世間的に勉強熱心な者への風当たりは良い。それは覚えようという姿勢が分かりやすく、好感を持てるからだ。故に無気力な者よりもやる気溢れる者の優遇されるのは当然と言える。その風潮は昔からあり、長い間人間の中に根付いている。
ヒロも稀に教える--指導する側に回ることもある為その認識は正しくもあり、ヒロ自身も素直に好感は持てる。
しかしだ……。
「あの、他に何か知ってるのはありませんか?」
此処まで熱心で積極的なのは初めてなので正直驚いている。
ヴィヴィオと共に戻ってきてから暫く部屋で一人過ごしていると、思わぬ来客が訪ねてきた。
それはヴィヴィオの友達の一人、コロナだった。普段の大人しそうな雰囲気は鳴りを潜め、真剣な表情を浮かべている。
--どうかしたのか?
そう訊くと「教えて欲しいことがある」と言い、姿勢を改めた。
一体自分から何を聞き出そうというのか? 頭を傾げながらもヒロは了承した。無論、「教えれないものもあるがな」と前以てから。
「それで、何を聞きたい?」
部屋に招き入れるとコロナを椅子に座らせ、自分はベッドに腰掛ける。
お茶の代わりに缶コーヒーを投げ渡すと、コロナは両手で受け取る。記載情報を見るとどうやら砂糖入りの甘いものらしい、ヒロのはよく見えないが缶が黒いことからブラックなのかもしれない。何故そんな両極端なものがあったのか不思議だったが、『二つだけ』あったことで察した。大方あの兄大好きな妹が訪ねてきた時の為に保管していたのだろう。
そう思うとアインハルトに申し訳がないような気持ちになったが、しかし出された物に手を付けないというのも失礼だと思い、心の中で謝りながら缶に口を付けた。
それは思いの外甘く、お陰で緊張は解け、気持ちが落ち着く。
そして意を決してヒロに言った。
「ヒロさんが知ってる魔法を教えて下さい」
思いがけない申し出に一瞬呆気に取られるヒロだったが、何故そんなことを自分に頼むのかを問う。
それに応えるコロナが言うには、昨日のエリオとの特訓を見た後にルーテシアが言っていたらしい。
『恐らくヒロさんが使ってたのは今じゃ失われた魔導の一つだと思う。普通に調べたんじゃ絶対に見つけることの出来ないものだし、たぶん他にも幾つか知ってるかもね……』
そのことを聞いたヒロは呆れていた。
よくあれだけで見抜くことが出来たものだ。確かにヒントは出したが一発でそれを当てるのは難しいというレベルではない。やはり彼女も天才というものなのだろうか?
将来が楽しみと言うべきか、末恐ろしいと言うべきか……。どちらにしろ、中々に油断ならない才覚を持っているようだ。
実際、ヒロはあの身体強化以外にも歴史に埋もれた魔導を幾つか知っている。それは大半が彼には使えないものだが、だからといっておいそれと人に教えていいものでもない。
そのことをコロナに伝えるが、それでも彼女はなんとか自分にも使えるものはないか? と食い下がる。
どうしてそこまで力を欲するのか? 先日の練習会の様子を見ても彼女は同年代の少年少女より遥かに強い。根っからの格闘家という訳でもないのに何故そうも強くなろうとするのか?
ヒロの尤もな疑問に始めは口を閉ざしていたが、次第にぽつぽつと語り出した。
友人達の中で自分が一番劣っていること、このままじゃ置いていかれるのではないか? という不安、なんとか追い着きたいが今のままでは現状を打開できない焦燥。
腹を割って言おうとして決意した瞬間、今まで誰にも明かせなかったそれらは雪崩のように溢れ出した。
「だからカウンセラーじゃねえよ」と内心思いつつも、しっかりその想いを黙って受け止める。
そうして全てを聞き終えると腕を組み暫く思案する。
「……知識としてならある程度は教えよう」
そしてじっくり熟考した結果そう結論出した。
その言葉を聞いたコロナは何度も礼を言ってきたが、正直ヒロは使わせる気は欠片もないので彼女では絶対出来ないであろう魔法を教えることにした。
別に嫌がらせでそんなことをするのではない。ただこの少女ならそれらを聞けば何らかの形で自分の力にすると評価しているからだ。
某スーパーロボットのようなロケットパンチをゴーレムで行わせようという、柔軟で独創的な思考の彼女だからこそヒロはそう判断したのだ。……決して新たなロマンを披露してくれるのではないか? 等という希望や願望はない。ただ、機会があったら見てみたいとは思うが……。
そういった思惑や私欲は胸の奥に仕舞いつつ、ヒロは自分が知っている魔法の一端を彼女に教えることにした。
コロナは驚くほどの集中力で端末機のコンソールを使いヒロの言葉をメモしていく。その姿はさながら授業を受ける生徒のようであった。
これでも稀に将来性のある医者の卵に教鞭を振るうこともあるヒロ。その為か、説明は丁寧であり少し表情を曇らせると一旦説明を止め、何処が分からなかった訊いてくる。下手な教師よりも優秀なおかげでコロナは短時間でそれらを頭の中に詰めていった。
コロナ自身も、本来なら決して知り得なかったであろうその魔法の知識に興奮と抑揚を覚えていた。ヒロが教えてくれるのはそのいずれもが欠陥を持つものだったが、しかしそれ故にそこから学習できることはたくさんあった。だからか、コロナは正に時間を忘れるほど熱心だ。
暫しの間時間が過ぎると、ふと外が騒がしいことに気付く。時計を見ると正午を回っており、ご飯にうるさい数名が騒いでいたのだろうと判断した。
そして切りがいいこともあり、ここで切り上げようと言うとコロナは「もう少し」と粘ろうとする。しかし根を詰め過ぎても仕方がない。無理をし過ぎれば毒にしかならない。
「とりあえず、今日教えたことをどう応用できるか考えることだな。それができないようじゃ新たに教えたところで意味がない」
「……はい、わかりました」
ヒロの言葉に渋々頷くと、二人は一緒に下に降りていく。その先には予想通り昼食の準備が終わり、今にも食べようかという雰囲気が出来ていた。
「あら? 二人とも一緒だったのね?」
つまみ食いをして怒られたりと、随分と賑やかな中からルーテシアがヒロとコロナの姿を見つけると近付いてきた。
「ヴィヴィオが探してたのよ?」
そしてコロナにそう告げると視線を件の人物に向ける。そこには手を振ってるヴィヴィオとリオがいた。近くにアインハルトやノーヴェがいることから午後のトレーニングについてのことだろうと察したコロナはヒロに先の事の礼を言うと足早に彼女達の許に向かっていった。
その様子を見守っていると、ふとルーテシアからの視線が気になった。
「どうした?」
「いえ、ちょっと気になったことがあって……この後少し時間を貰っていいですか?」
ヒロの質問に一瞬言葉を濁すものの、やはり気になるのか食後付き合って貰えないかと言い出す。
真剣な表情から真面目な話なのだろう。出されるものにもよるだろうが、部外者はあまりいない方が良さそうだ。
「ああ、構わないが」
そう応えると一変して笑顔で「ありがとうございます」と告げるルーテシア。その後、コロナ同様ヴィヴィオ達の許に向かう。ただしコロナとは違い、恐らく自分と話す時間を設ける為に向かったのだう。
さて、一体何を聞きたいのか?
どんなことを質問するのか、そのことが僅かばかり楽しく思うと静かに微笑を浮かべた。
コロナの心情を原作よりも早く吐露させた理由。それは……インターミドルそんな長くやらないと思うし、飛び飛びになると思ったからです。
以下ちょっとした言い訳と謝罪タイム↓
最近原作読み返してたらアインハルトの年齢ミスってたことに気付きました。あの娘十三やない、十二や。
いや、実は元々は十一か十二の設定で書いていたんですよね、にじファン時代に。でもある号のコンプエースでアインハルトの紹介文が出された時に思いっきり、「十三才」って書かれてたんですよね。その時に「あれ?」となったんですけど、公式がそういうならそうなのだろうと十三にしたんですけどね。でも三巻読んだら普通に十二でしたよ。
やっちまったな公式……おのれ謀りおって……。
つまり、何が言いたいかというと……俺は悪くぬぇ! 公式が十三才って記載したからそうしたんだ! だから俺は悪くないんだ!
……とまあ、そんなこんな今までの話の所々を修正していきます。ちなみ年齢が変化したからといって物語に影響があるわけではありません。そこの辺りは安心してください。……寧ろ年齢が下がった所為でブラコンが強くなりそうだから怖いんだ、あの娘は……。
そんなわけで、お騒がせしてすみませんでした。