俺がエレナと出会ってから数日後。
野太い銃声が森の中に響き、的にしている朽ちた大きな木片が次々と粉々に粉砕されていった。
「ヒュ~。相変わらず凄いな」
「エヘヘヘ♪」
俺がそう言うと、銃を構えている彼女が嬉しそうに笑みを浮かべる。
あの後俺はエレナを村まで連れて行き、彼女の両親と出会った。エレナを救ってくれたお礼の一環として、俺は現在その村に住まわせてもらっている。もちろん何もしないわけにはいかないので、村の仕事の手伝いや、村を魔物から守る用心棒的なことをしながら暮らしている。
その時にエレナから銃の扱い方を教えて欲しいと懇願してきた。最初は断っていたんだけど、日に日にその懇願の仕方が強引なものになってきて、さすがに色んな意味でやばいので、仕方なく彼女に銃の扱い方を時間が空いている時に教えている。
えっ? どんな懇願の仕方だって? 無意識に彼女が自身のご立派な物を押し付けている、と言った感じ。
彼女は結構変わった趣向らしく、ハンドガンとショットガンをメインに使っている。それ以外は時々カービンモデルのアサルトライフルを使うが、基本ショットガンとハンドガンだ。
特にお気に入りなのが『ヴェープル12モロト』と呼ばれるAKシリーズの機構を基にしたセミオートショットガンにフォアグリップとホロサイトを取り付けた物と、予備に腰の後ろに『ウインチェスターM1901』お呼ばれるレバーアクション式のショットガンの一部カスタム化されたソードオフタイプをホルスターに納め、俺がこの間使っていたCz75 SP-01を二丁、しかも銃剣を付けて両脇の銃剣も収められるホルスターに収めている。
彼女曰く『銃剣を付けている方がよく当たる』との事らしい。スタビライザーか何かかな?
彼女ことエレナはヴェープル12モロトのマガジンを外すと、マガジンポーチからマガジンを前端を引っ掛けながら挿し込むと、ホールドオープンしたボルトのストップを解いて射撃を再開する。放たれたスラッグ弾は残った大きい木片を次々と粉々に粉砕する。
マガジン内にある弾を全て撃ち終えてからマガジンを外し、腰に提げているダンプポーチに放り込んでスリングを腕に通して背中に背負い、腰の後ろにあるホルスターよりウインチェスターM1901を取り出すと、手馴れた手つきで回しながらコッキングを行って薬室に装弾する、所謂スピンコックを行い、ハンドガードを左手で持つ。
狙いをつけた後引金を引き、銃声と共に放たれたスラッグ弾が倒木に命中して表面を抉った。
スピンコックをして排莢を行って次弾を装填すると、今度は片手で持って狙いをつける。さすがにこれは調子に乗りすぎじゃ、と前は思っていたけど、彼女の場合は大丈夫だ。
エレナは引金を引くと、銃声と共にスラッグ弾が放たれる。片手で持っていながら反動を受け止めて殆ど銃身がぶれることは無かった。
(意外と力が強いし、何より反動の受け止め方がうまいんだよな)
初めて使わせた時はさすがに反動に驚いて銃身はブレッブレで狙いはずれまくりだった。だが、数発撃っただけで要領を把握してか、その後は驚くぐらいに上達して行って、次第には片手でウインチェスターM1901を撃てるまでに至っている。
(これは、結構な逸材を見つけたみたいだな)
内心呟きながら彼女を見ていると、ある部分に視線が吸い寄せられる。
(にしても……でけぇよなぁ)
彼女がウインチェスターM1901を撃つ度に少し揺れる部分を見ながら内心呟く。
何がでかいって? 母性の象徴と言えば分かるだろう。
出会った時から思っていたが、15から17の少女としては大きい部類に入るぐらいスタイルが良い。その上気候の関係で薄着とあって、そりゃもう自己主張が激しい事で。
ちなみに彼女の服装だが、丈が短く常にへそ出し状態のグレーの厚めのタンクトップを着ており、両手には指先の開いた黒のグローブ風手袋をしている。
若干薄くなったグレーのホットパンツに太股の中間辺りまであるオーバーニーソックスに脛まである編み上げブーツ風の茶色のハーフブーツを履いている、と言った格好だ。
いくら暖かいからって、ちょっと薄着過ぎひん? 下は着ているって言ってもハッキリ言って目のやり場に困る。その上よく抱きついてくるもんだから、彼女のご立派な双丘が薄い壁越しに押し付けられるわけで……。
その上彼女は今チェストリグを付けているから、自己主張が激しい部分が更に強調されているわけで。
(うーん。この世界の住人ってこんなものなのか)
いや、彼女だけが突出しているのか。
そう思っていると、彼女は大きく開いたハンドガードに指を通したままグリップのみ手放してコッキングを行って排莢し、手首を上に動かしてその勢いで銃本体を跳ね上げてグリップを握り、腰の後ろにあるホルスターに収める。
「相変わらず、うまいもんだな」
「そう?」
「あぁ」
ソードオフのショットガンを片手で撃てるって、余程力が強く扱いがうまくないと出来ないからな。
「えへへへ♪」
俺に褒められてエレナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「もう遅くなるから、そろそろ行くぞ」
「えぇー? もうなの、お兄ちゃん?」
不満げにエレナはそう言う。
あれ以来エレナは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。名前は教えているって言うのに。
まぁ、彼女がそう呼びたいのなら、別に構わないけど。
「遅くなったら君の両親が心配するだろ。それに、暗くなる前に山を下りないと」
「む~」
不満いっぱいです、と言わんばかりに頬を膨らませる。
だが、実際暗くなると魔物の活動が活発になるので、面倒ごとになる前に山を下りたいのだ。
とまぁ彼女を宥めてから、山を下りて行った。
――――――――――――――――――――――――――――
翌日。
俺は村の人たちと共に畑で仕事をしていた。
「オキタさん。いつも手伝ってくださってありがとうございます」
「いえ、このくらい大丈夫です」
畑を耕している年の行っている男性が話しかけて俺はそう答える。
この人はゲオルクさんと言って、エレナの父親だ。
エレナはエルフとあって当然両親もエルフで、住んでいる村もエルフが暮らしているところと思ったけど、意外にもそこは人間が暮らす村で、両親も人間だった。
何でもゲオルクさんは元冒険者で、若い頃はそれなりに名を馳せていたそうだ。で、今から50年ほど前、若かりし頃のゲオルクさんが村の近くの森で倒れているエレナを発見したそうだ。その時の彼女は名前以外の記憶を失っており、その上精神年齢の逆行が起きていたそうだ。
その後はなんやかんやとあって、ゲオルクさんと奥さんの娘として引き取られ、今日に至るというわけだ。
ちなみにエレナは他のエルフとは異なるとゲオルクさんは言っていた。
この世界に存在するエルフは4つの存在に分類される。
一つは普通のエルフで、これは耳が長く、金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つと言う、前世地球で一般的にイメージされるエルフの姿をしている。基本金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つが、たまに瞳の色か髪の色が異なるエルフが生まれてくることもあるらしい。
一つはダークエルフで、褐色肌に銀髪と、こちらも前世地球で一般的にイメージできるダークエルフの姿をしている。エルフと異なって身体能力が高く、近接戦闘に長けていると言うが、逆に魔力が少なく魔法が使える者はそう多くないと言われる。
ちなみに服装はエルフの種族の中でも結構独特だとかなんとか。
一つはハーフエルフで、こちらはエルフ種と他の種族との交配種で、エルフとダークエルフと比べると耳が短く、髪の色と瞳の色も様々なので、他のエルフと判別はつきやすい。エルフの種の中でも数が多い。その上他のエルフ種と比べると、身体がとても頑丈らしく、生半可な攻撃じゃ倒れる事が無いらしい。
その上、片方の親の種族次第で子供の能力が大きく変化するとの事だ。
一つはハイエルフで、エルフ種の中では最上位種に当たる。魔力が高く、魔法に関して長けている。エルフと比べると耳が長く若干上を向いて、先端が尖っているのが特徴で、髪の色は金髪、瞳の色はエメラルドグリーンのみだと言う。だが、エルフ種の中で数が少なく、まず普通に暮らしていると目にする事は無いらしい。
噂では今俺が居る西の大陸以外の別の大陸に多く暮らしているとか何とか。
ゲオルクさんはハイエルフは見たこと無いのでどうこう言えないが、エレナの持つ特徴からハイエルフの一種ではないかと思っているとの事だ。
だが、エレナはハイエルフの特徴を持っていながらも、髪の色は銀髪で、瞳の色はサファイアのような碧眼と、ハイエルフには無い特徴を持っている。その上ハーフエルフのような頑丈な身体に、ダークエルフのような身体能力の高さがあったりと、まるで全てのエルフ種の特徴を持っているかのような特徴があると言う。
ちなみに現在のエレナの年齢は不明だが、50年前前からほとんど姿に変化は無く、エルフは人間で言う15以降の容姿になるまでに100年は確実に超えると言われているらしい。
それを踏まえて考えると、エレナは少なくとも100歳は確実に超えて、150以上はあると予想される。
それを聞いてやっぱエルフなんだなぁって思った。
「ふぅ」
しばらくして畑仕事も終わり、木箱に腰掛けて休憩する。
「いやぁ、オキタさんが手伝ってくれるお陰で、助かります」
と、近くに置いてある木箱にゲオルクさんが座り、声を掛ける。
「飲食に寝床を提供してもらっているんです。このくらいはさせてください」
「ハハハ。それを言われてしまえば、私から言える事はありませんな」
ゲオルクさんは軽く笑ってそう言う。
「しかし、オキタさんのお陰でこの辺りの魔物の襲撃は少なくなりましたな。本当に感謝します」
「いえいえ。俺もあれだけで役立てているのなら」
まぁエレナと一緒に山で銃を使っているので、恐らく銃声に警戒して近寄ってこないのだろう。たまにゴブリンとかの類が俺達に襲ってくるが、当然返り討ちにしている。
まぁ俺達のそんな行動のお陰で村が安全になっている、という事だろう。
「ところで、オキタさんは今後どうされますか?」
「今後、ですか」
ゲオルクさんの問いに俺は腕を組んで静かに唸る。
実際の所、この世界でどうしたいかっていうのって、特に何も決めていないんだよな。まぁ銃が使えるから退屈する事は無いだろうけど。
「オキタさんは旅をしているのですよね」
「え、えぇ、まぁ」
一応俺は旅人と言うことで事情でエレナやゲオルクさん、村人達に通している。
「そうなると、資金の調達が大変でしょう」
「そうですね。だから野宿が多いです」
ゲオルクさんに言われて、俺は好きな銃が使い放題と言う喜びから現実を呼び覚まされて苦笑いを浮かべる。
転生時に俺の手元にあったお金は無いし、仮にあってもこの世界では使えない。当然今の俺は無一文だ。
「でしたら、若い頃の私の様に冒険者として活躍するのが宜しいのでは?」
「冒険者ですか」
「えぇ。オキタさんの事情を考えれば、これほど適した職は無いでしょう」
「……」
冒険者としてか。
俺は顎に手を当てて一考する。
どの道金は必要になってくる。であれば、銃の威力を活かせて、どこでも仕事がある職がいいな。とは言えど、あんまり目立ちたくは無いかな。
「お兄ちゃーん!」
「うぉっ!?」
と、後ろからエレナの声がしたかと思った直後に、ドカッと背中から衝撃が走る。
「え、エレナ」
「ねぇお兄ちゃん。お仕事終わったの?」
「あ、あぁ。さっき終わって休憩していたところだ」
「それじゃぁ、すぐに山に行こうよ!」
と、無邪気な笑顔を浮かべながら抱き付く力を強くして更に身体を密着させる。
(デケェェェェ!! 説明不要ッ!!)
背中に感じるやわらか~い感触に俺は言葉に出さず心の中で叫ぶ。
最近こういったスキンシップが多くなって、俺は理性を総働きにして何とか耐えている。だが、抱き付かれる度に彼女から発せられる女性特有の甘い香りが鼻腔を擽るから、耐えるのもかなり必死だ。
「こら、エレナ! いつも言っているだろが!」
「ひゃんっ!?」
と、エレナは変な声を上げて驚き、俺から離れる。た、助かった。
「いきなりそうやって人に抱き付くものではない!」
「ご、ごめんなさい……」
ゲオルクさんに叱られてエレナはしゅんとなる。
「あらあら、エレナってば」
と、後ろからエレナ以外の女性の声がして振り返ると、年老いた女性がお盆にカップを載せて運んできた。
「リーシャさん」
「いつもご苦労様です」
「ありがとうございます」
「いつもすまんな」
リーシャさんと呼ぶ女性はお盆を差し出すと、俺とゲオルクさんはそれぞれ一個と言ってからお茶の入ったカップを手にする。
「申し訳ありません、オキタさん。娘がいつも迷惑ばかり掛けて」
「構いませんよ。別に迷惑ではありませんし、嫌でもありませんし」
まぁ、ちょっと別の意味でキツイんだがな。
俺はカップに入ったお茶を一口飲み、エレナを見る。
「エレナ。もう少し休憩したら行こうか」
「っ! うん♪」
気を取り直してエレナにそう伝えると、彼女は上機嫌になって笑顔を見せる。
「すみません。いつも娘が手間を掛けて」
「気にしていませんよ」
俺はそう言って、もうしばらく休憩を満喫するのだった。
だが、もうしばらく村に留まるべきだったと後で後悔するとは、この時思いもしなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
休憩してから俺はエレナと共に山に登り、実質上射撃場にしている山の広場に着くと、俺はメニュー画面を開いて彼女の使う装備を出す。
エレナはそれを受け取ると、慣れた手つきで装着して、両脇のホルスターに収まっている銃剣付きのCz75 SP-01を片方ずつ取り出してマガジンを挿し込み、スライドを引いて薬室に初弾を送り込むと、ホルスターに収める。
次に腰の後ろにあるホルスターに収まっているウィンチェスターM1901を取り出すと、レバーアクションを動かして薬室とチューブ式弾倉にスラッグ弾の入ったショットシェルを入れて、最後に薬室に一発入れてレバーを閉じ、ホルスターに収める。
「今日はこっちでいいのか?」
「うん」
俺は召喚した『AK-104』を彼女に渡しながら問い掛けると、エレナは軽く縦に頷きながらマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引く。
AK-104とは俺が使っているAK-103のカービンモデルで、銃身を短くして取り回しがしやすくなっている。使用弾薬は同じ7.62×39mm弾を使用する。
彼女はAK-104を構えると、セレクターをセミオートの位置に向けて的にしている倒木に向けて引金を引き、銃声と共に弾丸が放たれて倒木に着弾して表面が弾ける。
俺は彼女の傍でその様子を見ながら自分が手にしている銃を見る。
ちなみに俺の装備は以前と変わって新たに出した『MP-443 グラッチ』と『MK-107』にしている。
MP-443はロシアのイジェフスク機械工場で開発された拳銃で、使用弾薬は9×19mmパラベラム弾を使い、その他にも9×19mmPBP弾と呼ばれる高性能徹甲弾を使用する事が出来る。
MK-107はAK-107と呼ばれるアサルトライフルから転用されたセミオートライフルで、一見名前を聞くと、一件どんな銃か分からないだろう。
こいつの機構はかなり特殊で、『バランスド・アクション』と呼ばれる発射と同時にカウンターウェイトを前方に振り出してボルトの動きを相殺して反動を軽減するものだ。その上マズルブレーキの働きもあって、物凄く反動の少ないセミオートライフルとなっている。
動画でMK-107の射撃を見たが、連射しているのに関わらず全然反動が無かったのだ。
使用弾薬は輸出を重視して.223レミントン弾を使用するが、ロシアの5.45×39mm弾仕様のやつもある。俺のは5.56×45mmNATO弾が使えるように改良し、マガジンもAK-74のベークライト製マガジンからSTANAGマガジンに変えてマガジン挿入口とロック機構もそれに準じて変えている。
俺はこれにホロサイトとブースターを取り付けて中距離、遠距離に対応させている。
エレナはAK-104のマガジン一つ分の射撃をすると、空になったマガジンを外して腰のガンベルトに提げているダンプポーチに放り込み、新しいマガジンをマガジンポーチから出して前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引く。
セレクターを一番上まで上げてからスリングに腕を通して背中に背負い、両脇のホルスターからCz75 SP-01を二丁取り出す。
「……」
両手にそれぞれ一丁ずつ持つCz75 SP-01のセーフティーを外し、倒木に向ける。
(にしても、あれだよな)
俺はエレナを見ながら内心呟く。
(いつもCzを持つと、雰囲気が変わるよな)
銃を使わせてから前々から思っていたが、彼女はCz75 SP-01を持つと雰囲気が変わる。
いつもの明るい雰囲気から、鋭い雰囲気になるのだ。
まぁ別に俺はそういう雰囲気とか空気の変化に敏感ってワケじゃないからもしかしたらただの勘違いかもしれないが。
そんな事を考えていると、彼女は両手に一丁ずつ持つCz75 SP-01の引金を引き、銃声が一度に二回響くと倒木の表面が弾ける。
それに始まり、連続で銃声が鳴り響く。
(それに、他と比べると明らかに拳銃の方がよく当てているんだよな)
彼女はさっきから最初に当てた場所にしか弾丸を当てておらず、その証拠に周りと着弾地点の下には多くの弾丸の破片が落ちている。
ホント妙なもんだよな。
彼女はマガジン一つ分の射撃をしてスライドが一番後ろまで下がって固定されてホールドオープンすると、マガジンキャッチャーを押して空になったマガジンを外し、太股に装着した特殊な形状をしてマガジンが突き出たマガジンポーチに向けてCz75 SP-01を下ろしてグリップに突き出たマガジンを挿し込み、スライド止めを解除してホールドオープンしたスライドを戻す。
「……」
エレナは深く息を吐くと俺の方に振り向き、さっきまでの鋭い雰囲気からは想像できない笑顔を浮かべる。
「どうだった、お兄ちゃん?」
「あぁ。日に日にうまくなっているな。さすがだよ」
「エヘヘヘ♪」
俺に褒められてエレナは嬉しそうに照れる。
(このまま練習すると、どこまで伸びるんだろうな)
どこまで伸びるか、楽しみでもあった。であると同時に、不安もあった。
(だが、このまま銃を使い続けて、何も起こらなければいいんだが)
尤も、それは自分にも言える事とも言えるが。
「……」
そんなエレナの様子を見ていたら、ある事に気付く。
「? どうしたの?」
「……あれって、煙だよな」
「え?」
エレナは後ろを振り返ると、遠くの方で黒煙が上がっていた。
「なぁ、エレナ。この辺りで煙が上がるような場所って、無いよな」
「うん」
「それに、あの方向って、村があったよな」
「う、うん」
俺の問い掛けにエレナの声が徐々に震え出す。
「……あんなに黒煙が上がることって、まずないよな」
「……」
黒煙は濃い上に範囲が広い。ただ事ではないのは明白だ。
「……」
俺はMK-107のコッキングハンドルを引いて初弾を薬室に装填する。
「行くぞ、エレナ!」
「う、うん!」
俺は胸中に渦巻く嫌な予感に息を呑みながらエレナと共に急いで村に戻る。