「大分の距離を走ったな」
「あぁ。この先にある森を抜ければトリスタ要塞がある」
朝日が昇って周囲が明るくなってから俺達は国境線を目指して高機動車改を走らせ、現在は川の近くに高機動車を止めて休憩していた。
フィリアとリーンベル、セフィラは川の水をいくつか用意した水筒に汲んで溜めており、俺とユフィは大分遠い先にある森を見ながらその向こうにある要塞の事を話す。
「それで、どうやって要塞を抜ける?」
「そのまま通る、のはさすがに虫が良すぎるな。最初の門を抜けたとしてもどうしてもで中で止められてしまうだろう」
「まぁそうだろうな。ユフィ達はよくても、俺で必ず止められるからな」
彼女達は騎士団の人間として止められる事は無いだろうが、部外者で尚且つ商人でもない一般人の俺は必ず止められる可能性が高い。
まぁこのまま高機動車改で行くと確実に怪しまれて止められるだろうがな。と言っても止められても事情聴取だけで済めばいいんだが、なるべくそこで時間を食いたくないんだよな。
(危険は伴うが、ヘリで飛べたら楽なんだけどなぁ)
飛行型魔物に襲われると言う危険性は伴うが、そうすればそれ以外に面倒ごとを起こさず山脈を突破できてエストランテに入る事が出来るのだが、無い物を強請っても仕方が無いか。
「最悪、要塞を強行突破しないといけないかもしれないな」
「……」
まぁそうなっても、要塞を突破できる力はある。
「そうなると、君達にも銃を使って戦わなければならない」
当然そのまま何も起こらずに突破できるとは思っていない。十中八九戦闘は起こるだろう。そうなれば、確実に―――
「分かっている。だからこそ、キョウスケ殿から銃の扱いを学んだのだ」
「……」
「覚悟は決めている。もちろん、他のみんなも」
「そうか」
俺は顔を後ろに向けて川の水を水筒に汲んで飲んでいるフィリア達を見る。
(みんな覚悟を決めているのに、俺だけ決めないわけにはいかないよな)
それに、これからそういう場面が増えてくるだろうし。だから、殺しに……殺シニ、慣レナイトイケナイト―――
「キョウスケ殿?」
「……いや、何でも無い」
ユフィの声に俺は一瞬沈みそうになった意識が戻り、俺はそう言って高機動車改の元へと歩くと、メニュー画面を開いて弾薬を確認する。
(何だろう。一瞬何かが……)
俺は言い知れぬ恐怖に冷や汗を掻く。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さてと、そろそろ行くか」
俺は自分の89式小銃のスリングに腕を通して背中に背負いながら言う。
「そうだな。運転は私に任せてくれ」
俺が声を掛けるとユフィが運転手を名乗り出る。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。少なくとも、他のみんなよりかはな」
『……』
「……」
ユフィの言葉にフィリア達は視線を逸らし、俺は苦笑いを浮かべる。
4人の中で運転が大分マシなのはユフィだけで、他はどうも任せられるほど安定した運転が出来ないのだ。正直乗り合わせた時はとてつもなく不安でいっぱいだった。
免許を取ったばかりの子供が運転する車に同乗する親の気持ちが分かった気がする。
「それじゃぁ任せるよ。俺はキャリバーに着く」
俺は高機動車改の後ろの扉を開けて中に入ると、屋根のハッチを開けて銃座に着き、12.7mm重機関銃M2のコッキングハンドルを二回引いて初弾を薬室に送り込む。
フィリア達も高機動車改に乗り込んで最後に乗り込んだリーンベルが扉を閉めると、それぞれ銃器を手にすると窓を開けて銃身を外に出して臨戦体制を取る。
ユフィも運転席に座ってエンジンキーを回してエンジンを始動させる。
「準備はいいな?」
「えぇ」
「あぁ」
「はい!」
「はい」
「よし。じゃぁ――――っ!」
俺は周囲を確認しつつみんなに準備が出来ているか確認して返事を聞いている中、俺はとっさに空を見上げる。
雲がちらほらとある青い空が広がった晴れた天気だったが、その空に黒い影が4つほど見えた。
が、その黒い影が徐々に大きくなっていた。
「あれは……っ!?」
やがてその影のシルエットがハッキリと見えるようになり、俺はハッとする。
「ユフィ! すぐに出せ!!」
俺は屋根を叩きながら叫ぶ。
「きょ、キョウスケ殿!?」
「何かが来ている! 早く!!」
「っ!」
ユフィは最初こそ驚きの声を出していたが、俺の慌てっぷりから尋常じゃないのを感じ取ってかすぐにアクセルを踏んで高機動車改を走らせる。
「キョウスケ! 一体何が……!?」
助手席の窓からフィリアが顔を出して俺に問い掛けるが、その視線の先に映る影を見て目を見開く。
するとその影が高機動車改の上を猛スピードで通り抜けると、高度を上げる。
「まさか、飛竜!?」
『っ!?』
その影の正体は飛竜に騎士が跨った竜騎兵であると気付いたフィリアが驚きの声を上げるとユフィ達は目を見開き、それぞれ窓から顔を出すかサイドミラーを見て飛竜の存在に気付く。
「そんな!? どうして竜騎兵がここに!?」
「まさか、付けられていた!?」
「……」
現れるはずが無い竜騎兵の登場に彼女達は驚きの声を上げる。
彼女達が知る由も無かったが、恭祐たちが逃げた後アレン達は彼らを追跡と付近の村や町へと連絡を入れる為に二手に分かれて行動した。その時連絡班が偶然にも哨戒中だった竜騎兵を見つけて合流し、話を聞いた竜騎兵がすぐさま拠点としている街やトリスタ要塞へと向かったのだ。
その為、恭祐達の想定よりも早く事態が動き、要塞の周囲を哨戒していた竜騎兵が恭祐達を見つけたのだ。
「疑問は後だ! 迎撃用意!!」
俺は12.7mm重機関銃M2を飛竜に向ける。
飛竜は全部で3体おり、上空を旋回しながら俺達を追いかけていた。
俺は12.7mm重機関銃M2を飛竜に向けようとするが、相手の位置が悪かった。
「くっ! 少し仰角が足りないか!」
飛竜は高機動車改のほぼ真上に位置して旋回しているため、ギリギリ12.7mm重機関銃M2の仰角範囲外に居た。
すると飛竜の一体が急降下してこちらに向かって来る。
「右に曲がれ、ユフィ!!」
ユフィは指示を出したと同時に右へとハンドルを切って高機動車改が右へと向きを変えると飛竜は左側を通り過ぎる。すぐさま俺は12.7mm重機関銃M2を向けてトリガーを押し、左側の窓からリーンベルが5.56mm機関銃MINIMIを、助手席の窓からフィリアが89式小銃を出して射撃を行う。
「くっ! 速い!」
俺は飛竜に12.7mm重機関銃M2を向けながら射撃を行うが、予想以上に相手が速く弾が当たらなかった。
飛竜が高機動車改の反対側に出ると窓から7.62mm機関銃M240Bを出しているセフィラが射撃を開始し、飛竜を牽制する。
続けて2体目が急降下して高機動車改に迫るが、俺はすぐにユフィに左に曲がるように指示を出してユフィはすぐに左にハンドルを切って高機動車改を左に向けて走らせる。
高機動車改の右上で上昇する飛竜だが、俺が12.7mm重機関銃M2を向けて牽制し、左へと向かうとフィリアとリーンベルが射撃を始める。
よく見ると曳光弾混じりの弾は飛竜に命中こそしているが、5.56mmや7.62mmの弾丸は飛竜の硬い体表に弾かれている。見た目どおりに硬いみたいだな。
「……」
俺は動き回る飛竜の動きを観察しつつターレットを回し、12.7mm重機関銃M2を向ける。
そして飛竜が俺の予想した針路上に入った直前に俺はトリガーを押し、爆音と共に12.7mmの大口径弾が放たれる。
放たれた弾は数発外れも、飛竜の硬い体表を砕いて貫通する。
飛竜は血を吐き出してバランスを崩して墜落し、飛竜に跨っていた竜騎士は先に高い高度から落ちて先に地面に叩きつけられ、遅れて飛竜も地面に叩きつけられる。
(12.7mmなら貫通するみたいだな)
通じなかったらどうしようかと思ったが、杞憂に終わったな。
俺は上空を見上げて残りの飛竜を見る。
残った2体の竜騎兵は一体落とされたことで警戒しているのかこちらに接近しようとする素振りを見せなかった。
俺は飛竜2体に12.7mm重機関銃M2を向けてトリガーを押し、弾を放って飛竜を牽制する。
しばらく撃つと弾薬が切れて空になった弾薬箱を手にして車内に放り込むとベルトで固定されている弾薬箱をベルトを外して蓋を取って持ち、弾薬箱受けに置いて12.7mm重機関銃M2の機関部上部のフィード・カバーを開けてベルトリンク先端をセットしてフィード・カバーを閉じてコッキングハンドルを引く。
そうしている間に高機動車改は森の中へと入り、広々とした中を突き進む。
(このまま撤退してくれればいいんだが……)
視界が遮られている以上、追跡は困難になるはずだが、こちらはフィリアをつれているのだ。さすがにそれは虫が良すぎるか……。
そんな事を内心で呟いていると、木々の隙間から覗く飛竜の閉じている口から光が漏れ出す。
「ん?」
異変に気付いて首を傾げるが、直後にハッとした。
「ユフィ! 避けろ!!」
「っ!」
俺は車内に戻って大声で叫び、それを聞いたユフィはすぐにハンドルを左に切って高機動車改を左へと走らせると、さっきまで走っていた場所に何かが落ちて爆発する。
「くっ!」
爆風で激しく揺られる中俺は見上げると飛竜の口から炎が僅かに漏れ出していた。
「フィリア! 飛竜って火を吐くのか!?」
「えぇ! ドラゴンより威力は無いけど人を木っ端微塵に出来るほどの威力はあるわ!!」
俺は彼女に聞くとフィリアは大声で答えた。
「マジかよ……」
下手すると高機動車改でも木っ端微塵になるな。と言うかこんな所で火を使うって、正気かよ。こっちにはフィリアが居るって言うのに。
(俺達の手に陥るぐらいなら殺しても構わないってか!!)
俺は右手を握り締める。
すると飛竜は間隔を開けて火球を放って来て高機動車改の周囲に落下して爆発を起こす。
(くそっ! こっちの攻撃範囲外だからって一方的に!!)
爆風で揺られる中俺は内心で愚痴りながら開けたハッチから火球を吐く飛竜を睨み付ける。
「キョウスケ様! どうするんですか! このままじゃ!」
弾薬を交換しながらリーンベルが悲痛に叫ぶ。
「分かっている! このままやられるつもりは無い!」
俺はメニュー画面を開いてとある武器を選択してそれを召喚すると、俺の両手にそれが現れる。
一見すれば筒状の物体とも言えるそれは『91式携帯地対空誘導弾』と呼ばれる日本で開発され自衛隊で採用されている国産の
すぐにシーカーの冷却を開始し、右肩に担ぐ。
「ユフィ! 少しの間時間を稼いでくれ!」
「どうするんだ!?」
「こいつで飛竜を撃ち落す!」
俺は銃座へと戻ると、直後に火球が傍に落下して爆発し、熱い風が俺に襲い掛かって左腕で顔を覆う。
ユフィはハンドルを切って飛竜二体が吐く火球をかわし続けて山の緩やかな斜面を登る。
セフィラは右から追ってくる飛竜に7.62mm機関銃M240Bを向けて引金を指切りで引いて3点バーストの様に弾を放って牽制する。
「キョウスケ!」
すると銃座にフィリアが助手席から移動して少し無理矢理入ってくる。
「フィリア!?」
「私がこれを使うから! キョウスケはそれを!」
「あ、あぁ。分かった!」
フィリアは12.7mm重機関銃M2に着くとトリガーを押して射撃を開始する。
飛竜は12.7mm重機関銃M2の銃声に接近を止めて距離を取ろうと下がる。俺はその間に91式携帯地対空誘導弾をもう一基召喚して立て掛ける。
そしてシーカーの冷却が完了してロックオンが可能となる。
「よし!」
俺は91式携帯地対空誘導弾を構え、TV画像シーカーに飛竜の一体を捉えると電子音と共に飛竜にロックオンする。
「吹っ飛べ!」
引金を引くと、ミサイルがブースターで発射管から飛び出して空中でロケットモーターに点火して勢いよく飛び出す。
白い煙を引いて飛んで向かって来るミサイルに竜騎兵は驚いて急旋回してかわそうとするが、その程度ではな!
ミサイルはまるで意思があるかのように急旋回する飛竜に向かって針路を変えて追いかけ、飛竜に命中して竜騎兵諸共粉々に粉砕する。
「よし!」
俺はガッツポーズをして撃ち終えた発射管を消す。
正直生物の飛竜をロックオンできるか不安だったが、杞憂に終わったな。
「さて、残りは」
立て掛けていたもう一基を手にしてシーカーの冷却を始める。
(にしても……)
俺は完全に警戒して接近しようとしない残り一体の飛竜に狙いを定めながらふと疑問が頭の中に浮かぶ。
(確か飛竜は4体居たような……)
最初に目撃した影は4つだったはず。だが、襲ってきたのは
(待てよ。じゃぁ残りの一体は……)
疑問が脳裏を過ぎった瞬間、一瞬影が通り過ぎて俺はとっさに前方の空を見上げる。
そこには岩陰から飛び出て来て急降下してくる飛竜の姿があった。
「っ! フィリア!!」
俺は彼女を無理矢理車内に押し込むと、直後に左肩から鋭い痛みが全身に走り、車内へと倒れ込む。
「キョウスケ!?」
突然車内に押し戻されてフィリアは何事かと思ったが、直後に恭祐が倒れてくる。
「どうしたの!? 一体何が――――」
すぐに彼の肩に手を当てるが、その瞬間ヌチャリと生暖かい感触が彼女の手に伝わる。
「え?」
フィリアは肩を置いた手を見ると、掌には赤い血が付着していた。
恐る恐る恭祐を見ると、彼の左肩が裂けてそこから血が流れ出ていた。
「キョウスケ様!?」
異変に気付いたリーンベルはすぐにキョウスケの傷口を見る。
「くっ!」
セフィラは7.62mm機関銃M240Bを手放してすぐに銃座に着くと12.7mm重機関銃M2を空に向けて放つ。放たれた弾は先ほど急降下した飛竜とそれに跨る竜騎兵に命中してバラバラに粉砕される。
「キョウスケ! しっかりして!」
「う、うぅ」
フィリアが声を掛けると恭祐は苦しげに声を漏らす。
「一体何があったの!?」
「飛竜だ。一体が急に岩陰から現れたんだ!」
運転しながらユフィが答えた。
「そんな。まだ居たの?」
「お、恐らくあいつら、一体を先回りさせて、いたんだ」
「先回り?」
「あぁ。最初に見えた影は、4つだった。だが、襲ってきたのは3体だ」
「っ!」
「くそっ」
俺は左肩からする激痛に耐えながら立ち上がる。
「キョウスケ様! その傷では!」
「この程度、大丈夫だ」
俺はセフィラと交代して91式携帯地対空誘導弾を担いで銃座に戻り、点検をして異常が無いのを確認する。
シーカーの冷却は終えており、ロックオンすればいつでも発射できる。
「……」
しかし激痛や別に何かからか91式携帯地対空誘導弾を担いでいる腕は震え、支えている左腕に力が入らずうまく照準が定まらない。その上残った飛竜は派手に動き回っている為に余計に定まらなかった。
(くそっ。時間を取られるわけには……)
このままやつを逃がせば俺達が要塞の近くまで来ているという事を知られてしまう。そうなれば要塞から騎士の大群が押し寄せてくるなど予想は容易い。
「キョウスケ」
すると震えている右手と力が入らない左手に手が添えられる。
「……っ?」
俺が声がした方に顔を向けると、フィリアが91式携帯地対空誘導弾を持つ俺の手に自分の手を添えて支えていた。
「私が支えてあげるから、それで狙える?」
「……あぁ」
彼女に支えてもらっているお陰で震えが止まり、飛竜を狙いやすくなった。
……最も、ちょっと狙いづらくなったかもしれないが。
(こんな時に意識するなよ……)
俺はある感触に戸惑い、微妙な心境だった。
現状を説明すると、91式携帯地対空誘導弾を担いで構えている俺にフィリアが寄り添って支えているのだ。その上銃座は狭いから、必然的に彼女の身体が密着しているわけで。
まぁつまり何が言いたいのかと言うと、彼女のご立派なアレが身体に押し付けられているのだ。気になってしょうがない。
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、TV画像シーカーに残った飛竜を捉え、電子音と共にロックオンが完了する。
「あばよ」
引金を引くと、ミサイルがブースターで発射管から飛び出して空中でロケットモーターに点火して勢いよく飛び出す。
飛竜は向かって来るミサイルに気付いてすぐにかわそうとするも、俺は91式携帯地対空誘導弾を車内に押し込んで12.7mm重機関銃M2に着き、フィリアが支えて射撃を開始する。
竜騎兵は弾が傍を通った音に驚いて動きを鈍らせるが、その間にミサイルが一直線に飛竜に向かって行き、ついに命中して爆散する。
「……やったぜ」
俺は思わずニヤリとするが、直後に左肩から思い出すかのように激痛が走り、後ろに倒れそうになるがフィリアが支えて倒れるのを防ぐ。
「大丈夫?」
「あ、あぁ。なんとかな」
とは言っても、このまま放って置けるほどの軽い痛みじゃないんだけどな。それに、ちょっと痺れが出てきた。
「ユフィ!」
「分かっている!」
ユフィは返事を返すとハンドルを切って下り坂へと向きを変えて下りる。
「……」
一抹の不安が胸中に渦巻き、俺は空を見上げた。
(こいつは、かなり面倒な事になりそうだな)
内心呟きながらこれから起こりうる状況を想像する。
――――ッ♪
レベルが30に上がりました。
車輌召喚項目に『装輪装甲車』がアンロックされました。