答えの表と裏   作:Y I

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本当にありがとうございますm(__)m



本文は前回から2月後からのスタートです。

ではどうぞ!


第4話

 本格的に寒くなってくる秋の暮れ。雄助がボーダーに入隊してから2ヶ月が過ぎた。

 この2ヶ月で様々な変化があった。

 

 

 つい先日、雄助はB級に昇格した。

 3000ポイントからのスタートにしては遅い昇格だが、色々と問題があったのだ。

 

 C級ランク戦は訓練生――C級隊員だけでポイントの取り合いをする勝負で、手っ取り早くB級になるにはランク戦をするのがいいのだが、雄助は1度も参加しなかった。

 参加しなかった理由は至極簡単である。斬る、斬られる、撃つ、撃たれる、それら全てが怖いからだ。戦闘訓練も同じ理由でやらなかった。それなら妖介にやってもらえばいいのだが「俺はメンドイからパス、お前がやれ」と厳しいお言葉をいただいたので諦めて普通にサボった。

 結果、他の訓練でポイントを稼ぐしかなかったのだが、その他の訓練が雄助の得意分野だった。

 地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練、パルクールが出来る上に逃げる隠れるが得意な雄助は、これらの訓練を毎回1位でクリアした。

 しかし、雄助が戦闘訓練及びランク戦をしない理由など知らない他のC級隊員達は、雄助のことを良くは思わなかった。初回の戦闘訓練で最高タイムを出したのに、その後の戦闘訓練及びランク戦に参加しないで、その他の訓練には参加する。そのためC級隊員達の中では陰口や根も葉もない噂が横行している。

 そんなことなど知らない雄助は、黙々と訓練をこなしたが1位でクリアしても20点しか貰えないのでB級昇格に2ヶ月もの時間が掛かってしまったのだ。

 

 

 

 

「天峰君、()()ここにいたの……」

 

 呆れるように雄助へ話しかけてきたのは嵐山隊オペレーター、綾辻遥。

 入隊式の翌日に入隊式での一件を謝罪したい、と嵐山に作戦室へ呼ばれた時に同じ学校の生徒会副会長だとわかった。

 綾辻を確認するや否や、妖介にSOS信号を送る。

 

(妖介変わって!)

《ハァ……あいよ――》

「もう授業始まるよー。またサボるの?」

 

 綾辻が言うようにあと5分もすれば始業のチャイムがなるのだが、綾辻達が居るのは学校の屋上である。

 妖介はいつも屋上で授業をサボっているのだが綾辻に一度見つかってから毎日のように屋上に叱りに来ていた。

 入れ変わった妖介は綾辻をダルそうな目で見る。

 

「――うるせぇなー俺は眠いんだよ」

「あーまた()()()の天峰君が出てきてる」

 

 寝る体勢になった妖介を見て綾辻はため息をつく。雄助と妖介のサボりが綾辻に知られてから2ヶ月。このやり取りはほぼ毎日行われていた。

 

 

 

 暫く沈黙が続いていたが唐突に妖介が切り出した。

 

 

「ところでいいのか?」

「んー? なにが?」

「もう授業始まるぞ。優等生」

 

 妖介に言われハッとする。綾辻はすっかり忘れていたが屋上に来た時点で授業開始まで5分を切っていたのだからもう始まってもおかしくない時間だ。

 

「あー! もう行かなきゃ。ちゃんと授業でるんだよ!」

「必要無いんで大丈夫で~す」

 

 慌てて走って行く綾辻を小馬鹿にしながらもう一度寝る体勢をとる。

 雄助も最初の頃は妖介の行動を抑制しようとしていたが、回数を重ねるほどに「ちゃんと授業出なきゃ駄目だよ」「今日はいいけど明日は出るよ」「……今日はサボる?」「今日は昼寝日和だね!」と段々サボるようになり、最近では自分から昼寝しに行くようになった。とてもいい笑顔で。

 

 

「……なあ、雄助」

《どうしたの?》

「そろそろ慣れてくんね」

《うぐ……》

 

 綾辻が居なくなり、授業開始のチャイムだけが聞こえる屋上で会話――傍から見れば独り言をする2人。

 妖介が言う慣れろ、というのは綾辻のことである。

 綾辻と知り合って2ヶ月。この2ヶ月間で雄助が綾辻と会話した回数はほぼ0である。あるとすれば「おはよう」「え、あ、は、はい」という挨拶と言って良いのか怪しいやり取りぐらいである。

 

「いつかは慣れてくれよ」

《頑張ります……》

 

 あ、こいつ諦めてやがる、と思いつつも元に戻る。

 

《――ふぅ、つうかさー()()()見つかんなくね》

「そういえばそうだねー。2ヶ月で1度も会わなかったね」

 

 2人が探すあいつとは、某セクハラエリートなのだが、入隊してから1度も見つからない。それには理由があり、嵐山隊と忍田が接触しないように働きかけているからだ。そのことを2人は知らないが。

 

《名前は迅悠一だったっけか》

「2ヶ月で名前とサングラス、あとサイドエフェクトしか分かんなかったね」

 

 噂でしか聞かなかったが迅悠一のサイドエフェクト『未来視』。

 目の前の人間の少し先の未来が見える。つまり、現実を人為的にあり得る未来に近づけることによって〝未来の操作〟が可能であるということ。

 それが2人には重要なことだった。

 

《でも、こっちに来て正解だったな》

「そうだね。本人が居たことだし、それに『未来視』のサイドエフェクト……」

《ああ、多分ビンゴだ》

「でも本人が見つからないんじゃしょうがないよね……」

《それなんだよなー。もしかしたら支部とかに居るかもな》

「じゃあさ、前に眼鏡の人が言ってた支部行ってみない?」

《あーいんじゃね、今度そこ行ってみるか》

「ちゃんと差し入れ持ってかなきゃね」

《はいはい。んじゃあ、俺は寝るわ》

「りょうかーい」

 

 三門市に来る前に2人で話し合った内容を再確認しながら次の予定を決める。

 眼鏡の人とは本部で暇していたときにキミもウチに入る? メガネ人口増やそうぜ、と勧誘してきたボーダーメガネ人間協会名誉会長様だ。その時サングラスをかけていたのだがサングラスも眼鏡と一緒なのだろうか。いや、違うはずだ。

 まあ、結局その勧誘は丁重にお断りしたのだが。

 

 話が終わると妖介が寝てしまい、また静かになった屋上。雄助も寝ようとしてそういえば、と思い出し彼はポツリと呟く。

 

 

「――玉狛支部ってどこにあるのかな」

 

 

 嵐山隊と忍田の努力が水の泡になる言葉を。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……ハァ」

 

 時刻は13時、学生達が楽しみにしていた昼食の時間である。

 クラスメイト達が食堂に行くなり、教室で談笑しながら持ってきた弁当を食べている中、大きなため息をついたのは綾辻である。

 

「どうしたの遥?」

 

 ため息をつく綾辻を心配して声をかけたのは、B級1位二宮隊のオペレーター、氷見亜季。

 

「ため息つくと幸せが逃げるよ~」

 

 そう言って茶化すのは、A級玉狛第1のオペレーター、宇佐美栞。

 この3人は同じクラスで、今は向かい合う形で昼食をとっている。

 

「天峰君のことでちょっとね……」

「あーあの問題児君か」

 

 宇佐美が言う問題児。それはボーダー隊員としても、学校の生徒としても言えることだった。

 初期ポイントの高さに胡座をかいて戦闘訓練及びランク戦に参加しない。しかし、近界民(ネイバー)のことを憎んでいる。それが雄助に対する周りの認識だ。実際は違うのだが、それを知るのは一部の人間だけである。

 氷見は宇佐美の口から出た問題児という言葉に「ああ、あの」と反応する。

 

「あの子って不思議だよね。近界民が憎いならランク戦やって早くB級になればよかったのに、なんでランク戦やらなかったんだろう」

「……そうだね」

 

 氷見の疑問は尤もであった。C級隊員は基地外でのトリガー使用が禁じられており、近界民の討伐はB級にならないと出来ない。近界民が憎い、と言うならばランク戦で手っ取り早くB級に上がればいいのに彼はしない。それが不思議であった。

 綾辻はその理由を知っているが妖介に口止めされているため言えずにいた。

 

「それで、問題児君のことでなにがあったの?」

「生徒会として授業をサボる生徒を放置するわけにいかないけど言うことは聞いてくれないし、それにこの後()()がまた始まるでしょ……」

「つまり、手を焼いていると」

「そういうこと」

 

 もう一度大きなため息をついて、自分で作った卵焼きを食べる。

 

 

「でも話した感じでは良い子だと思うけどなー」

 

 しかし、宇佐美が言った言葉で卵焼きを吹き出しそうになった。

 

「話したの!? なんで!?」

「え? なんでって、サングラスかけてたからだけど……サングラスって眼鏡の親戚みたいなもんじゃん?」

「ごめん、栞。意味わかんない」

 

 宇佐美の眼鏡愛は基本的に人に共感されにくい。というかできない。愛が強すぎるのだ。

 彼女の眼鏡愛はおいといて、話す程度なら問題はないかと思い気を取り直す。

 

 

「それでどんな話したの?」

「君も玉狛支部(うち)こないかって」

 

 

 ところがどっこい一番まずい話をしてたのだ。

 綾辻は叩きつけんばかりの勢いで机に顔をぶつける。

 

 

「えっと……遥?」

「……」

 

 氷見が声をかけるが返答はない。

 玉狛支部のことを2ヶ月間も隠してきたのに、あろうことか玉狛支部所属の人間にバラされていたのだ。そりゃこうなる。

 暫くして、ショックで項垂れていた綾辻はゆっくりと顔を上げる。

 

「……まあ、いつかはバレることだよね」

 

 そう言って綾辻は宇佐美、氷見に事情を説明した。と言っても玉狛支部を知られてはいけない理由だけだが。さすがに病のことまでは言わなかった。

 雄助の、と言うよりは妖介の目的を聞いた2人は動揺を隠せないでいた。

 

 

「……つまり、近界民(ネイバー)だけじゃなくて迅さんもってこと……?」

「……うん。だからあんまり玉狛のことを雄助君に知られたくなかったの」

「そっか……ごめんね遥」

「ううん、大丈夫。いつかはバレることだったし、玉狛支部っていう支部があるってバレただけだから大丈夫だよ」

 

 さ、ご飯食べよ! と続けて、場の雰囲気を変える。

 

「うん、そうだね」

「今は考えたってしょうがないしね」

 

 2人もそれに応えて食事を再開する。

 

 食事を再開してすぐに宇佐美が話題を振ってきた。

 

「ところでさ遥は雄助君のこと、どう思ってるの?」

「……どう、とは」

「好きなのかなーって」

「な、なんで?」

「あーたしかに。よく一緒にいるし」

「それは授業に出なって言ってるだけだよ……」

 

 宇佐美が振ってきた話題は雄助のことをどう思っているかであった。

 たしかに氷見が言うように綾辻は雄助とよく一緒にいる。が、実際はほとんど注意をしているだけで、たまにボーダーについて話したりする程度である。それに話しているのは雄助ではなく妖介とだ。

 

「えーつまんなーい」

「つまんなくていいいの……ん?」

 

 ガールズトークをしていると廊下から数人が走る騒音と騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

「まただ……」

 

 綾辻が肩を落としてそう言った。

 次第に大きくなる騒音と騒ぎ声の正体は――

 

 

 

 

「あいつを捕まえろー!」

「てめぇ、俺の昼飯返しやがれ!」

「待ちやがれ、クソ野郎!」

「いつもいつもふざけんな! 天峰ぇ!!」

 

 

「アーハッハッハッハッ、盗られるお前らが悪いんだよ! マヌケ共が!」

 

 罵詈雑言を浴びて集団の先頭を高笑いしながら疾走するのは天峰雄助――正しくは妖介だが。

 妖介はこの学校に入学してからほぼ毎日のように他生徒の昼飯を盗み食いをしていた。しかも『サイドエフェクト』をフル活用して。

 

 生徒達はいつものように彼の悪口を言ってはやり返される。

 

 

「気持ちわりぃ目しやが――」

「――鏡で自分の顔見てから言えよ。てめぇの顔の方がよっぽど気持ちわりぃわ」

 

 1人目。見事に撃沈。

 

「人から食べ物盗んで乞食――」

「――黙れ、ゴミみたいな声しやがって。飯は俺が食ってやってるんだ。感謝しろゴミボ」

 

 2人目。これまた見事に撃沈。

 

「クソチビの――」

「――あ? 今なんつった?」

 

 

 そして3人目にして妖介の地雷を踏んでしまった。

 

「……今チビっつったのか?」

《妖介抑えて抑えて!》

「お、おう。も、文句あるかよ!」

 

 ピタリと止まってドスの利いた声で再度聞く。

 たしかに雄助の身長は高校1年生の全国平均より5センチほど低い。対して彼にチビと言った生徒は170センチを余裕で越えている。身長差が10センチもあればチビと言ってしまうのも無理もない。

 

 しかし、言った相手が悪かった。

 

 

 

「世の中にはなぁ、言っちゃいけねぇこともあんだよ」

 

 

 妖介は低身長であることをとても気にしていた。しかもそれを高身長のやつが言ったことで更に彼を激昂させたのだ。

 

 

 

「こらー! なにやってるの天峰君!」

 

 今にも掴みかかりそうになった時、廊下に綾辻の制止の声が響いた。

 

「……げっ、またお前かよ」

 

 そう言い心底嫌そうな顔で綾辻を見る。

 妖介は綾辻が苦手である。ただ真面目だからだ。雄助の場合は他の理由があるのだが今はいいだろう。 

 

「げっ、とはなに! だいたい悪いのは天峰君の方でしょ! 毎度毎度人の食べ物盗んで……」

「あーはいはい。わかりましたー」

「あ、こらー! 待ちなさーい!」

 

 お説教モードに入った綾辻に適当な返事をして妖介は走って逃げる。そして綾辻も同じように走って彼を追いかけていってしまった。

 取り残された生徒達は呆然とするしかなかった。

 

 

 そして、一連のやり取りを見ていた宇佐美は独りごちた。

 

 

「あれじゃ遥がオカンみたいだね」

 

 

 ボーダーのマドンナは妖介に対してはオカンになってしまうようだ。

 

 

 

 

 




これからも学校での話がちょくちょくでてきます。

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