異世界ミリオタ転生記   作:日本武尊

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番外編2
番外編01 幾多の憑依転生を繰り返した先は異世界


 

 

 

 

 木々が生い茂る森林。

 

 

 太陽の光が葉と葉の間から差し込んで森の中を照らしている中、1/4tトラック 通称『三菱ジープ』二輌と『60式装甲車』に3/4tトラック 通称『ウェポンキャリア』、『M3ハーフトラック』、更に『61式戦車』の計六輌が森の中に出来た道を走っている。

 

 それらにはそれぞれとある服装に身を包む男女が乗り込んでおり、ジープにはそれぞれ男女4人が乗り込み、60式装甲車に6人、M3ハーフトラックやウェポンキャリアにそれぞれ13人の男女が乗り込んでいる。

 

 男女の姿は65式作業服にテッパチこと『66式鉄帽』にマガジンポーチと、各種装備を身に纏っている。初期の頃の陸上自衛隊の装備で固めている。

 

 

 先頭を走る三菱ジープの助手席に乗り込んでいる男性こと玉城(たまき)昭吾(しょうご)は眠そうに大きな欠伸をして首を傾けて骨を鳴らす。

 

 

「大分お疲れのようですね」

 

「……こんな状況じゃ、誰だって疲れるさ」

 

 俺は隣で運転する副官にそう返しながら右の胸ポケットから紙箱を取り出して煙草一本を出して口に咥える。

 

(しかし、何でこうなったのかねぇ)

 

 内心でそう呟きながら、煙草に火を付ける為にライターを探す。

 

 

 

 

 俺はついこの間、と言ってももういつの話か分からないが、俺はどこにでも居る様な、とは言い切れないがただのミリオタな社会人だった。

 しかしあの日、俺の全てが変わってしまった。

 

 その日は普段どおり仕事を受け終えて家に帰宅途中に、突然激しい頭痛に襲われてそのまま意識を失い、次に目を覚ましたらどういうわけか時代を遡って一人の大日本帝国陸軍兵士になっていた。

 全く状況が理解出来ないまま、俺は一人の日本軍の兵士としてあの太平洋戦争の戦地にて戦う事となった。

 

 そしてあの激戦地となったペリリュー島における米軍との戦闘の最中、俺は米兵を何人も狙撃して倒した。

 その直後に米軍の迫撃砲から放たれた榴弾が降り注ぎ、俺は飛び散る破片を受けて負傷し、出血が止まらずそのまま永遠に意識を失った。

 

 

 だが、次に目を覚ました俺はどういうわけかまた時代を遡り、あの時とは別の日本軍兵士に憑依していた。

 

 それ以降は様々な戦場を多くの日本軍兵士として経験し、時には歩兵として、時には戦車兵として、時には飛行勤務者(日本陸軍で言う航空機パイロットの事)として戦場を駆け抜けて活躍した。

 時には海軍の水兵や航空機の搭乗員にもなった事もあった。

 

 そして最後は戦場で戦死するか、米軍の捕虜になるか、終戦まで生き残って余生を過ごすか、終戦後も戦地に残り残置諜者(今で言うゲリラ)として戦闘を続けたりと、状況は様々だ。

 たまに警察予備隊や保安隊、初期の自衛隊に所属していた事もあった。

 

 

 そして転生を繰り返す事20回以上(途中で数えなくなったので正確な回数は覚えていないが、少なくともこれくらい転生したんじゃないかと思う)で、状況が変わった。

 

 今まで日本軍兵士として憑依転生していたが、次はなぜかドイツ軍の兵士として憑依転生していた。

 

 そこから更に20回ほど憑依転生したら、次はソ連、イギリス、アメリカ、イタリア、フランス等、様々な軍人として憑依転生と死を繰り返していた。

 

 

 そしてどのくらいの死と転生を繰り返した時だったか。

 

 俺はこれまでと違う感覚で目を覚まし、周りを見ると木々や草木で覆われた森の中に倒れていた。

 

 これまでは各国の兵士に憑依した形だったが、今回は忘れかけていた本来の俺の姿として見た事の無い場所に転生して、生前最期の時の学生服姿だった。

 

 慣れてしまったと言う俺の考えもどうかと思うが、今までと違い状況に戸惑いつつ俺は立ち上がって、これまで容姿や国の異なる兵士として戦ってきた感覚で周囲状況を確認する。

 

 その直後に激しい頭痛に見舞われて一瞬足元がふらつくも、何とか倒れまいと足を踏ん張るとその瞬間頭痛が治まった。

 

 だが、俺は頭の中で身に覚えの無い情報がある事に気付き、そして衝撃の事実を知る。

 

 あの繰り返し行われた憑依転生みたいなのは意図的に行われたもので、ある程度数をこなした所で異世界へ転生させると言うのが今回の一件である。

 つまりあの地獄の様な経験はただの準備でしかなかった、という事だ。

 

 この事実に俺は当然すぐに理解なんか出来なかった。

 

 

 しかし何時までもこのままで居られると言うわけではなく、軍人として精神的に鍛えられた俺はすぐに行動を起こした。

 

 幸いにも、俺にこんな過酷な経験をさせてくれた神様は色々と便利な能力をくれた。

 

 それは自衛隊で運用された武器兵器を召喚できる能力と、人員、設備を召喚できる能力だ。

 しかも武器兵器においては史実には無い様々な改造を施すことが出来て、輸入物に限られるが外国製の武器兵器も特定の条件を達すれば召喚可能となるというオマケ付きだ。

 

 ミリオタな俺からすれば、まさに棚から牡丹餅な能力だ。まぁ最初は人員や設備を召喚出来る能力は使えなかったし、当初召喚出来るものも警察予備隊から保安隊時代の物しかなかった。

 つまり米軍からのお下がりだけだ。まぁそれでも十分だったが。

 

 

 その後色々とあったが、何とか今日まで生き延びて、人員を召喚出来るようになって、召喚できる武器兵器も増えて、現在に至る。

 

 

 そして人員召喚だが、まぁ予想していたが最初から多くの人員を出せるわけではなく、一個小隊程度の人数しか出せなかった。まぁ出せる人員は兵科ごとに分けられているのが救いか。

 

 でもって、俺は一個小隊の歩兵を武器を装備させて召喚したわけだ。

 

 だが、ここで予想外な事が起きた。

 

 それは召喚した人員の半数が女性であったことだ。まぁ召喚時に特にこれといった設定をしていなかったが。それと召喚した人員はどれも美形で、女性にいたっては年齢は様々の美少女ばかりだった。

 

 その事に俺は首を傾げたが、まぁ女性と言っても実力はあったので、特にこれと言って気にしなかった。

 

 その後に車輌も出せるやつを出したので、本来部隊運用としてはあまりない混雑した編成となった。

 

 

(ホント、何でこんな事になったんだか)

 

 ため息を付き、ポケットよりライターを取り出して『チンッ』と音を立てて蓋を開け、火を付ける。

 

「それで、隊長。これからどうされますか?」

 

 煙草に火を付けた後、ライターの蓋を閉じてポケットに仕舞い煙草を吸うと、三菱ジープの運転席で操縦している副官の『天城(あまぎ)沙耶(さや)』が声を掛ける。うなじより少し先まで伸びた銀髪の似合う美女である。

 

「どうもこうも、まずはこの世界の住人と接触して、この世界の情報を得たい。そこから色々と考える」

 

 実を言うと、今日に至るまでこの異世界の人間と殆ど接触した事が無い。まぁしばらく訓練と称したレベル上げをする為に一箇所に留まっていたので、そのせいもあるのだが。

 

「要は行き当たりばったり、ですか?」

 

「何か他に案があるのか?」

 

「いえ。何も」

 

 彼女はそう言うと運転に集中する。

 

「……」

 

 素っ気無い彼女の態度に、俺はため息を付き、煙草を吸って、煙を吐く。

 

 

『こちら先頭車!』

 

 と、無線機から先行して走る三菱ジープより通信が入る。

 

「こちら隊長の玉城だ。どうした?」

 

 俺は無線機の受話器を手にして聞き返す。

 

『前方から煙が上がっています。その上道に倒れている負傷者を発見!』

 

「っ!」

 

 俺はその報告を聞いて驚きを隠せなかった。

 

「俺達が来るまで周囲警戒を厳に! 場合によっては武器使用を許可する!」

 

『了解!』

 

「各車戦闘準備! 衛生兵は治療の準備!」

 

 俺は無線機に受話器を戻して煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、助士席の脇に置いている『64式小銃』を手にして、マガジンを外して7.62x51mm NATO弾が入っているのを確認してから挿入口に戻し、ボルトハンドルを引いて手放し、初弾を薬室へと装填する、

 次に腰のベルトに提げているホルスターより『11.4mm拳銃』ことM1911を手にしてスライドを引いて初弾を薬室に送り込んで、ホルスターに戻す。

 

 

 少しして俺達は先頭車付近に停車した三菱ジープから降りる。

 

「隊長!」

 

 三菱ジープ近くでM3サブマシンガンを持って警戒していた兵士が敬礼を向ける。その足元では先頭車の運転手が負傷者を診ていた。

 

「それで、負傷者というのは」

 

「はい。この子らです」

 

 俺は運転手に診て貰っている子供二人を確認する。

 

「……」

 

 まだ十代になったばかりぐらいの、ある点以外は普通の子供だった。

 

 その点と言うのは……頭に狼か犬の耳と狐の耳、尻にフサフサの毛が生えている尻尾がある。

 

(獣人か。早速異世界染みた住人と出会ったな)

 

 俺は内心呟きながら、後ろからやって来た衛生兵に獣人の子供二人の状態を聞く。

 

「どうだ?」

 

「足回りは擦り傷が多く、他に鋭利な刃物で切ったような傷が多いですね。呼吸の荒れ具合から、恐らく必死になって走ってきたのではないかと」

 

「鋭利な刃物でか」

 

 衛生兵の説明を聞きながら獣人の子供二人を見る。

 

「しかし、命に別状はありません。任せてください」

 

「そうか」

 

 俺は獣人の子供を衛生兵達に任せて、木々が開けて空が見える場所に移動する。

 

「あれか」

 

「その様ですね」

 

 64式小銃を持つ天城の隣まで来ると、開けた木々の隙間から覗く、空へと昇っていく黒煙を見つける。

 

「煙の色に上がり具合からすると、山火事では無いですね」

 

「やはり、か」

 

 彼女の予想に、俺は声を漏らす。俺も同じ予想だったからだ。

 

 

 明らかに、村が何者かによって襲撃を受けている。

 

 

「すぐに向かおう」

 

「よろしいので?」

 

「ここで見捨てる理由は無い」

 

「そうですか。分かりました」

 

 彼女は敬礼をすると、すぐに小隊に指示を出す。

 

(集落の襲撃。くそっ、嫌な時のを思い出す)

 

 黒煙を見ると、脳裏に憑依転生していた時の記憶が過ぎる。

 

 枢密国側で敵国の軍に蹂躙された集落の光景や、連合軍側で逆に集落を襲っていた時の記憶だ。

 

 

 

「っ!」

 

 ふと、俺はとっさに後ろを振り返る。

 

(なんだ?)

 

 俺は言いようの無い不安が胸中を渦巻く。

 

「……」

 

 森の方を睨む様に見て、64式小銃を握り締め、ハンドガードに左手を添えて走り出す。

 

「た、隊長!?」

 

 天城が戸惑いの声を上げるが、俺は気にせず森の中に入る。

 

 

(嫌か予感がする)

 

 俺は64式小銃のセレクターを(安全)から(単射)に切り替え、いつでも撃てるように構えながら走る。

 

「――――ッ!!」

 

 すると森の中に女性の悲鳴が響き渡る。

 

「っ!」

 

 俺は悲鳴のした方向へと走り、大木の陰まで来る。

 

「……」

 

 いつでも撃てるように身構え、大木の陰から向こう側を見る。

 

「っ!」

 

 俺はそこで目の当たりした光景に息を呑む。

 

 かなり古い時代の防具を身に纏った男二人が獣人の少女を追い掛けて、その内の一人がクロスボウを構えて矢を放ち、獣人の少女の肩に矢を突き刺す。獣人の少女は刺さった衝撃と激痛に前のめりに倒れる。

 

 男達は這って逃げようとする獣人の少女に近付くと、一人が少女の腰を踏みつけて押さえ込み、腰に提げている剣を鞘から抜き、剣先を勢いよく獣人の少女に振り下ろして背中に突き刺す。

 

 少女は激痛に耐えるようにもがき苦しむように抵抗するも、もう一人が少女の頭を踏みつけて押さえ込む。

 

 少女に突き刺さった剣を持つ男は手にしている剣の柄を左右前後に動かして傷口を広げる。少女は激痛のあまり声を出せずに苦しむ。

 

 

 その時の男達の顔は、笑っていた。まだ大人になっていないであろう少女を痛めつけながらも、笑っていた……

 

 

「っ!」

 

 その光景を目の当たりにした瞬間、俺の脳裏にあの時の光景が過ぎり、頭に血が上るような感覚が走る。

 

 そして気付けば、俺は大木の陰から飛び出て64式小銃の銃口を男達に向け、照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を合わせて狙いを定める。

 

「この、クソ野郎共がぁっ!!」

 

 大声を出したことで男達は俺の存在に気付いたが、その前に俺は引金を引く。

 

 

 ッ!!

 

 

 森の中に響く銃声と共に、7.62mmの弾頭が銃口から飛び出す。

 

 7.62mmの弾丸は狙った通りの場所へと弾が飛び、獣人の少女に剣を突き刺している男の頭を撃ち抜く。

 

 頭を撃ち抜かれて男は脳みそと血を撒き散らしながら後ろに倒れ、少女の頭を踏みつけている男は何が起きたのか分からず、倒れた男を見て呆然となる。

 

 俺はすかさずもう一人の男に狙いを付け、ダブルタップの要領で引金を短い間隔で二回引く。

 

 銃声と共に放たれた二発の7.62mmの弾丸は男の左胸周辺を撃ち抜き、男は後ろに倒れる。

 

「……」

 

 俺は銃を構えたまま周囲を警戒しつつ、剣が突き刺さっている少女の元へと近寄る。

 

「……」

 

 少女の身体を貫いている剣を引き抜こうとしたが、剣が刺さっている箇所を見て手を引っ込めてしまう。

 

 剣は少女の右脇腹と胸の間に刺さっている。肝臓を貫いているのは明らかだった。その上突き刺さったまま周りを抉っていたので、傷口は酷い有り様だ。

 

 それを裏付けるように、既に少女の周りの地面は、少女が流した血を染み込んでぬかるんでいる。

 

「……」

 

 しゃがみ込んで少女の顔を見たが、顔は真っ青に染まり、ピクリとも動いていない。

 

 左手のグローブを取って彼女の首元に手を当てるが、脈は無かった。

 

「……」ギリッ

 

 俺は思わず歯軋りを立て、64式小銃のグリップを握り締める。

 

「……」

 

 込み上げる感情を抑えながら左手にグローブを着け直し、倒れた男達の元へと向かう。

 

 最初に撃った男は脳ミソと血を撒き散らして既に息絶えていたが、もう一人は二発左胸に撃たれているも、まだ生きていた。まぁ、撃たれた場所が場所だから、時間の問題だがな。

 

「……ゴフッ、や、やめてくれ」

 

 男は血を吐きながらも、俺に怯えながら後ずさるも、後ろにあった木に背中が着く。

 

 その時日本語を発していたが、今の俺にその事を気にするような余裕はなかった。

 

「……」

 

 俺はその男の頭に狙いを定めると、何の躊躇無く引金を引く。

 

 銃声と共に放たれた7.62mmの弾丸は男の頭を貫き、背後にある木の表面を肉片と共に赤く染めて、男は木の根元に倒れ込む。

 

「少女を二人掛かりで襲っておいて、寝言ほざいてるんじゃねぇぞ、クソ野郎が」

 

 俺は吐き捨てるように言うと、周囲を警戒しながらマガジン交換を行う。

 

 

「隊長!」

 

 と、天城が走ってきて俺の元にやって来る。

 

「急に走って何を……」

 

 彼女はここの状況を見て、最後まで言わなかった。

 

「隊長……これは……」

 

「天城」

 

「は、はい……」

 

「すぐ村に向かうぞ。襲っている連中を叩きのめす」

 

 俺が振り返りながらそう言うと、彼女は一瞬怯えたような表情を浮かべた。

 

 何を怯えている? 俺は至って普通じゃないか。

 

 天城の傍を通り過ぎながら内心呟く。

 

 

 

 

 


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