アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第二十七話 光纏う長刀の騎士

 伊隅みちるSide

 

 

 

 「風間、いいか?」

 

 『はい、伊隅大尉。秘匿回線とは穏やかじゃありませんね』

 

 現在帝都での戦闘は収束した。将軍殿下が帝都を脱出し、クーデター部隊はそれを追跡しているためだ。将軍殿下はこの先を南進している。

 ここは小田原西インターチェンジ跡。ここに我が香月副司令直属のA-01部隊伊隅ヴァルキリーズは防衛線を張り、クーデター部隊の進入を防いでいる。ここを突破出来なければ向こうは将軍殿下の元へ行けないため相手も必死だ。そしてすでに突破を試みた第一陣を圧倒的に、こちらの被害0で撃破している。

 こちらの戦術機には最近横浜基地が開発したという新型OSを全機搭載しているが、まったく驚嘆すべき性能だ。機動性が段違いによくなり、戦術機とは思えない動きがとれるようになった。即応性も格段に上がり、これならこの任務もうまくやれば損耗なしで終えることができるかもしれない。……などと胸躍らせたのだが、基地での連絡に異常があった。この事態に対処すべく任務に風間祷子小尉を選ぶことにした。

 

 「先程から横浜基地の様子がおかしい」

 

 『おかしい?何がでしょう』

 

 「非常な混乱状態なのだ。いま涼宮に状況を尋ねてもらっているが把握できそうもない」

 

 『基地が……?まさか駐留してきた米軍が何か仕掛けてきた!?』

 

 現在横浜基地は米軍第七艦隊麾下の戦力受け入れが行われている。国連の緊急展開部隊に米軍の編入が決定されたためだ。だがこれはオルタネイティヴ5推進派の息がかかっていると思われ、味方と見るには危険すぎる相手である。しかしまさかいきなり仕掛けてきたのか?

 

 「ああ、もしそうなら将軍殿下をお連れするわけにはいかない。次の襲撃を凌いだなら適当な用事をお前に命じる。基地へ戻り状況を把握し、可能なら副司令から指示をもらってきてくれ」

 

 『了解しました。全力を尽くします』

 

 「頼んだぞ。他の者には気取られるな」

 

 風間との秘匿回線を切ったちょうどその時、敵第二陣襲来の報をCPの涼宮が告げた。

 

 『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーリーダーへ。敵第二陣が旧小田原厚木道路北より来襲。数は二五。タイプは不知火、激震の混成部隊です』

 

 先の部隊を全滅させた以上相当な手練れのはずだ。こちらも先の戦闘より気合いを入れて望まねばなるまい。特に新任どもの連戦でのふらつきを注意しなければ。

 

 「来たぞ!そのまま陣形を維持!

 こちらの圧倒的な機動性で撹乱してやれ!

 動き回り囲い込め!」

 

 第二戦が始まった。こちらの優勢は変わらないが敵も帝都守備隊の精鋭。不利の状況をものともせずこちらの動きに喰らいついてくる。激しい銃弾が飛び交う中、陣形の維持に、浮き足立つ新任の抑え、敵の攻勢の凌ぎにと大忙しだ。その最中CPの涼宮から緊急通信がきた。

 

 『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーリーダーへ。旧小田原厚木道路北より再び敵機来襲!数は……1?それに不知火でも激震でもない……タイプが不明、データでも未確認です!?』

 

 なんだそれは。クーデター部隊には戦術機は激震か不知火だけ。よしんばどこからか調達しても吹雪のはずだ。とにかく警戒を促すべく皆に通信を送った。

 

 「ヴァルキリーリーダーより各機へ。再度北からこちらへ接近する機体あり。数は1。ただし機体は激震でも不知火でもない、型式不明機だそうだ。備えろ!」

 

 『はあ?なんです、それは』

 

 『どっか別の国からでも鹵獲したんですかねぇ。あと1機だけってのは?』

 

 『米軍の偵察じゃないですか?呼びかけは?』

 

 「応答はない。詳細は不明だが敵機として対処する。詮索はせず各自警戒しろ!」

 

 『『『了解!』』』

 

 米軍か……。この状況でタイプ不明の戦術機となるとそれしか考えられない。基地に続きこちらにも何か仕掛けに来たのか?

 そう考えてしまい、一瞬戦況への集中が欠けてしまった。そして新任の背後に迫る脅威に気づくのが遅れた。

 

 「高原!? 後ろだ!!」

 

 気がついた時には新任の高原機の背後より敵機の不知火が迫っていた。そして今正に長刀が振り下ろされんとする瞬間だった!

 間に合わない!

 

 シュバァァ!!!――――

 

 

 

 

 

 

 ――――その瞬間を見ることはできなかった。そしてそれはひどく冗談めいて見えた。

 

 

 高原機に長刀を振り下ろさんとした不知火は一瞬にしてきれいに上半身を寸断。今、大きな音をたてながらそれは落ちた。 

 

 

 そしてそこにいつの間にかいきなり現れた銀の戦術機。

 

 

 銃も追加装甲も持たず、長刀一振りだけ。

 

 

 何故か眩く光を放つ長刀を無造作に握り

 

 

 この激しい戦場の中、あまりに無防備な姿をさらしていた。

 

 

 夜の闇の中、光纏う長刀に煌々と照らされたその姿。

 

 

 それはまるで銀の甲冑。

 

 

 どこかで謳われた騎士物語のおとぎばなしのようで

 

 

 ただ一瞬、”美しい”とすら思えてしまった――――

 

 

 

 

 

 


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