答えの表と裏   作:Y I

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連続投稿です!


入隊日前日からです。



第1話

 界境防衛機関『ボーダー』

 4年前にこの『三門市』に開いた『(ゲート)』からやってきた、異世界からの侵略者『近界民(ネイバー)』に対抗する為に結成された組織。

 そんな組織『ボーダー』に所属し、その中でも優秀な隊員が所属している『A級5位』の部隊『嵐山隊』の隊長を務める嵐山准は、ボーダー本部を目指して歩いていた。なぜボーダー本部を目指しているのかというと――ボーダー隊員なのだから当たり前ではあるが――ボーダー正式入隊日が明日あるのでその打ち合わせがあるのだ。

 

 ボーダー本部を目指して歩いている嵐山は、明日入隊する隊員の中で気になる人物について考えていた。

 ボーダーの入隊試験は、【基礎学力試験】【基礎体力試験】【面接】の3つをやるのだが、『トリオン能力』が高ければ大抵合格する。

『トリオン』とは人間なら誰にでもある心臓の隣に位置する見えない臓器『トリオン器官』から生み出される生体エネルギーである。そのトリオンが多いことをトリオン能力が高いと言う。

 嵐山が気にする人物は、トリオン能力はボーダー内でトップレベルに高かった。

 しかし、入隊させるか少し揉めたらしい。

 聞いた話によれば、なんでも警察沙汰になることが多々あったらしいのだ。反対派の「そんな奴入隊させたらボーダーの印象が悪くなってしまうから入隊させないべき」と賛成派の「トリオン能力が高いのならば入隊させるべき」で揉めたようだ。

 ところがよくよく調べたら、警察沙汰と言っても犯罪のようなものではなく、そこらへんの不良と変わらないレベルだったらしい。

 さらには、ボーダー内で既に隊員が幹部の一人を殴るという暴力事件があったため、同じような者がボーダー内に既にいるならそんなに変わらないだろうという意見もあり入隊が決定。

 

(影浦そっくりだったりしてな……ん?)

 

 暴力事件を起こした本人と新入隊員は似てるのかもしれないな、なんてことを考えていたとき、視界の端で嵐山より15㎝ほど背の低い少年が、ガタイの良い2人組に路地裏へ連れて行かれていたのが目に入ったのだ。

 

(まさかカツアゲか!)

 

 カツアゲだと思うや否や、ボーダーに入隊する前から正義感の強い嵐山は路地裏へ向かって走っていた。

 3人は同じ制服を着ていたので同じ学校の生徒だろう。しかし、体格差を見る限りでは同学年ではなさそうだ。

 人からお金を巻き上げるようなことはさせないぞ、と意気込んで路地裏へ入っていったのだが、

 

 

 

「……は?」

 

 

 嵐山は判断の針を狂わされたように混乱した。

 まず、ガタイの良い2人組の片方が股をおさえて地面に転がっている。そして、もう片方も目をおさえて転がっていた。共通点としては二人とも地面に転がり、悶絶している。

 一方連れて行かれてた少年はけろっとしており、ガタイの良い二人組の財布からお金を抜き取ろうとしている最中だった。

 どうしてこうなった、と混乱していた嵐山も少年が自身の財布にお金を入れるのが目に入り、すぐさま混乱から復活した。

 

「……ハッ!ちょっと君ストップ!」

 

 制止を呼び掛けると少年は動きを止めたが、こちらには見向きもしない。後ろ姿からは話し掛けんなオーラと刺々しい雰囲気が非常によく伝わってくる。

 しばらくしてから少年は諦めたのか、嵐山の方へ振り向いた。お金を持ち主に返すように注意しなければ、と少年と目を合わせる。

 

 

 しかし、嵐山は少年と目を合わせた状態で固まる。

 少年の目がうっすらと何か模様があるように見えたのだ。

 

 

 なんだあれはと考えたがすぐに普通の目に戻っていた。

 それよりも今はお金を返すよう注意しなくては、と少年に意識を向けるも、少年は何か慌てるようにお金だけ置いて素早く忍者のように――パルクールという移動技術で――逃げてしまったのだ。

 すごいな、と感嘆し逃げる少年の背中を呆然と見ていたが、どこかで少年の姿を見たことがあるような気がしたのだ。

 どこでだ、最近だったはず……。たしかボーダー内で、しかも隊の中で見たはずだ。最近、最近……あ!

 

 

 

 

「綾辻と同じ学校の制服だ」

 

 

 同じ隊の『オペレーター』である綾辻遥と同じ学校の制服を着ていただけだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ガタイの良い2人組にそれぞれ金的と目潰しを食らわし、2人組からお金を盗ろうとしたところを嵐山に見つかり、慌ててパルクールで逃げた少年――天峰雄助(あまみねゆうすけ)、15歳。

 彼の心臓はいたずらがばれた子供のようにばくばくと脈打っていた。

 カツアゲをしてきた2人組は怖かったが、中学のときによくされていたのでカツアゲ事態には慣れている。しかし、その後に現れた人物が問題だった。

 

(あの人テレビに出てたボーダーの人だよ、大丈夫かな)

 

 雄助は警察のお世話になることが多々あった。先ほどのようなカツアゲに仕返しをやり過ぎたり、パルクールによる危険行為でよく補導されていた。

 パルクールに関しては逃げる際の癖になっているので、しょうがないというか自業自得なのだが、暴力行為。これは雄助自身非常に困っている。やっている本人が何を言っているんだと思われるかもしれないが、とにかく困っている。

 何はともあれ、困っていても暴力行為をしていることは事実なので、この2つは常習犯としてよく知られている。そのせいで先日受けた入隊試験に落ちそうになったのだ。

 つまり、ただでさえ入隊が危うかったのに入隊日前日に暴力沙汰を起こしたなんてボーダー関係者に知られたら入隊できなくなる、顔がばれるのはまずい。という考えにいたり慌てて逃げたのだ。まあ、今も人の家の屋根や屋上、私有地に入ってるので住居侵入罪なのだが。

 

「でも、お金は置いてきたから大丈夫だよね」

 

 お金を置いてきたからといって大丈夫ではないのだが、現場を目撃した嵐山が雄助の顔より目と制服の方に意識がいっていたので大丈夫っちゃ大丈夫である。

 

 

 

「これ以上問題起こさないでよ――()()

 

 

 周りには誰もいないはずなのに、たしかに雄助は()()という人物に話し掛けた。その後も1人で会話を続けるが、傍から見れば完全に独り言である。

 独り言? が一段落して、明日は入隊日だから早く帰ってゆっくり休もうと、さらに独り言をしてから家に帰ろうとして――

 

 

 

 

 塀を踏み外した。

 

 

 

 今日は本当に運が悪いと再確認した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 雄助が塀を踏み外した頃、嵐山隊作戦室では隊長の嵐山不在で正式入隊日の打ち合わせをしていた。

 

「それにしても嵐山先輩遅いですね」

 

 嵐山がまだ来ないことを怪訝に思い声を上げたのは、嵐山隊エースである万能手(オールラウンダー)、木虎藍。

 

「たしかに嵐山さんが遅刻するなんて珍しいね」

「さっき『悪い、あと少しで着く』ってメールきたからそろそろ来ると思うよ」

 

 同意したのは、嵐山隊の万能手(オールラウンダー)であり援護職人、時枝充。もうすぐ嵐山が来ることを皆に伝えたのは、ボーダーのマドンナ的存在で嵐山隊のオペレーター、綾辻遥。

 ちなみに、雑用で駆り出されこの場にはいないが、嵐山隊の狙撃手(スナイパー)である2.9枚目、佐鳥賢。この4人と隊長の嵐山の計5人が嵐山隊のメンバーである。

 

 

 

「すまない! 遅れた!」

 

 綾辻がそろそろ来ると言ってから少しして、嵐山が肩を上下させながら作戦室へ入ってきた。

 

「嵐山さんが遅刻するなんて、何かあったんですか?」

「ああ、ちょっとな」

 

 嵐山はあの後、地面に転がる2人に話を聞くために2人が復活するまで待っていたのだ。復活した2人に話を聞くと、逃げた少年は最初は怯えていたらしい。しかし、いざお金盗ろうとしたら()()()()()()かのように襲いかかってきて、目潰し、金的、と反則技コンボをしてきたようだ。なかなかえげつない。

 話を聞き終わった後、2人に注意をしてからボーダー本部へと走ってきたのだが、2人の復活を待ち、話を聞き、注意まですればさすがに遅れる。

 

「ところでどこまで進んだんだ?」

「あとは新入隊員の書類確認が少しだけあって、これがまだ終わってない分です」

 

 そう綾辻に言われ渡された書類の束の一番上には、遅刻の原因と言っても過言ではいないあの少年の書類があった。

 

「綾辻、この一番上の書類の彼は……」

「ああ、天峰雄助君ですか?たしか警察沙汰が多いから入隊させるかどうかで揉めた子ですよ。そんな風には見えないんですけどね」

「!……そうか」

 

 まさかの先ほど見た少年が嵐山の気にしていた人物だったのだ。

 しかし、写真の彼と先ほど見た彼の雰囲気が全く違うように感じるのだ。見間違え? それとも兄弟? そう考えるほど雰囲気が違う。あの時は最初に思ってたように影浦に似た刺々しい雰囲気で目つきが鋭かったのだが、顔写真を見るかぎりでは綾辻が言うようにそのような感じはせず目つきも鋭くない。

 

「あれ? 天峰君私と同じ学校だ」

「綾辻先輩の学校って進学校ですよね?そんな問題ばかり起こす人がよく入れましたね」

「それもそうなんだけど……私、学校で天峰君みたいな子見たことないの」

「じゃあ転校生ですかね。この時期に引っ越してきた理由はよくわかりませんが」

 

 彼の書類を囲みながら話している綾辻、木虎、時枝の輪に加わりながら嵐山は書類の下の方へ目を向けた。そこに目を引く欄があった。

 

「家族構成の欄が空白……」

「三門市に1人で引っ越してきたのかな」

 

 家族構成欄が空白になる可能性は2つある。

 1つは、時枝が言うように親元を離れて1人でこの三門市に引っ越してきた場合。親がいても同居人がいなければ家族構成欄が空白であることもある。

 もう1つは、身寄りが誰もいない――天涯孤独の場合。

 それを即座に理解した時枝は、後者の場合あまり気分のいいものではないので前者の可能性を口にしたのだ。さすがは援護職人、気配り上手である。

 

(……充、すまない)

 

 フォローしてくれた時枝に心の中で感謝をし、嵐山は仕事をし初めた。木虎と綾辻も彼の話が終わったのか、残りの新入隊員の書類を確認しだした。

 

 このとき木虎が若干ではあるが不機嫌だった。それに気づいたのは時枝だけだろう。

 恐らく、警察沙汰になることが多いような人物が、トリオン能力が高いことでボーダーに入れるということが気に食わないのだろう。元よりルールに厳しく、最初はトリオン能力が低くて苦労した木虎が不機嫌にならないわけがない。

 

 唯一木虎が不機嫌なことに気づいた時枝は、明日入隊する新入隊員のことで不機嫌になる木虎を見て、

 

 

「明日は面倒事が起こりそうだなぁ……」

 

 

 と小さく呟いた。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

何人も同じ場所にいると書き難い……



次話もよろしくお願いいたします。

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