番外編01 転生先の異世界で出会ったのはエルフの少女
多くの木々が生える鬱蒼とした森。人の気配など感じさせないようなこの場所だったが、そこを通る人影があった。
(それにしても、全然人に会わないな。本当に人は居るのかねぇ)
内心呟きながら男性は鬱蒼とした森の中を進む。
上下ジャージにスニーカーと極一般的な格好とは裏腹に、背中にはアサルトライフル、手にはマークスマンライフル、上半身にはマガジンポーチがあるチェストリグを装着し、腰のベルトに拳銃が収まっているホルスターとナイフが収まっている鞘を提げていると、明らかに一般人のするような見た目じゃない。
俺の名前は『
んで、そんな俺がこんな場所に居る理由だが、話せば長くなる。
その日は大学の講習を受けて帰宅途中だった。横断歩道の信号が青になって横断歩道を歩いていたら、猛スピードで走って来る車が俺に向かってきた。それに気付いた瞬間俺の意識は失われた。それからしばらくして俺は真っ白な空間に居た。そこで自らを神と名乗る女性が現れて、俺が交通事故で命を落としたことを伝えられる。ちなみにその車はコンビニで強盗をして車で逃走中の強盗犯が運転していたそうだ。
その後俺にとある能力とスキルをつけて異世界に転生させられて、現在に至る。
俺は深くため息を付いて大木の根元に座り込み、傍にマークスマンライフルを置く。
あの日以来全くと言っていいぐらい人を見ていない。その代わり魔物には飽きるほど遭遇しては戦闘を交えている。まぁそのお陰でレベルが大分上がったんだけど。
(冗談抜きで誰にも会わずに二度目の人生が終わりそうだな……)
そう内心で呟きながら背中に背負っているアサルトライフルを手にして、マガジンを外して各所の確認を行う。
俺が持っているのは『AK-103』と呼ばれるアサルトライフルで、AK-100シリーズの中でAK-47と同じ7.62×39mm弾を使用する型だ。
何で日本人の俺がモノホンのアサルトライフルを持っているかというと、これは神が与えた『武器召喚能力』で、古今東西各種様々な武器を召喚できる能力だ。そして召喚できる武器は自由自在にカスタマイズが可能である。
このAK-103もレシーバー上部とハンドガード上部にピカニティーレールを追加して、レシーバー上部に4倍率のドットサイトを取り付け、ハンドガード下部ごと交換してUBGL-M6と呼ばれるM203のようなアンダーバレル式グレネードランチャーを装着している。あとセレクターの形状を変更して右手の親指だけでも操作できるようにしている。
内部も大きく改良して、ライフリングの改良を行って射撃精度を向上させている。
確認を終えた後マガジンに排出した弾を押し込んで挿入口にマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込むと、セーフティーを掛けてから銃床を折り畳んで背中に背負い、傍に置いてマークスマンライフルを手にする。
『ツァスタバM76』と呼ばれるこの銃はユーゴスラビアのツァスタバ・アームズ社がAK-47をベースに設計したマークスマンライフルだ。旧ソ連の『ドラグノフ狙撃銃』とコンセプトは同じだが、設計が元となっているAK-47と酷似した形状になっているのも特徴的だ。使用弾薬は当時ドイツ製の武器の製造設備を利用していた関係上で、7.92×57mmモーゼル弾を製造していたので、それを使用していた。だが、輸出目的で東側で一般的な7.62×54mmR弾や西側で一般的な7.62×51mm NATO弾仕様の個体も作られた。
その中でも7.62×54mmR弾仕様のやつで、ライフリングを改良してより射撃精度を向上させたりしたカスタムモデルを召喚している。
マガジンを外してコッキングハンドルを引いて弾薬を排出してから、各所の動作を確認した後、抜き取った弾薬をマガジンに押し込んで挿入口に前端を引っ掛けながら挿し込む。
(さて、これからどうするかねぇ)
首の後ろで両手を組んで木にもたれかかって木々の葉っぱの間から見える空を眺めながら内心呟く。
(……そういや、あいつら、元気かな)
俺の脳裏には二人の男女の姿が過ぎる。
男子の方は小さい頃からの幼馴染で、同じミリオタだったので、かなり仲が良かった。高校までいっしょだったが、大学が別々になったので最近は見ていない。
女子の方は父親の仕事の都合でドイツから日本に来た子で、男子と同じ幼い頃からの幼馴染だ。中学卒業後に親の都合で生まれ故郷のドイツに帰る事になってしまい、しばらく会っていない。
二人が元気かどうか気になったが、もう二度と会えないんだ。気にした所で、どうしようもない。
「……」
「っ?」
俺は何かを感じ取ってか、反射的にツァスタバM76を手にして立ち上がり、ツァスタバM76を構える。
(なんだ……)
不安が胸中を渦巻き、ツァスタバM76の安全装置を外して周りを見渡す。
「……」
俺は目を瞑り、スキル『五感強化』を使い、聴覚を最大限強化して音を聞き分ける。
小鳥の囀る声に風に吹かれて揺れる葉っぱや水の流れる音がする中で、泣きじゃくる声が耳に入る。
「っ!」
俺は考えるより先に声がした方へと走り出し、茂みを押し退けながら森の中を突き進む。
しばらく走って茂みが開けると、大きな大木が一本聳え立っている開けた場所に出る。
出た瞬間視界に入ったのは、5匹のゴブリンと大きな木の根元に追い詰められ泣きじゃくりながら怯えている少女の姿があった。
(不安の原因はこれか)
内心で呟きつつ素早くその場に伏せ、ツァスタバM76の銃口を前へと向けてスコープを覗く。
ゴブリンたちは逃げる事もできず木に背中をくっつけている少女へとじりじり歩みを進める。
(向こうはまだこっちに気付いていないな)
少女に意識が集中している為か、ゴブリンはこっちに気付いた様子は無い。
「……」
呼吸を浅く整えつつ銃身のブレを押さえ、少女に当たらないように右斜め後ろのゴブリンの頭に狙いを定め、引金に指を掛けてゆっくりと引く。
銃声と共にマズルフラッシュが閃き、
放たれた弾丸が一直線にゴブリンの後頭部に命中して、そのまま内部を衝撃で破壊しながら突き進んで額から中身と血と共に突き出る。
突然仲間の一人が血を撒き散らして倒れ、聞いた事が無い銃声にゴブリン達は動きを止めて辺りを見回して攻撃した主を探す。
その間に左斜めの鉈を持つゴブリンに狙いを定め、引金を引いて弾を放って頭を撃ち抜く。
次に中央のゴブリンの胴体に狙いを定めて引金を引き、ゴブリンの胴体に風穴が開いてそのまま前のめりに倒れる。
続けて隣のゴブリンの頭に狙いを付けて引金を引いて弾を放ち、弾は直撃と同時にゴブリンの頭半分を吹き飛ばす。
最後の一匹となったゴブリンは後ろを向いてようやく俺の存在に気付くも、振り向いた瞬間に俺は引金を引き、銃声とマズルフラッシュを共に弾が放たれ、ゴブリンの額に命中して直後に後頭部が弾けて弾丸が突き抜ける。
「……」
深く息を吐き出し、ツァスタバM76を収納して背中に背負っているAK-103を手にして折り畳んでいた銃床を展開して親指でセレクターをセミオートの位置に動かして立ち上がり、周囲を警戒しながら少女の元へと駆け寄る。
「君、大丈夫か?」
「……」
少女は突然の事に呆然としており、俺が目の前に来ても気付いた様子を見せない。
まぁ、ゴブリンに追い込まれて絶望的な状況の中で突然大きな音がしたかと思ったらゴブリンたちが次々と死んでいくのだから、無理も無いか。
(この子……エルフか?)
目の前まで来て分かった事だが、少女の耳は長く、若干上を向いて先が尖っている。
腰の位置近くまで伸びた若干青味を帯びた銀髪を根元から纏めたポニーテールにして、瞳の色はサファイアの様に透明な青い碧眼をしている。
見た目の年齢は15から17ぐらいだが、もしエルフなら外見年齢はあてにならないだろう。
まぁそれは兎に角として、足や腕にはゴブリンから逃げる際に出来たのか擦り傷が薄くいくつか出来ているが、それ以外で特に目立った怪我は見当たらない。
(にしても……)
俺はエルフの少女の格好を見て、思わず内心呟く。
結構温かい温度なので分からんでもないんだが……妙に露出が多い格好しているよな。
(それに、デケェな。あぁホント、デケェな)
大事な事だからry……。まぁ、結構スタイルが良いとだけ言っておこう。しかも恰好が恰好だからそれを強調していた。
「……っ!」
するとようやく俺の存在に気付いたのか、少女はハッとして目を見開く。
「怪我は、無いみたいだな」
「え、あ、あ……」
まだ状況がのみ込めないのか、うまく声を出せないで居る。
「もう大丈夫だ。立てるか?」
声を掛けつつAK-103を傍に置いて少女に手を差し出す。
「……」
少女は何度も瞬きをし、戸惑いながらも手を差し出す。
「っ!う、後ろ!」
「っ!」
しかし俺の手を取る直前に少女は叫び、俺が後ろを振り向くと胸に風穴が開いたゴブリンが口から血の混じった唾液を撒き散らしながら俺に襲い掛かってきた。
咄嗟なことに俺は対応しきれず押し倒され、ゴブリンが上に圧し掛かる。
「コイツっ!?」
両手の鋭い爪で俺を切り裂こうと振り下ろすが俺はとっさにゴブリンの両腕を掴んで阻止する。
(胸撃たれているのに生きているのかよ、クソッ!!)
しぶとい生命力に驚愕して内心で悪態を付くと、掴んでいるゴブリンの腕を引っ張ってゴブリンの顔面に頭突きをぶつける。
頭突きを喰らったゴブリンは一瞬仰け反り、俺は続けて左腕を横に振るってゴブリンを右へと倒すと、すぐに立ち上がって腰のホルスターより『Cz75 SP-01』を抜き出してスライドを引き、ゴブリンの頭に向けて引金を連続二回引き、2発弾を叩き込む。
「きゃぁっ!?」
少女は銃声と言う大きな音にびっくりして耳を塞ぐ。
2発の弾丸を頭に叩き込まれ、ゴブリンは痙攣した直後に動かなくなる。
「……はぁ」
深くため息を付いて、Cz75 SP-01の銃口を下ろす。
(……慢心だな)
内心で呟き、今度こそ息絶えたゴブリンを睨む。
強力な武器を持って居ると言う安心感があって前に出てしまったが、その武器を持ってしても確実に殺し切れなかった。
こうもしぶといと確実に仕留めなければならないな。
それと、武器は戦いが終わるまで手放したらいかんな。
(これは苦労しそうだ)
先の事が思いやられる……
「っ!?」
すると突然右腕に激痛が走り、痛みの余りCz75 SP-01を手放す。
「ぐぅ!?」
思わず左手で激痛がする右腕の箇所を押さえると、棒状の何かと濡れた感触がして右腕を見ると、一本の矢が腕に突き刺さっており、刺さっている箇所から血が流れ出ていた。
顔を上げると、視線の先には新たにゴブリン2体の姿があり、その内一匹が弓矢を構えている。
「くそっ!まだ居たのか!!」
矢をそのままにして痛みに耐えながら俺はAK-103を拾い上げ、とっさに構えて引金を引き、銃声と共に弾が銃口より放たれる。
「っ!?」
しかし矢が刺さったままの右腕に衝撃はかなり響き、激痛が右腕全体に伝わる。
弾は弓を持っているゴブリンの右手から腕を貫通して粉砕する。
「ぐ、うぅ……」
腕の激痛に耐えながらも俺はAK-103を構えて、ドットサイトで狙いを着ける。
腕を壊されたゴブリンはその場に倒れてもだえ苦しみ、もう一匹は棍棒を振り上げてこっちに向かって来る。
「……」
向かって来るゴブリンに狙いを付けようとするも、腕が震えて照準が定まらない。
(くそっ……狙いが、付けられねぇ)
出血のせいか視界が若干ぼやけて、更に狙いが付けづらくなっている。
何とか狙いを付けて引金を引いて銃声とマズルフラッシュと共に弾が放たれるが、向かって来るゴブリンではなく後ろで悶え苦しみ一瞬頭を上げたゴブリンの頭を撃ち貫いて命を刈り取る。
狙いをつけようとするが、腕に力が入らずついには銃から手を離してしまう。
「くっ…・・・」
俺は落としたAK-103を左手で持って銃床を脇に挟み、ゴブリンに向けて引金を引く。
しかし利き手じゃない上に強力な反動で狙いが定まるはずもなく、弾はゴブリンの周囲の地面に着弾する。
それでゴブリンの動きは鈍るも、3発目からは気にする事なく向かって来る。
連続して引金を引いて弾を放つが、遂に最後の一発も放つも弾はゴブリンに掠りもしない。
「くっ!」
俺は弾切れになったAK-103を手放して、腰のベルトに提げている鞘からナイフを手にする。
その直後背後から銃声がして、向かってきて居たゴブリンの頭に穴が開いて前のめりに倒れる。
「っ!」
俺は後ろに振り向くと、さっき落としたCz75 SP-01を震える手で持って構えているエルフの少女の姿があった。
「な、何……?」
驚いている間にエルフの少女は手にしているCz75 SP-01を捨てて俺の元へと駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。まぁ、見ての通り、だな」
俺は矢が刺さったままで血だらけの右腕を見せるとエルフの少女は息を呑む。
「……」
エルフの少女は深呼吸をしてから腕に刺さっている矢を掴み、確認の為にか俺を見る。
俺は肯定の意として縦に首を頷く。
「……」
掴んでいる手に力を入れ、思いっ切り引っ張って鏃を引き抜く。
「っ!!」
激痛が走って意識が飛びそうになるも俺は何とか耐える。
「ジッとしてください」
エルフの少女は矢を捨てると出血している腕の傷口に両手を当てる。
「癒しの光よ、この者の傷を癒したまえ」
そう言うと両手から青い光が発せられ、次第に腕から痛みが引いていく。
しばらくして光が収まる頃には痛みは無くなり、矢が刺さっていた箇所には殆ど傷が残っていなかった。
(すげぇ。さすがファンタジー)
内心呟きながらエルフの少女を見る。
「ありがとう。助かったよ」
「ど、どういたしまして」
エルフの少女は照れながらも頭を下げる。
その後俺は少し休んでから落としたAK-103とCz75 SP-01を拾い、弾を補充してからそれぞれホルスターに戻してエルフの少女の元へ戻る。
「ところで、一つ聞いていいか?」
「は、はい」
少し慌てた様子でエルフの少女は俺の方を向く。
「どうしてこんな所に一人で?」
「それは……」
少女は答えることに躊躇いを見せる。
「さっきのゴブリンもそうだが、ここが危険な所だって言うのは分かっていたんじゃないのか?」
「……」
エルフの少女は悩んだ末に、左手に握っている草の束を見せる。
「それは?」
「……村に、昔から伝わる薬草。これに他の薬草と調合すれば、どんな病気も治せる薬になるの」
「誰か重い病気に掛かっているのか?」
「お母さんが、流行病に」
「そうか」
危険を冒してでも母親の為に……ええ子やん。
内心で似非関西人みたいな言い方で呟きながらもAK-103を持って立ち上がる。
「じゃぁ、俺が君を村まで護衛するよ。ちょうど人が住んでいるところを探していた事だし」
「え、あ……お、お兄ちゃんが?」
「……お兄ちゃん?」
突然そう呼ばれて俺は戸惑う。
「えぇと、まだ名前聞いてなくて、どう呼んだらいいのかなぁって」
苦笑いを浮かべながら少女はそう言う。
「そういやまだ言ってなかったな」
だからと言って、お兄ちゃんって。いやまぁ、おじさんって呼ばれないだけ良い方なんだろうけど。
若いのにおじさん呼ばわりは地味に傷付くよ? 親戚の小さい子からはおっちゃんやおじさん呼ばわれだし。
「俺の名前は沖田士郎って言うんだ」
「オキタシロウ?変わった名前ですね」
「あー、沖田が名字で、士郎が名前な」
「そうなんですか?」
「あぁ。そんなに珍しいか?」
「は、はい。あんまり聞いた事の無い響きでしたから」
「ふむ」
「あっ、私はエレナって言います」
「エレナか。いい名前だな」
そう言うとエレナは顔を赤くする。
「それで、エレナ。村は近いのか?」
「は、はい。すぐそこってほど近くは無いけど、遠くも無いよ」
「そうか。それなら早速行くか。またあいつらに襲われちゃたまらんからな」
「そ、そうだね」
エレナは少し慌てた様子で歩き出し、俺はその後を周囲を警戒しつつ付いて行く。
これが、俺と彼女との初めての出会いであった。