アンリミテッドは無理ゲーすぎる!   作:空也真朋

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第二十一話 鎧衣さんトークショー

 こんにちは 沙霧真由です。

 今更ですが私が夕呼さんを実際に呼んだり話したりする時は『博士』といいます。これは夕呼さんはこの基地で二番目に偉い人、私の所属する技術部ではトップなので敬称付でよばないといけないからですね。新入社員(仮)と専務の関係に近いです。

 で、偉い人ってのは立場に合わせて色々仕事が増えるワケですが……いやー白銀君、夕呼さんを『信じられない』って感じで見てますね。ハードワークする香月夕呼なんて白銀君の元の世界じゃ考えられませんからね。まりもちゃんと夕呼先生教師二人は基本的な性格は変わってないとはいえ、メチャクチャ別人になっちゃってます。

 

 「白銀、あんたはこいつのこと、どのくらい知ってるの?ピアティフは気にしなくていいわ。全部知っているから」

 

 「どのくらいと言われても……ここに来るとき初めて会って、いろいろ面倒見てくれたいい奴としか。この世界にいない俺の幼馴染みに似てます。あ、あと一つだけ気になることが」

 

 「なに?」

 

 「ここの技術部って、なんか世界的に凄ぇ所って聞いたんですよね」

 

 「え?ええ、そうね」

 

 「そんな所に見習いとはいえ真由がいるんだからこいつ、もしかして凄ぇ頭いい?」

 

「はあ?」

 

 おや、私の話題でしたか。ではちょっと解説しますか。

 

 「こう見えても大学生です!飛び級で帝大に在籍しています!」

 

 「おお!凄ぇ!」

 

 「しかも!この世界で大学生は稀少種!徴兵のせいで進学出来る子はなかなかいないんです。よっぽど頭よくなきゃ入れません!」

 

 「うおおおお、凄ぇえええ!夕呼先生、こいつやっぱ凄ぇ頭良かったんですね!凄ぇえええ!」

 

 夕呼さんは呆然と白銀君を見ています。

 

 「まあ……ね。帝大はアンタから見りゃ確かに凄ぇけど、それでもウチに来るには足りないのよね。……こいつの本当のレベル知ったらなんて言うのかしら?」

 

 「え?夕呼先生、今何て?叫んでてよく聞こえませんでした。」

 

 「なんでもない。いいわ、よくわかった。白銀、あんたは戻って待機してなさい。榊や御剣にこいつは事件に関係ない事をよく言っとくのよ」

 

 「部隊のみんなに言っときます!じゃあな、真由」

 

 そう言って白銀君も行きました。次は私ですね。

 

 

 

 

 フゥ、と夕呼さんため息一つ。

 「クーデターもだけどあんたの兄貴が首謀者ってのが厄介よね。妹のあんたを探られたくないから、何とかおとなしくさせたかったんだけど」

 

 色々工作してたようですね。失敗したみたいですが。

 

 「今すぐ私をお兄ちゃんの所へ行かせて下さい!妹の私が行けばお兄ちゃん、『みんな!クーデターなんてくだらねぇぜ!みんな真由の歌を聴け――――!!』って言ってやめると思うんです!」

 

 スグ歌の練習をせねば!

 

 「………それが予知だとしても行かせるわけにはいかないわ。ピアティフは返してもらうわよ」

 

 ”予知”って何です!? 世界征服企む謎組織とか何でそんなオカルト流行ってるんですか!?

 

 「アンタは部屋で待機。見張りを付けとくからおとなしくしてなさい。ああ、歌を歌って騒ぐのは許すわ。とにかく次来るヤツにあんたを会わせるわけにはいかないの」

 

 この状況でそんなことして過ごしてたらアホみたいじゃないですか!

 

 「……じゃあ開発室にして下さい。何かいじれる物がないと頭が壊れそうです」

 

 「ストレス過多はまずいか……。いいわ、許すわ。ピアティフ、沙霧を開発室へ送ったら交代が来るまで見張っててちょうだい。来たら司令室へ直行。頼んだわよ」

 

 「はい、了解しました」

 

 

 

 

 わざわざ呼び出して戦力外通告ですか。お兄ちゃんの所へ行かせてくれると思ったのに。

 そう思いながらピアティフさんと開発室へ向かおうと廊下を歩いていると、鎧衣さん(父)にバッタリ会っちゃいました。この人が次のお客さんでしたか。ああ、将軍殿下の横浜基地移送についてですね。

 

 「おや、君は」

 

 「………鎧衣課長、失礼します」

 

 そうピアティフさんが言って私達は通り過ぎようとしたら………通せんぼ?

 会うたびに意味不明な事する親父ですね。

 

 「鎧衣課長、そこをどいて下さい」

 

 「なに、後ろの娘とちょっと話がしたくてね」

 

 「この娘とは現在お話できません!」

 

 ピアティフさんが私の前でガード!

 

 「では、僕が勝手にしゃべろう。ご静聴お願いする」

 

 ………ぼく?キャラ崩壊通り越して別キャラになっちゃったの?

 ポーズもアメリカンなバラエティー芸人っぽい? 

 

 「僕は君の言う通り、遺跡やジャングルが大好きな冒険野郎でね。でもそれらがBETAに壊されていくのを見るのは死ぬほどつらかった。心の殺し方を覚えるためにこの仕事を選んだのかもしれない」

 

 さらに自分語り!? いきなり始まった『鎧衣さんトークショー』に私達二人ともビックリです!

 

 「でもね、心ってのは殺しても無くならないんだ。

 君の見せてくれたものは希望だった。”いつか本当にBETAを全滅させられるかもしれない”。そう思えるものだった」

 

 鎧衣さんは歩き出し、私達を通り過ぎながら続けます。

 

 「そう思えれば、昔殺したはずの冒険野郎がいつの間にかひょっこり顔を出して来てね。

 毎日なだめるのに苦労してるよ」

 

 ピタリ、立ち止まります。

 

 「君は動くな。君を殺したくない」

 

 殺す!? そんな直接的な言い方!?

 ピアティフさんは警戒して私をガッチリガード。

 

 「『いつか遺跡やジャングルを取り戻す!』そんな寝言を言ってるよ」

 

 鎧衣さんは恥ずかしそうに帽子を深く被り、再び歩き出しました。

 私はどうしても聞きたくなって訪ねました。

 

 「ジャングルはともかく、遺跡はどうするんです? 遺跡は生えてきたりしませんよ?」 

 

 ピアティフさん、すぐ私の口を塞ぎます。

 

 「自分で造るさ。どれもこれもみんな覚えているからね」

 

 

 その言葉を残し、手を振り去って行きました。

 

 

 その後ろ姿はいつものぬらりひょん親父ではなく

 

 

 

 爽やかな冒険野郎に見えました――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎧衣さん。今、あのフラグ立てちゃいましたね?

 




 新たな真実に叫ぶ白銀!
 ボクっ子になった鎧衣課長!
 その背中に何かを予感する真由!

 これは嵐の予兆なのか……?

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