ZOIDS ~Era Travelers~ 作:Raptor
多くの仲間を失い、辛いだろうが一緒に戦えたらいいなと願っている。
本当にあいつが選ばれしものならきっと、この世界を元どおりにしてくれるはずだ。
なぁ、相棒………。
反ディガルド組織 解放戦団団長 オスカー・アルバーン日記より抜粋。
『あなたは選ばれたのですよ、この全ての戦争を終わらせるために。』
謎の空間で突如そう言われたシュン。
「なんなんだよ、全ての戦争って。」
戦争がいくつも起こっているのは知っている。全てということは起こってる戦争を全て終わらせるとでもいうのだろうか。
『言ってるじゃないですか、全ての戦争って。ディガルドやネオゼネバスを含めての戦争なのですよ。』
「おい、それってネオゼネバスが何か関係しているのかよ。」
『それは私の口からは言えないのですよ。
光の精霊と名乗った主がそういうとなんだか意識がだんだんぼやけてくる。
「お、おい………ま、待てよ………。」
その感覚はまるで酸欠を起こしているようだった。
『心配はいらないのですよ。私はいつでもシュンの側にいますから………。』
「はぁはぁはぁ………ゆ、夢だったのか………。」
気がつけばそこは先ほどオスカーに案内された休憩室の簡易ベッドの上だった。
「大丈夫だったかい、すごいうなされてたから。」
そんな声がしたかと思い、振り返るとそこには先ほどの銀の短髪ゴーグル姿の男がいた。
「あ、いえ、大丈夫です。えっと………。」
さっきの会話が全然頭に入ってこなかったのが仇となった。
せっかく心配してくれたのに肝心な名前が出てこない。
「バッカニアだよ。大丈夫さ、この世界に飛ばされたらみんな同じようなもんさ。名前も覚えてられないぐらい動揺している。」
「あ、ごめん。俺まだ何がなんだか頭で理解できてなくてさ……。」
「そりゃ誰だってそうだ、団長が来た時なんかは団長おろか俺たちだって動揺してたんだからな。」
そう言って不安そうなシュンに向かってバッカニアは笑ってみせる。
「え、そうだったの。」
「当たり前だろ。急に俺は過去から来た人間だ、一体この世界はなんなんだ。なんて言われたらこっちだって慌てるって。」
意外であったが、確かに言われてみればそうだ。
でもオスカーがそんなに慌てていたなんて想像するだけでちょっと笑ってしまう。
「今、団長が慌ててるの想像してただろ。」
バッカニアはニヤリとしている。
やはり顔に出ていたのだろうか。
「ま、まぁ………それより、ひとつ教えて欲しいことがあるんだ。」
「聞きたいこと?さっき団長からある程度話は聞いてなかったか?」
「でも
光の精霊と名乗った謎の声から聞いた単語である。
元いた世界でも聞いたことがなかったし、もちろんオスカーの話の中にも出て来ていない。
「
「俺が
だからあの時光の精霊は時代の旅人といったのだろうか。
バッカニア続けて口を開く。
「遥か昔、戦乱に荒れていた世界を時代の旅人が救ったっていう話が残っているんだ。まぁおとぎ話みたいなものだからほんとかどうかなんてわからないんだけどね。」
バッカニアはそう言うと「もう少し休んでな、食事ができたら呼びにくるからさ。」と言い残して部屋から出ていった。
「
ぼそりと呟きながらまたベッドに横になる。
「でもなぜ………あっ。」
唐突に思い出した。
黒い空間で聞こえて来た謎の声。
「あいつ、俺に助けを求めてた。」
だがその声の主とはまだ出会っていない。
光の精霊とはまた違う声だった。
『彼女はミズハ。東の海岸沿いにあるリアン村に住んでいるのですよ。』
「えっ!?!?」
突如、光の精霊の声が聞こえて来た。
でもここはあの白い空間でもなければ夢の中でもない。
『そんなに驚かないで欲しいのですよ。私はここにいるのですよ。』
光の精霊がそういうとなぜだかズボンのポケットが熱くなってきた。
不思議に思いポケットに手を伸ばすとそこには元いた世界で拾った赤い綺麗な石が入っていた。
「おまえ、もしかして………。」
『そうなのですよ、私はこの石の中にいるのですよ。』
その石を光に透かしてみたり色々してみるが中に何かがいる様子は伺えない。
『中にいるわけないじゃないですか。シュンはおバカちゃんなのですね。私は石の中にエネルギー体として存在しているだけなので実体はないのですよ。その石を持っている間だけ私と会話をすることができるのですよ。』
なんだかバカにされた気分だがあえてつっこまずにおこう。
「そ、そうなのか。つまりこの石自身が光の精霊と。」
『そういうことなのですよ。』
色々と質問したいことはあったが今日はここまでにしておこう。
あまり情報が入ってきすぎるとまた頭がフリーズしてしまう。
「ところで光の精霊、そのミズハって娘が俺に助けを呼んだのか?」
『そうなのですよ。』
まるでうんうんと頷くように光の精霊はそう言う。
「じゃあ助けに行かなきゃ、行こう光の精霊。」
『あ、ちょっと待つのですよ。』
慌てて飛び起きようとするシュンを制止させる。
『彼女が助けを求めたのは今すぐというわけでは無いのですよ。』
「え、それってどういう事だ?」
『私の口から言うのは簡単なのですが、ここは本人から直接聞いた方がいいとおもうのですよ。』
理由はわからないが光の精霊がそういうならそうしてみよう。
「わかった、じゃあ中佐にこのことを話して準備できたらリアン村に向かおう。光の精霊は場所わかるのか?」
『わかるに決まってるじゃ無いですか。それとひとつだけお願いがあるのですよ。私の存在を誰にも教えないで欲しいのですよ。』
「え、どうしてだ?」
『私の力はまだシュンは知らないかもしれないですが、とても強大な力を持っているのですよ。私の力を狙う者がかつていたぐらいなのですよ。』
そんなことを光の精霊と話していると、タイミング悪く今度はオスカーが部屋にやってきた。
「シュン、どうだ少しは休めたか?」
そう言うとシュンのすぐ隣のベッドに腰掛け、タバコに火をつける。
「はい、おかげさまで。」
「そうか、それなら良かった。ところでこの後お前がどうするか聞こうと思ってな。」
どうするというのはオスカーと一緒に戦うかということだろう。
「中佐と戦いたい気持ちはあります。ですがまだ頭の中が整理されていなくてどうしたらいいかまだわかりません。」
本心だった。
違う世界に飛ばされ、戦友が死に、お前は世界を救う者だと言われた。
まだどうしたらいいのか頭の中で処理しきれていない。
「ではどうする?」
「俺、思い出したんです。この世界に飛ばされる前に、リアン村に住む女性から助けてくれって言われたのを。」
「リアン村に住む女性だと。」
「はい、黒い空間に飲み込まれる前に声が聞こえたんです。」
本当は少し違うが光の精霊の存在を教えずに話すのはこうするしかなかった。
オスカーには少し罪悪感だが、嘘も方便という。
「そうか、なるほどな。じゃあリアン村に行くのか?」
「はい、そのつもりです。」
「ならば道案内が必要だろう。優秀な団員を1人つけよう。まだまだお前1人でバイオゾイドとやりあうのも心配だからな。」
タバコの煙をふぅと吐きながらオスカーはそう言う。
「ん………?」
すると何かに気がついたようにシュンを見つめる。
「それは、
オスカーはシュンの持つ赤い石を指差してそう言った。
「
オスカーはこの石のことを知っているのだろうか。
でもよくよく考えたらオスカーだって
「そうだ、俺たちの沢山の犠牲の中でようやくわかったバイオゾイドに対抗できる唯一の術だ。」
返ってきた答えは全く予想に反したものだった。
おそらくオスカーも俺と同じように光の精霊のことは隠しているのだろうか。
「
最近ようやく近くで見つけたんだ。そう付け加えてオスカーは腕を組んだ。
「前いた世界で開発途中だった徹甲焼夷弾をシュンは知ってるか?」
「はい、知ってます。俺が前線にいた時はもうすでに突撃砲撃師団に配備されていました。」
オスカーが共和国にいたのは5年も前の話だ。
おそらく完成したものがシュンの言っているものに違いない。
「そうか、完成させて配備させてるのか。まああれと原理は似ている。」
配備されているのは知ってはいるが実はシュンとは兵科が違うので原理などは全く知らなかった。
おそらくシュンが知らないということを察したのか、オスカーは話を続ける。
「徹甲焼夷弾は着弾と同時に高熱を帯びる弾なんだ。相手の装甲を内側から溶かしてダメージを与えようとした構造だな。」
「つまりバイオゾイドにも熱が有効なんですか?」
「そうだ、バイオゾイドのヘルアーマーには高熱が有効だった。発見したのは偶然だったんだがな。その
「1500℃!?」
「そうだ、これならヘルアーマーを突き破り内部にダメージを与えられる。バイオゾイドはヘルアーマーという絶対の防御を持ってるせいか、内部の構造がものすごく脆い。内部機関に少しでもダメージが加わると内部から超高温の熱を発し自らヘルアーマーを溶かしてしまう。おそらく技術が盗まれることを警戒しての仕組みだろうな。」
なるほど、これで襲撃を受けた初日の夜、ガンスナイパーの射撃がバイオゾイドに通用したことにも合点がいく。
「ということはこの
対抗手段が分かっているなら戦いやすいだろう。
オスカーがさっき言ってた通り
「シュン、だがそういうわけではないんだ。」
オスカーは顔をしかめながらそういう。
「
「そ、そんな、じゃあどうすればいいんですか。」
今の話だと大型のバイオゾイドには太刀打ちできないということになる。
そんなのあんまりだ、ディガルドがそう弱いバイオラプターだけで攻めてくるわけがない。
「もちろん対抗策がないわけではない。シュンはディオハルコンと呼ばれる鉱石を知っているか?」
ディオハルコン。
暗黒大陸で産出される稀少物質の事で薄緑色に発光する。ゾイドコアを刺激を与えて凶暴化させ、ジェネレーターの出力を向上させるなどのパワーアップを見込める反面、そのゾイドの寿命は極端に短くなるという特性を持つ。
旧大戦時代かつて暗黒軍と呼ばれていたガイロス帝国によって初めて運用されたが、その後採取ができなくなり幻の物質となっていた。
「ディオハルコンってあの幻の………。」
「そうだ。俺たちの世界では採取ができなくなったというディオハルコンだが、大変動のおかげで採取できるようになったんだ。」
「え、それじゃあ。」
「そうだ、ディオハルコンこそが全てのバイオゾイドに対抗できる手段なんだ。」
「でも、ディオハルコンの力はゾイドのパワーアップだと聞いてます。パワーアップしただけでバイオゾイドに勝てるんですか?」
「シュン、実はなこの世界ではディオハルコンとは呼ばれていないんだ。名はメタルzi、ディオハルコン鉱石を原料として精製されたこの世界で一番硬度の高い金属だ。その硬度ゆえヘルアーマーも切断できる。」
と言うことはライガーゼロやオスカーのブレードライガーはそのメタルziという素材の武器を持っているのだろうか。
「中佐、ということは俺や中佐のライガーにもメタルziが?」
「ちょっと惜しいな。」
そう言うとオスカーは吸っていたタバコを手元の灰皿で消した。
「シュンのライガーゼロは純粋にレーザークローの熱量によるものだろう。俺のレーザーブレードはメタルziでできてはいないがメタルziでコーティングしてあるんだ。」
「コーティング??」
「ああそうだ。さっき説明した通りディオハルコン鉱石は貴重だ。武器を製造するとなると相当量必要になる。そこでだ、溶かして精製する前の段階で金属に塗ることによって塗った金属に定着してメタルziと同じ効果を得ることが最近わかったんだ。」
「なら、コーティングさえすればどのバイオゾイドとも渡り合えると言うことなんですね。」
「ああ、今の所はな。あくまでコーティングだから永遠と同じ切れ味が続くわけじゃない。コーティングが剥がれてきたら塗り直さなければならないし、そもそもディガルドがいつメタルziに対抗できる装甲を開発するかわからないからな。」
オスカーはそう補足すると
「まあ、今の所コーティングが剥がれて戦闘継続ができなくなったり、そんなバイオゾイドが出てきたりはしてないけどな。」
と言ってベッドから立ち上がる。
「シュン、準備ができたら駐機場にこい。リアン村まで同行させる優秀な護衛を紹介する。」
そう言ってオスカーはニヤリと笑うと部屋を出て行った。
「おい、光の精霊、大丈夫か?」
石を口元まで近づけ他の人に聞こえないように囁く。
『大丈夫かって、別になんともしてないですよ。』
ふふっと笑うようにして光の精霊は返事をしてきた。
「いや、ほら誰にも知られないようにって言うからさ、中佐に気がつかれたかなぁって。」
『そんなこと心配してくれてたのですね、全然大丈夫なのですよ。シュンが直接このことを話さなければ他人から絶対にわからないですから。』
「そうか、それなら良かったよ。」
ホッと胸をなでおろす、仲間内で力の奪い合いなんて考えただけでゾッとする。
『とにかくその中佐さんがつけてくれると言っている護衛に会いに行きましょうか。できるならばリアン村には今日でも出発したいですし。』
「あれ、さっきは別に急がなくてもいいって言ってなかった?」
『そんな気もしますが善は急げなのですよ。』
さっきは急がなくていいと言ったのになんだか慌ただしい奴だ。
意外と光の精霊は天然なのかもしれない。
シュンはゆっくりベッドから立ち上がると部屋を出て、さっきの駐機場に向かった。
「おお、シュン来たか。」
駐機場に向かう途中でオスカーが待っていた。
「見ていって欲しいものがある、ついてこい。」
オスカーは手でちょいちょいと小さく招くと違う道へと入っていった。
さっきは疲れていてあまりしっかり見ていなかったが、どうやらこの山全体がアジトとして運用されているようだ。
さっきから進む道はどれも洞窟や洞穴のような道である。
しかし、壁はしっかりと金属やコンクリートで補強されており、シュンは前に勤務していた基地を思い出していた。
そんなに歩かないうちに、駐機場とは違うひらけた場所に出た。
「ここは………。」
だだっ広い空間にはゾイドを修理するための設備が整っており、ここは整備場なのにきっと間違いはないが。
「あの真ん中に立っている木みたいなものはなんだろう。」
木のように見えるが幹の一番上は何かを貯めておくようなタンクにも見えるし、なんだか眩い光を放ってるようにも見える。そのタンクらしきものの真ん中には光を精霊が宿ってるの中に書かれている文字と同じようなものが書いてあった。
「あれは
「燃料を精製しているんですか?」
「まあ、言いかえればそうだな。だが誰がいつ作ったのかもわからず、さらにはこの
オスカーは
いつ作ったのか誰が作ったのかわからないとは一体どういうことなのだろう。
未来にやって来たとはいえ、謎なことが多すぎる。
時間がある時にやっぱり光の精霊に尋ねたほうがいいかもしれない。
「シュン、こっちにこい。紹介しよう。」
そう言われオスカーの方に駆け寄ると、これまた若い青年が立っていた。
橙色の短髪はバンダナによって綺麗に束ねられており、その眼は鋭い。睨みつけるようなその眼光は見ているだけで背筋が伸びてしまう。褐色の肌とそのガッチリとした体型はさらに彼の印象を怖く見せていた。
「彼はケイト・ブラッカム。うちの優秀な戦闘員だ。」
「俺はシュン・タキハラ。よろしくな。」
一礼して手を伸ばす。
するとただでさえ鋭い眼光がもっと鋭くなる。
やばい、馴れ馴れしくして怒らせてしまったのだろうか。
だが。
「よろしくなシュン、ケイトって呼んでくれ。オスカーの元部下なんだってな、頼りにしてるぜ。」
ガッチリと握手するなりニッコリと笑いながら腕をぶんぶん振ってくる。
あ、あれ?
なんだろう、この姿から想像できないフレンドリーな感じは。
「俺の見た目を怖がらなかったのはお前が初めてだシュン!これからもよろしくな!」
嬉しそうにしているが別に怖くなかったわけではない。
でもこういってくれているのだからわざわざ言うのはやめておこう。
「ケイトは見た目は怖いけどな、根は優しいやつなんだ、うちの戦闘員の中でも五本の指に入るぐらい腕が立つ。歳も若い、仲良くしてやってくれ。」
オスカーも笑いながらそうに補足してきた。
光の精霊の導きを頼りに、助けを出した声の主に会いにいくことになったシュンは明朝、出立することになった。
整備長よりライガーゼロにある技術を搭載してもらったことによりバイオゾイドゾイドとの戦闘はどうなるのか?
そして護衛についたケイトの実力とは?
次回 ZOIDS EarTravelers
第4話 『海辺の村』
香るのは懐かしき故郷の薫り
説明や会話が多くなると眠くなります。
バトルシーンが描きたい………。