異世界ミリオタ転生記   作:日本武尊

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第十三話 予想外の来訪者

 

 

 

 

 あの日以来、フィリアは俺が依頼を終えて帰って来た頃にやってきて、お互い夕食を取りながら会話を楽しんだ。

 会話の内容は俺のその日の依頼内容だったりそこで何をしたりしたか、彼女のその日の騎士団の様子や訓練様子とか、お互いの小さい頃の話など、会話内容は様々だ。

 

 ちなみにだが、その時の彼女はとても楽しそうな様子で会話を楽しんでいた。最初の時と比べると、大分明るくなったような気がする。

 

 まぁ俺自身こういった会話事態あんまりなかったから最初は戸惑うかと思っていたけど、彼女とは気が合うらしく、意外と会話は途切れる事はなかった。

 だから、こうして彼女と食事をするのが俺の楽しみになっていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから更に一週間が過ぎていった。

 

 

 

 破裂音が連続して森の中に響き渡り、ラトスの群れが目に見えない速さで飛ぶ弾に撃ち抜かれて絶命していく。

 

 茂みの陰に潜む俺は5.56mm機関銃MINIMIの照準眼鏡を覗き込みながらラトスの群れに銃口を向け、引金を引く。

 

 銃声と共に排莢口から空薬莢とベルトリンクが次々と排出され、放たれた弾が仲間が次々と殺されていく恐怖に逃げ出そうとしていたラトスの身体を貫いて命を刈り取っていく。

 

 100発あった弾帯が無くなり、空になったボックスマガジンを外し、傍に置いていたボックスマガジンを手にして装着し、フィード・カバーを開けて弾帯の先頭をレシーバーにセットし、フィードカバーを閉じてコッキングハンドルを引き、射撃を再開する。

 

 

 

 装填した弾帯の半分ほどを使い切った頃には、そこにいた20頭以上のラトスの群れは全滅して地面は死骸で埋まっていた。

 

「……」

 

 ボックスマガジンを外して残りの弾帯を取り出し、新しくボックスマガジンをポーチから出してセットして弾帯の先頭のパーツを外して残った弾帯と繋げて5.56mm機関銃MINIMIを背中に背負うと近くに置いている武器を手にする。

 

 一見すると長い鉄の棒に見えるが、辛うじてマガジンと思われる箱状の物体がトリガーの前にあり、全長が俺の背丈ほどはある武器であった。

 

 俺が手にしたのは『シモノフPTRS1941』と呼ばれる第二次世界大戦時の旧ソ連で開発された、14.5×114mm弾を使用するセミオート式対戦車ライフルだ。

 対戦車ライフルとは文字通り戦車に対して使用する対戦車兵器である。そして後の対物(アンチマテリアル)ライフルの前身とも言える銃器である。

 

 本銃もつい最近アンロック出来た武器で、M14とは事情は違うが特殊な経緯で日本に入って来ている。恐らく朝鮮戦争時に国連軍が鹵獲したものが陸自の基地の資料室に展示されたり、コレクション用に無可動化した銃として国内で販売された事があったりと、日本に入ってきた個体は結構ある。

 

 現状では対物ライフルが無いので、これが使えるようになったのは俺にとっては嬉しかった。まぁ当然性能は現代の対物ライフルと比べると見劣りする所は多いが、その分近代化改修はして性能を可能な限り上げており、現代の対物ライフルに負けない性能を得た。と言うか下手すると他の対物ライフルより性能がいいかもしれない。

 まぁその分ポイントは飛んだが、ここ最近全然使ってないからポイントは増える一方で貯蓄は腐るほど余っているの。だから、別に問題は無かった。

 

 改造内容としてはまず銃身内部のライフリングを改良して更に銃身の長さを延長し、初速と精度を向上させた。更にスコープを専用のマウントベースを用いて取り付けた。

 弾薬である14.5×114mm弾を改良して通常より炸薬を増やした強装弾に弾頭を炸裂徹甲弾として威力を向上させている。

 装弾方式もクリップ方式からマガジン方式に変更して5発から8発に増加した。

 

 わざわざ旧式の対戦車ライフルをポイント使って改造する必要はあるのかと思うだろうが、対物ライフルが無い以上これを使うしかない。

 

 ちなみに陸自では対物狙撃銃と言う名称で対物ライフルは調達されているらしいが、バレット社製である事以外機種は不明だ。噂だとバレットM95じゃないかって言われているが、詳細は分からん。

 もしかして召喚項目に無いのはそれが原因か? それともこいつも特殊な条件でアンロックされるやつなのか?

 

 まぁどっちにしろシモノフPTRS1941は個人的に好きなやつだし問題は無い。まぁこれが無かった場合は大日本帝国陸軍唯一の対戦車ライフル『九七式自動砲』を近代化改修をして使う予定だった。

 装弾数や威力的にもこっちの方がいいんじゃ、とか言ってはいけない。と言うか改造する項目が多いからシモノフPTRS1941よりポイントを必要になっていたかもしれないし。まぁさっきも言ったが、ポイントは腐るほどあるので別に問題はないのだが。

 

 

 あそこから移動してラトスの死骸で埋め尽くされている場所を見張らせる場所に着くと、シモノフPTRS1941の二脚を立ててその場に伏せて、いくつかマガジンを傍に置いてボルトハンドルを引いて元の位置に戻して初弾を薬室に送り込み、グリップを握る。

 

「……」

 

 スコープを覗きラトスの死骸の周辺を見張る。

 

 今回受けた依頼ではラトスは目標に入っていないのだが、今回の依頼の目標を誘き出す為にあそこで群れを全滅させて放置している。

 もちろん制限を守って倒した数は上限に達していない。

 

(さて、そろそろやつの鼻に血の臭いが届いてあそこに向かっている頃か)

 

 目標は嗅覚が鋭いと言われているので、餌の匂いに釣られてあの死屍累々な場所に向かっているはず。

 

 そう思っていると茂みが動き何かが近づいていた。

 

 俺は気を引き締めて狙いを定めて待つと、森の置くから巨大な生物がゆっくりと出てきた。

 

 パッと見た外見は灰色の毛を持つ巨大な熊と言った所か。しかしその大きさはかなり大きく、大きさは離れているから正確ではないだろうが、大体軽トラぐらいはありそうだな。

 そして顔つきはそいつの名前の由来にもなっているぐらい、悪魔を連想させるような醜い顔つきをしてヤギのような角が生えている。

 

 あれが今回の依頼の討伐目標である『グリムベアー』と呼ばれる魔物だ。

 

 今回の依頼主は商人で、馬車で荷物を運んでいた途中グリムベアーに襲われ、馬車を引いていた馬は食い殺され、商人自身も右手首を食い千切られる重傷を負ったが、何とか命からがら逃げてきたそうだ。

 依頼内容はもちろんそのグリムベアーの討伐だ。

 

 グリムベアーは雑食性で食えない物以外であればどんな物でも食べる。もちろん人間も例外ではない。

 グリムベアーは特定の住処を持たず、行動範囲が異常に広い事で知られており、そのグリムベアーが人間を襲うとなると近隣の村に危険が及ぶ可能性があるので、緊急のクエストとして組合で急募されていた。

 しかしその時に限って冒険者がほとんど依頼を受けて出払っていたので、その時居合わせた俺が半ば強制的に受ける事になった。

 

(緊急なのは分かるが、だからって半ば強制的に受けさせるのはどうなんだよ)

 

 まぁ別に他に受ける依頼は無かったからいいんだが……もしそこに俺じゃなくて新人の冒険者だったらどうする気だったんだ?

 あっ、俺も新人か。

 

 

 話を戻そう。

 

 

 グリムベアーはラトスの死骸を見つけるとゆっくりと近付いて一つを手にして豪快に齧り付き、肉を食い千切る。

 

「おぉ、グロッ」

 

 スコープで拡大されたスプラッターな光景に思わず声が漏れるが、そんな事は微塵に思っていない。

 

「……」

 

 俺は気持ちを切り替えてグリップを持つ手に力を入れ、スコープのレティクルにグリムベアーの頭を捉え、動きが止まるのを待つ。

 

 下手に傷つけて逃げられてしまうと更に凶暴化して手がつけられなくなる上にどこかへと行ってしまう可能性があるし、傷から流れ出た血の臭いに他の魔物が近寄ってくる可能性があるので、確実に仕留める。

 

 引金に指を近づけて掛け、グリムベアーの動きが止まるのを待つ。

 

 

 そしてグリムベアーが早くも3体目のラトスの死骸を手にして齧り付いた瞬間、引金を引く。

 

 その瞬間7.62mmとは比べ物に鳴らない砲声のような銃声が辺り一面に響き渡り、反動で俺の身体ごと銃が僅かに後退し、衝撃波で砂が舞い上がる。

 

 その直後にスコープの向こうではグリムベアーの頭の半分が弾けて血と肉片が飛び散る。

 

 グリムベアーは頭が仰け反って倒れるが、すぐに立ち上がって周囲を見渡す。

 

「嘘だろ!?」

 

 114mmの薬莢にぎっしり詰まれた強装弾から放たれた14.5mmの炸裂徹甲弾が直撃したにも関わらず、表皮が弾けて頭骨が露出して角が弾け飛んだだけで、致命傷を負っていなかった。

 予想以上の頑丈さに驚愕を隠せなかった。

 

 だがさすがにダメージは軽くなかったようで、脳震盪を起こしているのかふら付いており、頭や口から血が多く流れていた。するとふら付きながらもその場から逃げようとしていた。

 

「っ! 逃がすか!!」

 

 俺はとっさにダメージの入った頭部の箇所に狙いを付け、引金を引く。

 

 砲声の様な銃声と共に14.5mm弾が放たれ、グリムベアーが動いた為に狙いは外れたが左側頭部へと命中して着弾時の衝撃で横へ倒れる。

 

 そのまま連続で胴体に向けて引金を引き続け、残りの弾を叩き込む。着弾すると同時に血飛沫と肉片が弾け飛び、周囲を赤く染め上げる。8発撃ち終えてマガジンを外して傍に置いているマガジンを手にして差し込み、コッキングハンドルを引いて射撃を再開する。

 

 

「……」

 

 それからもう一つマガジンを使って射撃を行い、遠くからでも分かるぐらいグリムベアーが居た場所の周囲は赤く染まっていた。

 銃口から硝煙が漏れる中シモノフPTRS1941のマガジンを交換して5.56mm機関銃MINIMIと入れ替えるように背中に背負い、グリムベアーの死骸の元へと向かう。

 

 

「近くで見ると、でかいな」

 

 14.5mmの炸裂徹甲弾を受けて見るも無残な死骸と化したグリムベアーの近くに来ると、その大きさを改めて実感する。と言ってもほとんど原型は残って無いんだが……。

 そして何よりグリムベアーやラトスの血と肉片で辺り一面が赤く染まり、生臭い臭いが漂っていた。

 

(にしても、呆気無いな)

 

 図体の割りにあっさりと死んだことに呆気無さを感じたが、首を横に振るう。

 

 常に近い距離で戦う冒険者だとこれだけ大きな魔物を倒すのに苦労するだろう。近接武器も大きな奴でなければ傷を負わすのは難しいだろうし、弓矢ではダメージは部位にもよるがほとんどないだろう。

 一方こっちは遠距離から放たれる威力の高い現代兵器を使っているんだ。比べるのは酷というものだ。

 

「まぁ、どっちにせよ依頼は達した、か」

 

 呟きながらメニュー画面を開くと、お知らせの画面が点滅していた。

 

 つい最近にもあったばかりなのに、なんだ?

 

 首を傾げながらもお知らせの画面を開く。

 

 

 ・レベルが25になりました。装甲車輌以外の車輌の項目がアンロックされました。

 

 ・グリムベアーを討伐した。装甲車輌『――――』がアンロックされました。

 

 

「おぉ!」

 

 今まで使えなかった車輌がようやく使えるようになったのか! 装甲車輌以外だが、これで足ができた。

 しかもグリムベアーを討伐した事によってとある装甲車輌が使えるようになった。現時点では装甲車輌が使えない以上唯一でしかも攻撃力を有する装甲車輌が使えるのはありがたい。

 

 早速何かに乗ってみたかったが、迎えが来る以上下手に出すと怪しまれるので、召喚は次の機会にする事にするか。

 

 

 その後馬車の迎えが来て一緒に来た調査団にグリムベアーの死骸の回収を頼んだ。

 

 大型の魔物は組合から派遣される調査団によって死骸を分解して使える部位を回収し、後で換金できる方法がある。冒険者は依頼を受けて出発する前に申し込むそうだ。

 難点があるとすれば換金された金は報酬より後日に支払われるのと、派遣と解体、輸送にお金が地味に掛かるという事ぐらいだ。

 

 ちなみにこういう仕事に慣れているはずの調査団だが、あまりのスプラッターな光景に数人ほど嘔吐した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時間は過ぎて夜の8時を過ぎた頃。

 

 

 馬車に揺られながらブレンへと戻った俺は早速酒場に向かい、依頼完遂の報告をして報酬金を貰った。

 緊急クエストとあっていつもより多くの額を得る事が出来た。

 

(しかし、車輌が使えるようになったのは大きいな)

 

 装甲車輌以外の輸送車輌のみだが、車やトラックが使えるようになっただけでもかなり大きいな進歩と言える。

 

 これで馬車に揺られる事もなくなるし、乗る為の代金を支払わずに済む。

 

 ちなみに馬車に乗らない場合は職員から伝書鳩で組合に連絡する事が出来なくなるので、報告後組合から調査団が派遣されて調査し、依頼主に確認を取って報告どおりであると確認してから報酬が支払われると、二度手間な方法となる。

 まぁ、すぐに報酬金が必要だと言う冒険者以外ではこの方法をとるのが多いという。

 

 手持ち金に余裕が出来た俺はこの方法でもさしたる問題は無い。

 

 

「……?」

 

 俺は酒場を見回してフィリアの姿を探していたが、どこにもいない。

 

(大体この時間なら居るはずなんだが)

 

 この時間帯で帰ると酒場のどこかのテーブルに彼女(フィリア)の姿があるが、今日は居なかった。

 

(珍しい事もあるんだな)

 

 几帳面な彼女にしては、本当に珍しかった。

 

 

「ちょっといいか?」

 

「……?」

 

 彼女の姿を探していると後ろから声を掛けられて振り返ると、この辺りでは珍しい黒髪の女性が立っていた。

 

「あんたは……」

 

 どこかで見覚えのある姿に、すぐに脳裏にその人物が挙がる。

 

「確かフィリアと一緒に居た」

 

「ユフィ・コッホーだ。あの時以来だな」

 

 俺が言い終える前に女性ことコッホーさんが自分で言う。

 

 特徴的な黒髪を一本結びにして束ねた髪形に向日葵色を思わせる瞳を持つ凛とした雰囲気。彼女で間違いないな。

 

 だが、そんな彼女が一体なぜ俺のところに?

 

 考えられる理由としては、大よそフィリア関連のことだろうな。もしかすればもう関わるなと言われるかもしれない。

 俺と言うより彼女から会いにきているって感じだが、周りから見たらそう見えないんだろうな。

 

(いや、もしかしたらそれ以外の用があるのか)

 

 この町から出て行くように忠告すると言うのか……

 

「一体何の用ですか?」

 

「そう警戒しないでくれ。難しい事ではないし、恐らくヒジカタ殿が思っていることじゃない」

 

 俺の様子を察してか彼女は違う事を伝える。

 

「と、言うと?」

 

 じゃぁ、一体何の用なんだ?

 

「まぁ、とりあえず立ち話もなんだ。食事をしながらでも話そう」

 

 そう言いながら空いたテーブルを探して指差す。

 

 

 

 


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