半ば連行される形で少女達と馬車でブレンと呼ばれる町に向かう事2日……
「フィリア様。ブレンが見えてきました」
ピンクのツインテールの髪型をして左目を眼帯で覆っている少女が馬車の天幕を退けて前方を見てフィリアと言う少女に伝える。
(ようやく着いた)
転生して一週間以上経って、やっと人が住んでいる町に辿り着けた。そう思うと何か感動を覚える。
まぁそれもあるが、別の意味も含まれる。
それは町へと向かう二日間の道中に尋問の如く色々と聞かれて、早く解放されたかったからだ。
案の定89式小銃やUSPのことについて根掘り葉掘りと聞かれてどうせ説明するか悩んだ。何も言わないとなると後々面倒になりそうだから基本的な構造を教えたりした。
説明をしている中で分かった事だが、どうやらこの世界には火薬と言うものが存在しないらしく、破裂の事を言うと爆裂魔法によるものかと聞かれた。
ちなみにフィリアの受けた傷だが、金髪薄目の少女の治療魔法で治してもらっていた。さっきの爆裂魔法の事もあり、ファンタジーな世界なんだなって改めて思った。
まぁ尋問ばかりではなく、色々と話せる範囲で騎士達と話をする事は出来たのが救いだったな。
『ユフィ・コッホー』『リーンベル・ハースタル』『セフィラ・グロフス』。それがフィリアという少女以外の彼女達の名前だ。
順に説明すると、フィリアは実質このメンバーを纏めるリーダー的存在で、彼女達の置かれている状況からか3人から慕われている。
ユフィという女性はこのメンバーの中では年長で、年も俺と同い年だという。フィリアとは幼い頃からの友人であり、クロスボウの名手で右に出る者はいないと言われるほどの実力の持ち主だそうだ。
リーンベルという少女はこの面々の中では最年少でムードメーカー的な存在のようで、明るく人懐っこい性格が特徴だ。初対面の俺でも気軽に話し掛けて来た。あと意外とデカイ(どこがとは言わないが)
ちなみに眼帯をしている理由は彼女の気持ちを尊重して聞いていない。
セフィラという少女は淑やかで大人しいと、いかにもお嬢様と言う雰囲気であるが、何か見た目に違和感を覚えるような気がする……
彼女達の所属している騎士団では、女性は彼女達4人のみで、他は男性が占めているとのことだ。んで、あんまり立場的に良いとは言えないらしい。まぁ男ばかりの職場に女性が四人しか居ないとなると、色々と大変だろう。
別に今のご時世女性が騎士になるのは珍しい事じゃないのだが、この辺りじゃ逆に珍しいらしい。
で、今回騎士団にゴブリンの群れの討伐依頼が来て、四人が討伐に向かっていたようだが、俺が先にゴブリンの群れを殲滅してしまったので無駄足に終わってユフィという女性は不満げに訴えていた。
何か悪いな。
まぁそんな事もあって馬車は町の防壁の門を潜り抜け、馬車を止める場所まで誘導される。
――――――――――――――――――――――――――――――
「えぇと、フィリア?」
「なんだ?」
馬車を降りた俺はフィリアに問い掛ける。
「やっぱり、一緒に行かなきゃ駄目なのか?」
「当然でしょ。関わりが無いわけがないんだから」
「だよな」
まぁ、そうなるよな。
今回の一件の報告の為彼女達は騎士団の駐屯地へと向かうのだが、俺もその駐屯地へと同行する事になった。
理由はもちろん、報告の説明の為だ。
同行する必要があるのかは分からないが、断ると後々面倒な事になりかねないからなぁ。
「ところで、キョウスケ」
「な、なんだ?」
平然と名前で呼ぶフィリアに俺は少し驚きながら彼女の方を見る。
「あなたの武器は?さっきまであったはずなのに」
「あぁ89式か」
一応安全確保の為に89式小銃は一旦装備解除して消しており、俺の背中には何も無い。まぁもしもの事を考えてレッグホルスターに収まっているUSPは残したままだ。
「扱いを誤るととても危険な代物だからな。安全の為に今は収納している」
「収納?」
「つまり……魔法で作った別空間に入れておけるんだよ」
「……」
んー。やっぱり取って付けた様な嘘じゃさすがに信じないか。
「変わった魔法を持っているのね」
「ま、まぁな」
うーん。これで納得するって、どうなん? まぁ騙し通せたのならいいんだが。
まぁ、実際は奪われるかもしれないから装備を解除しただけなんだよな。信用がないってわけじゃないけど、一応な。
USPはもしもの事を備えての保険だ。出来れば使わない事を祈りたいところだが。
フィリア達と共に駐屯地へと向かう途中、町の人たちから挨拶や労いの言葉が掛けられて来る事が多かった。結構彼女達は慕われているんだな。
まぁその度に俺について聞いてくる事がほとんどだったが。
しばらくして、町の西側にある騎士団の駐屯地に到着した。
「お帰りなさい」
駐屯地の守衛と思われる騎士がフィリア達を迎えると、俺の存在に気付く。
「あの、ヘッケラー様。そちらの方は?」
「今回の一件に関わった者よ。団長への報告の説明為に来てもらったの」
「そうですか」
「それで、団長は?」
「はい。執務室に居られます」
「そう。分かったわ」
そう言ってフィリア達は駐屯地の敷地内に入って行き、その後についていく。
駐屯地の敷地内には兵舎と思われる建造物が多く立ち並び、広場には稽古のための設備が多数設置されており、いかにも騎士団の施設ってらしさがある。
彼女達の言う団長が居る執務室の向かい道中、すれ違う騎士たちからジロジロと見られる事が多かった。
まぁ、物珍しいのもあれば、疑問に思っているというのもあるだろう。中には嫉妬なものもあったが。
時々何人かの騎士たちが彼女達に声を掛けて誘ったりしていたが、彼女達は全て丁寧に断っていた。まぁ明らかな意図が感じられたし、彼女達が苦労しているのも頷ける。
「ん?」
執務室に向かう途中、一人の男性が曲がり角から現れフィリア達に気付く。
「おぉこれはヘッケラー嬢。戻ってきたのか」
「はい、団長。フィリア・ヘッケラー以下3名、帰還しました」
どうやらこの男性が騎士団を纏める団長のようで、フィリア達は姿勢を正す。
「君達だけで心配だったが、無事に戻って来て何よりだ。さすがはヘッケラー伯爵の娘だ。ところで―――」
フィリア達が無事であったのに安心した後、視線は俺の方を捉える。
「そこの者は何者かね?」
「はい。実は―――」
フィリアはこれまでの経緯を団長に細かく報告する。
「なんと、ゴブリンの群れはおろか、ビッグゴブリンをたった一人で討伐するとは」
報告を聞き、団長は驚きを隠せない様子で俺を見る。フィリアが言っていたとは言えど、やっぱりあのデカイゴブリンは凄いのか。
「ただ運が良かっただけです」
現代兵器がなければあんな化け物を倒す何て出来ないし、この能力を持って異世界に転生出来たのはある意味運がよかったかもしれない。
「ふむ。色々とあるだろうが、依頼は達せられたと言う事だな」
「えぇ。我々は何もしていませんが」
ユフィと言う女性は皮肉めいた言い方で口にする。
「……ところで、名前はなんと言うのかね?」
「はい。土方恭祐と言います。この辺りだとキョウスケ・ヒジカタって呼び方になりますね」
「ふむ。変わった名前だね」
団長は顎鬚を触りながら呟く。
「偶然だったとは言えど協力に感謝する、ヒジカタ殿」
団長はゆっくりと頭を下げる。
「しかし、どうしたものかねぇ」
「何か?」
対応に困っていると、団長がボソッと呟く。
「いや、ただこのまま君を帰してこの一件を騎士団の手柄にするのは、騎士としては恥だからね」
「は、はぁ」
別に俺は気にしないんだが、やっぱりプライドがあるのかねぇ。
「君はこのまま町に居るのかね?」
「は、はい。何も無ければしばらく町に留まる予定です」
「そうか」
団長はしばらく何か考えて、こう言った。
「なら、今回の依頼の報酬金だが、こちらに来たらヒジカタ殿に渡そう」
「よ、よろしいんですか?」
リーンベルという少女は半ば驚いた様子で問い掛ける。
「あぁ。討伐したのは彼だ。受け取る権利はある」
(それでいいのか?)
何と言うか、複雑だな。
まぁ何やともあれ、しばらくしたら報酬金を渡しに行くと言う事で決まった。
―――――――――――――――――――――――――――
あの後報告の詳細を伝える為にユフィ達は団長と共に執務室に向かい、俺は見送りの為について来ているフィリアと共に廊下を歩いている。
「ねぇ、キョウスケ」
「なんだ?」
「キョウスケはこれからどうするの?町に残るって言っていたけど」
「そうだな。この先旅をするにも金は必要になるし、資金稼ぎの為にしばらくこの町で働こうと思ってる」
さすがに無一文だと色々と困るしな。
「冒険者なら別にお金に困らないんじゃ」
「冒険者?」
「知らないの?」
「いや、聞いたこと無いな」
「そうなの?てっきり旅をしているから冒険者なのかと」
「いや違うが、その冒険者って?」
「冒険者は様々な仕事を依頼として請け負う者達のことよ。ダンジョンの攻略や調査とか、魔物の狩猟や討伐、または捕獲とか、賞金首の悪党や犯罪者を捕らえるとか、国から課せられた依頼内容をこなす。
後半はどちらかと言うと傭兵かしらね」
「へぇ。そういう職もあるんだな」
「登録にはお金が少し要るけど、誰でもなれるものよ」
「なるほど」
やっぱりこういった職業もあるんだな。今の俺にピッタリかもしれない。
まぁ登録の為のお金だが、一応登録領分を確保できる当てはある。
「俺の性分に合ってそうだから、やってみようかな」
「キョウスケが冒険者になると、私達の仕事もいよいよ町の警護のみになるわね」
「は、ハハ……」
フィリアの皮肉めいた言葉に俺は苦笑いを浮かべる。
「冗談よ。むしろそれだけ町が平和になるってことだから、悪い事じゃないわ」
彼女はそう言うと微笑を浮かべる。
(何ていうか、意外と話せるんだな)
俺は横目で彼女を見ながら内心呟く。
最初の時は話しづらそうにしていたから話すのは好きじゃなさそうと思っていたけど、話してみると結構話せるんだな。
やっぱりこっちを警戒していたからか?
「やぁフィリア。帰ってきていたのかい?」
すると後ろから男の声がすると、さっきまで機嫌がよかったフィリアの表情が険しくなる。
後ろを向くと、一人の赤毛の男性が立っていた。
「アレン……」
フィリアは嫌そうに男性の名前を口にする。
「無事で良かったよ。君達だけで不安だったからね」
露骨に嫌な雰囲気を出しているのも気にせずにアレンと呼ばれる男性はフィリアに近付き話を続ける。
「あなたは私達の実力に不安があると?」
「まさか。でも、もしもの事も考えられるからね。特に今回の相手がビッグゴブリン率いるゴブリンの群れならね」
「……」
「ところで―――」
アレンはチラッと嫌そうな目つきでこっちを見る。
「この男は誰だい?」
「彼は今回私達に任された依頼に関わったから、報告の為に来てもらったの」
「ただ関わったのなら、関係無い一般人を連れてくる事も無いと思うけど?」
「ゴブリンの群れはおろか、頭目のビッグゴブリンを一人で全滅させても、関わりがないと?」
「……」
それを聞きアレンは驚いた表情で俺を見る。
「う、嘘だろ? こんなやつが一人で?」
信じられないような表情を浮かべて俺を指差す。っつか、人に指差すなよ。失礼だろ。
「事実よ。それに彼がいなければ私は五体満足で帰る事が出来たか怪しかったから」
「……?」
「帰りにその群れの生き残りに襲われて、私は脚を負傷した。しかも痺れ薬付きで動きを封じられてね。
さすがにあの時は駄目かと思ったわ」
「……」
「でも、そんな時に彼が私をゴブリンから守ってくれた。こうして帰って来れたのも彼のお陰なの」
「……」
「他に何か聞くことがある?」
「い、いや」
アレンは特に何も言わず俺達の元を離れていく。
後ろを振り返った際に、あいつ一瞬だけ俺を睨みつけていた。
「フィリア。さっきのやつは?」
「……アレン。アレン・ガーバイン。この辺りで権力のあるガーバイン侯爵の息子よ」
「つまり貴族か。通りで他の騎士たちと鎧と服装に違いがあったのか」
それに俺に対しての話し方もどことなく上から目線だったし。
「アレンは貴族とあって、団長も手を焼いているのよ」
「結構身勝手なのか?」
「えぇ。貴族とあって団長も下手に処罰を与えられないのよ」
「なるほど」
立場を利用して処罰を与えられないようにしているのか。
立ち去ったアレンを思い出しながら、鼻を鳴らす。
それから再び歩き出して、駐屯地の入り口付近に到着する。
「それじゃ、またどこかでな」
「えぇ。キョウスケも、気をつけてね」
「あぁ」
フィリアに手を振りながら踵を返して駐屯地を出ようと一歩前に出る。
「きょ、キョウスケ!」
「……?」
急に呼び止められて俺は立ち止まって後ろを振り向く。
「……冒険者になっても、が、頑張ってね」
「あぁ。フィリアもな」
そう一言いって俺は駐屯地を出て行った。