異世界ミリオタ転生記   作:日本武尊

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プロローグ2

 

 

 

 

 

 温かい感覚が身体全体を包み込み、冷たくなっていた身体に温もりが戻っていく。

 

 

「……」

 

 そして意識が次第に覚めていき、ゆっくりと目を開ける。

 

「う、うぅ……」

 

 やけに重たくなった身体を両手を床につけてゆっくりと起こし、その場に座り込む。

 

「いってぇ……」

 

 ズキズキとする頭痛に頭を押さえて周囲を見渡す。

 

 と言っても真っ白な光景が全体に渡ってあるだけで、それ以外には何も無かった。

 

「どこなんだ、ここは?」

 

 首を左右に振りながら、ズキズキと頭痛がする中で必死に思い出す。

 

 確か部屋で動画を見ていて、その途中で義妹のアヤから誕生日を祝う電話が来て、近い内に手料理を振舞う為にこっちに来ると言う事を伝えて電話を切った。

 その後再びパソコンの方に目を向けた直後に、頭痛が一瞬して視界が暗くなってキーボードが迫ってきたのが記憶にある最後の光景だ。

 

 そして今に至る。

 

「一体、何があって――――」

 

 ふと俺はある推察が脳裏を過ぎる。

 

「俺は……もしかして、死んだのか?」

 

 思わず口走った言葉にゾッとする。

 

 ここが俺の部屋じゃないのは明確な事だし、最後の記憶からすると、その推測しか思い浮かばない。

 

「い、いや!これは夢だ!夢なんだ!」

 

 俺は自分に言い聞かせるように叫び、目を覚ませようと頬を強く抓る。

 

「っ!」

 

 強い痛みがして俺は涙目になる。

 

 お陰で目が覚め、抓った箇所を擦りながら周りを見渡すも、景色に変化は見られなかった。

 

「嘘、だろ……」

 

 自分で言っておきながら、絶望的な状況に俺は呆然となる。 

 

 

 

「残念だが、これは紛れも無い現実だ」

 

 と、後ろから声を掛けられて俺は後ろを振り向くと、そこには白い軍服調の衣装を身に纏い、その上から白いコートを羽織る男性が立っていた。

 

「あ、あんたは?」

 

「君達人間から見れば、神と言うべき存在だな」

 

「か、神様?」

 

 思わず疑問のある声が漏れるが、俺の心中を察してか神と名乗った男性はため息を付く。

 

「まぁ信じられないのも無理ないか。こんなわけの分からない状況に放り込まれた上に神と名乗った女性(・・)が現れたのだから」

 

「そりゃ、まぁ……ん?」

 

 ふと俺は首を傾げる。

 

「今、何て?」

 

「分かりやすく言ったのだがな。神と名乗った女性が現れた。これでどうだ?」

 

「え?い、いや、ちょ、えぇ?」

 

 この神様女性なの?

 

「そうだが?一応神様でも、男性女性はある。まぁ正確には無いんだが」

 

 どっちやねん

 

「気分の問題だ」

 

「は、はぁ」

 

 色々と面倒くさいんだな

 

「まぁ、こんな身なりだが、私はちゃんとした女性だぞ」

 

「……」

 

 まな板な上に男装しているじゃ分からん

 

「無くて悪かったな」

 

「……」

 

「まぁいい。さてと、君も先ほど察しているはずだ。君の今の状況と、ここがどこかがな」

 

 男性もとい女性は仕切りなおして俺に問い掛ける。

 

「……」

 

 その言葉で俺は確信を得り、表情から察してか女性は肯定する。

 

「そう。ここは死後の世界。正確にはその一歩手前の場所。まぁ三途の川と言った所か」

 

「三途の川……じゃぁ、まだ生き返るチャンスがあるのか?」

 

 俺は一瞬希望を抱くが、女性が首を左右に振ってそれは崩れ去る。

 

「残念だが、生き返っても僅か数分しか生きていられないような状態になっている。生き返っても無駄だ」

 

「……」

 

 女性の言葉に俺はうな垂れて視界が下を向く。

 

「俺は、何で死んだんだ?」

 

「突発的な脳内出血による脳死だ。君はこれで死ぬように最初から定められていた」

 

「創作でよくある神のミス、ってやつじゃないのか」

 

「あれはお前達人間が勝手に決めた想像だろ?神がミスするなどありえん」

 

「自信たっぷりだな」

 

「それしかない。大体神がミスするなど、天変地異級の異変が起きるものだぞ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ」

 

「……」

 

(まぁ、意図的に死なせた、と言う場合もあるがな)

 

「ん?」

 

「いや、何でも無い」

 

 女性は咳払いをして、俺に向き直る。

 

「本来なら魂は死後の世界に向かうのだが、なぜ君がここに居ると思う?」

 

「……?」

 

 俺は分からず首を傾げる。

 

 女性は軍帽の位置を直して、こう告げた。

 

「私の権限を使って、死後の世界に向かう途中の君の魂を私が引き止めたのだ」

 

「……」

 

「なぜと、思っているな」

 

 俺の心中を悟ってか女性は問い掛けたので、軽く頷く。

 

「……」

 

「まぁ、こう言ってしまってはあれだが、ただの気まぐれだ」

 

「……き、気まぐれ?」

 

「あぁ。たまたま君が私の目に入ってな。君を選んだのだ」

 

「適当でって……」

 

 えぇ……

 

 あまりのいい加減な理由に俺は呆れる。

 

「まぁ、理由はどうあれ、君には以前の世界とは違う、所謂異世界に転生させよう」

 

「異世界……」

 

「それと同時に君には色々と能力を付けよう。異世界でも生き残れるようにな」

 

「え、いや、ちょっと?」

 

 一瞬聞き捨てならないようなワードが聞こえたような気がするんだが……

 

「では、頼んだぞ」

 

 と、女性は右手から光の玉が現れて俺へと放り投げ、それが俺の頭の中に入ると突然意識が薄れ、やがて後ろに倒れる。

 

 

 

「……」

 

 女性は申し訳なさそうに俯くと、更に何かを操作するように右手を動かすと彼の身体が一瞬光り輝く。

 

「すまない。こんな、こんな事に関係の無い君を巻き込んでしまって」

 

 そう呟くと右手を横へと振るい、彼の居る場所に穴が開いてそのまま彼の身体は穴の中へと落ち、少しして穴が閉じる。

 

(だが、君達に頼るしかないのだ)

 

 目を瞑ってしばらく立ち尽くし、目を開いてから踵を返してその場を立ち去る。

 

 

「頼んだぞ」

 

 そう言って女性の姿はフッと消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は夢を見た。

 

 薄暗い中、私の周りには無数の魔物達が取り囲み、今にも私に襲いかかろうとしている。

 

 周りには信頼している仲間は居らず、武器も何も持っていない私だけだ。

 

 唐突な状況に私は最初理解できなかったが、すぐに理解する。

 

 あぁそうか。これは、私の置かれている状況なんだ……

 

 私は俯き、生まれた時から私を縛っている状況なんだと悟る。

 

 

 私は生まれた時から何もかもを両親に決められて、今日に至るまで生きてきた。疑問に思った事もあったが、疑問を頭から振り払って従った。それが自分の為なんだと、自分に言い聞かせて……

 でも、物心が付き、年を重ねるごとに両親のやり方に疑問を持ち出し、そして事実を知った。

 

 鳥篭に囚われた小鳥の様な、自由なんてない縛られた人生……この状況はその表れなのだろう

 

 

 どうして私には自由がないのだろうか。何で他とは違うのだろうか、と……そう何度も嘆く時もあった。

 

 このまま私には、自由なんてないのだろうか……

 

 

 そして私を囲う魔物達が私に襲い掛かろうと雄叫びを上げる。

 

 

 

 だがその瞬間、大きな破裂音がしたかと思うと魔物の一体が突然倒れる。

 

 私や魔物達が驚いている間に破裂音は連続して鳴り響いてはその度に魔物が倒れていく。

 

 そして私の前方に居た魔物達が全て倒されると、そこに一人誰かが立っていた。

 

 その人が手にしている物から一瞬光が瞬いたと思ったら同時に破裂音がして、その直後に魔物が倒れる。

 

 クロスボウの一種かと思ったけど、威力はもちろんだが、なにより貫く何かの速さが桁違いだ。

 あの武器は一体……

 

 しばらくして私を取り囲んでいた魔物達が全滅してその人は私の下へとやってくる。

 

 薄暗くて顔はよく分からなかったが、近くで見て緑や黒と言った斑点のような模様の格好で、体格から男性と思われるその人は周りを見てから左手を私に差し出す。

 

 私は一瞬と惑ったけど、不思議と疑問を思う事無くその人の手を取って立ち上がると、その人は私の手を引いてそこから走り出す。

 

 すると薄暗かった周囲が徐々に明るくなっていき、しばらくして前方に一筋の光が現れる。 

 

 

 しかし、その光景を見た直後に私は夢から覚めた。

 

 普段なら夢の内容などそれほど気にする事は無いのだが、今回は最後まで見れなかったのがとても惜しいような気がした。

 その後もこの夢の事が気になって、頭から離れなかった。

 

 でも、不思議といつかあの光景が現実のものになりそうな気がする。夢なはずなのに、とても現実味のあるような気がした。

 

 その時は分からなかったけど、後にその答えを知る事となった。

 

 

 この夢が、私の状況を一変させるキッカケになろうとは……

 

 

 

 


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