覇王の兄の憂鬱   作:朝人

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実は書き直したルーテシア回。


二十四話

「それで? 聞きたいこととはなんだ」

 

 午後の一時、一般住宅のものとは思えない立派な書斎に招かれたヒロは呼び出した相手にそう問いた。

 相手はこの家の家主の娘、ルーテシアだ。彼女がこの広い書斎を指定したのはあまり人に聞かれたくないからかもしれない。

 そういった思考を読み取ったからか、頷いて端末を使いある映像が映ったモニターを起動させる。

 

「これを見て下さい……どう思いますか?」

 

「……いや、大変立派な代物だと思うが……」

 

 カーテンを閉め切った部屋の中で映し出せれたものに対し、ヒロは素直な感想を述べた。

 話には聞いていたが、この歳で既にこれほどのことが出来るとは……とことん才能に恵まれた少女だ。そう思いながらも何故こんなものを自分に見せるのか、その意図を図りかねるヒロは視線を送る。

 

「ヒロさん、よく仕事とかで遠出することがあるらしいじゃないですか。だから、外泊は多い方なんですよね? なら、そんな人の視点から見て“これ”はどんな感じですか?」

 

 大方アインハルト辺りから聞いたであろう事情はともかく、真剣な表情で「感想を下さい」と詰め寄る。

 しかしヒロは専門的な知識がないためアドバイスの類はできないのだが……どうするかと思い悩んでいるとルーテシアは「素直な感想が聞きたい」と言葉を足す。

 なら率直に……。

 

「宿泊、レジャー施設としてなら全く問題はないだろう。建てた場所もいいところだし、下手な宿泊施設よりも豪華だ」

 

 ヒロのその言葉を聞き、嬉しいのかふふーんと鼻を高くするルーテシア。

 そう、先程から彼女が訊いてきたのは現在泊まっているこの施設についての感想だった。

 実を言うとこの宿泊施設のほとんどは彼女が設計した物だ。プロでも相当手こずるようなそれをたかだか十四歳の少女が行ったとは到底思えないが、事実なのだろう。現にその際に使われたと思わしき設計図のようなものが何枚かモニターに映っていた。

 本人としては趣味のようなものかもしれないが、しかしそこに掛ける情熱は熱く、設計者故に楽しんでもらいたいという思いもあるようだ。

 特に今回初めて来た上、遠出もよくあるヒロの言葉は今後何かと役に立つかもしれないと踏み感想をお願いしたのだ。

 返って返事は一見心良いように思える。だが「としてなら……」と言われた以上何か問題があるのわけだ。その辺りを詳しく聞いてみたい。

 

「いや、金銭が絡まなければ全く問題はないだろうって意味なんだが……」

 

 あくまでプライベートのものなら気にする必要性は全くないが、もし金が絡むのならば改善する点はそれなりにある。

 つまりそう言ったつもりだったのだが、気になったのかルーテシアはその辺りを掘り下げてきた。なんでも設計(そういう)仕事にも興味があるらしく将来的に役に立つかもしれないからとのことだ。

 ヒロは今まで泊まったことのある施設を思い浮かべながら、ここがこうだった、あそこがこうなっていた、こんな仕掛けがあって驚いた等と出来うる限りために成りそうなことを思い返しながら連ねて言った。

 あらかた語り終えたヒロは一息吐くとルーテシアはその内容をコンソールにメモしていく。その姿に「最近の子どもは勉強熱心だなぁ……」と呑気に考えているとルーテシアが向き直り姿勢を正す。

 

「ありがとうございます。こんなことに付き合わせてすいません」

 

「いや、それは別に構わないがな……それにしても……」

 

 今時の子どもはこうも小難しい趣味を持っているのだろうか? ルーテシアだけではなく、それはヴィヴィオ達にも言えることだが……。自分があの年代の頃は特に将来とか考えずに遊び回っていた覚えしかない。周りの同世代の子どもも似たようなだった故それが当たり前だと思っていたが、彼女達を見るとなんだか自分の方が異端に思えてくるから不思議だ。

 思い返せばあの頃は聖王やらなにやらに振り回されるなど微塵も思っていなかった。寧ろ将来医者になるなど自分でも思いもしなかったはずだ。

 そう考えるとつくづく縁というものは不思議なものだ。

 

「どうかしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

 思考があらぬ方向へと向かっていくのを何とか抑える。急に黙り込んだヒロを気にしたルーテシアに問題ないと伝え、用件は終わったと見てヒロは部屋から出て行こうとした。

 

「あ、アドバイスのお返しにお菓子とかいかがですか?」

 

 だがその瞬間制止の声が掛けられる。

 振り返ると既にルーテシアの手にはクッキー箱があった。その様子から、恐らくどちらにしても渡す予定だったのだろう。ちなみに自家製らしい。

 用意がいいというか、サービス満点というか……。

 

「……用意された以上は貰うが……それをダシに他にも質問があるとか?」

 

「え? まあ、確かに聞いてみたいことは色々あるけど、これは本当に気持ちですよ」

 

「そうか」

 

 ここは受け取らなければ失礼なのかもしれないと思ったが、同時に受け取ったらまた何かあるのかと変に勘繰ってしまった自分を恥じ、素直に受け取ることにした。

 

「それにしても、アインハルトが羨ましいな」

 

「どうしたんだ? 突然」

 

 クッキーを貰い、後で妹と一緒に食べるかと考えていたヒロ。その顔を見て、ルーテシアはふとそんなことを口走った。

 

「わたしには兄弟がいないから少し憧れるんですよ、ヒロさん達みたいな関係が」

 

 よく、一人っ子は兄弟というものに憧れる。家族が増えるのはいいことだし、一人で寂しく過ごすことは少なくなると思っているからだろう。実際家族である以上家では必ず会うわけだが、だからと言ってヒロやアインハルトほど仲が良いのは稀だろう。

 大抵小さい頃は仲が良いが、思春期に入ると冷めた関係になることが多い。特に性別の違う兄妹なら趣味や嗜好が異なってくると自然に会話も減っていく、結果『家族』ではあるが距離を置いてしまう場合もある。それだけならまだしも、嫌悪感を抱いてしまうこともあり、更に関係が悪化する事も……。

 同姓の兄弟だと感性が近い所為か以上のような関係にはなり辛いが、それ故に喧嘩にもなり易い。似たような趣味を持っていると、必ず何処かで意見がぶつかる為それはある意味仕方のないことかもしれない。「喧嘩するほど仲がいい」、きっとそういう関係なんだろうとヒロは考えている。

 故に兄弟というのはメリットだけでなくデメリットもある、ある意味最も近しい存在なのだ。

 

「でも、ヒロさんとかがそんな雰囲気になるなんて予想できないです」

 

 アインハルトのあのベッタリっぶりを見るに喧嘩とは無縁に思えるが……。

 

「お前らが知らないだけで、喧嘩自体はそこそこあったんだが」

 

「え……?」

 

 意外なその言葉にルーテシアは声を漏らした。

 「喧嘩はあった」とは言うもののルーテシアが思っている様な殴り合いとかではない。寧ろ、兄であると同時に親代わりとして育ててきたので、そういった「親」としてぶつかることなら幾度かあったのだ。無論兄妹として喧嘩したこともあるが、どちらかといえばそちらの方が多いのだ。

 それに「兄妹喧嘩」と言っても、帰ってくるのが遅いからヘソを曲げたりする程度の比較的可愛らしいものだ。

 「親」として教育する場合は将来のことも見通し少し厳しくなるが、「兄」としては接する時は比較的に優しく、愛情が表に出易いらしい。自他共に認める欠点だが直せる見込みはない為本人は諦めている。

 自分達にとって当たり前になったこんな関係に憧れるその心情は、やはり兄弟を持つ者には分からなかった。

 

 それらの話を聞いたルーテシアは「やっぱり仲がいいな」と呆れるように微笑を浮かべ、そして改めて羨ましく思った。




以前のはこれじゃない感が強かったので原作を読み直し、使えそうなネタを仕入れ書き直しました。

なんか以前のはルーテシアへのヘイトっぽく感じた。やっぱりベルカ事情のもまとめてやろうとしたのが間違いだったのだ……。
アンチやヘイトはやる気がないんですが、あんまり出番がなかったり掘り下げが難しいキャラだとそうなるきらいがあるようなんですよね、私。その犠牲者が主にメガーヌさん。あの人結局どういう位置付けにすればいいのかわからなかった……。
ルーテシアはstsからいるキャラですがvivid軸だと相当性格が変わる為扱いが難しかったんです。流石にstsの頃のを持ち出すのはどうかと思うし、いきなり暗い過去明かすのはいくら何でも早すぎるし……。
そんなこんなで頭を悩ませて書いたのが以前のだったのだけど……やはり納得がいかなかったので消しました。まあ、ネタ自体は使えそうなものがあったのでバックアップは取りましたが……。
そんな訳でして、ご迷惑かけてすいませんでした。

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