答えの表と裏   作:Y I

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それではどうぞ!




第8話

 

 

「ヒャッハー今日も大量だぜ!」

 

 妖介は嬉しそうにそう言いながら疾走する。

 彼の背中にあるリュックサックの中には大量のパンやおにぎりなどの食べ物が入っている。勿論持ち主は別の人物である。

 

 そして例の如く――

 

 

 

「待てや、ゴラァ」

「なにが大量だぜ、だ! それは俺らのだろ!」

「ゲス! クズ!! 外道!!!」

 

「あーはいはい。で? なに?」

 

 

 罵詈雑言を浴びながら追われていた。

 

 

 最早日常になっている妖介による逃走劇。

 妖介にとっては二重の意味でメシウマーな時間、他の生徒達からしたら傍迷惑な時間である。

 

 

 

 いつものルートを疾走していると〝天敵その2〟を発見した。ちなみにその1は綾辻である。

 いつもなら避けて通るのだが〝天敵その2〟の手には妖介の好きなメロンパンがあった。

 

 妖介の目が光る。

 

 あれは盗るしかない。盗らなければいけない。

 そんな使命感にかられる。

 

 しかし、『サイドエフェクト』で盗れないことは分かっている。どうせ()()()()()()のだから。

 だからといって諦めるわけにはいかず、天敵とその仲間へ走っていく――

 

 

「ハァ……また?」

 

 妖介がパンを盗ろうとして伸ばした手をめんどくさそうに、しかし、的確に払う。

 

「あんたもそろそろ諦めなよ」

 

 冷たくそう言うのは、天敵その2菊地原士郎(きくちはらしろう)

 転入して間もない頃、菊地原のパンを盗ろうとして今と同じ様に手を払われ、「きづかないとでも思った?」と鼻で笑われたことがあった。

 それ以来何度も盗ろうと画策し行動するも失敗に終わっていた。

 菊地原士郎はこの学校で唯一妖介が食料を調達できない人物だ。正に天敵である。

 

 

「そこに食料があるならば行かねばならぬだろう!」

「おちつけ天峰」

 

 盗れなかったことに憤慨する妖介を嗜めるのは、(カモ)こと歌川遼(うたがわりょう)

 菊地原に何度も挑んでいる内に知り合った。歌川自身最初は「なんだこいつ……」程度にしか思ってなかったが、雄助が1人暮らしで金が無いことを知ってから面倒見のいい歌川はパンをあげるようになった。

 例え菊地原のパンを盗り損ねても歌川がパンをくれるのだ。正に(カモ)である。

 

「俺のを1つやるから諦めろ」

「えー俺はメロンパンの方が「ならこのコロッケパンは俺が食べよう」て言うのは嘘で、コロッケパン大好きなんだわ」

 

 やれやれ、と言いながらもしっかりパンはくれる。やはり彼は(カモ)である。

 

 

「歌川はなんで毎回そんな奴にあげるかな……まあ、貰う方も乞食かよって感じだけど」

「うるせー陰キャ。黙って俺にパンをよこせ」

「盗れるもんなら盗ってみな」

《妖介、もう諦めなよ。菊地原君も『サイドエフェクト』持ってるんだから》

 

 

 雄助が言う様に菊地原は『サイドエフェクト』を持っている。

 

『強化聴覚』

 

 それが菊地原の持つ『サイドエフェクト』。

 一言で言えば「耳がいい」ただそれだけの能力である。菊地原本人でさえ指摘されるまでそれが『サイドエフェクト』だと気づかないほどだった。

 その性能は常人の5~6倍ほどであり、本人もショボい能力だと思っている。

 

 しかし、そのショボいと思っている能力は妖介に対して相性が良いらしく、とても役に立っている。

 

 

(まあ、本気出せば盗れないこともないけどな)

《そんなしょうもないことに本気出さないでよ!?》

(わかってるわ!)

 

「ところでさ」

「あ?」

「あれ、いいの?」

 

 菊地原はそう言って妖介の後ろを指しているので、妖介はそれに従い後ろを振り向くと

 

 

 

「いたぞ!あそこだ!」

「俺の飯を返せぇ!」

「こらー!天峰君待ちなさーい!」

 

 被害者達が追いかけてきていた。なぜだか先頭に綾辻もいる。

 

「……なんであいついんの? しかも先頭で」

「さあ? 副会長だからじゃない?」

「なにそれ、ダル……」

 

 妖介はため息混じりにそう言って走り出す。

 

 

 

 

 ――めんどいから今日はもう帰ろう。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 妖介が走り去っていくの見送った歌川と菊地原。唐突に歌川が話を切り出す。

 

「……菊地原は本当に天峰と仲がいいな」

「はあ? なんでさ」

 

 菊地原は否定の意味を込めて聞き返した。

 しかし、歌川は知っている。

 

「お前があそこまで毒を吐くのは仲が良い奴ぐらいだろ」

 

 そう指摘された菊地原は一瞬目を見開いたが、すぐさましかめっ面になった。

 

「仲なんて良くないよ」

「それにお前があんなに人と話すなんて珍しいからな」

「……そんなんじゃないよ」

 

 続けざまに指摘すると菊地原の眉間に更に皺が寄った。

 

 

 

 菊地原が初めて天峰雄助の名を聞いたのは戦闘訓練の記録が更新された時である。

 その時は、優秀そうな奴が入ってきたのか、と思っただけだった。普通であれば「優秀そうな奴」というのは期待されたりするものだが、菊地原は優秀そうな奴が嫌いだった。

 ましてや学校では昼休みになると飯を盗りにくる。本人からしたら嫌いな奴がちょっかいをかけてくるのだ。鬱陶しくてしょうがなかっただろう。

 

 

 だが、

 

 菊地原は見た。知った。

 

 彼、天峰雄助の異形の目を。その力を。

 

 

 自分と同じだった。天峰雄助も『サイドエフェクト』を持っていた。

 

 

 

 さらに、『サイドエフェクト』で苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 ――雄助は今も『サイドエフェクト』で苦しんでいる。

 お前は『サイドエフェクト』の苦労がわかるだろう。奴のことを少し気にかけてやってくれないか?

 

 定期検査で開発室に来た菊地原に『瞬間最適解導出能力』の力を説明した鬼怒田はそう頼んだのだ。

 

 菊地原も『強化聴覚』というランクで言えばCの『サイドエフェクト』なので大した能力でないと乏さたり、聞きたくない話や自分の悪口が聞こえてしまったり、『サイドエフェクト』の弊害を受けた。

 

 それに比べて雄助の『サイドエフェクト』はAランク。しかも強力な力である。

 なぜそんな奴のことを気にかけなければいけない。いい『サイドエフェクト』に恵まれた嫌な奴だ。そう思っていた。

 

 

 ところが鬼怒田に聞かされた雄助の持つ『瞬間最適解導出能力』の力は強力であると同時に恐ろしいものだった。

 

 目の変化、人の気持ちが理解できない、1度答えが出ると変更ができないなど、菊地原よりも多くの様々な弊害があったのだ。

 

 異形の目のことで虐められたりしただろう。

 

 1度出てしまった答えに苦労しただろう。

 

 自分の『サイドエフェクト』を捨てたいと思っただろう。

 

 

 

 いつしか嫌悪感はなくなり、親近感が湧いてきた。

 

 

 

「――ただ」

 

 故に、眉間に皺を寄せていた菊地原はため息をついてから口角をほんの少しだけ上げて、

 

 

「あいつのことは嫌いじゃないだけ」

 

 

 そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 一方、まだ午後の授業が残っていたにも関わらず学校を脱走してきた妖介は、珍しく雄助と口論をしていた。

 

「まだ午後の授業あったじゃん」

「今日はもう疲れたんだよ。それに受けたとこでじゃね」

「たしかにそうかも知れないけど卒業できなくなっちゃうかもしれないじゃん」

「そんときはしゃーなし」

 

 

 しゃーなしじゃないよ……と言って雄助は項垂れてしまった。

 

 

 

 2人は今精神世界で対話をしている。

 

 雄助の精神世界は、ただただ真っ白で何処まで続いているのかわからない空間。

 変えようと思えばどんな空間にでも変えることが出来る。夏には海にしたり、冬には雪山にしてスキーをしたりと2人の遊び場のような所である。

 

 しかし今は口論、もとい雄助のお説教が行われている。

 

「屋上で寝るのはいいけど、脱走はダメだよ」

「結局授業でてないけどな、それ」

「そうだけどもさすがに学校に居ないのはまずいよ……」

「試験で点取りゃいいんだよ」

「ハァ……まあそれはもういいよ。でも学校から脱走して、なんで本部に来たのさ」

「忍田さんに呼ばれたからだろ」

「呼ばれはしたけどさ……なんでよりによって()()で待つの!?」

 

 雄助の体があるのはボーダー本部。さらに細かく言えば、ボーダー本部内でもかなり人が集まる場所であり、隊員達が個人ポイントを取り合う場、ランク戦室。そのベンチに雄助の体はある。

 

「そりゃあ、あれだよ……なんだっけ」

「忘れないでよ!? みんな僕のこと見てるじゃん!」

 

 雄助は妖介に訴えかけるがすっとぼける。

 天峰雄助はボーダー隊員の中で良くも悪くも目立っているのだ。主に妖介のせいで。

 

 初の戦闘訓練で最高記録を叩き出したが、その後の戦闘訓練及びランク戦に1度も参加しなかった。その人物が突然ランク戦室に現れたので周りの隊員達はざわついていた。

 

「おい、あれって問題児の天峰じゃね」

「なんでここに居るんだろ」

「あいつこんなとこで寝てんのか」

「今さらランク戦すんのかよ」

 

「ホントだ。大人気じゃねぇか雄助」

「いい意味で見られてるわけじゃないけどね!」

 

 本人は動かないだけで寝てはいないのだがランク戦室で寝るような人が居れば目立つだろう。

 

「妖介は最近勝手すぎだよ。昨日玉狛に行った時も言うだけ言って帰っちゃうし」

「しょうがねぇだろ、あいつらが嘘つくからだ」

「それでもあそこまできつく言わなくてもいいじゃん」

「そうですねー。レイジさんの飯美味かったなー」

「たしかに美味しかったねー……ってそうじゃなくて!」

 

 妖介のボケに雄助がツッコミというちょっとした漫才を繰り広げているが雄助は至って真面目に話をしている。妖介は適当に聞き流しているが。

 

「昨日帰らないで残ってたら迅悠一って人の話を聞けたかもしれないし、もしかしたら会えたかもしれなかったじゃん」

「ん?……あ、そうか!」

「妖介のおバカ!!」

 

 昨日あんなにもシリアスな雰囲気を出して玉狛支部の面々に緊迫感を与えていた2人。ところが本人達はそこまで落ち込んでいるわけでも怒っているわけでもない。むしろ、もう1度レイジの飯を食いに行こうかと思っているほどだ。

 

 なぜそう思えるのかは、雄助は少しだけショックを受けたがあれが普通の反応だと思っているからだ。

 一種の諦めの様なものである。

 

 

 故に、今雄助が怒っているのは玉狛支部の面々に対してではない。妖介にである。

 

「もう妖介は出禁ね!」

「え、ちょま――」

 

 雄助は一方的に会話を中断して精神世界から出る。

 

 

 意識を覚醒させてこの後はどうするかを考える。

 忍田に呼ばれた要件は恐らく防衛任務についてだろう。

 

 防衛任務は隊ごとに就くものなのだが、生粋のコミュ障である雄助には隊を組むような友達が居ないし、隊を作るほどの行動力もない。中には1人だけでも防衛任務に就ける者もいるのだが、それは本部が認めた隊員だけであり、入隊したばかりの雄助が就けるわけがない。

 つまり、隊に所属していない雄助には防衛任務が出来ないということ。

 しかし、独り暮らしである雄助にとって防衛任務は大事な大事な資金源である。防衛任務のためだけにボーダーに入隊したと言っても過言ではない。ここで金を稼がなければ生きていけないのだから。

 

 よって雄助は忍田に()()()()を言った。

 

 そのわがままのことでの話だろう、と考えていたが、どういうわけか何やら視線を感じる。

 目を開けると周りには多くの隊員達が居て、皆が自分のことを見ていた。

 

 

「っ!」

 

 

 そのことを完全に忘れていた雄助は見られていることに耐えられなくなり、素早く立ち上がりランク戦室を後にする。

 

 忍田に呼ばれた時間まであと1時間以上ある。

 どこか落ち着ける場所に行こう、と考えたが開発室以外に行くあてがなかった。しかし、開発室の職員達は皆忙しいので逃げ込むためだけに行くのは仕事の邪魔するようで気がひけた。

 

 結局、行くあてのない雄助は仮眠室に隠っていようと仮眠室へと足を運ぶ。

 

 

 

 

「ねえ、君」

 

 

 

 しかし、突然前に現れた少年に声をかけられ、その足を止めた。

 

 

「……えっと、僕?」

「うん、そうそう。君」

 

 

 少年はニコニコとしながら雄助の質問を肯定する。

 

 

「今暇? 防衛任務とかない?」

「……あ、うん。ないよ」

「じゃあさ――」

 

 

 

 ニコニコとした顔を崩さずに少年――緑川駿(みどりかわしゅん)は言う。

 

 

 

 

「――個人(ソロ)のランク戦しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば雄助の『サイドエフェクト』の元ネタはガッシュ○ルの『アンサートーカー』なんです。

まあ知ってる人多かったと思いますけどね 笑

ガッシュ○ル面白いんでよかった見ることをオススメします。私的には漫画の方が好きです。

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