覇王の兄の憂鬱   作:朝人

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ちょっと独自解釈とか出てきたけど……大丈夫かな、これ……。


九話

 その夜、ヴィヴィオは不思議な夢を見た。

 どこか古い造りを思わせる建物の通路に『自分』は立っていた。

 建物が大きいのか自分が小さいのか、はたまた両方か。どちらにしても高い天井と広い通路が孤独感を強くした。

 誰かいないかと必死に周りを見渡すが、夜なのか辺りは暗く、まるで見えない。

 『誰もいない』--その事実が恐怖となりざわりと胸を撫でた。

 闇が怖い、一人が怖い、人の温もりを感じられないのが怖い。言い知れぬ恐怖から逃れるため、一時でも早く誰かに会いたかった。

 それからひたすら歩き続けた。何故か思うように動かない体を引き摺るように進み、前へ、前へ。

 暗闇で視界が確保出来ずとも、迷宮のようにいりくんだ道であろうとも関係ない、ただ前へ進んでいた。

 誰かに……■■■■■に会いたいという想いだけを胸に抱きながら。

 

 それから、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。足が棒になるという表現すら生ぬるい、既に歩いているのか止まっているのかすらわからないほど感覚が麻痺していた。

 暗闇の重圧と動き続けていることによる体力の消耗、そして未だ誰にも会えないという現実に精神が摩耗していた。

 もう限界だった、気付けば泣いていた。幼い彼女は恥も外聞もなく喚くように泣いた。

 ここにいると、誰でもいいから見つけて欲しいと願いながら延々と泣き続けた。

 そうして喉が枯れ果てるまで泣いた頃、彼女の耳に確かな足音が聞こえた。それは間違いなくこちらに向かって来ている、先の見えない暗闇だろうと関係なく、迷わず真っ直ぐに歩いてくる。

 そして『それ』は忽然と目の前に現れた。

 黒い、まるで人の形だけを切り取ったような影。黒い(もや)で覆われた『それ』は誰の目から見ても不気味なものにしか映らなかった。それはヴィヴィオも同じはずだった……。

 

「--■■■」

 

 しかし、夢の中の『彼女』にはそんな感情は微塵もなく、寧ろ安堵さえしてその名前を呼んだ。

 物言わぬ黒い影が彼女の腕を牽いて歩く、そして彼女も一切の抵抗を見せず黙ってついていく。

 先程まで恐怖の対象であったはずの暗闇も、不思議と今は怖くない。

 不気味な靄に包まれた手だというのに、氷のように冷たい手なのに、どうしてこんなに心が安らぐのだろう。

 不思議な気持ちに包まれながら『彼女』は……いや、『ヴィヴィオ』は目を覚ました。

 

 ------

 

 

「ふぁ~ぁ……」

 

「大丈夫? ヴィヴィオ」

 

 翌日、陸戦試合開始前。

 試合に参加する全員が揃った頃ヴィヴィオは噛み殺すことが出来ず欠伸が漏れた。それを母であるなのはは心配そうに訊く。普段の生活からも夜更かしするような子でないことは分かってるから余計に気になった。

 

「あ、うん。大丈夫だよママ、ちょっと変な夢見ただけだから」

 

 それを察したヴィヴィオは心配させまいと笑顔を浮かべてそう応えた。実際それだけのことなので他に言いようがないのだが……。

 

「そっか、もし体調が悪くなったら連慮せずにヒロくんの所に行っていいからね」

 

 不安を覚え、心配ながらも気遣うようにそう言う。万が一に備え医者の用意は万端だ(ただし当の本人のコンディションは除く)。例え何があっても彼がなんとかしてくれるだろう。

 何処か投げやりな気もするが、それは信頼あってのものなのだろうとヴィヴィオは解釈し、一人納得した。

 ふと、そのヒロのことが気になり辺りを見渡す。しかしその姿は何処にもなかった。妹のアインハルトなら何か知っているかと思ったが、その前に時間が迫りノーヴェからの試合の説明が始まってしまった。

 

(……なんだったんだろう、あれは……)

 

 医者のヒロなら何か分かるかもしれない。不思議な、だけどどこか懐かしい感覚のあの夢を……。

 そんなことを思いながら試合の用意が整うと突然目の前にモニター現れた。そこにはメガーヌとルーテシアの召喚獣ガリュー、キャロの使役竜フリードリヒ、そして片隅に見切れているがヒロの姿があった。

 「あ、いた」と思うと同時に試合の始まりを告げる銅鑼の音が鈍く響いた。

 

 

「いやあ、みんな元気にやっとるねえ」

 

「ほんとにねえ」

 

 試合が始まり、ものの十秒もしない内に各所で戦闘音が上がった。

 高見の見物をしているセインとメガーヌ、万が一にでも負傷したらすぐに治療出来るよう準備だけはしているヒロ。

 しかし開始早々にそんな出番はないだろうと、二人と同様に今は見物に徹している。

 

「派手だな、ちびっこ達は」

 

 そんな中気になったのは最愛の妹ではなく、創成魔法によりゴーレムを創り上げたコロナと二つの魔力変換資質を用いて二属性の龍を作り出したリオの二人だった。なんとも贅沢な魔力の使い方だ、かろうじてAランクに届く程度の魔力しか持ち合わせておらず、且つあんな使い方が出来ないヒロからするとあの二人の戦い方は少し羨ましかった。そのせいかどうしても粗探しをしてしまう。

 コロナの場合創成魔法に掛かる時間、ゴーレムの大きさや構成具合など。多人数を相手にするならいいだろうが、一対一においてあの大きさはネックにしかならないだろう。第一創成魔法とは本来物量で攻める魔法であり、相当な手練れであれば複数の創成と操作を同時に行うことすら可能なのだ。その為ゴーレム創成とは本来戦闘よりも戦術に特化した魔法と言える。

 リオの場合、変換資質者に見られがちな属性によるごり押し。更に思考が子ども寄りのせいかバインドなどの小細工をしないところがかなり痛い。

 ヒロのように『出来ない』のならまだしも、出来るのに敢えて使わず真っ正直から挑むというスタイルは、いずれは壁にぶち当たることになるだろう。

 将来のことは知らないし、生粋の格闘家を目指すならまだしも、そうでないのなら多少は手の届く範囲にも着手すべきだ。

 --総じて、この二人に抱いた感想は「勿体ない」だった。しかしあの歳でこの評価なのだから正直言って将来有望である。

 

「すっげ! 何今のッ!? 弾丸反射?」

 

 コロナとリオの観戦をしているといきなりセインが声を上げた。

 何があったのか、そう思いセイン達の方を見るとメガーヌがセインに説明している最中だった。

 

反射(リフレクト)でも吸収放射でもないわね、受け止めて投げ返したの」

 

 その言葉を聞き「あー……」となんとなく何をしたのか予想が着いた。その後そんなことできるのかというセインにメガーヌが「真正古代ベルカの術者なら理論上はね」と返していたのでまず間違いないだろう。

 『旋衝破』と呼ばれる覇王流の一つで主に射撃魔法に対して効果のある技だ。この技の本質自体はシンプルなもの、ただ「受け止めて投げ返す」、それだけだ。しかして実際にそれを行おうとして出来るものはそうはいない。ただのボールとかならまだしも、魔力弾を相手にそれを成すのはシャボン玉を割らずに掴むよりも難しい。ヒロのように特化したレアスキルを持っているならともかく、純粋な技量だけで習得したとなれば才能の他にも血の滲むような努力があったのだろう……。

 

「……………………」

 

 そう本気でメガーヌは思っているのだろうが、実はこの『旋衝破』……偶々偶然に習得してしまったものなのだ。昔、まだチーズが苦手だった頃なんとか慣れるだけでもと思いアインハルトに持たせようとしたことがあった。しかし勿論チーズが嫌いなアインハルトは拒んで逃げ、「触るだけでも」と言ってチーズを放りなげたことがある。その際避けられずチーズに当たりそうになったアインハルトはあろうことか「最小限の接触で受け止め、そしてヒロに投げ返す」という手段でチーズから逃げた経緯がある。

 ……察しの良い人は分かったかもしれないが、この「最小限の接触で受け止め、投げ返す」ということこそが『旋衝破』の基礎にして真髄。修練でもなんでもなく、ただ嫌いなものから逃げたいが為に偶然身についてしまったもの、それこそがアインハルトの『旋衝破』である。

 真剣な表情で妹を見つめるメガーヌに、まさかそんな経緯で習得しましたなど口が裂けても言えるはずがない……。

 世の中知らなくていいことって結構あるよな……と黄昏ながらも他のメンツの観戦を続けるヒロ。

 なんだかんだ言っても、試合はまだ始まったばかりなのだから。




この作品のオリ主(ヒロ)の立ち位置は良くも悪くも保護者でいこうと思います。偶に暗躍もどきとかあるかもしれないけど、それでも基本は見守る側にする予定です。
vivid組との恋愛フラグとかは恐らくありませんが、信頼とか絆とかたぶんそんな感じのものならあると思います。

……なんか意外と恋愛フラグに関しての感想が多かったので改めて書きました。ちなみにあくまで“ヒロに対して”vivid組の恋愛フラグが建たないのであって、vivid組自体の恋愛フラグが全くないというわけではありません。私のことだからたぶんオリキャラ増やすと思うし……。
ちなみにアインハルトの扱いですが、彼女はヒロの永遠の妹です。妹は負けフラグと思う人もいるでしょうが、事うちの作品においてはそんなことはないです。寧ろ勝ち組です。

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