野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

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 なんだこの評価数は……たまげたなぁ……

 ちょっとの間ランキングに居座りまくってて少し恥ずかしかったゾ(嬉しい誤算)。やっぱ皆好きなんすね~


5話 試合前

 ディスプレイには一人の少女が映っている。海のような青い装甲をしたIS『ブルー・ティアーズ』を纏い、大型のライフルを連射する彼女の名前は、セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生であり、そして一夏と野獣がクラス代表の座を賭けて戦うべき相手だ。

 現在野獣が見ているのはセシリアの公式試合映像である。彼を知り己を知れば百戦(あやう)からず。試合を行うことが決定したあの日以来、野獣は放課後になるとこうして彼女の試合映像を探し、そして観察することで一つでも多くの情報を得ようとしていた。同じ動画を繰り返し観察し、「これもう分かんねぇな」とぼやきつつも、気付いたところがあればすぐさまノートに書き込む。そんな作業を続ける彼の背中を、同室の楯無は頬杖をつきながらぼんやりと見つめていた。

 

「田所君、何か役立ちそうなことは分かったかしら?」

 

「そうですねぇ……んにゃぴ……やっぱり、中・遠距離戦で挑むのは駄目みたいですね(情報整理先輩)」

 

 「こ↑こ↓」と言ってディスプレイを指差す野獣に、楯無はそれを彼の後ろから覗き込むような体勢を作る。映像ではちょうどセシリアがブルー・ティアーズ専用の装備であるBT兵器──通称ビットを操って、相手であるアメリカの選手を追い詰めている様子が映っていた。変則的な機動と共に相手のシールドを削るレーザータイプのビット四基、セシリアの腰部分に装備されたミサイルタイプのビット二基、そこに大型レーザーライフルを備えたブルー・ティアーズは、まさに中・遠距離戦闘に特化したISであると言えるだろう。ビットの攻撃を受けて墜ちていく敵を眺めながら野獣は、「やはりヤバイ」とあらためてセシリアの実力を確認する。

 故に、彼が取るべき最適解は接近戦に持ち込むことだった。わざわざ相手の間合いで戦うことはあり得ないし、そもそも彼にはそれしか出来ないと言っても過言ではないのだ。野獣は銃等の火器を扱ったことが一度もない。平和な日本に生まれたのだ、当たり前の話だろう。今まで扱ったことのない物を重要な場面で使いこなすことが出来るのか、答えは当然ノーである。

 勿論、イギリスの代表候補生であるセシリアが簡単に懐への侵入を許すとは思えない。彼女のIS稼動時間は軽く三百時間を越えており、一方の野獣は学園の入試でたった114514秒程ISを動かしたくらいだ。操縦技術的な面から見てもセシリアに軍配が上がるのは明らかだった。

 誰が見ても勝ち目の薄いこの試合。これをひっくり返す要素があるとすれば、やはりまだ見ぬ彼の専用機以外にはない。

 

「一体田所君の専用機はどんなISなんでしょうね?」

 

「くぅ~ん……こう、パパパッといって、終わりっ!(完全勝利)、みたいなISだったらいいゾ~」

 

 冗談半分の野獣の言葉だが楯無はそれを否定しなかった。何せ彼の専用機を作るのはあの天災、篠ノ之束本人なのだという。ISの生みの親のオーダーメイドなら、とんでもない力の一つや二つや810くらいあったとしても不思議ではない。

 

 因みに野獣が専用機の存在を知ったのは今朝のことだ。授業開始前に担任の千冬本人から専用機の支給があると伝えられた時には思わず頭を抱え、「ポッチャマ……」と呟いたのだという。

 

 専用機は必要ない。

 

 しかし受け取りを拒否した場合には何をされるか分かったものではない。学生時代、束の悪戯で頭髪の悉くが危うく消滅しかけた野獣は、彼女の悪戯がとてつもなく恐ろしいことだということを嫌という程理解していた。

 

 そんな苦悩の末に、彼は専用機を受け取ることを決意したのである。恐らく専用機を受け取ることで悩んだ人間は、後にも先にも野獣ただの一人だけだろう。

 

「あ、そうだ(唐突)。そう言えば織斑君は何をしているのかしらね?」

 

「ICKなら剣道場でHUKと剣道をしてるゾ」

 

「……えっ、剣道? ISでの試合を控えてるのに?」

 

 思わず聞き返した楯無に野獣は「そうだよ」と頷く。野獣と同じくクラス代表を賭けてセシリアと戦うことになった一夏だが、現在彼がやっていることはISとはなんの関係もない剣道だった。何故ISバトルを控えた彼が剣道をしているのか、そこには幼馴染みである箒の「剣道の出来ない者にISを学ぶ資格はない」というハチャメチャな理由があったりするのだが、そんなことを野獣と楯無は知る由もない。

 

「ま、二人にも何か考えがあるんでしょ……(希望的観測)」

 

「そ、そうよね。うん、きっとそうだわ。だって大切な試合の前に意味のないことをする訳がないものね」

 

 まるで自分に言い聞かせるようにこくこくと頷き、またセシリアへの対策を考える作業に戻る二人。同時刻、剣道場に一夏の「ンアッー!」というクッソ情けない声が木霊していたりするのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 そして、時は経過し現在は試合当日──、

 

 

 

「あのさぁ……箒」

 

「な、なんだ一夏?」

 

「ISについて教えてくれるって言ったのに教えてくれねぇっておかしいだろそれよぉ!?」

 

「し、仕方がないだろう! お前の専用機もなかったのだから!」

 

 声を荒らげる一夏に箒もむっとなって反論する。そんな二人のせいで一気に騒がしくなったピットでISスーツを纏った野獣は、仁王立ちする千冬の隣で「駄目だやっぱ」と呆れ返っていた。はぁぁぁ~~……とクソデカ溜め息を漏らすことも忘れない。

 

「そういうお前はどうなんだ? 随分と余裕そうじゃないか」

 

「ベストを尽くせば結果は出せる(至言)。やることやったし、後は運次第ってとこっすね」

 

 大切な試合を前にして、それでも野獣はいつものようにヘラヘラと笑う。そんな昔から変わらない彼に千冬は何も言わずに、それでいて少しだけ表情を綻ばせた。二人の間に会話はなくなったが、しかしお互いに言わんとしていることは理解出来るのだ。彼等は十五年以上も共に時間を過ごしており、その程度のことが出来たところで何も驚くことではない。

 

「お、織斑君! 田所君! 来ました、漸く来ましたよ~!」

 

 数分後、バタバタと駆け込んできた真耶へ四人の目が集まる。乱れた呼吸を整えようと彼女は深呼吸を何度もし、その度にその大きな胸がたゆんと揺れた。その光景はもうなんというか、眼福の一言に尽きる。直後、それに見蕩れていた一夏と野獣の脇腹を鋭いエルボーが貫いた。

 

「「ヌッ!?」」

 

「こほん……山田先生、専用機は届きましたか?」

 

「え……あ、はい! そうです! 来ましたよ、お二人の専用機が!」

 

 まるで子供のようにはしゃぐ真耶。一方、それを受け取る筈の本人達は脇腹を抉った激痛に悶えて喜ぶどころの話ではなくなっていたのだが、はしゃぐ彼女がそれに気付いた様子はなかった。踞ってプルプルと震える二人の背中に低温の視線と容赦ない言葉が突き刺さる。

 

「お前達、いつまでそうしている? アリーナを使用出来る時間は限られているのだ、早くしろ」

 

「そうだぞ(便乗)。早く準備をしろ一夏」

 

 なんという理不尽な。試合開始前から瀕死に追いやられた二人は内心でそう溢した。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 二人が案内された先には二体のISが並んでいた。一体はヒロイックなデザインのIS。そしてもう一体は対照的にかなりシンプルな造型をしたISだった。どちらも装甲の色は暗い銀色、装甲を開いて鎮座する姿はまるで来るべき操縦者を待っているようにも見える。

 

「これが……」

 

「はい。これが織斑君の専用機、『白式』です!」

 

 ヒロイックなデザインのISを指差した真耶が嬉々として機体名を伝える。白、と名前に入っているにも関わらず装甲の色が違うのはどういうことかと、操縦者である一夏は首を傾げるが、一次移行(ファースト・シフト)が終われば白くなるのでは、という野獣の言葉には納得したようにこくこくと頷いた。彼が白式に向ける視線は熱く、どうやらかなり気に入ったようだ。

 

「山田先生、こいつの機体は?」

 

「はい、此方が田所君の専用機です。名前は『サイクロップス』だそうですよ」

 

 サイクロップス。野獣は機体名を復唱し、目の前のISを見つめた。全体的に装甲の少なくスリムなデザインのそれは、良く言えばシンプル。悪く言えばクッソ弱そうなISだった。「これマジ? 上半身も下半身も貧弱すぎんだろ……」と野獣が呟いてしまうのも仕方のないことである。

 

「野獣、時間が押している。お前から行け」

 

「しょうがねぇなぁ(悟空)。行きますよ~……行く行く」

 

 時計を確認した千冬からの指示通り、座るようにしてISを纏う野獣。ガシャガシャと装甲が体に装着され、目には真っ黒なバイザーが被せられた。その出で立ちはISスーツの色も合わさって銀一色であり、鼻から上を隠す特徴的なバイザーもあってまるでサイボーグのようだ。従来のISとは異なったその姿に千冬も僅かに目を細める。

 

「どうだ?どこか不具合はあるか?」

 

「特にはないです」

 

 ISを身に纏ったことで視界が大きく開けた野獣は、「見える見える」と呟きながらゆっくりとカタパルトまで移動する。まだ初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)も完了していない、そんな不完全な筈の専用機で出撃するにも関わらず、野獣は一人ニヤリと笑った。そこには不安や恐れといった感情は一切見られない。

 

「先輩! 頑張ってください!」 

 

「田所さん、御武運を」

 

「が、頑張ってくださいね! 田所君!」

 

「勝てよ野獣。負けなど許さん」

 

 一夏、箒、真耶、千冬の順に後ろから響く声援。野獣はハイパーセンサーでそんな四人の様子を確認すると、口を開く代わりに右手でグッとサムズアップを作った。そして、カタパルトが音を立てて動き出し──、

 

 「イクゾォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 サイクロップスに乗り込んだ野獣をアリーナへ射出した。

 




 ダイナモ感覚!ダイナモ感覚!YO!YO!YO!Year!

 皆さんも分かったと思いますが野獣先輩の専用機はサイクロップス先輩になりました。装甲云々とかカスタム・ウィングとか考えず、ありのままの先輩を思い浮かべてもらえたらありがたいです

 知識不足、語録不足等々至らない点は多々あると思いますがお付き合い頂けたら幸いです

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