曇天の空の下二人の青年が向き合っていた。
一人はヒロ。己がデバイス、ハンニバルを展開し、紅一色の外套に身を包んでいる。黒く禍々しいデバイスとの組み合わせにより、見てるだけでも恐ろしいと思わせる程の威圧感がある。
もう一人はブロンドの長い髪、褐色の肌、タトゥーを思わす刻印を身体のあちこちに彫られた青年だ。件の一族の一人である彼は歴戦の戦士に相応しい、瞳は強い意志を秘めている。
一触即発。正にその言葉を表すような空気が二人を包んでいる。
その様子を十分に離れた所、その高台から見ているのはリードと彼直属の部下。そして一族の長と思わしき老人と数人の戦士達だ。
「さて、では改めて確認しよう」
皆殺気立ちピリピリとした空気の中、陽気な声でリードは言った。
「争いは
あたかも、いや事実勝者のように仰々しくも余裕のある言い方。敢えて癪に障るようにするイイ性格はこんな時でも健在らしい。
「だから」ともったいぶった溜めをこれでもかとした後その場の全員に聞こえるよう大きな声で言う。
「互いの『最強』同士の一騎打ちで決着といこうじゃあないか」
眼下にいる二人に一斉に視線が向けられた。そこに込められた感情は期待一色。
――そう、前述した二人は彼らが『最強』だと信じ選ばれた者達なのだ。
リードからの連絡を受けたヒロはえらく不服だった。
一族の長がこれ以上は後がないと判断し、懇願に近いその提案を引き受けたリードにではない。リードが保有する戦力の『最強候補』に選ばれたこと、だけではなく多数決でそれが決まったからだ。しかも当人がいない所で。
なんでだよと抗議の声を上げると満場一致で「絶対戦いたくないから相手だから」と返ってきた。一応自覚はあるつもりだが、そうもはっきりと答えられると少し泣きたくなる。
ちなみにもう一人の最強候補の流は「もういい歳だから辞退する」とのこと。ヒロ個人としては彼を推したかったのだが、どうやらそれは無理なようだ。
その時のことを思い出し恨むように離れた高台で観客に徹しているリードを睨む。
医者として役割を果たす為に来たというのに、何故こんなことに……。
軽い頭痛がし、頭を抱えたくなった。
「――ゴズをやったのは貴方か?」
そんな中、今まで黙っていた青年が口を開いた。
いきなりのことで一瞬面を食らうが、その名には心当たりがあった。
自分を襲撃した三人の刺客、その内自分が命を奪ってしまった男の名がその名のはずだ。殺めてしまった後情報が欲しくレアスキルで色々と『調べた』のだ。その際彼の名も知った。
そう多くはない一族だ。親は異なれど家族や兄弟のような関係でもおかしくない。
「ああ」
殺してしまった事実は拭えない。ヒロは下手に隠さずはっきりとそう応えた。
それを聞くと青年は一瞬目を伏せるが、すぐに視線をヒロに向け直す。
「ゼフです。よろしくお願いします」
そうして青年、ゼフの身体の刻印が輝くと姿は一変した。
肌は碧い鱗に覆われ、筋肉は倍程膨れ、爪は鋭く、背中からは羽が現れた。魔力はSランクを超える程一気に上がった。
「成る程、これが同化魔法か」
彼の一族には代々伝わる特異な魔法がある、それは「同化魔法」と呼ばれている。物を体に取り込むことによってその特性を自在に扱えるようになるというものだ。例えば鉄や鋼を取り込めばその強度や重さを手に入れることができる。しかしそれらを直接体に取り入れると、常にその特性が表れてしまい何かと不便だった。
だが何代か前の族長が肉体にある刻印を施すことによって必要な時にだけ同化できる術を生み出した。それは今まで物質だけだったの対し生物の同化も可能にしたのだという。どこでその術を手にしたのかは不明だが、恐らく彼らが神聖視しているロストロギアに関係があるのかもしれない。
元々その魔法を駆使しそれなりに強かったのだが、その刻印が出来てからは見違える程強くなったそうだ。
そしてその中でも一代につき一人しか施されない刻印がある。
彼、ゼフはその刻印を宿した者なのだ。
「ヒロ・ストラトス。全力で来い」
生物の頂点に位置する存在――竜の力を操る一族最強の男、ゼフ。
かつて『悪魔』と恐れられた力を持ってしまった男、ヒロ。
互いの勢力が『最強のカード』として出した二人の戦いは完全な
退くことは許されず唯一勝利だけが許された決戦。
それを告げる鐘のように稲光が奔り、一際大きな音が轟いた。
次、戦闘自体は短いと思うんですけど字数は多くなるので分けました。