香月夕呼Side
「やはり不安ですか。ニューブレインチャイルド1号と会うのは。」
「そうね。再会を喜び合う、なんていかないわね。」
ここは横浜基地の応接室のひとつ。ここであたしはかつての自分の罪の落とし子を待っている。目の前にいるのはあたしの副官のピアティフ。彼女もあたしのかつての罪を知っている一人だ。
あたしは昔00ユニット製作の前実験として4人の赤子に人体実験をした。無表情な彼女達の顔を思い出すと今も心が痛む。
2号3号はまだ生きる可能性はあったが、1号は絶対生存は無理な処置をした。データのために悪魔になにかを売り渡した。でもどうしても必要だった。
4号はそれらのデータを踏まえ、自意識の芽生えまでを目標として処置。彼女が00ユニットの雛形となる予定だった。
だが実験結果は大いに意外なものになってしまった。
2号3号は脳が耐えきれず死亡。4号もついに自意識が芽生えることなく先日死亡。
なのに1号は生き延び、あろうことか自意識までも持って普通に生活してるというのだ。成功要因はまるでわからず私達は大いに混乱した。結局、あり得ない偶然が重なった結果ということで棚上げとなった。
「もし気が進まないとあれば私が面接いたします。副司令はモニターで観察を。」
ピアティフはそう言ってくれるがそうはいかない。
「いいわ。いつかあの娘達に『あなた達のおかげで地球は救われました。』って言うつもりだったもの。先にその一人に会うだけよ。」
迷うのはどこかで罪から逃れようとしているからかもしれない。この止まない雨が降り続けるような気持ちは一生続くというのに。
そして今研究が行き詰まり、どうしてもNBC1の生体データが必要となった。横浜基地が彼女に接触するのは危険でどう工作したものかと頭を悩ませていたら……本人から就職希望がきた。
罠の可能性を調べるためにピアティフを送り、話をさせてみたのだが……なんと最重要機密であるはずの00ユニットの人工知能部の設計図を送ってよこしてきた。隠す気もないらしい。
手元のレポートをもう一度ざっと目を通してため息。見るたびに出る。
「まったくこれを見たときは本当にペチャンコになっちゃったわね。ウチの最重要機密がダダ漏れな上にウチより研究が上をいってるなんて。技術部も諜報部も一年生からやり直さなきゃね。あたしも含めて。」
「はい……ですが研究は進み、希望が見えてきました。諜報部も沙霧真由の身辺を全力で調査中です。」
そう。とにかく00ユニットの完成が最優先だ。完成させなければそれこそあの娘達は無駄死に。あたしはただの人殺しだ。
そして沙霧真由。研究の面からも、そして防諜の面からもどうしてもウチに入れなければならなくなった。
「そういえば訓練兵の彩峰が沙霧真由と知り合いだったわね。どんな娘か聞いてない?」
「PXで会ったときそれとなく聞いてみました。『変な娘』だそうです。」
「……彩峰が言う?それ。自分が変じゃないとでも思っているのかしら。」
「つけ足しで『私が言うほど変な娘。』だそうです。」
「自覚はあるのね。安心したわ。」
つまり相当の変人ということか。会う前から疲れてくる。
その時内線が鳴った。ピアティフが応答する。
「来たようです。どうかお気をつけて。」
「ええ、変人の相手は慣れているし。ま、何とかなるでしょ。」
と、気合いを入れて背伸びをしたのだが……
「え?なんですって!?ちょっと待たせときなさい!」
内線応対しているピアティフの様子がおかしい。
「沙霧真由がゲートで守衛とやり合ってます!何でも迷子の少年を途中拾ったのでいっしょに入れろ、入れないなら帰ると言っているようです!」
…………想像を絶する変人らしい。
はい、ウソでした。出会いは次回です。
あとこの話もウソですからね!ぼくらの夕呼先生が人体実験なんかするわけないじゃないですか!
本気にする人なんていないと思いますが念のため。