評価バーが赤くなってた時「なんだこれは……たまげたなぁ」
ランキングに載った時「ファッ!?」
今「書かなきゃ(使命感)」
たくさんの評価に温かな感想、ありがとうございます!これからも頑張るから見とけよ見とけよ~!
その夜、野獣は一人学生寮の屋上に上がっていた。雲の切れ間から覗く月を眺めながら、時折吹き付ける風の心地好さに「Foo~↑」と声を漏らす。
暫くの間はそんな具合にぼんやりとしていた野獣だが、突然思い出したかのように携帯を取り出し、流れるような手付きで電話番号を入力した。独特のコール音が静かな空間に木霊する。やがてコール音は途切れ、彼の携帯から聞こえてきたのはあどけない少女の声だった。
『此方は篠ノ之束博士の番号です。一体どなたでしょうか?』
「おっ、CLEじゃないっすか。オッスオッス。俺俺、TDKRだゾ」
『あっ……た、田所様でしたか。申し訳ございません』
詐欺か何かと間違われそうな野獣の言葉に、しかし電話に出た少女──クロエ・クロニクルははっとして口調を変える。事務的な対応をする抑揚のなかった声には感情が込められ、まるでペコペコと頭を下げている様子が頭に浮かぶようだった。そんなクロエに野獣は「そんなに畏まらなくていいから(優しさ)」と苦笑を浮かべる。
「ちょっとTBNにさぁ……話、あんだけど……」
『束様ですね、分かりました。今お呼びします』
「オッスお願いしま~す」
少女、クロエ・クロニクルは野獣の幼馴染みにしてISを生み出した大天才、篠ノ之束の付き人のような存在だ。メイド、と言い換えてもいいかもしれない。特殊な事情があって彼女に保護されているクロエは、代わりとして束が面倒くさがってやろうとしない一切のことを任されているのである。電話への対応もその一つだ。仮に今の電話が野獣を含めたごく一部の人間以外の者からだったなら、彼女は間髪を入れずに通話を切っていたことだろう。
『はいは~い、束さんだよ~』
会話が途切れて十秒程、聞こえてきたのは可愛らしい女性の声だ。彼女こそかの大天才、篠ノ之束その人である。しかし野獣にとってはそんな肩書きなど関係なく、幼馴染みの親友に過ぎない。いつものように「久しぶりじゃんアゼルバイジャン」と決まった挨拶を交わす。
『あぁうん、久しぶり。それでなんの用かな?束さんは今、いっくんの専用機作りで忙しいんだけど。もしかして野獣も作ってほしくなっちゃったとか?』
「専用機なんか必要ねぇんだよ!(小声)。そんなことより、なんで俺とICKはISが動かせるんですかねぇ……(素朴な疑問)。男なのにISを動かせるっておかしいだろそれよぉ?」
男であるにも関わらずISを動かすことが出来てしまった一夏と野獣。ISの生みの親である束ならばこのことについて何か知っているかもしれないと野獣は睨んだのだが、期待に反して返ってきた言葉は「分からない」という五文字であった。
『いっくんはちーちゃんの弟で、野獣は実際にIS作成に関わってる。何か理由があるとすれば、二人共束さん達に接点があるってことくらいかなぁ……? 正直、束さんも考えてみたんだけど全然分からないんだよね』
「これもISコアの秘密、ってことっすか? たまげたなぁ……」
軽い口調だがそこには確かな戦慄が込められていた。野獣は目を細め、考え事をするようにぼんやりと遠くを眺める。
ISコア。
束が作り出したISの心臓部分であり、世界に467個しか存在しない貴重な物。その全容は製作者である束ですら把握出来ておらず、完全なブラックボックスとなっていることは、大学時代でISを学んでいた野獣にはよく分かっていた。更に近年の研究ではコア内部に意識に似たものがあるということも判明しており、これは最早機械ではなく一つの新たなカテゴリーなのではないかと言う研究者もいるくらいなのだ。
『一応これからも調べてみるつもりだけど期待はしないでね。コアに関しては流石の束さんでも難しいし』
「こればっかりはしょうがねぇよなぁ……(諦観)。夜分遅くに失礼したゾ。じゃ、お休み」
目的が果たせなかったことに野獣は溜め息を一つ溢し、お休みを言って電話を切ろうとするが、直後に束から『ちょっと待って』と制止が入る。今までにはあまりなかったことだけに、野獣も首を傾げて彼女の言葉に耳を向けた。
『野獣はさ、どうして専用機なんていらないって言ったの? 普通こんな誘い、誰も断らないんだけど』
それは純粋な疑問だった。専用機というIS操縦者ならば誰もが欲する物──しかも、かの大天才の手掛けた機体──を、この男は悩むまもなくあっさりと断ってしまったのだ。それは何故なのか。束の問いに野獣は「そうですねぇ……」も暫し熟考した後、ポツリポツリと語り始める
「別に特別な力なんていらないからさ、俺は。他の奴がどうかなんて知らないけど、俺は自分の夢が叶ったらもう、それだけで十分なんだよね(無欲先輩)」
『夢?』と思わず聞き返した束に野獣はニヤリと笑った
思い出されるのは十年前、束の部屋でああでもないこうでもないと三人で話し合った、遠い遠い昔の記憶。白い騎士の設計図を片手に一人の少女が語ったその夢を、野獣はずっと抱き続けてきた。
「『束さんとちーちゃんと野獣、そしていっくんと箒ちゃんの五人で月へ行こう。そこで兎と餅をついて皆で食べるんだ』って、誰かさんが目をキラキラさせて言ってたんですよねぇ……(全て遠き理想郷)」
『……ぷっ、あははははははははははははははははははははははははははははははっ!!ははははははははははははははははっ!! 何それ、懐かしいなぁ!
束はゲラゲラと腹を抱えて笑った。それはいつも彼女が浮かべている上っ面だけの笑いではない。心の底からの、本気の笑いだった。携帯を通して伝わる兎の笑い声は静寂の支配する夜に溶けていく。
野獣は一人静かに笑った。なんということはない、
「そんな訳だから別に専用機は必要ないです(初志貫徹)」
『あ~うん分かった分かった。それじゃ野獣の専用機は作らないよ。呼び止めてごめんね、じゃあお休み!』
「オッスお休み~」
ツー、ツー、と。無機質な音を鳴らず携帯を彼はさっと仕舞った。空を見上げれば太陽の光を反射して黄金色に輝く月が見える。今日はいい夢が見れそうだ、野獣は珍しくセンチメンタルな気持ちになりながら、真っ暗闇の中を一人部屋を目指して戻っていった。
──……あ~面白かった。やっぱり野獣は最高だよ
──嬉しそうですね束様
──そりゃそうだよ。忘れてなかったんだな~、あいつ。普段は適当なのにこういう時だけカッコイイんだもん、ちょっと卑怯だよね
──……? カッコイイ、ですか
──ん~、クーちゃんにはまだ分からないかな?ま、そのうち分かるようになるよ。さて!それじゃ
──え……束様、田所様の専用機は作らないという話では?
──作らないとは言ったけど元からあった物を渡さないとは言ってないからね。野獣には久しぶりに笑わせてもらったし、そのお礼ってことで。クーちゃんにも手伝ってもらうよ。いっくんのと合わせて二つ、大変だね~
──……はぁ。分かりました、頑張りましょう
△▽△▽
翌日、いつも通り七時二十一分に起床した野獣は、その後目覚めた楯無と共に食堂を訪れた。昨日の拘束事件で彼女にすっかり怖がられてしまった野獣だが、事情が分かり次第すぐに「すみません許してください!なんでもしますから!(土下座)」と誠意を見せたことで和解することに成功しており、出会って一日ではあるが今ではすっかり仲良くなっていた。
「田所君、朝からラーメンなんて食べるのね。しかも大盛……大丈夫なの?」
大盛のラーメンの載ったお盆を受け取った野獣を見て、楯無は若干顔を引きつらせた。他の生徒達も同様だ。しかし、そんな彼女達とは反対に野獣は満面の笑みを浮かべ、「ま、多少はね?」と軽い足取りで空いているテーブルへと向かって行く。彼の往く所にいた生徒達がさっと道を開ける様子を見て楯無は、まるでモーセみたいだと呟き、その背中を追った。
「さて、じゃあ戴きましょうか」
「戴きま~す(無邪気)」
そう言うや否や、野獣は凄まじい勢いで麺を啜りスープを味わった。大盛のラーメンが目に見えて減っていく様子は食堂中の生徒達の注目を集めるが、彼は全く気にする素振りも見せず「うん、美味しい!」や「やっぱ……IS学園の料理を……最高やな!」と呟いては、笑顔でまた一口とラーメンを口へ運んでいく。外野の生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
美味しそう、と。ラーメンを食べる野獣を見た誰かがとうとう呟く。瞬間、生徒達の頭の中で何かが千切れ、ラーメンを求める生徒達が券売機に殺到した。ダイエット? そんなの関係ないでしょと言わんばかりの光景に、流石の楯無も「えぇ……」と困惑した声を漏らす。
「おっ、皆ラーメン食べるのか。やっぱ好きなんすね~」
「……田所君の影響だと思うんだけど(小声)」
マイペースな野獣の一言に楯無はふぅと溜め息をつき、自らの朝食であるサンドイッチへと手を伸ばす。昼食はラーメンを食べよう、決して声には出さずに、しかし固く彼女は誓った。
「……なぁ箒、これはどういう状況なんだ?」
「……知らん」
TBNさんの口調は野獣の前では素が出てるってことで、OK牧場?ずっと原作の感じの口調だったら絶対面倒だと思うんですけど(名推理)
語録ばっかり使っても違和感が出るけど野獣先輩に語録以外の言葉を喋らせても違和感があるんだよなぁ(ジレンマ)
じゃあ俺、評価もらって帰るから