頭の中ではストーリーはできてるんですが、それを文章にするのが難しい。というか大変。
更新の早い作者の方々ってすごいですよね……。
では、1ヶ月ぶりにどうぞ!
雄助は1人頭を抱えていた。
(猛烈に帰りたい……)
怯えたように縮こまる後輩。
怪しいものでも見る目を向ける先輩。
もはや別室にいるタメ。
そして、そんなチームメイト見て苦笑いする隊長。
この状況を一言で表すなら〝辛い〟。
自分から後輩を守るように立たれるのもそうだし、自分が入室して即行で逃げられるのもそう。全てが辛い。
(ああ……もうどうにでもなれ……)
こうなってしまった原因を知るのには時を少々遡る。
雄助が忍田から死刑宣告を受けた後、雄助は今日から
項垂れながら歩く雄助に那須は質問する。
「……えっと、天峰君。なんでそんなに落ち込んでいるの?」
「……いや、まあ……ちょっとした諸事情で……」
雄助が言うその諸事情とは、まず、女子が隊長をやっている隊で防衛任務をすることになってしまったこと。
どこの隊でもオペレーターは女子なのでそれはしょうがないが、戦闘員、ましてや隊長が女子となると会話する量が増え、さらには防衛任務の殆どの時間一緒にいるのだ。雄助としては死ねる。
次に、女子である那須が率いる那須隊と
この件に関しては過去の自分を呪った。
本来ならば当初の予定通り1日ごとに違う隊を転々とするつもりだった。しかし「初めての任務だし慣れるまで数日間いたらどうだ?」と忍田に言われたのだ。
鬼かこの人は、と思ったが前回失礼な態度をとってしまったことや那須本人がいることもあり強くは出れず、結局了承してしまったのだ。
そして――
「あ……もしかして
「……まあ、そうですね」
那須が言う
任務を共にすることが決定した後、雄助と那須は任務を数日間共にするのにお互いのことを〝倒れていた人〟〝助けてくれた人〟程度にしか分かっていなかったので自己紹介をすることになったのだ。
最初に那須の方から自己紹介をして、お嬢様学校に通っていることや昨日倒れていた理由、桃缶が好きなことなどが判明したが、そこまでは特に問題はなかった。
問題は雄助の自己紹介で起きた。
『えっと……天峰雄助って言います。高1です……』
『天峰君ね。今日から数日間よろしく』
『あ、あと知ってるとは思いますが僕二重人格でして……』
緑川とのランク戦の際、妖介が大勢の前で盛大にバラしてしまった秘密。それを聞いて二重人格――妖介の存在を信じた者が何人いただろうか。
妄言だ、と嘲笑った者も居ただろう。
本当に? と半信半疑の者も居ただろう。
そうだったのか、と納得した者も居たかもしれない。
もしかしたら誰1人として信じていないかもしれない。
疑う者がいることは分かりきっているが、信じる者がいると確証は持てない。
目の前に居る那須も恐らく信じてはないだろう。
それならば先に自身の口からもう1度、妖介の存在を明確に示した方が混乱しないだろうし、理解してもらえるだろうと思っての行動だったのだが――
『二重……人格?』
『ん!?』
ランク戦をまず見てない、または、そのことを耳にしてない人がいる可能性を考えていなかった。
そこまで話してしまえば、那須がその内容を知りたがるのは当然である。なんとか誤魔化そうとしたが、またしても忍田に「同じ隊で戦うのだから教えた方がいい」と言われてしまい、結局全て話したのだ。
妖介の存在を聞いた那須は最初こそあまり信じていなかったが、忍田と沢村が妖介の存在を肯定したことにより、那須も雄助の言葉が本当のことであると信じるようになった。
「ハァ……なんで気づかなかったんだろ……」
「なんだかごめんなさい。その時は体調が良くなくて本部には行ってなかったの」
「あ、いえ。僕が気づかなかったのが悪いんですから……」
そうは言ってはいるが、自分が喋らなければ妖介の存在を知られることはなかったのだ。口では平気だと言っているが、心の中で自分の軽率な行動を後悔した。
(あー最悪だ……)
《なんで自分から言ってんの? ねえ、バカなの? 中学のときのこと忘れたの? 》
(……今はそれ以上言わないでよ)
後悔しているというのに追い討ちをかける妖介。
妖介が言う中学の時のこととは、雄助が中学生の時、周りの皆に「僕の中に妖介っていうのがいるんだ」と言っていた時のことだ。
もちろん、そんな突拍子もない話を誰も信じてくれるはずもなく〝頭のおかしい奴〟というレッテルを貼られ、それを理由に虐められていた。さらには『サイドエフェクト』のことも相俟って虐めは加速。
結果、雄助は妖介の存在を公にするのを嫌うようになったのだ。
そのことを忘れるはずがない。ただうっかりしていただけなのだ。雄助自身、言われなくともバカなことをしたとわかっている。
だが、妖介は尚も続ける。
《それにこの前のは俺が悪かったけど、今回はお前のミスだからな》
(ねぇ、そろそろ泣くよ?)
涙声でそう訴える雄助。
妖介が緑川とのランク戦の際に大勢の前で自身の存在を公にしたのは、少しでも周りからの悪意を雄助から自分へと逸らそうとしたためであり、雄助を思ってのことであるため雄助も本気で怒ってはいなかった。
しかし、今回は妖介の言うとおり完全に雄助のミス。
これからも同じようなミスをして痛い目を見るのは雄助である。故に妖介は厳しく言うのだ。
《同じ事を繰り返せば痛い目見るのはお前だ。自分のことを棚に上げる気はないが、俺のことを言うのは必要最低限にしとけよ》
(……うん、わかってる)
「どうしたの?」
妖介とは別の声がしたので妖介との会話を止め、意識を現実へと戻すと、那須が怪訝そうな顔で自分の顔をのぞき込んでいた。
「っ! い、いえ、なんでもないです」
そのことに驚いた雄助は、慌てて距離を取りながら返事をする。
そんな雄助の行動に那須は首を傾げていたが、「なんでもない」と本人が言っているため「そう?」と言うだけに留め、作戦室へと向かった。
それから数分も経たぬ内に那須隊の作戦室前に2人は辿り着いた。
「さ、ここが私達の作戦室よ」
じゃあ入りましょうか、と那須に言われるが雄助はなかなか一歩が踏み出せない。
那須隊の隊員は昨日のことを知っているのか、どう思っているか、そして妖介の存在をどう捉えているか。
様々なことが気になって足が重くなる。
不安に駆られていると那須に苦笑いしながら「緊張しなくても大丈夫よ」と言われ、その言葉でハッとし、意識を戻す。
「っ……すいません。大丈夫ですよ」
「そう? 凄く顔が強張ってたから緊張してるのかと思ったわ」
そう言って那須は、改めて作戦室の扉を開き中に入っていく。雄助も那須に続いて作戦室へ入る。
作戦室に入って一番目を引いたのは、那須隊の誰かの趣味だろうか、部屋の至るところにある壁の凹凸や謎のパイプだ。さらに、作戦室を見渡すと全体的に整理整頓されていて、とても綺麗だ。
そして、視線を右から左へ向けると棚の上に写真立てが2つ。雄助は入り口から左にあるそれを見た瞬間、嫌な予感が背筋を冷たく流れた。
その写真には那須を含めた4人の
(いやいや、そんなわけない。あれは……そう! 那須先輩の友達、学校の友達との集合写真を飾ってるだけ――)
心の中で必死に
「あ! 那須先輩こんにちはー!」
「遅かったわね、玲」
「なにかあったんですか?」
(――と、思っていた時期が僕にもありました)
奥に居た少女達によって〝ガールズチーム〟という可能性が事実となった。
(オワタ……)
《あーそのなんだ? ドンマイ?》
どこか他人事の様に言ってくる妖介の言葉も耳に入らないほど、雄助は落ち込んでいた。
まさかの女子のフォーカード。
A級、B級合わせて数十とある隊の中で2つしかないガールズチーム。その内の1つを引くとはなんたる不運。
こうなったのも――妖介の――日頃の行いが悪いせいだろうか。
(ていうか忍田さんは知ってて那須隊に入れたのか!? 女子は苦手だって知ってるはずなのに!)
なんの嫌がらせだー! と心の中で叫んでいる内に、那須は他の隊員達と挨拶を終わらせたようで、雄助のことを説明していた。
「――で、今日から数日間、私達の隊と一緒に任務をすることになったの」
「ふーん、じゃあその後ろの子がそうなの?」
納得の声を上げたのは身長が雄助よりかなり高い、那須隊の切り込み隊長、
彼女がそう言うと、雄助の肩がビクリと跳ね上がる。
(ど、ど、どうしよう。とり、とりあえず自己紹介かな)
那須の後ろから皆に見える位置まで移動し、那須での失敗を踏まえて自己紹介をする。
「えっと、あ、天峰雄助です。今日から数日よろしくお願いします」
当たり障りのない自己紹介を済ませて、一先ずは安心する。
那須は緑川とのランク戦があった日には本部に行ってなかったと言った。ということは、その日には防衛任務が無く、他の隊員達も本部に来ていなかったということ。
つまり、他の隊員達も妖介の存在を知らない可能性が高い。
ならば自分から言わない限り――那須はあの落ち込み様を見ているため言わないだろうと予測――あの日のことが露呈することはない――
「あー! この前駿くんに酷いことしてた人!!」
(――と、思っていた時期が僕にもありました(2回目))
雄助の期待をあっさりと裏切る声を上げたのは 女子中学生にして指ぬきグローブを愛用する剛の者、
彼女は雄助と緑川のランク戦があった日に
防衛任務が無くとも本部へ赴く者はいる。そのことを雄助は考えていなかった。
〝酷いこと〟の部分に反応した熊谷は怪訝な表情で日浦に〝酷いこと〟の詳細を問う。
「……どうゆうこと、茜?」
「この前その人が駿くんとランク戦をしてたんですけど、『弧月』で何度も殴ったり『スパイダー』で磔にして……あの、その……ひ、酷い方法で
途中顔を赤くし要領を得ない説明をしていたが恐らく股間をデストロイしたことを言っているのだろう。
しかし、それを聞いた熊谷は、言葉で言い表せないほど惨い方法で緑川を緊急脱出させたと勘違いし、日浦を庇うように前に出る。
「……本当なの?」
「え、いや、あれはその、僕だけど僕じゃなくて――」
「本・当・なの?」
「――僕がやりましたっ」
さながら尋問の様なやり取りに那須は苦笑いするしかなかった。
ちなみに那須隊の隊服や作戦室をデザインした引きこもり系オペレーター、志岐小夜子は男性が苦手なため退出中である。
長くなってしまったが、こうして冒頭の状況になったのだ。
(ああ……もうどうにでもなれ……)
雄助が半ばヤケクソになっている間にも那須隊の面々はフォーメーションを固めていく。
切り込み隊長が
そんな一方的な攻撃が続いている中、雄助はハッとした。
(あれ? でも妖介のことには触れてないな)
そう、日浦は〝緑川が酷いことされた〟とは言ったが〝二重人格や妖介のこと〟には一切触れていない。そのことに気がついた雄助は、もしかして妖介のことはバレてない? と期待で胸を膨らませる。
「あ! そういえばその人ランク戦が終わったあとにニジュウジンカク? とか解離性なんとかがどうとか言ってました」
(3度目の正直じゃないのか……!)
が、やはりその期待は剛の者に打ち砕かれた。
悲しきかな。世の中には〝2度あることは3度ある〟という諺があるのだ。
「なにそれ? どうゆうことよ」
「私にもわかりませんよ。ねえ那須先輩?」
「え、ええ。そうね」
日浦が同意を求めるが、相手はこの場で唯一その意味が理解できる那須である。那須も那須で誤魔化しているつもりだろうが、目線が明後日の方向へ向いている。
そしてその目線は明後日の方向から雄助の方へ。
もちろん日浦と熊谷からはどういうことだと言わんばかりの目が雄助へと向けられている。
女子3人の視線を独り占めするという普通の男子なら喜ぶであろう状況で、雄助は悟りを開いたかの様な表情で立ち尽くし、己の過去を振り返る。
(僕、運無さ過ぎない?)
《え、今更?》
己の運の無さを再確認させられた那須隊との会合であった。
これからも亀更新が続くと思います。
それでも読んでくださるという読者の方がいれば嬉しいです。
失踪するつもりはないのでこれからもよろしくお願いします!
失踪する場合はご報告いたします 笑