異世界ミリオタ転生記   作:日本武尊

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第十七話 想定外の展開

 

 

 

 

 辺りが暗くなり始めた頃に俺はブレン付近へと到着し、73式小型トラックを停車させてエンジンを止め、車から降りて89式小銃を手にしてスリングに腕を通して背中に背負うと、メニュー画面を開いて73式小型トラックを収納する。

 

「ハァ……」

 

 晴れない気持ちに深いため息を付き、俺はブレンへと入る。

 

 

 その後酒場へと向かい、冒険者組合に現状を報告して、明日に調査隊を送り込んでまだ続けるか終了かは調査結果次第となった。

 かなりの数を殺したはずだが、大量発生クエストでは氷山の一角所か一片ですらないかもしれないから、まだ続くだろうな。

 

 報告し終えて俺は空いたテーブルに着き、夕食を取った。

 

 

 

「……」

 

 夕食を食べ終えて酒場を出た頃には空はすっかり暗くなり、俺は宿へと向かった。

 

「……くそっ」

 

 俺は苛々のあまり悪態を付く。

 

 苛立ちは未だに解消されないどころか、更に強くなっていっているような気がする。

 

(何にイラついているんだ、俺は)

 

 自分が何に苛立っているのかが分からず、それが更に苛立ちを助長させていた。 

 

(前世ではこんなに長く苛立ちが続く事は無かったのに……。いや、こんなに苛立つ事すら無かったのに)

 

 深くため息を付き、立ち止まって空を見上げる。

 

「……」

 

 空には無数の星が広がっており、前世の空では見られないような星が輝いていた。

 

「……」

 

 顔を下げてため息を付き、再び歩き出す。

 

 

 宿のある場所へと向かう為、路地裏へと入って歩いていくと、向こうから歩いてきた冒険者達の一人と肩がぶつかる。

 

「ってぇな、おい! どこ見てんだよ!」

 

 その冒険者はふら付いた様子で俺を睨みつける。大分酒臭いところから見ると結構な量をついさっきまで飲んでいたんだろう。

 

「……悪かったな」

 

「あぁん!? 何だその謝り方は!」

 

 一人が俺の謝り方が気に入らなかったのか怒声を浴びせる。

 

 っつか酒臭い上に息臭いんだよ。

 

「ん? こいつよく見たら最近噂になってる新入りじゃねぇか」

 

 傍に居た一人が俺の顔を見て最近の話題を思い出す。

 

「何?」

 

 俺を見たそいつはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「あぁそうか。てめぇが噂の」

 

「……」

 

「だったら、おめぇのその武器を渡せよ。それでさっきの事は忘れてやってもいいぞ」

 

 右太股のホルスターに収められているUSPを指差しながらそう言う。

 

 こいつ何様のつもりで言っているんだ?

 

「何を言っているのか意味が分からんな」

 

「あぁ!? 目の上の者に向かってふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」

 

「……」

 

「俺はな! お前よりランクが上のアイアンだぞ!? 先輩の言う事は絶対なんだぞ!」

 

「……」

 

 メンドくさ……。これだから酔っ払いは嫌いなんだよ。っつか先輩の言う事は絶対って、おかしいだろ。何時の頃の部活だよ。

 

 ただでさえ苛々しているって言うのに、どんどん苛々が溜まっていく。

 俺は思わずため息を付く。

 

「おい! 聞いてんのか!」

 

 酔っ払いが俺に近付き、胸倉を掴む。

 

 俺は胸倉を掴んでいる手を掴み、そのまま背負い投げで地面へと叩き付ける。

 

『……』

 

「一つ伝える事がある」

 

 その光景に他の冒険者が呆然と見ていると、俺は地面でうずくまっている酔っ払いを無視して冒険者の方を向く。

 

「俺は今相当無性に腹が立っている。お前達から突っかかって来たんだ。少し鬱憤晴らしに付き合ってもらうぞ」

 

「悪く思うなよ」と呟きながらボキボキと両手の骨を鳴らして、顔色を真っ青にした冒険者達を睨み付ける。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 酔っ払い共をぶちのめした後、宿へと到着してそこの一室を取り、ベッドに仰向けになった俺は天井を眺めながらため息を付く。

 

(本当に、どうしちまったんだ)

 

 さっきの事が脳裏に鮮明に映り、深くため息を付く。

 

 苛立っていたとは言えど、酔っ払いをぶちのめすとか、最悪じゃないか。

 

(何やってんだよ、本当に)

 

 モヤモヤして晴れない気持ちに、その苛々の原因が何かが分からないという苛々が募り、無意識に両手に力が入る。

 

(こんなこと、今まで――――)

 

 不意に昼頃のクソ野郎の憎たらしいぐらいの笑顔が過ぎり「ガリッ」と歯軋りを立てる。

 

 俺は荒々しく起き上がるとテーブルに置いている水筒を手にして蓋を開け、中に入っている水を荒々しく飲み、蓋を閉めて水筒をテーブルに叩き付けるように置く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 呼吸を整えつつ椅子に座り、背もたれにもたれかかる。

 

 

「……」

 

 しばらくジッと何も考えずに座っていると大分気持ちが落ち着き、深くため息を付く。

 

(明日には、町を出るか)

 

 元々居座るわけではなかったし、目的の資金も蓄えが出来た事だし、もうここに残る理由は無い。

 

(それに、いつまでもこの町に居ると、あの野郎がまた自慢しに来るだろうし)

 

 今の状態だと、恐らく無意識の内にやってしまうかもしれない。まぁ、最後にやらかして遠くに逃げると言うのもありだが、その後のリスクを考えると感情的にやるべきではない。

 

「……」

 

 だが、しばらく居たのでそれなりに愛着と言うのはある。いざそうなるとやはり寂しい所がある。

 

「……」

 

 でも、このまま町を出ても良いのだろうか……。

 

 このまま、彼女をあのクソ野郎と結ばせてもいいのか。

 

「……」

 

 俺は首に紐で提げているフィリアから貰った石を手にして眺める。

 

(フィリア……)

 

 ふと、最後に彼女の姿を見た時のことが脳裏に過ぎる。

 

「……」 

 

 俺は思わず石を握り締める。

 

(俺は、俺は……)

 

 

 

 コンコン…… 

 

 

 

「っ!」

 

 すると扉からノック音がして俺は反射的に扉の方に首を回す。

 

「……」

 

 時間は夜の11時を回ろうとしていた。以前のフィリアの一件ならまだしも、こんな時間に訪れる者はまずいない。

 

(こんな時間に、誰だ?)

 

 警戒しながらレッグホルスターよりUSPを取り出し、セーフティーに指を近づけて扉に近付く。

 

「誰だ?」

 

 扉に向かって声を掛けるも、返事は返って来ない。

 

「……」

 

 ハンマーに指を掛けて起こし、セーフティーに指を掛ける。

 

「もう一度言う。誰だ」

 

 もう一度扉に向かって問い掛けるも、返事は返って来ない。

 

「……」

 

 俺はセーフティーに掛ける指に力を入れて下ろそうとした。

 

 

 

『わ、私だ、キョウスケ殿』

 

 しばらくして扉の向こうから声が返って来る。

 

「? その声は……」

 

 聞き覚えのある声に扉を少し開けてその隙間から向こう側に居る人物を確認する。

 

「ユフィ?」

 

 隙間から見える人物は外套を羽織りフードを深々と被っていたが、視線に気付いたのかフードを上げて顔を見せる。よく見ると彼女の後ろに二人誰かが居る。

 

「こんな時間に、何の用だ?」

 

「急ぎの用だ。すまないが、中に入れてくれないか? 今私達の姿を見られるとまずいんだ」

 

「……」

 

 俺は無言で扉を開けて彼女達を部屋に入れる。

 

 

 

 彼女達をベッドに腰掛けさせて、俺も向かい側にイスを置いて座る。

 

 フードを取った彼女達は確かにユフィと、その他二人はあの時フィリアと一緒に居た……えぇと確かピンク髪のツインテールに眼帯の少女はリーンベルで、背中まで伸ばした金髪で、薄目の少女はセフィラと言ったっけ?

 

 だが、なぜ彼女達がここに。ユフィならまだ分かるが、他の二人は最初に会って以来顔を合わせてい無いと言うのに。

 

「こんな夜遅くに大所帯で来るとはな」

 

「迷惑をかけているのは承知している。だが、この時間でなければ、キョウスケ殿に密かに話し掛けることは出来ないんだ」

 

「……」

 

 彼女はそう言っているが、どうも信用できなかった。、

 

「……」

 

「それで、何の用だ? お前達もアレンの様に自慢や嫌味を言いに来たのか」

 

「っ! 違います!!」

 

 と、さっきまで黙っていたリーンベルが突然叫ぶ。

 

「あんなやつと一緒にしないでください!! キョウスケ様に対してそんな事!」

 

「リーンベル」

 

「っ! 申し訳ございません!」

 

 セフィラに言われてリーンベルは頭を下げて謝罪する。

 

「……すまない。何か勘違いしていたようだ」

 

「いや、気にしないでくれ。キョスウケ殿が警戒するのも、無理は無い」

 

「……」

 

『……』

 

 しばらく沈黙が続く。

 

 

「それで、こんな遅くに、一体何の用だ?」

 

 お互い間を空け、俺が再び問い掛けた。

 

「キョウスケ殿に、頼みがあります」

 

「頼み?」

 

「はい。他の者には出来ない、キョウスケ殿にしか頼めない事だ」

 

「……」

 

「もちろん、無理にとは言わない。断ってくれても、構わない」

 

「……とりあえず、聞くだけ聞こう」

 

「……」

 

 ユフィは一間置いて本題を切り出す。

 

 

 

「フィリアを助ける為に、どうかキョウスケ殿の力を貸して貰いたい!」

 

「……ん?」

 

 予想外の頼みに俺は思わず首を傾げる。

 

 

 


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