覇王の兄の憂鬱   作:朝人

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爆弾投下なう。


二十話

「さて、何から聞きたい? 先に言っておくが、立場上話せないものもあるから、そこは理解してくれると助かる」

 

 仮にも中将直属の部隊員なので秘匿された情報は無論幾つか持っている。その中には自身の情報が入っていることもあるので分かって欲しい。

 ヒロの言葉に首を縦に振ると早速フェイトは質問する……前に。

 

「えっと……ヒロ、できれば、その……何か着てくれない……?」

 

 頬を赤らめ視線も逸らしながら言いよどむその姿に一瞬首を傾げるヒロだったが、チラチラと主に首から下を見ていることに気付くと合点がいったらしく、「ああ」と言葉を漏らす。フェイトが来る前に着替えようとシャツを脱いだのだから今自分の上半身は裸だ。別に女性と違い上半分見られたところで恥ずかしくもないし、プールとかそういった施設に行けば普通にいるだろうに……同年代にしてこの反応はある意味凄い。乙女というより少女に近い反応だ。

 つい意地悪したくなる欲求を抑え、替えのシャツを着ると安堵したようにフェイトは息を吐いた。

 脳裏にチラつく先程の光景を何とか彼方に追い出し、まずはなんで部屋がああなっていたのか? あの血はヒロのもので彼自身に影響はないのか?という問いかけをする。

 真剣に、そしてあからさまに分かるほど心配しているフェイト。流石に適当に流して有耶無耶にするわけにはいかない。

 

「あの血はオレのもので間違いないよ。部屋がああなったのは傷口が勢いよく開いて出血した所為だ。……ああ、体に関しては大丈夫、もう傷は塞がったから」

 

 質問に淡々と応えるヒロ。聞く限り大丈夫とは思えないが、事実彼の体には傷一つない。正直納得は出来ないが今は聞ける所まで聞くべきだ。

 次の質問は、いつからこの様な症状が起き始めたか、というものだ。

 それを聞くと一瞬驚いたような顔をヒロは浮かべ、その中々鋭い観察眼に感嘆の声を漏らした。

 ああ、成る程。人柄はともかく執務官としては確かに優秀なようだ。事前に薬剤と魔導書を持ってきていたこと、手馴れた様子からかなり前から症状に苛まれていると考えたのだろう。

 実際、この困った後遺症との付き合いは十年以上も続いている。既に慣れてしまった為今は痛み程度で済んでいるが始めの頃はあまりの激痛に半狂乱になるほどだったらしい。流石に応える時はそこは伏せたが、何か感付かれたかもしれない。

 次に何故そうなったのか、その原因を問いてみたが……。

 

「悪い、そこから先は口外出来ないんだ」

 

 そう申し訳なさそうに手を合わせられた。

 ヒロは部隊に入る前からリードと縁がある。その時『色々』とあり彼に借りを作ってしまった。結果将来彼に力を貸すことを約束させられて今の立場にいるのだ。無論知り合いだからと採用した訳ではない、それだけの『価値』があるからだ。

 それならば仕方ないと思う反面やはり気になる自分がいる。流石にあの光景を目の当たりにして知らん顔できる程出来た人間ではない、寧ろ逆に何とか力になりたいと考えてしまう御人好しなのだ、フェイトは。

 これは下手に対処すると逆効果かもしれない。いつも思うがこういった時悪意より善意の方が扱いは難しい、下心がない所為で無下に出来ず、良心に訴えるような視線がなにより痛い。

 どうするか?

 そう思案していると一つの案が浮かんだ。それは上手く行けば抱えている問題も幾つか解消できる方法。掛けるコストは特にないし、言うだけ言ってみるのもありか。

 一人納得し、頷いた後向き直る。

 

「そんなに気になるか?」

 

「え? そ、それはそうだよ」

 

 フェイトの言葉に「そうかそうか」と呟くとにやりと口元を歪ませ、ある提案を出した。

 

「ならデートしてくれないか? そうしたら一つ情報を開示しよう」

 

「……へ?」

 

 その突拍子もない条件にフェイトは一瞬頭が回らなかった。それはそうだろう、何故このタイミングでデートの誘いが来るのか? 脈絡がないにも程がある上、そんな簡単に開示していい情報とは……。いや、正直この歳にもなって恋愛経験がない自分にとってこの条件は比較的「簡単」と言えるものではないかもしれないが、どう見ても他意があるようにしか思えない。

 実際隠す気はないのだろう。ヒロは愛想笑いを浮かべこちらの様子を窺っている。

 よくわからないが、流石に此処で退き下がるのは負けた気がする。それにやはりヒロの容体が気になるのも事実だ。本人は大丈夫と言ってはいるが、薬が必要な程の症状となるとあまりいいものではないだろう。

 受けてもいいかもしれない、そう思った矢先友人の姿が脳裏にチラつきある質問をしていた。

 

「ヒロは、なのはが好きじゃなかったの?」

 

 この合宿に参加している全員が知っている想い、そして触れられたくないであろう地雷。気になったフェイトは危ないと解っていながらその上を歩いた。

 そうして爆発すると、覚悟を決めていたフェイトの耳に聞こえたのはため息だった。

 

「あのな、お前も聞いていただろう? オレはあいつに振られたんだよ。それなのにいつまでも引き摺っているわけにはいかないだろう」

 

 何を今更。そんな風に額に手を当て、改めて深いため息を吐く。しかしその言葉はどちらかというと自分よりヒロ自身に向けて言っているように感じた。

 叶わないのだから諦めろ。そう言い聞かせているような気がしたのだ。

 

「わかった……いいよ」

 

 本心はわからないが今の気持ちは大体わかった。だから意を決してそう応えるとヒロは意外そうな顔をしていた。恐らく断ると思っていたのだろう。その予想を裏切っただけでも一矢報いたような気分だ。僅かばかりの優越感に浸るフェイトを他所にヒロは少し考える。

 正直了承されるとは思ってもいなかったので多少面を喰らったが、それでも全く予想していないわけではない。なのはの友人ということもあってか妙に負けず嫌いなところが似ている。勢いで言ってしまった所があるのではないかと憶測する。

 これは前日になって後悔するパターンだな。冷静にそうなった時のフェイトを想像して噴きかける。あたふたした挙句恐らく「なんであの時あんなこといっちゃったのかな……」と気落ちしていそうだ。そしてそのまま当日に持ち越して……うん、それは実に面白いかもしれない。自分の情報を売るとしても相応の対価と言える。

 確かにリードに口止めはされているがそれは赤の他人のみ、ある程度事情を知る人間になら開示してもいいはずだ。

 ……尤も、その開示していい段階に至るまでにフェイトがいつ到達できるかは見当も付かないが……。

 とりあえず、核心に触れない程度なら開示できるからそれで一先ず納得して貰うしかないか。

 

「ならオレの連絡先教えておくよ。執務官殿は忙しいみたいだからな、そちらの都合のいい日を教えてくれたら合わせとくから」

 

「う、うん」

 

 早々に連絡先を交換するヒロに対してフェイトはおどおどと危ない手つきだ。

 まさかと思うヒロの予想通り、どうやらフェイトは緊張しているらしい。やはり男性経験がないのにいきなりデートは難易度が高かったのかもしれない、その事実にようやく気付いたようだ。

 よくよく考えてみれば、普通に起こしにきたはずが気付いたらデートの約束までしていたのだから不思議なものだ。

 

「……ヒロって結構遊んでる?」

 

 あまりの手際の良さにふとそんな疑惑が沸く程だ。こうなると先の血痕も怪しく映ってくる。

 

「失礼だな、オレは一途だぞ。……ま、相手には恵まれないがな」

 

 自傷気味にそう応えると同時にお互いの連絡先を交換し終える。

 これ以上聞きたいことはその時に話してやる。そう言うように話を切り止め、フェイトに部屋から出て行ってくれるように頼み込む。

 最初は何故と首を傾げるフェイトだったが、「男の着替えを眺める趣味があるのなら構わないが?」という発言に顔を真っ赤に染めると慌てて--それこそ加速魔法を使った様な速さで部屋を出て行った。

 その姿を微笑ましいと思ったヒロは口を弧にしながらも着替えを始めるのだった。




そんなわけでフェイトさんとデートフラグ。ヒロの中では振られた扱いなので吹っ切るために誘ったのも理由の一つだったりする。
なのはさんが黙って終わるかどうかは……まあ、これから次第。

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