野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

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(投稿時間に意味は特に)ないです。

 アーイキソタイプ・ブッチッパー、ガチレズなLRN姉貴が一番ヒロイン力が高いってどういうことなんですかね……? 他のヒロインも見習わないかんのちゃうか?


14話 二人の転校生

 六月。

 

 春の陽気もだんだんと夏のそれに変わり始め、気温の高さを意識し出す今日この頃。やたらと大きなサイズの枕に顔を埋めていた野獣は、カーテンの隙間から射し込む光に呻き声を漏らし、やがてゆっくりとその体を起こした。同時に、隣のベッドで眠っていた同居人もモゾモゾと布団から顔を出す。

 

「ふぁ……おはようございます……先輩」

 

「はい、おはヴォー」

 

 眠たげに目を擦りながらベッドから立ち上がったのは、野獣の弟分にして世界で初めてISを動かした少年、織斑一夏だ。それまで野獣と同室であった更識楯無ではない。

 

 部屋割りの変更が行われたのは今からおよそ一週間程前のこと。突如現れた男性操縦者というイレギュラーのために余儀なくされた手続きや作業が二ヶ月経ってようやく完了し、一夏と野獣が一つの部屋にまとめられることとなったのである。

 これに対して一番喜んだのは一夏だ。これまで箒と生活を共にしていた彼であったが、いくら幼馴染みとはいえども窮屈感は覚えていたらしく、野獣との同室が決まった瞬間には「やったぜ。」と天に向かってガッツポーズをかましたという。そんな一夏を箒が恨めしそうに見ていたことを、彼は知らない。

 

「ICK、顔を洗って着替えたら飯食いに行くゾ。お腹減ってきちゃったよヤバいヤバい……」

 

「ん、そうですね。今日は何食おっかな~……」

 

 大きな欠伸をしながらも活動を開始した二人の男。これから先に波乱が待ち受けていることなど、今の彼等には知る由もなかった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

「オッハー!!」

  

「あ、田所君と織斑君だ。おはよう」

 

「せんぱい、おりむー、おはよ~」

 

 大音量かつ激寒な挨拶と共に教室へ足を踏み入れた野獣とその後ろに続いた一夏に、クラスメイト達は微笑みながら近寄っていく。野獣が騒がしいことなどいつものことで、少なくともこの一年一組に通う生徒達はこの二ヶ月ですっかり彼の調子に慣れてしまっていた。

 

「おはよう。皆、何の話をしてるんだ?」

 

「ISスーツについてだよ。今日からスーツの申し込み日だから、どれがいいかなって話してたの」

 

 はい、と一夏が手渡されたのはISスーツのカタログである。様々な企業の販売しているISスーツはらそのどれもがデザインであったり性能であったりと微妙な差異を見せている。それを見て生徒達はこのモデルがいい、いやこちらの方がいいと談笑を広げていた。

 

「そういえば織斑君のと田所君のISスーツってどこの会社の? 見たことない型だよね?」

 

「特注品だよ。男用のISスーツなんて今までなかったからさ。元になったモデルは確か……えっと、COA──」

 

「あっ、おい待てぃ。元になったのはイングリッド社のストレートアームモデルだゾ」

 

 うろ覚えの一夏の代わりにすらすらと答える野獣。それから二人は女子の中に交じり意見を述べ合っていたが、やがて教室に担任である千冬と真耶が現れたことで解散し、皆は各々の席に戻っていった。

 

「諸君おはよう。知っているとは思うが今日から実際にISを動かしての訓練が始まる。各自気を抜くことのないように。また、ISスーツについては自分のものが届くまでは学校指定のものを使用してもらう。水着、または下着で授業に参加したくなければ準備を忘れぬようにな」

 

 そんな千冬の言葉に教室中の空気が引き締まる。この一年一組が始動してからまだ二ヶ月と短いが、担任である千冬の怖さは──主に一夏と野獣の犠牲もあって──クラスメイト全員が知るところである。忘れたら本当に水着か下着で授業を受けなければならない、聞いた者に本気でそう思わせるだけの力が千冬にはあった。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「はい! ええとですね、今日はなんと転校生を紹介したいと思います! それも二名!」

 

「「「「「えええええええ!?」」」」」

 

 真耶から告げられた衝撃の報告に教室中が一斉にざわつく。しかしそれも一瞬、千冬の一声に静けさを取り戻した生徒達は、ごくりと固唾を飲んで教室前方の扉へと視線を集中させた。

 

 やがて扉がスライドし、二人の転校生が姿を現す。

 

「え……?」

 

 そんな声を漏らしたのは果たして誰だったのか。一年一組の生徒全員の注目を一身に集める『彼』は、教卓の前に立つとペコリと頭を下げた。そしてにこやかな笑みを浮かべ、告げる。

 

「シャルル・デュノアです。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国であるフランスから来ました。()()()()()()I()S()()()()……で、いいのかな。まだ不慣れなことも多いかと思いますが、宜しくお願いします」

 

 うなじの辺りで一つに括った金髪を揺らしつつ少年──シャルルは微笑む。

 

 三人目の男性IS操縦者。

 

 そのあまりに突然の登場に誰もがあんぐりと口を開け、言葉を失った。

 

 だが、それも衝撃のあまり思考が停止していた間だけのこと。数秒もすれば何人かが我に返っていき──、

 

「「「「「きゃあああああああああ~~~!!」」」」」

 

 黄色い悲鳴が爆発した。

 

「男! 男よ!」

 

「しかも美形! 守ってあげたくなる系よ!」

 

「お~ええやん」

 

「あぁ^~いいっすねぇ^~」

 

「おまえのことが好きだったんだよ!」

 

 口々に叫び出す生徒達に教室の熱が一気に上昇する。三人目の男性操縦者という全く予期せぬ存在が現れたのだ、無理もないことだろう。

 

 しかしそんな中、シャルルに向けて懐疑的な目を向ける者もいる。この教室において最年長に位置する野獣と千冬の二人だ。

 

「これマジ? 性別に比べて体の線が細すぎるだろ……(野獣の眼光)」

 

「お前達、静かにしろ。もう一人残っている」

 

 教室に響いた千冬の一声の一方、野獣の呟きはざわめきに消えていった。そして再び静寂を取り戻した生徒達は、続いてシャルルの隣に立つ小柄な少女へと視線を移す。腰まで伸びた銀髪と左目を隠す眼帯が特徴的な、高校生というには少々幼さの目立つ容貌の少女だった。

 

「……」

 

「……ラウラ、自己紹介をしろ」

 

「はっ! 教官」

 

「織斑先生と呼べ。ここでの私はただの一教師に過ぎん」

 

「分かりました、織斑先生」

 

 そんな会話を千冬と交わした少女はその場から一歩前に踏み出す。そこかしこから「あっ……」と何かを察するかのような囁きが上がる中、少女はふっと鼻を鳴らし──、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 自己紹介というにはあまりに短すぎる自己紹介をした。

 

「……あの、それだけですか?」

 

「それだけだ」

 

 この場にいる全員の総意を代弁するように口を開いた真耶を少女──ラウラは傲慢とも取れる態度を崩さぬままばっさりと切り捨てた。その姿は紛うことなき問題児のそれであり、これからクラスメイトになるのかと考えた者達の不安を煽る。

 

 そんなラウラだったが、自分の目の前の席に座る一夏を目にしたところでその表情を険しく歪ませた。

 

「貴様が織斑一夏か?」

 

「そ、そうだよ」

 

 赤く冷たい瞳で見下ろされる一夏は内心で動揺しながらもラウラの問いに肯定する。

 

 次の瞬間、彼の頬にラウラの拳が突き刺さった。

 

「オォン!?」

 

「認めない……! 貴様のような男が教官の弟などと……断じて認めんぞ……!」

 

 突如振るわれた優しくない暴力に一夏は机から転がり落ちる。が、すぐに立ち上がると自分を忌々しげに見つめるラウラに向かって声を張り上げた。

 

「痛ってぇ……! 殴りやがったな……もう許せるぞオイ!!」

 

「ふん、やる気か? 受けて立つぞ?」

 

「お前達、そこまでだ。喧嘩なら後でやれ。これ以上は次の授業に差し支える」

 

 一発触発の空気が流れる一夏とラウラの間に口を挟んだのは、やはり千冬であった。一夏からすれば担任であり実の姉で、ラウラからすれば崇拝すべき教官な彼である女の言葉に、両者は何か言いたげにしながらも大人しく引き下がった。

 

「ではこれにてホームルームを終わりとする。次は実習だ、全員ISスーツに着替えてグラウンドに集合しろ。くれぐれも遅刻のないように。デュノアについては織斑と田所が面倒を見てやれ」

 

「ん、おかのした」

 

「かしこまり!」

 

 二人の快諾を受けて一度こくりと頷いた千冬は、すぐに真耶と共に教室を後にしていった。その背中を一夏が見届けた直後、件の男子生徒であるシャルルが彼に声を掛けてくる。

 

「初めまして。君がまさよし君だね? 僕はシャルル・デュノア、宜しく」

 

「織斑一夏だ。宜しくな」

 

 簡単な挨拶を交わし、握手を済ませる一夏とシャルル。そんな二人のもとへ「俺も仲間に入れてくれよ~」とやって来た野獣が加われば、この世に彼等しか存在しない男性IS操縦者トリオが完成する。王道を征く爽やか系イケメンの一夏、見る者の庇護欲を沸かせる容貌の持ち主であるシャルル、そしてお調子者ながら頼れる兄貴肌の野獣という、それぞれが他にはない特徴を持つ三人が並んだ様子は、さながら乙女ゲームのパッケージのようであり、瞬く間に教室中から歓声とシャッター音が鳴り響いた。

 

「……っと、とりあえず詳しい自己紹介は後でだな。ここにいたら女子達の着替えが始まっちまうし、俺達も早く移動しようぜ」

 

「あっ……!」

 

 そう言うや否や一夏はシャルルの手を取り、野獣と共にそそくさと更衣室のあるアリーナへと向かい始めた。このままでは授業に遅れかねないと急ぐ一夏達、そんな三人にそちらの事情など知らんとばかりに無数の影が迫る。

 

「転校生、大発見!!」

 

「しかも織斑君と田所君もいるわ! これはラッキー!」

 

 シャルルという新たな獲物の情報を嗅ぎつけた一組以外の生徒達が、ギラギラと肉食獣のごとく目を輝かせて走り寄ってくる。捕まれば当然遅刻は必至、そうなれば待っているのは担任からの竹刀による制裁だ。故に一夏達も全力で逃走する。

 

「な、何? なんで皆追い掛けてきてるの?」

 

「そんなの俺達が世界でISを動かせる男達だからに決まってるダルルォ?」

 

「あっ、そっかぁ……(納得)」

 

 足を動かしながらも訳が分からないとばかりに首を傾げるシャルルに、やたらと綺麗なフォームで走る野獣は「当たり前だよなぁ?」と涼しい顔で答える。その後、繰り広げられる熱い逃走劇を征した三人は、無事にアリーナの更衣室に辿り着いた。

 

「ぬわぁああああああああん疲れたもぉおおおおおおん!!」

 

「チカレタ……」

 

 更衣室に入るなり大声を上げる野獣と大きく息をつく一夏。「やめたくなりますよ~」と愚痴を溢しつつ適当なロッカーの前まで移動した二人は、そのまま身につけていた制服を勢いよく脱ぎ捨て──直後、シャルルがすっとんきょうな悲鳴を上げた。

 

「うわぁっ!?」

 

「? 何してんだよ。早くしないと遅れるぜ?」

 

「そうだよ(便乗)。あくしろよ」

 

「う、うん……。分かってる、分かってるよ……」

 

 顔を下に向けて俯きながら、しかしチラチラと半裸になった一夏と野獣に目をやるシャルル。その明らかに挙動不審な態度には流石の二人も不信感を覚えるが、しかし現在は先程の逃走劇もあって時間が押している。結局彼らはシャルルのことをそれ以上考えることなく、千冬の制裁だけは受けたくないの一心で着替えに集中した。

 




 一夏、シャルル、野獣先輩の三人を攻略対象にした恋愛シミュレーションゲームやりたい……やりたくない?

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