ZOIDS ~Era Travelers~   作:Raptor

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明日にはハーロック前線基地に到着できると大尉が言っていた。

ハーロックでの整備任務を終えたらサポーターとしての俺の仕事は終わりだ、やっと帰省できる。

まだ通信モニターでしか会ったことのない赤ん坊にようやく会えそうだ。

苦労をかけてるあいつのために、ヘリックシティーで美味いワインでも買って帰ってやろう。


第3機甲師団第7中隊 サポーター ファルコフ・E・ガルシア 戦闘日記より抜粋。




第1話 鋼色のゾイド

 

 

「ん、なんだか調子が悪いな。」

 

スチュアートは自らが操縦するグスタフの異変に気がつき無線で皆に呼びかけた。

 

「グスタフの駆動部にちょっと難ありだ、丘を越える前に調子を見たい。」

 

「了解しました、大尉。」

 

皆の返事を聞くと隊の真ん中を陣取るグスタフが停車する。

 

「よっと。」

 

スチュアートが降りるより早くライガーゼロから飛び降りてグスタフに駆け寄るのはシュンだった。

 

「あちゃぁ、こりゃだめですね。石が詰まっちゃってます。」

 

グスタフの稼動部に顔を突っ込みシュンは拳大ほどの石を見つけ顔をしかめる。

 

「丘を越える際に問題が発生すると厄介だな………ファルコフ!」

 

スチュアートは腕を組みながら整備を得意とする隊員のファルコフを呼ぶ。

 

「隊長どうしました?」

 

中隊のサポーターとして配属されてるファルコフは愛機のゴルヘックスから降りてきてスチュアートに尋ねた。

 

「すまない、駆動部にどうやら石が詰まってるみたいだ。大事をとって先に整備をしてほしい。」

 

そうすると「かしこまりました。」と言いすぐにグスタフの下に潜り込む。

 

「なんだか天気が悪くなりそうだな………。」

 

丘の上向こうに見える黒い雲を見ながらスチュアートは顔をしかめる。

そんなスチュアートを見つめるようにしながら愛機のライガーゼロに向かって歩いていたシュンはふと地面が煌めいたのに気がついた。

 

「なんだろ、あれ。」

 

目を細めないと見えないような小さな煌めきだったがシュンは見逃さなかった。

近づいて拾い上げるとそれは何か赤く輝く小さな石のようなものだった。

 

「こんな石初めてみるなぁ。」

 

太陽に透かしたりしながらシュンはその石を眺める。

 

「ん??」

 

シュンはその石の中に何か文字のようなものを見つける。

 

「なんか書いてある………。」

 

しかし見たこともない書体とそもそも文字かどうかもわからないようなものであったのでそれ以上なにもしなかった。

 

「まあ、綺麗だから持って帰るか。」

 

きっと綺麗な石が好きな幼馴染が喜ぶに違いない。

そう思いシュンはその石を胸のポケットにねじ込んだ。

 

「よし、出発するぞ!!」

 

スチュアートのその声を聞き、シュンはライガーの元に戻っていった。

整備を終わらせ出発してから少しも時間が経たないうちに頭上は暗雲が立ち込め、やや大粒の雨が彼らに降り注いだ。

 

「やっぱり降ってきやがったか。」

 

スチュアートはため息まじりにそういう。

 

「でも朝の天気予報ではこの地帯に雨が降るなんて言ってなかったのにな。」

 

そう呟きながらグスタフのメインモニターに天気予報を表示する。

 

しかしそこに打ち出された文字は”探知不可”という文字だった。

 

「ん、探知不可だと?」

 

それを無線越しに聞いていたシュンも同じようにライガーゼロのメインモニターに天気予報を表示させる。

 

「ほんとだ。」

 

同じくシュンのメインモニターに表示されたのは探知不可の文字だった。

 

 

何かがおかしい………。

 

 

 

そう感じた時だった。

 

 

 

 

『助けて………シュン………。』

 

 

 

どこからか女性の声が聞こえた。

というよりかは胸の中に響くかんじだった。

 

「だ、誰だ!?」

 

辺りを見回し、計器も確認するがなにもない。

 

「なんだったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ビィービィービィー!!!!

 

 

 

突如部隊にアラートが鳴り響く。

 

 

「なんだ!?!?」

 

前を見ると視界は真っ暗、計器も正常に作動していない。

 

「なんだこれは、大尉!大尉!」

 

無線でスチュアートを呼び出すが雑音がひどく反応はない。

 

「くそ、無線もダメなのか!?!?」

 

これでは僚機とはぐれる。

どこに向かってるかもわからない。

だがなにが起こっているかわからない以上、止まるわけにはいかない。

 

「畜生!ライガー、ブースターオン!」

 

ライガーゼロのイオンブースターを引き絞り加速させる。

計器が狂ってるので速度はわからない。

ただそのスピードはいつもより早く感じた。

 

「光だ、出口が見えた!」

 

光が差し込む方向にさらに加速した。

光を抜けた先は何もないただの荒野が広がっていた。

 

「ここは………一体………。」

 

ありえない。

たとえ丘を越えたとしてもこんな荒野が広がっているわけがない。

 

「ザ、ザザザザザ…………。」

 

肝心の無線にはノイズしか入っておらず僚機の姿も確認できない。

 

「ファルコフ!スチュアート!」

 

無線に叫び辺りを見回しても誰もいない。

 

「畜生、どうなってんだ!!」

 

するとライガーが何かに気がついたように首をもたげる。

まるで何か獲物を探す仕草は野生体そのものだ。

そして何かを見つけたライガーゼロは雄叫びをあげるとその荒野を駆け出した。

 

「ライガー、どうしたんだよ!?………っ!!」

 

ライガーゼロが駆け出した方向、その先で突如爆発が起こった。

シュンは確認する為に正面モニターの倍率をあげる。

そこに写っていたのは

 

「は、鋼色のゾイド…………。」

 

鋼色とも銀色とも言えるような独特な光を放つゾイドがそこには写っていた。

そして、その先で交戦しているのは見覚えのある僚機達であった。

 

「あれはファルコフのゴルヘックス!」

 

よく見ると周りにはサポーターのゾイド達が倒れており、戦闘ゾイドの姿はない。

その通りだ、サポーターのゾイドには全くと言っていいほど攻撃武装を積んでいない。

助けなければ。

 

「くそったれ!」

 

シュンはライガーを全力で走らせる。

だが、なにか引っかかるところがある。

謎のゾイドは小型ゾイド、例えるならレブラプターやガンスナイパーのようなタイプだ。

いくらサポーターといえども中型ゾイドのゴルヘックスがたった一体の小型ゾイドにやられるだろうか?

 

 

だが今は考えてる場合ではない。

 

 

ドンッドンッ

 

 

機体下部に装備されている2連装ショックカノンを謎のゾイドに撃ち込んだ。

ショックカノンと言っても彼のライガーゼロに搭載されているものは衝撃波を発射するものではなく、エネルギー弾に近い光学兵器だった。

本人の理由としては「護衛の際は遠距離から敵の撃破を狙える射撃武器の方が適している。」とのことである。

それについては本当だか定かではないが、少なくとも小型ゾイドであれば十分倒せる威力だ。

 

万が一当たらなくてもきっとこっちに注意を向けるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

「嘘だろ………。」

 

 

2連装ショックカノンから放たれたエネルギー弾はまるで溶けるようにして鋼色の装甲に吸い込まれた。

 

「吸い込まれたのか!?」

 

だがよく見ると鉛色のゾイドの周りにはキラキラと何か光を反射させている。

シュンはそれがエネルギー弾の飛散した粒子だということに気がつくのに時間はいらなかった。

 

「なら、こいつで!」

 

シュンがレバーを押し込むと、ライガーの頬のファンが開き爪先がまばゆく光を放つ。

 

「ストライクレーザークロー!!!!!!!」

 

四足歩行タイプのゾイドが装備している主な格闘装備、高出力のエネルギーを前脚の一点に集め相手を引き裂く。

ライガーゼロにとっては唯一と言ってのいいほどのその一撃が謎の鋼色のゾイドに迫っていた。

 

ザンッ………。

 

先ほどの攻撃とは打って変わって、まるで果実をナイフでスライスしたようにライガーゼロは銀色のゾイドを引き裂く。

 

片手片足を削ぎ落とされた謎のゾイドは静かに断末魔をあげるとその場に崩れ落ちる。

ライガーゼロを旋回させその姿を目にしたシュンは、安堵とともに何か違和感を感じていた。

 

「格闘攻撃は食らうのか………?」

 

しかしそんな事を考えているのも束の間、シュンはさらに驚きの光景を目にしていた。

 

「装甲が溶けてる!?!?」

 

先ほどの地に崩れ落ちた謎のゾイドは、その鋼色の装甲が溶け落ちてなんだか骨のようなパーツのみになってしまっていた。

 

周りの安全を確かめながらその亡骸に近づく。

 

「一体なんだ、コックピットもない。野良ゾイドの類なのか、でも機能が停止した後こんなに早く分解が始まるゾイドなんて聞いたことがない………。そもそも分解が始まるとしてもそれは完全にコアを破壊した時だ、今の一撃でコアを破壊したとは思えない。」

 

考えれば考えるだけ謎が深まっていく。

だが、そこでシュンは我にかえる。

 

「中隊のみんなは!?!?」

 

視線をあげると見えてきたのは残酷な景色だった。

 

「畜生………みんな、ファルコフ、大尉!!」

 

力なく地面に転がっているゴルヘックスや、コマンドウルフAC、全滅という表現がここまで合致する景色はそうそうないであろう。

サポーターのゴルヘックスはまだしもシュンとともに護衛を務めていたコマンドウルフACまでもが無残な姿を晒していた。

たまらずシュンはハッチを開け、飛び降りると一番近くにあるゴルヘックスに駆け寄る。

 

所属番号なんて見ないでもわかる、ファルコフのゴルヘックスだ。

 

「ファルコフ!!」

 

その姿を見てシュンは愕然とした。

 

「そんな………嘘だろ………。」

 

ファルコフの乗るゴルヘックスはコックピットのキャノピー部分のみが大きく陥没していた。

おそらくピンポイントで攻撃を受けたに違いない。

キャノピー越しに見えるファルコフの姿は人の原型をとどめておらず、コックピット内は血に染まっていた。

 

「畜生!」

 

拳を握りキャノピーを力一杯殴りつける。

 

「あいつ、子供が産まれたばかりなのによぉ………。」

 

唇を噛み締めながらそう呟くと辺りを見回す。

目を凝らすと他の機体も皆同じようにコックピットがピンポイント攻撃を受けていらのがわかった。

 

シュンはその光景を見て何も言うことができずただただ俯いて黙るだけだった。

しかしいつまでもそうしていられる訳でもなく、手を合わせ静かに立ち上がると生存者を探すためにゴルヘックスから降りた。

しばらく歩くと無残にも積荷が破壊されたグスタフが目に入ってきた。

 

スチュアートの乗っていたものだ。

彼の愛機ケーニッヒウルフはその潰れた積荷の中で同じようにコックピットが潰され、見るも無残な姿になっていた。

 

「そうだ、スチュアートは。」

 

彼は自らグスタフを操縦し、ケーニッヒウルフを運んでいた。おそらくあの様子から見るにケーニッヒウルフに乗り換える時間はなかったのだろう。

 

となると彼はまだコックピットの中のはず。

 

シュンは駆け出し、グスタフの元へと向かった。

 

「大尉、スチュアート大尉!!」

 

コックピットの中でぐったりとしているスチュアートを見つけると急いでキャノピーをあけ容態を確認する。

幸い攻撃を受けたのは積荷だけだったようだが安心はできない。

首に手を当てるとまだ微弱だが脈々を感じ取ることができた。

だが意識は依然としてない。

 

「おい、スチュアート!目を覚ましてくれ!」

 

鎖骨の辺りを叩いて意識を呼び戻そうとするがやはり反応はない。

 

「衛生兵!!衛生兵はいるか!!!」

 

辺りを見回し叫ぶ。

数人だったが衛生兵も部隊に配置はされていた。シュンの力ではどうにもならない以上、叫ぶしかない。

 

ただ、生きていればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風と砂の舞う音が辺りにこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、みんなやられちまったのか………。」

 

力なくそう呟く。

だがその瞬間何か視界の端で動くものをシュンは見逃さなかった。

 

「誰だ!ゆっくり手を上げて姿を見せろ!」

 

腰に携えた対人用の小型火器を構えながらシュンは叫ぶ。

しばらくの沈黙の後、ゆっくりと3人が姿を現した。

 

「しょ、少尉、落ち着いてください。」

 

姿を見せたのは衛生兵だった。

 

「お前ら、無事だったのか。」

 

「はい、それよりも大尉を。」

 

グスタフからスチュアートを運び出し、応急処置を行う。

コックピットに直接ダメージがなかったため、重体と言うほどではなさそうだが、それでも速やかに医療設備での治療が望ましかった。

 

「今、大尉を動かすのは危険です。おそらくそろそろ日が暮れますし、今日はこの辺りで野営をしなければならないかと………。」

 

衛生兵はこう言った。

確かに言う通りだ、動くのは危険すぎる。

 

「そもそも、ここはどこなんだ……………。」

 

シュンは立ち上がってもう一度辺りを見回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳が落ち、昼間とはまた違った静けさがその空間を支配していた。

パチパチと燃える薪を見つめながらシュンは昼間あったことを鮮明に思い出していた。

 

謎の空間

 

謎のゾイド

 

そして

 

『助けて…………シュン…………』

 

という謎の声だった。

 

 

「なんで俺の名を知ってるんだ………。」

 

視線をそらさず炎を見続ける。

揺れる陽炎の先には簡易的だが戦友達の墓があった。

 

「ファルコフ、みんな………。」

 

そう呟き、目頭が熱くなってきたところで、目の前の視線をステンレスのマグカップが遮る。

 

「少尉、気持ちはわかります。でも少尉がそうなってしまっては我々はどうしていいのかわからなくなってしまいます。スチュアート大尉がいない今、指揮を取れるのは少尉だけなんです。」

 

衛生兵の1人はシュンにインスタントコーヒーを差し出しながらそう言う。

 

「そうだよな………。」

 

差し出されたコーヒーを受け取ってそう呟いた。

懸命にさがしたが生存者は他にいなかった。

 

残ったゾイドもシュンのライガーゼロのみ。

 

ほぼ全滅である。

 

そう、たった1体の謎の小型ゾイドに中隊1つが壊滅したのだ。

 

「わりぃな、しみったれた空気にしちまって。」

 

コーヒーをひと啜り。

寒い荒野の中ではその温もりが何にも変えがたいものだった。

さあ、明日に備えてそろそろ休もう。

 

そう言おうとしたそのときだった。

 

 

 

「グァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

闇を引き裂くように嫌な咆哮がこだまする。

 

「くそ、昼間のやつか!?」

 

衛生兵達に物陰に隠れるように指示したのちにシュンはライガーゼロのもとに駆け寄る。

 

「相棒、みんなを守るぞ。仲間達の仇だ。」

 

ゆっくりと開いたコックピットに乗り込む。

 

しかし。

 

「おいおい、なんて数だ………。」

 

モニターに映った機体は軽く数十機を超えている。

昼間の一体のですらあのザマだ、こっちにはライガーゼロしかいない。

 

「でも俺がやらなねぇとな。」

 

気持ちを込め、操縦桿を握る。

敵は眼前に迫っていた。

 

「グァァァァァァァ!!!」

 

謎の鋼色のゾイドはシュンのライガーゼロを見るなり雄叫びをあげる。

 

「覚悟しろ!仲間達の仇だ!!」

 

ドンッ…………。

 

スロットルを引きしぼり加速しようとしたときだった。

先頭にいた謎のゾイドの頭部に何かが当たりそして崩れ落ちた。

 

「な、なんだ!?」

 

飛んできたものの出どころを確かめるために振り向くと、切り立った崖の上に小型の二足歩行ゾイドの姿があった。

シルエットでわかる。おそらくガンスナイパーだろう。

 

するともう一発、今度は別のゾイドに命中し倒れる。

しかしそこでまた疑問が浮かぶ。

 

「なぜ射撃武器で奴らを倒せるんだ………。」

 

そう呟きながら正面モニターに目をやるとそこに一体のゾイドが割り込んできた。

 

「グォォォォォン!!!」

 

割り込んできた大型ゾイドは雄叫びをあげる。

月明かりに照らされてそのゾイドの姿が明らかになる。

 

サンドイエローの大型のライオンゾイド。

 

今となっては旧式だが、シュンの一番尊敬するパイロットであり、かつてのレオマスターの英雄。

 

目の前に割り込んできたのはその彼が愛した機体だった。

 

 

「ブレードライガー………。」

 

「グォォォォォン!!」

 

ブレードライガーは再度雄叫びをあげると鋼色のゾイドに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




突如割り込んできたブレードライガー。

その戦闘力は凄まじく、次々と謎の鋼色のゾイドを倒していく。

そのパイロットに保護されたシュンは、その彼からこの世界の成り立ちについて聞かされるのであった。


次回 ZOIDS EarTravelers

第2話 『この世界のこと』


生き残るには前に進むしかない。













皆さま初めまして、Raptorと申します。
私の拙い文章に目を通していただきありがとうございます。


更新スピードは鈍足ですがこの先も末長くお付き合いしていただければ嬉しいです。

※1月16日
2連装ショックカノンの描写について訂正、加筆を行いました。

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