 

提督「ふーむ・・・。」

 

大淀「・・・?」

 

金剛「~♪」サラサラッ

 

いつも通り職務に精励する仲睦まじいお二人と、大淀さん。(無論大淀は表は知ってても裏まで知らないのだが。)

 

 

ガチャッ

 

 

提督「ん?」

 

青葉「どうも、恐縮です。」^^

 

提督「はぁ~・・・足音も無しとはね、隠密スキルは伊達では無いか。」

 

関心を通り越して呆れる直人である。

 

青葉「お褒めに光栄の至りです、司令官!」

 

提督「・・・それで? 今日も鳳翔さんのカレーかな?」

 

青葉は1週間の内金曜日は、必ず司令部に戻ってくる。

 

青葉「まぁ、そんなところです。」

 

目当ては本人が述べる通り鳳翔さんのカレー、そのご相伴に預からんが為である。

 

提督「はぁ~、分かった分かった、付き合おう。」

 

つまり直人とは1週間置きに、食事ついでの話をしているという事である。

 

提督「言いに来たことは結構な事だな、断り無しでは食えぬしな。」

 

青葉「そうですね、食べに来て食べられないと言うのは、ただの労力の無駄です。そんな事をする間に、取材一つ出来ますから!」

 

青葉の言は全くの正論であった。故に直人も何も言わなかった。

 

提督「はぁ・・・」ピッピッ

 

直人はホログラム端末を操作、食堂の厨房にある端末に回線を繋ぐ。

 

 

プルルル・・・

 

 

提督「・・・。」

 

鳳翔「はい、厨房です。あっ、提督でしたか。」

 

提督「うん、忙しい所を済まない、今日も青葉が来たから、今日の分、1人前追加で頼む。」

 

鳳翔「ふふっ、そう来ると思いまして、もう追加してありますよ。」

 

提督「えっ・・・。」

 

思わずはっとなる直人。

 

鳳翔「あら、そう意外そうな顔をなさらないで下さい、2か月ほど付き合っていれば、それ位は分かりますわ。」

 

人付き合いの長さは相手の思考もある程度理解出来るようになるらしい。しかし些か早い気がしないではない。

 

提督「お、おう、そうだな・・・って、それ青葉こなかったらどうなるの・・・?」

 

鳳翔「その時は責任を取って、提督に食べて頂きます、頼んでくるのは貴方ですからね。」

 

毅然とした声で言われたのでは有無は言えなかった。

 

提督「そ、そう・・・ですか。では、お願いしますね。」

 

鳳翔「はい♪」

 

してやったりと言う感じの笑顔をしていた鳳翔さんでした。

 

直人は多少苦々しく思いつつも回線を切って青葉に向き直る。

 

提督「ということだ。ちゃんと食えるぞ。」

 

青葉「良かったです!」

 

大淀「青葉さんはお忙しいのにカレーだけは食べに来るんですね。」

 

少々嫌味の籠った口調でそう言う大淀、少し落ち込む青葉に対し、異を唱えたのは直人であった。

 

提督「そう言ってやるな、青葉には青葉にしか出来ん仕事と言うものがある。」

 

大淀「そうですね、失言でした。」

 

提督「分かればいい。」

 

青葉「すみません、前回の出撃にも、同行できず・・・。」

 

そう詫びる青葉だったが、慌てるのは直人の方である。

 

提督「いやいや、あれはいい。詫びるべき相手は俺ではないし、各地の情報収集や提督や上層部への取材をドタキャンすれば、お前の信用にも関わるのではないか?」

 

青葉「詫びるべきは・・・というのは、どう言う事です?」

 

提督「金剛と蒼龍の強い主張によるものなんだ、あれは。」

 

青葉「えぇ!?」

 

その青葉の背後で、すまなそうにする金剛がいた。

 

金剛「・・・そうデスネ。あの時は言い過ぎマシタ、ごめんなさい・・・。」

 

提督「謝る事はない、時期が時期であるだけに反対したのだ。作戦そのものは全く以て合理的で効果的だったのだ。」

 

金剛「・・・はい!」

 

その結果が、初の艦娘による超兵器撃破に繋がったと思えば、無駄では無かったとも言える。

 

青葉「珍しいですね、艦娘が提案した作戦を採用するなんて。」

 

提督「・・・青葉がそこまで言うとは、そんなに珍しいのか?」

 

青葉「はい、どこの艦娘も私案を持ち込まない、或いは持ち込んでも却下されている、と言うのが現状のようです。」

 

提督「流石だな、青葉。」

 

青葉の情報収集力は、この艦隊随一であろう。この点を直人も買っていたのだった。

 

青葉「いえいえ、これ位は安い御用です。」

 

彼女は戦闘能力を半ば完全にナーフし、そのリソースを情報収集とその集約に当てたような節がある艦娘であり、実はこの時点でもかなりの有名人である。

 

提督「ついでに、現状の超兵器級の状況、各司令部の状況など、子細を教えて頂けると嬉しいな。」

 

青葉「・・・代金は、頂けますかね?」ニヤリ

 

提督「・・・!」

 

その言葉に直人は驚いた。彼女は商売上手でもあると。

 

提督「情報に値を求めるか。」

 

青葉「個人情報も含まれますから。」

 

提督「おいそれとは教えられんという事ね。ふむ・・・今日のカレーでどうだ?」

 

青葉「少し安いですね。」

 

・・・嘘だろう? 最高級とも言われる鳳翔のカレーで安いだと? あ、オプションねぇや。

 

提督「・・・福神漬付きでどうだ?」

 

青葉「あぁ~、いいですねぇ~、出来ればもう少しスパイシーに。でも安いですね。」

 

・・・マジか。

 

直人は取り敢えず再び端末で厨房に回線を繋ぐ。

 

提督「・・・あ、鳳翔さん? 青葉の頼みなんだが、今日の青葉のカレー、中辛の所辛口で福神漬をセットにして欲しいそうだ。」

 

鳳翔「承りました。御用事はそれだけですか?」

 

提督「あぁ。何度も済まないな。」

 

鳳翔「いえいえ、食べて頂くんですから、その方の好みに合わせないと。」

 

提督「もしかして、カレー鍋は3つですか?」

 

鳳翔「“4つ”です、提督。」^^

 

提督「・・・激辛もあるのね。需要は?」

 

鳳翔「そこそこです。では。」

 

今度は切られてしまった。

 

提督「はぁ・・・鳳翔さんには通したぞ。さてどうするかな・・・。」

 

青葉「・・・。」ワクワク

 

提督「・・・。」

 

大淀「・・・?」

 

直人は顎に手を当て考える。

 

提督「・・・はぁ。」カチャッ

 

観念した直人は執務机の右側の引き出しに手を伸ばす。

 

青葉「?」

 

執務机の椅子側は、椅子を入れるスペースの左右に2段の引き出しと、その下に1段の大きな書類を入れる大きな引き出しがある。いわゆるオフィスデスクと同じ形である。

 

直人はその、右側2段目の引き出しを、鍵を開け引き出した。

 

提督「まったく、こいつを持って行け。」ヒュパッ

 

直人はカードの様なものを投げ、それは直人から見て右にカーブを描きながら回転して飛ぶ。

 

青葉「おっと!」パシッ

 

青葉ナイスキャッチ。

 

青葉「・・・って、これはっ!」

 

提督「間宮券、それもVIP券だ。これでいいだろう?」

 

間宮券は紙ではなくハードカードで、甘味処「間宮」に行ったものが差し出す事でデザートにあやかれるのだが、その後でそのカードは間宮さんから直人、つまり提督に返却されるのだ。

 

通常券とVIP券の違いは、メニュー指定が出来るか否かである。

 

青葉「・・・分かりました。ではお教えしましょう。」

 

ようやく代金に適った様だ。

 

提督「・・・頼む。」

 

青葉「まず超兵器級です。密かに敵に探りを入れていたのですが、敵の前線にいた超兵器は、ひとまず殲滅出来たようです。」

 

提督「そりゃぁあれだけ沈めるか懐柔したんだ。当然だろうな。」

 

敵の超兵器級複数を撃沈破、1隻を鹵獲されれば前線から消えてしまうのも道理だろう。

 

青葉「前線には量産型のレ級が数隻、それも撤退中、投入予定の超兵器も保留となったようです。」

 

提督「我が艦隊に恐れを為したか・・・いや、それはあるまいな。」

 

青葉「はい、どうやら様子見という程度みたいです。逃げると言う様な消極性は見られませんでした。」

 

つまり敵の超兵器はこれ以上の消耗を恐れ、徒党と共に毅然と退いた、と言う事になろうか。

 

提督「となると被害を抑える為、か。」

 

青葉「東南アジア戦線にも敵超兵器の存在は確認済みですが、これも後方に下げられつつあるようです。」

 

提督「ふむ・・・となると暫くは各戦線共に通常艦艇が相手か。」

 

通常艦艇だけであれば簡単な事である、と直人はこの時予想していたのだが。

 

青葉「次に各基地の動向ですが、日本本土と台湾の高雄、東南アジアのリンガの部隊に行動の積極性はありません。今のところは放任主義のようですが、規定違反によって退役させられる提督も相応にいるようです。」

 

提督「提督に主義主張は様々だ、仕方あるまい。」

 

青葉「そうですよね。ただそれ以外の基地は、どうやら緒戦の勝利に味を占め、北方海域への遠征を始めたようですね。」

 

提督「北方戦線は敵戦力の詳細は不明なれど規模は膨大として、出撃は危険視されてなかったかな?」

 

この頃の大本営でも、北方方面の情報は不足の一語に尽きる状況にあった為、直々に各基地に対し注意勧告を出すほどであった。

 

青葉「ですね、なので被害は絶えないようです。」

 

提督「アリューシャン列島への切符を手に出来れば上々という所かな。」

 

青葉「それはそうですが、現状は頑強な敵の抵抗に遭って、撤収を余儀なくされるケースが多々あるようです。」

 

提督「・・・ふむ。」

 

青葉「ただ、退役提督の艦隊に関してなのですが、それに所属していた艦娘の合計が膨大な数に上る事が問題視されているようです。」

 

これについては、提督の退役に自主性の有無を問わないことも含め、問題として中央の頭を悩ませていた。ただ、決まりを破った事に対する懲罰の最終手段として『退役(除隊)』という手段を採っている以上、主な課題はその艦娘の処遇に絞られていた。

 

提督「そうだろうな、なまじ数が数なだけに処理も難しいだろうし、同位体も沢山おろう。中央のお堅い頭じゃ、処理しきれんのも道理だな。」

 

青葉「はい、なのでどの基地も対策に苦慮しているようですが、唯一旅順警備府では解体と言う措置を取っているようです。」

 

提督「なに!? 基地司令官は誰だ!」

 

青葉「嶋田繁太郎海将です。」

 

提督「あの無能な小太り海将か・・・!!」

 

嶋田はここまでくればお察しの通り、艦娘弾圧派に属する人物である。故に虐げられた艦娘の心など見えてはいないし見ようともしない。関心さえも無いのだ。

 

提督「・・・まぁいい。俺にはどうにも出来んしな。」

 

青葉「そうですね・・・。とまぁこんな感じです!」

 

提督「うむ! いつも情報収集ご苦労様。」

 

青葉「いえいえ、間宮のVIP券に比べれば安いモノです♪」^^

 

VIP券に頬擦りまでする青葉、余程うれしいらしい。そりゃそうか。

 

提督「うちも諜報専門艦隊でも作るかねぇ。」

 

青葉「誰か当てがあるんですか?」

 

提督「まぁね、無くはない。」

 

しかし、この艦隊創設は、まだ先の話である。

 

提督「まぁ、暫しくつろぐといいだろう。俺は少々用がある。大淀、来てくれ。」

 

大淀「はい。」

 

大淀を連れて執務室から去ろうとする直人。

 

青葉「どちらに?」

 

提督「司令部の、地下牢さ。」

 

青葉「そうですか。私もご一緒していいですか?」

 

提督「そりゃぁ困る。囚人は見世物じゃないぞ。最も、一人しかおらんがね。」

 

青葉「残念です。」

 

そりゃまぁ当然な話ではあったりはする。

 

直人が去った後、執務室では一人青葉が燃えていた。

 

青葉「必ず、必ずや提督のゴシップを手に入れてやるぅ・・・ガルルルゥ・・・」

 

 

ガチャッ

 

 

提督「それは、金剛との仲を明かせるようになった時な。」ヒョコッ

 

青葉「ひゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」ビクビクゥ

 

提督「はっはっは! 我奇襲に成功せりってかぁ?じゃぁの。」

 

人の悪い笑い声を上げて今度こそ本当に立ち去ろうとする直人であった。

 

 

バタン

 

 

青葉「・・・。」ヘナヘナ

 

そしてまんまとしてやられ、その場にへたり込む青葉でした。

 

 

 

提督「クックックックッwwwww」

 

大淀「提督もいい性格してらっしゃいますねぇ・・・。」^^;

 

提督「褒められたと思っておこう、にしてもあの顔! 最高だったぜwwwww」

 

本当にいい性格してやがりますこの男。

 

 

 

午前10時48分 司令部中央棟1F・無線室

 

 

提督「・・・。」

 

大淀「っ!」ポオッ

 

 

ガコン、ゴゴゴゴゴゴ・・・

 

 

金庫式の厚い扉が、少しずつ開いていく。

 

提督「それにしても、明石もいい仕事をしたものだ、此処には扉なんぞなかったのに。」

 

大淀「後施工にしたのも貴方でしょうに、提督。」

 

呆れて言う大淀。

 

提督「そう言うな。しっかし、霊力波認証装置に指向性霊力波を用いるとはな。」

 

大淀「そう言えばあの艤装倉庫の通路も・・・」

 

提督「そうだな、指向性のある霊力波でないと開かん。放散された霊力で開かれても困るしな。」

 

そう言う間に、扉が開き切った。

 

提督「行こうか。」

 

大淀「はい。」

 

直人と大淀とは、二人で揃って地下への階段を下って行った。

 

 

 

地下への階段は70段に上る。

 

その先にある監獄は、直人が収容所をイメージしたが為に、床も天井も壁もフル鉄筋コンクリ製の厚さ1m半の壁と、最低限の蛍光灯の照明、8室ある監獄から逃亡を防ぐ為にずらして設置された2重の鉄柵で固められている。

 

更にはコンクリの壁は複合装甲で、コンクリの壁の中には、スーパーセラミックと炭素工具鋼と呼ばれる最も硬い炭素と鉄の鋼鉄合金製の装甲板が張り巡らされている。鉄筋コンクリだけで1500mmの装甲である。

 

そこに更に鋼鉄装甲やセラミックの装甲で約3600mm、何よりも強固なシェルタークラスの箱の中身が監獄なのだ、それも地中にあるが故に、脱獄の難易度は並大抵ではない。階段からこの厚い装甲なのだ。

 

それだけに密閉空間なので、音だけはよく響く。

 

足音が響く中、直人は一番左奥の監獄に向かう。

 

提督「やぁ川内、4日、いや5日ぶりかな?」

 

川内「提督・・・。」

 

提督「大淀、出入り口で待つように。」

 

直人は大淀にそう命じた。

 

大淀「はい。」

 

コツーン、コツーンと、足音が響き、大淀は階段の上へと去った。

 

提督「体調は、どうかな?」

 

川内「アハハッ、私を訳も分からぬ間に新装置の実験に付した人が、言うセリフなの? それ。」

 

苦笑しながらそう言う川内であったが、直人はそれに乗らなかった。

 

提督「あれが暗殺未遂の罪に対する罰だ。」

 

目を一挙に鋭くして言う直人。単に気位からではなく、あの発言は現実だったという事である。

 

川内「っ!!!」

 

提督「その様子だと、記憶の追加までは防げていないようだ。」

 

直人が魔力を編み上げながら言った。

 

川内「?」

 

提督「人の技術と言うのは、案外進歩の無い事だ。ほれ。」ヒュッ

 

金属的な音を立てて牢獄の中に投げられたのは、即席錬金で作られた金属製のナイフ、勿論ナマクラではない。

 

川内「どういうこと?」

 

真顔で首を傾げる川内。

 

提督「そのナイフで、俺を刺すか? 俺は逃げも隠れもせんが、どうするよ?」

 

川内「・・・。」

 

直人は真剣な眼差しでそう言う。そこにジョークの要素は一つもない。

 

提督「牢獄の鍵もここにある。望むなら鍵を開け放っても良い。」

 

直人が鍵を8つ付けたリングを指にかけ回す。

 

川内「ふふっ、悪い冗談ね、提督。」

 

提督「ん?」

 

川内「私は、貴方のおかげで元通りになった。あなたは恩人よ? それが、この期に及んであんな馬鹿馬鹿しい組織の命令に、従う事はないわ。」

 

川内は言下にその可能性を否定して見せた。

 

提督「・・・そうか。」

 

川内「龍田が貴方に臣従した理由が、何となく分かる気もするわ。」

 

提督「ほう?」

 

川内「“敵”に容赦せず“味方”に優しく寛大、しかもそのそれぞれの対象に艦娘も深海も無い。逆らえば確実な断罪、但し従えば忠臣として親身に扱ってくれる。龍田はあれで、心の中ではそう言った相手を求めているのよ。」

 

提督「龍田が、ねぇ・・・そいつは驚いた。」

 

艦娘の意外な一面を垣間見た思いである。

 

川内「もしそれが無ければ、今この場で再度の決闘に及んだでしょうね。」

 

提督「その時こそ自らの身命を賭す、という事か?」

 

川内「えぇ。確かに貴方との“夜戦”が出来たことは、僅か残った“私”の心で大きな喜びとして支えになったわ。でも偽の私が消えた今、暗殺に対する意欲も理由も、もうないわ。」

 

川内はそう言い、両者の間にしばしの静寂が訪れた。

 

提督「良かろう。では独立監査隊を離れ我が艦隊に来ないか? 無論すぐという訳にもいかんが。」

 

直人は単に、川内を試しただけの事である。その証拠に、「逃げも隠れもしない」と言う言葉には一つ言葉が抜けている。即ち―――『防がないとは言っていない』のだ。

 

そして直人は満足するに足る回答を得た。これ以上腹の探り合いは無用と判断したのであった。

 

川内「えぇ勿論! 喜んで。」

 

川内はこの申し出を快諾した。

 

提督「うむ。軽巡洋艦川内!」

 

川内「はい!」

 

提督「卿を提督暗殺未遂の罪により、1か月の拘禁に処する。拘禁解除の後は戦列へと復帰し、追って沙汰あるまで待機するものとする。」

 

すぐと言う訳には行かない、とはこのことである。信賞必罰が武門の寄って立つ処である以上例外は無い。

 

川内「勅令、謹んでお受けします。」

 

川内は片膝を屈してこの命を受けた。

 

これは後に、彼の英断と最良の決断の一つとなって、後世へと伝わる。

 

鎮守府内でも並び立つ者の無い、空前の功績を立てた大殊勲の軽巡洋艦、その航跡は、今ここから始まる。そしてそれが語られ始めるのは、まず以てあと数か月の猶予がある。

 

提督「ところで、不自由はないか?」

 

川内「うん、ご飯もおいしいし!」

 

提督「流石鳳翔さんだ、たとえ虜囚たろうと料理に妥協無しか。」

 

それを聞くと直人は身を翻した。

 

提督「ではまたいずれ、な。」

 

川内「はい。」

 

直人は川内の元を去った。

 

川内はその背中を、輝くその瞳で見守っていた。

 

 

 

6月2日午前12時28分 食堂

 

 

提督「すると青葉、お前は巨大な情報ネットワーク網を作ろうという訳か?」

 

青葉の言に、直人は驚いていた。

 

青葉「はい。各鎮守府・司令部とその傘下にある司令部のいくつかに、クモの糸の様にネットワークを張り巡らし、これを使い更にネット上でも情報を集める為の手段を縦横に用いて、方々から集まった情報を集積する事で、正確な情報を絞り出せば、超兵器や敵の、ひいては友軍艦隊の動向までも掴めるようになるでしょう。」

 

提督「また思い切った手段だな。SNSでも使うのか?」

 

青葉「いえ、提督の中から協力者を募り、その協力者間でしか使えないサーバーを用いて情報交流を行います。」

 

それは即ち専用のネットワーク回線を設けて通信を行うと言う事であり、機密性はそれなりに高い。

 

提督「情報統制の恐れもない訳か。ネット上の不特定多数の目にも触れないから炎上やよく分からんデマなども無くて済む・・・いいんじゃないか?思うようにやってみるといい。」

 

大淀も頷く。この青葉の巧妙な策に、直人は乗ってみようと考えたのだ。

 

青葉「ありがとうございます!」

 

提督「それにしても、情報統制を行っている幹部会や大本営の目を欺く訳か、こいつは面白そうだ。」ニヤリ

 

青葉「提督の敵は我が艦隊の敵です。裏の裏、更にその裏もかいて差し上げます。」ニヤリ

 

その言質に直人は満足した。

 

提督「良かろう、任せる。」

 

青葉「但しこの艦隊の存在が公に出ない様に・・・」

 

提督「無論だ、あくまで秘密艦隊、ゴーストフリートとして動く。」

 

青葉「それはなによりです。食べちゃいましょう、冷めますから!」

 

提督「おっ、そうだな。」

 

二人してカレーをかき込む。

 

こうして直人は、間接的にではありながらも諜報面での戦いにも、身を投じる事になったのである。彼自身は謀略の類は得意ではないにせよ、有力な謀略の達人が居る為安心して任せられると言った次第であった。

 

 

 

午後4時 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「内火艇が欲しい。」

 

大淀「・・・。」

 

唐突な切り出しをする直人。

 

分からない人の為に解説すると、日本海軍艦艇が搭載していた艦載艇の事で、内燃機関の事を「内火(うちび)」と呼んでいたことから内火艇(うちびてい・ないかてい)と言う名称が用いられた。端的に言うと戦艦長門のプラモ写真を見ると煙突辺りに乗っているボートがそれ。

 

大きさごとに様々な名称があり、総じて装載艇(そうさいてい)と言われていた。(ググるならこっち)

 

因みに陸軍の上陸用舟艇である大発動艇(大発)も、様々なタイプが海軍によって「特型運貨船」と言う名で大々的に使用されており、これも内火艇の一つとされる。

 

大淀「・・・どうされたんです? 急に。」

 

提督「うん。戦争中の提督は常に前線に在って臨機応変な対応をした訳だ。」

 

大淀「はい。」(やーな予感)

 

提督「たとえ出撃しない時でも提督が前線にいないのは、おかしいと思うんだ。」

 

大淀「陣頭指揮の為に欲しいんですね?」

 

提督「後艤装の運搬用にも。」

 

大淀「うーむ・・・。」

 

艤装の運搬にも使うと聞いて唸る大淀。事実直人が直々に出動する際には艤装を装着する訳だが、その燃費が著しく高いから経費的に困るのである。それが省けるとなると幾分楽になるのだから当然である。

 

提督「だから17m特型運貨船2隻と、17m内火艇1隻だね。三つ組み合わせて改造する。」

 

大淀「・・・と言うと牽引ですか?」

 

提督「舟艇がランチ引っ張るんではねぇ。それに、戦場に仕掛けを運ぶのにも使うんだからね。」

 

大淀「仕掛け・・・?」

 

提督「それはひとまず置くとして、他にどういう形式があるかな?」

 

大淀「えぇ・・・あっ!」

 

提督「っ?」ニヤリ

 

大淀「三胴船ですね!」

 

提督「大正解。二つの特型運貨船で、17m艦載水雷艇を挟み込む。こうすると積載量増加の他に、魚雷を食らった時にも有効だ。片方捨てて逃げればいいんだからね。」

 

ここで大淀の素朴な疑問が飛ぶ。

 

大淀「間違ってもそれで艤装を捨ててしまってはいけませんよね・・・?」

 

提督「そのときゃ装着するさ。それに沈める訳にもいかんし簡易的なバルジも装着する。」

 

大淀「デスヨネー。」

 

しかし今度は直人が思案顔になる番である。

 

提督「問題は造波抵抗だな、3つ合わせて450馬力でも難しいな。元通り10ノットそこそこって所か。」

 

大淀「そうなりますねぇ・・・あら? そう言えば航続距離がありませんけど、それはどうするんですか?」

 

これに直人はすぐに答えた。

 

提督「エンジン止めて戦場まで誰かに引っ張ってもらう。」

 

大淀(自分でなされば宜しいのに・・・。)

 

ド正論である。

 

提督「撃つ気のない時だってあるだろうが。」

 

大淀「さらっと人の心を読まないで下さい。」

 

提督「フッ。」

 

読心スキルは結構高い直人。結局のところ、運送用のボートが欲しいだけの事である。

 

 

ドタドタドタドタ・・・

 

 

提督「ん? 廊下が騒がしいな。」

 

大淀「そうですね。」

 

提督「ちょっと見に行こうか。」スッ

 

その直人が間仕切りから顔を出して執務室のドアを認めた時、ソレは飛び込んできた。

 

 

バタアアァァァァーーーン

 

 

皐月「やあああああああっ!!」ドンドンドン

 

文月「ええええええええええい!!」バッ

 

皐月がバク宙をしながら執務室の僅かばかり開いていた扉を勢い良く押し開けて飛び込み、それを追う形で文月が執務室内に飛び出す。

 

二人の手には、スポンジ製の剣、恐らく強化スポンジ製であろうそれが握られていた。

 

提督「まったくやんちゃだなっ!!」ダァン

 

直人は一瞬の間に即製錬金で長短一対のスポンジ剣を錬成、同時に皐月と文月の間に割って入る形で飛び出す。

 

皐月「たあああああああああああっ!!」

 

皐月は壁際まで後退した後文月に向かって飛び出し、文月もそのまま皐月に迫る勢いで飛ぶ。

 

その約1m半の狭いスペースに、一瞬にして直人が割り込む。

 

提督「ほっ!」ブンブン

 

皐月「ふえっ!?」パシン

 

文月「ふあっ!?」パシッ

 

その一振りで二人のスポンジ剣を叩き落とす。さらに・・・

 

提督「ていっ!」ブォン

 

 

スパパァァァァァーーーン

 

 

提督(喧嘩両成敗、っとね。)

 

皐月「うわっ!」

 

文月「ええっ!?」

 

 

ゴッチーーーン

 

 

因みに直人は、二人の後頭部をノンルックではたいただけである。

 

提督「よっ!」ガッ

 

その直人は正面にあった窓の枠に足を掛けてバク宙2回転して間仕切りの横まで飛んでいた。

 

提督「まったく。」スタッ

 

大淀「――――――。」(唖然

 

一瞬の事に唖然とする大淀である。

 

文月「いててて・・・。」

 

皐月「っ痛ぅーーー・・・。」

 

お互い石頭らしい。

 

提督「さて? 大乱闘の理由を聞こうかな?」

 

皐月「し、司令官・・・。」

 

文月「その・・・。」

 

口ごもる二人、その時ドアをくぐって入ってきた艦娘が一人。

 

三日月「皐月! 文月! どうしたの―――あっ、司令官! これはっ、失礼しましたぁ!!」ビシッ

 

やって来たのは睦月型のまとめ役三日月。

 

提督「一体何がどうなったの??」

 

まともに困惑して尋ねる直人、理由は至ってシンプルであった。

 

三日月「それが、二人がチャンバラごっこをしてまして、それにのめり込み過ぎた結果みたいです・・・。」

 

提督「おいおい・・・。」

 

しかし直人は僅かではありながら、その二人の凡人ならざる能力に気付いていた。

 

提督「・・・まぁ、そういうことならいいんだ。むしろ良いモノを見させてもらった。」

 

三日月「・・・?」

 

提督「取り敢えず皐月と文月は長月あたりに怒られるのは必定だろうな。」

 

三日月「そうですね。」

 

提督「皐月、文月!」

 

皐月・文月「「はい。」」

 

提督「暴れるにも程々に、な。」

 

皐月「はい・・・。」

 

文月「ごめんなさい・・・。」

 

直人がそう言うと、二人も反省するのであった。

 

提督「結構、退室してよろしい。」

 

三日月「はい、では。」

 

三日月がそう言うと3人とも、すごすごと執務室を退去した。

 

提督「はぁ~。」

 

錬成したスポンジ剣を魔力に還しながらため息をつく直人。

 

大淀「無邪気ですね。」

 

提督「ん? あぁ。あいつらはまだ幼子と変わらん、子供と同じ無邪気さを持ってる。そんな子達も戦場に出すんだ、俺たち提督も、存外業が深いと言うもんだな。」

 

大淀「そうですね・・・。」

 

直人が叱り付けなかったのは、要はそう言う彼女らの自由さと子供っぽい強い感受性を失わせない為でもあったのだ。叱るだけでは何も解決しない、要は叱られる側が如何に反省するかなのである。それが結局次に繋がるのだから。

 

提督「出来れば睦月型は戦場に、出したくないものだ。」

 

これは紛れもない直人の想いである。幼い内から戦塵に塗れる事も無い、直人はそう思っていたのだった。

 

大淀「と言いますと、司令部防衛ですか?」

 

提督「そうだな。司令部近海も敵潜水艦の宝庫、戦場ではあるがね。全く、こりゃ地獄行きかな。」

 

苦笑して言う直人を見て大淀が言う。

 

大淀「いいえ、提督は天国行きですよ。」

 

提督「どうしてだい?」

 

大淀「皆に等しく親しく向き合うあなたのような提督は、そうはおりませんでしょう?」

 

提督「・・・お、おう。そうだな。」ポリポリ

 

少し照れくさそうに頭を掻く直人であった。

 

 

 

午後4時31分 造兵廠

 

 

明石「~♪」ガチャガチャッ

 

 

コツッコツッコツッ

 

 

明石「ん? あっ、提督!」

 

提督「よぉ、暇か?」

 

明石「丁度持て余してました。」

 

提督「それは良かった。」

 

直人は皐月達を鎮圧したその足で造兵廠にいた。彼の利点は、その行動の速さにあると言ってもいいだろう。

 

提督「実はだな・・・」

 

直人は事情を事細かに説明して行く。

 

明石「三胴の舟艇ですか、中々新しいですね。」

 

提督「うん、頼めるか?」

 

明石「あ、作るの私達なんですね。」

 

提督「そりゃぁこんなドックがあるんだし、持て余すにも勿体無いだろう?」

 

直人はそのドックの方を指さして言う。

 

そのドックは、移転に伴い重要度が下がり縮小こそされたが、1万5千トン程度の大きさの船であれば造船・修理・入港が出来てなお余裕のある程度の大きさを誇っていた。

 

明石(・・・成程、ここの施設を存分に使いササッと作ってくれ、という事ね。)

 

提督「どうかな・・・? 暇を持て余してるんだから、やってくれるかな?」

 

明石「それを引き合いに出されずとも、お引き受けしますとも。」

 

提督「おや? 今回は命令ではないんだけどね。」

 

明石「分かってます、口調違いますもの。」

 

提督「いっ!?」

 

普段は毅然たる口調だが、今回はそれがない。

 

明石「“提督”ではなく“紀伊直人氏”、つまり個人としてのお願いでしょう?」

 

提督「ハハッ、何も言えんな、ホント。」

 

明石はそれを洞察していた。した上に於いて引き受けた。

 

提督「ありがとう、明石さん。」

 

明石「お安い御用です、提督。ところで、資材は何処から出しますか?」

 

提督「余剰気味の鋼材から使うといい。」

 

明石「分かりました!」

 

提督「フッ。御礼に今度一緒に、一杯やるか?」

 

明石「その時は、喜んで。」

 

※但しこの時点で直人はその誘いに先客がいる事を忘れています。

 

提督「ふふっ。ではな。」

 

明石「はい!」

 

直人は明石に別れを告げて、造兵廠を後にしたのであった。

 

明石「さぁーやるぞぉー!!」

 

やる気に満ちた明石の声を背中に受けて。

 

 

 

6月2日午後9時 浴場・男湯(移設時入渠棟が建造棟に統合)

 

 

提督「風呂はいるかぁ。」

 

実は提督用の男風呂も統合前の入渠棟の時から既にある、但し数人用の広々とした浴槽を備える。

 

間違っても艦娘用の女湯に入っちゃ、イケナイゾッ☆(最悪備長炭では済まされない事になります。)

 

その点直人はまともである、ちゃんと男湯の暖簾をくぐり、更衣室で一人服を脱ぎ、さっさと浴場に姿を消す。

 

しかし、この日に限って、男湯は罠であった。と言っても暖簾は普段通りである。(いくらなんでも気付くし)

 

「入ったデース。」キラーン

 

あー、主犯はもう分かっちゃったなこれ。

 

 

 

~午後9時10分~

 

 

カポーン・・・

 

 

提督「ふぃ~、いい湯だ。」チャプッ

 

一応直人は体は一通り洗ってから湯に浸かる派である。

 

提督「ここにきて約2か月、この湯のおかげで頑張れたぁ~。」

 

あながち間違ってはいない。無色透明ながらしっかり入浴剤が入っており、疲労回復と滋養強壮の効果が付与された湯である。

 

但し、この日はちょっとした異変が起こっている事に直人が気付いた。

 

提督「・・・あれ? 何にも見えん。」(・ω・;;

 

湯気が立ち込めているのはいつもの事でありながらも、何も見えない程立ち込めているのは流石におかしいのであった、普通ではない。

 

提督「湯の温度はいつもと同じくらいだし・・・ん? 気流の流れ? 湯気が流入している? 女湯からってどうなって・・・?」ザバッ

 

そこまで思い至った時、直人は、更衣室に何者かの気配を感じた。

 

提督「・・・??」

 

何事かと思い、侵入者の危険を考え取り敢えず白金剣を無言で呼集する。

 

 

ガラガラッ

 

 

提督「何奴ッ!」

 

金剛「ハーイ、提督。」

 

提督「へっ!!??///」

 

その予想外の声(と言っても読者の皆さんにはお分かりの声)に驚きつつ大慌てで白金剣を消す直人。

 

金剛「今日の湯浴みはどうデスカー?」

 

提督「ちょっ、金剛?ここ男湯・・・」

 

困惑する直人が思わず口走った。

 

金剛「分かってマス、フフフフ・・・」

 

提督「分かってるって・・・」

 

そう言われ逆に困惑の度を深める直人。金剛の姿は何とか影が見えるところまで来ていた。同時に何か危機的なものを直人に感じさせながら。

 

金剛「ワタシが一緒じゃ、嫌デスカー?」

 

提督「え、ええええぇぇ・・・っと・・・だな・・・。」

 

この時以上に、直人は危機感を抱いた事は無いと言う。はてさて直人の運命や如何に!?


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