野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

12 / 19
エイプリルフールなので今日は投稿しません。


12話 生徒会長VS野獣(前編)

 クラス対抗戦(リーグマッチ)が予期せぬ事態によって中止となったものの、無事終息を迎えたその夜、野獣は学生寮の屋上で金網に背を預けていた。その手に握られている携帯にはとある人物の名前が表示されており、その人物が通話に応じるのを一人待っているのだ。ややせっかちなきらいのある野獣は通話がなかなか繋がらないせいか、時折「あくしろよ」と呟いては夜空を仰いだ。

 

『お待たせ』

 

「おーおーおーおー、どこ行ってたんだよお前よ~」

 

 数分後、漸く繋がった相手に対し、野獣はやや演技がかった口調で喋る。それを聞いた相手は──天才科学者、篠ノ之束は特に悪びれた様子もなく、はいはいと生返事で以て流した。

 

『それで、束さんに一体何の用かな?』

 

「何の用とかとぼけちゃってぇ。今日学園に来たISのことだゾ」

 

 ふざけた様子から一転、真剣な面持ちで尋ねる野獣。それに対して束は心当たりがあるのか、『あぁ、あれね』と小さく呟いた。

 

「あれが()()()だってことはさ、一目見ただけでもはっきり分かんだね。それで、今の世界で無人機のISを作れる人間なんてTBNしかいないって、それ一番言われてるから」

 

『うんうん、なるほどね。でも言わせてもらうとあのIS──ゴーレムⅠをIS学園に向かわせたのは束さんじゃないよ。あれを作ったのは確かに私だけど、いっくんや箒ちゃんを危険に晒すような真似、絶対にしないんだから』

 

 束の強い反論に、しかし野獣は「おっ、そうだな」と満足そうに頷く。束と長年の付き合いのある彼は、今のやり取りだけで彼女が嘘をついていないことを悟ったのだ。

 いや、そもそも一夏や箒を危険に晒したという時点で、無人機を操っている人物が束でないことに、野獣は気付いている。そして今、野獣が束に電話を掛けている本当の理由は、束を疑うためではなく、無人機を操った犯人について聞くためだった。

 

「ほならね、誰があの無人機を操ってたのかって話でしょ。私はそう言いたい、うん」

 

『あー、それはね……』

 

 野獣の問いに束は言葉を濁す。が、すぐに小さな声をポツリと溢した。

 

亡国機業(ファントム・タスク)、って知ってる?』

 

「ファッ!? ントム・タスク……?」

 

『そう。なんかさ、裏の方でコソコソ動いてるゴキブリみたいな組織。こっちも調べてはいるんだけど、思ってたより姑息な連中みたいでさ……まだ尻尾を掴めてないの』

 

 天災と恐れられる束を以てしても全貌が分からない。その事実に野獣は眉をひそめ、「たまげたなぁ……」と一人戦慄した。亡国機業(ファントム・タスク)、その組織の名前を野獣はしっかりと記憶する。

 

『束さんが世界にいくつも秘密の研究所を持ってることは野獣も知ってると思うけど、あのゴーレムⅠもその中の一つにあったんだ。まさか掠め取られるなんて思ってもみなかったよ。セキュリティも張ってたのに……』

 

「んにゃぴ……今回は相手の方が一枚上手だったってことっすね……」

 

『それにさぁ……その亡国機業(ファントム・タスク)、モンド・グロッソでのいっくんの誘拐事件にも絡んでるみたいなんだよね』

 

「……うせやろ?」

 

 束の口から語られた予想外のことに、野獣は軽く目を見開いた。

 

 三年前にドイツで行われたISの世界大会、モンド・グロッソの第二回大会。そこで千冬の応援に来ていた一夏は誘拐事件に遭い、その一夏を助けるために千冬は決勝戦を棄権、二連覇を逃したのである。

 

 関係者に箝口令が敷かれたため、この事実を知る者は日本など一部国家の重役と現地を警備していたドイツ軍人、及び一夏と千冬にとってごく近い間柄の人物だけだ。そして当時大学生であった野獣は、空手部の夏合宿により応援に行くことが出来なかったのである。

 自分がその場にいれば一夏を危険な目に遭わせることもなく、千冬の栄光を守ることも出来たかもしれない。第二回モンド・グロッソとは野獣にとって後悔の象徴であり、また、その事件を引き起こした犯人達を彼は絶対に許せないでいた。その犯人が今日の襲撃犯と同一ともなれば、野獣の怒りは更に高まっていく。

 

亡国機業(ファントム・タスク)……頭にきますよ~!」

 

『私も連中の足取りは追うつもり。ただ、IS学園に亡国機業(ファントム・タスク)がもう来ないとも限らないから、一応警戒はしておいてね。特に野獣といっくんは』

 

「ん、おかのした」

 

 ピッ、と電子音が一度鳴り、通話が終わる。携帯を無造作にポケットに突っ込んだ野獣は、再び金網に凭れ掛かり、はぁぁぁ~~……とクソデカ溜め息を漏らした。

 

 そんな彼に、ゆっくりと近付く人影が一つ。

 

「こんなところで何をしてるのかしら?」

 

「ん、TTNSじゃんアゼルバイジャン」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら野獣へと歩み寄るのは、彼と同室である楯無だった。彼女はまるで猫のような素早い動きでするりと野獣の隣に並ぶと、その真っ赤な眼を細めて彼を見上げた。

 

「ねぇ、誰と電話してたの?」

 

「昔からの夢を忘れない誰よりも純粋な親友、ですかねぇ……(黄昏先輩)」

 

「誰よりも純粋な……か」

 

 野獣の返答に楯無はやや考えるような素振りを見せ、やがて「他人のプライベートに口を出すのは野暮よね」と微笑んだ。

 野獣の言う親友がかの天災、篠ノ之束であることを楯無は確信している。日本に仕える暗部組織を率いる彼女としては、ここで束に関することを一つでも聞き出しておきたいというのが本音であった。しかしこの義理堅く、情に厚い野獣という男がそう簡単に口を割るとは思えず、故に楯無は速やかに引き下がったのである。

 

「それより、もう遅いんだからそろそろ外出禁止時間になるわ。部屋に戻らないと怖~い寮長に怒られちゃうかもしれないわね?」

 

「そうだよ(便乗)。じゃけん、今戻りましょうね~」

 

 一年生学生寮の寮長、すなわち千冬の恐ろしさは野獣も身に染みて理解している。一般生徒相手ならただ注意するだけに終わるものも、野獣相手ならば情けは不要とばかりに強気な態度を見せるのだ。その証拠として以前、野獣は学生寮の屋上で一夏と日光浴をし、ご満悦な表情を浮かべていた際も、厳しく注意されたのは野獣だけであった。

 そんな過去の苦い経験から、野獣は早足で部屋に帰ろうとする。それに続き、楯無もまた屋上を後にするのだが、その途中で彼女は何かを思いついたように、「あっ、そうだ」と唐突に呟いた。

 

「ねぇ、田所君」

 

「ん?」

 

「今度、私と勝負してみない?」

 

 何の勝負、とは言わない。二人のいるこの場はIS学園であり、そのIS学園での勝負となれば、ISバトル以外に他ならないからだ。

 しかしそれはあまりに突然の誘い。流石に断られるかと懸念を抱く楯無に対し、野獣はゆっくりと顔を上げ──、

 

「あっ、いいっすよ」

 

 彼女が拍子抜けする程に、あっさりと快諾した。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 最初は与えられた命令だったから。

 

 第二アリーナの更衣室にて制服を脱ぎながら、楯無はこれから試合を行う相手のことを思い浮かべた。

 

 田所浩二。通称、野獣。

 年齢は二十四歳。東京都世田谷区下北沢で生まれ育ち、小学校時代に織斑千冬、篠ノ之束と出逢う。その後二人とは中学、高校と交友関係を続けていたが、高校在学中から千冬はIS操縦者として、束は研究者として活動を始めていたため、高校卒業後は一人で地元の国立大学に入学。I()S()()()()()()()()()()()()()、大学院でもその研究を行っていたところを、織斑一夏の登場に伴い実施された男性のIS適性検査によって適性を見出だされ、特例としてIS学園へと入学した。

 

 楯無が野獣と接触した理由は単純に、それが日本政府と学園長により与えられた命令だったからだ。世界で二人しかいない男性操縦者を守れという命令、楯無はそれに従って野獣と同室となり、これまで可能な限り多くの時間を彼と過ごした。

 しかし、今回の試合は命令されたからではない。これはあくまで楯無本人が決め、起こした行動である。

 

 思い出されるのは先日の騒動の最中、アリーナに閉じ込められた生徒を避難させるべく、野獣がISを部分展開した時のこと。彼は呼び出した日本刀型の近接ブレードで以て、一太刀の下にシャッターを切り捨てたのだ。

 

 楯無には、それが()()()()()()

 

 日本政府直属の対暗部用暗部、更識家の長にして、ISのロシア代表操縦者。その楯無をして野獣の一太刀は見切るどころか、認識すらさせかったのである。その事実はどうしようもなく楯無を揺さぶり、眠っていた闘争心を掻き立てた。

 

 戦いたい。一度彼と、本気で。

 

 久しく忘れていた悔しさと共に、楯無はそう思った。犬歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべ、彼女は舌なめずりをしながらピットに辿り着く。そして自らの専用機──ミステリアス・レイディを展開、アリーナへと飛び立った。同時に反対側のピットより現れた銀色のISを纏う野獣の姿が、ハイパーセンサーにより広がった視界に映る。

 

『両者、位置についてください』

 

 第二アリーナを担当する教員の指示に従い、二人はゆっくりと移動を始める。

 ちなみに、現在のアリーナの客席は満員に近い状態となっていた。楯無の友人である新聞部の黛薫子、彼女が大々的に告知した結果である。客席の生徒達は楯無と、そして野獣の試合を一瞬たりとも見逃すものかと、誰もが食い入るように二人を見つめていた。

 

「付き合ってくれてありがとね、田所君」

 

「TTNSからのお願いだし、多少はね?(大人の余裕)。 それより、真剣勝負に手加減はなしだゾ。こっちは114514割の力出していくから(限界突破)」

 

「ふふっ、望むところよ。お姉さんも本気でいかせてもらうから」

 

 目線を同じ高さとした二人は、軽く言葉を交わして笑い合う。が、次の瞬間には切り替えが終わっており、いつ試合開始のブザーが鳴らされてもいいよう、構えに入っていた。

 

『制限時間は三十分、今日ここのアリーナを使う生徒はあなた達だけではありませんので、それ以上の試合継続は認められません。宜しいですか?』

 

「問題ありません」

 

「かしこまり!」

 

『それでは──始めてください!』

 

 その一言と共にブザーがアリーナ中に響き渡り──、

 

 楯無と野獣は同時に前へ飛び出した。

 




肝心な時に役に立たない先輩。ついでに結局試合も始まってないとか笑っちゃうぜ(自嘲)。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。