アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第三十一話 熱海海岸南へ

 伊隅みちるSide

 

 

 私はあの謎の戦術機が行ってしまった後すぐに香月副司令に報告を入れた。指揮車両で基地に連絡したところ、私となぜかCPの涼宮遙中尉のみ話を聞くことを許された。

 

『映像は見させてもらったわ。やっぱりアレで間違い無いわね』

 

 「な!ご存知なのですか!? この者の正体を!」

 

 『ええ。色々信じられないけど戦場でアホなポーズとったりまったく使い道無さそうな機動作ったりやったり。それにあんた達の機体をできる限り損傷させないようにしたのも大きいわね。これで確信したわ。ウチの問題児よ』

 

 副司令の話によるとあの戦術機は技術部の見習いが私的に作ったモノだそうだ。あまりに機動中にかかるGが激しく、まだ誰も乗りこなすことは出来ないはずだそうだ。確かに銃弾をヒョイヒョイかわすし、一瞬にして懐に入られたりするほどの凄まじい高加速だ。横浜基地が混乱してたのはその戦術機がいきなりハンガーから飛び出し、その問題児が消えたことによるものだそうだ。

 

 「しかし……技術部の者と言いましたがその者は戦術機に乗れるのですか?それに戦術機に可能とはいえ銃弾をかわし、我々がまるで捕らえることのできない機動はとても素人とは思えないのですが………」

 

 『それ以前にかかるGにも耐えられないわね。屈強な衛士でも乗った後に医療室送りだったわ。ああ、それにシートに座っても操縦桿に手が届かないし、ペダルにも足が届かないわね』

 

 「それは……違うのでは?聞けば聞く程とてもアレに乗っている者とは思えませんが」

 

 『確かにね。でも動きを見る限りそいつとしか思えないのよ。あんなアホな戦い方教える衛士養成機関があるとも思えないし。それにあいつは何をやれても不思議はないしね。そいつ、BETAの死骸から十七種もの宇宙由来素材の抽出に成功したわ。あの戦術機はそれらを使用して製作されているのよ』

 

 「なっ!!」

 

 BETAの死骸による宇宙由来素材の研究は世界中の研究機関がやっているがまだどこも成功した例はないはずだ。抽出のみならず応用までするなど信じられない。

 

 『光るとんでもなく斬れる長刀を持っていると言ったわね。あれ、光線級から抽出した熱エネルギー発生素材から出るエネルギーを長刀に纏わせているのよ』

 

 「なんと!そこまで……」

 

 『彼女がいればBETAの解析は飛躍的に進むわ。それこそ将来的にはBETAの弱点さえ発見出来るかもしれない。クーデター部隊が空挺で抜けた以上封鎖に意味はないわ。戦闘可能な機体をまとめてすぐそれを追いなさい。涼宮も指揮車両で同行して彼女の説得に当たりなさい。相手は小娘だから一番適任よ』

 

 「それ程の技術を持った者が小娘ですか……。いえ、了解しました。しかしクーデター部隊の方は大丈夫でしょうか?」

 

 『両立可能よ。それが行った先はクーデター部隊が行くところ。つまり将軍殿下のもとね。彼女はクーデター首犯の沙霧尚哉を追っているわ。彼女の名前は沙霧真由。沙霧尚哉の義妹よ』 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 

 

 

 

 沙霧真由Side

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 私は今、熱海海岸を南下中。白銀君達が通ったルートだとあちこち激戦だらけなので、迂回して岩山を回り白銀君達が捕捉される予定の場所を目指します。

 最近よく光州作戦が終わった頃のことを思い出すんですよ。どうも”女神の加護”で失われる記憶って無くなるんじゃなくて精神的に耐えられるようになるまで封印されてるみたいです。

 パパとママもまだいてお兄ちゃんも家でケガの療養中。そして慧さんを家に匿ってました。その後すぐBETAは日本に上陸。瞬く間に帝都まで蹂躙し、BETAを大陸で止められなかった最大の戦犯の娘として慧さんの身が危うかったためですね。パパママ共にあちこちの病院で流れてくる戦傷者の治療に行き、私はお兄ちゃんと慧さんのことを頼まれました。

 で、そういう背景とかすっぽり忘れて彼女と暮らして遊んだりしました。『なんでこんな身勝手なの!?』と何度もブチ切れそうになったんですが、今になってやっとわかりました。かなり人間不信になっていたんですね。お兄ちゃんもかなり雰囲気が暗くなっていたんですがその理由とかスッポリ忘れてしまっていたので、『元気の出る世界すら取れるであろうスペシャルギャグ!』とかやったら………慧さんに『空気読めない娘』って言われました。あの彩峰慧にですよ!もう生きていけない!

 やがてパパママは悪化する戦況によって戦地の医療班へ。その頃ちょうど彩峰パパンが榊是親首相の名の下処刑されてこのことは榊の陰謀みたいに考えていたんですが、その頃の日本人全員が似たような奉仕を強いられていたみたいでした。周りの人みんなが彩峰パパンを悪役にするのに反発する気持ちもありましたね。いいおじさんだったし、お兄ちゃんはすごく尊敬してたし。

 そして時は経ち私は帝大へ試験、個人研究などが認められ飛び級で入学。慧さんは帝国の国連への信義の証として横浜基地の訓練兵へ。お兄ちゃんは傷が癒え帝都守備隊に入りましたがみんなどことなく現首相の榊是親を憎んでいました。今なら私も慧さんも見当違いの八つ当たりって納得してます。でもお兄ちゃんはずっと見当違いし続けていた、とか考えていたんですが……。鎧衣さんの策に乗って、クーデターをそこそこの所で終わらせるためにリーダーになったようですね。

 

 「なるほど。閣僚全員お兄ちゃん自らの手を下したのは罪を一身に引き受けるためですか」

 

 多分お兄ちゃんは自分が将軍殿下に討たれることで始末をつけるつもりですね。でもそれを邪魔するのが第五推進派。金も時間もかけたクーデターが日本の実権を握る前に終わったらたまったもんじゃないですからね。

 旧冷川料金所を迂回してそろそろ岩山辺り。ここまで全力でぶっ飛ばしてきて、戦闘までやったのにまだまだバッテリーは持ちそうです。さすがチート物理学な私が作ったバッテリー!

 

 

 

 ―――ゴオォォォ………

 

 

 ふと、近くに飛行音が聞こえました。そこに目を向けると数機の大型輸送飛空挺がもの凄い低空飛行で山間部を飛んでいるのが見えました。あれですか。あれらに乗っているお兄ちゃん率いるクーデター部隊が将軍護衛隊を包囲するはずです。

 

 「………しかしホントに凶気の沙汰ですね。夜間で視界も悪いはずなのに」

 

 おっと急がねば!危なっかしい絶景に、いつまでも見たくなる誘惑を断ち切り正気に戻ります。あと一時間ほどしかありません。予定なら護衛隊より先に着いて色々仕掛けるはずが、間に合うかも怪しくなっちゃいました。鎧衣さんや伊隅ヴァルキリーズとの戦闘が響きましたね。

 この前にある氷川料金所跡で激しい戦闘があって、そこで将軍殿下の悠陽様は体調ヤバメになります。そこでお兄ちゃんの部隊が護衛隊を包囲して将軍殿下との謁見を要求します。そして謁見して話がまとまりそうになると、アメリカの部隊にまぎれていた第五推進派のスパイが場を乱し戦闘になります。

 それまでになんとか到着しないと。ここは一つこの世界にはいない爆走小僧のかけ声で気合いを入れますか!なんでこんな前世の知識、覚えているんでしょうね?

 

 

 

 「ロックンロォ――――――――ル!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 義兄との再会は目前!
 多くの人間の思いが交差する決戦の地に沙霧真由はなにを見る? 

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