(さてと、これからどうするかねぇ)
駐屯地を後にした俺は町を散策しながらこれからの事を考える。
(やっぱり冒険者がいいのかねぇ)
彼女たちにはあぁ言ったが、このままこの町に留まる気は無い。
この町のみならず他の町や国でも同じように仕事ができるとなると、冒険者ほど俺に適した職はないだろう。
(しかし、登録料か)
フィリアが言っていたが、冒険者になるには登録料となる金が必要となる。大した額ではないだろうが、無一文の俺にはどうしようもない。
今から日給で働くにしても、登録料分を稼げるかどうか怪しい。
(やっぱり、取っておいてよかったな)
腰の戦闘弾帯に提げてるポーチの中にあるビッグゴブリンから剥ぎ取った角と牙を思い出す。
(でも、牙と角、売れるのかねぇ)
登録料分をあればいいけど、可能ならオマケ程度で欲しい所だが。
まぁそもそも売れるかどうかすら分からんが。
(まぁ兎に角、とりあえず金をどうにかしないと始まらんか)
今後の事を考えるのは後にして、とりあえず今は目の前の問題を片付けなければならない。
「すみません」
「ん?」
俺は近くを通り掛った男性に声を掛ける。
「この辺りに魔物の角や牙と言った物を買い取る所はありますか?」
「牙や角の買い取りか?だったらこの先を歩いて左二つ目の角を曲がりな。赤い天幕で色んな魔物の素材が並んでいる出店がある。そこで買い取ってくれる」
「そうですか。ありがとうございます」
俺は男性に頭を下げて教えられたとおりに歩いていく。
男性に教えられた左二つ目の角を曲がると、そこは多くの出店があり、賑わいをみせている。
「あれか?」
その中から男性の言った通り、赤い天幕の出店があり、色んな魔物の物であろう骨や牙、角といった物が並んでいる。
何か怪しげな感じはあるが、今はどうこう言っているわけにはいかんか。
「すみません」
出店の前に来て店主と思われる男性に声を掛ける。
「ここで魔物から取れた素材を買い取ってもらえますか?」
「ん?あぁそうじゃよ。何か売るのがあるのか?」
「はい。数は少ないですが」
俺はポーチを開けて中からビッグゴブリンから切り取った角や牙を男性の前に並べる。
「ん~?この特徴的な赤い湾曲した角。もしかしてビッグゴブリンの角か?」
男性は驚いた様子で俺に問い掛ける。
「えぇ。牙もその魔物から取ったものです」
「ほぉ。あのビッグゴブリンの角と牙か。若いのに凄いな」
物珍しそうに角を手にしてマジマジと眺める。
「そんなに珍しいんですか?」
「あぁ。ビッグゴブリンは数が少ない上にかなり手強い魔物じゃからな。その上子分のゴブリンを多く引き連れているから熟練の冒険者でも手を焼くんじゃよ。じゃから流通している数も少ないんじゃよ」
そう言いながら眼鏡を掛けてより詳しく角や牙を見る。
「まぁ、大抵はそう呼ばれる前のゴブリンの状態で狩られるから少ないんじゃろうがな」
「なるほど」
まぁあれだけの大きさとなると、数々の激戦を潜り抜けてきた猛者だったんだろうな。
「ふむ。こいつは中々。年代物じゃのう」
顎鬚を撫でながら角を置き、男性は机の下で何かを探している。
「角と牙がそれぞれ二つずつで、このくらいじゃな」
男性は麻袋を机に置くと、口が開いて中身が現れる。
「全部合わせて金貨3枚と銀貨20枚、銅貨12枚じゃ」
「そんなにいいんですか?」
この世界の貨幣の価値は分からないが、たったこれだけの量でこの額とは。
「あぁ。角は秘薬の材料になり、牙は武器や防具の材料となるからな。それに質がとてもいい。欲しいやつらはこれの倍以上の額でも買い取るから、問題なしじゃ」
「そうなんですか」
よほど出回って無いんだな。
麻袋の中身を確認してから腰のポーチに入れて、店を後にする。
その後通行人から話を聞いてこの町にある大きな酒場へとやってくる。
「ここか」
話を聞いたところ冒険者として登録するにはこの酒場にある冒険者組合で行われるそうだ。
建物を一瞥してから扉を開けて中に入る。
「いらっしゃい! 空いている所に座ってくれ!」
中に入ると店員が俺に気付いて大きな声で案内する。
店の中は昼時とあってか昼食を取る人が多く、食欲を刺激する匂いが漂っている。
酒場とあるけど、時間帯によっては食堂として機能しているのだろう。
「すみません。冒険者組合に用事があるんですが、どこに行けばいいですか?」
「それなら奥のカウンターだ」
店員は奥のほうにあるカウンターに指差し、手にしている料理を注文した脚の入るテーブルへと運んでいく。
俺は店員の言われた通りに奥のカウンターへと足を運ぶ。
カウンターでは冒険者と思われる男性が手にしている紙をカウンターに差し出して受付の人が内容を確認していた。
その近くの壁には多くの紙が張られており、その内容を冒険者達が物色している。
「すみません。冒険者組合はここであっていますか?」
「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」
先ほどの冒険者が手続きを終えたところを見計らって俺はカウンターへ赴き、受付の女性職員に声を掛ける。
「冒険者として登録がしたいんですが」
「登録ですね。分かりました。では最初に登録料として銀貨5枚をお願いします」
俺は腰に提げているポーチから麻袋を取り出して中から銀貨5枚を出して女性職員に差し出す。
「では、こちらに必要事項を書いてください」
女性職員は銀貨5枚を受け取ってから机の下から書類を差し出し、書く箇所を指差す。
書類には氏名に年齢、種族、出身地、その他諸々と言った事項がある。
俺は受付嬢から差し出された羽ペンを台座から抜いて書類に必要事項を書き込む。
(うーん。何か違和感しかないな)
書いている文字は見慣れた日本語ではなく、ローマ字やロシア語を割って足したような文字を書き込んでいるが、俺はその文字の意味や書き方をまるで最初から知っているかのようにスラスラと書いている。
これも神様に植え付けられた知識の一つなのかねぇ。まぁ、苦労しないで済むからいいんだけど。
疑問に思いながらも必要事項を全て書いて受付嬢へと渡す。
「受け取りました。お名前はキョウスケ・ヒジカタ様でよろしいですね?」
受付嬢の問いに俺は縦にうなずく。
「分かりました。手続きをしますので、少々お待ちください」
受付嬢は書類を手にして奥の方へ向かう。
「……」
待っている間背後に突き刺さる視線を無視しつつ周囲を見渡して時間を潰す。
「お待たせしました」
腕時計を見て時間を確認した時に受付嬢が戻ってきた。
「これで登録は完了しました。では、こちらを」
受付嬢は持ってきた紙製のドッグタグを手渡す。
「依頼を受ける際はそちらのクエストボードから自分のランクに合った依頼が書かれた紙をタグと共に受付に提出してください」
受付嬢の指差す方向には先ほど冒険者達が物色していたボードがあった。
「冒険者の実力と経歴はこのタグに記されますので、くれぐれも紛失や盗難に気をつけてください」
「仮に紛失したり盗難に遭った場合は?」
「すぐ組合にご連絡ください。新しくタグを発行致しますので」
「分かりました」
「次に冒険者としてのランクですが、最初は『ペーパー』から始まり、『ウッド』『ストーン』『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』『オリハルコン』となっております」
結構ランクはあるんだな。と言うより、やっぱ異世界とあって、オリハルコンってあるのか。
「ランクは一定の活躍を認められたら組合で話し合われ、昇進するに値すると判断したら次のランクへと昇進できます」
「他に何か分からない事はありませんか?」
「いいえ。大丈夫です」
「分かりました。では、これで手続きは終了です。ご武運を」
受付嬢は頭を下げて奥へと向かう。
「……」
依頼を受けようとボードを見ていたら腹の虫が鳴ったのでとりあえず昼食を取る事にした。
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適当に空いた席に座って料理を注文して腹を満たし、料金を支払った後にクエストボードの前にやってくる。
ちなみに料理は牛肉のステーキを頼んだが、銀貨1枚の割には肉が大きかった上に軟らかくジューシーだったので、結構良かったな。
(やっぱり今の
依頼はそれぞれの種類ごとにクエストボードに張られており、俺は討伐系の依頼が集められた箇所を見ている。
初心者とあって受けられる依頼は限られており、討伐系の依頼は少なかった。
(これでいいか)
俺はその中から『ラトス』と呼ばれる魔物の討伐依頼が書かれた紙を手にして受付に向かう。
「すみません。依頼を受けたいのですが」
「はい。では、依頼書とタグを一緒にご提出ください」
俺はタグと依頼書を受付嬢へと差し出す。
受付嬢は依頼内容とタグを確認すると怪訝な表情を浮かべて俺を見る。
「あの、ヒジカタさま?」
「なんでしょうか?」
「依頼を受けるのは今回が初めて、なんですね?」
「はい」
「……あの、いきなり討伐系の依頼を受けるのは」
「駄目なんですか?」
「駄目と言うわけではありませんが」
「ならいいですよね」
「……分かりました」
受付嬢は心配そうな表情を浮かべつつ依頼内容の説明に入る。
「依頼内容はラトスと呼ばれる魔物の討伐です。依頼主は最低でも群れを率いる頭目を確実に討伐して欲しいとのことです。それと他の子分を纏めて駆除してくれれば追加報酬を支払うとのことです。ですが組合の決まりで一度に討伐できるのは30頭までとなりますので、注意してください」
「数に制限があるのは生態系に関わるから、ですか?」
「はい。ラトスは雑食系の魔物です。数が少なくなると草食系の魔物が多くなってしまって生態系が崩れる恐れがあります」
「分かりました」
それを確認すると受付嬢は書類にタグに記された内容を書き込む。
「では、これで手続きは終了です。くれぐれも無理はしないでくださいね」
念を押すように受付嬢はそう一言言ってタグを俺に返す。
「危ないと思ったらすぐに退きます」
そう言ってから俺は酒場を後にする。