おまえをオタクにしてやるから俺をリア充にしてくれAnother! 作:ゆかりムラサキ
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ムラサキさんの初商業誌掲載作品。その内容は、俺にとって衝撃的以外のなにものでもなかった。
その内容はこうだ。
とあるフリマイベントで出店していた主人公兼ヒロインの女子大生のもとへ、クラスメイトの男子高校生を連れて遊びに来ていた女子高生が現れる。
最初は困っていた女子高生に話し掛けたのだが、女子高生と仲良くなる内に、いつの間にかその女子高生ではなく、真面目で誠実で、シャイなくらい純粋な男子高校生とたくさん話がしたいという自身の気持ちに気付きはじめ、そして次第に惹かれはじめていく。
友達になった女子高生への遠慮、あとは年齢の問題などがあり、男子高校生への想いは何度も諦めようと思ったのだが、主人公の密かな熱い想いに男子高校生も次第に惹かれていき、最終的には女子大生の自宅マンションで激しく愛し合う……というストーリー。
単なる成人誌のエロ漫画のはずなのに、その女子大生の心の機微が、切なく感動的に描かれていた。
それは、今まさに自分が体験している状況でもなければとてもじゃないが描けないような、男子高校生に恋する女子大生の気持ちの揺らぎが切々と……
俺とムラサキさんが出会ったのは夏コミの会場。
無謀にも男性恐怖症の恋ヶ崎を連れていくハメになり、案の定気分を悪くして休憩していた恋ヶ崎に、優しく声を掛けてくれたのがムラサキさん。
その際ムラサキさんと恋ヶ崎はお互い連絡先を交換していたようで、俺の知らない間に交流を持っていた。
その後恋ヶ崎の同人誌デビュー(好きな少女漫画のSS)の件などで、なぜか俺もムラサキさんとプライベートで交流を持つようになり今に至る。
出会いはフリマ会場に対して夏コミ、シチュエーションは男子高校生と女子高生のデートに対して、俺と恋ヶ崎だけでなくオタク友達の桜井さんを含めての3人だったという多少の差異はあれど、あの漫画のシチュエーションは、明らかにあの日と……そしてそれからの俺達の関係に酷似していた。
そして何よりも、漫画に出て来た女子大生が男子高校生をこんな人間だと評した感情。
『外見はもちろん黒髪で、必要以上にゴテゴテと飾り立てていなくて……中身は真面目で誠実で、シャイなくらい純粋な方』
それは、俺がムラサキさんの締め切りギリギリの原稿を手伝った時に、ほんの雑談で聞いたムラサキさんの好みの男性像。
――ムラサキさんは、あの漫画に出て来た明らかに俺をモデルにした男子高校生に、自身の好みの男性像をピタリと当てはめていた。
これが、意識なんかしないでいられるわけねーだろ!
いや、勘違いすんなよ柏田直輝! 無駄に期待なんかしたら、違った時の情けなさと恥ずかしさにまた悶える事になんぞ!
あれは単に俺達の出会いが上手く漫画のネタに合致したから使っただけだ。俺に激似の男子高校生に好みの男性像を当てはめたのだって、そっちの方がストーリーを作りやすかっただけに決まってる。
――んなこと分かってるっつーの! 分かってっけど……だったらなぜ、ムラサキさんは俺達にあの雑誌の事を黙ってたんだ……?
「あー! もう分かんねーよ!」
「柏田、あんたさっきからなに休み時間に1人で頭抱えて騒いでんのよ? うっさいなー。
てか何が分かんないの……?」
「……あ」
YABEEEEEEEぇ! 今学校だった!
日曜の遅番バイトを終えてあの漫画を読んでしまった俺は、そのあと寝ることも出来ずに1人で悶々としたままだったのだ。
結局寝不足のまま登校した俺はそのまま悶々と考え続け、気付いたら休み時間に頭抱えて叫んでたのか……。
うおおお! 普段まったく目立たないどころか教室の背景と化している俺の突然の叫び声に、クラスメイト達からの視線が冷たすぎるうう!
ただでさえ先日の文化祭の役割決めで、クラスメイトの連中から「なにこいつ」って変な目で見られてるってのに、ここにきてさらに頭のおかしい奴に見られちまってんじゃねーか!
「い、いや、ちょっと夢にうなされてて……」
「はあ? あんたさっきから明らかに起きてたじゃん! ま、いーけど……」
呆れた冷たい目で俺を見る恋ヶ崎ではあるが、悪夢による叫びという事にでもしとかないと、俺はさらにクラスで居場所が無くなってしまうのだから仕方がない。
だからクラスの連中に聞こえるようにわざと声を張って言ったのだが、恋ヶ崎はそんな俺の切実な気持ちを汲み取ってくれたのか面倒臭くなったのか(確実に後者だろうけどな!)、とりあえず俺の叫びについては流してくれるようだ。
「あ、でさ、そんな事よりちょっと話あんだけど」
「あ?」
「次の休み時間、ちょっと屋上に来てくんない?」
――屋上。
俺と恋ヶ崎は、オタク関連の話をする時は、誰にも聞かれない屋上で話そうと取り決めをしている。
それは俺が隠れオタクだからに他ならないのだが、それでも今までは教室で小声で話していた。
しかし、なんと俺の想い人である長谷川がオタク嫌いだという事が判明してしまったため、それからは屋上で話そうという事に決めたのだ。
恋ヶ崎から「屋上に」と言ってくるということは、当然オタク関連の話題があるからなのだろう。
「分かった。次の休み時間な」
だから俺はこの場では深く追及せず、迷いなく首を縦に振るのだ。
――ちょうど良かった。俺も恋ヶ崎に聞きたい事があったんだから。
この作品のヒロイン(予定)が未だ出てきませんが、次回かその次くらいには出て来る予定ですm(__)m