予約投稿されていたのにきづきませんでした 笑
色々と落ち着いたので投稿を再開させていただきました。
投稿ペースはとてもゆっくりですがこれからもどうぞよろしくお願いします。
戦闘、開始。
それと共に転送された出水は周りを確認する。
「おっ、工業地区か」
ランダムで選ばれたマップは工業地区。
背の高い工業プラントが複数乱立した地形で、狙撃の射線は通りにくく、大きな建物の間の通路などは比較的開けているため射撃戦が行いやすいマップだ。
「さて」
まずは合流を、とレーダーに目をやる。
レーダー上では、狙撃手が『バッグワーム』を使用したことにより光点が4つほど無くなっている。
「あん?」
そう、4つ光点が無くなったのだ。狙撃手は3人しかいないのにだ。
しかも、その消えた光点は仲間内の1人である──天峰雄介である。
出水は様々な可能性を考えた。
不意討ち? 狙撃の場所取り?
それとも何か別に目的がある?
そこまで考えて思い出す。
そもそも何か目的があるにしても雄介のトリガーセットを聞くの忘れていた、ということを。
トリガーセットを知らなければ目的を知るどころか、連携を満足に取ることすら出来ない。
出水はすかさず雄介へと通話を繋げる。
「おい、天峰。さっき聞き忘れてたけど、お前のトリガーセットって──」
『あばばばばばばばば』
「!?」
どうなってるんだ? と続ける前に雄介の奇声が耳に届き、肩をビクつかせる。
壊れた様にあばあば言い続ける雄介に、出水は何かトラブルでもあったのかと思い、慌てて安否を確認する。
「お、おい、大丈夫か?!」
『──菊地原を最優先で倒せ』
「……は?」
だが、返ってきた声は先程とは打って変わり、はっきりとしていて、とても力強いものだった。
あまりの変貌ぶりに加え、突然の命令に出水が茫然としている間に、更に話は進んでいく。
『菊地原はマップ中央から左斜め上、米屋の左隣の光点だ。出来れば3人で潰せ。あいつ以外のBチームの奴らは菊地原から遠い位置にいるから合流には時間かかると思うが油断はするな』
「ちょ、ちょっと待──」
『菊地原の『サイドエフェクト』は厄介だが、射手の出水がいれば射程の差で勝てる。誰かが先に菊地原と接敵したとしても必ず出水が来てからあたるようにしろ。それと緑川の左斜め上と出水の右上には狙撃手がいるから、可能なら緑川は北上するついでに倒して、出水の方は無視して構わない』
次々と耳に入ってくる情報ではっとした出水は、その情報を何故知っているのか、と疑問を口にしようとする。しかし、その疑問に被せるような形で更なる情報が追加され、制止の声すら聞いてもらえなかった。
『あと、俺のことはいないと思ってくれればいい。何かあればこっちから通信をとばす』
んじゃ、と言って通話を切られてしまう。
パニックになる雄介。
突然の変貌。
更にはマシンガンの様に出てきた情報量。
その全てが合わさり出水は呆気に取られていた。
そして、通話を切られてから少し、思考停止した出水はとりあえず緑川に通話を繋げた。
「緑川、聞いてたか」
『……うん。説明いる?』
「おう。頼む」
だよねー、と半ば分かりきっていた返答に緑川は苦笑いを浮かべる。
『いずみん先輩はあまみん先輩が二重人格って話聞いたことある?』
「あー噂でなら聞いたことあるぞ」
『それって実は本当のことなんだけど──』
* * *
《俺戦わないから、よろしく》
頭の中で反芻する。
《俺戦わないから》
意味を咀嚼する。
〝妖介戦わない〟=〝雄介戦う〟
頭が理解する。
「あばばばばばばば」
《とりあえず『バッグワーム』着てから……って、おい》
転送直後、雄介は転送前に妖介から放たれた衝撃の一言により、絶賛パニクっていた。
《早く『バッグワーム』を……》
「あばばばばばばば」
《……ダメか──》
そう言って妖介は『バッグワーム』を起動するためだけに、パニクっている雄介と入れ変わり、丁度元に戻ったタイミングで出水から通信が飛んでくる。
『おい、天峰。さっき聞き忘れてたけど、お前のトリガーセットって──』
「あばばばばばばばば」
『!?』
《はぁ……──》
だが、今の雄介はそれどころではない。あばあば言うので手一杯だ。
そんな状態の雄介がまともな会話を出来るはずもなく、仕方なく妖介がもう1度入れ代わり、1番厄介な菊地原の排除を出水に命じ、通信を終える。
「──んじゃ……と、おーい雄介大丈夫か」
《た、たた、た、戦わないって、な、なんでっ!?》
「いや、まず落ち着け」
先程と比べて喋れるようにはなったが、未だパニック状態の雄介に落ち着くように言う。
少し大袈裟に深呼吸を繰り返し、幾分か落ち着いたのを見計らい、雄介と入れ替わる。
《落ち着いたか?》
「……どうして、戦わないの?」
妖介の質問には答えず、逆に雄介が問い質したのは、今1番気になっていることだった。
基本的に妖介の中で優先順位1位は雄介であり、それが覆ることは今までほとんどなかった。多少言うことを聞かないこともあるが、雄介が本当に嫌なことであればしないし、させない。
故に分からない
なぜ、本当に嫌な戦闘行為をやらせようとするのかを。
《なんとなく?》
「真面目に。じゃないと──」
《オーケー。わかったからその拳は下ろせ》
とりあえず、固く握られた拳は下ろした。
次はないことが伝わったのか、妖介はわーってるよ、と冷や汗をかきながら言う。恐らく分かってなかったのだろう。
そこから妖介はため息を1つつき、理由を簡潔に述べる。
《まあ、簡単に言えば予行練習みたいなもんだよ》
「……なんの?」
今のでなんとなくは察せた。
それでも呆けたのは、その〝もし〟を考えたくない、あってほしくないことだから。
しかし、妖介は言う。
《もし、俺が戦えなくなった時の、だ》
「そ、それは……」
想像していたことが言葉に出されて言葉が詰まる。
その『戦えなくなった時』というのはどういう時だろうか。
自身のトリオンが少なくなり、妖介と入れ替われなくなった時だ。つまり、雄介が戦場に立たなくてはならない時である。
「で、でも妖介だってそうならないよう戦ってるし、
《たしかにな》
「じゃあ……!」
《でも、絶対じゃない。戦いでは常に最悪を想定しなくちゃならない。もし俺がヘマしたら? もし緊急脱出がつかえなかったら? そういう〝もし〟が起きたとしたらお前が戦場に立つしかないんだよ》
そんなことは雄介自身わかっている。しかし、だからといって戦えるわけではない。
どうしても想像してしまうのだ。
雄介が戦うかもしれない〝もし〟と同じ様に、本当に斬られて、撃たれてしまうかもしれない〝もし〟を。
《いいか妖介。別に俺は〝戦え〟って言ってるわけじゃない》
「……え?」
《立ち向かわなくてもいい。ただ〝生き残れ〟》
生き残り方には大きく分けて2つある。
1つは、立ち向かい、敵を倒して生き残ること。もう1つは──
「──逃げて生き残る?」
《そうだ》
戦うのが嫌ならば無理に戦う必要はない。
敵が来ない場所まで逃げきるなり、増援が来るまで逃げ続けるなり、隠れたりすればいい。そうやって〝生き残る〟。
《それなら雄介でもできるだろ》
「そうだけど……」
逃げるだけ、と言うのは簡単だが、鬼ごっことは訳が違う。なにせ相手は武器を持って追い掛けてくるのだから。だが、できないこともないレベルでもある。
故に悩む。
──本当にあぶなければ妖介が助けてくれるかも。だけど、戦場に立つなんて怖いし。でも、逃げきれば怖い思いをしなくてすむ。けど、逃げきれなければ……。
そうやっていくつかの事柄が衝突し、波を立て続けた結果雄介は、
「──よしっ!」
そう声を張り上げ、自身の頬を両手で挟むように叩き、声を上げる。
「僕は出来る! 出来る奴だ! 逃げるぐらいなら妖介に頼らなくても僕は出来る!」
《おお……!》
先程までの愚図っていたにも関わらず、己を鼓舞し、闘志を滾らせようとする姿に感動し、「ああ、これなら心配はいらないな」なんて思って安心をした。
「……よね? 妖介」
《……》
涙目な雄介を見るまでは。
妖介はほんの少しだけ不安になった。
* * *
「『
6×6×6に分割されたトリオンキューブが、様々な線を描きながら菊地原に迫る。
「……チッ」
その迫りくる弾達を『シールド』と建物を使い遮り、1度距離を取る。
「2体1なんて卑怯だね」
「わりぃな。これも作戦らしいんだわ」
菊地原の悪態に対して、米屋は槍を構え直して返答をする。
しかし、その返答に菊地原は違和感を覚える。
「……らしい?」
「ああ、天峰のな」
それを聞いて、雄介の持つ『サイドエフェクト』の力を思い返し、なるほど、と納得する。
しかし、そこで更に疑問が生じる。
(なんで、チームの半数をも使ってぼくを狙う?)
この2人の近くにいたから?
──いや、違う。
A級隊員だから?
──いや、違う。
──『サイドエフェクト』持ちだから?
(もしかして……)
「考え事するなんて余裕じゃねぇか」
考察に耽っていた菊地原に無数の弾丸が襲来する。
それらを建物を使うことで回避しようと試みるが、着弾と同時にその弾丸達が爆ぜ、爆風によって生まれた土煙から槍が伸びてくる。
その首を狙った突きを『シールド』で防御するのではなく、大きく後退することで回避する。
「やっぱし避けられるか」
元よりこれで獲れるとは思っていなかったのか、煙の向こうで米屋が笑いながら言う。
もし、仮に立ち止まって小さな体捌きだけの回避や『シールド』を小さくして首だけの防御していた場合、米屋の十八番である『弧月』専用オプショントリガー『幻踊』を用いた突きによって首が落ちていただろう。
『幻踊』
『弧月』専用オプショントリガー。
通常では刃部分の変形ができないが、これを使いトリオンを消費して瞬間的にブレード部分を変形でき、敵に攻撃を避けたと思わせて不意を付いたり、敵の防御をかわして攻撃を仕掛けたりすることが可能になるのだ。
「見え見えだよ」
「うっせぇ、次は獲ってやるよ」
そう言って距離をとった菊地原に迫る。
米屋は出水の援護を受けながら、菊地原は自身の『サイドエフェクト』を駆使しながら攻防を繰り広げる。
暫く、出水の援護を受けて米屋は菊地原と攻防をしていたが、ある通信が米屋と出水に届く。
『────』
「! よっしゃ、了解。弾バカァ!」
「誰が弾バカだ!」
米屋の声に応えながら出水が『
『合成弾』
2つの弾トリガーを合成し、それらのトリガーの特徴を引き継いだ弾を使用する方法。強力ではあるが普通の射手ならば合成するのに相応の時間がかかるものを考案者である〝天才〟出水の場合、合成速度は──約2秒。
「『
2×2×2に分割されて放たれた弾丸は、全てがそれぞれ違う軌跡を描きながら菊地原を囲むように着弾する。瞬間、2人が居た地面ならず、周りの建造物すら爆撃によって粉砕する。
その爆撃の中心にいた菊地原は『シールド』である程度のダメージは防げたが、『シールド』が割れてしまい、爆風によって無防備な状態で宙に浮いてしまった。更には追撃で米屋が迫ってきている。
しかし、『シールド』は割れてしまっても米屋は『スコーピオン』で捌ける。出水は『合成弾』を使ったばかりのため、追撃はない。
(これならまだ)
「──と、思うじゃん?」
立て直しがきく、そう思い、『スコーピオン』を構えた矢先、耳に届いた
聞こえている、聴いている。来ることはわかっている。しかし、避けられない一閃。
「──2点目」
『バッグワーム』を装備した緑川が背後から菊地原の頸を刈り取る。
『伝達系切断 緊急脱出』
菊地原が緊急脱出する。
それと同時期──
「《やっと──》」
《終わったぁ……》
「動けるぜぇ……!」
転送位置は次のようになっています。
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C穂刈 B熊谷
B菊地原
A米屋 C那須
B荒船
A出水
C半崎
C諏訪
A緑川 B歌川 A天峰
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