アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

60 / 64
第六十話 私の名は

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 夕呼さんとの話し合いの途中、壬姫さんが食事を持ってきてくれました。どうやら壬姫さんはじめ、Aー01の新任達は食堂のおばちゃんの京塚さんの手伝いなんかやっているみたいです。私もみんなといっしょにお手伝いしたかったですね。本業が忙しいんで無理ですが。持ってきてくれたのは簡易ですが、ちゃんとした食事です。

 

 「ありがとうございます、壬姫さん。なんか悪いですね。他のみんなはスープだけなのに私達だけちゃんとした食事なんて」

 

 「いいえ、博士も真由ちゃんもこれから頑張ってもらわなきゃいけませんから。それではしちゅれいします!」

 

 「………失礼を赤ちゃん言葉にして本当に失礼?すごいギャグセンスですね、壬姫さん。思わず感心してしまいましたよ」

 

 「か……噛んじゃっただけです!それでは本当にしちゅれいします!」

 

 バタン!

 

 …………天丼ギャグ? 本当にギャグじゃないんですか、壬姫さん?

 

 壬姫さんも話しかけるのを遠慮するぐらい熟考していた夕呼さん。ようやく考えがまとまったらしく、話しはじめました。

 

 「まあ、いいわ。それが与太でA-01が壊滅しても、コレを『あ号標的』に飲ませる策を考えればいいだけだから」

 

 さっきの壬姫さんも含めた、白銀君達もいるA-01部隊が『壊滅してもいい』っていうセリフは引っかかります。でもどんな犠牲を払ってでも、ここでBETAを倒さなきゃいけないんだから指揮官としては正しいんですよね。

 私自身、万が一A-01が壊滅しても罠は生きるように”毒薬”という形にしたんだしね。

 もしここでオリジナルハイヴを陥落できなければオルタネイティヴ5発動。ユーラシア大陸中のハイヴにG弾を放たれ、人類が生きていくことが困難なほどに地球がダメージを受けてしまいます。

 それにここでBETAを全滅できなければ永遠にチャンスはありません。

 

 「でも大抵は下級BETAに情報を集めさせてそれを吸い上げる、という形を取っているんですよね。下級BETAが飲んじゃう可能性がある以上、深奥まで突破して接触する方が確実です」

 

 「大丈夫よ。鑑がBETAに捕まった時は頭脳級自ら調べたらしいわ。毒なんて仕込まれたことないだろうし、精査する類のモノは自ら調べる傾向があるようだから何とかなるわ」

 

 ……………………まあ、そうですよね。実際、私もそのことを計算に入れてこの計画をたてました。ま、突破できるよう私もできる限りのことをしますか。

 

 「それにしても、あんたもそんな手段を取ることができたのね。『あえて犠牲を出しても目的を達成する』ってヤツ。

 意外と指揮官の才があるみたいね」

 

 

―――――――――――――!!

 

 

 夕呼さんのことばは私の心を抉りました

 

 

 本当は誰も死なせたくなんてなかったんです

 

 

 でもどんなに卑怯でも―――――

 

 

 どんなに非道でも――――

 

 

 どんなに悲しくても――――

 

 

 これがBETAを滅ぼす最速にして、被害のもっとも少ない手段

 

 

 だから見過ごしました。このクソったれなBETA共の襲撃を――――

 

 

 ごめんなさい伍長さん、基地のみなさん…………

 

 

 

 

 「………悪かったわ。褒めるようなことじゃなかったわね。これで涙を拭きなさい、真由」

 

 夕呼さんがハンカチを貸してくれました。いつの間にか泣いていたようです。

 そういえば泣いたのなんて初めてです。”女神の加護”がいつもつらい記憶を消してしまうので。

 でも、こんなつらさでも心が壊れないくらい強くなったようですね。

 私、背はなかなか伸びなくても心は成長しているみたいです。

 

 「それにしても博士、いま真由って呼びました?珍しいですね。博士って神宮寺教官の他は誰でも名字で呼ぶでしょ?」

 

 「あら、そう呼んじゃったわね。まあ、あんたは赤ん坊の頃を知っているし、多少の世話なんかもしたことがあるわ。思わず母親みたいな気分になっちゃったのかもね」

 

 「………うぬぼれないで下さい。私のママは天国にいるあの人だけです」

 

 「………そうね。人体実験なんてしといて母親気分、なんて冗談じゃないわね」

 

 「でも一つだけ認めます。私達、共にクソッたれな仕事をしなきゃならないロクでなし同士だってことを」

 

 「…………」

 

 「本当はこんなこと間違ってるんだって思います。目的のために誰かを犠牲にするなんて」

 

 「…………ええ」

 

 夕呼さんは表情は変わらなくても少しだけ悲しそうです。

 

 「でも私達はこの道を選んじゃいました。なら、最後までやり遂げるだけです。でないと誰も浮かばれませんから」

 

 「そうね。犠牲にするつもりだったあんたがこんな鬼札を用意してくれた。そしてここまでお膳立てしてくれた。なら、何としても応えてBETAを全滅させなきゃね。失敗したらそれこそあんたの妹達に会わせる顔がないわ」

 

 やっぱり夕呼さんは強くてかっこいいですね。そんな強気の笑顔がよく似合います。

 

 「沙霧、食事が終わったら凄乃皇の方に行ってくれる?機体は小破だけど、エネルギーを大分喰われたみたいなのよ。あたしはラダビノット司令に会わなきゃならないから、頼むわ」

 

 おっと、呼び方が沙霧にもどりましたか。実は『真由』って夕呼さんに呼ばれて少し嬉しかったんです。けど、まあしょうがないですね。天国のママに義理立てしなきゃなんないし。

 それに私も甘えてなんていられません。A-01が出撃するまでは基地が戦場。私達がギリギリの戦いをして、その奮闘によって白銀君たちが生きて帰れる確率を上げることができるんだから。

 

 「はい、わかりました!」

 

 私達は元気よく食事をしました。

 

 

 そして、それぞれの仕事場に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 決戦迫る!
 大いなる戦いは目前に!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。