答えの表と裏   作:Y I

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今回は説明回です。

色々とやっちまった感はありますが後悔はしてません 笑


では、どうぞ!


第3話

 仮眠室に3人の人物が居た。

 今日ボーダーへ入隊して戦闘訓練で過去最高の1.3秒を叩き出し、寝るためにここへ来た、天峰雄助。

 雄助の対面に座るのは、先程まで入隊指導をしていた嵐山隊隊長、嵐山准。

 その隣に座るのは、嵐山の直属の上司であり、入隊式で訓練生達に激励を送ったボーダー本部長、忍田真史。

 

 

「俺寝るためにここ来たんだけどさ、何で人増えてんの?」

「すまない、急に倒れた者がいると聞いたものでな。それに少し話を聞かせてくれ」

「話すことなんてねぇと思うけどなー」

 

 寝るためにここまで来たのに、なぜか嵐山に加え本部長まで来て、隣のベッドに座り話しかけてくるため雄助は不機嫌になっていた。

 

「まずは謝罪をさせてもらいたい。私の部下が迷惑をかけてすまない」

「俺からも、止めにはいるのが遅れてすまなかった」

 

 そう言い二人は頭を下げたのだ。

 まさか謝ってくるとは思っていなかったので雄助は面食らう。それと同時に意外だと思った。

 人の上に立つ人物が今日入隊したばかりの新入りに頭を下げるとは思わなかったからだ。

 

「お、おう。まあ、そういうのは雄助に言ってやってくれ」

「ん? 君が雄助君ではないのか?」

「んあ?……あーそかそかそりゃ知らねぇわな」

 

 話が少々噛み合わないが、どうやらこの場にいるのは雄助ではないようだ。

 その雄助ではない人物が説明を始める。

 

「まず雄助は精神病を2つ患っている。その内の1つが俺だ」

「どうゆうことだ?」

 

 自分が病気だと言う意味が理解できず聞き返す忍田。嵐山も口には出さないが理解できない。

 

 

 

 

 

 

「解離性同一性障害――つまり〝二重人格〟だ」

 

 

 雄助ではない人物の口から出た言葉は聞き慣れない、しかし理解できる言葉だった。

 

 

 二重人格

 堪えられない状況を自分ではないと感じたり、その時の感情や記憶を切り離し、それを思い出せなくすることで心のダメージを回避しようとして、切り離した感情や記憶が成長することで別の人格となって表に現れ、1人の人間の中で2つの人格が共存するようになる病である。

 

「雄助が主人格で俺は後からできた人格だ。名前は妖介(ようすけ)。歳は16歳、高校二年ってとこだ」

「じゃあ昨日会ったのもさっきの記録を出したのも……」

「ああ、俺だ。昨日はお前の顔見たら急に雄助が出てきて逃げちまったけどな」

 

 なるほど、と嵐山は思った。

 二重人格ならば今までの変わりようにも納得できる。刺々しい雰囲気が妖介で弱々しい雰囲気なのが雄助なのだろう。

 

「……それでもう1つの方はなんて病なんだ?」

「俺的にはこっちの方が重要で〝心的外傷後ストレス障害〟ってやつなんだけど、トラウマを掘り返されると気絶したりしちゃうんだわ」

 

 

 もう1つの病が何か聞いた忍田は、妖介の口にした病名を聞いて戦慄した。

 

 

(彼はこの歳でどれ程心に傷を負ったんだ……!)

 

 精神的に耐えられない状況を人格を2つにすることによってダメージを回避するのが二重人格であり、強い精神的ダメージを受け、それがトラウマになるのが心的外傷後ストレス障害だ。

 

 つまり雄助は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を受けたということ。

 

 それは普通に生活ができていることが異常なほどの精神的ダメージである。

 

 

「そんでこの2つの原因だが、雄助は第一次大規模侵攻の時、目の前で両親が殺されたんだ」

「そう……なのか」

 

 続けざまに出てきた言葉は簡単に聞き流せるものではなかった。

 

 かの大規模災害、第一次大規模侵攻。

 犠牲者1200人以上、400人以上が今も行方不明になった災害。その中には雄助の両親も含まれているということだ。

 

 つまり、家族構成欄の空白はやはり天涯孤独の身であるためだった。

 

「まあ、だからといってそれだけじゃこんなにはなんねぇ」

「何か他に理由があるのか?」

 

 両親を亡くした。それだけでも充分つらいはずなのにまだ何かあるらしい。

 嵐山がその内容が何か聞くと妖介は怒りと苛立ちを含んだ声で説明を始めた。

 

 

「雄助の両親を殺したのは近界民(ネイバー)だが、原因は違う」

「それはどういう……」

「知らねぇ女が自分が助かりたいが為に雄助のことを身代わりにしようと近界民の方に突き飛ばしやがった。それで両親は雄助を庇って殺されたんだ」

 

 

 つまり、雄助は両親を目の前で殺された上に()に殺されそうになったということだ。当時まだ小学生だった雄助にはあまりにも辛すぎる出来事である。

 

「それから雄助は人を信じれなくなっちまってな。ついでに〝女〟が苦手になった。

 ……まあ、こっちは最近大丈夫になってきたけどな」

「こっちってことはもう1つあるのか?」

「ご名答」

 

 妖介がほれ、と目を異様な模様に変えて見せてくる。

 

「これは……」

「なーんでか知んないけどこうなっちまうんだわ」

 

 妖介の異様な模様になった目を見ても、忍田は特に動揺もせずに観察する様に目を見る。

 

「この目のせいで小さい時苦労してな、この目ってキモいだろ? だからさっきみたいな状況がよく有ったんだよ。これが2つ目のトラウマだ」

「その目になるとき目以外に何か変化はあるのか?」

「……あるっちゃある。が、あんま言いたかねぇ」

 

 この時、忍田は彼の目の模様は『副作用(サイドエフェクト)』によるものであると考えていた。

 

 『サイドエフェクト』とは、高いトリオン能力を持つ人間に稀に発現する超能力。とは言っても念力や飛行能力といった超常的なものではなく、あくまで人間の能力の延長線上のものでしかない。

 そしてあの目は副作用(サイドエフェクト)の副作用ではないかと考えたが、忍田は専門外なので技術開発室や専門医に任せることにした。

 

 

「話を戻すぞ。つまりさっきぶっ倒れたのは木虎? がトラウマを掘り返したからだ。

 んで、俺が出てきたってわけだ」

「そうだったのか……本当にすまなかった!」

「いやいや、あんたらより謝るべき奴がいるだろ……そこに居んだろ。入ってこいよ」

 

 妖介が扉に向かってそう言うと、木虎が目を伏せながら仮眠室に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 外で話を聞いていた木虎は後悔していた。

 

 記録を抜かれたことに、訓練生達に自分より尊敬されていたことに腹を立てた。突っかかってしまった。それで彼のトラウマを掘り返してしまった。

 

 なぜ腹を立てた?なぜ突っかかった?

 

 そんなこと木虎自身分かったていた。ただの〝嫉妬〟である。自分より彼の方がトリオン能力も記録も優れていることに嫉妬したのだ。

 そして雄助に対する嫉妬は、自分に対する怒りに変わり、雄助に八つ当たりしてしまった。

 

 故に、木虎が仮眠室に入って最初にすることは謝罪することである。

 

 

「……その、すいませんでした!」

 

 

 しかし、謝られた本人は何処吹く風と見向きもしない。

 暫くして、無視は可哀想だと思った嵐山は妖介に手を合わせ、何か言ってやってくれと頼む。

 妖介はため息をついてから木虎の方を見ないで言葉を発した。

 

「俺は雄助に危害を加えてくる奴は許さない。それが女だとして……ん?」

 

 

 顔を憤怒に染めて話す妖介。

 しかし、突然何かに反応し目を閉じてしまった。

 それから10秒ほど経って目を開けた妖介は呆れ顔で話し出した。

 

 

「……今すぐぶん殴ってやりたいぐらいだが、雄助から伝言だ」

 

 雄助が直接言わず妖介に伝言を頼んだのは、ただ単にまだ木虎が怖いからだ。

 伝言を頼まれた妖介は心底呆れたと言わんばかりの顔をしている。

 

 

「《僕に木虎先輩が怒るのは当たり前のことです。こちらこそすいませんでした。忍田さんと嵐山さんもご迷惑おかけしてすいませんでした》だとよ」

 

 

 謝罪にきた3人は、逆に謝罪されたのだ

 木虎、忍田、嵐山は思った。彼は菩薩か? と。

 そう簡単に許せるようなものではない筈なのに、許すばかりか彼の方が謝ってきたのだった。

 

 しかし、引っ掛かるところが1つあった。

 

「……木虎、先輩?」

「天峰先輩は高1ですよね? 私中3なんですけど……」

「あー《ボーダーに後から入ったのは僕なので……》ってさ」

 

 

 その言葉を聞いて木虎は感動した。

 木虎の対人欲求は、同年代には負けたくない、年下には慕われたい、そして年上には舐められたくない、なので舐める処か先輩と呼ぶ雄助に感動したのだ。

 

「でも私の方が年下ですので……」

「はいよ。そんなことより俺は本部長に頼みがあんだよ」

 

 それでも年上に先輩と呼ばれるのはむず痒いので断ろうとしたのだが妖介は適当に聞き流し、木虎の感動を「そんなことより」で片付ける。

 流されたことに木虎はムッとするが、今はあまり強く言えない立場であるため堪える。

 

 

「頼みとは?」

「俺が今話したことを広めないでほしい。そこの奴みたいなのがいるかもしれないしな」

 

 そう言い、木虎を横目でギロリと睨んでから視線を忍田に戻し、話を続ける。

 

「それに雄助がボーダーに入った目的は、トラウマ克服のためでもあるから、克服しづらい環境は避けたいんだ」

「なるほど、了解した」

「妖介君には何か目的があるのかい?」

「んー?……まあ話しといて損はないか」

 

 あんま気分の良い話じゃねぇぞ? と付け加えて話し出す。

 

「俺は雄助の第一次大規模侵攻の時の負の感情と記憶から生まれた。つまり――」

 

 

 

 

 この時の発言が誤解を生むとも知らずに。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 妖介に「もう俺は寝るから出てけ」と仮眠室から追い出された3人の足取りは重かった。

 妖介がボーダーへ入った理由は、端的に言えばボーダーに探している人物が居るからであったが、問題は()()の方であった。

 最初に切り出したのは忍田だ。

 

「彼の探している人物というのは迅だろうな」

「間違いなく迅さんですね……」

 

 木虎が間違いなく迅だと断言できるのは、妖介の言っていた特徴が〝ブリッジ部がないサングラスをかけている男〟だったからだ。

 ボーダー内でそんなサングラスをかけているのはセクハラエリート、迅悠一だけである。

 

「あの言い方は憎い相手を探しているような言い方だったな」

「そうですね。天峰先輩の両親が死んだ要因かもしれないって言ってましたし」

 

 妖介の話を聞いた3人は、姉を近界民(ネイバー)に殺されたことから近界民に憎悪を抱く、三輪秀次と同じ()()なのだろうと思っていた。

 

「あまり『玉狛支部』とは接触させない方がいいかもしれませんね」

 

 ボーダーには支部が6つあり、その内の1つが異端の『玉狛支部』だ。

 玉狛支部が異端と言われる所以は、反近界民(ネイバー)の風潮が強いボーダーで近界民に対して友好的である支部故だからだ。

 迅は玉狛支部所属なので接触させない方がいいのは分かりきっている。だが、理由はそれだけではい。

 

 

「そうだな……彼の目的が『近界民(ネイバー)』への()()なら尚更だ」

 

 

 近界民に友好的な支部へ復讐が目的の妖介を行かせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 


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