答えの表と裏   作:Y I

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入隊日からです!

今回はアンチに近いものがあります。
恐らく次もですが……すいません(´・c_・`)


では、どうぞ!


第2話

 ボーダー本部、式典用のロビーには白色の訓練生用の制服を着た少年少女が居る。その中には同じく白の訓練生用の制服を着た雄助も居る。

 入隊式を経て今日から正式にボーダー隊員になる彼らの顔は喜びに満ち溢れていた。しかし、雄助の顔は大いに青ざめ、キョドっていた。

 

(思ってたより人がたくさんいる……)

 

 市民から尊敬や羨望の眼差しを浴び、ヒーローとして認知されているボーダー隊員。そのボーダーの入隊式に人がたくさんいるのは当たり前である。

 そんなことを引っ越してきたばかりで知らない雄助は、人混みが苦手であるためロビーの端に避難する。が、何故か雄助は周りから見られていた。

 何か目立つようなことしただろうか……、と考えるが思い当たりはない。それはそうである。目立つことはしてない。ただ、目立つ物をかけている。

 

 目立つのも当たり前である。なんたってこのロビー内でただ1人、真っ黒のサングラスをかけているのだから。

 

(まあ、サングラスしてれば()のことは大丈夫だし、昨日会った人が居ても僕だって分からないはず! 正に一石二鳥!)

 

 雄助は決して頭は悪くない。むしろ、学年1位を獲るほど頭は良い。しかし、サングラスをかければ目立つことなど少し考えれば分かる。

 つまり彼は考えが少しずれている、頭の良い馬鹿である。

 

(まあ、そんなすぐに会うわけないと思うけど……あれ? これフラグってやつかな)

 

 そんな下らないことを考えている内に、壇上に男の人が上がった。

 

 

「ボーダー本部長、忍田真史だ。君達の入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員……訓練生として入隊するが、三門市、そして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研磨し正規隊員を目指して欲しい。君たちと共に戦える日を待っている」

 

 

 話長いんだろうなーと考えていた雄助は、ボーダー本部長からの激励が予想外に短く驚いていた。

 

 それと同時に、カッコいいと思った。

 

 無駄なことは言わず、簡潔に。けれど、確かな想いと願いを伝えた忍田に感動した。

 

「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」

 

 忍田の言葉に感動していた雄助は、次に出てきた人達の先頭を見て再び顔が青ざめる。

 

 

 

「これから先を案内する嵐山隊隊長嵐山准だ。よろしく!」

(えぇ!? フラグ回収早すぎでしょ!?)

 

 フラグ回収の早さを嘆いている雄助と違い、周りは大いに盛り上がり黄色い歓声が巻き上がる。

 歓声を聞き、昨日会った人――嵐山が有名人だということに今気づいた。

 

「まずはポジションごとに分かれてもらう。攻撃手(アタッカー)または銃手(ガンナー)を志望する者はここに残り、狙撃手(スナイパー)を志望する者はうちの佐鳥に付いて行ってくれ」

 

 狙撃手志望の訓練生がロビーから去るが雄助は攻撃手志望なのでロビーに残り、バレないようになるべく後ろへ下がる。

 

「改めて、攻撃手組と銃手組を担当する嵐山隊の嵐山准だ。まずは、入隊おめでとう」

(狙撃手の人が別の場所に行って人が少なくなちゃった)

 

 でもサングラスをしてるから大丈夫か、と考えるがサングラスをしているのは1人だけなのでやたら目立つ。

 

 結果、すぐさまバレた。

 

(あそこにいるのは天峰君か……なんでサングラス?)

(なんであの人サングラスかけてるのかな?)

(あのサングラスかけてる人目立つわね……)

 

 嵐山にはバレて時枝、木虎には注目されている。

 サングラスがとても気にはなるが、嵐山は新入隊員に左手の甲を見るように伝える。

 曰く、今起動さている『トリガー』には各自が選んだ戦闘用のトリガーが入っていて、甲の上に出ている数字は最初「1000」だが「4000」まで上げるとB級昇格になるらしい。

 雄助は『弧月』を選んでいて、甲の上には「3000」と書かれていた。

 なんでこんな多いの? と思ったが次の嵐山の言葉で納得する。

 

「ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが、仮入隊の間に高い素質を認められた者は、ポイントが上乗せされてスタートする。」

 

 仮入隊の間に一回しか行ってない雄助が「2000」も上乗せされているのは、ただ単にトリオン能力が高かったからである。散々トリオン量がスゴいだのヤバいだの言われれば、ああ、そうなのかと納得する。

 周りを見るとほとんどの人が「1000」だったのですぐさま数字を隠した。目立ちたくないし、()みたいになると思ったからだ。

 

「さて最初は、対近界民(ネイバー)戦闘訓練からだ。制限時間は1人5分。早く倒せばその分評価点は高くなるぞ。どんどん始めてくれ!」

 

 一番後ろに居たので前半はよく聞こえなかったが訓練ということは分かったので、さっさと終わらせて端で隠れてようと考え、いの一番に仮想訓練室に入っていった。

 

 

 

 余談ではあるが、雄助はパルクールを小学生のときからやり始めた。

 小学生のときいじめられていた雄助は、どうしたら痛い思いをしなくて済むか考え、闘うのは痛いから論外なので逃げることにした。

 ならどうやったら逃げ切れる、速く走る? 誰かに頼る? いや、誰も追いかけられないようなとこを走ればいいんだ。というちょっとずれた答えに辿り着いてパルクールをやり始めたのだ。

 

 つまり、なにが言いたいかというと

 

 

『1号室終了 時間切れ(タイムアップ)

 

 

 闘う前に逃げることを考える彼が近界民(ネイバー)に勝てるわけがない。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「さて最初は、対近界民(ネイバー)戦闘訓練からだ。制限時間は1人5分。早く倒せばその分評価点は高くなるぞ。どんどん始めてくれ!」

 

 嵐山がそう言うと、我先にと仮想訓練室に入っていく訓練生。その中には彼の姿もあった。

 

「早速彼の実力がわかりますね」

「ああ、なかなか良い記録を出すと思うぞ」

 

 隣にいる時枝も彼の実力が気になるのか1号室を注視している。反対側に居る木虎も1号室を睨むようにじっと見ている。

 

『1号室用意……始め!』

 

 その言葉と共に雄助は――動かない。

 

 何秒か経ってから漸く動き出し、大型トリオン兵『バムスター』に『弧月』を振るうがまったく当たらない。全て空振り。ほぼ動かないのに何故当たらないのか不思議である。

 さらには『バムスター』が大きく動いたり、唸り声を上げると即座に撤退。逃げるときの速さは素晴らしい。

 

「これは……さすがに、ちょっと」

「向いてませんね」

 

 時枝は言葉を濁すが、木虎はバッサリと言い放った。

 ヒット&アウェイならぬミス&アウェイを続けるが制限時間があるので時間切れで終了である。

 仮想訓練室から出てきた彼はゆっくりとした足取りで端の方へ歩いていき体育座りしてうずくまってしまった。

 周りでクスクスと笑っていた訓練生達も彼のガチ凹みを見て流石に可哀想に思ったのか、皆笑うのをやめて自分のことに集中する。

 

「……逃げるときの動きは良かったな」

「嵐山さん、フォローになってませんよ」

「トリオン能力が高くてもあれでは宝の持ち腐れですよ」

 

 木虎が冷たく言うが、たしかにいくらトリオン能力が高かろうと攻撃を当てることができなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 

(出てきたときのあの顔は……怯え? まさかトリオン兵に襲われたことがあるのか?)

 

 嵐山は雄助が訓練室から出てきたとき、昨日の彼からは想像もできないほど怯えていたので驚いた。

 それに今の彼からは昨日の様な刺々しい感じがしない。

 

(やっぱり別人か? しかし、違うのは目付きと雰囲気だけであとはそのまんまだしな……)

「嵐山さん、次で最後ですよ」

「ん? そうか、ありがとう充」

 

 思考に没頭していて気づかなかったがどうやら次で最後のようだ。

 最後の訓練生が2分程度の記録を出し、全員が終了したので次に行こうとしたところで後ろの方から声が上がった。

 

「なーちょっといいか」

 

 声を上げたのは、先程時間切れで失格となった天峰雄助だった。ただし、さっきまでの怯えた姿はどこにもなく、まるで()()()()()()()()()()が表に出て来たように形相が一変していた。

 

 

「どうしたんだい?」

「もう一回あれやりたいんだけど、ダメか?」

 

 雰囲気が刺々しくなった雄助は、戦闘訓練をもう一度やれないかと嵐山に問いかける。

 

「……ああ、別に構わないぞ」

「お、マジか! あんがとよ」

 

 本当ならやり直しなどないのだが、嵐山には今の彼ならば記録が短くなると思えたので特別に許可した。

 

「あと質問が1つ。この訓練は初めてだとどんくらいのタイムになる?」

「最高記録は4秒でうちの隊の木虎が9秒だが、1分切れば良い方だ」

 

 嵐山が木虎のタイムを言うと、周りの訓練生達は「早すぎだろ」「すげー!」「さすがA級」など声を上げ、それに気を良くしたのか木虎が満足そうな顔をしている。

 

「ふーん、じゃあやってくるわ」

 

 雄助は自分から質問したにもかかわらず、ぶっきらぼうに返し訓練室に入っていく。

 

 訓練室に入り『弧月』を出し、重心を低くして開始の声を待つ。

 

 

 

『用意……始め!』

 

 1回目にやった時とはうって変わり、開始の声と同時に『バムスター』に向かって跳躍し、その勢いのまま、正確に近界民(ネイバー)の弱点である目を斬り付けた。

 

 あまりの変わり様に訓練生はもちろん、嵐山隊のメンバーも驚愕する。

 

 

 さらに驚くべきはタイムである。

 

『……記録 1.3秒!?』

「なっ……!?」

 

 1回目にやった時は攻撃が当たらず、逃げていただけだったのに、2回目では1.3秒という過去最高記録を出したのだ。

 

 訓練室を出てきた彼を囲んで訓練生達は盛り上がる。

 

「どうやったらあんな動きできんだよ!?」

「木虎さんより早いじゃん」

「お前すごいな!」

「あ、うん。ソウダネ」

 

 訓練生達は彼を称賛するが、彼は人に称賛されたりするのに慣れて無さすぎて片言になる。

 そこにさらに嵐山がやってくる。

 

「すごいな! 今までの最高記録が4秒だったんだが、それを半分以上も上回るなんて。 一回目と違ってまるで別人がやってるみたいだったよ」

「……ソウナンデスカ」

 

 嵐山もこの時、また弱々しい雰囲気に戻っていることに気づいていた。

 どういうことだ……?、と思考を巡らせていると、記録を抜かれた木虎が雄助に突っかかっていた。

 

 

「あなたはなぜ最初から全力でやらなかったんですか? いえ、それよりも本当ならあなたは一回目の記録で失格で終わりですよ」

「あ、いや……はい」

 

 元より雄助に良い印象を持ってなかった木虎は、記録を抜かれた上に、訓練生に「木虎さんより早いじゃん」など言われたので完全に頭に血が上ってしまった。

 

 それ故にいつもはしないような行動をとってしてしまう。

 

 

「だいたいサングラスなんてかけて、人と話す時くらい外したらどうですか」

「これは……その……」

「……あーもう!」

「あ!」

 

 はっきりしない雄助に痺れを切らした木虎は、サングラスを取り上げてしまった。

 

 

 

 

 

「――ヒッ!」

 

 サングラスを取り上げた木虎は小さく悲鳴を上げ、そろそろ止めに入ろうと思っていた時枝も目を見開く。

 嵐山も何事だと思い、雄助の目を見て――恐怖した。

 

 

 

 彼の目が波紋の様に輪が何重にも広がっている模様になっていたのだ。

 

 

 

 彼の目を見てしまった訓練生達の中にも木虎同様小さく悲鳴を上げる者もいた。

 

 人は自分と違うものを拒絶し恐怖する。それはここにいる訓練生達も同じである。

 

「気持ち悪……」

「どうなってんだよあれ……」

「バケモノかよ……」

 

 周りから注がれる視線。皆が口々にする言葉。

 その全てが雄助1人に集中する。

 

「あ……あ……」

 

 目を手で覆い隠して周りからの視線、言葉から逃れようと歩き出そうとするが、気を失ったのか急に倒れてしまった。

 

「おい!大丈夫か!」

「とりあえず医務室へ運びましょう」

 

 

 嵐山と時枝が雄助を医務室へ運ぼうとする。

 

 

 が、気を失っていたはずの雄助がスッと立ち上がったのだ。

 

 

 

「ハァ、またか……チッ!」

 

 急に立ち上がった雄助は何やら独り言をしてから木虎を睨み舌打ちをした。

 

「おい、お前は嵐山でいいんだよな。仮眠室はどこにある」

「あ、ああ。案内するからついてきてくれ」

 

 周りが状況を理解してない内に雄助と嵐山は仮眠室へと向かって行ってしまった。

 

 

 

 そして時枝がこの状況を見て一言。

 

 

「やっぱり面倒事が起きた……」

 

 

 

 

 




次回はお話回です。

一気に色々出てくると思います。

感想、評価お待ちしております!

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