覇王の兄の憂鬱   作:朝人

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意外と質問があったので……ヒロの年齢について。
本編では明確な数字は記載していませんが、アインハルトが生まれた際に十一歳だったことからアインハルトより十一歳年上のニ十三歳としています。


四話

 訓練合宿出発の日。

 ヒロは前もって言っていた通り(アインハルト)を見送る為合宿発案者の家、高町邸に来ていた。

 相手が見知った人だったので余計な心配はしていなかったが、親子揃って温かく妹を出迎えてくれた。特に娘のヴィヴィオは知らされていなかったこともあってか目を輝かせ、これでもかという程アインハルトの手を握りブンブン振っている。余程嬉しかったのだろうが、そのあまりのオーバーリアクションに若干目が点になっていたことを兄は見逃さなかった。

 話に聞く限りの元気な子のようだ。おかげで妹は困惑の色を強めているが、ブラコンの塊たるアインハルトの友達になる以上多少は強引でなければそれは勤まらないだろう。何せ行動基準の大半が兄を占める娘なのだ、一々気後れしていては逆に振り回されることになる。

 そのアインハルトだが、現在慣れない対応をされ、どうすればいいかヒロに助けを求めるべく視線を送る……しかし。

 

「ま、がんばれ」

 

「(に、兄さーーーーーーん!?)」

 

 にやにやしながらその救援を拒否した。妹の成長を見守るべくして行ったのだがやられた当人は軽くショックを受けていた。

 まさか拒否されるとは思わなかった、しかしそれが兄からの信頼の裏返しなのだろうとポジティブに受け止めたアインハルトは何とか現状を脱しようと意気込むが……。

 

「あの……えっと、その……」

 

 基本兄以外の前ではあまり感情を出さず喋ることもなかった所為か、うまく言葉を発することが出来ない。よもやこんな形でコミュニケーション能力不足を痛感されることになるとは夢にも思わなかった。

 右往左往していると意外なところから助け舟が出た。長い金髪の綺麗な女性が家に上がってもらうようヴィヴィオに言う。すると我に返り、恥ずかしさを隠すように改まってアインハルトを家に上げた。

 その二人の姿を見た金髪の女性と、実は途中からここまで一緒だった件の赤毛の少女ノーヴェはヴィヴィオの反応が嬉しかったらしく、そのことを小声で話していた。聞く耳立てるつもりはないが、やはりアインハルトのことは伏せていたようだ。

 ちなみに、今までのやり取りは全て玄関で行われていたものである。

 

「さてと、それじゃ用も済んだからオレは仕事に行くとするか。……妹のこと、よろしくな」

 

 時刻を確認し、かなりギリギリだったことを知るとそそくさと切り上げるべく、扉に手を掛ける。その際恐らく合宿先で最も迷惑を掛けるであろうノーヴェに妹のことを託した。その言葉に応えるように「任せろ」と拳を握る。……色々と不安なところはあるが、そこは当人とこの保護者代理を信じるとしよう。

 そう思い、若干の寂しさを抱きつつもあとは任せ、仕事に向かう--はずだった。

 

「あ、休暇届け出してきたからヒロくんも行くんだよ」

 

 奥の方からちょこっと顔を覗かせたサイドポニーの女性のその言葉が玄関付近の時間を一時凍らせた。

 いざ去ろうとしていたヒロも、拳を構えたポーズのまま止まったノーヴェも、割って入れなかった金髪の女性も皆この時同じことを思った。

 --そういうことはもっと早く言えよ、と……。

 

 

 訓練先である無人世界カルナージ。異世界であるそこに行くためには次元船でなければならず、その次元船があるのは管理局の本局か次元港の二つしかなく、主に一般的に使われるのは後者の方である。

 今回の訓練合宿には多くの管理局員が参加するが皆休暇を利用したものであり、つまり私的な目的で向かうのだ。

 それを聞いた際、折角の休日をそんなことに使うとは物好きだな。などと思っていたのだが……。

 

「で、何でお前は勝手なことしてくれてるの?」

 

「勝手じゃないよ、ちゃんとオルグラス中将に許可取ったもん」

 

 次元港に向かう車の中、その後部座席に座るヒロは勝手なことをした張本人--ヴィヴィオの母の高町なのはに白い目を向ける。それに抗議するように助手席から後ろを覗きながら、一番後ろの窓際に座ってるヒロに「手続きもしてきたしね」と付け加えて言う。

 一応のヒロの上司であるリードとなのはは知り合いだ。ヒロを通して知り合い、今ではそれなりに冗談も言えるような関係になっている。確かに最初見たときは噂通り胡散臭く、何か企んでいるのではないか?というほど怪しさオーラ全開だったが、話していく内に『面白い人』という認識に変わっていった。特に何かとヒロにちょっかいを出しては怒られる姿はとても子どもっぽく、元から抱いていたイメージが一気に壊れたほどだ。

 

「……オレ本人への許可はどうした」

 

 上司への報告はともかく、何故肝心の自分を差し置いたのか。そこのところを小一時間ほど問い詰めたいのだが……。

 

「だってヒロくんに直接言ったら絶対来ないでしょ?」

 

「当たり前だ」

 

 不満気に言うなのはにしかし即答でそう返すヒロ。なにより、この前の電話でもちゃんとそういうことの旨は伝えていたはずなのだが……何故こうなったのだろうか?

 一応理由は聞いている、「万が一に備えて来て欲しい。自分達はともかく、まだ子どものヴィヴィオ達が心配だから」というものだ。確かに未だ未発達の少女達には負担が大きいものもあり、子ども故に限界を超えて無茶をやらかす可能性はある。ならばヒロを連れて行きたいという気持ちもわからなくもない……しかし。

 

「アイツのとは別に仕事あるんだけど、オレ」

 

 そう、一番気がかりだったのはこれだ。

 確かに上司であるリードに休暇届けは出したのだろう……だがしかし、それとは別に医者として診察所の仕事があるのだ。

 幾らあまり人が来ないとは言え、それでも休日でもないのにいきなり休んでは本日来る予定になっている患者や常連に申し訳が立たない。

 休暇届けの件を確認した際リードが「代わりを送っておく」とは言っていたが……凄まじく嫌な予感しかしない。技術面よりも人格面的な意味で……。

 

「やっぱり、今からでも戻ろうかな、オレ」

 

「それは無理だと思うよ」

 

 不安を感じ、そんなことを呟いたヒロに間髪入れず否定するなのは。

 「どういうことだ?」と言う前になのはの視線はヒロからその隣へと移る。

 それを追いかけるように首だけを動かすと問題の少女の姿が目に入った。

 

「…………………」

 

 口を横一文字にしているが、これでもかと言わんばかりに目を輝かせているアインハルト。普段よりも数段機嫌がよくキラキラとしたオーラを放っていた(ように周りからは見えた)。

 そのあまりの普段との差に困惑している前列席の友人三名、しかし彼女達のことを気に留めるよりも前にヒロの「戻る」発言に飛びついた。

 

「兄さん……」

 

 兄の腕を掴み、まるで懇願するかのような上目遣い。異なる色の瞳にはそれぞれ寂しさと淡い期待が込められていた。

 紫色の目が語る。「兄さん行きましょう。初めて行くところでも兄さんと一緒なら私はきっと大丈夫です……だから来てください」。

 藍色の目が語る。「兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと旅行兄さんと(以下エンドレス)」

 ……なにやら煩悩のような物が混じっているかもしれないが、ともあれ大好きな兄と一緒に行きたいという一心の視線がヒロを射抜く。

 それを一身に受けたヒロは小さくため息を吐くと携帯用通信端末を弄る。小さいモニターが展開し、数秒後白い髪の青年が画面に出た。

 

「薬は既に袋に入れて棚に置いてある、カルテと薬のリストはデスク漁れば出てくる、あと明日から三日休むことを伝えておいてくれ」

 

 挨拶もなく淡々と以上の内容を伝え終わると何の躊躇いもなく通信を切った。

 

『(あ、折れた)』

 

 この車内にいる全ての人がヒロのことをシスコンと認識した瞬間であった。

 ちなみに全くの余談だが、先程モニターに出た白髪の青年が例のリード・オルグラス中将である。曲がりなりにも自分の上司に一方的に頼むのはどうかと思うが、実はリードの方も人使いが酷いためどっちもどっちだったりする。

 

(……ぐッ!)

 

 兎にも角にもヒロが正式に付いて来てくれることが嬉しいアインハルトは人知れずガッツポーズをとるのだった。




兄絡みだと結構アグレッシブになっちゃうウチのアインハルトさん。
……キャラ崩壊、もしくは性格改変のタグを付けた方がいいですかね?
もし付けるとしたらどっちを付けるべきなのか……。

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