大学生活って大変ですね……。
頑張ろ( ;∀;)
「……は?」
扉を開けた雄助は素っ頓狂な声をあげた。
一番最初に目に入ったのはカピバラ。と、それにライドオンしている少年。
まずカピバラがデカイ。なぜボーダーの支部にいるのかも気になるが、初めてみるカピバラのデカさに驚いた。1メートルくらいとは言え子供を背中に乗せている。さらにその少年はヘルメットをしていて、カピバラに乗る姿は威風堂々としている。
この子はカピバライダーかな? とくだらないことを考えていると少年の方から声をかけてきた。
「むっ、しんいりか……?」
《……なんでこいつ偉そうなん?》
(なんでだろうね……)
妖介の真っ当な疑問にそう返すしかなかった雄助。
カピバラにライドオンしている偉そうな少年は玉狛支部所属のお子さま隊員、
さすがに無反応はいけない、と思い新入りではないことを伝える。
「あのー新入りではないんですが――」
「どうしたの陽太郎、お客さ……!?」
しかし、続けて人を探してることを陽太郎に伝える前に現れたのはここへ来る要因となった人物、ボーダーメガネ人間協会名誉会長こと宇佐美栞。
宇佐美は雄助と目が合うと固まってしまった。
(うっそぉぉぉお!! 話題になった当日に来ちゃったよ!)
ここへ来てはいけない人物が来てしまい内心では大慌てだが努めて平静を装い雄助へ話しかける。
「あ、天峰くんだよね。どうしたの?」
「えっと、僕人探しをしてて、それでその人は本部の方には居なかったので支部にも行こうかなってなって、それで前に宇佐美さんが紹介してくれたここを最初に……」
(やっぱりかー……どうしよう)
女性が苦手な雄助はつっかえながらも玉狛支部へ来た理由を話すが、宇佐美は自分の発言が雄助をここへ導いてしまったことを後悔していた。
そんな宇佐美の心の内など分からない雄助は、目に見えて落ち込んでいる宇佐美を見て首を傾げる。
自分は何か粗相をしてしまっただろうか? と。そう思って視線を落として気づいた。
「あ! すいません! どうぞ、こ、心ばかりの品ですが!」
差し入れの和菓子を渡してないことに。
雄助は初対面で失礼があったらいけない、と思い来る前に差し入れを渡す時の正しい言葉遣いを調べて、「つまらないものですが」はかえって失礼だというので「心ばかりの品ですが」というフレーズをチョイスしたのだ。
「え……ああ! 差し入れね! ありがとう」
しかし、渡された本人は一瞬それがなんなのか理解できないほど思考に囚われていた。主に雄助のせいで。
「ここで話すのもあれだからリビング行こうか」
「すいません。ありがとうございます」
結局、差し入れまで持ってきてくれた彼を帰すのもどうかと思い、中に通すことにした。
雄助は一度靴を脱いでから振り返り、靴を外側に向け端の方に寄せてから宇佐美についていく。ちゃんと予習済みである。
宇佐美に連れられリビングに行くと1人の少女がいた。
「あ、小南。お客さんだよ」
「……誰よ、そいつ」
そう言って雄助を横目で睨むのは、A級玉狛第1の
17歳という年齢の低さに反して、正隊員の中で一番キャリアが長く、旧ボーダー時代から所属していた古株である。そのキャリアの長さもあってか個人ランクでは攻撃手No.3を誇る。
そんな実力者に睨まれた雄助は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「あ、天、天峰、ゆ、雄助です!」
「緊張しすぎよ」
「天峰くんは初めての戦闘訓練で1.3秒の過去最高記録を出したんだよ」
《ちなみにあの記録は俺の誕生日と合わせてみました》
(い、今言うこと? まあ、分かってたけど)
妖介の言葉で少し緊張が和らいだ。
初の戦闘訓練の記録1.3秒。やろうと思えば1秒を切ることも出来たが妖介は自身の誕生日である1月3日に合わせるためやらなかったのだ。
そしてその記録を聞いた小南は瞠目していたが、すぐさま好奇の目に変わった。
「へぇ……暇してたし、ちょうどいいわ」
「え?」
言葉の意味を理解する前に雄助は小南に手を引っ張られて奥に連れてかれる。
わけもわからず連れてかれる雄助は視線で宇佐美に助けを求める。が、合掌するだけで何もしてくれず、結局わけもわからないままエスカレーターのようなものに乗せられてしまった。
雄助が連れて来られたのは何も無い正方形の部屋。
しかし、次の瞬間部屋は町へと変貌した。それが意味するのは――
「なにしてるの。あんたも早く換装しなさいよ」
「あ、はい……あれ?」
突如町に変わった空間に驚いていると小南に声を掛けられ、反射的にその言葉に従い『トリオン体』になる。
ところがトリオン体になって小南を見るとなぜか髪が短くなっていた。
「なんで髪が短くなってるんですか?」
「『トリオン体』の外見は生身と違う姿に多少は変えることができるのよ。戦闘時に髪が長いと邪魔だから短めにしたの」
なら身長を高くしてようかな、と考えていると小南が大きな斧を構えている。
最初は小南が斧を構えている理由が分からなくて首を傾げていたが、その理由を理解した瞬間に雄助の顔が青くなる。
相手は武器を構えている。さらに、何も無い部屋から町へと変貌したということは、2人が居る場所は『トリオン』でできた
つまり、今から行うのは今まで避けてきた
「じゃあ……そろそろいくわよ!」
「え、ちょま――」
* * *
烏丸京介は困惑していた。
「ぐすっ……」
「いきなり攻撃して悪かったわよ……」
「元気出して、天峰君」
玉狛支部へ帰ってくると見知らぬ靴が有ったため誰か客が来ているとは思っていたが、なぜが客であろう少年は部屋の隅で体育座りをして涙目、そしてその少年を慰める同じ隊の2人。
「どうしてこうなったんすか……」
「俺にも説明してくれるか」
「あ、とりまるくん、レイジさんおかえりー」
いつもの仏頂面が少し崩れて困惑した様子なのは、小南と同じ隊の
ボーダー内外問わずイケメン認定されているほどのイケメン。ちなみに、本当は「からすま」なのだが「とりまる」とよく呼ばれている。
そして鳥丸に続いて現れたのは、小南、烏丸と同じ隊で隊長の
小南と同様に旧ボーダー時代から所属し続けている古株の隊員で、現在ボーダー内で唯一、全てのポジションをこなせる
2人にこれまでの経緯を話すと、レイジはため息をつき、鳥丸は仏頂面で「まあ、小南先輩ですから」と呆れたように言う。
「だってこいつ最初の戦闘訓練で1.3秒だったのよ! そりゃ強いと思うでしょ!?」
「だからって新人を虐めるのはよくないっすよ」
「一回しかやってないわよ! それに終わったら泣き出しちゃうし、まるで別人みたいじゃない……」
〝別人みたい〟のところに雄助と鳥丸が反応する。
雄助はギクリといった感じだが、烏丸はキランと面白い物を見つけた様な感じだ。
「え、小南先輩知らなかったんですか? こいつ、二重人格なんですよ」
「えっ……!? そうなの!?」
「私も知ってたよー」
この流れは玉狛支部ではお決まりだ。
小南は非常に騙されやすく、過去に胸が大きくなるという触れ込みに騙されて大量に飴を買ったこともある。
そのため、よく適当な事を言われてからかわれているのだが――
「栞も!? じゃあレイジさんは……?」
「ああ、二重人格なんて「なんで知ってるんですか!?」」
「まあ、嘘なん……え?」
「え?」
「「「え?」」」
* * *
「じゃあ、戦闘訓練と問題行動の時の天峰君はもう1人の天峰君ってこと?」
「ええ……まあ、そうです」
あまり言いたいことではなかったのだが小南の言いなさいよオーラに負けて、自分が二重人格であること、妖介の存在、妖介がやったこと、全て話してしまった。
「なるほどー……、じゃあせっかくだしもう1人の天峰君も含めて自己紹介しようか」
学校で問題児の雄助とここへ来たときのおとなしい雄助の違いに納得した宇佐美は、雄助と妖介を含んだ自己紹介を提案した。
「じゃあこっち側から。さっき雄助君を泣かせたのが小南桐絵17歳」
「もうそれはいいじゃない!」
雄助を泣かせてしまったことを言われ、小南は気まずそうな顔でそっぽをむく。
「こっちのもさもさした男前が烏丸京介16歳」
「もさもさした男前です。よろしく」
無表情のまま自分の紹介をそのまま復唱する鳥丸。
「こっちの落ち着いた筋肉が木崎レイジ21歳」
「落ち着いた筋肉……? それ人間か?」
レイジの指摘はごもっともだが宇佐美の耳には届かない。
一通り玉狛側の紹介が終わると雄助は全員の顔を見て名前と顔を一致させていく。
「ムキムキで頭の良い人が木崎さん」
《それじゃゴリラだな》
(妖介うるさい)
「レイジでいいぞ」
「イケメンでクールなのが烏丸先輩」
《こいつ近くのスーパーにいたな》
(だよね。すごい列できてたレジの人だよ)
「よろしく」
「かわいいけど少し怖いのが小南先輩」
《……》
「怖くないわよ……え!」
「じゃあ次は僕が」
「ちょっともう一回、もう一回言ってよ!」
雄助が漏らした「かわいい」という言葉に小南が驚き半分嬉しさ半分といった反応する。
良くも悪くも雄助は思ったことを言ってしまう。それに慣れている妖介は何も言わず、ただ呆れるだけである。
玉狛側の顔と名前を一致させると今度は雄助達が自己紹介を始める。
「僕が天峰雄助、高1です。で、戦闘訓練とか問題行動をしてたのが――」
「――妖介。歳は16、まあ高2ってとこか」
妖介の登場に全員が目を丸くした。
「雰囲気とか目付きって結構変わるんだねー」
「本当に二重人格だったのか……」
宇佐美とレイジの反応に今度は妖介が目を丸くする。
「意外とあっさり信じるんだな、お前ら」
「だって、ねぇ?」
「あんた自分で分かってないかもしれないけど、顔つきが全然違うわよ」
「ふーん……そうか」
嵐山隊を除き今まで二重人格について話した人達は、基本的に信じてくれず、妖介の存在を否定して「頭のおかしい奴」と言われるだけだった。それが雄助が二重人格について話さない理由でもある。
しかし、今回の人達は妖介の存在を否定しなかった。それが柄にもなく嬉しくて口角が上がってしまった。
「まあ、雄助を泣かしたお前は許さんがな」
《それはもういいよ……》
「うぐ……悪かったっと思ってるわよ……」
まあこいつは大丈夫だろう、と考えて雄助と変わると、雄助に変わったのに気づいたのか烏丸が疑問を口にする。
「ていうか、天峰は高1だろ? 俺も高1なんだが、なんで先輩なんだ?」
「えっと、ボーダーに入ったのは烏丸先輩が先だから……」
真面目か、全員がそう思った。
「いや、烏丸でもとりまるでも呼び捨てでいいぞ。タメなんだし」
「じゃあとりまる君でいいですか?」
「あと敬語も」
「あ、は……うん」
これには烏丸もさすがに苦笑い。
結局雄助は、とりまる君、小南先輩、レイジさんと呼ぶことにした。鳥丸達は天峰だとどっちかわからなくなるから雄助、妖介と呼ぶようになった。勿論妖介は全員呼び捨てである。
烏丸とは学年が同じということもあり、話が弾んだ。どこの学校か、成績はどうだ、ボーダーでのこと、そして――家族のことも。
家族のことを聞かれ天涯孤独の身であることを遠慮がちに言うと、雰囲気が重苦しなってしまった。それに気まずくなり、場の空気を変えようと烏丸の話を聞くことにした。
「と、とりまる君は兄弟とかいるの?」
「ああ、いるぞ。弟と妹が2人ずつ」
「5人兄妹かー……ん? じゃあバイトを掛け持ちしているのは……」
「ああ、貧乏だからな」
「とりまる君!」
雄助は烏丸の手を力強く握る。
「お互い頑張ろう!」
「ん? ああ」
烏丸はいまいち理解できてないが、雄助は基本的に金がなく、常にひもじい思いをしていたので、貧乏仲間を見つけ得難い喜びを感じてつい握手をしてしまったのだ。
そんな貧乏仲間同士で力強く握手をしていると雄助の腹の虫が盛大に鳴った。
「あ……」
「飯……食ってくか?」
「……頂きます」
ちなみにレイジの作った肉肉肉野菜炒めを食べた妖介はレイジのことをさん付けで呼ぶようになったのだった。
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