アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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 塔ヶ島離城の警備に赴いた白銀武ら二百七訓練小隊。果たしてそこに待ち受けていたものとは…………?


第三十二話 因果導体はつらいよ

 白銀武Side

 

 

 オレ、白銀武。稼業は因果導体だ。……いや仕事じゃなくて体質らしいが何のことだかわからねえと思う。オレもさっぱりわからねえ。とにかく夕呼先生の話じゃ、そのせいでこんなBETAなんてバケモノのいる世界に来ちまったらしい。

 変なのはそのバケモノだけかと思っていたが日本も相当おかしい。何しろ国名が”日本帝国”な上に現代に政威大将軍なんているんだぜ?しかもそのお方は女の子で、オレが操縦する戦術機の隣のシートに座っている。で、クーデター部隊と鬼ごっこの最中、殿下は加速度病で昇天寸前。事態の重さにオレのチキンハートも昇天寸前。まったくやれやれだぜ。

 

 

 

 ……………ってやれやれどころじゃねぇ! どうしてこうなった!?

 塔ヶ崎離城跡を警備していたオレの所に美琴の親父がこの娘と侍従のおばさんを連れてやってきた。フードを被って顔はよく見えないが、この娘は将軍だとかいう話だ。

 

 (ああ、このお偉いさんの娘っぽい彼女は時代劇にハマってるんだね。で、オレにその相手をしろと。まあマニアってほどじゃないが、時代劇や歴史は好きな分野だ。ひとつ歴代将軍の面白ウンチク話でもご披露するか。ちょいえげつない話なんかも知ってるし、驚かせてさしあげよう)

 

 なんでこんな状況になっても現代の感覚抜けないんだろうな?おかげでオレは無礼打…………寸前でこの世界の日本には本当に将軍がいることを知った。今が非常時で本当~~によかった!

 そんなわけでこの政威大将軍煌武院悠陽殿下をオレの戦術機に乗せて横浜基地へ。とはいっても厚木基地はクーデター部隊に奪われているので真っ直ぐ進めば捕まってしまう。なので伊豆半島を南進し、白浜海岸から船で横浜基地へ向かうことになった。

 で、オレ達二〇七訓練小隊と月詠中尉、斯衛三バカが将軍護衛隊となって白浜海岸を目指すことになったんだが………クーデター部隊が猛追撃をかけてきた!なんでも帝都での戦闘をやめさせるために自ら囮となるよう脱出の情報を流したそうだ。

 なんという尊い精神!でももうちょっと遅らせて流して欲しかった。捕まったら意味ないだろうが!

 途中ウォーケン少佐率いる米国陸軍第66戦術機甲大隊と合流。高性能な米軍戦術機F-22ラプターのお陰で練度の高いクーデター軍を撃退できた。

 基地の先任衛士に『米軍のラプターはバケモノ』って聞いたことはあるがそれほどでもないと思う。助けてもらってなんだが。XM3搭載の不知火なら十分オレならやれる……ってなんでまだ訓練生なのにこんなこと思えるんだ?根拠の無い自信とかじゃなく、脳内で戦闘シミュレーションして本当にそう思えるんだよ。

 そういや真由の作ったというBETAシミュレーション。あのバケモノと架空戦闘した時も内心メチャクチャビビってたのに、体が動かなくなるなんてことはなく、自分でも恐いくらい的確な対処してたな。他のみんなは操作が狂いまくってたのに。まあラプターに関してはあれ以上のモノを知っているからな。銀の巨体の”流星”。あれこそ本物のバケモノ戦術機だ。

 そして一旦撃退したものの、旧氷川料金所付近でまた猛攻をしかけられた。今度は富士教導隊ってとんでもない精鋭だ。これに対し米軍66大隊のC、D中隊が足止めしてくれて、突破。随伴がウォーケン少佐の小隊のみになったがこのまま逃げ切れそうだ……と思ったところで隣の悠陽様が重度の加速度病になっちまった。

 悠陽様の状態を案じ、足が止まっちまったところで沙霧尚哉大尉自ら率いる部隊が空挺から来襲。オレ達は囲まれてしまった。だが沙霧尚哉は悠陽様を無理に奪おうとはせずに、謁見を申し入れ一時間の休戦を申し入れてきた。ウォーケン少佐はそれを受け入れ、悠陽様を休ませることとなった。

 

 

 「沙霧尚哉大尉には妹がいるそうですね、白銀」

 

 「はい、横浜基地の技術部に所属しています。オレ達の仲間です」

 

 オレは体調の回復した悠陽様に呼び出され謁見をしている。どうやら沙霧尚哉の妹である真由に興味があるようだ。しかしフードを取った顔を改めて見るとやはり冥夜に似ているな。

 

 「どのような娘ですか?」

 

 「とってもいいやつです。兄のやらかしたことをとても悲しんでいます。オレは初めて会ったときでっかい借りを作って……沙霧尚哉が近くにいるなら”真由のために何かできないか”と思ってしまいます」

 

 ………いや、借りなんかなくったって何とかしてやりたい。真由の顔、昔の小さい頃の純夏をどうしても思い出しちまう。オレをヒーローだなんて言ってた頃のアイツに。

 

 「でもオレはただの一兵卒で……勝手なことはできなくて……」

 

 軍人としての行動はいやというほど叩き込まれた。オレ一人の考えで動く訳にはいかない。沙霧尚哉、奴の前に立ってこの拳で妹の気持ちを伝えてやりたいのに。純夏、オレはヒーローなんかじゃねえよ……。              

 

 

 「あなたのその気持ち、私に預けてください」

 

 いつの間にか近くにきた悠陽様がオレの手を取りそう言った。

 

 「神代。警戒についている以外の者達を集めてください。二〇七訓練小隊の者は全員です」

 

 

 

 

 二〇七訓練小隊のみんなの父親は悠陽様に関係する者が多く、悠陽様は一人一人に父親へのお礼を述べた。そして悠陽様は沙霧尚哉との謁見を決断した。だがそこに冥夜が悠陽様の身代わりを申し出た。

 結局、冥夜が影武者として沙霧尚哉と謁見することになった。将軍殿下を守る斯衛は月詠さんが冥夜に。悠陽様には三バカがつき、万一のことが起こった場合将軍殿下を連れて離脱して白浜海岸を目指すことになった。

 悠陽さまは申し訳なさそうな顔でオレを見た。多分、約束を守れないことを悔やんでいるのだろう。

 沙霧尚哉に妹の気持ちを伝えるというオレとの約束を。

 オレは笑って頭を下げた。

 

 ――――大丈夫です。冥夜がきっとあなたの代わりにうまくやってくれます。――――

 

 

 

オレはさっきまで悠陽様を戦術機に乗せていたため、冥夜を乗せて沙霧尚哉の元まで連れて行く役を受けることができた。会話を近くで聞けるのはラッキーだ。

 

 「冥夜、頼むぞ」

 

 「ああ。タケルの『沙霧真由の気持ちを兄に伝えたい。』という願いもしかと果たそう」

 

 「え……どうしてそれを!?」

 

 「殿下に頼まれたのだ。約束を守れないこと、随分気にしておられたぞ」

 

 悠陽様の格好をした冥夜は妙に元気だ。しばらく思い悩んでいたのが嘘のようだ。

 

 「私はな、タケル。今嬉しいのだ。あのお方の想いもタケルの想いも背負って任につける。こんなに誇らしい日が来ようとは夢にも思わなかった。私はやるぞ。タケル、しっかり見守っていてくれ」

 

 「………ああ、そうだな」

 

 

 ―――――そうだ。状況は悪く見えてもこれはオレがずっと待ち望んだ機会かもしれない。だったら全力を尽くすのみだ。

 

 「行ってこい冥夜! お前の闘い、見ててやる!」

 

 

 

 作戦開始の合図がきた。

 まず月詠中尉が沙霧尚哉と交渉するために発進。

 続いてオレ達。沙霧尚哉の元へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 沙霧尚哉と対面する白銀と冥夜!
 そして次回、遂に真由が合流!

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