ZOIDS ~Era Travelers~   作:Raptor

11 / 14
第10話 魔物の谷

 

 

その日は珍しく、地面を強く打ち付けるような雨がまるで滝のようにして降っていた。

 

無論、外に出るものなどは誰もいない。

もちろん彼も例外ではなく。

 

シュンは薄暗い部屋で静かに目を閉じ合掌していた。

目の前には真新しい蝋燭が二本、小さな灯りをともしている。

ヘルザ村奪還作戦の際に命を落とした隊士のものだ。

 

「ごめんなさい……。」

 

思わず口から溢れた言葉。

だが、その謝罪の言葉の意味は自分にもわからない。

ただ、もう少し自分がなにか力になれたのではないか。そう思って仕方ない。

 

 

 

 

奪還作戦から一週間が経ち、シュンの怪我も完治とは言えないが動けるようになるまでは回復していた。

 

「やはりここにいたか。」

 

そう言って部屋に入って来たのはオスカーだった。

オスカーも同じように目を閉じて小さな灯火に向かって手を合わせる。

 

「すまない、俺たちがもっと早く増援に迎えれば………。」

 

ディガルドの援軍に足止めされていたオスカーはそういう。

 

聞いた話によるとヘルザ村奪還作戦は表向きには成功したと言えても彼らからすれば痛いほどの大敗だった。

 

隊士2人、ゾイド4機を失ってしまった。

敵のメガラプトルを4体撃破できたとはいえ、その対価はあまりにも大きい。

 

その差は明確だ。

 

向こうにはゾイドを量産する術があり、こちらにはない。

 

いずれ物量で押し潰されてしまう。

そんな危機感はおそらく誰もが抱いているだろう。

オスカーは作戦終了後にシュンの部屋を訪れこう言った。

「わかったか、これがこの世界の戦争だ。」と。

 

ゾイドを量産し、ヘルアーマーという絶対防御の鎧を纏わせ次々と侵略を進めてくるディガルド。

守るものなどは何もない。

それに対しこちらはゾイドを量産できず、ヘルアーマーという鎧を確実に打ち破る術を持っていない。

なおかつ、一般市民を守りながらの戦闘となれば犠牲者だって出る。

 

この亡くなった隊士の2人も村民を狙って放たれたバイオラプターの火球を直撃して亡くなったと聞いている。

 

村民の話では盾になってくれた。とも言っていた。

 

彼らは身を挺して村民を守ったのである。

 

 

 

 

そしてそれをしたのは彼らだけではなく…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨のせいでいつもよりも薄暗い駐機場にその男はいた。

彼はその薄暗い駐機場の中で見るも無残な姿になった相棒をただ、たって見つめていた。

ゾイドに乗り始めた時からずっと一緒で、幾多の戦いを共にくぐり抜けてきた相棒の最期を看取ってやりたい。

そんな思いがあったのかもしれない。

 

「悪いな相棒。俺が力不足なせいで………。」

 

彼のモルガキャノリーは所々が熱によってひしゃげ、黒く焼き焦げていた。

 

「やっぱり治らないのか。」

 

小さな部屋から出て来たシュンは後ろからケイトにそう尋ねた。

 

「ああ、タケルがそう言った。残念だがあいつが言うならもう無理だ。」

 

ケイトはシュンの方を一切見ずにそう答える。

 

「こいつは十分戦ってくれた。こんな姿にしたのは俺が未熟だったからだ。その証拠に見てみろ、あいつはあんなにボロボロなのに俺はかすり傷1つだけじゃねぇか。」

 

確かにケイトの傷はモルガに比例することなく軽いものだった。

 

「それに村の天空の心臓(ウラノスハート)を護ったんだ。きっとこいつだって誇りに思ってるさ。」

 

ケイトが負傷した理由は村の天空の心臓(ウラノスハート)を護ったためであった。

 

ウラノスハートが壊れた村や街は荒廃する。

そう言い伝えられているのはもちろん彼も知っていたからだ。

 

「こいつや、仲間の隊士を失ったことは悲しいさ、でもこうして犠牲を払いながら戦わないとディガルドとは殺り合えないんだ。この世界の戦争は酷い。」

 

ケイトはモルガの機体を右手で撫でながらそういう。

 

「でも、それでも前に進むには戦うしかないんでしょ。」

 

「そうだ、生き残るには、戦って前に進むしかない。」

 

ケイトは一度もシュンの方を向かなかったが、左の拳は震えるほど握り締められていた。

 

 

「俺がケイトの仇を討つよ。戦って前に進んで、そしてこの世界を救ってみせる。」

 

 

「でも、簡単じゃないんだぞ。」

 

 

「そんなのここでオスカーに啖呵切った時から百も承知さ。でもそのためにはライガーゼロが戦えるようにならないと………。」

 

この前のヘルザ村奪還作戦では4体いたうち1体しか倒せなかった。

 

ヴァノッサ1体倒してくれたが、残り2体は誰が倒したか不明なのである。

 

戦えたとしても倒せなければ意味がない。

 

しかもメガラプトルよりも強力な個体が出て来てもおかしくないのだ。

今のままでは世界を救うどころかディガルドと戦うことすらままならないだろう。

 

なんとかしなければならない。

 

「………2人ともここにいたか。よかった、なら話が早い。」

 

 

後ろから現れたのは整備長のタケルだった。

先ほどまで整備していてくれてたのか油まみれである。

 

「………いくつか話があるんだ。座ってくれ。」

 

2人はタケルのいうままに円を描くようにして3人で座った。

 

「………まずはケイト。」

 

タケルは手に持っていた四角い何かを下手投げでケイトに渡す。

 

「タケル………これって………。」

 

タケルから受け取った何かをケイトはまじまじと眺めながらそう呟く。

 

「………ああ、お前の大事にしていた戦闘データAIだ。」

 

「そうか、取り出してくれたのか………タケルありがとな。」

 

あまり見たことのないような穏やかな表情で彼はタケルに礼を述べる。

 

「………少し手こずったが毎晩あんな顔してモルガに話しかけてるお前を見ていたらな……。」

 

タケルは苦笑いをしながらそう言った。

 

「だあっ!タケルそれ以上は言うなよ!」

 

どうやらそれに関しては黙っていてほしかったようだ。

こう言うところもケイトは感情表現豊かだなと思ってしまう。

 

「………それじゃ今度はシュンだな。シュンへの話は残念ながらいいものではない。」

 

悪い知らせということだろう。

だが、聞かないわけにはいかない。

 

固唾を飲んでシュンはタケルの口が開くのを待った。

 

「………結論を言おう。今のままではメガラプトルは1体しか倒せない。」

 

紅い瞳がシュンの瞳を貫く。

 

「え、嘘だろ………どういうことだよ………。」

 

「………ストライクレーザークローとメタルziコーティングの相性が悪すぎた。どんだけコーティングしてもヘルアーマーと接触した際に剥がれてしまう。」

 

その言葉を聞いて、この前の戦闘での不自然なことに合点がついた。

 

おそらく二度目に弾かれたのはメタルziコーティングが剥がれて不完全なものになっていたに違いない。

 

「じゃあどうしたら………。」

 

「………定着させる方法を変えるしかない。」

 

「定着させる方法??」

 

「…………ああ、実は以前オスカーのレーザーブレードでも同じことが起きたことがあってな。その時も別の定着方法によってコーティングが剥がれるのを防げた。」

 

そう言って何やら計算式が書かれた紙を広げるタケル。

 

「………おそらく今回定着しない訳はストライクレーザークロー独特の熱によるものだと思われる。だが、俺の脳内はそれを処理できるほど有能なものではない。」

 

計算式の空欄の場所を示すタケル。

 

「………そこでシュンにお願いがあるんだ。俺をローグへ連れて行ってくれないか?」

 

「ローグ??」

 

また聞きなれない言葉が出てきたがおそらくどこかの場所に違いない。

 

「ローグってのは鍛治職人達の街だ。ディガルド領内にありながら、金属の精製技術を提供することによって武力支配を受けていない数少ない都市だよ。」

 

隣にいたケイトが補足説明をしてくれる。

だがディガルド領内にあるということは敵という可能性はないのだろうか?

 

「安心しろ、ローグは中立都市。やつらも職人だからな、買う人の為に自慢の腕を振るってるのさ。どっちが敵とか味方とか考えてないよ。強いていうならお客様が味方ってとこかな。」

 

まるでシュンの心を読んでいるかのようにケイトは話を続けた。

 

「なぁ、タケル。そこへ行けばコーティングの方法が見つかるのか?」

 

「………確証はないが可能性はある。」

 

「わかった、行こうローグへ。」

 

「………ありがとう。早速オスカーに相談してくる。」

 

タケルは立ち上がると足早に駐機場を後にした。

 

 

 

 

 

 

『ふぅ、お腹いっぱいなのですよ。』

 

その日の夜、食事を終え部屋に戻ってきたシュンはベッドに横になっていた。

 

「光の精霊は食べてないだろ?」

 

『うるさいですね、そういう細かいこと気にするとモテないのですよ。』

 

余計なお世話である。

 

「悪かったな、俺にだってな彼女の1人や2人…………。」

 

その瞬間ドアがノックされ開く。

 

「どうしたシュン、独り言か?」

 

光の精霊の声が聞こえないケイトはキョトンとした顔で立ちすくんでいる。

 

もちろんあの激甘なコーヒーを持ちながら。

 

「あ、いや、なんでもないよ。と、ところでどうしたの??」

 

「ならいいが。たまにお前1人で変なこと言ってる時があるからな。あ、そうそう。明日のことで話しがあるからラウンジに来てくれってさ。」

 

「わかった。このまま一緒に行くよ。」

 

ベッドから降りて部屋を出る。

 

「ほれ、食後のコーヒー。ストレスには甘いものがいいぞ。」

 

2つ持っていたうちの1つをシュンに差し出す。

 

「あ、ありがと。」

 

思わず顔をしかめてしまう。

 

「嫌そうな顔すんなって。お前の分は砂糖1つしか入れてないから。」

 

前回のことを気にしているのか苦笑いしながらそう言ってくるケイト。

やはり顔に似合わず律儀な男である。

 

「なあ、思ったんだけどよ、なんでシュンは軍人になったんだ?」

 

ふと疑問になったのだろうか?

そんな話を切り込んでくる。

 

「俺が軍人になった理由??」

 

そういえばこの前はケイトに理由を聞いたけど自分の理由を話してなかったっけ。

 

「ああ、こう言っちゃ悪いけどお前、なんか軍人らしくないだろ?」

 

なるほどなと思った。

確かに共和国にいた時はしょっちゅう聞かれたっけか。

 

「俺の家、貧乏でよ。そんで持って弟3人妹3人、計7人兄弟の長男なんだ。」

 

シュンがそう言うとケイトは驚いたようで目を丸くした。

当たり前だ、7人兄弟なんて言ったら誰だって驚く。

 

「故郷は小さな島でな、弟たちを食わせていくには稼ぎのいい仕事に就かないとなって思っててさ、出稼ぎみたいな感じで軍に入ったんだ。」

 

「なるほどな、家庭の事情ってやつか。」

 

「まあ、そんなもんかな。それでな、本当は内勤希望だったんだ。笑うなよ。」

 

シュンは笑いながらそう言った。

 

「内勤希望なのになんで前線に立ってるんだよ?」

 

「それが書類を提出するの忘れててさ。」

 

つまりはただの凡ミスである。

 

話を整理するとこうだ。

 

シュンは家計のために共和国軍に内勤希望で志願したが、申請する書類を提出するのを忘れていたためそのまま新兵として採用されてしまったと言うわけである。

 

「戦えって訓練時代に嫌という程言われてな、本当は戦うのなんて嫌いだからさ、軍を辞めようとも考えていたさ。」

 

 

今となっては訓練学校時代も懐かしいものだ。

まさかあの頃の自分は世界を救う為にこのように戦うなんて微塵にも思ってなかっただろう。

 

いや、もしかすればこれも運命ってやつなのかもしれない。

 

「その時に中佐や仲間たちに助けられてな。無事に共和国の兵になれたし、中佐のおかげでライガー系のゾイドを乗る中ではエキスパートと言われるレオマスターの昇格試験まで受けれるまでになったんだ。」

 

「なるほどな。シュンのいた世界のことはイマイチわからねぇが、お前が苦労してきたことはわかったぜ。」

 

そんな話をしているうちにラウンジについたらしく丸い木のテーブルを囲むようにオスカー、レイ、タケル、そしてミズハが座っていた。

 

「全員集まったようだな。」

 

ケイトとシュンが遅れて席に着くとオスカーはそう言って地図を広げた。

 

「ローグは知っての通り、ディガルド領内にある。中立都市として都市内での武器の携帯とゾイドでの乗り入れは禁止となっている。もちろんこれはディガルドも例外ではない。」

 

「え、ゾイドでは入れないんですか?」

 

「そうだシュン。厳密に言うと街までは上がれないと言った方が正しいかな。まぁ、実際に見ればわかるさ。」

 

オスカーはニヤリとする。

 

「問題は街に着くまでだ。少なくとも領内を30分以上は進まなければならない。今回はタケルのグスタフもあることだからな。」

 

「………すまない。」

 

「なに、謝ることないさ。今回の収穫が今後の作戦を大きく左右するからな。」

 

オスカーの話では鍛治職人の街ローグでは常に金属の加工技術が日進月歩しているとのことで、今回の遠征によってディガルドのヘルアーマーに有効な新しい何かを入手できるかもしれない。ということだった。

 

「なので今回は夜間の移動となるだろう。なので編成はタケルのグスタフを中心にシュンのライガーゼロ、ケイトのエビー、レイのプテラス、以上4機で行ってもらいたい。」

 

ふと疑問を抱く。

エビーとはなんだろう。

 

配られた資料を見るが詳細はなにも書いてない。

 

「シュン、エビーはケイトがヘルザ村の近くで鹵獲したコマンドゾイドだ。」

 

「え、鹵獲?」

 

もちろん鹵獲の意味を知らないわけではない。

 

「………ディガルドは時にレジスタンスのゾイドを鹵獲して基地防衛や土木工事に利用しているんだ。ケイトはその土木工事用のコマンドゾイドを鹵獲してきたんだ。」

 

とタケルが補足をしてくれる。

 

やはり思った通りだった。

まさかバイオタイプのコマンドゾイドがいるのかと思ってしまった。

 

「なるべく早いうちに出発してほしいと思っている。少し急だが明日の夜には出発してほしいと思う。いいかな。」

 

オスカーは皆を見渡すとそこにいた全員は首を縦に振った。

 

 

「決まりだな、詳細はレイから聞いてくれ。」

 

そこまで話すとオスカーは立ち上がり自室へと戻って行った。

 

 

「じゃあここからは私が。」

 

レイはそう言うとゆっくりと立ち上がる。

 

「今回の遠征、実はディガルドよりもやっかいなことがあるのよ。」

 

「厄介なこと?」

 

ディガルドよりも厄介な事とは一体なんなのだろうか。

いままでそんな話は聞いたことがない。

 

「そっかシュンは知らないんだな。」

 

隣に座るケイトは知っているみたいだ。

 

「ローグまでの道中に霧の谷(ミストバレー)と呼ばれる峡谷地帯を通るの。そこは一年を通して全く霧が晴れることのない場所で古代の技術が眠った神殿があると言われているわ。」

 

古代の技術。

おそらく元の時代の技術だろう。

 

もしかしたらネオゼネバスの何かをが残っているかもしれない。

 

しかしそんなシュンの気持ちはレイの次の一言を聞いた瞬間吹き飛んだ。

 

「その霧の谷(ミストバレー)に調査に行く者達はたくさんいるんだけど誰1人帰ってきたことがない。あの谷には神殿を護る魔物がいるとの言われているの。」

 

「ま、魔物………。」

 

「ええ、もちろん誰も見たものはいないから噂でしかないんだけどね。でも今回はその渓谷地帯を通らなきゃならないわ。深い場所まで行かないから大丈夫だと思うけど魔物には注意して。」

 

「わ、わかった。」

 

もともと怖いものは苦手ではないのだが、そう言われてしまうとなんだか背筋に嫌な汗が伝ってしまう。

 

「私の話は以上よ。」

 

そう言うと皆席を立ち上がり「おやすみ」、「おつかれ」と言いながら自分の部屋へと戻って行った。

 

「ねえ、シュン。」

 

同じように席を立ち、自室に帰ろうとしていたシュンを呼び止めたのはミズハだった。

 

「どうしたミズハ?」

 

「私も今回の遠征に連れて行って。」

 

「え!?」

 

目から鱗である。

同席していたのは違和感があったがこう言うことだったのか。

 

色々危険という話もしていた。

タケルならともかく、非戦闘員でローグに行くことにメリットがないミズハをそんな危険なところにはつれていけない。

 

「複座のゾイドはシュンのライガーだけなの。迷惑はかけないから。」

 

「だけどよ………。」

 

「それに、シュンのことが心配なの。この前も危なかったんでしょ。少しでもシュンの力になりたいの。」

 

ミズハにまっすぐ見つめられる。

その顔は真剣そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ、わかったよ。」

 

その視線に耐えられず降伏した。

 

「ありがと。まあ、オスカーには許可もらってるから意地でもついて行くつもりだったんだけどね。」

 

そう言って無邪気に笑う。

 

だったら最初からそう言ってくれればいいのに。

 

「じゃあ明日はよろしくね。おやすみ。」

 

「おう、おやすみ。」

 

2人もラウンジから出ると自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の晩。

 

「そろそろ霧の谷(ミストバレー)に入るわ、気をつけて。」

 

ディガルド領内。

アジトを出てから1時間ぐらいはたっただろうか。

 

上空をゆっくりと飛ぶレイのプテラスが魔境の入り口に近づいたことを教えてくれる。

 

「いよいよ霧の谷(ミストバレー)か………。」

 

確かに少しずつではあるが霧が出てきたように感じる。

 

「昨日も話したけど、魔物には十分注意して。」

 

レイがそういうとどんどんと霧が濃くなっていく。

 

「こ、こんなに霧が深いのかよ………。」

 

霧の谷(ミストバレー)に入ったのだろうか。

前を走っているグスタフの姿が見えなくなるほど濃い霧に覆われる。

 

「完全に中に入ったわね。」

 

後ろに座るミズハはそう言った。

そんなことをいうということはミズハは霧の谷(ミストバレー)に入ったことがあるのだろうか。

 

「ミズハは霧の谷(ミストバレー)に入ったことがあるの?」

 

「うん、前にリアン村にいた時にね。」

 

そう答える時ミズハは身体を乗り出してシュンの横まで顔を近づける。

 

「ねぇ、魔物の正体気にならない?」

 

顔が近い。そう言おうとした時だった。

しかしその質問でそんな言葉どっかいってしまった。

 

「え…………正体………。」

 

「なーんてね、知ってるわけないじゃない。」

 

「なんだよ。」

 

苦笑いである。

まあ、本当に知っていたらそれはびっくりなのだが。

 

「でもシュンだって気にはなるでしょ、魔物の正体。」

 

「そりゃそうだけどさ、でも誰も帰ってきたことがないんだろ。」

 

残念だが、今魔物と対峙して勝てる自信はない。

しかもゾイドか何かすら分かっていない状況であればなおさらである。

 

「でもこんなに魔物の話ばっかりしてたら本当に出てきちゃったりしてね。」

 

ミズハは笑いながら冗談でもないことを言う。

 

「まあ、レイの話じゃ奥まで行かなきゃだ……………おい、ライガーどうしたんだよ………。」

 

大丈夫だよ。そう言おうとした時だった。

 

ライガーゼロがいきなり止まりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

そして空気が震えるほどの雄叫びをあげる。

 

「おい、ライガーやめろ、魔物に見つかるぞ!」

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

しかしライガーゼロは全く聞いておらず、さっきよりも大きな雄叫びをあげる。

 

「まさかライガーゼロ魔物を呼ぼうとしてるんじゃ。」

 

ミズハは呟くようにしてシュンにそう伝える。

 

「ライガー、お前………。」

 

本能なのだろうか。

確かにライガーゼロは野生体を完全にベースとしたゾイドだ。

 

魔物と戦いたい。

 

ライガーゼロはそう訴えてるのかもしれない。

 

『ライガーがこうなってしまった以上は仕方ないのですよ。覚悟を決めるのですよ。』

 

光の精霊の言葉に思わず生唾を飲み込む。

 

まだ誰も見たことも戦ったこともないと言われる魔物。

果たしてやり合えるのか。

 

『大丈夫なのです、私とライガーの力を信じて欲しいのですよ。』

 

そう言われてしまったら信じるほかない。

 

「わかった、信じてるからな。」

 

ミズハに聞こえないようにそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧の中に沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びライガーゼロが雄叫びをあげるが、ただただその霧の中をこだまして行くだけ。

 

 

 

 

 

 

だれも何も言葉を発しない。

 

緊張の時が一刻一刻と過ぎて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たのですよ。』

 

 

 

 

光の精霊が発した言葉で一気に全身から汗が吹き出る。

 

確かにズシン、ズシンと何かが歩いてくるのが感じられた。

 

 

「と、止まった………。」

 

足音がシュンのまえで止まる。

 

相手との距離は100メートル弱だろうか。

 

『不思議な生体反応なのですよ………。微弱なコアが1つと活発なコアが1つ。』

 

「敵は一体じゃないのか?」

 

足音は1つだった。

2体いるとは考えにくい。

 

『わからないのですよ。ただ普通のゾイドではないことは確かなのです。気をつけて欲しいのですよ。』

 

嫌な汗が頬を伝う。

姿は見えないが大きな一つ目で睨まれているような感じがする。

 

「シュン左!」

 

「え………!?」

 

ミズハの声に反応したのかそれとも野生体としての本能か、シュンが動かすより早くライガーがバックステップする。

 

「な、なんだこれは………。」

 

眼前の地面に突き刺さっていたのは大きな何かの白い腕だった。

霧の中でよくは見えないがそれが魔物の発した攻撃だと気がつくのに時間はかからなかった。

 

 

《我の一撃を避けるとは見事なり。今回は見逃してやろう。しかしまた我の前に現れたのならその時は容赦はしないぞ。》

 

魔物の声だった。

 

眼前に刺さった腕はゆっくりと引き抜かれると霧の中に消えて行く。

 

「お、おい!お前は一体誰なんだ!!」

 

《………………。》

 

魔物は一切答えない。

 

そしてそのまま踵を返すとまた足音をたてながらゆっくりと霧の向こうへと消えていってしまった。

 

「行っちゃったか………。」

 

 

また霧の中には沈黙が流れる。

 

「それにしてもライガーすごいな、あの攻撃を避けるなんて。」

 

先ほどの攻撃、まるで見えなかった。

おそらくライガーゼロが反応してくれなければあのままコックピットを撃ち抜かれてやられていただろう。

 

「もお、私が教えてあげたんだからね!」

 

後ろのミズハはそう言って頬を膨らませる。

 

「そうだったそうだった、わりぃ。」

 

でもなぜミズハは攻撃がわかったのだろうか。

 

「まあいいわ。とにかくこの薄気味悪いとこから早く抜けましょ。」

 

「そうだな。」

 

考えるのは後だ。

また魔物に遭遇する前に早くここを出よう。

 

「行くぞライガー。もう寄り道はするなよ。」

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

今一度ライガーゼロは雄叫びをあげると霧の中を疾走して行った。










魔物と遭遇するも無事に峡谷を抜けるのことができた一行はついにローグへと到着した。

鍛治職人達の街ローグはシュンの目にどう映るのか。

果たして新しい加工技術は見つかるのか。


次回 ZOIDS EarTravelers

第11話『魂の技術』


緋き鉄は熱き漢達の魂。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。