覇王の兄の憂鬱   作:朝人

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この間お気に入り数が2000超えました。……伸びすぎじゃないですかね……?


二十一話

「おはようございます兄さん。唐突ですが、お願いがあります」

 

「却下で」

 

「少しくらいは聞いてください!」

 

 着替えを終え、待っていたフェイトと共にリビングに降りていくと妹が神妙な顔立ちで出迎え開口一番にお願いをしてきたのでバッサリ切り捨てると食い下がるように声を上げる。

 ヒロはそんなアインハルトを引き連れ椅子に座ると体を向け、なら話せと顎で促す。

 ふん、と意気込む妹の願いとは「インターミドル・チャンピオンシップ」への参加を許可して欲しいというものだ。十代を対象とした全管理世界から集った魔導師が競う魔法戦競技。それへの参加資格そのものはある程度クリアしているアインハルト、しかし彼女はまだ十ニ歳。保護者から反対されれば出場は出来ない、だからヒロを説得しようとしたのだが……。

 

「オレより先に説得しないといけない奴いないか?」

 

 正直ヒロはちゃんと話を通せば反対されることはない。故に実質説得なんてあってないようなものだ。

 本当に問題なのはそんなものに耳すら貸さないような頑固者というか変態が一名。

 

「イエ、私ノ保護者ハ兄サントオ母サンダケデス、他ニイマセンカラ」

 

 視線を逸らす、というレベルではないほど首を90度曲げ、片言で言い逃れようとする。

 

「あのバカ、そこそこ権力あるから取り消すくらい余裕でするぞ」

 

 しかしヒロのその言葉で逃れられないということを理解すると暫くの間頭を抱え込んでしまった。

 そんなアインハルトの姿を心配してかヴィヴィオが近寄ってきた。

 

「あの、アインハルトさんどうしたんですか?」

 

 小声で質問する少女にヒロは「妹は親父が苦手なんだよ」と返す。

 その言葉に以前見た光景が蘇る。確かに父親の話が出ると苦い顔をしていた。そのことには触れるなと言わんばかりに露骨に嫌な顔をするのだ。

 兄であるヒロの話は嬉々と聞かせたいと思い、母親に関しては普通に応えてくれるが、唯一父親に対してだけはそんな表情を浮かべる。そうまでして嫌いなのだろうか?

 この時はその程度にしか思っていなかったヴィヴィオは後にその認識は間違いであることを知る。

 うー、あーと頭を悩ませていたアインハルトだったがついに覚悟を決めたのか通信端末を開く。そして出来ることなら出ることなくメッセージだけ置いてきたいと僅かな願望を籠め通信をする。

 しかしその願いはものの見事に打ち壊された。

 

『娘よぉ! 愛する父に会いたくなったのか! 父も会いたかったぞ! この思いを察して連絡をくれるとはやはり愛娘! はっはっは、本当に可愛いやつだ--』

 

 不精髭を生やした白衣を纏った中年男性、その顔が画面一杯に現れるとコンソール部分を拳で殴り通信を切る。

 一瞬の騒がしさが消え静寂が辺り一帯を支配する。

 がくりと膝を折り床に手を着くアインハルト。そして瞬間的にとはいえあんな濃いキャラを見てしまった周りの一同はなんとも言えない気持ちになった。

 

「……兄さん、やっぱり兄さんが話を通してください……私には、無理です……」

 

 項垂れたまま兄にそう頼むアインハルトの声は何処か震えていた。

 

「はぁ、わかった。親父にはオレから言っといてやる」

 

 その姿を見て、やはり無理だったかと頭を抱えるヒロ。自分達の父は家族愛が強すぎて、それを表に出し過ぎるのが問題なのだ。ただでさえ変人なのに、おかげでアインハルトからは煙たがられるだけ。少しは自重を覚えるべきだと自分のことは棚に上げて思ったヒロ。

 そしてヒロの発言に「ああ、やっぱりあれが父親なんだ」と僅かにでも同情してしまったヴィヴィオ達。正直あんなに個性が強いとは思っていなかった。

 しかし同時に納得もしてしまった、あの愛情を全面に押し出すスタンスはアインハルトがヒロについて語る時に似ている、間違いなく遺伝だ、と。

 そうしてアインハルトの代わりに今度はヒロが連絡を入れる。

 

『おお、今度は息子からか! 今日は千客万来だな--』

 

「黙れ」

 

『……はい』

 

 またすぐに出た父だったが騒ぐよりも早くヒロに一睨みされ口を紡ぐ。その光景からストラトス家における力関係の一端を垣間見たような気がした。

 それからアインハルトがインターミドルに参加したい旨を伝えるが、「怪我をしたらどうする」とか「まだ早い」など反対の声が大きく暫く難航が続いていた。しかしどうにか説得して一度落ち着かせることが出来たが、それでもと粘り「デバイスはどうするのか?」と問う。

 インターミドルでは安全面考慮の為にそこそこ高いデバイスが欲しいのだ。生憎とヒロはデバイスマイスターの資格はない上に工学系は苦手だ。いや、正確にはプラモデルのようにただ組み上げるのなら出来るのだが、一から作り上げることは出来ない。一言で言うのなら向き不向きの問題だ。

 それを知っている父親はどうだと言わんばかりにドヤ顔を浮かべる。正直腹が立つ、今すぐ殴りたいと思った。しかしその思いは胸に押し込め、アインハルトに視線を送る。

 インターミドルに参加すると言ったのだ、流石にその参加条件は知っているだろう。しかも父が苦手な妹のことだ。優秀な技術者とはいえ彼に頼ることは考えていないだろう。

 そう思っていると案の定「当てはあるから大丈夫」と返し、それにより完全論破された父は床に手を付き項垂れた。その姿は先のアインハルトと同じで、やはり親子なのだと周りは再認識した。

 そして敗者と化した父を一瞥した後通信を切り母親にもメールで連絡を入れる。それはものの数分で返ってくる。「了解、あまり無茶しないでね」というありふれた、しかし確かに心配した内容で。

 

「ありがとうございます、兄さん」

 

「別に構わないが、早く克服しろよ」

 

 礼を言うアインハルトにヒロはそう告げる。流石にいつまでも代弁者でいることは無理だろうし、家族なのに間に立たないといけないというのは変な話だからだ。尤も、これはアインハルトだけではなく父親の方にも問題があるのだが……。

 ヒロの言葉にアインハルトは「わかってはいるのですが……」と渋るように応える。嫌われているよりは確かにいいかもしれないが、如何せん愛が重いのだ。

 それを言ったらアインハルトのヒロに対する想いも相当なものだが、こちらはヒロが応えられてしまえるので問題はない。しかしアインハルトが父の想いに応えるには接する時間が少な過ぎたのだ。優秀だが何かと問題も起こし、結局年数回ほどしか帰ってこない父。その癖愛情だけは人一倍ある所為か、戻ってきた時に鬱陶しいと思えるほど気に掛ける。下手をすると親戚よりも会う機会が少ないのにそんな対応をされると正直印象はよくないのだ。

 

「それで、デバイスの当てというのは?」

 

 事情が事情なだけに仕方ないと割り切り、アインハルトが言っていた相手が気になり、話題を変える意味も込め質問する。

 アインハルトが使う術式は古代ベルカ式、旧文明の遺産のようなもので現代でそれを扱えるデバイスを作れる者は限られている。なのは達の人脈を使えばベルカ関係者の二人や三人は余裕で捕まえられるだろう。

 そう睨んだヒロの考えは当たっており、彼女達の旧知の仲で友人の八神はやてが請け負ってくれるらしい。元々ベルカと深い関係を持ち、現代で唯一ユニゾンデバイスを製作した彼女なら確かに適任だろう。

 話を聞く限りアインハルトはサポート型のデバイスが欲しいようでもあるし、その件で自分に出来ることはない。

 そう悟ったヒロはデバイス製作に掛かる費用と手間、そしてそれらを合わせた金額の払う用意だけはしておこうと心に留め置き、アインハルトのデバイスについての話し合いが始まる頃には一人考え事でもしたいのか姿を眩ました。

 

 余談だが兄が近くにいなかった所為でいつもより大人しかったアインハルト。その彼女を見た連絡先のはやて達に誤った印象を与えてしまい、後々再開する際に驚かれることになるのだった。




ViVidがアニメ化するらしいですね。はてさてジークとかあの辺りのキャストはどうなるのでしょうね。
この報せを聞いてつい勢いで書いてしまった感が否めない今回……。
次回からはViVid組と1:1で話をさせようかなあと考えています。……合宿編結構続くな……。

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