異世界ミリオタ転生記   作:日本武尊

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第三十二話 休暇

 

 

 

 

 俺の正体をフィリア達に教えて数日の時が過ぎた。

 

 

 

 

 スレイプニルはこのエストランテ王国の中で3番目に大きな街とあって、街の市場はとても賑やかであった。

 

 そんな市場の中を迷彩柄の服装をした男女二人が歩いていた。

 

 

 

「いきなり休みを貰っても、何をするか分からんもんだよな」

 

「そうね。一層の事全員で休暇を取れば良かったのに」

 

 市場が広がる街道を俺とフィリアが歩きながらボソッと呟く。

 

 今日俺とフィリアは依頼を受けず、残りの三人に任せて非番であった。

 

 とは言えど、特に何かしたいというものも無く、俺達はただ街をぶらぶらと歩いていた。

 

 今朝方、ユフィ達が俺とフィリアが最近働き詰めだと言って今日一日休むように説得されていた。

 

 最初こそ俺とフィリアは大丈夫だと伝えたのだが、なぜか三人がしつこく推して来て、最終的に俺とフィリアが折れる形で休暇を取る事にしたのだ。

 

 で、そのユフィ達は依頼を受けて高機動車改に乗って今朝出発した。

 

 そもそも、働き詰めと言うのは、ユフィ達も同じだろうに。

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「こうして街で二人で居るのも、何か久しぶりだな」

 

「そうね。逃げていた時に二人っきりになったけど、街中で二人で居るのは、ブレン以来かしら」

 

 街道を歩きながら、二人でブレンで過ごした日々を思い出す。まぁちょっとの間だけの思い出だったけど。

 

(にしても) 

 

 俺は周囲に視線を向ける。

 

 すれ違うのは冒険者や商人がほとんどだったが、毎回こちらに視線を向ける者が多い。

 

 まぁ俺達の着ている迷彩服3型はどうしても目立つしな。

 

 それに、俺の耳に入る冒険者から口にする言葉も俺達の噂ばかりだ。

 

 まぁ、内容は良くも悪くもあったが。

 

 

「そうだ、フィリア」

 

「何?」

 

 俺はふと思いついてフィリアに声を掛ける。

 

「確か図書館が近くにあったよな」

 

「えぇ、確かあったはずだけど、どうして?」

 

「いや、せっかく時間が空いているんだ。有効に使いたいと思ってな」

 

「あぁ、なるほどね」

 

 俺の意図を察したのか、フィリアは頷いた。  

 

「だから、その、なんだ、君に教えて欲しいんだ」

 

「えぇ。良いわ」

 

 フィリアは微笑を浮かべて頷いた。

 

 そして俺達は近くにある図書館へと向かう。 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ユフィ様」

 

「どうした?」

 

 森林を切り開いて出来た道を走っている高機動車改を運転しているユフィは助手席に座るリーンベルに声を掛けられる。セフィラは銃座に着いて12.7mm重機関銃M2に手を置いて周囲を警戒している。

 

「今頃団長とフィリア様は休暇を楽しんでいるでしょうか?」

 

「さぁな。まぁあの二人の事だ。きっと楽しんでいるだろう」

 

「……」

 

「と言っても、私達が想像しているような休暇を過ごしているかどうかは、分からんな」

 

 フィリアの性格を知っているからこそ、ユフィは苦笑いを浮かべる。

 

「うーん。あの二人の仲が縮まる日って来るんでしょうか?」

 

「どうだろうな。フィリアはまぁその気はある感じだが、問題はキョウスケだな」

 

「団長はフィリア様をどう思っているんでしょうね?」

 

「……」

 

「まぁ団長もフィリア様を気に掛けているって感じなんですが、あの微妙な感じ、何て言えば良いんですかね」

 

 リーンベルは腕を組んで首を傾げると、「うーん」と静かに唸る。

 

「まぁ、今は見守ろうじゃないか。それが私達の役目でもあるからな」

 

「はい!」

 

 

 

『ユフィ様』

 

 すると銃座に着いているセフィラから通信機越しに声を掛ける。

 

「どうした?」

 

『一旦車を停車してもらえますか?』

 

「? なぜだ?」

 

 突然のセフィラからの願いにユフィは首を傾げる。

 

『私の勘違いで良いのですが、銃声みたいな音がしたような気がします』

 

「……へ?」

 

 通信を聞いていたリーンベルは声を漏らす。

 

「なん、だと?」

 

 ユフィも驚きを隠せず、唖然となる。

 

 銃声がしたと言う事は、銃を使っている者が近くに居ると言う事だ。

 

 しかし、銃は自分達が使っている物以外には無いはずだ。

 

『ユフィ様』

 

「わ、分かっている」

 

 ユフィは気持ちを落ち着かせると、アクセルから足を退かしてブレーキをゆっくりと踏んで高機動車改を止める。

 

 彼女達は警戒しつつ、ユフィはレッグホルスターよりUSPを手にしてスライドを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

 リーンベルは5.56mm機関銃MINIMIを手にしてコッキングハンドルを引いてフィード・カバーを開け、ボックスマガジンから弾帯を取り出して先端を機関部にセットしてフィード・カバーを閉じる。

 

 セフィラは12.7mm重機関銃M2のコッキングハンドルを握って後ろに二回引き、グリップハンドルを手にする。

 

「っ!」

 

 ユフィが窓を開けると、確かに銃声らしき音が森林に響き渡る。

 

「確かに銃声ですね」

 

「だが、銃はキョウスケ以外に持っていないはずだぞ!」

 

 ユフィは尋常じゃない状況にUSPをレッグホルスターに戻し、ボルトが後退しきって安全装置が掛かっているPDW『MP7』を取り出すと、直ぐさま装填を完了させる為にマガジンを挿し込んでボルトリリースレバーを押し下げた。

 

『ユフィ様。この銃声、少しずつ近付いています!』

 

「っ!」

 

「確かに!」

 

 三人は銃声が徐々に大きくなっていくのに気付き、それぞれ銃火器を構える。

 

 

 すると、右にある茂みが蠢いて三人はそれぞれ銃火器を向ける。

 

 そして直後茂みから出てきたのは、二人の男女であった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場所は変わり、時系列は下る。

 

 

 

「どうだったかしら? この世界の歴史は?」

 

「あぁ。多少違っていたけど、俺の居た世界の歴史に似ていたな」

 

 時間は正午を回ろうとしている中、俺とフィリアの二人は図書館で歴史の勉強をして、昼食を取る為にいったん図書館を後にして店を捜していた。

 

「どの辺りが違っていたの?」

 

「そりゃ、種族が多いな。俺の世界には獣人とかエルフとか、人間以外の種族はいないんだからな」

 

「そうなんだ」

 

「それに、あそこまで酷い男尊女卑な歴史は無かったしな」

 

 この世界の歴史で一番衝撃的だったのは、俺の世界の歴史よりも酷い男尊女卑の歴史だ。

 

 今から数百年前の時代は女性の人権など無いに等しかったらしく、実質上奴隷扱いだったそうだ。

 

 そして人間以外の種族に対する差別も酷かった時代でもあり、人間以外の種族は奴隷として扱われていた。

 

 しかしそんな時代の中、一人の革命家が現れ、全てを一変させた。

 

 その名は『リコリス』と言い、女性と見間違うほどの美しさを持った男性であったと言われている。なぜ曖昧なのかと言うと、彼の姿を描いた肖像画は一枚も残されていないのだ。

 

 リコリスは男女や種族の平等を掲げ、世界の常識をひっくり返すほどの革命を起こし、実質上今の世の中を作り出したのは彼であると言われている。

 

 しかし当時の貴族からすれば害悪そのものでしかなく、彼に対する評価は今でも対立している。

 

 言うなれば、彼は救世主であり、大罪人でもあるのだ。

 

(凄い人が居たもんだな)

 

 俺は内心で呟きながら昼食を取れる店を視線を動かして捜す。

 

 

「あっ!」

 

 すると正面から視線を外した時に、何かとぶつかって声がする。

 

「おっと」

 

 俺はすぐに視線を前に戻すと、目の前には尻餅を着いている獣人の少女がいた。

 

 雪の様に白い銀髪のショートヘアーからピンと立つ犬か狼の耳が生えており、ルビーの様に透き通った赤い瞳が特徴的だ。

 

「あなた、大丈夫?」

 

 フィリアは尻餅を着いた獣人の少女の傍にしゃがみ込んで声を掛ける。

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「すまないな。ちょっと前を見てなかったばかりに」

 

「い、いえ。僕の方こそ、考え事をして全然前を見ていなかったので」

 

 俺が手を差し出すと、少女はその手を取って立ち上がる。

 

「っ!」

 

 すると俺を見た獣人の少女は驚いたように目を見開く。

 

「?」

 

 俺はそんな様子の少女に首を傾げていると、少女はフィリアの格好を見ても驚く。

 

「……」

 

 すると少女は一瞬迷った表情を浮かべ、俺を見る。

 

「あ、あの」

 

「なんだ?」

 

「変な事を聞くかもしれませんが、良いですか?」

 

「あ、あぁ。別に構わないが」

 

 俺は戸惑いながらもそう答えた。

 

「……」

 

 少女は迷った末に、こう聞いてきた。

 

 

 

「もしかして、日本人ですか?」

 

「……え?」

 

 少女から聞かれた内容は、予想外過ぎるものだった。

 

 

 


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